ーむか〜しむかし、とある場所で
488: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:19:17 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「山神様、私からもお願いします!」
山神「巫女…」
巫女「もう一度、この人たちに機会をあげてください」
巫女「反省して、真面目に生きていく機会を」
山神「…」
山神「…山賊たち」
山賊「へい…」
山神「今、娘さんが言っていた事は本当かしら?」
山賊「…ほ、本当です!」
山賊「俺たち、これからは真面目にやるつもりで話してたんだ!」
山神「…ふふっ。そういう事なら見せてもらいましょう」
山神「これからどうあなた達が生きるのかを」
下っ端「…」
山神「田畑を耕し、命を愛で、他者と助け合う事ができると誓いますか?」
下っ端「…や、やる!やります!」
山賊「おう!もちろんだ!」
山賊「ああ!」
山神「…ふふっ。そういう事でしたら」
山神「今日のところは、見逃しましょう」
山賊「あ、ありがてえ!」
山賊「ありがとうございます神様!」
489: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:19:44 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「ふぅ、よかった〜」
巫女「ですねっ!」
下っ端「…おい」
村長娘「なんだい?」
下っ端「…す、すまなかったな」
村長娘「おっ?」
下っ端「まさか、攫った奴らに庇われるとは思わなかったぜ」
下っ端「怖い目に遭わせて…すまなかった」
村長娘「へへっ」
山賊「そうだ。それに何度も命を助けられた」
山賊「感謝してもしきれねえ」
山賊「ありがとうな。あんたらの事は忘れねえ」
巫女「なんか、恐縮しちゃいますね」
村長娘「あははっ、いいって事よ!」
490: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:20:14 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女(こうして山賊さんたちの騒動は終わりを告げて…)
巫女(一人、また一人と山賊さんたちはこの場を立ち去っていきました)
491: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:46:27 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「…皆行っちまったねぇ」
巫女「ええ」
村長娘「さて、じゃああたしらも…」
下っ端「…」ポケーッ
村長娘「うわっ!いたのかい」
下っ端「うわっとはなんだよ」
巫女「下っ端さん…」
村長娘「あんたはどうするのさ?」
下っ端「ん?ああ…どうすっかな」
下っ端「特に行く所もねえし、故郷にゃ知り合いもいねえしな」
村長娘「そうなのかい?」
下っ端「ま、いいさ。適当にぶらついて探してみるからよ」
下っ端「俺がこれからやりたい事とかさ」
村長娘「…」
村長娘「…あ、あのさ」
下っ端「あ?」
村長娘「あんた、うちの村に来ないかい?」
下っ端「へっ?」
492: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:47:04 ID:.Fu.qeb/.Y
下っ端「お前の村にだと?」
村長娘「うん。行くあてがないんだろ?」
下っ端「そうだけど…俺は山賊だぜ?」
村長娘「大丈夫だよ。あたしが上手く話す。あんたあの時村に来てなかったしさ」
下っ端「…」
村長娘「あ、嫌ならいいんだよ。でもあんた、放っといたら野垂れ死にそうでさ…」
下っ端「へっ、なめるんじゃねえよ。俺は…」
村長娘「そ、それにさ!」
下っ端「?」
村長娘「あたし言っただろ?手伝うって」
村長娘「あんたのやりたい事を探すの…手伝うって言っちまったからさ」
村長娘「その、近くにいてくんないとそれもできないっていうか…」
下っ端「…ああ、そうだな。そんなこと言ってたかな」
村長娘「だから…うちに来てよ。何にもない村だけど、大事なものが見つかるかもしれないじゃないか」
下っ端「分かったよ。そんなに言うなら、少し世話になるさ」
村長娘「ほ、本当かい!?」パアッ
下っ端「なんでそんな嬉しそうなんだお前」
巫女「…鈍感」ジトー
下っ端「え?お、えっ?」
493: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:48:27 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「そんじゃ、帰ろうかね」
巫女「はい」
村長娘「山神様の事も村の皆に…あれ?」
コツゼン
下っ端「そういやさっきからいねえな」
村長娘「なんだ、紹介しようって思ったのにさ」
巫女「本当はあんまり人前に姿を見せたがらないんですよ」
村長娘「そうなのかい。じゃあ仕方ないね」
下っ端「…あ〜、なんか緊張するな」
村長娘「なんで?」
下っ端「長いこと村とかで暮らしてないからな。馴染めっかな…」
村長娘「うちの村は穏やかだから大丈夫だよ。あたしみたいに」
下っ端「えっ」
巫女「えっ」
村長娘「なんだい、巫女様まで…冗談だよ」
巫女「良かった。お転婆な自覚はしてたんですね」
村長娘「意外と毒舌だねぇ」
494: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:48:55 ID:.Fu.qeb/.Y
・・・・・・・・・・
495: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:49:35 ID:.Fu.qeb/.Y
村長「ぬぉぉ〜っ!娘よ〜!」ドバーッ
村長娘「な、なんだい、帰ってくるなり暑苦しいね」
村長「怪我はないか!?ひどい目に遭わされなかったか!?」
村長娘「ぶ、無事だよ!みんな巫女様のおかげさ」
巫女「えっ!いや、私は…」
村長「巫女様!ありがとうございました!」ガバッ
巫女「村長さん…」
村長「本当に山賊どもをやっつけてくださるとは…」
村人「まったく、感謝もしきれません」
村人たち「ありがとうございました!」ズザッ
巫女「あ、え〜っと…」チラッ
村長娘「……」ニコッ
巫女「…はぁ」
巫女「…い、いいって事です!」
村人一同「はは〜っ!」
巫女(これ、いっつも罪悪感があるんだけどなぁ…)ヒクヒク
496: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:50:17 ID:.Fu.qeb/.Y
村長「ところで…」チラッ
下っ端「…?」
村長「そっちの男は誰かの?」
村長娘「うん、山賊に一緒に捕まってた旅の人だよ」
村長「ほう、山賊に?なんでまた?」
下っ端「え、な、なんでって…」
下っ端(理由なんざ考えてねえ…)
村長娘「…お父、その人記憶がないんだ」
下っ端「え」
村長「なんじゃと?」
村長娘「洞窟から逃げる時に頭に岩がぶつかって、それで全部忘れちゃったらしいんだよ」
村長娘「捕まってた理由も、元いた所も全部」
村長「なんと…本当かね?」
下っ端「あ、え〜……そ、そうなんだ!うん」
村長「だから行くあてもないんだよ。記憶が戻るまでここにいてもらってもいいだろ?」
村長「なるほど…それは無下にするわけにはいかんのぅ」
下っ端「…」
村長「あい分かった。好きなだけこの村にいるとよいわい」
下っ端「ど、ども…」
村長娘「良かった!ありがとう、お父!」
下っ端(…また…助けられちまった)
497: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:50:58 ID:.Fu.qeb/.Y
・・・・その夜・・・・
498: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:51:54 ID:.Fu.qeb/.Y
ホー…ホー…
巫女「…」
巫女(静かな夜…)
巫女(今日あったことが噓みたい)
バサバサッ
巫女「?」
カラス「カァーッ」
巫女「あっ、山神様」
カラス「眠らないのかしら?」
巫女「なんだか目が冴えちゃって…」
山神「ふふ、ご苦労だったわね、巫女」
巫女「山神様こそ」
山神「…ごめんなさいね。守るなんて言っておきながら全然助けられなくて」
山神「土神が私の探知能力を妨害するもんだから、ずっと洞窟の中を探し回る羽目になったのよ」
巫女「そ、そうだったんですか…」
山神「でも、私の助けが無くてもあなたたちは生きていた。生きようと頑張っていた」
巫女「…自分の力で生き残ろうって、あの場の全員がそう思ったんです」
巫女「山賊さんたちもそれで改心したようなものだったし…」
山神「そうだったの…」
499: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:52:31 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「それに本当に危ない時は、山神様のくれたこの羽に助けてもらいましたから…」
山神「渡しておいてよかったわ」
巫女「でもすごいですね。この羽根」
山神「その力を引き出したのはあなたの強い想いよ」
山神「まあ、洞窟の天井を吹き飛ばすなんて大それた事をしたと思うけれど」
巫女「その前も落ちてくる岩を止めたりしましたし…」
山神「…えっ?」
巫女「?」
山神「あの衝撃波の前にも使ったの…?」
巫女「はい。二回、この羽根に助けられました」
山神「……」
巫女「どうしたんですか?」
山神「その羽根に込めた神力は一回分よ」
巫女「えっ」
山神「岩を止めたというなら…そこでその羽根の効力は切れているはず」
巫女(…だからその後は願っても何も反応しなかったんだ…)
山神「残っていた土神の神力に反応したのかしら…それとも…」
巫女「…あの、山神様」
山神「何かしら?」
500: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:53:02 ID:.Fu.qeb/.Y
山神「……声が聞こえた?」
巫女「はい。羽根をもっと高く掲げて…って」
山神「…」
巫女「落ち着いた女の人の声でした。あっ、それに…」
巫女「その声が言ってました。『山神様をよろしくね』って」
山神「!」
巫女「山神様、心当たりは…」
山神「…まさか…」
巫女「…山神様?」
山神「まさかそんなこと…」ブツブツ
巫女(山神様が…動揺してる…?)
山神「…巫女」
巫女「はい」
山神「…あなたに話すべきかどうか…悩んでいることがあるの」
巫女「な、何ですか?」
山神「…でも……ん〜……」
巫女(こんな山神様、初めて見た…どうしたんだろう?)
山神「…ごめんなさい。やっぱり今はまだ…」
巫女「……」
巫女「いいですよ。山神様がお話ししたい時に話してください」
山神「…ありがとう」
巫女(ものすごく気になるけど…)
501: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:53:40 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「そういえば、もう調子は大丈夫なんですか?」
山神「調子?」
巫女「あの、だってさっき…」
『…ぐ…ぅ…』ズズズ
山神「…ああ、あれね」
山神「神降ろしはすごく神力を消費するの。神力をあれほど使うことが久しく無かったから、少しおかしくなってしまったわね」
巫女「…」
山神「もう心配しなくていいわ。他の神と争うなんて、今後もそうそうないから」
巫女「…はい」
巫女(やっぱりこれも嘘…なのかな)
巫女(あの海神様の言いぶりからすると、それだけじゃないはず)
巫女(繰り返すって事は…前にも同じことがあったってことだよね?)
巫女(それに、山神様の内なるものって…何なんだろう?)
巫女(聞きたいけど…聞いちゃいけないような気がする)
巫女(山神様、いつかそれも教えてくれるかな…)
山神「……」
スタスタ…
巫女「あれ、誰かの足音が…」
502: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:54:09 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「…巫女様」
巫女「えっ?」
村長娘「やあ、まだ起きてたんだね」
巫女「娘さん。どうしたんですか?」
村長娘「今日のお礼にさ、良いところ教えてあげようと思って」
巫女「良いところ?」
村長娘「そう。…あれ、夜中にからすなんて珍しいね」
山神「まあ、確かに不自然よね」
村長娘「えっ、喋っ…」ギョッ
村長娘「…あれ、もしかして山神様かい?」
山神「ふふ、察しが良くて助かるわ」
村長娘「なんだ、どっか行っちゃったのかと思ってたよ!」
山神「村の他の方には内緒にしててね」
村長娘「なんだ、そんなに遠慮しなくても…」
村長娘「そうだ。ちょうどいいや、山神様も一緒に行こう!」
山神「その良いところに…ですか?」
村長娘「うん!」
503: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:35:37 ID:JtRs1/PrKY
・・・・・・・・・・
504: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:36:47 ID:JtRs1/PrKY
村長娘「ほら!ここだよ!」
モワワーン…
巫女「えっ、ここって…温泉?」
山神「まあ、風流ね」
村長娘「他の人も知らない、あたしの秘密の場所さ」
巫女「すごいですね…こんな山の中に」
村長娘「散策してたら偶然見つけてさ。ここに入れば疲れも吹き飛ぶだろ?」
村長娘「さ、早く入ろう!」シュルシュルッ
巫女「ちょ、ちょっと娘さん!?」アセッ
村長娘「ん?なんだい、服脱がなきゃ入れないだろ?」
巫女「え、え〜っとそうですけど…」
村長娘「…はは〜ん」ニヤリ
巫女「えっ」
村長娘「恥ずかしがる事ないさ!女同士裸の付き合いしようよ!」
巫女「恥ずかしいに決まってるじゃないですか!山神様も何か言って…」
サル(山神)「ウキ?」
巫女「あっ、ずるい!お猿さんなら裸でも大丈夫でしょうよ!」
村長娘「さあ、観念しなよ巫女様!」ガシィッ
巫女「いやーっ!」
シュルルッ!
505: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:37:15 ID:JtRs1/PrKY
カポーン…
村長娘「は〜っ、今日は疲れたねぇ。散々走り回ったしさ」
巫女「…うぅ、乱暴されたぁ…」
山神「巫女、人聞きの悪いこと言わないの」
村長娘「そうだよ、ただ脱がしただけじゃないか」
巫女「娘さん、奔放過ぎますよ…」
村長娘「漁師の村の娘なんてこんなもんさ」
巫女「……」
巫女「…でも格好いいです」
村長娘「え?」
巫女「私は娘さんがいなかったら今頃、全部諦めて土に埋まってました」
巫女「娘さんが叱咤してくれたから…私は足掻こうって思ったんです」
巫女「それに、山賊さんたちもそう。娘さんの言葉で心が動いた」
巫女「本当に感謝されるべきは私なんかじゃなくて、娘さんなんです」
村長娘「ちょっとやめておくれよ。茹だっちゃうじゃないか」
巫女「私もああいう人の心に響くような言葉を…言えるようになりたい…」
山神「…」
506: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:37:43 ID:JtRs1/PrKY
村長娘「…あたしはほら、馬鹿正直にものを言っちゃうんだよ」
村長娘「それで昔っから言わなくていい事まで言って人を怒らせたりしてさ」
村長娘「お父にもよく言われたよ。少しその口を縫った方がいいって」
巫女「……」
村長娘「あの時だってそうさ。思った事が口に出ただけ」
村長娘「腑抜けてる山賊どもに苛ついたままに言ったんだ」
巫女「でも、それが…」
村長娘「そうだよ。本当に心から思ったことだから、あいつらにも巫女様にも届いたんだ」
村長娘「本心を隠した上辺だけじゃない言葉だから」
巫女「…」
村長娘「…あれ、あたし何語ってんだろう」ハッ
村長娘「あ〜恥ずかし恥ずかし!ちょっと開放的な気分になるとすぐこれだよ」
巫女「あははっ」
村長娘「忘れて忘れて!」
巫女「…いえ、忘れません。ちゃんと心に刻みましたから!」
村長娘「まったく、さっきの仕返しのつもりかい…」ブクブク
507: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:38:42 ID:JtRs1/PrKY
巫女「ところで娘さん」
村長娘「なんだい」ブスーッ
巫女「下っ端さんのどこを好きになったんですか?」
村長娘「へあっ!?」ガボッ
村長娘「げほげほげほっ!!」
巫女「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?」
村長娘「み、巫女様が変な事言うからじゃないか!」ケホケホ
巫女「だって…ねぇ?」
巫女「下っ端さんが村に来るようにあんなに必死になって…」
村長娘「……」
巫女「もう分かっちゃってますよ。隠したって無駄ですよー」
村長娘「……」
村長娘「…だ、だって、あいつ…何度も身体張ってあたしを助けてくれたし…」
村長娘「頭は悪そうだけど、そこが放っとけないっていうか…」
村長娘「なんかこう、今までに会った事のないような類の奴で…」
巫女「…」ニヤニヤ
村長娘「その顔やめておくれ!」カアアーッ
508: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:39:21 ID:JtRs1/PrKY
巫女「娘さん、可愛いですね」
村長娘「いい加減怒るよ?巫女様!」
巫女「いいじゃないですか、素敵な事です」
村長娘「…」
村長娘「…駄目だろ、あたしなんかじゃ」
巫女「?」
村長娘「だって…こんながさつな性格だしさ」
村長娘「すぐ余計なこと言うし、すぐ怒るし…」
村長娘「握り飯すら作ったことないし、それに…」チラッ
巫女「?」
村長娘「…巫女様みたいに胸もでっかくないし」
巫女「!?」カアッ
村長娘「何を食ったらそんなでっかくなんのさ」
巫女「し、知りませんよ!」
村長娘「ちょっと教えてよ!というか触らせてよ!」ザバッ
巫女「待っ…触る必要ないでしょ!やめてー!」
キャーキャー!
ザバザバッ!
山神「…平和ねー」ホノボノ
509: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:39:47 ID:JtRs1/PrKY
山神(……)
山神(…ねぇ、あなたなの?巫女を助けてくれたのは…)
山神(どこかにいるの?)
山神(いるなら答えてくれないかしら)
山神(…)
山神(……)
山神(…そんなはずないわよね)
山神(そんな…はず……)
ドクンッ!!
山神「っ!?」
山神(…この気配…まさか…)
山神「…」チラッ
キャハハッ!アハハッ!
山神「……」
山神(…この子たちを巻き込むわけにはいかないわね)
ザバッ
510: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:40:21 ID:JtRs1/PrKY
・・・・・
511: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:41:08 ID:JtRs1/PrKY
村長娘「いや〜、あったまったねぇ!」
巫女「確かにすごく温まりましたけど…」
巫女(あの後、滅茶苦茶胸を揉まれた…)
村長娘「ところで、巫女様たちはいつ出発するんだい?」
巫女「朝になったら発ちます」
村長娘「なんだい、もっといてくれればいいのに」
巫女「う〜ん、結構長くお社を空けてるので…」
村長娘「そっかそっか。寂しくなるね」
巫女「また来れますよ。山神様がいればすぐです」
村長娘「来てくれるかい?じゃあまたここにも入りに来よう」
巫女「はい!」
巫女「…無理やり脱がせたりしなければ」ブスッ
村長娘「だから悪かったってば」
巫女「冗談ですよ」ケラケラ
村長娘「まったく…」
512: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:41:55 ID:JtRs1/PrKY
巫女「娘さん」
村長娘「なんだい?」
巫女「娘さんの性格なんて下っ端さんはちゃんと分かってくれてます」
村長娘「…」
巫女「料理だってこれから練習すればいいし、大丈夫」
巫女「自信持ってください」
村長娘「…へへっ」
村長娘「ありがとうね、巫女様」
巫女「偉そうな事言ってごめんなさい」
村長娘「胸に関しちゃどうにもならないかい?」
巫女「もーっ!そればっかり!」
村長娘「あはは!」
村長娘「…そうだね。あいつとも、もっといろいろ話してみる」
村長娘「なるようになるだろうさ。そうだろ?」
巫女「その調子です」
村長娘「へへっ。ん?ところで山神様はどこ行ったんだい?」
巫女「まあ、いつの間にかいない事も時々ありますから。大丈夫ですよ」
村長娘「ふ〜ん、そんならいいけどね」
513: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:07:51 ID:pOT2UyvBR6
村長娘「ふぅ、村に着いた」
巫女「すっかり真夜中になっちゃいましたね」
村長娘「早く帰らないと」
巫女「そういえば、村長さんにはちゃんと許可をもらってきたんですか?」
村長娘「ん?黙って出てきたけど?」
巫女「えっ」
村長娘「こんな時間に出かける許可が出るわけないじゃないか」
巫女「それはそうですけど…心配かけちゃいますよ?」
村長娘「ま、皆寝てるだろうし気付かれないさ」
巫女「だといいですけど…」
「確かに村長には気付かれちゃいねえみたいだな」
巫女・村長娘「!?」ビクッ
下っ端「ったく、眠れねえのは俺だけじゃなかったとは」ザッ
巫女「下っ端さん」
下っ端「女二人で出歩く時間じゃねえだろ。何してたんだよ」
村長娘「い、いいだろ別に。関係ないじゃないか…」
下っ端「ま、確かに別にいいけどな」
村長娘「っ…」
514: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:08:27 ID:pOT2UyvBR6
村長娘「あ、あんたこそ何してるのさ」
下っ端「今言っただろ。俺も眠れねえから散歩だよ」
村長娘「そうかい…」
下っ端「ほら、さっさと戻んねえと騒ぎになっても知らねえぞ?」
村長娘「そ、そうだね。じゃあ巫女様、行こうか」
巫女「…」
巫女「…あっ、下っ端さん!娘さんを家まで送ってあげてください!」
下っ端「は?」
村長娘「えっ」
巫女「私、ちょっと用があるので急いで寝床に戻らなきゃ…お願いしますね!」
村長娘「ちょ…!」
巫女「ではおやすみなさい〜!」ピュー
村長娘「み、巫女様〜!」
村長娘「…」ポカーン
下っ端「…おい」
村長娘「わっ、な、なんだい!?」
下っ端「早く行くぞ。それとも一人で帰るか?」
村長娘「…い、いや、その…一緒に来ておくれ」
下っ端「おう」
コソッ
巫女(娘さん…頑張って!)
515: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:09:02 ID:pOT2UyvBR6
ザッザッ…
村長娘「…」
下っ端「…」
村長娘(…あんな話をした後だから、気まずいったらありゃしないよ)
村長娘(まったく巫女様…気を遣うにしても時と場合ってものを…)
下っ端「なあ」
村長娘「へぁっ?」ビクッ
下っ端「…なんだよその声」
村長娘「あ、うん…なんだい?」
下っ端「お前にしちゃ、やけに静かじゃねえか」
村長娘「いや、その…ね、眠いんだよ」
下っ端「子どもか」
村長娘「わ、悪かったね!」
下っ端「ほれ、着いたぞ。さっさと寝床に行け」
村長娘「はいはい!じゃあねっ!」ズカズカ
村長娘(あ〜っ、やっぱ駄目だあたし…)
下っ端「…おい」
村長娘「な、なんだい?」
下っ端「…ありがとよ」
村長娘「?」
516: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:09:40 ID:pOT2UyvBR6
下っ端「さっき、お前のおかげでこの村にいれるようになっただろ」
村長娘「ああ…だってあたしがあんたを無理やりここに引っ張ってきたようなもんだし…」
下っ端「それに、神様に裁かれそうになった時もそうだし…お前に助けられてばっかりだった」
村長娘「…」
下っ端「借りを作ってばっかだ。いつか返さねえとな」
村長娘「そんな、あたしだって…あんたに助けられただろ」
下っ端「ん?そうだったっけ?」
村長娘「あんたがあたしら抱えて走ったから、生き埋めにならずに済んだんじゃないか」
下っ端「ああ、そんな事もあったな。ははは」
村長娘「…でも、何か返してくれるっていうならさ」
下っ端「ん?」
村長娘「明日、釣りに付き合ってくれないかい?」
下っ端「は?釣り?」
村長娘「あたしはどうしても釣り上げたい奴が海にいるんだよ」
村長娘「だから…その、あんたにも何かと手伝ってほしくってさ」
下っ端「…」
517: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:10:16 ID:pOT2UyvBR6
村長娘「嫌ならいいんだけどさ!退屈かもしれないし…」
下っ端「おう、いいぞ」
村長娘「へ?」
下っ端「いや、俺ここで何でも挑戦してみるって決めたんだ」
下っ端「釣りだってやってみてえし…もしかしたらすげえ得意かもしれねえだろ」
村長娘「あんた…」
下っ端「お前が洞窟で言ってた、やりたい事ってこれか?」
村長娘「…」コクン
下っ端「へっ、いいじゃねえか」
村長娘「へへっ」
下っ端「俺が先に釣り上げちまっても恨むなよ?」
村長娘「調子になるな!あたしが先だよ!」
下っ端「はっはっは」
村長娘「あははっ」
下っ端「…じゃあ明日、さっそく行ってみるか」
村長娘「うん…うん!」
下っ端「決まり。また明日な」
村長娘「うん、また明日」
518: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:11:10 ID:pOT2UyvBR6
巫女「…」
巫女(う〜ん、さすがに声は聞こえないけど…)
巫女(なんだか良い雰囲気な気がする!)
巫女(まったく、娘さんももっと素直になったらいいのに…)
巫女(…)
巫女(…山神様、明日には戻ってくるよね)
巫女(そしたらこの村を出発して…お社に戻って…)
巫女(もっと巫女の仕事頑張らなきゃ。胸を張って山神様に仕えられるように)
巫女(ふふっ。また明日からも楽しみ…)
オオオ…
巫女「?」
………
巫女「…?」
巫女(鳴き声が聞こえた気がしたけど…気のせいかな)
巫女(狼さんの遠吠えか何かだよね…?)
巫女「んっ…ふぁ〜ぁ…」
巫女(もう寝よ…)
スタスタ…
グルルル…
519: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:11:44 ID:pOT2UyvBR6
・・・・・・・・翌朝
520: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:12:18 ID:pOT2UyvBR6
チュンチュン…
巫女「…」
巫女(…山神様、戻ってない)ズーン…
巫女(どうしよう…やっぱり何かあったのかな…)
巫女(とにかく、辺りを探しに行ってみないと…)
ザワザワザワ…
巫女「?」
巫女(外が騒がしい。どうしたんだろう?)
ダカラオレジャネエッテ!
ダマレ!スベテワカッテオルノジャ!
巫女「!」
巫女(下っ端さんと村長さんの声!)
巫女(何かあったんだ!)スクッ
タタタッ
521: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:24:30 ID:Kfys1FS8Ww
村民たち「…」ズラッ
下っ端「俺は何も知らねえよ!」
村長「此の期に及んで見苦しいぞ!」
村長娘「だからお父!この人は…」
村長「お前は黙っておれ!」
タタッ
巫女「はぁ、はぁ…」
村長娘「み、巫女様!」
巫女「ど、どうしたんですか…?下っ端さんを取り囲んで…」
村長「おお、巫女様。聞いてくだされ」
村長「朝起きたら食料庫に残っていた僅かな食料がごっそりと無くなっていたのですじゃ」
巫女「えっ…」
村長「昨日、山賊どもに盗られまいと隠していた分ですじゃ。奴らがいなくなって安心していたところに…」ギロッ
下っ端「…」
巫女「で、でも、下っ端さんが盗んだ証なんて…」
村長「昨日の夜、こやつが食料庫の辺りを彷徨いていたのを村民が目撃しております」
巫女「!」
下っ端「だからそりゃ、散歩がてらこの村のどこに何があるか見て回ってただけだって…」
村長「そのような言い訳が通るか!」
522: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:24:59 ID:Kfys1FS8Ww
村長娘「ねぇ、待ってってばお父!この人はゆうべは私と一緒にいたんだよ!」
村長「なに?」
巫女「あっ…」
村長娘「昨日、ちょっと眠れなくてさ…外を散歩してたら下っ端と会って…」
村長娘「それからあたしが寝床に戻るまで、ずっと一緒にいたんだよ!」
村長娘「その時も怪しい様子なかったし…この人は咎人じゃないよ!」
村長「ふむ……」
村長「今の話、本当じゃな?」
村長娘「本当だよ!だから…」
パシンッ!
村長娘「痛っ…」ヨロッ
村長「この馬鹿娘が!お前は昨日、命の危険に晒されたのじゃぞ!?」
村長「それなのに、また自分から危険な目に遭おうとするなど…何を考えておる!」
村長娘「…うっ」
村長「儂や村民たちの気も知らずそのような真似をするなど!恥を知れ!」
村長娘「…うぅ…っ!」タタッ
巫女「む、娘さん!」
523: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:25:28 ID:Kfys1FS8Ww
村長「…それに、娘と別れた後もこやつは村内をうろついていた事になる。充分に怪しいわい」
下っ端「…」
村長「盗んだものの在り処を吐くまで、納屋にでも閉じ込めておけ」
村民「おう!」ガシッ
下っ端「くそっ、離せよ!いてえな!」ズルズル…
「…なんか怪しいと思ってたのよね、あの人…」ヒソヒソ
「…やっぱ余所者なんか入れるべきじゃなかったんだ…」ヒソヒソ
巫女「…っ」
巫女「そ、村長さん!」
村長「はい、何ですかな巫女様」
巫女「私も昨夜、娘さんと一緒に下っ端さんといました」
村長「なんと」
巫女「すみません。止めていれば良かったのですが…」
巫女「でも私から見ても、下っ端さんは怪しい素ぶりなんて…」
村長「巫女様」
巫女「…?」
村長「あなたはこの村を…娘を救ってくださった。感謝のしようもない」
村長「…しかし、この件はこの村の中の事ですじゃ」
巫女「!」
524: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:25:54 ID:Kfys1FS8Ww
村長「娘を止めてくださらなかった事は不問とします」
村長「故に…それ以上の庇い立ては無用ですじゃ」
巫女「う…」
村長「巫女様は今日発ちなさると言ってましたな」
巫女「はぁ…でも…」
村長「大したもてなしもできず、申し訳ない。では後ほど」ペコッ
スタスタ…
巫女「……」ポカーン
巫女(…あれって…首を突っ込むなってこと…だよね?)
巫女(まあ…私も所詮、余所者だしね…)
巫女(余所者…かぁ)ショボン
巫女(山神様も探さなきゃいけないし、まだ出ていける状況じゃないのに…)
巫女(あ、でもその前に…ちょっとだけ食料庫を見ていこうかな)
巫女(何か下っ端さんの疑いを晴らす物があるかもしれないし…)
525: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:26:19 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「…」ザッ
巫女(…う〜ん、何もない)
巫女(確かに中は空っぽだし…あんまり荒らされた感じもしないし…)
巫女(でも、下っ端さんに限ってそんな…)
ガッ
巫女「えっ」
ステンッ!
巫女「わっ!」ドサッ
巫女「いたた…も〜、石に蹴躓くなんて……え?」
キラッ
巫女「…?」ヒョイッ
巫女(…これ、石じゃない…よね?)
巫女(綺麗…貝殻の片割れ?でも何か違うような…)
巫女(手がかりかな?これ)
巫女(これが何か分かればいいけど…村の人に聞いたら怪しまれそうだし…)
巫女(あ〜、山神様がいれば聞けるのに!)
巫女(……そっか。一か八か!)
タタッ
526: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:26:44 ID:Kfys1FS8Ww
ザザーン…
巫女「…はぁ、はぁ」
巫女「海神様ーっ!」
巫女「海神様、いませんかー!?」
ザザー…ン…
巫女「…」
巫女「そんな都合よく、出てきてくれないか…」シュン
巫女「…あれっ?」
ザパーン…
村長娘「…」
巫女(あっちの岩場にいるの、娘さんだ…)
巫女(良かった!何か知ってるかも!)タタッ
巫女「娘さーん!」
村長娘「…巫女様……」グスッ
巫女「!」
村長娘「…」
巫女「…隣、いいですか?」
村長娘「…いいよ」
527: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:27:14 ID:Kfys1FS8Ww
ザパーン
巫女「…」
村長娘「…」
巫女「あの、娘さん…」
村長娘「…昨日さ」
巫女「?」
村長娘「あの後、下っ端と約束したんだよ」
巫女「何をですか?」
村長娘「今日、一緒に釣りに行こうって」
巫女「!」
村長娘「あたしの趣味にあいつも付き合うって、そう言ってくれたんだ」
村長娘「だから楽しみでさ、夜更かししたくせにすごい早起きして準備して…」
巫女「…」
村長娘「…それなのに」
村長娘「こんな事に…なっちまうなんて…」
巫女「…」
村長娘「なんでだよ…悔しいよ…巫女様…」グズッ
巫女「娘さん…」
528: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:27:38 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「…大丈夫ですよ、娘さん」
村長娘「…?」
巫女「下っ端さんが泥棒だなんて、私は信じてないです」
巫女「娘さんだって下っ端さんがやったなんて思ってないでしょ?」
村長娘「そりゃ…そうだけどさ…」
巫女「下っ端さんの疑いを晴らすために、盗んだ張本人を探し出しましょう!」
巫女「そうすれば村の皆さんも分かってくれますよ!」
村長娘「……」
村長娘「…そうだね巫女様。泣いてる場合じゃなかった」グシッ
村長娘「あたしらがやるしかないね」
巫女「はい!」
村長娘「よ〜し、こうなりゃまた一つあいつに貸しを作ってやろう!」
巫女「その意気です!」
村長娘「でも、どうやってさ?手がかりとかあるのかい?」
巫女「え〜っと、それなんですけど…」ゴソッ
巫女「これって何か分かります?」
村長娘「ん?」
529: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:28:10 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「食料庫の近くに落ちてたんです」
巫女「やっぱり貝殻ですか?これ…」
村長娘「…」ジーッ
村長娘「こんな色合いの貝殻、この辺じゃ見ないね」
村長娘「というか多分貝殻じゃないよこれ」
巫女「えっ」
村長娘「まあ何なのかと言われりゃ分からないけどさ…」
巫女「う〜ん…」
村長娘「山神様なら分かるんじゃないのかい?」
巫女「それが…山神様も戻ってなくて…」
村長娘「えっ、そうなのかい?」
巫女「はい。朝になったら戻ってくると思ってたんですけど…」
村長娘「そっちも心配だねぇ」
巫女「本当に、どこ行っちゃったのかなぁ…」
村長娘「どこか心当たりはないのかい?」
巫女「ないですけど……あっ、そういえば」
村長娘「?」
530: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:28:48 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「昨日の夜、山の方から何かの唸り声が聞こえたんです。娘さんも聞こえませんでした?」
村長娘「唸り声だって?あたしは聞こえなかったけど…」
巫女「あれ?けっこう響く声だったんだけどなぁ…」
巫女「ちょっと不気味な声だったから…気にはなります」
村長娘「山神様と関係ありそう?」
巫女「初めて聞く声でしたから…分からないです」
村長娘「う〜ん。ま、とにかく山の方へ行ってみるかい?」
巫女「あ、でも村長さんに心配されるかもしれないし、娘さんは村に戻った方が…」
村長娘「ああ、いいんだよ。お父の鼻先に咎人を突き付けてやるまでは帰らないさ」フンス
巫女(…意外とさっき叩かれたこと、根に持ってるんだなぁ)
村長娘「さあ、行くよ巫女様!」
巫女「えっ、あ、はい!」
タタッ
531: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:12:00 ID:gto83BY32.
・・・・・・
532: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:12:47 ID:gto83BY32.
村長娘「…で、山の中腹まで来たわけだけど」
巫女「なんですか、これ…!?」
ブス…ブス…
ガララッ…
巫女「一面焼け野原じゃないですか…」
村長娘「でも昨日は雷もないし、誰がこんな事したんだい!?」
巫女「…」
村長娘「まったく、村まで火が来てたらどうなっていたか…」ブツブツ
巫女「…昨日の唸り声が何か関係しているんでしょうか」
村長娘「へ?」
巫女「だって、声はこの方角から聞こえましたし…」
村長娘「う〜ん…じゃあ何の声だったっていうのさ?」
村長娘「火を放つ化け物でもいるのかい?」
巫女「いえ…それは分からないですけど…」
村長娘「まさか、山神様が…なんてことはないよね?」
巫女「や、山神様がこんな事するはずありません!」
村長娘「!」
巫女「あっ…すみません。大声出しちゃって…」
村長娘「い、いや…」
パキッ…
巫女・村長娘「!」ビクッ
533: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:13:16 ID:gto83BY32.
海神「…お、遅かったかの」ヨロッ
村長娘「あれ!?昨日の爺さん!?」
巫女「海神様!」
海神「お前たちか…」
巫女「ひどい怪我…どうしたんですか!?」
海神「この程度…大事ないわい。それより…」
村長娘「?」
海神「お前たち…ここで何か見なかったか?」
巫女「な、何か…とは?」
海神「…ふむ。その様子なら大丈夫そうじゃな」
巫女「あ、あの、海神様!」
海神「なんじゃ?儂は急いでおるのじゃ」
巫女「山神様が昨夜からいなくなったんです。何か知りませんか?」
海神「……」
海神「…娘っ子」
巫女「はい」
海神「これは神の領域の話となる故、詳しくは話せぬが…」
海神「山神はもう戻らぬ」
巫女「えっ…」
534: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:13:43 ID:gto83BY32.
村長娘「も、戻らないって…?」
海神「今言った通りじゃ」
海神「おぬしは全てを忘れ、元いた場所に帰るがよい」
巫女「そんな…どういうことです!?」
海神「詳しくは話せぬと言ったであろう」
巫女「そ、そんなの納得できるわけないじゃないですか!」
海神「酷なのは分かっておる。しかし、おぬしにはどうにもならぬ事じゃ」
巫女「どうにもならなくても…何があったのかぐらい…!」
海神「やかましい娘じゃ。教えられぬものは教えられぬ」
巫女「じゃ、じゃあ私だって帰る気はありません!」
巫女「何があったのか、自分で調べますから!」
海神「そうはさせぬ」スッ
巫女「!?」
海神「安心せい。儂の術でおぬしの村へ戻してやるわい」
海神「ここから一人で帰れる距離ではあるまい。特別じゃぞ」
村長娘「ちょっと!待っておくれよ!」
海神「迂闊に手を出すと命の保証はないぞ。転移は繊細な術なのでな」
村長娘「っ!」
海神「それではさらばじゃ。娘っ子よ」バッ
バシュンッ!
巫女「きゃああっ!?」
村長娘「巫女様ぁぁぁっ!!」
535: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:14:13 ID:gto83BY32.
・・・・・・
536: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:14:43 ID:gto83BY32.
オオオオ…
巫女「……」
村長娘「……」
海神「……?」
巫女「…え?」
巫女(な、何も起きてない…よね?)
海神「なんじゃと…儂の神力が効かぬはずが…はっ!」バシュッ
巫女「…」シーン
村長娘「な、なんだ!ただの見せかけかい!」
海神「馬鹿な!そんなはずは…!」
巫女「…海神様」
海神「む!?」
巫女「私はまだ帰るわけにはいきません」
巫女「私は山神様の巫女です。主に何かあったと分かったなら…」
巫女「それを見過ごす事なんてできないからです」
海神「…」
巫女「山神様の事、どうしても話せないというのであれば、話さなくてもいいです」
巫女「でも、私は私にできる事を精一杯やります」
巫女「邪魔だてはしないでもらっていいですか?」
海神「…」
海神「…ふん。人間の小娘が生意気な」
海神「どうしてあやつの周りには…そういう人間ばかり集まるのじゃろうな」
巫女「?」
537: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:15:15 ID:gto83BY32.
海神「どうやら言っても無駄のようじゃ。何故か実力行使もできぬようじゃし」
海神「勝手にするがよいわい。儂は行くぞ」バッ
ヒュッ!
村長娘「うわっ…!」
村長娘「き、消えた…」
巫女「…」
村長娘「み、巫女様、本当に大丈夫かい…?」
巫女「はぁぁ〜…」ヘタッ
村長娘「巫女様!?」アセッ
巫女「こ、怖かった〜…」
村長娘「へ?」
巫女「わ、私、とんでもない事言ってませんでした!?言ってましたよね!?」
巫女「どうしよう…罰が当たっちゃうぅ…」
村長娘「…ぷっ、あはははっ!」
巫女「な、なんで笑うんですか!」
村長娘「いやあ、あれだけ堂々と啖呵切ってたのに、巫女様は巫女様だなあって思ってさ」
巫女「それ、馬鹿にしてますよね!」
村長娘「あはは、違うよ!」
巫女「…でも言いたい事、言えました」
村長娘「?」
巫女「少しは娘さんみたいになれましたかね?」
村長娘「あはは、そうかもねえ」
538: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:15:39 ID:gto83BY32.
巫女「…とはいえ、手がかりがなくなっちゃいましたね」
村長娘「う〜ん、ひとまず状況を整理すると…」
村長娘「山神様に何かあったけど、海神様は教えてくれなかった」
巫女「この焼け野原もあの海神様の様子からして…山神様が関わってますかね」
村長娘「巫女様が効いた唸り声も…山神様のものかもしれないね」
巫女「でも結局、食料泥棒の件はまだ何も…あっ、この貝殻の事、聞けばよかったな」
村長娘「嵐みたいに消えちゃったからね、海神様」
巫女「とにかく現状は…」
村長娘「特に進展なし!」
巫女・村長娘「はぁ〜〜…」タメイキ
村長娘「…ま、とにかくここにいても仕方ないね」
巫女「いったん村の方へ戻りましょうか。下っ端さんの様子も気になりますし」
村長娘「声かけてやりたいけど…多分あいつは見張られてるんじゃないかなあ」
巫女「私や娘さんは近付かせてもらえなさそうですもんね…」
村長娘「う〜ん…弱ったね」
巫女「…あっ、そうだ」
村長娘「うん?」
巫女「上手くいくか分かりませんけど…手はあるかも」
村長娘「へえ?どんな感じだい?」
巫女「ええと、まず私が………」
村長娘「ふんふん………」
539: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:16:01 ID:gto83BY32.
・・・・・・
540: 名無しさん@読者の声:2019/10/28(月) 15:23:01 ID:fgE2swnXpo
支援!!
541: 名無しさん@読者の声:2019/11/26(火) 23:51:11 ID:Ulgjh/Ikt2
いったいどんな手を打っているのか……支援です!
542: あけおめです! ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:04:33 ID:nKTBMTJn/s
ー村長娘の村、納屋ー
543: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:05:24 ID:nKTBMTJn/s
見張り壱「おい、いい加減隠し場所を言ったらどうだ?」
見張り弐「そうだ。そうすりゃそこから出してもいいって言われてるんだ」
下っ端「はっ、盗ってもいねえ物の隠し場所なんざ知るかよ」
見張り壱「ったく…強情な奴だ」
下っ端「あんたらこそ、そこでずっと見張ってんのも退屈だろ?」
下っ端「逃げれやしねえからどっか行けよ」
見張り壱「そうはいくか。村長の命令だ」
見張り弐「それで万一お前に逃げられたら俺たちの肩身が狭くなる」
下っ端「…そうかよ」
下っ端(くそっ、きつく縛り付けやがって)ギシッ
下っ端(だが、いつまでもここにいるのも退屈だしな)
下っ端(縄抜けくらいはできそうだが…)
544: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:06:00 ID:nKTBMTJn/s
下っ端(幸いここは納屋。そこらにある農具を使えば外の二人くらい…)
下っ端(そんでこんなとこ、もうおさらばだ)
下っ端(…でも)
下っ端(その後はどうするか)
下っ端(また行く当てもない無法者人生の始まりか)
下っ端(やっぱ俺には向いてなかったんだ)
下っ端(人の集まりの中で暮らすなんてことは…)
『明日、釣りに付き合ってくれないかい?』
下っ端(……)
下っ端(…あいつには、悪いことしちまったな)
「たっ、たっ、大変です〜!」
下っ端「ん?」
下っ端(外が騒がしいな。あの声は…)
見張り壱「あれは…」
見張り弐「巫女様だな。あんな急いでどうしたんだ?」
545: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:06:27 ID:nKTBMTJn/s
巫女「はあ、はあ…」
見張り壱「巫女様、どうしました?」
巫女「大変です…!く、熊さんが…大きな熊さんがすぐそこに…!」
巫女「む、村の方に向かっているように見えたので…知らせないとと思って…!」
見張り壱「なんだって!?」
見張り弐「おいおい、今は皆漁に出てて人手が…」
見張り壱「と、とりあえず様子を見に行こうぜ。村まで来ちまったら一大事だ」
見張り弐「お、おう。そうだな…」
巫女「こっちです!お二人とも来てください!」
見張り壱「わ、分かりました。よし、お前行ってこい」
見張り弐「は?お前が行ってきてくれよ!」
見張り壱「俺はここから離れられないし」
見張り弐「俺もだよ!」
巫女「あ〜もう、村の一大事ですよ!お二人とも一緒に!」グイグイ
見張り壱「あ、ちょっ、巫女様!」
見張り弐「分かりましたって!行くからそんな押さないでくださいよ!」
タッタッタ…
546: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:06:58 ID:nKTBMTJn/s
シーン…
下っ端「…」
下っ端(おお…本当に二人とも行ったみたいだな)
下っ端(こりゃあいい。逃げ出す絶好の機会だぜ!)
下っ端(さて、さっさとこいつをほどいて…)ゴソゴソ
ガララッ
下っ端「っ!」ビクッ
下っ端(ちっ、もう戻って来やがったのか…?)
村長娘「お〜い、下っ端。生きてるかい?」ヒョコッ
下っ端「…なんだ、お前かよ」
村長娘「なんだい、元気そうだね」
下っ端「元気なわけあるかよ。こんな埃くせえ所に閉じ込めやがって…」
下っ端「それよかさっきの巫女が言ってた熊がどうのこうのって…やっぱお前の差し金か」
村長娘「まあ案を出したのは巫女様だけどね」
村長娘「この時間は村の見張りも手薄だし、巫女様の言う事なら皆信じるだろうしさ」
下っ端「へっ、悪知恵が働くこった」
下っ端「さて、ちょうどいい。こいつをさっさと解いてくれ。意外と頑丈でよ…」
村長娘「えっ、嫌だけど」
下っ端「はあ!?」
547: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:07:34 ID:nKTBMTJn/s
村長娘「別にあんたを逃がすためにここに来たわけじゃないよ」
下っ端「じゃあ何しに来やがった?まさか、俺を嘲笑いに来たとでも…」
村長娘「そうだけど」
下っ端「てめえ…!」イラッ
村長娘「あはは、嘘だよ!あんたに言っときたい事があるんだ」
下っ端「な、なんだよ」
村長娘「食料泥棒は絶対あたしらが見つけて、お父の前に引きずり出す」
村長娘「だからあんたはそれまで大人しくここで待ってろ…ってさ」
下っ端「なに…?」
村長娘「あんた、ここから逃げ出そうとしてるだろ?」
下っ端「そりゃそうだろ」
村長娘「そんな事したら、自分は泥棒ですって言うようなもんだよ」
村長娘「もう村にいられなくなるじゃないか」
下っ端「…」
村長娘「盗っ人を探し出して、お父に頭下げさせてやるよ」
村長娘「大した証も無いのに疑ってすみませんでした、ってさ!」
村長娘「そうすりゃ、全て元通りに…」
下っ端「…めでてえ奴だ」
村長娘「ん?」
548: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:08:03 ID:nKTBMTJn/s
下っ端「お前、なんも分かっちゃいねえな」
村長娘「!?」
下っ端「まず、俺の気持ちを無視するな」
村長娘「うっ」
下っ端「村長が俺に謝ったところで、俺が許す気になるか分からねえ」
下っ端「…まあ、これに関しちゃその時の対応次第だがな」
村長娘「それは…まあ、そうだろうけどさ」
下っ端「あとな、こんな大事になっちまったんだ」
下っ端「仮に俺の無実が証明されたとしても…この村にはいれねえ」
下っ端「気まずいったらありゃしねえしな」
村長娘「…」
下っ端「それとな」
村長娘「な、なんだい…」
下っ端「お前たちに咎人が見つけられるはずねえだろ」
下っ端「食いもん盗んだ奴がまだこの辺うろうろしてるっていうのか?」
村長娘「それは…分からないじゃないか」
下っ端「分かるよ。俺は悪名高き元・山賊だぜ?」
下っ端「残念だが…盗っ人の気持ちはお前より分かってる」
村長娘「…」
549: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:08:44 ID:nKTBMTJn/s
下っ端「咎人が見つかろうが見つからなかろうが…どう転んでももうおしまいだよ」
下っ端「だからお前もおかしな事考えるな。大人しく俺をここから…」
村長娘「嫌だね!」
下っ端「!」
村長娘「なんでそんな事ばっかり言うのさ!」
村長娘「あんた、何も悪い事してないんだろ!?だったらうじうじしてるんじゃないよ!」
下っ端「うじうじって…俺は今後のことも考えてだな…!」
村長娘「うるさいうるさい!」
下っ端「ああ!?」
村長娘「あんたが何て言おうと、あたしはあんたの無実を証明する!」
村長娘「その後のことは、その後考えればいいんだよ!」
下っ端「てめえ…他人事だと思って簡単に言うんじゃねえ!」
下っ端「ここを追い出されたら、もう俺の居場所なんて…」
村長娘「あるよ!他の所にだってある!」
550: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:10:56 ID:nKTBMTJn/s
村長娘「村はここだけじゃない!それに、あたしだってあんたの味方だ!」
下っ端「は!?てめえはここの奴だろうが!」
村長娘「いいよ!あんたがここを追い出されたら、あたしも一緒にここを出てく!」
下っ端「なっ!?」
下っ端「滅茶苦茶言ってんじゃねえ!そんな事してどうなるってんだ!?」
村長娘「あんたについてって、新しい所で暮らしていけるよう協力してやるさ!」
村長娘「夫婦のふりでもすりゃ、受け入れてもらいやすそうだろ!」
下っ端「はあ…?」
村長娘「…ん?」
村長娘(…なんかあたし、勢いですごい事言わなかった?)
村長娘「あ、あの、だからさ、そんな心配するなって事だよ!」アセアセッ
村長娘「これであんたの人生おしまいみたいな言い方…しないでおくれよ。頼むから…」
下っ端「…」
村長娘「あたしが何とかするよ…だから、諦めないでよ」
下っ端「……」
551: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:11:32 ID:nKTBMTJn/s
村長娘「じゃ、じゃあ行くからね!あんたが何と言おうと…」
下っ端「……してねえ」ボソッ
村長娘「えっ?」
下っ端「返してねえって言ったんだ。お前からの借り」
下っ端「釣りに行くって約束しただろ」
村長娘「!」
下っ端「…こちとら今日は早起きして準備してたんだ。眠くてしょうがねえ」
下っ端「さっさとここから出て、一緒に行こうぜ」
村長娘「下っ端…!」
下っ端「お前はやるって言ったら止まらねえ。この短い付き合いでも分かる」
下っ端「…すまねえな。苦労かけちまってよ」
村長娘「水臭いね」
下っ端「あてはあんのか?」
村長娘「ないさ。でも、何とかする」
下っ端「へっ、頼もしいこったな」
村長娘「信じてくれる気になったかい?」
下っ端「…ふん、少しくらい待っててやらあ」
552: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:12:24 ID:nKTBMTJn/s
村長娘「じゃあ、あたしが戻るまでくたばるんじゃないよ」
下っ端「せいぜい頑張るさ」
村長娘(さて、まずは巫女様と合流して…)ザッザッ
下っ端「…おい」
村長娘「?」ピタッ
下っ端「…さ、さっきの提案だけどな…」
村長娘「提案?」
下っ端「俺がここにいられなくなったらの話だよ」
村長娘「っ!あ、いやっ、あれは、その…!」アセッ
下っ端「…わ、悪くねえ」
村長娘「へっ?」
下っ端「と思ってな。うん、それだけだ」
村長娘「…」ポカーン
下っ端「…何呆けてんだよ。早く行けっての」
村長娘「あ、ああ、うん…それじゃ…」ピシャッ
村長娘「……」
村長娘(…え〜っと、どういう事だい?)
村長娘(あたしと夫婦のふりするのが悪くないって事かい?)
村長娘(そ、それじゃ…まるで…)カアア
村長娘(…う、浮かれてる場合じゃない!今はやれる事をやらなきゃだ!)パンッ
村長娘(…で、でも悪くないって…)
村長娘(うわぁぁ…)グルグル
ザッザッ
下っ端「…」
下っ端(…はっ、馬鹿みてえだな、俺)
553: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:12:57 ID:nKTBMTJn/s
その頃、巫女と見張り役たちは…
554: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:30:12 ID:6px2x/JxmQ
巫女「はぁ…はぁ…!」タタタッ
見張り壱「み、巫女様!ずいぶん走ってるが熊はどこに…?」タタタッ
巫女「え〜っと、たしかこの辺りで…」
巫女(まあ嘘なんだけど)
見張り弐「いねえって事は、どっかに行っちまったんじゃねえですか?」ハアハア
巫女「そうかもしれません…」
巫女(そろそろ娘さんも下っ端さんと話せただろうし…)
見張り壱「ま、何にせよ村から離れてくれたならよかった」
巫女「そうですね。すみません、お騒がせしました」ペコッ
見張り壱「いやいや、警戒するに越したことは…」
ガサガサッ
巫女「?」
見張り弐「なんだぁ?あっちの茂みで何か…」
巫女(えっ、ま、まさか…)
ガサガサガサッ!
ズシン…!
熊「グルルル…」
巫女・見張りたち「「「出たああぁぁぁーっ!!」」」
熊「グオオオオッ!!」
555: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:30:39 ID:6px2x/JxmQ
見張り弐「まだいやがったか…!」
巫女「そ、そんな…」
巫女(ほ、本当に出くわすなんて…)
見張り弐「こ、ここはいったん逃げ…」
見張り壱「駄目だ!背を向けて逃げると余計に追いかけてくるぞ!」
見張り弐「おっとっと…そ、そうだった…!」
巫女(そうだ、たしか昔教わった。後ずさりするんだっけ…)
巫女「…」ソロリソロリ…
ガッ
巫女「あっ…」ヨロッ
ドサッ!
熊「!」クルッ
巫女「うぅ…」
巫女(い、石につまずいた…)
見張りたち「み、巫女様!危ない!」
巫女「え…?」
熊「グルルル…!」ズンズン…!
巫女(こ、こっちに来る…!?)
556: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:31:06 ID:6px2x/JxmQ
熊「グオオッ!!」ドドドッ!
巫女「ひっ…!」
巫女「こ、来ないでぇっ!!」
見張りたち「巫女様ぁっ!」
熊「ガアッ!!」バッ
巫女「きゃあああっっ!!」ギュッ
巫女(助けてっ!山神様!)
ヒュオオッ…!
ズズウウウン!!
557: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:31:31 ID:6px2x/JxmQ
巫女「………っ」
巫女「?」
巫女(…あれ……噛みついてこない…?)
巫女(そ、それに今の…何の音…?)
見張り「あ…あ…」
見張り「うわああ……なんだありゃあ…」
巫女「…?」パチッ
巫女「えっ!!?」
??「グルル…」
熊「ギャウン…ギャウン…!」ジタバタ
巫女(な、何?おっきな蛇さんに手足が生えてる…?)
巫女(しかも…あの熊さんを片手で持ち上げて…!?)
??「……」ジーッ
熊「ギャウウン…!」バタバタ
ポイッ!
熊「グオッ!?」
ドガアッ!!バキバキッ!!
熊「グ…オ……」
ドサッ
巫女「……」ポカーン
見張りたち「……」ポカーン
558: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:32:15 ID:6px2x/JxmQ
巫女(え、え〜っと…)
巫女(熊さんを放り投げて…木に叩きつけた…)
巫女(何なの?この生き物…)
見張り壱「うわああ…」
見張り弐「へ、蛇の化け物だぁぁぁっ!!」
??「!」ピクッ
見張り壱「お、お前!でけえ声出すから…!」
見張り弐「そ、そんな事言ったって…」
??「グウルル…」
ズン…!ズン…!
見張り弐「ひいっ!」ビクッ
??「ガアッ!!」
見張り弐「た、助けてくれぇっ!」
巫女「やめてっ!!」
??「!」ピクッ
見張り壱「み、巫女様…!?」
巫女「はぁ…はぁ…」
巫女「やめてください…山神様」
??「…」
559: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:33:05 ID:6px2x/JxmQ
巫女「…山神様、ですよね…?」
??「…」
巫女「返事をしてください!山神様!」
??「グオオッ!!」
巫女「ひっ…」
バッ!
海神「そこまでじゃ!」
バキイッ!!
??「オオオッ…!!」ヨロッ
海神「こやつ…ようやく見つけたわい!」
巫女「う、海神様!?」
海神「何をしとるか!お前たちはさっさと立ち去れい!」
巫女「で、でも…」
海神「死にたくなくば、全力で走れ!」
見張り壱・弐「巫女様!逃げましょう!」
巫女「…」
560: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:33:33 ID:6px2x/JxmQ
??「ギャオオッ!!」ゴオッ
海神「ほっ!」ヒョイッ
ズズウウン…!!
巫女「……」
巫女(確かにここにいると只では済まなそうだけど…)
巫女(でも…ここで逃げたら、本当の事が分からないままになっちゃう…!)
巫女(私のやるべきことは…ただ一つ!)ギュッ
巫女「私に構わず、お二人は先に逃げてください!」
見張り壱・弐「えっ!?」
海神「なっ…!?」
巫女「村の方々にも知らせてください!なるべくここから離れるようにと!」
見張り弐「で、でもよ…」
見張り壱「待て。巫女様の事だ、何かお考えなんだろう」
巫女「…はい」
見張り弐「そういう事なら…」
見張り壱「無事に帰ってきてください!」
タッタッタ…
561: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:34:04 ID:6px2x/JxmQ
海神「ふんぬっ!」ブン!
バキッ!
??「グガッ!?」
ズシーン…!
海神「まったく、何を考えておるのじゃおぬしは」
巫女「海神様こそ…その杖何でできてるんですか?」
海神「どうせ考えなどなかろう」
巫女「…流石神様です」
海神「儂の術がおぬしに効くのであれば無理やりにでもここから遠ざけるというに…」
巫女「海神様。あれは山神様…ですよね?」
海神「!」
??「グルル…」ズンッ
海神「…何故そう思う?」
巫女「山神様は、私が助けを求めるといつでも駆け付けてくださいました」
巫女「さっきそこの熊さんに襲われそうになった時も…山神様の事を呼んだんです」
巫女「そうしたら…あの蛇さんが現れました」
海神「…」
巫女「それに何となくですけど…さっき私の声に反応してくれたような気がします」
海神「なに?おぬしの声に…?」
562: 名無しさん@読者の声:2020/10/24(土) 10:27:31 ID:M4P1jWGw/A
続き、待ってます!
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