百物語2016
Part2
32 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:08:55.31 ID:UEO0zg090
【第九話】イカ飯 ◆vIgpPwx7VpOe 様
『Grandmom's Cake』
(1/3)
ここゴールドコーストのクリスマスは真夏。
それぞれの家庭に伝わるクリスマス・ケーキがあり、その年のクリスマスに
翌年分の生地を焼き、一年かけてブランデーを浸み込ませて作っていきます。
生地の中にドライフルーツと胡桃が入ってるだけの、見た目にも地味なケーキです。
もちろん、日本のケーキのように綺麗にデコレーションしている訳でもなく、ダークブラウンの
ブランデー色のシンプルなケーキです。
我が家では祖母がケーキ作りの担当。その年も家族のためにせっせと作っていました。
生地が乾かないように定期的にブランデーをかけて浸み込ませていく、イギリスから伝わったと
云われる昔ながらの製法です。
そんな最中、彼女は脳梗塞で亡くなりました。暑さも和らいだ三月でした。
墓前で神父さんにより祈りを捧げられ神の元へと帰っていきました。アーメン。
(※註 カトリックでは亡くなった者は仏になるのではではなく神にお返しする。)
その後はケーキのことなど忘れ、淋しさを抱えつつも毎日が過ぎていきました。
そして、その淋しさが思い出に変わってきていたある日のこと、軽食でも作ろうとキッチンに行きました。
何か買い置きのパンでもないかなと思いつつ物色していたところ、ある物を見つけました。
蓋を開けてみるとブランデーの香り…。亡き祖母が作りかけていたクリスマス・ケーキでした。
33 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:10:09.53 ID:UEO0zg090
(2/3)
一気に懐かしさが込み上げ涙が出てきて止まりません。
楽しかった思い出が頭を駆け巡り……、その時です。突然ゾクッとした寒さに襲われました。
風邪をひいてる訳じゃない、熱がある訳でもない、でも寒気が止まらないので自分の部屋へ戻り
ベッドに入りました。
背中がゾクゾクし身体が震えブルブルして止まりません。軽くパニックになりながら何か誰かに
怒られている気分になってきました。
「何か悪いことしたかな…?」思い当たることはありません。でも自分の知らない間に誰かを
傷つけているかもしれない。そう思い祈りました……、
"O My God, I am heartily sorry for having offended Thee..."
(※註 ACT OF CONTRITION:悔い改めの祈り。神に罪を告解し懺悔し許しを乞う。)
しかし、手足が硬直したようになり自由が利きません。意識が遠のく感覚がして自分自身じゃない、
そんな感じになっていきました。
グイッグイッ……、誰かが背中を押す、誰もいない、グイッ……。
「悪魔が来たの?!」
"O Hail Mary! The Lord! Holy Ghost! Help me!"…声にならない声。
「人は2回死ぬ。一度目は借りていた肉体との別れ、そして神の裁きを受けて善か悪か判断され、
精霊か悪魔かどちらかがお迎えに来る、これが二度目。」
常々こう言われていたけど、まだ僕が死ぬ日は来ていない…はず。
34 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:13:47.83 ID:UEO0zg090
(3/3)
いつの間にか寒気は消えて汗びっしょりになっていました。そして恐怖感。
誰かが僕の身体から僕自身を追い出そうとしている、こういう感覚に陥りました。
もう、夢か現かわかりません。精神はもがいて身体は自由に動かないといった感じなのです。
Aw Awなっている間にフワッとした空気が漂いました。ほのかなお酒の香り…。
「こ、これはおばあちゃん!?」ブランデー!そう、間違いなくあのブランデーの香りです。
謝る相手を間違えていました。祖母が「私の意思を受け継いでケーキを完成させておくれ」
と伝えに来たに違いありません。
「ごめんなさい、おばあちゃん、ケーキ作るよ。」そう何度も誓いました。
やがて身体が自由になりキッチンへ行くと、母がいました。手にはブランデー。
「急に思い出してね。作らなきゃって思ったの。詳しく教えてもらったことはないんだけど…。」
自分の身に起きたことは言えませんでした。今でも言っていません。
そして彼女がなぜ急に作る決心をしたかも聞いていません。ただ、同時に何かあったんだなって気はします。
その年のクリスマスは祖母の席に写真を置き、まだまだ下手なケーキを一切れ、紅茶と共に供えました。
今、そのケーキは日本人の家内が作り続けています。海を越えて……。
FIN... 〜おわり〜
36 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 20:16:27.87 ID:3Scplele0
【第10話】 川瀬 ◆XTEVU8UPQ 様
『無題』
小学校5年の時のこと
近くの草むらに、知り合いのKと一緒に虫取りに行った。
その日に限って何もとれず、帰ろうかと思ったとき、足元の草が
ガサガサッと、音をたてた。
何かと思って身をかがめ、草の下をのぞくと、黒っぽい黄緑色した
大きな蛇がスルスルと進んでいた。
俺が驚いてKにアオダイショウがいる、と言ったら、虫がいなくて
退屈していたKは木の棒でその蛇を突きまわし追いかけた。
しばらくして戻ってきた時、棒には赤い血がついていた。
Kは「退治してやった」と得意げに言っていた。
しかし次の日、学校に行くと、Kに異変があった。臭いのだ。
Kの体から生臭いような嫌なにおいがしていた。
本人はいつもと様子が変わらず、自分では気付いていないようだが
半径2mくらいまでかなり匂うため、クラスの連中は辟易していた。
俺は、昨日の蛇の血がついて匂いがしてるのかな、とも思ったが
結局、その匂いは卒業するまで治らず、Kの友達も彼を段々避ける
ようになってしまった。
中学に進学後は、臭いからといじめられる始末。
俺は当時から、あの時のアオダイショウの祟りでは、と思っていた。
この匂いはKが高校1年の冬ごろ突如消えてしまったそうだ。
俺は、アオダイショウがその頃、寿命がを迎えたのだと思った。
38 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:19:33.12 ID:UEO0zg090
第十一話】るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj
『仏事と神事』
(1/3)
私が住んでいる所は山と海に囲まれた、良く言えば豊かな自然でのんびりした毎日、悪く言えば何にもなく退屈な毎日の暮らし。
人が亡くなった時はご近所総出で協力し合い、参列者も多い昔ながらの葬儀、そして地域一番のイベントが秋の祭りだ。
ある年、仲良しの近所の友達のお兄さんが、長い闘病の末亡くなった。その年はお母さんの十三回忌とお父さんの一周忌。
全てが重なり友達と障害を抱えた弟さんだけでは、なかなか葬儀の準備も進まない。
そこで私に何とか手伝って欲しいと相談に来た。
しかも一大イベントの秋祭りは4日後で、私は神社の氏子で神様に扮して神輿と共に20件近くの家庭を回らないといけない。
祭りの準備と本番、葬儀の手伝いがほぼ同時にやってきたのである。引き受けると友引を挟んでるから祭りに間に合わない…。
いつも持ちつ持たれつやっているので、無碍にできずできる限り手伝うと約束した。
まずは葬儀屋の手配は私の身内の一族が使っている業者と契約。そして
菩提寺の大和尚に直談判、若和尚じゃなく大和尚できっちり話しをつけ、お布施は半額にしてもらった。
続いて役場で火葬場を押さえ、死亡届を受理してもらって地固めはできた。
葬儀は都会で主流の家族葬で執り行うことにした。2年連続で大きな葬儀は家計を圧迫するから、この方式にしたのだ。
通夜は近所の人にお願いし、私は神主さんをメインに各地域の氏子や神輿担ぎの人達と打ち合わせ。
その途中でも葬儀屋さんや菩提寺から連絡が入り、仏事と神事がごっちゃになってきた。
神様仏様と言うが、お願い事をするのは神様、感謝の気持ちで供養するのが仏様。
仏様にお願い事をするものじゃない。が、同時にきたもんだから、ちょっと混乱していて、
帰宅してから仏壇に線香をあげ仏様にお願いしてしまった。
「どっちも上手くいくように力を貸してください!」と…。
39 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:21:30.83 ID:UEO0zg090
(2/3)
どさくさに紛れて、友達の親戚の高齢のおばあさんの一言で、我が家の祭壇と仏壇に活ける花1万円分も友達の家の葬儀代に乗せて注文。
「なんと罰当たりな!」と思ったが、おばあさんの気持ちを有難く頂戴した。友達の家の準備が終わってから、
葬儀屋さんと花屋さんが我が家に来た。
新しい祭壇と豪華な花をセットしてくれて、法事じゃないのに何だか我が家も葬儀のよう…。
なぜか御供え物も届いて、もう開き直って仏壇にもう一度お願いした。お盆用の蝋燭を点し本格的!
もう一日でクタクタになっていて、祭りをキャンセルしたい気分にすらなっていた。
なんせ、真夜中3時前に入院先から連絡が入り、ずっと同行していたのだ。
他人の葬儀は一層気を遣って疲れる。自宅は寝室の隣が仏間。扉を開け放してベッドに横たわった。
するとウトウトし始めたかと思えば金縛り。やっぱり…といった感じ。
親父が亡くなってから金縛り体質になっていたので、身体の感じでくることが分かるのだ。
そして今回は久々に幽体離脱つきのスペシャル・バージョン!これは激しく体力を消耗してしまう。
こういう時は真夜中でも煌々と灯りを点しているように明るい。
魂が仏壇の中に入ろうとしている。そして遮断される。決まって祖母だ。「ばあちゃん、日にちが足らんかも…。」
「大丈夫、世話にもなってるから助けてあげなさい。」と言われた気がした。知らぬ間に眠っていて、気付けば朝。
通夜が終わっても友引のため、火葬も葬儀もできずに一日が過ぎた。途中に祭りの打ち合わせを挟んで…。
祭りは朝の御神酒に始まり、各家庭の御接待で夕方まで飲み続ける。
かなりハードなのだ。その後、神輿の慰労会と地域全体の慰労会があり、更に深夜まで飲み続けるのが風習だ。
しかも神様不在はあり得ない。
翌日の葬儀は滞りなく終わり、精進落としも済ませた。終わると日付が変わっている。
次の日は早朝から神主さんの御祈祷を受けなければならない。
しかも葬儀の事後処理も友達一人では難しい。ヘトヘトになって帰宅した。
シャワーを浴びていたら、背筋がゾクッとして早々と切り上げた。もしかして二日連続!?
3時間後には起きないといけないので、サッと髪を乾かしベッドに入った。
その夜、金縛り一歩手前で解けて、安心したのか少しだが眠れた。
40 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:22:44.39 ID:UEO0zg090
(3/3)
翌朝、衣装を着て足袋を履き、フワフワした感覚で神社へ行った。
着くと神主さんが来て祭壇を組み、米・野菜・果物・鯛・日本酒を御供えしている。
しばらくすると空が曇ってきて、長老たちが慌て始めた。地区長はスマートフォンで天気予報の確認。
ちなみに、秋祭りが雨で中止になったことはないという。
前夜に雨が降っても、朝までには必ず天候回復するらしい。しかし、雲行きはどんどん怪しくなり、とうとう本降りの雨となった。
慌てて祭壇を神社の本堂へ入れ、衣装が濡れるといけないので私も入った。
御祈祷まで30分もなく、止む気配もないので初の中止となった。
過去に例がないということで皆が慌て、役員が手分けして各家庭に中止の案内に出向き、
公民館で慰労会だけ行うと伝え、それぞれが用意した料理や飲み物を運んだ。
公民館のステージに神輿を上げ、そこで神主さんと私が一言述べて一旦終了、後は慰労会のみ夕方から開始となった。
一旦帰って着替え昼過ぎまで寝て、友達に付き添い葬儀の事後処理も済ませ、夜は軽く飲んで食べ早々に帰宅。
手土産のお菓子を仏壇に御供えしてお礼の言葉を唱えた。
その夜は何も起こらず熟睡した。今回は仏様の勝ち!?…ちょっと、いや、かなり不謹慎ではあるが、これが本音だ。
了
42 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 20:28:27.97 ID:3Scplele0
【第十二話】 川瀬 ◆XTEVU8UPQ 様
『風呂の上』
俺は大学で上京して以来、都内のアパートを借りて住んでいる。
このアパートに来た最初の頃、夜中に風呂場の方からガタンっと変な音
が聞こえた、よくあることだ。
翌日風呂場を見たら天井にある丸い蓋が外れて開いていた。
気圧の変化とかで開いたんだろう、と常識的に考えて放置しておいたら
1週間ほどして蓋が勝手に閉まっていた。
そんな事が特に初めの半年は頻繁にあって、一度、風呂場の天井の上を
のぞいてみたら、人が余裕で移動できる程度のスペースがあって、誰か
が出入りしているのかも、と初めて思うようになった。
俺は余りそんなことは気にしない性格なので放っておいた。
で、先日久しぶりに風呂掃除をしていて、カビの生えた壁を拭いてたら
壁にカビをこすって描いたようなファンキーな絵と意味不明の文字列が
かいてあった。
こちらが放置してるのをいいことに、大胆というかふざけ過ぎると思っ
たが、実害もないのでそのまま消した。
先月29日のこと、夜にジュースを飲んだら腹がなんだかおかしくなって
殆ど一晩中トイレに籠りきりになってしまったのだが
朝の5時半ごろ、トイレで汗を垂らして呻っていたら、
ドカッと風呂場の扉が開いた音、そしてタッタッタタタ・・・と足音が
風呂場から出てトイレ前で曲がって台所側に行ったのが聞こえた。
数年前にも一度あったなーとか思い出したが、こっちはそれどころでは
なかったので放置した。
44 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 20:31:34.10 ID:3Scplele0
【第十三話】わらび餅 ◆jlKPI7rooQ
『入院患者』
私が大学生の頃に体験した不思議な話です。
不真面目な大学生というものは暇なもので、講義のない日に家にいると母親の足として車を出さなければならないことがよくあった。
特に多かったのが、入院中の祖父のお見舞いに病院まで母親を送っていくことでした。
最初は母親を送っていくだけだったのだが、そのうち自分ひとりでもお見舞いに行くようになっていた。
その日は確か、今みたいな夏の暑い日だったと思う。
バイト以外に予定のない私は今日も祖父のお見舞いに病院に来ていました。
祖父は癌の手術をした後で殆ど全く声が出せない状態でした。
確か下咽頭がんという病気だったと思うのですが、手術の際に声帯を切り取ってしまっていたから自力で声を出すことはできなくなっていたのです。
従って基本的にお見舞いに来た私が一方的に話しかけることになるのだが、そうそう話すことがあるわけでもなく、半分お見舞い品を食べに来ているだけのこともありました。
45 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 20:32:23.08 ID:3Scplele0
祖父から何か伝えたいことがあるときはジェスチャーや、大体は小さなホワイトボードに書いてもらうことが普通でした。
そして、いつも通りアイスなんかを食べながら一緒にテレビを見ていると、祖父に肩を叩かれホワイトボードを渡されたのです。
『俺の前の子と遊んでやれ』
その日初めて気づいたのですが、祖父の前には小学3〜4年生ぐらいの男の子が入院していました。
我が家では祖父の言うことは絶対だったので、少し気恥ずかしさもありながら少年にあれこれ話しかけたりしていました。
少年はあまりしゃべらない子でしたが、バイトの話や高校での部活の話、大学での話などをすると興味深そうに聞いていたのを覚えています。
それから2〜3日後、祖父の容態が急変しそのまま意識が戻らず亡くなりました。
葬式に通夜にと忙しい日が終わった後、母親と祖父の物を病院に取りに行ったときにその異変に気づきました。
祖父に言われて話をしていた少年が、病室からいなくなっていたのです。
最初は退院したのかな? と思いなんとなく同室だった人に聞いてみたのですが、6人部屋にいた誰もその子のことを覚えていませんでした。
看護師さんに聞いてもそんな子供がいたということを知らない……ということを聞いてようやくそのおかしさが実感できました。
そもそも祖父が入院していた病室は周りも老人だらけ、今考えると小学生の男の子が一人だけその部屋にいるというのもおかしな話でした。
死の間際だった祖父と……そして何故か私にだけ言葉の交わすことのできた、不思議な少年の話です。
【了】
48 :進行役 ◆YJf7AjT32aOX :2016/08/20(土) 20:50:13.15 ID:5kSLWVsx0
【第十四話】『パワーストーン』
(1/2)
天然石が嫌い、苦手だという人はいないだろうか。
趣味的な問題ではなく、生理的に受け付けない、近くにあるとピリピリして嫌だとか、石自体を嫌悪する類の苦手。
そんな人はひょっとしてひょっとするかもしれない。
僕も天然石は胡散臭いと思っていた側の人間なのだけど、つい最近、そんなことを言えない状況になった。
僕は1年ほど前にとあることをきっかけに天然石のストラップをもらい、石は持ち主を守るという話を聞いてそれをネックレスに加工して常時身につけていた。
いわれはあまり信じていなかったけれど、とても綺麗な石だったこともあり気に入っていた。
仕事の時も目立たないよう、服の中に隠して身につけるほどには、だ。
先日久しぶりに友人と会い、地元の大きな神社の祭りへ出かけた。
長らく会っていなかったので話に花が咲き、夕飯に入ったファミレスだけで飽き足らず、
ドライブをして帰ることにした。
昔よく利用した、一旦他県に出て、街道をぐるりと大回りして帰る道だ。
いつもナビを設定する場所までは普通に運転し、いつもの場所で『自宅に帰る』を選択し、
いつものように推奨ルートを選択した。
その時気づいていれば良かったのだ。ナビが『冬季通行止区間を通行します』という、いつもなら絶対に言わない言葉を言ったことに。
ナビを設定し、話に花を咲かせたまま夜中の道をひた走る僕ら。
いつもなら気にする周りの景色も、今思えばほとんど気にしていなかった。
気づいた時には引き返すのも不可能な細道の峠を走っていた。
一歩間違えば谷底へ真っ逆さまのS字カーブの続く悪路。そして真っ暗で最高に気持ち悪かった。
真夜中に走る道では当然ない。本当に死ぬかと思った。
帰宅後調べたところ、地元じゃ超有名な心霊スポットだったのは別のお話。
49 :50(ななほし) ◆YJf7AjT32aOX :2016/08/20(土) 20:51:40.23 ID:5kSLWVsx0
(2/2)
何とか峠を越え麓へ辿り着いたところで、僕と友人はやっと一息ついた。
笑顔で話しつつ、僕は何気に「この石が守ってくれたのかもしれないな〜」と言って、服の中にあった天然石を取り出した。
その瞬間、さっきまで笑顔だった友人の笑顔と声がキツくなった。
「ごめん、しまって」
どうやら手がピリピリするそうで、手をしきりに振っていた。
自分は一切そんなことがないのでふーんと流し、ハンドルを握りなおしたその瞬間、自分の左側だけ
言い知れぬ悪寒に襲われた。
そしてとっさに本能で思った、「怖い、やられる」と。
さっきまで最悪な悪路を通っていたというのに、自分の左側からくる圧迫感と恐怖のほうが優っていた。
つまりは助手席側から、だ。
運転しつつ、友人と和やかに話してはいたが、内心はそれどころじゃなかった。
そうしている間にも左側の腕は痺れ、苦しくなって呂律が回らなくなってきたからだ。
なんとか友人を送り届けて別れたが、その時にはどっと一気に疲れていた。
ふと思い立って、石を服の中から出して光にかざしてみると、あんなに綺麗だった石の表面には引っ掻いたような傷ができ、表面が剥離したようになっていた。さらに別の石の中には奇妙なブツブツが浮いていた。
後日、別の友人に会って話したところ、こう言われた。
「石はご主人様を助けた時、ヒビが入ったり割れたり変色したり、何らかの変化が起きるよ」
そしてもう一言、「何かに憑かれてる人なんかはピリピリして綺麗な石のことを綺麗と思えないし嫌って感じるらしいよ」
それを聞いて初めて、石が持ち主を守るという意味を思い知った。
一体この日の何が原因で石がそうなったのかはわからない。ただ、それ以来その友人には会っていない。
どうなっているかわからないのが不安である。
【了】
【第九話】イカ飯 ◆vIgpPwx7VpOe 様
『Grandmom's Cake』
(1/3)
ここゴールドコーストのクリスマスは真夏。
それぞれの家庭に伝わるクリスマス・ケーキがあり、その年のクリスマスに
翌年分の生地を焼き、一年かけてブランデーを浸み込ませて作っていきます。
生地の中にドライフルーツと胡桃が入ってるだけの、見た目にも地味なケーキです。
もちろん、日本のケーキのように綺麗にデコレーションしている訳でもなく、ダークブラウンの
ブランデー色のシンプルなケーキです。
我が家では祖母がケーキ作りの担当。その年も家族のためにせっせと作っていました。
生地が乾かないように定期的にブランデーをかけて浸み込ませていく、イギリスから伝わったと
云われる昔ながらの製法です。
そんな最中、彼女は脳梗塞で亡くなりました。暑さも和らいだ三月でした。
墓前で神父さんにより祈りを捧げられ神の元へと帰っていきました。アーメン。
(※註 カトリックでは亡くなった者は仏になるのではではなく神にお返しする。)
その後はケーキのことなど忘れ、淋しさを抱えつつも毎日が過ぎていきました。
そして、その淋しさが思い出に変わってきていたある日のこと、軽食でも作ろうとキッチンに行きました。
何か買い置きのパンでもないかなと思いつつ物色していたところ、ある物を見つけました。
蓋を開けてみるとブランデーの香り…。亡き祖母が作りかけていたクリスマス・ケーキでした。
33 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:10:09.53 ID:UEO0zg090
(2/3)
一気に懐かしさが込み上げ涙が出てきて止まりません。
楽しかった思い出が頭を駆け巡り……、その時です。突然ゾクッとした寒さに襲われました。
風邪をひいてる訳じゃない、熱がある訳でもない、でも寒気が止まらないので自分の部屋へ戻り
ベッドに入りました。
背中がゾクゾクし身体が震えブルブルして止まりません。軽くパニックになりながら何か誰かに
怒られている気分になってきました。
「何か悪いことしたかな…?」思い当たることはありません。でも自分の知らない間に誰かを
傷つけているかもしれない。そう思い祈りました……、
"O My God, I am heartily sorry for having offended Thee..."
(※註 ACT OF CONTRITION:悔い改めの祈り。神に罪を告解し懺悔し許しを乞う。)
しかし、手足が硬直したようになり自由が利きません。意識が遠のく感覚がして自分自身じゃない、
そんな感じになっていきました。
グイッグイッ……、誰かが背中を押す、誰もいない、グイッ……。
「悪魔が来たの?!」
"O Hail Mary! The Lord! Holy Ghost! Help me!"…声にならない声。
「人は2回死ぬ。一度目は借りていた肉体との別れ、そして神の裁きを受けて善か悪か判断され、
精霊か悪魔かどちらかがお迎えに来る、これが二度目。」
常々こう言われていたけど、まだ僕が死ぬ日は来ていない…はず。
34 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:13:47.83 ID:UEO0zg090
(3/3)
いつの間にか寒気は消えて汗びっしょりになっていました。そして恐怖感。
誰かが僕の身体から僕自身を追い出そうとしている、こういう感覚に陥りました。
もう、夢か現かわかりません。精神はもがいて身体は自由に動かないといった感じなのです。
Aw Awなっている間にフワッとした空気が漂いました。ほのかなお酒の香り…。
「こ、これはおばあちゃん!?」ブランデー!そう、間違いなくあのブランデーの香りです。
謝る相手を間違えていました。祖母が「私の意思を受け継いでケーキを完成させておくれ」
と伝えに来たに違いありません。
「ごめんなさい、おばあちゃん、ケーキ作るよ。」そう何度も誓いました。
やがて身体が自由になりキッチンへ行くと、母がいました。手にはブランデー。
「急に思い出してね。作らなきゃって思ったの。詳しく教えてもらったことはないんだけど…。」
自分の身に起きたことは言えませんでした。今でも言っていません。
そして彼女がなぜ急に作る決心をしたかも聞いていません。ただ、同時に何かあったんだなって気はします。
その年のクリスマスは祖母の席に写真を置き、まだまだ下手なケーキを一切れ、紅茶と共に供えました。
今、そのケーキは日本人の家内が作り続けています。海を越えて……。
FIN... 〜おわり〜
36 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 20:16:27.87 ID:3Scplele0
【第10話】 川瀬 ◆XTEVU8UPQ 様
『無題』
小学校5年の時のこと
近くの草むらに、知り合いのKと一緒に虫取りに行った。
その日に限って何もとれず、帰ろうかと思ったとき、足元の草が
ガサガサッと、音をたてた。
何かと思って身をかがめ、草の下をのぞくと、黒っぽい黄緑色した
大きな蛇がスルスルと進んでいた。
俺が驚いてKにアオダイショウがいる、と言ったら、虫がいなくて
退屈していたKは木の棒でその蛇を突きまわし追いかけた。
しばらくして戻ってきた時、棒には赤い血がついていた。
Kは「退治してやった」と得意げに言っていた。
しかし次の日、学校に行くと、Kに異変があった。臭いのだ。
Kの体から生臭いような嫌なにおいがしていた。
本人はいつもと様子が変わらず、自分では気付いていないようだが
半径2mくらいまでかなり匂うため、クラスの連中は辟易していた。
俺は、昨日の蛇の血がついて匂いがしてるのかな、とも思ったが
結局、その匂いは卒業するまで治らず、Kの友達も彼を段々避ける
ようになってしまった。
中学に進学後は、臭いからといじめられる始末。
俺は当時から、あの時のアオダイショウの祟りでは、と思っていた。
この匂いはKが高校1年の冬ごろ突如消えてしまったそうだ。
俺は、アオダイショウがその頃、寿命がを迎えたのだと思った。
38 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:19:33.12 ID:UEO0zg090
第十一話】るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj
『仏事と神事』
(1/3)
私が住んでいる所は山と海に囲まれた、良く言えば豊かな自然でのんびりした毎日、悪く言えば何にもなく退屈な毎日の暮らし。
人が亡くなった時はご近所総出で協力し合い、参列者も多い昔ながらの葬儀、そして地域一番のイベントが秋の祭りだ。
ある年、仲良しの近所の友達のお兄さんが、長い闘病の末亡くなった。その年はお母さんの十三回忌とお父さんの一周忌。
全てが重なり友達と障害を抱えた弟さんだけでは、なかなか葬儀の準備も進まない。
そこで私に何とか手伝って欲しいと相談に来た。
しかも一大イベントの秋祭りは4日後で、私は神社の氏子で神様に扮して神輿と共に20件近くの家庭を回らないといけない。
祭りの準備と本番、葬儀の手伝いがほぼ同時にやってきたのである。引き受けると友引を挟んでるから祭りに間に合わない…。
いつも持ちつ持たれつやっているので、無碍にできずできる限り手伝うと約束した。
まずは葬儀屋の手配は私の身内の一族が使っている業者と契約。そして
菩提寺の大和尚に直談判、若和尚じゃなく大和尚できっちり話しをつけ、お布施は半額にしてもらった。
続いて役場で火葬場を押さえ、死亡届を受理してもらって地固めはできた。
葬儀は都会で主流の家族葬で執り行うことにした。2年連続で大きな葬儀は家計を圧迫するから、この方式にしたのだ。
通夜は近所の人にお願いし、私は神主さんをメインに各地域の氏子や神輿担ぎの人達と打ち合わせ。
その途中でも葬儀屋さんや菩提寺から連絡が入り、仏事と神事がごっちゃになってきた。
神様仏様と言うが、お願い事をするのは神様、感謝の気持ちで供養するのが仏様。
仏様にお願い事をするものじゃない。が、同時にきたもんだから、ちょっと混乱していて、
帰宅してから仏壇に線香をあげ仏様にお願いしてしまった。
「どっちも上手くいくように力を貸してください!」と…。
(2/3)
どさくさに紛れて、友達の親戚の高齢のおばあさんの一言で、我が家の祭壇と仏壇に活ける花1万円分も友達の家の葬儀代に乗せて注文。
「なんと罰当たりな!」と思ったが、おばあさんの気持ちを有難く頂戴した。友達の家の準備が終わってから、
葬儀屋さんと花屋さんが我が家に来た。
新しい祭壇と豪華な花をセットしてくれて、法事じゃないのに何だか我が家も葬儀のよう…。
なぜか御供え物も届いて、もう開き直って仏壇にもう一度お願いした。お盆用の蝋燭を点し本格的!
もう一日でクタクタになっていて、祭りをキャンセルしたい気分にすらなっていた。
なんせ、真夜中3時前に入院先から連絡が入り、ずっと同行していたのだ。
他人の葬儀は一層気を遣って疲れる。自宅は寝室の隣が仏間。扉を開け放してベッドに横たわった。
するとウトウトし始めたかと思えば金縛り。やっぱり…といった感じ。
親父が亡くなってから金縛り体質になっていたので、身体の感じでくることが分かるのだ。
そして今回は久々に幽体離脱つきのスペシャル・バージョン!これは激しく体力を消耗してしまう。
こういう時は真夜中でも煌々と灯りを点しているように明るい。
魂が仏壇の中に入ろうとしている。そして遮断される。決まって祖母だ。「ばあちゃん、日にちが足らんかも…。」
「大丈夫、世話にもなってるから助けてあげなさい。」と言われた気がした。知らぬ間に眠っていて、気付けば朝。
通夜が終わっても友引のため、火葬も葬儀もできずに一日が過ぎた。途中に祭りの打ち合わせを挟んで…。
祭りは朝の御神酒に始まり、各家庭の御接待で夕方まで飲み続ける。
かなりハードなのだ。その後、神輿の慰労会と地域全体の慰労会があり、更に深夜まで飲み続けるのが風習だ。
しかも神様不在はあり得ない。
翌日の葬儀は滞りなく終わり、精進落としも済ませた。終わると日付が変わっている。
次の日は早朝から神主さんの御祈祷を受けなければならない。
しかも葬儀の事後処理も友達一人では難しい。ヘトヘトになって帰宅した。
シャワーを浴びていたら、背筋がゾクッとして早々と切り上げた。もしかして二日連続!?
3時間後には起きないといけないので、サッと髪を乾かしベッドに入った。
その夜、金縛り一歩手前で解けて、安心したのか少しだが眠れた。
40 :るしふぁー ◆CS/orwC/9AZj :2016/08/20(土) 20:22:44.39 ID:UEO0zg090
(3/3)
翌朝、衣装を着て足袋を履き、フワフワした感覚で神社へ行った。
着くと神主さんが来て祭壇を組み、米・野菜・果物・鯛・日本酒を御供えしている。
しばらくすると空が曇ってきて、長老たちが慌て始めた。地区長はスマートフォンで天気予報の確認。
ちなみに、秋祭りが雨で中止になったことはないという。
前夜に雨が降っても、朝までには必ず天候回復するらしい。しかし、雲行きはどんどん怪しくなり、とうとう本降りの雨となった。
慌てて祭壇を神社の本堂へ入れ、衣装が濡れるといけないので私も入った。
御祈祷まで30分もなく、止む気配もないので初の中止となった。
過去に例がないということで皆が慌て、役員が手分けして各家庭に中止の案内に出向き、
公民館で慰労会だけ行うと伝え、それぞれが用意した料理や飲み物を運んだ。
公民館のステージに神輿を上げ、そこで神主さんと私が一言述べて一旦終了、後は慰労会のみ夕方から開始となった。
一旦帰って着替え昼過ぎまで寝て、友達に付き添い葬儀の事後処理も済ませ、夜は軽く飲んで食べ早々に帰宅。
手土産のお菓子を仏壇に御供えしてお礼の言葉を唱えた。
その夜は何も起こらず熟睡した。今回は仏様の勝ち!?…ちょっと、いや、かなり不謹慎ではあるが、これが本音だ。
了
42 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 20:28:27.97 ID:3Scplele0
【第十二話】 川瀬 ◆XTEVU8UPQ 様
『風呂の上』
俺は大学で上京して以来、都内のアパートを借りて住んでいる。
このアパートに来た最初の頃、夜中に風呂場の方からガタンっと変な音
が聞こえた、よくあることだ。
翌日風呂場を見たら天井にある丸い蓋が外れて開いていた。
気圧の変化とかで開いたんだろう、と常識的に考えて放置しておいたら
1週間ほどして蓋が勝手に閉まっていた。
そんな事が特に初めの半年は頻繁にあって、一度、風呂場の天井の上を
のぞいてみたら、人が余裕で移動できる程度のスペースがあって、誰か
が出入りしているのかも、と初めて思うようになった。
俺は余りそんなことは気にしない性格なので放っておいた。
で、先日久しぶりに風呂掃除をしていて、カビの生えた壁を拭いてたら
壁にカビをこすって描いたようなファンキーな絵と意味不明の文字列が
かいてあった。
こちらが放置してるのをいいことに、大胆というかふざけ過ぎると思っ
たが、実害もないのでそのまま消した。
先月29日のこと、夜にジュースを飲んだら腹がなんだかおかしくなって
殆ど一晩中トイレに籠りきりになってしまったのだが
朝の5時半ごろ、トイレで汗を垂らして呻っていたら、
ドカッと風呂場の扉が開いた音、そしてタッタッタタタ・・・と足音が
風呂場から出てトイレ前で曲がって台所側に行ったのが聞こえた。
数年前にも一度あったなーとか思い出したが、こっちはそれどころでは
なかったので放置した。
44 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 20:31:34.10 ID:3Scplele0
【第十三話】わらび餅 ◆jlKPI7rooQ
『入院患者』
私が大学生の頃に体験した不思議な話です。
不真面目な大学生というものは暇なもので、講義のない日に家にいると母親の足として車を出さなければならないことがよくあった。
特に多かったのが、入院中の祖父のお見舞いに病院まで母親を送っていくことでした。
最初は母親を送っていくだけだったのだが、そのうち自分ひとりでもお見舞いに行くようになっていた。
その日は確か、今みたいな夏の暑い日だったと思う。
バイト以外に予定のない私は今日も祖父のお見舞いに病院に来ていました。
祖父は癌の手術をした後で殆ど全く声が出せない状態でした。
確か下咽頭がんという病気だったと思うのですが、手術の際に声帯を切り取ってしまっていたから自力で声を出すことはできなくなっていたのです。
従って基本的にお見舞いに来た私が一方的に話しかけることになるのだが、そうそう話すことがあるわけでもなく、半分お見舞い品を食べに来ているだけのこともありました。
45 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2016/08/20(土) 20:32:23.08 ID:3Scplele0
祖父から何か伝えたいことがあるときはジェスチャーや、大体は小さなホワイトボードに書いてもらうことが普通でした。
そして、いつも通りアイスなんかを食べながら一緒にテレビを見ていると、祖父に肩を叩かれホワイトボードを渡されたのです。
『俺の前の子と遊んでやれ』
その日初めて気づいたのですが、祖父の前には小学3〜4年生ぐらいの男の子が入院していました。
我が家では祖父の言うことは絶対だったので、少し気恥ずかしさもありながら少年にあれこれ話しかけたりしていました。
少年はあまりしゃべらない子でしたが、バイトの話や高校での部活の話、大学での話などをすると興味深そうに聞いていたのを覚えています。
それから2〜3日後、祖父の容態が急変しそのまま意識が戻らず亡くなりました。
葬式に通夜にと忙しい日が終わった後、母親と祖父の物を病院に取りに行ったときにその異変に気づきました。
祖父に言われて話をしていた少年が、病室からいなくなっていたのです。
最初は退院したのかな? と思いなんとなく同室だった人に聞いてみたのですが、6人部屋にいた誰もその子のことを覚えていませんでした。
看護師さんに聞いてもそんな子供がいたということを知らない……ということを聞いてようやくそのおかしさが実感できました。
そもそも祖父が入院していた病室は周りも老人だらけ、今考えると小学生の男の子が一人だけその部屋にいるというのもおかしな話でした。
死の間際だった祖父と……そして何故か私にだけ言葉の交わすことのできた、不思議な少年の話です。
【了】
48 :進行役 ◆YJf7AjT32aOX :2016/08/20(土) 20:50:13.15 ID:5kSLWVsx0
【第十四話】『パワーストーン』
(1/2)
天然石が嫌い、苦手だという人はいないだろうか。
趣味的な問題ではなく、生理的に受け付けない、近くにあるとピリピリして嫌だとか、石自体を嫌悪する類の苦手。
そんな人はひょっとしてひょっとするかもしれない。
僕も天然石は胡散臭いと思っていた側の人間なのだけど、つい最近、そんなことを言えない状況になった。
僕は1年ほど前にとあることをきっかけに天然石のストラップをもらい、石は持ち主を守るという話を聞いてそれをネックレスに加工して常時身につけていた。
いわれはあまり信じていなかったけれど、とても綺麗な石だったこともあり気に入っていた。
仕事の時も目立たないよう、服の中に隠して身につけるほどには、だ。
先日久しぶりに友人と会い、地元の大きな神社の祭りへ出かけた。
長らく会っていなかったので話に花が咲き、夕飯に入ったファミレスだけで飽き足らず、
ドライブをして帰ることにした。
昔よく利用した、一旦他県に出て、街道をぐるりと大回りして帰る道だ。
いつもナビを設定する場所までは普通に運転し、いつもの場所で『自宅に帰る』を選択し、
いつものように推奨ルートを選択した。
その時気づいていれば良かったのだ。ナビが『冬季通行止区間を通行します』という、いつもなら絶対に言わない言葉を言ったことに。
ナビを設定し、話に花を咲かせたまま夜中の道をひた走る僕ら。
いつもなら気にする周りの景色も、今思えばほとんど気にしていなかった。
気づいた時には引き返すのも不可能な細道の峠を走っていた。
一歩間違えば谷底へ真っ逆さまのS字カーブの続く悪路。そして真っ暗で最高に気持ち悪かった。
真夜中に走る道では当然ない。本当に死ぬかと思った。
帰宅後調べたところ、地元じゃ超有名な心霊スポットだったのは別のお話。
49 :50(ななほし) ◆YJf7AjT32aOX :2016/08/20(土) 20:51:40.23 ID:5kSLWVsx0
(2/2)
何とか峠を越え麓へ辿り着いたところで、僕と友人はやっと一息ついた。
笑顔で話しつつ、僕は何気に「この石が守ってくれたのかもしれないな〜」と言って、服の中にあった天然石を取り出した。
その瞬間、さっきまで笑顔だった友人の笑顔と声がキツくなった。
「ごめん、しまって」
どうやら手がピリピリするそうで、手をしきりに振っていた。
自分は一切そんなことがないのでふーんと流し、ハンドルを握りなおしたその瞬間、自分の左側だけ
言い知れぬ悪寒に襲われた。
そしてとっさに本能で思った、「怖い、やられる」と。
さっきまで最悪な悪路を通っていたというのに、自分の左側からくる圧迫感と恐怖のほうが優っていた。
つまりは助手席側から、だ。
運転しつつ、友人と和やかに話してはいたが、内心はそれどころじゃなかった。
そうしている間にも左側の腕は痺れ、苦しくなって呂律が回らなくなってきたからだ。
なんとか友人を送り届けて別れたが、その時にはどっと一気に疲れていた。
ふと思い立って、石を服の中から出して光にかざしてみると、あんなに綺麗だった石の表面には引っ掻いたような傷ができ、表面が剥離したようになっていた。さらに別の石の中には奇妙なブツブツが浮いていた。
後日、別の友人に会って話したところ、こう言われた。
「石はご主人様を助けた時、ヒビが入ったり割れたり変色したり、何らかの変化が起きるよ」
そしてもう一言、「何かに憑かれてる人なんかはピリピリして綺麗な石のことを綺麗と思えないし嫌って感じるらしいよ」
それを聞いて初めて、石が持ち主を守るという意味を思い知った。
一体この日の何が原因で石がそうなったのかはわからない。ただ、それ以来その友人には会っていない。
どうなっているかわからないのが不安である。
【了】
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