魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」
Part6
113 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:32:20.45 ID:UJohCDjpo
こんばんは
とりあえず三編ある短編を、何度か(4~5回)に分けて投下させていただきます
それと、twitter垢も取らせていただきましたので、新作の投下時期などをこちらで予告いたします
毎回行方を晦ませてしまって申し訳ない
https://twitter.com/inmayusha
114 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:43:55.25 ID:UJohCDjpo
淫魔「はーい、こんばんはー!」
男「……誰ですか、こんな夜中に。寝てたんですが?」
真夜中に扉を叩く音がして、開けてみるとそこには――――小さな、少女がいた。
暗闇の中で、そして寝ぼけ眼にはよく見えないが、少女は妙な仮装をしているようだった。
翼のようなものが見えるし、頭には、何やら角が生えている。
淫魔「あなたのせーえき、いただいちゃいに来ましたー! 入っていいですかー?」
男「ちょっと待て、君」
淫魔「え、どーしたんですか?」
男「……君、ご両親は?」
淫魔「ふえ?」
男「家は近くなのかい? 送って行こうか。閉め出されたんなら、俺も謝ってあげるから」
淫魔「え、ちょっと。何か勘違いしてませんか?」
男「こんな夜中に、素っ裸で子供を放り出すなんて許せないな。さぁ、行くぞ。案内してくれ」
淫魔「で、ですから! 私は! サキュバスなんですってば!」
115 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:44:25.83 ID:UJohCDjpo
男「…………君ね。嘘はやめようよ。いくらご両親の所に帰りたくないからって……」
淫魔「だから違うって言ってるでしょ!? そういう事じゃなくて!」
男「……どういう事なんだい?」
淫魔「私はサキュバスで! あなたのせーえきを貰いに来たんですってば!」
男「…………ふむ」
淫魔「やっと分かってくれました?」
男「分かった、ちょっとそこで待っててくれ。すぐに戻る」
淫魔「え? ……はい」
一度扉を閉め、居間の戸棚の中を漁る。
そこにしまわれていた物を手探りで手近なバスケットに入れて、上から布をかぶせて玄関へ戻る。
ようやく扉を開けると、言いつけどおりに少女は待っていて、期待に目を輝かせていた。
男「……はい、これ」
淫魔「?」
男「確か、万聖節はもう過ぎたと思ったんだけどなぁ。フツーの焼き菓子だけど、あげるよ」
淫魔「わーい! いいんですかー!?」
男「ああ、勿論だよ。……それじゃ、気をつけて帰るんだよ」
少女が喜んでくれた事に頬をゆるめ、軽く頭を撫でる。
指先に触れた『角』は不思議と暖かく、まるで、本物の角のように硬かった。
日だまりの猫のように目を閉じる姿は、何とも言えない愛くるしさがある。
別れを告げてドアを閉めて鍵を下ろし、ベッドに戻ってから。
――――再び、猛烈な勢いでドアが叩かれた。
116 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:46:30.28 ID:UJohCDjpo
男「もー……だからさぁ、こんな夜中に迷惑だってば。早く帰りなよ。怒るよ?」
開ければ、相変わらず少女が立っていた。
少しムッとしたような表情で、顔を突き合わせるなり食ってかかってくる。
淫魔「だ、か、ら! 違うって言ってるでしょ!? 話聞いてますか!?」
男「……『サキュバス』がどうとか?」
淫魔「そーそー、ちゃんと聞いてるじゃないですか。さっきから用件言ってますよね?」
男「『精液』だって?」
淫魔「うんうん。えらいえらい」
男「……こんな事言いたくないんだけどさ」
淫魔「はい」
男「いくらなんでも、『精液』なんて軽々しく口にしちゃだめだよ。『サキュバス』って設定の仮装でもさぁ」
淫魔「もー! 設定じゃないって言ってるでしょ? ほら、これならどうですか!?」
男「おっ!?」
目の前で――少女の翼が一気に数倍の大きさに膨れ上がり、ばさりと翻る。
身体を完全に包み隠せるほどの黒翼が視界いっぱいに広がり、市街の闇さえも飲まれた。
そのまま、ぱたぱたと煽いで見せてくれると――――再び、少女の翼は元の大きさに戻っていく。
117 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:48:22.60 ID:UJohCDjpo
淫魔「へっへーん! どうです? これなら信じてくれますよね!?」
男「ほっ……本当なのか!?」
淫魔「そうそう、その反応が欲しかったんですよ。さーて、入ってもいいですよね? お邪魔しまー……」
敷居をまたごうとして、再び掌で押されて逆戻り。
男「……本当の本当に、サキュバスなのか?」
淫魔「そうですよー。なんなら、ベッドでもっと証明しちゃいますよー」
男「……ふーん、そっか、本当にサキュバスかー…………」
淫魔「どうかしました?」
男「チェンジ」
唾を吐き捨て――無慈悲に鍵を閉め、
だめ押しで椅子を持って来て内側からノブに引っかけてつっかえ棒にして踵を返した。
猛烈なノックと、ドアをガチャガチャやる音に背を向け、奥の寝室へ戻る。
ベッドに潜り込もうとしても、音が止まないので……不機嫌に起き上がって花瓶を手に取り、
玄関のドアへ投げつけて割ると、扉越しに小さな悲鳴が聴こえてからようやく静かになった。
118 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:50:15.76 ID:UJohCDjpo
それから数分、寝入った頃に……布団の中に、もぞもぞと動く何かの気配を感じる。
眠さに勝てず、そのまま寝ていようと思ったら……寝巻のズボンを、下ろされた。
何となく足を動かすと、爪先が柔く弾力のある暖かいものに触れた。
ひとまずどうするかと考えた結果――――爪先を使い、それを抓り上げる事にした。
???「いっ……だぁぁぁぁぁ!? いだい、いだいいだいっ!!」
男「うるっさいなぁ。いいから寝かせてくれってば」
布団を思い切りまくり上げて現れたのは、外にいる筈の『サキュバス』だった。
悲鳴じみた声を抗議に変え、見えた黄金の瞳に涙を滲ませて。
淫魔「つねる事ないじゃないですかーっ! 太ももちぎれるかと思いましたよ!」
男「鍵閉めただろ。何でいるんだよ」
淫魔「そりゃ、まぁ……サキュバスですから」
男「だったらドア叩く必要無かったじゃないか。……っていうかチェンジって言ったよね」
淫魔「あ、そうだ! どういう意味なんですか!?」
男「聞いた通り。他のコを呼んでくれるかな」
足首まで下ろされたズボンを上げて、ベッドに腰掛ける。
少女はベッドの上に正座したまま、ぷりぷりと可愛らしく怒っていた。
男「……あれ、もしかしてそういうシステム無いの?」
淫魔「ありませんっ!」
男「あ、そう。……じゃ、帰っていいよ。お疲れー」
淫魔「あああああ、もうっ! テンション低いですよ、低いっ!」
119 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:50:43.26 ID:UJohCDjpo
男「いや、俺別にそういうの飢えてないんで。困ってないんで」
淫魔「こっちが困るんですよーっ! お腹空いたんですってば!」
男「あ、そう。……お菓子、あげたよね?」
淫魔「そっ……それは、別です! お腹が……ああもう、伝わらないぃっ!」
男「……なるほど、分かったよ。精液でいいの?」
淫魔「は、はいっ! くれるんですね!?」
折れたような素振りを見せると、少女の黄金色の瞳がことさらにキラキラと輝き、
砂金の粒を暗闇に舞わせているような錯覚までした。
満更でも無い気分になり――――ベッド脇の水差しとともに置かれたグラスを手に、立ち上がる。
淫魔「どこに行くんですか?」
男「何って、精液でしょ?」
淫魔「あ、はい」
男「だから、トイレで出してくるって。一回分でいいんだよね? あー、でも……出るかなー」
淫魔「ちょっと待った」
120 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:51:18.19 ID:UJohCDjpo
男「今度は何だい」
淫魔「何、じゃないでしょ!? なんでそうなるの!?」
男「だから、新鮮なミルクをあげようと思って……」
淫魔「違うよ! 全っ然違うよ!」
男「うるさいな、何が不満なんだ」
淫魔「な、えっ……? ひょっとして、わたしじゃダメなんですか!?」
男「はい」
淫魔「即答!? 何で? 何でですか!?」
男「んー、まぁとりあえず見た目かな?」
淫魔「えぇぇぇっ!?」
男「いや……君は可愛いと思うよ。でも俺、ちょっと……犯罪は……」
淫魔「だから、サキュバスだってば!?」
男「あぁ、そういえばそんな設定だったかな」
淫魔「設定じゃないですって! もう何なんですかこの空気!? サキュバスのいる空間じゃないですよ!?」
121 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:52:14.87 ID:UJohCDjpo
男「……つまり、どうしたいの?」
淫魔「精液をくれればいいんですよ。サキュバスの栄養源なんです」
男「じゃ、問題ないよね。……それじゃ、ちょっと失礼。すぐ戻るから」
淫魔「待ってって言ってるでしょ!?」
男「なんだよもう、疲れてるんだよ。早く寝たいんだよ」
淫魔「…………」
男「……分かったよ、ここで出せばいいんだな?」
淫魔「ホントに分かってくれました? さ、搾り取っちゃいますよー」
男「いや、恥ずかしいからあっち向いててくれないか? その間に何とか頑張ってみるから」
淫魔「あーーーーーー! もーーーーーーー!」
男「?」
淫魔「お願いしますって。真面目にやってくださいよ!」
男「何言ってんの。真面目に精液あげようとしてるでしょ?」
淫魔「やり方が! 違うの!」
122 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:53:00.02 ID:UJohCDjpo
男「それじゃ、ちょっと訊きたいんだけどさ」
淫魔「はい」
男「君の場合、何人中何人がその気になってくれてるの?」
淫魔「ん、えと……十人いたら、十人」
男「うわぁ……」
淫魔「な、何さっ!?」
男「だってさぁ。こんなちっちゃい子に十人が十人とも発情って。終わってるなー、世界。滅べばいいのにー」
淫魔「ちっちゃくないってば!」
男「君のそういう性格もなんか、やらしい気分になれなくさせるんだよね」
淫魔「…………」
男「……なんか、目が冴えちゃったな。腹減った。何か作れる?」
淫魔「……そしたら、精液くれるの?」
男「真剣に考えるよ。もちろん君の言うとおりの方法で」
淫魔「やります! それじゃ、台所借りますねー!」
123 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:53:52.05 ID:UJohCDjpo
それから、数十分。
淫魔「できましたよ、特製のパン粥です。チーズ使っちゃいましたけどー」
男「いいよ。……うん、見た目は美味そうだね」
淫魔「しつれーですね。さ、召し上がれ!」
勧められ、木の匙で掬い取り、口へ運ぶ。
数回咀嚼して飲み込み、もう一度掬う。
淫魔「……?」
男「……ほら、『あーん』」
淫魔「ちょっ……な、何ですかー!?」
男「俺一人だけ食べるのも変な気分なんだ」
淫魔「わ、分かりましたよ……あ、あーん……」
言われるがままに口で受け止め、淫魔も咀嚼しようとして、目を剥く。
そのまま泡を食ったように立ち上がって、流しの下にあるごみ箱を覗き込むように――――。
淫魔「げ、げほげほげほっ! なんですかこの味っ!? 何入れたんですか!?」
男「俺の台詞」
124 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:54:56.38 ID:UJohCDjpo
淫魔「うぇー……」
男「自信満々だし、見た目も良かったけど……このマズさは酷いな。ネズミぐらいなら殺せるよ」
淫魔「へんな事言わないでください! これでも二百年前から、お料理の勉強してるんですよ!?」
男「二百年かけてできたのは、普通の食材から毒薬を作る驚異の錬金術か。本を書いてみるといい」
淫魔「むぅぅ……」
男「ともかく、君はキッチンに立たない方がいい。人生のムダだ」
淫魔「……あの」
男「?」
淫魔「それでも、どうして食べてくれるんですか?」
男「そりゃ、食べるよ。せっかく、作ってくれたんだから」
淫魔「…………」
男「さて、ご馳走様でした。残ってるなら朝にでも食べるよ」
こんばんは
とりあえず三編ある短編を、何度か(4~5回)に分けて投下させていただきます
それと、twitter垢も取らせていただきましたので、新作の投下時期などをこちらで予告いたします
毎回行方を晦ませてしまって申し訳ない
https://twitter.com/inmayusha
114 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:43:55.25 ID:UJohCDjpo
淫魔「はーい、こんばんはー!」
男「……誰ですか、こんな夜中に。寝てたんですが?」
真夜中に扉を叩く音がして、開けてみるとそこには――――小さな、少女がいた。
暗闇の中で、そして寝ぼけ眼にはよく見えないが、少女は妙な仮装をしているようだった。
翼のようなものが見えるし、頭には、何やら角が生えている。
淫魔「あなたのせーえき、いただいちゃいに来ましたー! 入っていいですかー?」
男「ちょっと待て、君」
淫魔「え、どーしたんですか?」
男「……君、ご両親は?」
淫魔「ふえ?」
男「家は近くなのかい? 送って行こうか。閉め出されたんなら、俺も謝ってあげるから」
淫魔「え、ちょっと。何か勘違いしてませんか?」
男「こんな夜中に、素っ裸で子供を放り出すなんて許せないな。さぁ、行くぞ。案内してくれ」
淫魔「で、ですから! 私は! サキュバスなんですってば!」
115 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:44:25.83 ID:UJohCDjpo
男「…………君ね。嘘はやめようよ。いくらご両親の所に帰りたくないからって……」
淫魔「だから違うって言ってるでしょ!? そういう事じゃなくて!」
男「……どういう事なんだい?」
淫魔「私はサキュバスで! あなたのせーえきを貰いに来たんですってば!」
男「…………ふむ」
淫魔「やっと分かってくれました?」
男「分かった、ちょっとそこで待っててくれ。すぐに戻る」
淫魔「え? ……はい」
一度扉を閉め、居間の戸棚の中を漁る。
そこにしまわれていた物を手探りで手近なバスケットに入れて、上から布をかぶせて玄関へ戻る。
ようやく扉を開けると、言いつけどおりに少女は待っていて、期待に目を輝かせていた。
男「……はい、これ」
淫魔「?」
男「確か、万聖節はもう過ぎたと思ったんだけどなぁ。フツーの焼き菓子だけど、あげるよ」
淫魔「わーい! いいんですかー!?」
男「ああ、勿論だよ。……それじゃ、気をつけて帰るんだよ」
少女が喜んでくれた事に頬をゆるめ、軽く頭を撫でる。
指先に触れた『角』は不思議と暖かく、まるで、本物の角のように硬かった。
日だまりの猫のように目を閉じる姿は、何とも言えない愛くるしさがある。
別れを告げてドアを閉めて鍵を下ろし、ベッドに戻ってから。
――――再び、猛烈な勢いでドアが叩かれた。
116 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:46:30.28 ID:UJohCDjpo
男「もー……だからさぁ、こんな夜中に迷惑だってば。早く帰りなよ。怒るよ?」
開ければ、相変わらず少女が立っていた。
少しムッとしたような表情で、顔を突き合わせるなり食ってかかってくる。
淫魔「だ、か、ら! 違うって言ってるでしょ!? 話聞いてますか!?」
男「……『サキュバス』がどうとか?」
淫魔「そーそー、ちゃんと聞いてるじゃないですか。さっきから用件言ってますよね?」
男「『精液』だって?」
淫魔「うんうん。えらいえらい」
男「……こんな事言いたくないんだけどさ」
淫魔「はい」
男「いくらなんでも、『精液』なんて軽々しく口にしちゃだめだよ。『サキュバス』って設定の仮装でもさぁ」
淫魔「もー! 設定じゃないって言ってるでしょ? ほら、これならどうですか!?」
男「おっ!?」
目の前で――少女の翼が一気に数倍の大きさに膨れ上がり、ばさりと翻る。
身体を完全に包み隠せるほどの黒翼が視界いっぱいに広がり、市街の闇さえも飲まれた。
そのまま、ぱたぱたと煽いで見せてくれると――――再び、少女の翼は元の大きさに戻っていく。
117 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:48:22.60 ID:UJohCDjpo
淫魔「へっへーん! どうです? これなら信じてくれますよね!?」
男「ほっ……本当なのか!?」
淫魔「そうそう、その反応が欲しかったんですよ。さーて、入ってもいいですよね? お邪魔しまー……」
敷居をまたごうとして、再び掌で押されて逆戻り。
男「……本当の本当に、サキュバスなのか?」
淫魔「そうですよー。なんなら、ベッドでもっと証明しちゃいますよー」
男「……ふーん、そっか、本当にサキュバスかー…………」
淫魔「どうかしました?」
男「チェンジ」
唾を吐き捨て――無慈悲に鍵を閉め、
だめ押しで椅子を持って来て内側からノブに引っかけてつっかえ棒にして踵を返した。
猛烈なノックと、ドアをガチャガチャやる音に背を向け、奥の寝室へ戻る。
ベッドに潜り込もうとしても、音が止まないので……不機嫌に起き上がって花瓶を手に取り、
玄関のドアへ投げつけて割ると、扉越しに小さな悲鳴が聴こえてからようやく静かになった。
それから数分、寝入った頃に……布団の中に、もぞもぞと動く何かの気配を感じる。
眠さに勝てず、そのまま寝ていようと思ったら……寝巻のズボンを、下ろされた。
何となく足を動かすと、爪先が柔く弾力のある暖かいものに触れた。
ひとまずどうするかと考えた結果――――爪先を使い、それを抓り上げる事にした。
???「いっ……だぁぁぁぁぁ!? いだい、いだいいだいっ!!」
男「うるっさいなぁ。いいから寝かせてくれってば」
布団を思い切りまくり上げて現れたのは、外にいる筈の『サキュバス』だった。
悲鳴じみた声を抗議に変え、見えた黄金の瞳に涙を滲ませて。
淫魔「つねる事ないじゃないですかーっ! 太ももちぎれるかと思いましたよ!」
男「鍵閉めただろ。何でいるんだよ」
淫魔「そりゃ、まぁ……サキュバスですから」
男「だったらドア叩く必要無かったじゃないか。……っていうかチェンジって言ったよね」
淫魔「あ、そうだ! どういう意味なんですか!?」
男「聞いた通り。他のコを呼んでくれるかな」
足首まで下ろされたズボンを上げて、ベッドに腰掛ける。
少女はベッドの上に正座したまま、ぷりぷりと可愛らしく怒っていた。
男「……あれ、もしかしてそういうシステム無いの?」
淫魔「ありませんっ!」
男「あ、そう。……じゃ、帰っていいよ。お疲れー」
淫魔「あああああ、もうっ! テンション低いですよ、低いっ!」
119 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:50:43.26 ID:UJohCDjpo
男「いや、俺別にそういうの飢えてないんで。困ってないんで」
淫魔「こっちが困るんですよーっ! お腹空いたんですってば!」
男「あ、そう。……お菓子、あげたよね?」
淫魔「そっ……それは、別です! お腹が……ああもう、伝わらないぃっ!」
男「……なるほど、分かったよ。精液でいいの?」
淫魔「は、はいっ! くれるんですね!?」
折れたような素振りを見せると、少女の黄金色の瞳がことさらにキラキラと輝き、
砂金の粒を暗闇に舞わせているような錯覚までした。
満更でも無い気分になり――――ベッド脇の水差しとともに置かれたグラスを手に、立ち上がる。
淫魔「どこに行くんですか?」
男「何って、精液でしょ?」
淫魔「あ、はい」
男「だから、トイレで出してくるって。一回分でいいんだよね? あー、でも……出るかなー」
淫魔「ちょっと待った」
120 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:51:18.19 ID:UJohCDjpo
男「今度は何だい」
淫魔「何、じゃないでしょ!? なんでそうなるの!?」
男「だから、新鮮なミルクをあげようと思って……」
淫魔「違うよ! 全っ然違うよ!」
男「うるさいな、何が不満なんだ」
淫魔「な、えっ……? ひょっとして、わたしじゃダメなんですか!?」
男「はい」
淫魔「即答!? 何で? 何でですか!?」
男「んー、まぁとりあえず見た目かな?」
淫魔「えぇぇぇっ!?」
男「いや……君は可愛いと思うよ。でも俺、ちょっと……犯罪は……」
淫魔「だから、サキュバスだってば!?」
男「あぁ、そういえばそんな設定だったかな」
淫魔「設定じゃないですって! もう何なんですかこの空気!? サキュバスのいる空間じゃないですよ!?」
121 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:52:14.87 ID:UJohCDjpo
男「……つまり、どうしたいの?」
淫魔「精液をくれればいいんですよ。サキュバスの栄養源なんです」
男「じゃ、問題ないよね。……それじゃ、ちょっと失礼。すぐ戻るから」
淫魔「待ってって言ってるでしょ!?」
男「なんだよもう、疲れてるんだよ。早く寝たいんだよ」
淫魔「…………」
男「……分かったよ、ここで出せばいいんだな?」
淫魔「ホントに分かってくれました? さ、搾り取っちゃいますよー」
男「いや、恥ずかしいからあっち向いててくれないか? その間に何とか頑張ってみるから」
淫魔「あーーーーーー! もーーーーーーー!」
男「?」
淫魔「お願いしますって。真面目にやってくださいよ!」
男「何言ってんの。真面目に精液あげようとしてるでしょ?」
淫魔「やり方が! 違うの!」
122 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:53:00.02 ID:UJohCDjpo
男「それじゃ、ちょっと訊きたいんだけどさ」
淫魔「はい」
男「君の場合、何人中何人がその気になってくれてるの?」
淫魔「ん、えと……十人いたら、十人」
男「うわぁ……」
淫魔「な、何さっ!?」
男「だってさぁ。こんなちっちゃい子に十人が十人とも発情って。終わってるなー、世界。滅べばいいのにー」
淫魔「ちっちゃくないってば!」
男「君のそういう性格もなんか、やらしい気分になれなくさせるんだよね」
淫魔「…………」
男「……なんか、目が冴えちゃったな。腹減った。何か作れる?」
淫魔「……そしたら、精液くれるの?」
男「真剣に考えるよ。もちろん君の言うとおりの方法で」
淫魔「やります! それじゃ、台所借りますねー!」
123 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:53:52.05 ID:UJohCDjpo
それから、数十分。
淫魔「できましたよ、特製のパン粥です。チーズ使っちゃいましたけどー」
男「いいよ。……うん、見た目は美味そうだね」
淫魔「しつれーですね。さ、召し上がれ!」
勧められ、木の匙で掬い取り、口へ運ぶ。
数回咀嚼して飲み込み、もう一度掬う。
淫魔「……?」
男「……ほら、『あーん』」
淫魔「ちょっ……な、何ですかー!?」
男「俺一人だけ食べるのも変な気分なんだ」
淫魔「わ、分かりましたよ……あ、あーん……」
言われるがままに口で受け止め、淫魔も咀嚼しようとして、目を剥く。
そのまま泡を食ったように立ち上がって、流しの下にあるごみ箱を覗き込むように――――。
淫魔「げ、げほげほげほっ! なんですかこの味っ!? 何入れたんですか!?」
男「俺の台詞」
124 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/05/29(水) 00:54:56.38 ID:UJohCDjpo
淫魔「うぇー……」
男「自信満々だし、見た目も良かったけど……このマズさは酷いな。ネズミぐらいなら殺せるよ」
淫魔「へんな事言わないでください! これでも二百年前から、お料理の勉強してるんですよ!?」
男「二百年かけてできたのは、普通の食材から毒薬を作る驚異の錬金術か。本を書いてみるといい」
淫魔「むぅぅ……」
男「ともかく、君はキッチンに立たない方がいい。人生のムダだ」
淫魔「……あの」
男「?」
淫魔「それでも、どうして食べてくれるんですか?」
男「そりゃ、食べるよ。せっかく、作ってくれたんだから」
淫魔「…………」
男「さて、ご馳走様でした。残ってるなら朝にでも食べるよ」
魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」
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