ーむか〜しむかし、とある場所で
161: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:55:52 ID:pz81d1paTU
神娘「よいのか?巫女などそんな簡単に決めて」
山神「いいのよ、この子が来なかったらここは寂れる一方だったし」
山神「どうせなら勝手が分かっている人にやってもらった方がいいしねぇ」
神娘「ま、山神殿がいいなら別に何も言わんが」
村娘「やった…!巫女服貰っちゃった♪」ワクワク
山神「本人もやる気満々だし」
神娘「…あやつもああいうところは子どものままだな」
山神「で?神娘」
神娘「ん?」
山神「なんだかこの数時間でだいぶ雰囲気が変わったんじゃない?」
神娘「そ、そうだろうか」
山神「ふふっ、私の目は誤魔化せないわよ」
神娘「…少しは決心が付いたように思う。過去と決別する決心が」
山神「それは何より。男さんのおかげかしらね」
男「いやあ、何もしていませんよ」
神娘「…そうだな。こやつのおかげだ」
男「おおっ、素直に」
神娘「いちいち驚くな」
162: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:56:26 ID:pz81d1paTU
神娘「こやつは馬鹿正直に私を信じ、私に信じさせてくれた」
神娘「村娘のように私がいなくなった事を嘆いてくれていた者もいた」
神娘「そういった者たちに報いるためにも…立ち止まっておれぬ」
男「神様…」
山神「…ふふっ、やっぱりあなたの背中を押す役目は人間の方がふさわしいわね」
神娘「もちろん山神殿の助言もあっての事だぞ」
山神「いいわよ、そんなお世辞なんか」
山神「ま、ちょっとは手伝いもしたけどねぇ?」チラッ
男「…」ニヤッ
神娘「?」
山神「それで?これからどうするの?」
神娘「うむ…ひとまず行きたいところがあるのだが」
山神「村かしら?」
神娘「話が早くて助かる」
男「しかし、もう無くなったと言っていませんでしたか?」
神娘「それでも、私はあの地にもう一度足を踏み入れる必要がある」
神娘「…ような気がする」ポリポリ
163: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:57:10 ID:pz81d1paTU
山神「ちょうど良かったわ。私も行かせようとしたところだったし」
神娘「そういえば、以前見せたいものがあると言っていたな」
山神「ふふっ、よく覚えてたわね。でも行ってからのお楽しみよ」
神娘「何なのだ…」
山神「さて、村娘…じゃなかった、巫女!」
村娘「はい!」
山神「私は今、ここを空けられないわ。一緒に村まで行ってあげて」
神娘「おいおい、道案内などいらぬぞ」
村娘「神娘様、どうか一緒に行かせてください」
神娘「ん?」
村娘「久しぶりに…神娘様とあの場所に行きたいんです」
村娘「神娘様との思い出が残る、あの場所に」
神娘「…分かった。共に行こう」
神娘「お前はまだ歩けるか?」
男「はは、お任せを。どこへでもお連れしますよ、神様」
神娘「うむ、すまんな」
164: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:35:31 ID:4zqg6K/Mic
ザッザッ
神娘「…ここだ。この道を下ればもうすぐだぞ」
男「分かりました」
村娘「見覚えのある道です」
神娘「村娘は村を出てからここへは来ていないのか?」
村娘「はい。何だか近寄り難くて…」
男「一家揃って出たのですから、無理ないでしょうね」
村娘「それもそうなんですけど…何だか怖かったんです。色々思い出すことが」
神娘「怖い…か」
神娘「そうだな。私も同じだ」
村娘「神娘様…」
神娘「感情を抑えきれる自信がない。自分でも自分がどうなるか分からぬ」
神娘「…神などという立場でありながら情けない事よ」
男「神様」
神娘「ん…」
男「安心してください。もし神様がご乱心されたら私が何とか致します」
神娘「…生意気な奴め」
神娘「だが、頼むとしよう」
男「かしこまりました」
165: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:37:05 ID:4zqg6K/Mic
村娘「確かこの辺りだったはず…」
男「…これはまた何と言いますか」
サアアアアッ…
神娘「見事に何も無いな。ただの野原になっておるぞ」
男「しかし所々家の土台は残っております。確かにここに村があったのでしょう」
村娘「竜巻で吹き飛んだというのは本当だったのですね」
神娘「何も残っておらぬのだな…」
男「どうやらそうみたいで…ん?」
村娘「どうかしましたか?」
男「奥の方に小さな家が見えませんか?」
村娘「そうですね、確かにあります」
男「あれは家というより…」
神娘「祠…か?」
村娘「行ってみましょう、神娘様」
神娘「うむ」
166: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:37:50 ID:4zqg6K/Mic
神娘「これはまた粗末な造りの祠だな」
男「開けてみますか?」
神娘「止めておけ。何を祀っているかも分からぬ」
神娘「もしかしたら天罰の際に死んだ者の怨念でも込められているやも」
男「くわばらくわばら」
村娘「しかし、何故これだけが残っているんでしょうか?」
神娘「分からん。竜巻が過ぎた後に造られたのかもしれんし」
村娘「そうですかね…」
神娘「…もう行こう。得るものは何もなかったようだ」
神娘「村の形も思い出も…何もかも残っておらぬ」
村娘「……」
神娘「もっと感傷的になるかと思ったが…儚いものだ」
チリーン…
村娘「…今、何か聞こえませんでした?」
男「ええ、確かに」
チリンチリーン…
男「これは、鈴の音…」
神娘「!」
ゴソゴソ
男「神様、どうかされましたか?」
167: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:38:48 ID:4zqg6K/Mic
チリーン…
神娘「やはりこれか」チリッ
村娘「その鈴は…?」
神娘「分からん。下界に生まれ落ちた時より持っていたのだ」
神娘「神力が感じられる故、捨てるに捨てられぬ」
男「その音色、聞き覚えがございます」
神娘「…そうだな。お前が最初に洞窟来た時、この音色を聞いたはずだ」フルフル
チリンチリン
男「ああ、なるほど」
神娘「何故これが今、勝手に鳴っているのか…」
村娘「あの、神娘様」
神娘「どうした?」
村娘「その鈴、二つ持っていませんでしたか?」
神娘「ああ。知らぬ間に何処かで無くしてしまったようだがな」
神娘「だが何故それを知っておる?」
村娘「…実は神娘様がいなくなられた後、村の敷地でその鈴が見つかったのです」
神娘「なに?」
村娘「私はすぐに村を出たのでそれをどうしたかは分からないのですが…」
神娘「……」
168: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:39:17 ID:4zqg6K/Mic
チリーンチリーン
男「では、この祠の中にその鈴の片割れが入っているのでしょうか」
村娘「きっとそうですよ!」
神娘「…うむ」
男「神様、どうされます?」
神娘「……」
神娘「…いいだろう、取り返せるなら取り返しておきたいしな。開けてみよう」
男・村娘「はい」
神娘「だが何が起こるか分からん。先ほども言ったが、怨念の類が出てくるかもしれぬぞ」
男「…」
神娘「その際は速やかに二人とも下がれ」
村娘「…は、はい」
男「分かりました」
神娘「…よし」
神娘「そこへ近付け。私が開ける」
男「はい」スタスタ
神娘「……」スッ
神娘「…いざっ!」グッ
カチャリ
169: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:40:15 ID:4zqg6K/Mic
ギイイッ
神娘「っ…!」
男「……」
村娘「……」
シーーン…
神娘「……どうやら大丈夫なようだな」
男「何事もなく、何よりです」
村娘「あっ、中に光る物が…」
チリーン…
村娘「神娘様、ありましたよ!鈴!」
神娘「…これがここにあるという事は」
男「ここに祀られているのは、神様という事ですか」
神娘「……」
男「どのような気持ちでこの祠は造られたのでしょうね」
神娘「さあな。今となっては分からぬ」
神娘「分からぬが…何となく伝わるような気がするな」スッ
チリッ…
神娘「…十年ぶりに二つ揃ったか。あの夜、逃げる際に落としたのであろう」チャリッ
神娘「確かに…確かに受け取ったぞ」
チリンチリーン…
ピカアッ!!
神娘・男・村娘「!!」
170: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:41:37 ID:4zqg6K/Mic
村娘「きゃあっ!」
男「す、鈴から強い光が…!」
神娘「な、なんだこれは!?」
カアアアアッ!!
パアンッ!!
……………
神娘「……」
男「…ふう、やっと収まりましたか」
神娘「何だと言うのだ、こやつは…」チャリッ
男「村娘さん、ご無事ですか?」
村娘「……」ポカーン
男「村娘さん?」
村娘「か、神娘様…!あれを見てください…!」プルプル
神娘「どうかし……」ハッ!
神娘「…な、なんだと…!?」
男「これはいったい…?」
ガヤガヤガヤ…
171: 名無しさん@読者の声:2016/6/2(木) 12:58:10 ID:IQhTg3mTv2
やっと追い付きました!
いったいなにが起こるのかドキドキします!
172: ◆WjgYlacz.c:2016/6/4(土) 22:26:10 ID:XVB95XEL9Q
>>171支援ありがとうございます。
一ヶ月近く放置してすみません。
明日から更新再開しますのでよろしくです。
173: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:38:41 ID:QafHw9RIDY
ザワザワザワ…
男「いつの間に人や建物が…」
神娘「村娘、ここは…」
村娘「はい!私たちのいた村です!」
男「えっ」
神娘「化かされておるのか?それとも…」
男「その鈴の力でしょうか?」
神娘「分からぬ。そもそもこの鈴にどのような力があるのかも知らんしな」
村娘「でも、それが光ってからですよ!」
神娘「無関係ではないだろうな」
村娘「確かにさっきまで何もなかったのに…!」グルグル
神娘「落ち着け村娘」
村娘「は、はい…」
神娘「とにかくこうしていても埒が明かぬな」
男「ええ。少しそこらをうろついてみますか?」
神娘「うむ」
174: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:39:07 ID:QafHw9RIDY
ザッザッ
村娘「すごい…昔の景色そのまま…」
神娘「村人の風貌も私が去った頃のままだな」
男「立派な村だったのですね」
神娘「ああ。ここらでは一番の規模であったろうな」
神娘「ほれ、あそこに広場になっている所があるだろう?」
男「はい」
神娘「あそこで毎日子どもたちが走り回っておった」
村娘「覚えてます。私もよく遊んでましたしね」
神娘「わはは、子どもたちに付き合わされて流石の私でも疲れてしまったよ」
村娘「ふふっ」
神娘「そこの畑では私もよく鍬を振るったしな」
男「はあ…」
神娘「向こうの田では米を植えた。初めての収穫の時は大騒ぎしたものだ」
村娘「……」
神娘「そこの井戸はな、私の勘が冴えていたから掘り出せたのだ。わははっ」
男「……」
神娘「そして向こうにある裏山では…」
男「…神様」
神娘「……」
男「あまり無理をなさいませんよう」
神娘「…すまん。少し取り乱した」
175: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:39:33 ID:QafHw9RIDY
神娘「いかんな。こうして目の前に見せられると色々思い出してしまう」
神娘「懐かしさと困惑しているので…頭が滅茶苦茶になりそうだ」
男「少し休みましょう」
神娘「いや、大丈夫だ」
村娘「でも私たちがいても誰も見向きもしませんね」
神娘「恐らく我々のことは見えていないのだろう」
村娘「そうなんですかねぇ…」
神娘「だからこそ不気味ではあるのだがな」
村娘「残念です。顔見知りの人もいたのに」
神娘「十年経ったお前を見て分かる者はいないと思うぞ?」
村娘「盲点でした」
男「しかし、これではまるで幽霊の村ですね…」
村娘「ゆ、幽霊!?」
神娘「確かに。この鈴の力で亡霊でも呼び寄せた可能性もあるな」
村娘「…」サーッ
神娘「顔が真っ青だぞ村娘」
村娘「怖くなってきました」ブルブル
神娘「今さらだな」
176: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:39:58 ID:QafHw9RIDY
男「あっ」
神娘「どうした?」
男「何人か祠の方へ歩いて行きますよ」
神娘「うむ、あの先頭にいるのは村長だな」
男「あの方が…」
村娘「祠の前で立ち止まって…何をしているんでしょうか?」
神娘「知らんが…何か手がかりがあるかもしれん」
男「行ってみますか」
神娘「ああ」
・・・・・・・
村長「……」ブツブツ
村人たち「……」
村娘「何か祠に話してますね」
男「もっと近くへ寄ってみましょうか?」
神娘「ああ」
村長「……」ブツブツ
神娘「……」
村長「…神娘様」ボソッ
神娘「!」
177: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:40:50 ID:QafHw9RIDY
神娘「な、なんだと…?」アセッ
男「…どうやら神様に話しかけているわけではなさそうですよ」
神娘「う、うぅむ。そうだな」
村長「…あれからもう七日経ちました」
神娘(七日…?)
村長「村人たちの活気は無くなり、村を出ていく者もおります」
村娘「村長さん…」
村長「これが村のためだと、そう思っていたのに…」
村長「私は…とんでもない思い違いを…」
神娘「……」
村長「どのような罰でも受け入れます。ですからどうか…」
村長「どうか、もう一度戻ってきてくださいませぬか」
神娘「……」
村長「……」ブツブツ
神娘「…」ギリッ
178: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:41:15 ID:QafHw9RIDY
村娘「神娘様…」
神娘「…一つ分かったな。どうやらここは私が去ってすぐの村らしい」
男「先ほどの村長殿の発言から察するに…そのようですね」
村娘「だから村の皆の見た目も昔のままなんですね」
神娘「何故その景色が見えているのかは分からんがな」
男「…神様がいなくなられてから、村長殿や村の方々はこうやって悔いていたのですね」
男「祠を造り、毎日毎日…こうやって手を合わせて」
神娘「…ふん、何が戻ってこいだ」
神娘「自分たちで私を追い出しておきながら…身勝手なものよ」フンッ
男「そうかもしれません」
男「ですがせめて、村人たちの気持ちを受け止める事はできませんか」
神娘「……」
神娘「…もう遅い。いなくなった者たちに思いを馳せても…」
ゴロゴロゴロ…
神娘「なんだ…?」
村娘「大変です!そ、空が急に暗くなって…!」
オオオオオッ…!
神娘「七日目…そうか、この日だったのか」
男「え?」
神娘「村に天罰が降った日だよ」
179: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:42:21 ID:QafHw9RIDY
ヒュウウウウ…ッ!
バサバサバサッ!
村娘「風が強い…」
男「村の方々も騒がしくなってきましたね」
神娘「うむ」
村人「村長!外が大変です!」
村人「空が暗くなり、稲光も見えます!」
村長「来るべき時が来たのだ」
村長「我々は受けねばならぬ。それが神娘様へ償える唯一の方法だ」
村人「うう…」
男「…村の方々は全て覚悟されていたのですね」
神娘「馬鹿者が。死をもって償われる事など何もない」
神娘「…そんなものはただの自己満足に過ぎぬ」
村娘「あ、あの…」
神娘「どうした村娘?」
村娘「私たちは避難した方が良いんじゃないですか?もうすぐ竜巻が…」
神娘「ここは現実ではない。そんな事せずとも大丈夫だろう」
神娘「…多分」
村娘「多分て」
180: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:45:32 ID:U19KvyG1Uc
神娘「私はこやつらの最期を見届ける必要がある」
神娘「恐らく、そのために鈴はこの景色を見せているのだろう」
村娘「…」
神娘「しかしお前たちをそれに巻き込む義理はない。今の内に離れても責めはせぬ」
男「何を仰いますか」
男「乗りかかった舟というものです。最後まで付き合いますよ、神様」
神娘「……」
村娘「わ、私もっ!神娘様が大丈夫と言うなら大丈夫に決まってますから!」
神娘「…すまんな、二人とも」
「な、なんだあれは!?」
神娘・男・村娘「!!」
ピシャアアアン!!
ズゴオオオオッ!!
神娘「…とうとう来たか」
男「な、なんという巨大な竜巻ですか…」
村娘「あわわわわ…」アセアセ
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