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魔女「果ても無き世界の果てならば」

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Part11
620 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/20(月) 22:02:30 ID:C24lIu1M
 そんな勇者に、なんて言ってあげれる?
 僕だって、できるのであれば今すぐ戦士の下に駆けつけたい。
僧侶「つまり――。 勇者様は戦士さんを信用できないのですね? 約束を果たすこともできない弱き人だと。 そうおっしゃるのですね?」
 今まで押し黙っていた僧侶が言った。

621 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/20(月) 22:04:34 ID:C24lIu1M
勇者「違……」
僧侶「違いません。 私は戦士さんを信じています。 どんな強大な敵であろうと、その戦斧で切り裂く強き人だと」
 今まで聞いたことの無い凛とした僧侶の声。
勇者「俺だって……信じてるさ」
僧侶「ならば、やる事は戦士を心配して幼子のように喚く事ですか?」
勇者「……違う」
僧侶「では、今すぐに戦士の元へ駆けつけて、加勢することですか?」
勇者「違うっ」
僧侶「では勇者様、貴方が為すべき事は、何ですか?」
 俯いたまま、勇者は小さく答えた。
勇者「……魔王を……倒す事だ」

622 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/20(月) 22:05:27 ID:C24lIu1M
僧侶「正解です。 付け足すのであれば、全員無事で、です」
 勇者が顔を上げる。
勇者「ありがとう、僧侶」
 僧侶はにっこりと笑う。
僧侶「その言葉が聞けて嬉しいです。 では、私はここで」
勇者「なんだって?」
  僧侶が目線を廃屋の一つを見据えた。

623 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/20(月) 22:06:19 ID:C24lIu1M
僧侶「居るんでしょう? 不浄の王」
 廃屋の陰が濃くなっていく。
 そして、その闇の中からそれは現れた。
 死霊を統べる不浄の王。
 漆黒の外套に呪われた宝具を身に纏った骸骨。
少女「リッチ……実在してたんだ」

624 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/20(月) 22:07:09 ID:C24lIu1M
 この世の理を外れ、夜を従える亡霊達の王。
 攻撃を受け付ける事はなく、その身じろぎ一つで町一つを呪殺しうる化け物。
勇者「おっるぁああっ!!」
 勇者が放たれた矢のように疾駆し、リッチに斬撃を加える。
リッチ「~~」
 リッチが聞き取れない程の言語を圧縮した高速詠唱を行う。
 影にリッチが沈む。
僧侶「神聖魔法でなければリッチには通じません」


625 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/20(月) 22:08:50 ID:C24lIu1M
 辺りの影から次々にリッチが出てくる。
僧侶「貴方達を護りながら戦う余裕などありません。 足手まといです」
 僧侶が大杖を構えて言った。
僧侶「どうか先に行って下さい」
 僧侶の目には決意の炎が灯っている。
勇者「必ず、また合うからな」
魔法使い「……約束だ」
 見直したよ。
僧侶「魔法使いちゃん、終わったらちゅーして下さいね」
 いくらでもしてあげる。 なんなら舌を入れてやる。
魔法使い「無事に帰ってきたらね」
――――――――――――――――――――――

631 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 00:20:17 ID:OOmoTSWE
――――――――――――――――――――――
 ちょっと、カッコつけすぎちゃいましたね。
リッチ「~~~~」
 うわーいっぱい居ますね。
 見渡す限りの陰という陰からリッチが出てますよ。
 一斉に呪いですか。
僧侶「~~~~」
 効きません、打ち消します。

632 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 00:20:58 ID:OOmoTSWE
リッチ「~~~~」
 次は死霊を操るんですね。
 最低です。 眠る者を起こし、無理矢理使役するなんて。
僧侶「~~~~」
 杖に力を込めます。
 主よ、どうか私に力をお貸し下さい。
 見える範囲総てを包み込む癒やしの魔法。
僧侶「こんな事を、しなくても良いのですよ。 主の元に帰り、安らかに眠りなさい」
リッチ「~~~~!」
 効いているようですね。

633 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 00:21:40 ID:OOmoTSWE
 役に立てて良かった。
 私は私の出来る事をする。
 リッチを倒して、勇者様に褒めてもらって、魔法使いちゃんにちゅーしちゃいましょう!
僧侶「恋に破れた女は強いんですよ?」

634 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 00:22:25 ID:OOmoTSWE
リッチ「~~~~~~~~~~~~」
 背筋に酷い悪寒。
 急に周囲の気温が下がって行くようです。
僧侶「~~~~~~~~~~~~」
 主よ、お守り下さい。
 すべてを呑み込むように地面に影が広がっていきます。
 影からは大量に骸の騎士や腐乱した竜種など、まるで地獄のようです。

635 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 00:25:23 ID:OOmoTSWE
僧侶「~~~~」
 穢れし命に浄化の裁きを。
 主よ、導きたまえ。
 天空より十字の光を呼ぶ、私達神に仕える者の持つ唯一の攻撃魔法。
 その光に熱は無く、音は無く。
 ただ粛々と裁きを与える。
リッチ「~~~~」
僧侶「貴方が本体ですね」
リッチ「ガアアアアアアアッッ」
 リッチの躯が広がっていきます。
 触手を蠢かせ、巨大な体躯をゆらゆらと揺らす不浄の王。
 神様、私に彼の者を倒す御力を貸し与え下さい。
 仲間を護る為の力を!!
―――――――――――――――――――――

644 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 21:07:23 ID:OOmoTSWE
―――――――――――――――――――――
魔法使い「さて、なんだかんだ言って戦力が順調に削られている訳だけど」
 勇者と僕で魔王を倒すなんてかなりの無茶だ。
勇者「あぁ、二人で戦うのはあのとき以来だな」
魔法使い「あー、ゴーレムの群の時だね。 君に殺されかけたのをよく覚えてるよ」
 折れた剣がすぐ近くに飛んで来た時は死ぬかと思ったよ。

645 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 21:08:19 ID:OOmoTSWE
勇者「あん時上手く行ったんだ。 今回だって上手く行くさ」
 何となく上手く行く気がして来た。
 土壇場で開き直れる強靭な精神力が羨ましいね。

646 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 21:08:54 ID:OOmoTSWE
少女「随分な余裕だ。 相手は人外を統べる魔の王だぞ?」
勇者「その為の勇者だからな」
少女「ふ、頼もしいな。 結婚してくれ」
魔法使い「っ!?」
勇者「じょ、じょじょ冗談にしても驚くからやめろよ!」
少女「冗談で求婚なんか出来んよ」
 なんだこれ。
 僧侶と戦士が必死に戦ってるときになんだこれ。

647 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 21:09:51 ID:OOmoTSWE
勇者「そー言うのは!! 全部!!終わったら言ってくれよ!!」
少女「よし、これで、死ねないな」
 少女は満面の笑みだ。
 黒髪を揺らして上機嫌に歩く少女と、満更でもない様子の勇者。
 と、無粋な奴が木陰に居るね。
 「~~~~」
魔法使い「危ないっ!!」
勇者「うぉっ!?」
少女「きゃっ!?」
 間一髪二人を突き飛ばした所で、そこを境界に強力な結界が張られた。

648 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 21:10:33 ID:OOmoTSWE
魔法使い「閉じ込められた、みたいだね」
魔人「よく気付いたわね」
 木陰から現れたのは、かなり高位の魔族だ。
 人間の雌に近い上半身に、腰骨から蝙蝠に良く似た二対四枚の翼を生やしたその姿は人間には無い妖艶さを持っている。
魔法使い「まったく、僕まで単独で戦わなきゃ駄目なのか」
 悪いけど、巨乳には容赦しない、が僕の座右の銘だからね。

649 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 21:11:04 ID:OOmoTSWE
魔法使い「その無駄な肉削ぎ落として服を着やすくしてあげるよ」
魔人「んふ、そーいうアナタは随分と服が着やすそうね?」
魔法使い「そりゃどーも」
 杖に力を込める。 込めすぎて杖が爆発しそうだよ。
 勿論冷静だ。 うん、冷静沈着に――。
魔法使い「ぶっ飛ばしてやるからなこの無駄乳がぁぁっ!!」
 滾るね、どうも。
―――――――――――――――――――

657 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/24(金) 18:54:27 ID:68byW6ZM
魔人「貧乳の嫉妬は見苦しいわよ?」
 負けられない戦いがここにあるよ。 みんな、僕に力を貸してくれ……。
魔法使い「~~~~」
 最初から全力だ。
 杖を伝い魔力を放出。
魔法使い「~~~~」
 放出された魔力は林檎程度の大きさの黒点になり辺りの魔力を吸収、圧縮し始める。
 始まりの名を冠した爆裂魔法。
 これならば――。

658 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/24(金) 18:56:01 ID:68byW6ZM
魔人「ぜぇ~んぜん、だ・め。 おやつにだってならないわぁ」
 え?
 コイツは何をしてる?
 黒点を手にとって、口に入れた?
魔人「御馳走様、人間にしては多い魔力ね。 で、次は? お代わりを頂戴?」
 化け物め。 規格外は乳だけにしてよね。

659 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/24(金) 18:57:15 ID:68byW6ZM
魔法使い「流石に無駄な脂肪を蓄えてあるだけあって大喰らいだね。 今すぐお代わりをあげるよ」
 ならば、手数で攻める。
魔法使い「~~、~~、~~、」
 まずは、氷杭を魔人目掛けて飛ばす。
魔人「あら? もうデザートなの?」
 喰われるのは想定内。
 次に閃熱の魔法を放つ。
 形の無い物はどう対応する?
魔人「これは食べられないわね、私って猫舌だしぃ」
 予想通り。
二対四枚の翼で閃熱をやり過ごしている。
 そして、視界が塞がっている今なら。


660 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/24(金) 18:57:53 ID:68byW6ZM
魔法使い「これならどうする?」
魔人「成る程、考えたわね」
 大地を隆起させ、二枚の壁で魔人を挟み込んだ。
 頑強な巨人種ですら本の栞みたいになる威力で閉じたんだ。
 無傷と言う事はないだろう。
魔人「そう思うでしょ? 残念でした」
 想定外。
 翼の身じろぎ一つで止めるなんて……。
 これは、少しまずいかもね
――――――――――――――――――――――

665 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/24(金) 22:18:41 ID:68byW6ZM
――――――――――――――――――――――
竜種「感嘆に値するぞ強き者よ」
 そいつはどうも。
 神に等しいと謂われる竜種にお褒め預かるとは光栄だ。
竜種「我が尾と片翼を切り落とすなど人の身を越ゆる強さぞ」
戦士「待ってろ、次はその太い首斬り落としてやる」
 虚勢だ。 尻尾一本に翼一枚を切り落とした代償が、全身の火傷に肋骨数本、浅くはない裂傷が多数、内臓にも損傷がある。
 僧侶の加護が無ければ数回死んでいるな。

666 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/24(金) 22:19:22 ID:68byW6ZM
竜種「それは楽しみだ。 さぁ興じよう。 長い長い生涯だが、貴殿程血を滾らせたのは居ないぞ人間」
 生ける神話にここまで褒められるたぁ腕も磨いてみるもんだな。
 滾る。
 悲鳴を上げる肉体に鞭を打ち、竜種を見つめる。
 猛る。
 満身創痍の肉体に反して、頬が弛むのが分かる。 堪らなくこの時間が楽しい。
 ああ、どうしようもなく――。
戦士「ウオオォォォォォオオオッッ!!」
 哮る!!
戦士「いくぞ竜種ぅッッ!!」
 全身の力を総動員して得物を振り上げ竜種に突撃した。

667 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/24(金) 22:21:04 ID:68byW6ZM
 何千、何万、と繰り返した技だ。
 竜種を、並ぶ者無き絶対強者を屠る為に連綿と継がれ、研鑽されてきた武技。
竜種「ガァァアッッ!!」
 雄牛ほども有る鋭い爪が迫る。
 駄目だ、ここからじゃあ。
 彼奴の命には届かない。
 身を屈め、更に疾駆する。
 ざりっ、という肉の削げる音が背中から聞こえる。
 避けきれず、背中の肉が削がれたようだ。
 瞬間、血が噴出、激痛が身体を巡る。
 だからどうした。
 骨を斬らせずに届く程、奴の骨は容易くない。

668 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/24(金) 22:24:49 ID:68byW6ZM
竜種「くかか、愉悦、愉悦。 身を惜しまずに迫るか。 強き者よ」
 両手に更に力を込める。
 これならば届く。
戦士「っるぅぁぁぁあぁぁああっっ!!」
 振り上げた刃が、竜種の頑強な首に食い込む。
竜種「むぅあっ!!」
 技を放った後、完全に死に体の身体に竜種の拳が叩き込まれた。

671 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/25(土) 01:46:53 ID:qzrvlmkk
 破城槌を食らったに等しい衝撃に身体が蹂躙される。
 空中を二度錐揉みした所で、地面に激突。
戦士「あと三寸で命に届いたぞ」
 全身から力が漏れていく。
 先に命に届いたの奴の一撃だった……か。
竜種「~~~~」
 大気が揺れる。
 奴の口からは聞き取れない程圧縮された精霊言語による高速詠唱によって呪文が紡がれていた。

672 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/25(土) 01:47:35 ID:qzrvlmkk
 仰向けになった目線の先には一段低い黒雲。
 鳴動し、その中心からは高熱が発せられている。
 黒雲の周囲には待ちきれないように燐が幾つも舞いだした。
 頭の片隅にあった埃を被った伝承が頭を過ぎる。
 神に戦いを挑んだ竜種が使ったという原初の火。
 たった七回で世界を灰燼と帰した星を灼く焔。
竜種「さらばだ、強き者よ。 これから先、幾星霜過ぎようとも、貴殿の強さを越える者に合間見える事は叶わぬだろう」
 竜種は詠唱を終え、術の発動を待っている。
 黒雲から発せられた高熱に、僅かに焼け残っていた草木が煙を上げ始めた。

673 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/25(土) 01:48:32 ID:qzrvlmkk
戦士「翼を斬られ、飛べもしないなら貴様も道連れだ」
 死ぬるのならば、せめて殺す。
竜種「如何なる炎だろうと我を灼く事など出来ぬよ。 焔が焔を灼く事など無いように」
 
戦士「そうか。 じゃあやはり首を斬り落としてやる」
 僅かだが、策はある。
竜種「人の身でこの焔を耐えるのは不可能だ。 竜にでもなるつもりか?」
戦士「さぁて、な」
 黒雲が唸りを上げ、赤く染まっていく。
 間に合うか?
 身体を起こし、走り出した数瞬の後、炎が降り注いだ。

674 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/25(土) 01:53:19 ID:qzrvlmkk
竜種「良き時間を過ごしたぞ、強き者よ。 貴殿が切り落としたその翼と尾を墓標とするが良い」
 ……。
 ……。
 ……ざけた事言ってんじゃねーぞ……。
戦士「墓標なんざ得物一本立てときゃ他にはいらねーよ」
 まだ生きている。 手は付いているし足も付いている。
戦士「さぁ、続けようか」
 見事に何も無くなった平原で竜種と向き合う。
 世界に果てなんざないかと思ったが、コイツを見て世界の果てだと言われたら納得してしまう。
 あたり一面灰になっちまって、まるで雪原だ。

675 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/25(土) 01:54:16 ID:qzrvlmkk
竜種「どうやって生き延びた?」
戦士「わかんねーか? そのでっけえ羽の下に隠れたんだよ」
 危うく蒸し焼きになる所だったがな。
竜種「何とも……いや、素晴らしいな、人という種は」
戦士「棄てたもんじゃないだろ?」
 舞い上げられた灰がゆっくりと落ちてくる。
 場違いだが、故郷の冬を思いだした。

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