ーむか〜しむかし、とある場所で
324: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:39:16 ID:69YocRD1R.
男「ふう…外へ出ましたよ」
神娘「うぅむ、眩しい」
男「お体の具合はいかがですか?」
神娘「大丈夫だ」
男「もう支えはいりませんか」
神娘「…うむ。一人で行けるぞ」
男「では神様。改めて此度の件、本当にありがとうございました」ペコッ
男「…お達者で」
神娘「うむ」
神娘「お前も早くその腕を治して、しっかり働くのだぞ」
男「分かりました」
神娘「あの村の者たちはお前が生き埋めになっていた時も、無理を承知で必死にお前を助け出そうとしていた」
神娘「報いらなければならんぞ、男」
男「…はい」
神娘「では、お前も達者でな」
神娘「生きておれば、また会おう」
男「ははっ。ええ、またお会いしま…」
325: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:39:38 ID:69YocRD1R.
「あーっ!!いたーーっ!!」
男・神娘「!」ビクッ
326: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:40:07 ID:69YocRD1R.
神娘「い、今の声は…」
パカラッパカラッパカラッ…
村娘「神娘様ーっ!」タタタッ
男「あれは…村娘さん」
神娘「…と山神殿か?あの馬は」
馬「ヒヒーン!」キキーッ
村娘「よっと!」スタッ
男「見事な着地ですね」
村娘「神娘様!良かった、ご無事だったんですね!」ダキッ
神娘「うわわ、む、村娘…何故ここに?」
村娘「神娘様がいつまで経っても戻られなくて心配してたんですよ!」
村娘「山神様に乗せてもらってやっとここまで来たんですから!」
神娘「う、うむ。それは…すまなかった」
山神「…私も詳しく聞きたいものね、神娘?」ゴゴゴ…
神娘「や、山神殿…」
山神「ここに来る前に男さんの村へ行って、全て聞いたわよ?」
山神「あなた、男さんを助けるために無理をしたそうね」
神娘「う、うむ…」
神娘「それで力を使い果たし…一度消滅してしまったのだ」
山神「ふぅ、やっぱりねぇ」
327: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:40:33 ID:69YocRD1R.
村娘「ええっ!?消滅って…つまり死…」
神娘「…ああ、そうだ。私は確かに一度死んだ」
神娘「だが…よく分からぬがついさっき生き返ったのだ。そこの洞窟でな」
村娘「神娘様…」
山神「まったく…あなたって神は」
男「山神様、どうか怒らないでいただけますか?」
山神「男さん」
男「神様は私の命を助けてくださった」
男「どうやらそのお力を使い果たす他なかったようです」
男「どうか、その功に免じてお許しを…」
山神「…ふふっ、大丈夫よ。別に怒る気なんてないわ」
山神「神娘の事だもの。見殺しになんてできないわよね」
神娘「…う、うむ」
山神「ただ、これだけは忘れないでちょうだい」
山神「あなたの身に何かあれば…私も、巫女も、男さんも悲しむわ」
神娘「…」
山神「無事で良かった…本当に」
神娘「…心配かけてすまない、山神殿」
328: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:41:08 ID:69YocRD1R.
村娘「でもなんで…神娘様は生き返る事ができたんでしょう?」
神娘「それは私にも分からぬ」
男「山神様は何かご存知でしょうか?」
山神「いいえ。私の知る限り前例のない出来事よ」
男「そうですか…」
山神「でもこれは私の憶測だけどね」
男「?」
山神「古来、私たち神はあなた達人間からの信仰を糧に力を得ているわ」
山神「何か特別に大きな信仰があれば…失われた力を取り戻すような事もあるかもね」
神娘「大きな信仰…か」
山神「男さんや村の皆の感謝の念が通じたのかもしれないし」
男「おお、そうですか」
山神「あるいは…そうね」クスッ
山神「信仰以上の何か特別に強い想いが込められていたのかもしれないし」
男「…」
山神「それを言霊に乗せたりしたら…それはもうすごい力になるでしょうしねぇ」ニヤニヤ
男「…おほん」
神娘「本当は何か知っているのではないか?山神殿」
山神「嫌ねぇ。ただの憶測だって言っているでしょう?」
329: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:41:45 ID:69YocRD1R.
山神「それより男さん。その折れてる腕を出してちょうだい」
男「え?は、はい」スッ
山神「…」フウッ
キラキラ…
男「ひ、光が腕にまとっていく…」
村娘「すごい…綺麗…」
山神「これでもう大丈夫よ」
男「えっ?あっ…」
男「う、動く…腕が動きます…!」クイッ
神娘「さすが山神殿の治癒術だな」
山神「ふふ、恐れ入ったでしょう?」
男「ありがとうございます、山神様!」
山神「さて…男さんも神娘も無事だったわけだし、これで一件落着ね」
村娘「じゃあ帰りましょうか」
山神「そうしましょう」
神娘「うむ。では私も共に…」
山神「あ、神娘」
神娘「ん?」
山神「もうその必要はないわよ」
神娘「……」
神娘「…は?」
330: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:20:39 ID:di870/Hsjw
村娘「や、山神様…?」
神娘「どういう事だ?やはり破門…」
山神「違うわよ。まあ聞きなさい」
山神「あなたは一度消滅し、先ほど復活したわ」
神娘「うむ」
山神「復活というより…転生と言った方が分かりやすいわね」
山神「記憶や力を保持したまま、あなたは生まれ変わったのよ」
神娘「そういう事なのか」
神娘「…ん?生まれ変わった…?」
山神「そう。もうお分かりかしら?」
山神「あなたはこの地に生まれ落ちた神となったのよ」
男「えっ」
村娘「えっ」
神娘「ということは…」
山神「修行神はその生まれ落ちた地で修行を積まなければならない」
山神「あなたは今日からここで生きていきなさい、神娘」
神娘「なんと…」
331: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:21:25 ID:di870/Hsjw
神娘「それは…まことか?山神殿」
山神「こんな事、戯れで言うほど性格曲がってないわ」
神娘(少しは曲がっている自覚はあるのか)
山神「あなたに唯一変化があるのは…神力の源流がこの地になっていること」
山神「これこそが、あなたがここの修行神となったという証よ」
神娘「…」
山神「私たちとは…ここでお別れ」
神娘「…そうか」
山神「うふふ。神娘、そんな不安そうな顔しないでちょうだい」
神娘「ふ、不安などではない」
神娘「急な話過ぎて…頭が追い付かんだけだ」
山神「それは無理もないけどね」
山神「でもあなたなら大丈夫よ。あなたは強くなったわ」
山神「辛い過去にも向き合って…自分の命を投げ出してでも他者を助けて…」
山神「今のあなたなら、私の手を離れてもきっと大丈夫」
神娘「……」
神娘「…山神殿」
山神「ん?」
332: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:22:05 ID:di870/Hsjw
ザッ
神娘「…」ヒザマズキ
山神「!」
神娘「長年、私のような未熟者の相手をしてくれて…」
神娘「言葉にも出来ぬほどの感謝をしている」
神娘「本当に、本当に今まで世話になった。ありがとう」
山神「…」
山神「ふふっ、最初は礼儀も知らない面倒な修行神が来たと思ったけど」
山神「最後に珍しいものが見れたわね。あなたがそんな風に…」
神娘「ちゃ、茶化すでない」
山神「うふふ、頑張りなさいな」
山神「大丈夫よ。離れ離れになっても地は続いている…でしょう?」
神娘「それ、私が男に言った言葉ではないか…聞いていたのか」
山神「私の領域での会話なんか全部筒抜けよ」クスクス
神娘「…やっぱり性悪だ」
山神「私たちだけじゃない。ここには男さんもいるじゃない」
山神「あなたは一柱ではないわ。忘れないでね」
神娘「うむ。分かった」
333: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:22:39 ID:di870/Hsjw
村娘「神娘様…」
神娘「村娘…すまないな。お前の村には」
村娘「本当ですよ!私の両親も楽しみにしてたのに!」
神娘「う…うぅむ…」
村娘「…な〜んて、冗談ですよ」ニコッ
神娘「えっ」
村娘「村の人たちには私からちゃんと言っておきますから。心配しないでください」
神娘「村娘…」
村娘「それよりも…良かったです!」
神娘「何がだ?」
村娘「神娘様の願いが叶って」
神娘「願い…」
村娘「あれですよ!ほら、男さんと共に…」
神娘「あ〜!あ〜!分かった、皆まで言うな!」アセアセ
村娘「えへへ、きっと天の神様からのご褒美ですね」
村娘「男さんを助けてくださったことへの…」
神娘「わはは、そうかな。見てくれているのだろうか…」
334: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:23:02 ID:di870/Hsjw
村娘「最初は神娘様は変わってしまったと思いましたけど…」
村娘「やっぱり神娘様は私が小さい頃と同じ、お優しい神娘様です!」
神娘「そうだろうか…?」
村娘「もちろんです!こっちでも皆さんと仲良くしてくださいね」
神娘「うむ」
村娘「でも…その、時々でいいので」
村娘「私たちの村の事も、思い出してください」
神娘「…ああ。約束したからな」
神娘「忘れるものか。お前の事も…あの村の事も」
神娘「お前と再会できたから人間を許すことができた」
神娘「お前のおかげで今があると言ってもいいくらいなのだぞ?」
村娘「…嬉しいです」
神娘「今生の別れではない。泣くな。な?」
村娘「…!」
村娘「なっ、泣いてなんか…ないです!」アセッ
神娘「わはは、立派な巫女になれ。村娘」
村娘「はいっ…!」グスッ
335: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:23:37 ID:di870/Hsjw
山神「男さん。神娘のこと、よろしく頼むわね」
男「お任せを」
山神「きっと世話を焼かせる事になるでしょうけど…見捨てないであげて」
男「ははっ。ご安心ください」
神娘「いやいや、私が世話を焼く立場だろうが」
山神「いい?神娘。ちゃんと瞑想とか基本の修行も怠らないのよ」
神娘「あ、お、おう…分かったぞ」
山神「村の方々に迷惑をかけないようにしなさいよ」クドクド
山神「あと、ちゃんとご飯を食べて夜更かししないよう…」クドクド
神娘「あ〜もう!分かったというに!」
男「本当に山神様は神様の母親のようですね」
村娘「結局、神娘様を一番心配しているのは山神様でしょうからね」
男「ははっ」
村娘「うふふっ」
336: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:24:01 ID:di870/Hsjw
村娘「あの、男さん」
男「なんでしょう?」
村娘「さっき山神様が言ってた、特別に強い想いって…」
男「!」
男「…察しが良いですね」
村娘「やっぱり〜!」
男「いやはや、お恥ずかしい限りで」
村娘「そんな事ないです!きっと神娘様も…」
村娘「……いえ、これ以上は余計なお節介ですね」
男「いずれにしても…後悔はしないようにしたいと思います」
男「伝えられなくなってからでは遅いですから」
村娘「男さん…頑張ってくださいね」
男「ありがとうございます」
村娘「男さんもお元気で」
男「村娘さんも」
337: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:24:34 ID:di870/Hsjw
山神「それじゃあ、私たちはお暇するわ」
山神「神娘と男さん…それに男さんの村にも幸あれ」
男「ありがとうございます。山神様」
村娘「神娘様!男さん!お達者で〜!」
神娘「お前も息災でな、村娘!」
山神「行くわよ巫女!掴まってなさい!」
村娘「はい!」
タタッ!
パカラッパカラッパカラッ……
男「…」
神娘「…」
男「行ってしまいましたね」
神娘「…ああ」
男「さて、これからどうしましょうか」
神娘「どうするも何も…こうなればやるべき事は一つだ」
男「ですよね。では、改めて神様」
男「私の村へ来てください」
神娘「…うむ、そうさせてもらおうか」
338: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:25:01 ID:di870/Hsjw
・・・・・・・・・・
339: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:25:28 ID:di870/Hsjw
パカラッパカラッ…
山神「この速さで大丈夫かしら?巫女」
村娘「…」
山神「そんなに急がないし…少しゆっくりでもいいのよ?」
村娘「…」
山神「…あのねぇ、巫女」
山神「首筋の辺りが冷たいんだけど。…あなたの涙で」
村娘「だって…だってぇぇ〜!うあああ〜ん!」ドバー
村娘「こんな…こんな急にお別れなんて…!」ダバーッ
山神「だから冷たいってば!」
山神「…まったく。神娘の前じゃ泣かないようにしてたのね」
村娘「だって…私があそこで泣いちゃったら…」グズッ
村娘「神娘様が…困ると思って…っ」ヒック
山神「…」
村娘「分かってるんです…本当は仕方ない事だって」グスッ
村娘「神娘様が…男さんと一緒に暮らせるようになって嬉しいし…」
村娘「でも、やっぱり…寂しいものは寂しいです〜!」ビエーン
山神「…本当にあなたは優しい子ね」
340: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:26:25 ID:di870/Hsjw
村娘「ご、ごべんなさい…山神様。鬣を濡らしてしまって…」グズグズ
山神「…別にいいわ。今は思いっきり泣きなさい」
山神「その代わり、泣きっぱなしは駄目よ?というか、そんな暇も無くしてあげる」
村娘「…えっ?」
山神「ねぇ巫女、このまま少し寄り道していきましょう」
村娘「よ、寄り道…ですか?」
山神「ええ。見て回りたい場所はいくらでもあるわ」
山神「すごいわよ、あなたの見たこともないものがこの世にもいっぱいあるんだから」
村娘「で、でも…お社に帰らなくてもいいんですか?」
山神「いいのよ、領域で何かあればすぐ分かるし」
山神「そしたら私だけ全速力で帰っちゃえばいいんだから」
村娘「ちょ、ちょっと山神様!?」アセッ
山神「ふふっ、冗談よ。でもあなたは巫女として見聞を広める必要があるわ」
山神「ちょうどいい機会じゃない。行きましょ行きましょ!」
村娘「山神様…」
村娘「…はい!それではお供させていただきます!」
山神「じゃあ行くわよ〜!しっかり掴まっててね!」ヒュンッ
村娘「あわわっ!速いですよ山神様〜!」
パカラッパカラッパカラッ
341: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:26:56 ID:di870/Hsjw
ーその後、しばらくの間
ー真っ白な馬に乗り各地を駆ける巫女服の少女が方々で話題となったが
ーそれはまた、別のお話……
342: 名無しさん@読者の声:2016/11/25(金) 22:51:01 ID:p94zDc5KUg
・・・・・・・・・・
343: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:52:07 ID:p94zDc5KUg
ガサガサッ
神娘「おっと、倒木が…」ピョンッ
男「大丈夫ですか、神様。足元が悪いですが」
神娘「うむ。このくらいの道のりはわけないぞ」
男「ならばいいのですが」
神娘「しかしお前はこんな道を毎日歩いてきていたのか」
男「ええ」
神娘「けっこう村までの距離もあるだろう。大変だったろうに」
男「このくらいの散策はいつもの事ですから」
神娘「よく見つけたものだ。あの洞窟を」
男「実はあそこに辿り着いたのは偶然ではないのですよ」
神娘「ん?」
男「予感がしたとでも言いますか…」
神娘「予感?」
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