乗客Yx1
戸野 千織(トノ チオリ)
目が覚めたらそこは、走る列車の中だった
18: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 21:58:36 ID:spmolqlGjY
恭太「・・・あ!そうだ、大事なこと思い出した」
千織「大事なこと?」
恭太「はい、これ!」 スッ
カバンの中から、ピンク色の包装紙に包まれた小さな箱を取りだす
恭太「きょう、ホワイトデーでしょ!」
千織「あ・・・」
19: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:00:14 ID:spmolqlGjY
恭太「ちおちゃんには、バレンタインデーにおいしいクッキーもらったからね〜」 ニコニコ
千織「で、でも、沖くんもバレンタインにチョコくれたじゃない。私てっきり交換だと思って・・・」
恭太「いいのいいの!俺がホワイトデーにお返しあげたいだけなんだから!」
千織「あ、ありがとう・・・。また手作りしてくれたの?」
恭太「もち!愛情100%!」
千織「沖くんの女子力にはかなわないなぁ〜」
20: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:07:24 ID:spmolqlGjY
恭太「あーあ、ちおちゃんと帰ってると帰り道があっという間だなぁ」
千織「またすぐ明日会えるでしょ」
恭太「そうだけどさー、寂しいっていうか・・・」
千織「寂しい?」
恭太「うん」
千織「変なのー」クスクス
恭太「ほんとだよ、俺ちおちゃんがいないと…」
千織「あ、いけない!今日お母さんに夕飯の買い出し頼まれてたんだった!」
千織「じゃあ、沖くんまたね!チョコほんとにありがと!」 タタタッ
恭太「あっ・・・!」
21: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:14:05 ID:spmolqlGjY
恭太と別れてからいつも1人で帰る道を、今日は少し早足で歩いていく
千織(えっと…ネギと人参だっけ?も〜、お母さん、学校帰りに買い出し頼むのやめてほしいな〜)
少し閑散とした通りに出ると、小さな池が見えた
あの池を過ぎれば、自宅からもっとも近いスーパーがある
千織(・・・?)
1人の男の子が池の前でしゃがみこみ、じっと何かを見つめている
千織「ぼく、この池はけっこう深いから危ないよ」
なんとなく声をかける
そう、声をかけてしまった
22: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:23:29 ID:spmolqlGjY
男の子はゆっくりと立ち上がり、千織を見た
10歳にも満たないだろうか、まだ肌寒い時期だというのに半袖を着て半ズボンをはいている
眠そうな表情と、ぼさぼさの栗色の髪
男の子「――おねえちゃん」
男の子「おねえちゃん、ぼく、おなかすいたよ」
ぼそりと、かすれた声で言う
千織(もしかして、貧乏な子なのかな・・・上着着てないし)
千織「ぼく、おうちはどこ?お母さんは?」
男の子「・・・」
男の子「・・・ねぇおねえちゃん、おなか、すいた」
千織「・・・」
23: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:26:15 ID:spmolqlGjY
千織「ご、ごめんね、今おねえちゃん何も食べ物持ってなくて・・・」
男の子「うそ。持ってる」
千織「え?」
男の子「そこに入ってる」
千織のカバンを指さす
千織(・・・もしかして)
カバンから、恭太からもらったチョコを取りだす
千織「こ、これはね、友だちからもらったものだから・・・」
そのとき
ふっと、脳内に記憶がよみがえった
24: 名無しさん@読者の声:2017/5/1(月) 22:33:43 ID:spmolqlGjY
千織(あれ・・・?こんなこと、前にもどっかで・・・)
男の子「・・・おねえちゃん、前はぼくに、それくれたよ」
千織「え?」
男の子「ぼく、それ好きなんだ。だから、今日ももらいにきたの」
千織「・・・!」
男の子の生気のない眼を見つめていると、ぞわぞわと忘れていたものが視界に、耳に、背筋にかけめぐる
1か月前、2月14日
あの日、私は同じように沖くんからもらったチョコを――
25: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:37:56 ID:spmolqlGjY
「ちおちゃん!!」
はっとして振り向くと、恭太が息を切らしながら走ってきていた
千織「沖くん・・・!?」
恭太「あのねちおちゃん!俺、どうしても今日伝えたいことがあって」
千織「だめ、沖くん来ちゃだめ!!」
恭太「ホワイトデーだから、どうしても伝えたくて!俺、ちおちゃんのことが――」
千織「来ちゃだめ、戻って!!!」
次の瞬間
男の子が、千織の手からチョコをもぎとった
男の子「えへへ、またもらっちゃった・・・」
千織「・・・!」
男の子「お礼に、また、連れてってあげるね」
視界から、色が消えた
26: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 18:59:58 ID:spmolqlGjY
――ガタンゴトン ガタンゴトン
――ガタンゴトン ガタンゴトン
千織(・・・・また・・・・)
ガタンゴトン
千織(・・・・来て、・・・・)
ガタン、
「お客さま」
千織「!」 ハッ
27: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:02:30 ID:spmolqlGjY
目を開けると、そこは、”あの”列車のなかだった
目の前には、帽子を目深にかぶった、”あの”車掌
1か月前となんら変わりなく、背筋をのばし、手を後ろで組んで、千織を見下ろしている
車掌「・・・お客さま」
車掌「乗車券を、拝見いたします」
千織「っ・・・」
間違いない
また、あのよくわからない列車
現金も、suicaも使えない列車
28: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:05:45 ID:spmolqlGjY
千織「・・・・・」
心臓がバクバクと音をたて、何も喋ることができない
車掌「・・・」
千織「・・・」
車掌「・・・お客さま」
千織「・・・・まっ・・・」
なんとか声をしぼりだす
千織「っま、また、髪をあげます!だから、元の世界へかっ、帰してください!」
車掌「・・・」
29: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:12:19 ID:spmolqlGjY
千織「私、ほんとに何も知らないんです!知らなくて、乗ってしまって・・・」
千織「だから、乗車券とか持ってなく、て・・・」
車掌「・・・」
車掌「あなたの今の髪の長さでは、足りません」
千織「・・・!?」
車掌「毛根から根こそぎ頂くことになりますがよろしいでしょうか?」
千織「もっ、毛根!?」
車掌「・・・はい」
ゆっくりと、千織の髪に手を伸ばす――
そのときだった
30: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:14:32 ID:spmolqlGjY
恭太「てめぇっ、ちおちゃんから離れろ!!」
ドゴッ!!
千織「!?」
突如視界に恭太が現れ、車掌を殴りとばした
車掌は勢いよく近くの座席シートに激突した
千織「おっ、沖くん・・・!?」
恭太「ちおちゃん、気をつけろ!こいつはさっき、俺を奥の車両に閉じ込めやがった!!」
千織「え・・・!?」
恭太「これは普通の列車じゃない!俺たちをどっかへさらおうとしてるんだ!!」
31: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 20:45:35 ID:spmolqlGjY
車掌「・・・まったく」
口元の血をぬぐい、ゆっくりと立ちあがる
帽子がとれたその姿は、意外にも千織たちとほぼ同年代の若い青年だった
車掌「無賃乗車の分際で、よく吠える」
恭太「なんだと・・・!?」
車掌「この列車に乗ったからには、この列車の規律を守って頂こう。君は大声出して列車内を徘徊するという迷惑行為をしていたので、閉じ込めたまでのこと」
千織(車掌さん・・・!?)
今までの丁寧な口調とは打って変わり、鋭い口調になっている
32: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 20:50:42 ID:spmolqlGjY
恭太「へっ、あんなロック、力づくで壊してやったし!」
恭太「つーか、俺たちをどこへ連れて行くつもりなんだ!今すぐ降ろしやがれ!!」
車掌「・・・」
千織「沖くん、待って・・・!」
恭太「ちおちゃん、安心して。降りさえすれば、俺んち電話して、車出してもらうから」
恭太「聞こえてんのかお前!!さっさと列車を止めやがれ!!」
車掌「・・・わかりました」
プシューッッ!!
千織「ひゃっ」
恭太「うわっ」
33: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 20:55:53 ID:spmolqlGjY
大きな音を立て、列車が止まった。ドアが開く
千織「・・・!」
車掌「どうぞ」
恭太「お、おう・・・」
あっけなく止まったので、少し動揺したが、すぐさま千織の手をつかむ
恭太「ちおちゃん、行くよ!」
千織「まっ待って」
ギリギリのところで制止する
千織「車掌さん、あの」
車掌「・・・なんでしょう」
34: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 21:01:18 ID:spmolqlGjY
千織「おっ、遅くなりましたけど、この間は送って頂いてありがとうございました!」
車掌「・・・」
恭太「え!?送ってもらったってなに!?」
千織「沖くんが、失礼をしてすみませんでした」 ペコリ
車掌「・・・」
恭太「え、ちょっと待って、どゆこと?知り合いだったの?」
千織「ううん、そういうわけじゃ・・・」
車掌「降りるならさっさと降りてください。いい迷惑です」
恭太「な、なんだよ、かんじわる・・・。ちおちゃん、行こう!」
恭太が手を引くと、2人は列車を飛び出した
外は暗黒だった
35: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 21:15:02 ID:spmolqlGjY
黒猫「――いいの?逃がしちゃって」 クスクス
座席の上で、1匹の黒猫が毛づくろいする
車掌「どういう意味」
黒猫「人間なんて、貴重な”燃料”になるじゃないか。みすみす放すなんてもったいない」
黒猫「大体さあ、人間がこんなとこで降りたら、魚人あたりに喰われるのが関の山だよねー」
車掌「知ったことか。全く、客だと思って丁重に扱ってやったらこのザマだ」
不服そうに血が滲んだ口元をぬぐう
黒猫「あらー殴られちゃったの?珍しいね」 クスクス
車掌「ほっとけ」
プシューッと音を立てると、列車は再び走り出した
36: 名無しさん@読者の声:2017/5/4(木) 22:29:10 ID:lH5VhHYhaA
支援
37: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:20:48 ID:spmolqlGjY
>>36
ヒエッ、初支援ありがとうございます…!
嬉しいです頑張って毎日更新するのでよろしくお願いします//
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