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歪世界トレイン
[8] -25 -50 

1: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:25:16 ID:4iSJ1d7xp2

乗客Yx1

戸野 千織(トノ チオリ)

目が覚めたらそこは、走る列車の中だった



57: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:47:11 ID:spmolqlGjY

千織「わーわーわー!!わーーっ!!」

必死に大声を出し、騒ぎ立てる

手足は拘束されたままなので、まるでミノムシのようにダンボールに体当たりする

千織「・・・」 ゼェゼェ

千織「わ・・!」

車掌「静かにしろ」

仏頂面をした車掌が部屋に入ってきた

車掌「こんなに散らかして・・・人の仕事を増やさないでもらえるか」

58: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:50:10 ID:spmolqlGjY

千織「車掌さん!!」

息をのみ、口を開く

千織「私を、かっ・・・」

千織「買ってください!!!!」

車掌「は?」

千織「私、何でもします!何でもっ・・・何でも、お手伝いしますから!私を買ってください!!」

車掌「・・・」

千織「もう、このわけのわからない世界で頼れるの、車掌さんしかいないんです!お願いします・・・!」

千織「ご迷惑をかけてしまうのはわかってます!でも、お願いします、買ってください・・・!」

59: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:54:44 ID:spmolqlGjY

車掌「・・・なにか勘違いしているようだが」

千織「え・・・?」

車掌「君を買うことと、君を助けることは等しくない。私は君を助けることはできない」

千織「・・・!」

車掌「誰にそそのかされたかしらないが、私に過剰な期待をしないことだ」

千織「っ・・・それでも!このまま、魚のお化けに連れて行かれるのは困るんです!」

千織「お願いします、お願いします・・・!」

拘束された状態で、必死に頭を下げる

60: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:59:26 ID:spmolqlGjY

千織「髪の毛、根こそぎあげてもいいです!私にできることなら、何でもします!!」

車掌「・・・」

目をつぶり、ため息をつく

車掌「買うということは、君の身体を全て、私が所有することを意味する。わかっているか?」

千織「・・・!」

ゴクリと唾をのむ

千織「わかって、います・・・」

車掌「よろしい」

すると、車掌は背を向け、貨物車両を出て行った

61: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/7(日) 21:21:04 ID:ufTVIcJVgc

魚人「――ん・・・?」

足を組んで座る魚人の前に、車掌が立つ

車掌「・・・」

魚人「なんだ?何か用か?」

車掌「はい。お客さまのお荷物のことなのですが」

魚人「おう」

車掌「あの奴隷、大体いくらほどの値打ちをお考えでしょう」

魚人「あ?なんでそんなこと聞く?」

車掌「ぜひ、私に買わせていただきたい」

62: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/7(日) 21:23:45 ID:ufTVIcJVgc

魚人「・・・ぶっ」

魚人「ぶわははははは!!!」 ゲラゲラ

予想外の言葉に、たまらず笑い出す

魚人「こいつぁ意外だ!人間なんぞ興味ない顔してやがるくせに!!」

車掌「お客さまにこのようなことをお願いするのは重々失礼だと存じ上げておりますが、器量の大きいお客さまでしたら、考えて頂けるかと・・・」

魚人「面白いが、やめときな。車掌ふぜいが払える金額じゃねえ」

63: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/7(日) 21:27:10 ID:ufTVIcJVgc

車掌「おいくらでしょうか?」

魚人「そうだなぁ・・・上流貴族に売れたとしたら、大体1000万くらいか」

車掌「でしたら」

バンッ、と手に持っていたプロテクトケースを開く

大量の札束が視界に広がった

車掌「2000万でお買い致しましょう」 ニッコリ

魚人「・・・!!」

64: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/8(月) 23:51:38 ID:spmolqlGjY

千織(・・・私、どうなっちゃうんだろう)

施錠されたドアを眺め、絶望とわずかな期待を抱く

すると

『――次は、ミヤコ駅。ミヤコ駅でございます』

千織「!」

アナウンスと同時に、列車が速度を緩め始めた

千織(どうすれば・・・)

プシューッ

列車が止まると、乗客が乗り降りする音と同時に、千織のいる貨物車両に誰かが入ってきた

千織「わっ」 バサッ

千織に大きな風呂敷がかぶせられる

65: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/8(月) 23:57:48 ID:spmolqlGjY

兎男「ん?今何か声がしたような・・・」

車掌「そうですか?気のせいでしょう」

兎男「いやはや、私も年ですかな。えーと、これとこれを運べばいいんですな?」

車掌「はい。あと、隅の大きなダンボールも」

兎男「わかりました」

数人の兎男たちが、荷物を運び出している

千織(車掌さんが、見つからないようにしてくれてる・・・?)

やがて、荷物の出し入れが終わったのか、人が出ていく音がした

車掌「――もういいだろう」

フワッと風呂敷がとられる

66: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:01:26 ID:spmolqlGjY

千織「車掌さん・・・」

車掌「君の望み通り、君を買った。今後、全ての行動は私の指示に従ってもらう」

千織「はっ、はい・・・あ、ありがとうございます!」

手足を拘束していた縄をほどく

車掌「名前は?」

千織「はい?」

車掌「君の名前を聞いている」

千織「はっ、はい。戸野千織、です」

車掌「千織。まず君はシャワーをあびて、この服に着替えなさい」

ぽん、と真っ黒な服を渡される。どうやら駅員服のようだ

67: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:05:43 ID:spmolqlGjY

千織「え、えと、シャワーですか?」

車掌「この貨物車両を出てすぐ右手にある」

千織「あの、ありがたいんですけど、その前にいろいろ聞きたいことが・・・」

車掌「君の人間の臭いを消すためでもある。再び変な輩に嗅ぎつけられる前に、対処しなければならない」

千織「人間の臭い・・・。そんなのがあるんですか」

車掌「ある。さきほどの風呂敷は、視覚的だけでなく嗅覚的にも隠す効果があった」

千織「車掌さんは、人間じゃないんですか・・・?」

車掌「そうだ」

さらりと答える

しかし、さきほどの魚人と比べて、風貌は人間にしか見えない

68: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:10:01 ID:spmolqlGjY

千織「人間じゃないって、じゃあ一体・・・」

車掌「静かに」

不意に、口を押えられ、車両の隅へ追いやられた

車掌が覆い隠すように千織の前に立つ

ガタン

ドアが開き、貨物車両に魚人が入ってきた

魚人「・・・お、いたいたぁ」

まさしく千織と恭太を誘拐した魚人だった

車掌「どうされましたか?なにかお忘れ物でも」

魚人「いや別に、なにもないんだが・・・」

ゆっくりと2人に歩み寄ってくる


69: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:13:19 ID:spmolqlGjY

千織「・・・?」

嫌な予感がした

車掌と魚人が、わずか1mの距離に対峙する

察したのか、車掌は小さく息を吐いた

車掌「―・・・申し訳ありませんが」

車掌「この人間を返すことはできません」

魚人「じゃあ死んでもらうしかねぇなあっ!!」

魚人は車掌めがけて腕を振り上げた

70: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:15:20 ID:spmolqlGjY

千織「っ・・・」

思わず目をつむり、うずくまった


・・・・・・・

・・・・・・・・・

何も音がしない

千織(いったい、何が起きたの・・・?)

薄く目をあけると―――

千織「え・・・」

魚人は腕を振り上げたまま、硬直していた

71: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:41:32 ID:spmolqlGjY

魚人「て、てめぇ!なんだこれは…!」

車両の壁や床から黒い手が出現し、魚人の手足に巻き付いている

車掌「あなたはもう、乗客ではありませんから。容赦はしません」

魚人「…!」

魚人「ま…待ってくれ!俺はそんなつもりじゃなかった、はは、」

車掌「残念ながら、あなたには遅かれ早かれ死んでいただく予定でした。私が人間を所有していると、あちこちにバラされては困りますので」

魚人「そんなことはしない、そんなことはしないから殺さないでくれ!」

車掌「千織、目を閉じて」

千織「っ…」

次の瞬間、ザシュッッ、と鈍い音がした

72: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:44:18 ID:spmolqlGjY

千織「…」

思わず目をあけてしまう

魚人は黒い手に胸を3か所、突き抜かれていた

巨体が倒れる姿を見て、口をおさえる

千織「あ、あなたは、…」

黒い手が、すすす、と消えていく

車掌「…」

車掌「…この列車は、全て私の意志で生きている。そういうことです」

73: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:13:52 ID:ufTVIcJVgc

――しばし沈黙が流れたあと


千織はハッとして叫んだ

千織「そうだ、沖くん!沖くんを助けなきゃ!!」

車掌「・・・あぁ、あの連れの」

千織「この魚人に連れ去られた後、離れ離れになっちゃったんです!どうしよう、早く探しに行かないと――」

車掌「もう手遅れだろう」

千織「どういうことですか!?」

車掌「この世界で人間は希少であり、食料としても奴隷としても需要が高い。常識的に考えて、あの男はもう煮るなり焼くなりされている」

74: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:15:52 ID:ufTVIcJVgc

千織「っ・・・なにが常識なんですか!!」

千織「大事な友達なんです!お願いです、助けてください!お願いします!!」

車掌「これ以上私の仕事を増やさないでほしい」

千織「お願いします!車掌さんしか頼れないんです…!お願いします、お願いします」

何度も頭を下げる

車掌「…」

車掌「…では、その男を助けて、私に何のメリットがあるのか教えてほしい」

千織「え…」

車掌「私は人間を助けるボランティア活動をしているわけではない」

75: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:21:23 ID:ufTVIcJVgc

千織「っ… に、人間は希少なんですよね?その人間をもう1人、車掌さんが手に入れられると思えば」

車掌「私は人間を食べないし奴隷にする趣味もない。君を買ったのも仕方なく、だ」

千織「じゃ、じゃあ、車掌さんは何が欲しいんですか?」

車掌「…」

車掌「この列車を動かすのに必要な精力。私はそれだけあればいい」

千織「よ、要するに、この列車の人手が足りてないってことですよね!?じゃあ、私が一生懸命働きますから!車掌さんの負担を減らせるように、何でもしますから…!」

76: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:23:46 ID:ufTVIcJVgc

車掌「…何も理解してないくせに、よく言う」

千織「え?」

車掌「やれやれ」

ため息をつくと、車掌は息絶えた魚人の懐に手を入れた

千織「・・・?」

車掌「―あった」

取りだしたのは、なにやら携帯電話のようなもの

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