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百物語2016

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Part5
87 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 22:57:32.11 ID:3Scplele0
【第二十五話】こげ ◆XpMibJaK/PD4 様
『無題』
「このコロニー『スウィートウォーター』は、
 密閉型とオープン型をつなぎ合わせて建造された非常に不安定なものである…」
なんだかよく分かりませんけど、天之津君が前方を指差しながら、
赤くて大佐で大尉で総帥っぽい人の台詞をのたまいました。
雲に遮られて見え隠れする月の下、二棟並んで聳える白亜の建物が見えます。
鉄筋コンクリート製の集合住宅に密閉型とかオープン型なんて無いと思うのですが…
それに二棟を繋いでいる渡り廊下は一階部分だけですし…
非常に不安定って?
私は所謂『心霊スポット』と呼ばれる、幽霊が目撃される場所を、
休日等を利用して訪ねて廻ることを趣味としています。
心霊スポット探検サイトを運営している天之津君が常連となった私に、
『興味があれば一緒にどう?』
と、誘ってくれた事がこの道へ入るきっかけでした。
それから現在に至るまでく、
天之津君をリーダーとするチームの一員として、
住居侵入など何のその、日本各地にある心霊スポットを訪ねてまわりました。
そこで、数々の怪異と遭遇し、恐怖に心臓を鷲掴みされ、
竦み上がった身体を無理矢理動かして闇の中を逃げ回り、
流れる涙をそのままに、這々の体で帰り着いたことは数知れず…
人の目を欺き、鍵をこじ開け、扉を突破し、窓を破り、
セキュリティシステムの穴を掻い潜り、
土足で他家の床を踏みにじり、奥へ奥へと突き進む。
遊園地などのアトラクションでは決して味わうことのできない、
保障も保険も、安全装置もまるでない…
全ては自己責任、ギリギリのスリルを楽しむ心霊スポット探検に、
私は完全にはまってしまいました。

88 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 22:59:30.91 ID:3Scplele0
公園まで備える広大な敷地の中に、8階建ての鉄筋製集合住宅が二棟、
その南側、碁盤の目みたいに道で区切られた内側に、
青いトタン屋根の長屋風住宅がたくさん建っているのが見えます。
ここにある建物は全て、某独立行政法人の某機構が2011年で廃止となって、
後任組織へ引き継がれることなく、民間へ売却されて取り壊されるのを待つ、
廃墟なのだそうです。
ある冬の週末、ある閉店後のおもちゃ屋さんに、
私達、心霊スポット探検チームの主要メンバーが集まっていました。
チームメンバーがこのお店の常連で、売上げに少なからず貢献していることから、
店長さんのご厚意で、作業室を探検の打ち合わせの為に使わせて頂いています。
今夜も、次回赴く探検場所の選定を喧々諤々と繰り広げられていました。
『機動戦士ガ●ダム 逆襲の●ャア』のDVDを観ながら…
「なあ、お前等…稲荷町のあれ知ってるか?」

89 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:01:07.28 ID:3Scplele0
私が心霊スポット探検へ持っていく、東京マ●イ製電動ガン『M4A1』の、
メンテナンスをしてくれていた店長さんが顔を上げ、私達に訊ねてきました。
店長さんのいう『あれ』とは心霊スポットのことです。
商店街組合や町内会の集まりでオカルトな情報を仕入れてきて、
私達へ提供してくれるのですが…
過去に二回、ちょっと洒落にならない体験をさせていただきました。
旧河川の上に建つアパートと、旧寺院の敷地に建つ小学校…
過去に行った心霊スポットの中でも上位にランク付けされる物件です。
店長さんから『あれ』がでたならば、
今回の『あれ』についても期待大です。
どんな異常を恐怖を畏怖を怪異を神秘を体験させて貰えるのでしょうか。
次の探検場所について話し合っていた探検隊メンバーが姿勢を正し、
海兵隊訓練キャンプの先任軍曹へ対するみたいに店長さんへ向き直りました。
口からクソ垂れる前と後ろにサーと言えの軍曹さんへ対するみたいに…
川を埋め立てられてアパートに祟りを為す河伯…
死に際にちょっとした未練が因で霊となり彷徨する僧侶…
一同の生唾を飲む音が重なります。
「人数分持ってきたけど、コーヒー飲むかしら?」
話の出鼻を挫くように店長の奥さんがドアを開け、
紙コップをたくさん乗せたトレイを持って現れました。
黒髪を肩で切り揃えた、素晴らしくスタイルが良い三十代半ばの美人さんです。
過去二回の探検に同行したことがあり、お話に参加する気満々だったみたいで、
ベートーベンの『田園』をハミングしながらコーヒーの入ったカップを皆の前へ置くと、
私の隣へ椅子を持ってきて座りました。
店長さんが露骨に舌打ちしたりしてますけど…

90 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:03:12.82 ID:3Scplele0
「どうぞ、話を続けて」
「…ん、あ〜なんだ…
 ええと、稲荷町…の外れにある…8階建て住宅に…出るそうだ」
にこにこ顔の奥さんに対して、店長さんは妙に顔色が悪くなり言葉の切れが悪いです。
稲荷神社のすぐ脇に廃墟のアパートがある事は私も知ってました。
本当は某行政法人の某機構が解散となって次へ引き継がれなかった住宅なのですが…
あそこ、幽霊が出るんですか…
奥さんの笑顔からガハラさん的に怖いものを感じます。
「なにが出るのかしら?」
「…幽霊……の霊…女の霊だ」
「私が聞いた噂では何かすごい特徴のある幽霊さんだったみたいだけど?」
「どうだったかな…」
進退窮まった店長さんはレオンが潜伏するアパートへ警官隊を非常招集命令を出す、
ゲイリー・オールドマンみたいな顔で大声を張り上げました。
「巨乳の幽霊だよぉおおおおおおおお!!!」
奥さんが今までにないすっごく良い表情で微笑みました。
目が全然笑ってないんですけど…
「見に行きたいの?」
「…イエス、マム…」

91 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:05:42.20 ID:3Scplele0
店長さんは全身をガクガク震わせ、今にも凍死しそうな塩梅です。
奥さんが今度は周囲をぐるりと睥睨しますと、
探検隊男子メンバー全員が突然、椅子を蹴立てて飛び上がり、
着地と同時に額を床に擦りつける土下座に入りました。
あれが噂に聞くジャンピング土下座…
『変態でもいいです!俺達に幽霊の巨乳を見せてくださいマム!!』
声を揃えて巨乳を見たいって…どんだけ最低なんですか男子…
彼等だけで行かせたらロクな事にならないのは間違いないです。
女体に飢えたケダモノ野郎ですから。
以前、抱きついてくる巨乳の幽霊が出る道路を見に行った時など
騒ぎすぎてお巡りさんを呼ばれて、私まで職質を受ける羽目になりました。
「仕方ないなぁ」
そんな訳で、私と奥さんがお目付け役となり、
寒い中を変態共を引率してこの巨大な廃墟へやってきたのでした。
徒歩で。


92 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:06:59.59 ID:3Scplele0
雲間から月が顔を現し、青白い玲瓏ある光が、
8階建ての白い壁を闇の中に浮かび上がらせました。
私の視力では眼鏡をかけていても星を確認することはできません。
風がちょっと強いですね。
落ち葉が巻かれてアスファルトの上を転がっていきます。
「…あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい!
 そして、私は父、ジオンの元に召されるであろう!!」
まだ、天之津君は通常の三倍でロりでマザコンの人をやってました。
探検隊のメンバーはなぜか、心霊スポットでアニメや漫画のネタばかり喋ります。
特に1stガンダムネタが多いです。
それはともかく、店長さんの話では目撃者の皆さんが敷地の外から、
月明りを受けてベランダに立つ幽霊の姿を捉えたそうです。
通りに近い方の建物で5階あたりの角部屋に出ると…
「あれかしら、5階のベランダに誰かいるみたいだけど…」
奥さんが指を差しました。まだ、建物までかなり距離があるのですが…
マサイの戦士レベルの視力でも持っているのでしょうか。
必死に目を凝らし、眼鏡を両手で摘まんでデリカットしても全然見えないです。
「私には見えないですよ〜どこですかぁ?」

93 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:08:48.13 ID:3Scplele0
突然、先頭を歩いていた店長さんが、
覚醒したシャア大佐みたいなことを呟いて駆け出しました。
僅かに遅れて残りの男子も負けるものかと走り出します。
何が彼らをこうも焚き付けたのでしょうか…巨乳、幽霊の巨乳に他なりません。
他者よりも一秒でも早く、一秒でも長く幽霊の巨乳を我が目に焼き付けんが為に。
いざ征け、つわもの、日本男児!決戦の場は目の前ぞ。
砂煙を巻き上げて去っていく後ろ姿…
彼等に対する私の好感度は最低にまで落ち込みました。
「すげえ、手摺に乗せてんぞ…」
「でかい…なんてもんじゃ…ない…」
「ななな、なんたる!なんたる!!」
「大きい…すごく大きい」
「あのおっぱいこそ、歴史を変える…」
「巨乳が肉眼で見えるぞ!もういい、照射!!」

95 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:09:56.69 ID:3Scplele0
私と奥さんが追いついた時、男性達は鑑賞モードへ入って、
『ニ●動』みたいに激しく弾幕を張っていました。
きらきらと目を輝かせて建物の一点を、5階の角部屋を見つめています。
5対の視線を受け、手摺りに手を掛けて見下ろす女性の姿…
両手の間に巨大な球体が二つ…陰影深く、前に向かって大きく飛び出しています。
青い衣類…もしくは下着でしょうか、
胸の形がはっきりと分かるものを身に着けているみたいです。
圧倒的…ひたすら圧倒的な威容が、男子の視線を釘付けにしてました。
予測をはるかに上回り、芽生えた嫉妬、粉々になった矜持…
私は巨大過ぎるアレと自分の胸と交互に見比べてしまいます。
女子高時代から男女問わずに大きい大きいと持て囃され、
ただ重くて邪魔なだけと韜晦し、人の視線が集まるのを恐れて水着になることを厭い、
混雑する電車やバスに乗れば痴漢に遭い、それを語れば自慢かよと嫌味を言われ、
身体の線が出ない服を好んで身に着け、目立たぬ様に隠す様に毎日を送り、
憧憬と侮蔑、羨望と嫌悪の視線に当てられてきた私の半生…
5階のベランダで堂々と胸を晒すような輩に、
同病相憐れむという感情を浮かばせることなどありませんでした。
「あれは胸じゃないわ、骨格と照らし合わせて人間ではありえないわ」
静かに見上げていた奥さんが凛とした声で偽乳と断言しました。
最初は信じられませんでしたが、
よく見れば確かに肩幅と胸の位置にかなりのズレがあります。
まるで作画崩壊したアニメみたいに。
店長さん達はまだ信じられないらしく呆然と女性を見つめています。

96 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:11:54.76 ID:3Scplele0
「わからん…俺には本物としか…」
「あなた達は信じたがっているのよ、
 アレが本物であって欲しいという願望が真実の目を曇らせているんだわ」
その時でした、女性が大きくベランダから身を乗り出したかと思うと、
左側の胸が手摺を離れ…
まるで一秒が引き延ばされたみたいにゆっくりと降下を開始したのです。
黒い尾を曳いて…
ドン、と目の前に重く硬いものが落ちた音がしました。
芝生に何か落ちてます。
青い帽子?白い球体には目鼻があり、
動物プリントのついた可愛い服…小さな胴体と手足…
「あれは巨乳なんかじゃない!赤ん坊だ!」
「両手に抱えて…落とす気だ!」
見上げることなんて出来ません。
たて続けに起こる二つの地面へぶつかる重い音。
V字状に空へ向けて立つ両脚、肩から落下して…頭から地面に刺さっている様に見えます。
胸まで捲れた青いワンピースの裾…下腹に走る帝王切開の赤い傷跡…
白い足が、ガクガクと大きく震えていました。
足に力が入らず、思わずその場に座り込んでしまいました。
私を見つめる眼(まなこ)、
引き結ばれた唇の端が吊り上がって笑っているかの様です。

97 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:13:39.40 ID:3Scplele0
「四…五年前に心中事件があった。
 双子の赤ん坊をベランダから投げ落とし…自分も飛び降りた。
 しかし、母親は重体ながら死んではいなかったはずだ…」
抑揚のない店長さんの声…
ゆっくりと仰向けに倒れる女性…ぴくりとも動かない小さなふたつの身体…
言葉ひとつ出せず見つめる私…
しばらくすると、母子の姿は地面に溶けて消えていくように見えなくなりました。
「あの女…まだベランダにいるぞ!?」
天之津君の叫ぶ声が遠くに聞こえます。
そして、また三度起こる重いものが地面へぶつかる音…
「ずっと繰り返しているんだ…落下してあげる断末魔を…
 救われる日が来るまで何度も…」
おわり

99 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:16:48.69 ID:3Scplele0
【第二十六話】 みどりいろ ◆/1zwn0rSvM 様
『忘れたい話』
(1/2)
中学生の時の親友の家は、入り組んだ下町の路地の突き当たりの住宅地にあった。
その住宅地は大小の家が6軒並んでいて、一番奥の大きな家が親友の家だった。
ある日、親友の家から一番離れた家の一人娘が、飛び降り自殺をして亡くなった。
それから1か月後、さらに自殺した女性の隣家の奥さんが失踪した。昼食の用意をしたままだったため、事件の可能性もあって警察も動いたらしい。
全く手掛かりがないまま、さらに1か月後失踪した奥さんの隣家のおじさんが、自宅前で突然亡くなった。
これ以降1か月に一度、順番に一軒の家から一人ずつ孤独死や事故死がでた。ここまでくると、最後は自分の家であると親友一家も考えていた。
当時、親友と毎日下校しながら、回避方法は何とかないものか二人で考えて試したりもした。そのおかげか1か月たっても何も起こらなかった。
 そうして2か月がたとうとしたころ、私は本を返してもらうために、下校中に親友宅へ寄った。
玄関に入って待っていると、後ろで玄関のドアがガチャリとあいた。
振り返るとそこに見知らぬ女性が立っていた。いまその顔は思い出せないが、女性が私をみて怪訝な顔をした、ということは覚えている。
女性はスッと中に入り、家の中に上がるでもなく、声を発するでもなく、私の横に立った。
お客さんかな?なんとなく居心地悪い気がした。
その数秒後に親友が「ごめーん」と言いながら、本を持って出てきた。
こちらを見て「ひ!」と悲鳴をあげ、「なんやお前!!でていけ!!」と女性に向かって怒鳴った。

100 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 23:18:24.02 ID:3Scplele0
(2/2)
私も怖くなってしまい、慌てて靴のまま家の中に入って親友の後ろに隠れた。
その女性は普通にお邪魔しましたと言わんばかりに、一礼し、何事もなく玄関から出て行った。
すぐさま「不審者よね?警察よぼう!」というと、親友は真っ青な顔をして「○○さんやわ…なんで…」とつぶやいた。
聞くと、最初に自殺した女性だった。
 その日は帰宅してきた親友のお母さんと親友に、家まで送ってもらって帰宅。
当然ながら、その女性には出会わなかったものの、夜11時ごろに親友から「遠方に引っ越すことになった」と電話があった。
 そして15年たった昨年、やっと親友に再会できた。SNSで連絡を取ることができたからだ。
親友は親せきを頼って隣県に引っ越していた。家族全員元気にしていると聞いて安心した。
再会は楽しかったんだけども、どうしても忘れたくてたまらない話がある。彼女が「あ、そういえばさあ」と話したこと。
「3年前くらいかな。グーグルマップのビューってのをみてみたんよ。あの辺全然変わってないな。あの家の前の、路地に入る道までは写ってるねん。
その路地に入る角に○○さんが写ってるんよ。また見てみて。顔はぼやけてるけど、あの時の服も髪型も○○さんなんよ」
【了】

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