ーむか〜しむかし、とある場所で
201: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:51:34 ID:LZ7UQdthyE
男「……」
神娘「……」
リーンリーン…
男「……」
リーンリー…ン
男「…神様」
神娘「……」
男「お困りになるかもしれませんが」
男「その、やはり修行は私の村で行うというのは…」
神娘「……」グラッ
コテン
男「!」ビクッ
男「どうされました?寄りかかって…」
神娘「…zzz」スースー
男「…寝てらっしゃいましたか」
202: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:52:54 ID:LZ7UQdthyE
神娘「zzz」
男「…お疲れのご様子でしたからね」
男「……」
男「神様がお決めになったことだ。私が異を唱えられるはずもない」
男「……」
リーンリーン…
…パカラッパカラッ
山神「…ふ〜っ、到着。すっかり遅くなってしまったわ」ザッ
山神「ごめんなさいね。何もなかったかしら…」
山神「…あら?」
神娘「zzz」
男「zzz」
山神「……」
山神「…うふふ。仲良しだこと」ニヤニヤ
203: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:36:44 ID:10DpqrJMlU
ーしばらくのち
神娘「……んっ」パチッ
神娘「…いかん、眠ってしまっていたか」
神娘「このような吹き曝しで…ん?」チラッ
男「zzz」
神娘「っ!?」ビクッ
神娘(近っ!)
神娘(しまったな。こやつに寄りかかって眠ってしまったか…)
男「zzz」
神娘(こやつもこのまま寝たのか)
神娘(ここで私が動いたら、こやつの体は倒れそうだ)
神娘(疲れていたのだろうし…止むを得ん。もう少し寝かせておくか)
神娘「……」
神娘「……」チラッ
男「zzz」
神娘「……」
神娘(こやつの顔をこれほど近くで見るのは初めてだな)
神娘(おぶさっていた時も、見ていたのは背中と頭の後ろだけだし…)
神娘(…ま、まあまあ悪くない顔立ちだな、うん)
204: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:37:06 ID:10DpqrJMlU
男「zzz」
神娘「……」チラチラッ
神娘(…手が泥だらけ、傷だらけだな)
神娘(あの村で畑仕事をしていた男たちと同じ…)
神娘「…」スッ
神娘(普段は仕事に精を出しているというのも、嘘ではなさそうだ)
神娘(…この手こそ、こやつら人間の生きている証だな。うん)
サスサス
男「ううん…」
神娘「!」ビクッ
男「…ん…」
男「zzz…」
神娘「…ふぅ」
神娘(危ない。手をさすっていたなどと知られたら何を言われるか…)
神娘(しかし本当によく寝ておるな、こやつは)
205: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:37:40 ID:10DpqrJMlU
リーンリーン…
神娘「…」
男「zzz…」
神娘(こやつも明日になれば自分の村へと帰るのか…)
神娘(私も村娘の村で、再び修行を行う)
神娘(全てが元通り…ただそれだけ)
神娘(それだけなのだが…)
男「zzz…」
神娘(…)
神娘「…うぅむ、分からん」ワシャワシャ
山神「何が分からないのかしら?」バササッ
神娘「わっ!?」ビクッ
山神「ちょっと。大声出したら男さんが起きちゃうわよ」カアーッ
神娘「その毎度突然声をかけるのはどうにかならんのか?」
山神「ふふ、以後気を付けるわ」
神娘(確実に気を付ける気は無さそうだ)
206: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:38:06 ID:10DpqrJMlU
神娘「しかしいつの間に帰っていたのだ」
山神「とっくよ。人間一人送るのにそんなにかからないわ」
神娘「まあ馬の姿で駆けていけば当然か」
山神「ねえ、それより何が分からないの?」
神娘「…う、うぅむ」
神娘「そのだな…明日にも修行を再開しようかと思っている」
山神「え?そう。それは何よりね」
神娘「村娘に話し、あやつが今いる村でまたやり直すつもりだ」
山神「あの子の村で…」
神娘「そうだ。全て順調な筈だろう?」
神娘「だが…何故か心が晴れぬのだ」
山神「……」
神娘「もう今日の一件で迷いはなくなったし、ここにおれば神力もすぐに戻る」
神娘「障害となるものはもう何もない。しかし…何かがこの胸につっかえておるのだ」
神娘「なぁ山神殿、これは何だと思う?私は何か間違っているのか?」
山神「……」
山神「間違ってないわよ。修行神としての順当な道ね」
神娘「…うむ」
山神「でも」
神娘「?」
207: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:39:28 ID:10DpqrJMlU
山神「その胸のつっかえは…あなたの正直な心を映しているの」
神娘「……」
山神「修行神としてではなく、あなた自身としての心ね」
神娘「私自身…?」
山神「そう。あなたの心が何か言っているんじゃない?」
神娘「…何を言っているのだというのだ?」
山神「私に分かるわけないじゃない」
神娘「…むぅ」
山神「あなたの心はあなたにしか語り掛けないわ」
山神「それを無視するのも耳を傾けるのもあなたの自由だけどね」
神娘「難しいな」
山神「そうでもないわよ」
神娘「何故そう言い切れる」
山神「うふふ。答えは意外と近くにあるかもしれないし?」
神娘「…何だそれ」
208: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:39:57 ID:10DpqrJMlU
男「う…ん・・・っ」ノビッ
山神「あら、お目覚めね男さん」
男「ああ、山神様。お戻りでしたか」
山神「無事に巫女も村へ送ってきたわ」
男「ありがとうございます。すみません、ついうとうとと…」ゴシゴシ
神娘「うとうとどころかよく眠っていたぞ」
男「そうでしたか?」
山神「ええ。神娘とぴったりくっ付いてよく眠ってたわ」ニヤ
神娘「余計なことを言うな」
男「何と。それは大変な失礼を致しました」
神娘「う、うむ…別によい」
神娘(正直少し驚いたが)
男「……」ペタペタ
神娘「…どうした、体など調べて」
男「いえ、私が眠っている間に何かされていないかと…」
神娘「三秒以内に謝らなければ吹き飛ばす」
男「冗談ですって」
209: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:40:21 ID:10DpqrJMlU
山神「男さんはこれからどうするのかしら?」
男「明日の朝にはここを発ちます」
山神「そう…寂しくなるわね」
男「できればもう少し残りたかったのですが…畑を放ってもおけませんし」
山神「そうね。男さんには男さんの暮らしがあるのだから」
男「それに寂しくなりませんよ。神娘様はここに残るそうですし」
神娘「……うむ」
ズキッ
神娘(ん…?)
山神「ふふ、また騒がしくなるわぁ」
神娘「騒がしくて悪かったな」
山神「…ちゃんと神としての務めは果たさなくちゃね」
神娘「無論だ」
山神「みっちりと鍛えてあげないと」ニヤリ
神娘「…不安だ」
男「鍛えてさしあげてください」ペコリ
神娘「お前は何様なのだ」
210: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:40:51 ID:10DpqrJMlU
山神「朝に発つのなら、もう休んだ方がいいんじゃないかしら?」
男「そうですね。そうさせていただきます」
山神「奥の部屋、使っていいわよ」
男「ありがとうございます」
神娘「…」
男「神様、山神様、それではお先に失礼します」
神娘「…ああ、おやすみ」
山神「おやすみなさい」
ザッザッ
神娘「…」
山神「さて、と。私もそろそろ…」
神娘「なあ山神殿」
山神「なに?」
神娘「胸が痛んだ」
山神「えっ?」
神娘「先ほど、また胸が痛んだ。こう…疼くように」
山神「……」
211: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:41:44 ID:10DpqrJMlU
神娘「だが分からん。私の心がいったい何を訴えているのか…」
山神「その時に何を話していたのか分かる?」
神娘「え〜っとだな」
神娘「あれだ、男が村に戻り、私がここに残るという話だ」
山神「……」
神娘「分からんな。別におかしな事など何一つない話だが…」
山神(もう答え一歩手前じゃない!)
神娘「ま、偶然かもしれん。気にしなくていいぞ」
山神「…はあ」
神娘「な、なんだ。ため息などついて」
山神「べっつにぃ〜」
神娘「なんだというのだその言い方は…」
山神「じゃ、私そこら辺の止まり木で寝てるわ」バサッ
山神「あなたも早く寝なさい。おやすみ〜」
神娘「おい、待っ…」
バサバサッ
山神(…わざとかと思えるほどの鈍感さね)
山神(というより、無意識に気付かないようにしているのかしら…)
212: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:42:13 ID:10DpqrJMlU
神娘「…行ってしまった」
神娘(早く寝ろと言われても…)
神娘(また色々考えて眠れんぞ、こりゃ)
神娘(……)
神娘(私自身の心、か…)
神娘(そんなもの、今まで考えた事もなかった)
神娘(いったい何を訴えておるのだ)
神娘(お〜い…)
神娘(……)
神娘(…阿呆らし)
神娘(……)
神娘(…)
213: 名無しさん@読者の声:2016/6/23(木) 12:45:27 ID:nqDj.UzvhI
なんかキュンとくる…!
支援!
214: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:31:05 ID:VlcCTJNCdM
チュンチュン…
神娘「…」コックリコックリ
ザッザッ
神娘「…ん、誰だ?」パチッ
「あっ、神娘様」
神娘「おお、村娘」
村娘「おはようございます!」
神娘「どうした、馬鹿に早いな」
村娘「ここで巫女をやる許しを両親から得たので、色々準備をと思って…」
神娘「そりゃ良かったな。山神殿も喜ぶだろう」フワワ
村娘「どうしてこんな所で休んでいたんですか?」
神娘「ああ、思案していたらそのままうとうとしてしまった」
村娘「また何か考え事ですか?」
神娘「丁度良い。お前にも関係ある事だ」
神娘「お前のいる村で修行を再開したいと思っておるのだ」
村娘「ほ、本当ですか!?」パアッ
神娘「よいだろうか?」
村娘「もちろん!とっても嬉しいです!」
神娘「うむ、そうか」
215: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:32:06 ID:VlcCTJNCdM
神娘「そこで、お前に村の者たちとの仲立ちを頼みたいのだ」
村娘「わ、私に?」
神娘「そうだ。なに、そう身構える事ではない」
神娘「私を知る者がいた方が村人も安心するだろう」
村娘「確かにそうですね…。分かりました、やります」
神娘「すまんな。まあ神力がしっかり戻ってからの話だ」
村娘「それにしても神娘様がまた戻ってくるなんて」
神娘「私もこうなるとは思いもよらなかったよ」
村娘「あれ?でもそうなると…」
神娘「?」
村娘「男さんはどうなさるんですか?」
神娘「あやつは今日にも自分の村へと帰るぞ」
村娘「えっ」
神娘「当然だろう」
村娘「で、でも神娘様はそれでいいんですか?」
神娘「何がだ」
村娘「男さんとここでお別れするという事になりますよ?」
216: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:32:41 ID:VlcCTJNCdM
神娘「それは仕方ない。私の修行にはあやつは何の関係もないのだから」
村娘「でも…」
神娘「あやつはあやつの、私は私の居場所で生きるだけのこと」
神娘「いったい何の不満があるというのだ?」
村娘「い、いえ…え〜っと…」
神娘「あっ、まさかお前…」
村娘「えっ?」
神娘「あやつに惚れたから行ってほしくない…とか?」
村娘「ち、違いますっ!」アセッ
神娘「生憎、縁結びの神の知り合いはいないのだが…」
村娘「違いますって。昨日会ったばかりなのにそんな筈ないですよ!」
神娘「そうか」
村娘「むしろ…」
神娘「ん?」
村娘「むしろ、神娘様の方が男さんのこと…」
バサバサッ
山神「カアーッ」バササッ
神娘「おはよう、山神殿」
山神「おはよう、神娘。巫女」
村娘「お、おはようございます!」
217: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:33:26 ID:VlcCTJNCdM
山神「ごめんなさい。話の最中だったかしら?」
神娘「ん、大丈夫だ。もう本題は済んでいる」
村娘「……」
山神「巫女、どうやら許しは得たようね」
村娘「はい。両親に山神様の名を出したら驚かれましたけど…」
山神「良かったわ。それじゃ、中へ一緒に来てちょうだい」
村娘「分かりました」
山神「あ、神娘」
神娘「ん?」
山神「男さん、昼頃に出るそうよ」
神娘「そうか」
山神「少しは動けるようになったんだし、準備くらい手伝ってあげなさい」
神娘「…まあ、そのくらいならな」
山神「鳥居の外にいたわ」
神娘「分かった」ピョンッ
スタスタ…
山神「…」
村娘「…あの、山神様」
山神「何かしら?」
218: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:34:01 ID:VlcCTJNCdM
村娘「どうにかならないんでしょうか?その…神娘様と男さんの事」
山神「……」
村娘「神娘様が私の村に来てくださるのは本当に嬉しいです。でも…」
村娘「あのお二人が信頼し合っている姿を昨日から目の当たりにして…」
村娘「離れ離れになってしまうのが何だか悲しくて…」
山神「そうね…気持ちは分かるわ」
山神「でも残念だけど、どうにもならないの」
村娘「…」
山神「修行するには決まりがあってね」
山神「神娘はこの生まれた地で修行しなくてはならないわ」
村娘「そうなのですか?」
山神「ええ。これは本神になる上では絶対のもの」
山神「あの子がそれを目指している以上…この地を離れられない」
村娘「仕方のない事なんですね…」
山神「そうよ」
村娘「神様にも決まりなんてあるんですか」
山神「あなた達とそう変わらないわ。神なんて面倒なものよ」
村娘「……」
219: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:34:46 ID:VlcCTJNCdM
村娘「神娘様は、ご自分の気持ちには気付いていないのでしょうか?」
山神「恐らくね」
村娘「誰でも見ればすぐ分かりそうなものですが…」
山神「あの子、今まで全くそういう経験なかったし」
山神「それに本神になるためにひた向き過ぎて、自分の望みは後回しにしてきたから」
村娘「…真面目だったんですね」
山神「自分の心と上手く付き合えていないのよ」
村娘「心と…ですか?」
山神「神は人間の違って膨大な力を持っているわ」
山神「でも、中途半端に持ってしまった心の扱いは…人間より下手なのよね」
村娘「難しいです」
山神「分からなくてもいいわ。こちらの話だし」
山神「それに、その気持ちに気付いてしまったところで…」
村娘「…余計に辛い思いをしてしまいそうですね」
山神「ええ」
村娘「でも、やっぱりこのままじゃ…!」
山神「気付くのが悪い事とは言っていないわ」
山神「それでも私たちが教えるのは駄目。これも修行の内なんだから」
山神「なるがままに任せましょう」
村娘「…はい」
220: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:08:27 ID:jnZwHXEDjk
男「…よいしょっと」
ドサッ
牛「モーッ」
男「待たせてすまない。もうすぐだからさ」
男「さてと、あとは…」
「これか?」スッ
男「あ、どうも…って神様でしたか。おはようございます」
神娘「おう。ほれ、早く受け取れ」
男「はい。よっと!」ドサッ
男「ふう…ありがとうございます」
神娘「もう積み込みはほとんど終わってしまったか」
男「ええ、元々少ない荷物でしたし」
男「帰りは山神様が…ええと、何でしたっけ?」
神娘「転移だろう。要は一瞬でお前の村に帰れる」
男「それです。お陰で帰り道を気にせずに済みました」
神娘「よかったな」
男「行きもそうだと楽だったのですが」
神娘「私にはできん。高等な神力だし、未熟な者が発動すれば体が四散する」
男「なにそれ怖い」
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