乗客Yx1
戸野 千織(トノ チオリ)
目が覚めたらそこは、走る列車の中だった
176: ◆e.A1wZTEY.:2017/6/16(金) 23:48:47 ID:qmYFUaaIGI
千織「…」ゼェゼェ
やはり、女の千織にとってこの肉体労働は楽ではない
一駅働いただけで汗だくになってしまう
老兎男「――お嬢ちゃん、がんばるねぇ」
千織「えっ、あっ、はい!」
老兎男「新人なのにえらいねぇ。あの車掌さんにしごかれてるのかい?」
千織「い、いや、そういうわけでは!私が体力がないだけなんです」
老兎男「ほっほっほ。初日から頑張ると、明日から筋肉痛で動けなくなっちまうから、無理しないようにね」
千織「は、はい…!」
千織(ほんとに優しい…) ジーン
177: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/10(月) 11:14:57 ID:wxYS1bSIHQ
車掌「千織」
昼になると、車掌が貨物車両で休む千織のもとへやってきた
千織「はい」
車掌「昼飯だ」
ぽん、とお弁当を手渡される
千織「え…!?」
千織「お、お弁当!?お弁当があるんですか!?」
車掌「駅売り弁当というやつだ。今停車しているヒナコ駅で買ってきた」
千織「駅売り弁当…」
178: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/10(月) 11:17:54 ID:wxYS1bSIHQ
パカ、と開くと、色とりどりの具材が目に入った
千織「お、おぉー」
感動する
しかし、それぞれの具材はなじみのある見た目ではなく、何なのかわからない
千織「…わ、私が食べられるものなんですよね?」
車掌「さきほど私も少し食べてみたが、問題ないと思う」
千織「車掌さんって、ふだん精力が食事なんですよね…?参考になるんでしょうか」
車掌「いらなければ食べなくていい」 ツーン
千織「た、食べます!食べます!ありがとうございます」
179: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/10(月) 11:21:45 ID:wxYS1bSIHQ
午後も変わらず、荷物の積み下ろし業務に携わった
千織「兎男さん、手伝います!」
兎男「おや、初めて見る顔だね?」
千織「今日から列車で働いてます、千織といいます。よろしくお願いします!」
兎男「そうなのか〜こちらこそよろしく」
兎男と一緒に、よいしょと声をかけて荷物をもつ
千織「う〜重い」
兎男「大丈夫かい?なんなら俺ひとりでも…」
千織「大丈夫です!へっちゃらです!」 ニコニコ
兎男「…」
兎男(よく見ると、か、かわいい顔してるなぁ〜…) ドキドキ
180: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/10(月) 11:27:09 ID:wxYS1bSIHQ
おとなしい雰囲気の兎男とは、千織も安心して会話することができた
千織「兎男さんは、ずっとこのお仕事をされているんですか?」
兎男「いや、俺が働き始めたのはつい最近だよ」
兎男「恥ずかしい話、家で引きこもってる時期が長くてね。最近になってやっと働こうっていう気になったんだよ」
千織「そうなんですね」
兎男「やりたいことがなくて毎日だらだらしてたんだけど、さすがに働かないとね、生活できないし」
181: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/10(月) 11:30:24 ID:wxYS1bSIHQ
千織「そう考えて実行できるのが偉いと思います。やりたいことは、働いてお金をためながら、見つけるでもいいんじゃないですかね?」
兎男「そうだよね、俺もそう思ったんだ。実は俺、ミュージシャンになりたいなって、ちょっと考え始めてるんだ。音楽が好きだから」
千織「へぇ!とっても素敵です」
兎男「でも、仲間には無理だって言われてる。見た目も冴えないし、気が弱いから」
兎男「兎男一族は、みんな駅や列車に派遣されて働いているしね」
千織「大切なのは兎男さんの気持ちだと思いますよ。夢があるから毎日を頑張れると思いますし」
182: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/10(月) 11:37:20 ID:wxYS1bSIHQ
兎男「そうかな?」
千織「そうですよ。チャレンジしてみて、自分ができることをやりきって…それでもダメだったら、列車のお仕事をすればいいんじゃないんですかね。自分の人生ですから」
兎男「そんなことを言ってくれたのは、千織ちゃんが初めてだよ」
千織「そうなんですか?」
兎男「うん。俺…みんなから変わってるって言われるんだ。だから自信なくしちゃって」
千織「変じゃないですよ!私は応援してます」
兎男「あ、ありがとう… 千織ちゃんのおかげで、何か元気が出てきたよ」
183: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/12(水) 21:14:10 ID:wxYS1bSIHQ
日が暮れ、そろそろ仕事が終わるだろうかという頃――
兎男「千織ちゃん、千織ちゃん」
千織「はい」
兎男「初めての仕事、1日よくがんばったね」
千織「いえいえ。兎男さんたちが優しく教えて下さったおかげです」
兎男「千織ちゃんはニコニコ可愛いから、俺たちの癒しだって、みんな言ってるよ」
兎男「ところで、みんなと話して、お嬢ちゃんの歓迎会をやろうって話になったんだ。どう?」
184: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/12(水) 21:16:46 ID:wxYS1bSIHQ
>>183
×お嬢ちゃん
〇千織ちゃん
185: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/12(水) 21:17:26 ID:wxYS1bSIHQ
千織「え、歓迎会?」
兎男「うん。列車はこのタツノコ駅で今日は終点だろ?近くにおいしいお店があるんだ」
千織「そ、そうなんですか」
千織(どうしよう…嬉しいけど、さすがに無理だよね…)
しかし、笑顔いっぱいの兎男を見ていると、とても断りづらい
千織「しゃ、車掌さんに相談してきてもいいですか?」
兎男「え?なんで?君は仕事が終われば自由だろ?」
千織(い、言えない… 車掌さんに買われてるだなんて)
千織「ざ、残業があるかもしれないので…」
兎男「そうなの?じゃあ、少しここで待ってるよ」
186: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/12(水) 21:19:08 ID:wxYS1bSIHQ
車掌「――歓迎会?」
千織「は、はい… 皆さんすごく優しいので、断りづらくて。どうすればいいでしょう」
車掌「町に出るのは危険だな。私のそばを離れれば、わずかに残る人間の臭いでバレる可能性もある」
千織「で、ですよね」
車掌「君は行きたいのか?」
千織「い、いえ!夜ですし、何かあったら怖いので… 」
車掌「仕方ないな。私から言ってやる」
千織「すみません」
187: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/12(水) 21:22:06 ID:wxYS1bSIHQ
兎男「……納得いきませんね」
車掌「何がでしょう」
兎男「新人を業務終了後も拘束するなんて。ここはブラックじゃないと思っていましたが」
車掌「彼女には住み込みで働いてもらっているので。これから列車の清掃業務をさせます」
兎男「な…さすがにかわいそうですよ、こんな女の子を」
車掌「ご心配なく。彼女も了承済みです」
188: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/12(水) 21:24:15 ID:wxYS1bSIHQ
兎男「千織ちゃん、本当なの?」
千織「は、はい…」
兎男「…」
兎男「…そう。じゃあ、今日はひとまずやめとくよ」
兎男「またね、千織ちゃん」
千織「はい。すみません、ありがとうございました」 ペコリ
189: ◆e.A1wZTEY.:2017/7/12(水) 21:27:32 ID:wxYS1bSIHQ
帰路につきながら、兎男は考える
兎男「なんかおかしい…納得できないぞ」
兎男「普段から業務は滞りなくあの車掌ひとりでやってるんだから、住み込みの働き人なんていらないはずだ」
兎男「女の子を深夜までこきつかうなんて…信じられない…」
兎男「…はっ!もしかして」
兎男「千織ちゃんは可愛いから、無理やり拘束されてるんじゃないか?」
兎男「抵抗しても力じゃかなわないだろうし、あの車掌の言いなりにされて、酷いことを…」
兎男「そうだ、きっとそうに違いない!」
兎男「んああああっ!!ゆるせんんんん!!!!!」
190: 名無しさん@読者の声:2017/7/26(水) 23:19:21 ID:.JIA1ip43s
支援
お帰りなさい!
191: 名無しさん@読者の声:2017/8/30(水) 09:41:42 ID:UtKpo4NOEg
>>190
ありがとうございます!
お待たせしました!
192: ◆e.A1wZTEY.:2017/8/30(水) 09:44:34 ID:UtKpo4NOEg
車掌「――明日からは、あの兎男とは業務時間をずらしてもらう」
千織「え、何でですか!?」
車掌「前々から見ているに、考え方が若くて甘い。他の兎男よりも危ないところがある」
千織「でも、せっかく歓迎会に誘ってくれたいい人なのに…」
車掌「…」 ハァ
車掌「千織、あの男に何か言ったな?」
193: ◆e.A1wZTEY.:2017/8/30(水) 09:46:34 ID:UtKpo4NOEg
千織「え?」
車掌「あいつに好意を寄せられるようなことをだ」
千織「そ、そんな。言ってません、普通にお話しただけです」
車掌「何を言ったか知らないが、君の目線で物事を語らないことだ。この世界に住む者は、人間ではない上、もともとは死者だ。それを忘れるな」
千織「…!」
194: ◆e.A1wZTEY.:2017/8/30(水) 09:49:12 ID:UtKpo4NOEg
――翌日
兎男「…あれ?千織ちゃんは?」
兎男2「ん?なんか別チームの荷物班になったらしいぞ」
兎男「ええぇっ!なんで??」
兎男2「そんなこと俺が知るかよ〜。さぁ、仕事仕事」 バタバタ
兎男「…」
195: ◆e.A1wZTEY.:2017/8/30(水) 09:52:30 ID:UtKpo4NOEg
兎男(別チームって…そんなの、あの車掌が決めたにきまってるじゃないか)
沸々と胸の内に怒りがわいてくる
兎男(俺が昨日文句を言ったから、チームを変えられたんだ。許せない)
兎男(あんな性格の悪い車掌が、千織ちゃんに優しく接してるはずがない)
兎男(きっと虐められてる… 俺が、俺が助けてあげなきゃ!!)
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