ーむか〜しむかし、とある場所で
181: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:46:00 ID:U19KvyG1Uc
「も、もう駄目だ!」
「天罰じゃ…この世の終わりじゃ…」
ゴゴゴゴゴ…!
神娘「村一つが無くなるわけだな…」
男「あれでは到底、逃げ場などありません」
村長「竜巻か…ならばこうしよう」
村長「皆の者、立ち上がれ!まだやるべき事が残っておる!」
「…!」
村長「以前に確認した手順で行う!我々の最期の仕事だ、急げえっ!」
「お…おおおっ!」
バタバタバタ…
村娘「な、何をなさるつもりなんでしょう…?」
神娘「分からん…」
男「皆さん麻縄や漬物石などを持ち寄っていますが…」
「村長!持てるだけの重しを持ち出しました!」
村長「よし、ではそれらで祠の周りを固めよ!」
村長「何としても、あの祠だけは我々が守るのだ!!」
神娘「なっ…!」
182: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:46:25 ID:U19KvyG1Uc
「よし、こことあの柱を縄で括り付けろ!」
「その石はこの場所に置け!」
村長「時間がないぞ!急ぐのだ!」
ドタドタドタッ
ビュオオオオオッ!!
ワーッ!ワーッ!
神娘「……っ」
ゴゴゴゴゴ…!
神娘「この……馬鹿どもがぁ!」
男「神様…」
神娘「そんなものはどうでもいい!早く逃げるのだ!」
村娘「神娘様…」ギュッ
神娘「うぐっ…もうそこに…迫っているというのに…っ」ポタポタ
神娘「償いなど…えぐっ…もう、いらぬから…っ」ポロポロ
神娘「逃げてくれ…っ。頼む……」
村長「…これで全てか」
「はい、やれるだけの事は…」
村長「…後は…天命を待つのみ…か」
オオオッ!!
183: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:47:26 ID:U19KvyG1Uc
ズガアアアアンッ!!
村娘「きゃああっ!」バッ
ガガガガガッ!!
男「うわっ…!」
ワーッ!ギャアアーッ!
神娘「……っ」
ズガガガガッ!!
ゴオオオオオッ!!
オオオオ…
……
…
184: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:48:10 ID:U19KvyG1Uc
…
……
………
神娘「……?」
神娘(…ふぅ。どうやら無傷なようだな)
神娘(とはいえ…)キョロキョロ
神娘(なんだここは?何もない、真っ白な空間だ)
神娘(あの二人もおらぬ。いったい…)
「…神娘様」
神娘「!」
神娘「…その声、やはりお前か」クルッ
村長「お久しゅうございます」ペコッ
村人たち「…」ペコッ
神娘「なんだ。皆、揃っておったのか」
村長「神様…その、何と申し上げればよいのか…」
神娘「…先ほどまでの光景は、やはりこの鈴が見せた幻か」
村長「はい。あの日の記憶にございます」
185: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:49:25 ID:U19KvyG1Uc
神娘「そうなると…この鈴に封じ込められていたという事だな」
神娘「私を追い出して以来の、お前たちの思いが」
村長「……」
村長「…あれから毎日、悔いばかりが募る日々でした」
村長「自分たちの愚かな間違いに気づくのが…遅すぎたのです」
神娘「自業自得だ」
村長「返す言葉もございませぬ」
神娘「…だが、せっかくこうしてお前たちにまた会う事ができたのだ」
神娘「その思い…受け止める事にしよう」
村長「神娘様…!」
神娘「お前たちが私を思い、祠を建て鈴を祀ったこと」
神娘「その祠に祈り、悔い改めようとしていたこと」
神娘「そして…その死の寸前まで祠を守ろうとしていたこと」
神娘「全て、確かに見届けたぞ」
村長「ははーっ」
村人たち「うぅっ……えぐっ…!」
神娘「…だが、それと私がお前たちを許すかという事は別の問題だ」
一同「えっ」
186: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:50:17 ID:U19KvyG1Uc
神娘「いくら悔いたところで…済まされぬ事というものはある」
村長「……」
神娘「私はお前たちを許さぬ。この先もずっとな」
村長「さ、左様…ですか」
神娘「許さぬ故……お前たちを忘れぬ」
村人一同「!」
神娘「過去は消せないものだ。お前たちがしでかした事もな」
神娘「私は事実として思い出そう。お前たちから受けた事も全て」
神娘「そして同時に思い出すのだ。お前たちと共に過ごしたあの日々をな」
村長「神娘様…!」
神娘「私がまたこの地を訪れる事を分かっていたのか?」
村長「はい。ですからこの鈴を何としても留めておきたかったのです」
神娘「お陰で無事に私まで届いた。感謝する」
村長「そのお言葉だけで…我々は報われます」
神娘「…だが、できれば生きて話がしたかった」
神娘「逃げてほしかったぞ。死をもって償うなど…愚かな事を」
村長「…申し訳…ありませぬ」
187: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:51:07 ID:U19KvyG1Uc
神娘「私は過去も背負ったまま、前に進む事にする」
村長「はい」
神娘「お前たちが今、天におるか獄におるかは知らぬが…」
神娘「皆、達者で暮らしてくれ」
村長「ありがとうございます」ペコッ
村人たち「ありがとうございます…!」ペコッ
神娘「うむ。では行くとしよう」
村長「神娘様、どうかお気を付けて…」
「お体を大事にしてくだされ!」
「神娘様…!」
「神娘様!」
神娘「わはは、皆に心配されるほどひ弱ではないぞ」
神娘「……さらばだ」
ヒュンッ……
188: 名無しさん@読者の声:2016/6/9(木) 08:01:43 ID:YIS8l9l302
切なすぎる…
支援!
189: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:40:00 ID:UIlogv3UOE
>>188 支援ありがとうございます!
「……様!」
神娘「…んっ」
男「神娘様!」ユサユサッ
神娘「…あまり揺するな」
村娘「あっ、気付いた!」
男「ふう、良かったです」
神娘「…どうやら…戻ってこれたようだな」
男「ええ、竜巻が過ぎたら元の景色に戻りましたよ」
村娘「でも私も男さんも無事なのに、神娘様だけ目を覚まさなくって…」
神娘「うむ。少し村人たちと話してきたよ」
男・村娘「えっ?」
神娘「わははっ、やはりこの鈴は不可思議なものだ」
男「神様、それはやはり幽霊と出会ったので?」
神娘「…さあな。幽霊なのか幻覚なのか、結局分からなんだ」
男「そうですか…」
神娘「わはは。まあ、どっちでもいい事だよ。今となってはな」
190: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:41:06 ID:UIlogv3UOE
村娘「皆さん、お元気でした?」
神娘「ん、そうだな。向こうでも元気にやってるようだったぞ」
村娘「うふふ、そうでしたか」
男「…この祠が残っていたのは、村人の方々のおかげだったと」
村娘「あの重しとかが竜巻を防いだんですね」
神娘「いや、家をも吹き飛ばす竜巻だ。あんなものでは防げぬよ」
村娘「えっ」
男「では、いったいどうして…」
神娘「神器には、人間の感情や想いを封じ込める力がある」
神娘「あやつらの死の直前の強い思いをこの鈴が汲み取ったのだろう」
男「村の方々の願いを叶えて、鈴は吹き飛ばなかったと…」
神娘「恐らく強い加護の力でも働いたのだろうな」
村娘「でもでも、それじゃ村の皆さんのお陰には変わりないですよね!?」
神娘「そういう事だな」
村娘「良かった…無駄にはならなかったんですね…」
神娘「無駄な筈がない。この鈴はあやつらの命そのものだ」
男「大切にしないといけませんね」
神娘「そうだな」
チリーン…
191: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:41:33 ID:UIlogv3UOE
神娘「さて、じきに暗くなる。山神殿の元へ戻ろう」
男「はい。ではまた背中に…」スッ
神娘「ああ。もうその必要はない」
男「えっ」
神娘「よっと」スック
村娘「立った!神娘様が立った!」
神娘「何処かで聞いた台詞だな」
男「なんということでしょう」
神娘「ふむ、やはり足の傷跡も消えておるな」
男「本当ですね。いったいどうして…」
神娘「私の力を抑え込んでいたのは、私自身の心であったという事だ」
男「はあ」
神娘「……」クルッ
神娘(形は消えても、確かにここにはお前たちの思いが残っておったぞ)
神娘(安心して、安らかに眠るがよい)
神娘(…嘘は吐かぬ。忘れはせぬからな)
サアアアアアッ…
192: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:42:01 ID:UIlogv3UOE
ザッザッ
村娘「山神様」
山神「あら巫女、戻ってきたわね」カーッ
村娘「はい。無事に戻りました」
神娘「……」
山神「神娘。鈴は取ったかしら?」
神娘「この通り」チリン
神娘「おかげで散々な目に遭ったがな」
山神「あら、それは大変だったわねー」
神娘「白々しい。棒読みだぞ」
山神「その鈴に込められた思い、受け取ったかしら」
神娘「ああ。存分に」
山神「そうやって自分の足で歩いているという事は…もう大丈夫なようね?」
神娘「うむ。もう過去は充分に清算されたと思う」
山神「そう。ふふ、良い顔してるわ。まるで出会った頃のように」
神娘「よしてくれ」
山神「うふふ…おかえり、神娘」
神娘「…ただいま」
193: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:43:26 ID:UIlogv3UOE
男「めでたしめでたしですね」
村娘「ですね」
山神「男さん、巫女」
男・村娘「はい」
山神「どうもありがとう」ペコッ
男「山神様…」
山神「あなたたちの協力なくして、こうはなれなかったと思うの」
神娘「…烏の姿で頭を下げてもなぁ」
山神「ふふん、どうせこの子は素直じゃないから礼も言わないでしょうし…私が代わりに、ね?」チラッ
神娘「…」ブスーッ
神娘「…あ、ありがとうな。二人とも」ペコッ
山神「うふふ」
神娘「まったく…振り回されてばかりだ」
村娘「神様たちに頭を下げられるなんて…恐縮しちゃいます」
男「いやいや、感謝されて当然の事をしたのですから」ヘラヘラ
神娘「お前は少し村娘を見習え」
194: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:44:03 ID:UIlogv3UOE
山神「さて…今日はもう日が暮れちゃうわね」
村娘「大変!家に帰らないと…」アセッ
山神「巫女、灯もないのに山道を降るのは危険よ」
村娘「でも…私がここにいる事、両親も知らないですし…」
山神「まったく。仕方ないわね」
ボワンッ!
村娘「えっ」
山神「今日だけは送ってあげるわ。乗っていきなさい」ヒヒーン!
男「り、立派な馬ですね…」
村娘「で、でも神様に乗るなんてそんな…」
山神「いいから乗りなさいって」パクッ
村娘「きゃっ!」グイッ
ブンッ、ストッ!
村娘「あわわ…」クラクラ
神娘「随分と手荒な乗せ方をする馬だな」
山神「じゃあちょっと行ってくるから。二人はここに泊まっていきなさいね」
山神「すぐ戻るから留守番よろしく〜」パカラッパカラッ!
村娘「ひっ!待っ、山神様ぁ〜!」
神娘「……」
男「……」
195: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:47:04 ID:LZ7UQdthyE
神娘「嵐のように去っていったな…」
男「村娘さん、振り落とされないといいのですが」
神娘「まあ山神殿ならそんな真似はさせるまい」
男「心配ですが」
神娘「…とりあえず立ち話もなんだ。そこの階段に座るぞ」ストッ
男「そうですね。お隣、失礼しても?」
神娘「うむ、いいだろう」
男「しかし濃い一日でしたね」ヨイショッ
神娘「んんっ…さすがに疲れた」ノビー
男「もう休まれますか?」
神娘「いや、とてもそんな気分ではない」
神娘「色々と考えてしまって眠れぬよ」
男「そうですか」
神娘「お前は休め。一日歩かせて苦労かけたな」
男「いえ。何ともありませんよ」
神娘「お前もつくづく超人だな」
男「褒められているのでしょうか」
神娘「さあな」
196: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:47:35 ID:LZ7UQdthyE
リーンリーン…
男「…静かですね」
神娘「そうだな。人里からは離れておるし」
男「夜になると、少し冷えてきますね」
神娘「もう夏も終わる。秋となり、すぐ冬が来る」
男「寒いのは苦手です」
神娘「奇遇だな。私もだぞ」
男「神様のお力で秋を延ばすことはできませんか」
神娘「寒冷の神にでも願ってこい」
男「大変です、居場所を知りません」
神娘「私も知らぬ」
男「神様なのに?」
神娘「他の神の居場所まで知らんわ」
男「そういうものですか…」
神娘「というより寒冷の神などいるのかも知らんが」
男「適当ですね」
197: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:48:12 ID:LZ7UQdthyE
神娘「…ふっ」
男「どうされました?」
神娘「いや、随分と久しぶりに感じてな」
神娘「お前とこうしてくだらん話をするのが」
男「そうでしたっけね」
神娘「…思えば」
男「?」
神娘「お前とのこうした何気ない会話が私に人間との日常を思い出させたのだ」
神娘「私に前に進むきっかけをくれたのは間違いなくお前だよ」
男「何を仰いますか」
神娘「それにここまで連れて来てくれたのも…お前でなければできなかっただろう」
神娘「改めてお前のお節介に礼を言わねばなるまい」
神娘「ありがとうな、男」ペコッ
男「…神様」
男「私がした事など些細なものです。全て神様のご意思で決めた事ですよ」
神娘「謙虚じゃないか」
男「私はいつでもそうですが」
神娘「>>193での発言を思い返せ」
男「あれは場の空気を呼んだだけです」
神娘「どんな空気だ」
198: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:48:42 ID:LZ7UQdthyE
男「…神様」
神娘「ん?」
男「神様は今後どうされます?」
神娘「今後…か」
男「修行を再開なさるおつもりでしょう?」
神娘「そうだな。もうその決心がついた」
男「では、人間の村に戻られる…」
神娘「そういう事だ」
男「それは良かったです」
神娘「もう二度と同じ轍は踏まぬ。必ずや本神になってみせるぞ」
男「そういう事でしたら是非…」
神娘「そのためにも早く力を取り戻し、村娘のいる村に行かねば」
男「……」
男「…え?」
神娘「村娘のいる村だ。この麓にあるらしいからな」
男「この地に留まるおつもりで?」
神娘「うむ」
199: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:50:20 ID:LZ7UQdthyE
神娘「修行をすべき場所は生まれ落ちた場所でと定められている」
神娘「これでも山神殿には多大な恩があるしな。それも返す意味も込めて…」
神娘「私はこの山の周囲で修行をせねばならぬ」
男「そうだったのですか」
神娘「一度は投げ出したとはいえ、その定めが反故になったわけではない」
神娘「どうせなら顔見知りがいた方が何かと動きやすいしな」
男「それで村娘さんの村に…」
神娘「もっとも村娘とその事で話す暇がなかったが」
神娘「まあ、あやつなら受け入れてくれると思う」
男「村娘さんは神様の事を好いておいでですから」
神娘「もっともあやつだけでなく、村全体から好かれ、信仰を集める必要があるのだがな」
男「大変な道のりになりますか」
神娘「恐らく」
男「神様ならきっと大丈夫です」
神娘「ふん、言わずもがなだ」フンッ
神娘「…ところで、お前も先ほど何か言いかけたか?」
男「いえ。何でもありません」
神娘「そうか?ならいいが…」
男「……」
200: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:50:52 ID:LZ7UQdthyE
神娘「お前はどうする?」
男「私は明日の朝にでも発とうかと思います」
神娘「随分急だな」
男「あまり村を空けるわけには参りませんので」
神娘「まあ道中を含めれば十日以上空ける事になるからな」
男「村の皆も寂しがりますし」
神娘「自分で言うのか?それは」
男「事実ですから」
神娘「私が洞窟にいた時はしょっちゅう空けていたくせに」
男「それはそれ、これはこれという事で」
神娘「都合の良い奴め」
男「言ったではありませんか。あの時は仕事を終えてから来ていたと」
神娘「朝から来てる時もあったではないか」
男「早起きして仕事を済ませたのです」
神娘「もう無茶苦茶だな」
男「しかし帰ったらまた仕事三昧になります」
神娘「仕方あるまい。それがお前たち人間の生き様なのだから」
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