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料理人と薬学士

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Part6
67 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:50:53.31 ID:1Ke1jIMAO
料理人「あ、薬学士ごめん、お腹空いたよね」グスッ
料理人「はい、これ」
バスケットの中身は半分ほど無くなっていた……
料理人「追加で作ってくる」
薬学士「料理人ちゃん……!」
料理人は薬学士が止める声も聞かずに村へと帰っていった
…………
十年前ーー
料理人は大楠の国の中央に住んでいた
国の名が表す大楠の下、料理人は孤児として暮らしていた
孤児なりに、それなりに幸せに暮らしていたが、やがて酒場の女将さんに引き取られた
女将「私の流派を残すためにな、お前の力を借りたい」
女将が料理人を選んだ理由は魔力が高かったから、それだけであった
その流派、包丁一刀流は子供心にも
料理人「……へん」
で、あった
やがてその便利さに納得するのだが、一つ謎があった
料理人「師匠、なんで柳葉とか出刃とか何本も使うのに、一刀流、なの?」
女将「…………細かい!」
料理人「ええ〜!」
色々とダイナミックな人物だった
料理人「……だったなあ」

68 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:52:25.56 ID:1Ke1jIMAO
たくさんのお客さんがいたが、女将の気性からか、集まってくるお客さんもダイナミックな人ばかりだった
大工や行商人、力仕事が得意そうな人ばかり
そんな人たちに囲まれ、すくすくと
料理人「育ちすぎたなあ……」
料理人が大楠から旅立つ時には、もう女将さんと大して変わらない身長になっていた
料理人「あれが二年前か」
料理人の目の前に、その子供が現れた
…………
最初、迷子かな、と思い近付いた
色々聞く
少女「……」
何も言わない……
お腹が空いているのかも知れない
少女「……この町から出ていけ」
料理人は何か聞き間違えたかと思ったが、敢えては聞き返さなかった
料理人「あのさ、とりあえずうちでご飯食べて行かない?」
少女「いらない」
少女「早くしろ」
料理人は一瞬、どっちかな、と考えた
彼女の言ってる事をまともに受け止めるのが怖かった
料理人は少女を抱き上げると、酒場まで駆けた
少女「……変な奴だな」
酒場に着くと、女将さんが目を丸くした
女将「隠し子?!」
何か色々間違えすぎていてツッコミきれない

69 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:53:21.45 ID:1Ke1jIMAO
女将と三人でご飯を食べた
あまり乗り気で無さそうだったその少女も、女将の料理を見たら目の色が変わった
いや、赤い目は赤い目のままであるが
…………
それから、であろうか、女将がやたらと料理人に旅料理を教えだしたのは
料理人はなんとなく気付いていた
私はここから出されるのだ
しかしあくまで気付かないふりをした
旅立ちの、その時まで
少女と料理人はどんどん仲が良くなった
料理人がどこにいてもついてくる
料理人が何を作ってもニコニコとして食べる
美味しいか聞いても、あまり美味しいとは言ってくれなかったが
時々彼女を抱きしめる
やはり何も言わなかった
彼女が大楠の魔王だと知るのも、女将が最初からそれを知っていた事も、旅立ちの日に分かることになるのだ
その日はあまりにも突然に訪れた
少女と出会い、三カ月ほど経った頃
東の城門で戦闘が始まったとの知らせが届く
その直後、突然女将から免許皆伝を受け、後継者探しの旅に出されることになった
嫌だった
もちろん
分かっていた

70 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:54:20.36 ID:1Ke1jIMAO
お客さんも弟子もこの町で探せばいいではないか、と言えば、この町の人間は自分のものだ、と言う
少し外れの国なら良いだろう、と言えば、広く伝えるためにも遠くに行け、と言われる
料理人「私を愛していないの!?」

言えば
女将「愛しているから、行ってくれ」

言う
もう他の言葉が無かった
旅立ち、街から出ようと言う時、少女は現れた
少女「……私は……魔王狩りに狙われている」
少女「けして、帰ってきてはいかん」
それは
この街が、戦争に呑まれる事を示していた
…………
夜になり、三度料理人は家に帰り、料理を持って現場に戻る
作業は順調に進んでいるようで、魔晶石を溶かしたビンがいくつも並んでいる
これを再結晶化して使うらしい
料理人は秋風を呼ぶと、少し現場から離れる
そして自分の話をした
秋風は、そうか、としか言わなかった
料理人「薬学士の話を聞いてもいいでしょうか?」
秋風「……いいだろう」

71 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:55:39.01 ID:1Ke1jIMAO
その小さな子供は片親だった
初めから孤児だった料理人とは違う
その子は母親の愛情を一身に受けすくすくと……あまり育たなかったが、健康ではあったし、何より明るい子だった
やはり十年ほど前、彼女は母に父のことを聞く
なぜ自分には父親がいないのか
だが、母親は何も言わなかった
それが元で、彼女は泣きながら森に入ってしまった
魔物のいる森だ
母親は必死で探しただろう
秋風「私もたまたまこの村に帰っていた」
秋風「だから森に入り、共に子を探した」
秋風「しかし、入り組んだ森に入った所で、不覚にも母親とはぐれてしまった」
秋風「私がその子を見つけた時には、既に」
秋風「既に冷たくなった母の手に、すがりついて泣いていた」
秋風「私はその子供を見捨てることが出来なかった」
秋風「その頃から可愛かったしな」
秋風「連れて帰って、色々教えた」
秋風「変なこと以外は」
料理人「」


72 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:56:30.05 ID:1Ke1jIMAO
秋風「教えておけば良かったか?」
料理人「そーですね」シャキン
秋風「包丁を抜くな、すまん、聞かなかったことに」
料理人「はい」
秋風「とにかく魔力は殆ど無かったので魔法は早々に諦めた」
秋風「薬や火薬、魔晶石の扱いまで色々と教えた」
秋風「しかしある時、彼女は気付いてしまった」
秋風「哲学者の石を用いなくとも、人を不完全な形ではあるが、不老不死にはできる、と」
料理人「!?」
秋風「更に良くないことに、その力で母親を蘇らせようと考えた」
秋風「しかしそれは無理だ、死の直後ならまだしも、死体も残っていないのでは、な」
料理人「それは私に話して良いこと?」
秋風「……お前は魔王になりたいか?」
……料理人は背筋に冷たい物が走るのを感じた……
料理人「尚更それを話していいの?」
秋風「聞いても困るのはお前だろう?」
料理人「……」
魔王は人工的に創られた存在で
元はただの人間だった……

73 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:57:58.93 ID:1Ke1jIMAO
料理人「……そうか」
料理人「その方法は簡単だ」
秋風「そうだな」
秋風「手法にあれこれは有るが原理は分かり易い」
料理人「しかしその瞬間、死ねなくなる……死ねば破壊神が現れるから……」
料理人「あそこにある魔晶石でも……破壊神は現れるの?」
秋風「そうだな」
秋風「殺されなければ破壊神は現れないとは言っても、人間爆弾になって街中で暮らすのはなかなかにキツいものだ」
料理人「大楠の魔王も……?」
秋風「当然だな」
料理人「人間を魔法剣に加工するようなものだね……」
秋風「まあな」
料理人「だからあなたは指輪も何も持っていないのに魔法を使えるんだ……」
秋風「そう言うことだな」
料理人「人には戻れないの?」
秋風「……死ぬだろうな……そして破壊神もオマケで現れるだろう」
料理人「死なないし死ねない」
秋風「例えば頭を失っても生える」
料理人「……」
秋風「殺す方法も分かるはず」
料理人「魔晶石の破壊……」
秋風「そうだな」
料理人「だけどそうすると破壊神と戦わねばならない」
秋風「概ねその通り」

74 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:59:09.20 ID:1Ke1jIMAO
料理人「破壊神って何?」
秋風「うむ」
秋風「そうだな、簡単に言えば」
秋風「暴走する高密度の精霊、か?」
料理人「どうして魔王狩りなんてのがいるの?」
秋風「さあな、ただの力自慢か」
秋風「何らかの方法で破壊神の力を取り込んでいるか……かもな」
料理人「……それだと魔王狩りの持つ魔晶石はずいぶん凶悪な破壊神になりそうね」
秋風「……倒す気か?」
料理人「まさか、そこまでは強くないよ」
料理人「……祖国を滅ぼされた恨みはあるけれど、ね」
秋風「……」
秋風「やはり話すべきでは無かったか」
料理人「……」
秋風「学者、変わろう」
学者「はいやぁ〜」
料理人「夕食食べてないでしょ、昼と似たようなものだけど食べて」
学者「ありがたし!」
薬学士がこっちを見て涎を垂らしている
可愛い

75 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 22:00:10.67 ID:1Ke1jIMAO
結局作業は夜が明けるまで続いた
小瓶が足りなくなり、何度か取りに帰った
もう多分薬学士の家にも学者の家にもビンは残ってないだろうな、と言う数である
持って帰るのも大変そうだ
半分程は秋風が、更に半分は南港に分ける
秋風の物から薬学士、学者の取り分を渡す
量が思ったより多かったため、換金用も含め10個ずつもらえた
料理人「秋風さんはこれをどうするの?」
秋風「浄化法を探ってみる」
秋風「これだけ大きな物がまた現れないとは限らないからな」
料理人「どこか分からない所で爆発したりしないかな?」
秋風「有り得るから怖い」
薬学士「とりあえず帰って寝ましょう〜」
薬学士も学者も、既に限界のようだ
…………
幸いなことにベッドが着いていた
秋風は南港に出掛ける予定があるため、学者の家に泊まった
よし、健全だ!
ベッドを空き部屋に設置すると、すぐに飛び込んだ

76 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 22:01:43.06 ID:1Ke1jIMAO
料理人は昼頃に目を覚ました
料理人「……」
料理人「なんか普通にこの家で暮らすことになっちゃったな」
料理人「留守番も全然してないし」
料理人「薬学士の迷惑になってないかな……」
料理人「……そして何故君はここで寝ているのか」
薬学士「……」スヤスヤ
料理人「……」
しがみついて離れてくれない
料理人「ま、いっか」
頭を撫でると、なんだか気持ち良さげである
薬学士「んん……」
薬学士「……」
薬学士「あ」
あ、ではない
どうやら少し料理人の布団に入ってみたら、そのまま眠ってしまったらしかった
料理人(愛されてるなあ……)
料理人(まだ一週間しか一緒にいないのに)
薬学士「……」ギュッ
料理人(まだ寝ぼけてるな、これは)
薬学士「……ご飯」
料理人(可愛いなこのペット)
そう思うことにした

77 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 22:03:20.79 ID:1Ke1jIMAO
夕方、秋風は南港に出掛けた
薬学士は再結晶化をするために部屋に籠もった
料理人は最初の約束通りに留守番しながら、夕食を作る
料理人「何人分作れば良いんだ……?」
とりあえず、五人前大皿料理を作ることにした
料理人(うん、余ったら明日も食べられるし、カレー鍋作ろう)
料理人(あとはハンバーグ焼いて、サラダだな)
料理人(肉ばっかりもアレだし……塩漬け肉は今日は出番無いな〜)
その時、来客が有ったようだ
トントン、とノックする音がする
料理人「は〜い」
秋風(ただいま〜)
料理人「なんだ秋風さん、入ればいいのに」
秋風(ちょっと手が塞がってる)
料理人「? 待ってて、今開けるから」
扉を開くと、また知らない女の子を抱えて秋風が入ってくる
料理人「モテモテ?」
秋風「こんな奴にモテたくないな」
どうやら、彼女が南港の魔王のようである
赤い髪をツインテールにしていて、薬学士くらいの小柄で可愛い
なんだか秋風魔王と似ていて、姉妹に見えてしまう
秋風「心外であると言っておこう」

78 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 22:04:05.86 ID:1Ke1jIMAO
南港「……」
料理人「ん?」
どうやら目を覚ましたようだ
南港「ちっぱいじゃのう」
料理人「」
南港「腹が減った秋風」
秋風「待て、今こいつが美味いもの作ってくれるから」
南港「ちっぱいカレーか?」クンクン
料理人「魔王ってちょっと刺してもすぐ治るんだよね?」
秋風「勘弁してやってくれ」
南港「なんじゃ、儂は目上じゃぞい」
南港「ロリっぽいが二百近いんじゃ」
南港「敬うが良いぞ」
料理人「……」ペシッ
料理人のデコピンが南港の魔王の小さな額にクリーンヒットする
南港「いだっ!」
南港「凶暴なのじゃ〜!」シクシク
料理人「ウゼエ」
秋風「その気持ちを大事にして欲しい、そう思いました」
料理人「まさか歩けないから負ぶってくれと言われたとか」
秋風「千里眼だな」
料理人「いや、普通に分かるけど」
結局秋風は無数のビンを入れたバッグを両手に、南港の魔王を背中に、帰ってきた
料理人「涙を誘う話だね」
南港「魔王狩りが近付いてるらしいから逃げてきたんじゃ」

79 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 22:05:02.26 ID:1Ke1jIMAO
料理人「ほ、本当に?」
秋風「そう言う噂だ」
秋風「だが噂であれ、用心に越したことはないだろ?」
南港「タダでさえヤバいのに、こやつこんなヤバいクスリ持ってきおってからに」
料理人「表現に少し気を使え」ピシッ
南港「ふきっ!」
南港「もうデコピンは嫌じゃ〜!」
……ちょっと可愛いな
魔王も色々、か、と料理人は少し疲れてうなだれた
南港「南港のみんなは儂に良くしてくれたんじゃぞ」
南港「儂は偉そうにふんぞり返っておったらいかやきもたこやきも思うがままじゃったぞ!」
料理人「なんだろう、全く羨ましくない」
秋風「甘やかされてるなあ本当に」
秋風「しゃべり方も気取り過ぎだろう」
南港「お前が色気無いんじゃ! 時代はロリ婆なんじゃぞ!」
料理人(自分で婆って言った)
秋風「お前が婆なら私も婆になってしまうだろ!」
料理人(いや、二百手前だろ)
薬学士「お腹減った……」
料理人(小動物が増えた)