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料理人と薬学士

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Part4
40 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:59:54.51 ID:IlYXT6yAO
翌日ーー
四人は木のまばらな小川を、峡谷に向かい歩く
少し疲れたのか、みんな無口になっている
料理人の荷物は、少し軽くなっていた
歩くのは楽だが、それは食料や水が少なくなっていると言うことを示してもいた
いざとなればこの川の水は使える
川に小魚がいるのが見えたので、峡谷の入り口でそれを釣るのも良い
峡谷の入り口に辿り着いたのは日が暮れる少し前だった
料理人(だいぶみんな参ってるみたいだな)
料理人(干し肉でリゾットを作って、薬草を香草のかわりに使ってみるか……)
薬学士「疲労回復薬飲む?」
料理人「ああ、一つもらうよ」
薬学士「帰りの分はあるから、みんなも飲んでね」
学者「ありがたや」
狩人「いただきます」
全員に回復薬を渡すと、薬学士は自分でも一つ飲んだ
よっぽど皆、疲れているのだろう
しかしその夜は、まず料理人を眠らせてから、三人で見張りすることに決めた
薬学士「料理人ちゃん絶対無理しちゃうからね」
狩人「お二人も寝て良いですよ」
薬学士「私は二番目に起こしてね、最後に学者ちゃんで」
学者「ちゃんと起こしてくだしいよぅ?」
薬学士「……」
学者「やっぱり」

41 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 04:01:40.83 ID:IlYXT6yAO
学者「うちは無理する人ばっかりですにゃん」
狩人「明日には目的地に着くんですから、無理は禁物です」
薬学士「うん」
学者「じゃあ、くれぐれもちゃんと起こしてくだせえ! お休みなさいですわ〜」
その日は三人できっちり交代したが、翌朝起きた料理人はやはり少し不機嫌だった
料理人「仲間外れ……」
薬学士「じゃないよっ!」
料理人「もう、頑張って料理しちゃうからね!」
学者「楽しみですなあ」
狩人「うん!」
狩人が夜の間に釣り上げた魚を塩焼きとスープにする
更にその魚ほぐし、ご飯と一緒にバターとニンニクで炒め、香草を振る
食後に紅茶を入れる
食材は乏しいながらも、三人は十分に満足できた
少し食休みの後、渓谷を進んでいく
元気を回復した四人は、昼過ぎには目的地、秋風峡谷の魔王の家に辿り着いたのだった

42 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 04:06:59.62 ID:IlYXT6yAO
第一章、「料理人と薬学士」 完
次回
旅の果て、現れた秋風峡谷の魔王
秋風の語る薬学士の過去
そして謎の魔晶石の正体とは……
やがて村に忍び寄る不穏な空気……
第二章「料理人と魔晶石」
力……それは争いの火種……

43 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/02/14(金) 11:04:08.56 ID:Vb4xhP/2o
支援おつ。

44 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/02/15(土) 14:53:01.22 ID:GGHa3h3+0
続編かな?
期待。


45 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 20:59:11.46 ID:1Ke1jIMAO
更新します
支援ありがとうございます!
>>44
以前書いていたのとは別の時代(千年前とか)か違う世界と言う設定です
誰かレシピ教えてください!

46 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:01:55.56 ID:1Ke1jIMAO
第二章「料理人と魔晶石」
ーーーー
戦争が始まった
いつもエールを飲みながら無敵の筋肉が弾ける程に笑っていた親方
親方に乗りかかるように笑う隻眼の大工さん
それを見て苦笑しながらもその空気を愛していた漁師さん
傍らで微笑む小さな女の子
女将さん……
分かっていた
永遠なんて
永遠なんて無い
…………
薬学士「料理人ちゃん、おはよー!」
可愛い妖精が私の眠気を払いのける
料理人「……おはよ……」
料理人は薬学士の声で目覚めた
強制的に起こされたら例え相手が妖精でも若干は不快感を催すはずだが、そんな感覚が一切ない
寝過ぎた……
つまりそれは、
料理人「あ、見張りしてない……」
…………
料理人は自分だけ仲間外れ、と愚痴ったものの自分も同じことをうにうにしている学者にしていたのを思い出す
因果応報、自業自得、身から出た錆、世の中にはたくさん言葉があるものだ
料理人は薬学士を抱き締めて、すっかり目を覚ます
非常にほわほわ、柔らかい
……薬学士が全く嫌がらないばかりか、リラックスした猫のように腕の中で伸びをするのはどうかと思うが

47 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:03:51.98 ID:1Ke1jIMAO
料理人は出会って一週間のパーティーに酷く依存しているのを感じていた
人から逃れて田舎に来ていたはずが
『人間が好き』
その事実は変えられないようだ
自分はどうあっても自分なのだ
どんなに自分を嫌い、追い詰めようとしても……
…………
今日、彼女たちは峡谷を歩く
秋風峡谷と呼ばれる絶壁の中程に、少し広い盆地がある
そこに建っている小屋
そこが四人の目的地だ
良く寝たことと昨日回復薬を飲んだことが効いているのか、不思議なほど疲れを感じない
皆も驚くほど健脚を取り戻している
薬学士「今日のご飯も美味しかったから元気いっぱいだよ〜」
などと可愛いことを言ってくれる妖精もいるが
しかし目的地に近付くに連れ、その晴天の笑顔にぽつぽつ曇が出てくる
料理人はこの旅の途中に考えたことを思い出していた
薬学士は何故、ここまで険しい道を幼くして乗り越え、また帰って行ったのか
秋風峡谷の魔王に会えば、その答えが分かるかも知れない
しかし、薬学士の様子を見ると決して自由に触れて良い類の話でもなさそうだった

48 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:06:36.61 ID:1Ke1jIMAO
そこは魔王の住処とは思えないほど、小さな小屋である
小屋の前には畑があり、そこで作業する女性の姿がある
薬学士「お師匠さまあ〜!」
この女性が
秋風峡谷の魔王ーー
…………
薬学士は悩み始めていた
自分は秋風に……
許してもらえるのだろうか
あの頃のようには、あの事に、もう執着はない
何より過去に捕らわれ、大切な家族を二度も失ってしまったのだ……
薬学士の心には、彼女にもう一度突き放される恐怖と、逆にまた会える喜び、複雑なその二つの感情が渦を巻いていた
隣を歩いてくれる料理人の手を握る
かなり依存している
……不快では無かろうか、気持ち悪いと思われているだろうか?
またこの家族を、失うのは嫌だ
だから離したくない
抱きしめていたい
そこには邪な感情など無いのだ
だけど表情に出さないだけで、ひょっとしたら嫌がられているかも知れない
しかし笑顔で微笑みかければ、必ずにっこり笑顔で返してくれる……
…………
秋風峡谷の魔王を見ると、薬学士は精一杯元気に声をかけた
魔王はゆっくりとこちらを見上げると
薬学士に笑顔をくれた

49 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:09:19.08 ID:1Ke1jIMAO
秋風「お帰り、不肖の弟子」
その顔を見た途端、薬学士は弾けるように走り出す
強く抱きしめあう二人
薬学士「お師匠さま、お師匠さま……」
いつも明るい薬学士の涙
彼女と出会って日の浅い料理人も、長い付き合いの狩人と学者も、そんな風に人目も憚らず号泣する彼女を見たことがなかった
料理人(なんか……何故私はもやっとしているのか……)
…………
秋風「なるほど、そんな物があったらキミも帰ってくるだろうな」
秋風「だが、私はキミを破門したはずだけれど」
その言葉を聞くと、薬学士がビクッと震える
秋風「もう一年以上になるか……頭は冷えたか?」
秋風の名が示すような高く透き通った声
赤い髪と瞳を除けば、私たちとまるで変わらない
料理人は魔王に会ったのが初めてでは無かったが、みんなこんなにか弱い存在なのか、と思うほど
彼女も細身で小さい
料理人(いや、私がデカいだけだけど)グスッ
彼女も一応学者くらいの背丈はある
しかし料理人はこういう可憐な女性に会う度にこうなりたい、と思う

50 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:13:04.57 ID:1Ke1jIMAO
秋風魔王の小屋で、料理人は台所を借りることにした
どこから手に入れたのか、新鮮な野菜や肉が置いてある
しかもそれはひんやり冷えた箱の中に入っていた
料理人(これ、冷蔵庫って奴だ、うわっ、欲しい)
さっそく腕を振るうべく、目を閉じイメージを固める
可愛い薬学士を守る料理だ……何故かそう思った
温かいメニューを選ぼう
まずメインにシチュー
ポークソテー
トラウトの手鞠寿司
ポテトサラダ
この辺りを中心に行こう
決めると流れるように動き出す料理人
あまりの手際の良さに秋風も目を丸くしている
様々な料理があっと言う間にテーブルに並ぶ
秋風「魔王のごとくだな」
いや、魔王はあなたです
全員で心の中でツッコむ
そういえばあの魔王はシチューが好きだったな、料理人は思い返す
自分でも泣き虫なのは知っているので、涙が出る前に記憶の端に押しやった
秋風「こんなちゃんとした飯を食うのはいつぶりだろう」
秋風「ワインを開けよう、そこのメガネのキミは飲めるか?」
学者「はいな!」
とても元気な返事である
だいぶ強いのかも知れない
秋風「良かった、独りで飲むのはつまらないからな」

51 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:16:32.18 ID:1Ke1jIMAO
しかし、これは上手く行きそうだ
料理人は少し気が楽になった
料理人(彼女がお酒を飲むなら、若干濃いめの味の物も用意するか)
…………
秋風は見た目とは裏腹に、意外と大食だった
この師にして、この弟子あり、と言うことか
お腹が落ち着くとリラックスするものだ
薬学士はゆっくりと口を開いた
薬学士「もうあの事に未練はありません」
……皆が少し静かになる
すると
秋風「うぐっ、えぐっえっ……」
秋風の魔王は泣き上戸だったようだ
秋風「ごめんね不肖の弟子ぃ……」
グズグズに泣き崩れながら薬学士を抱き締める
薬学士の大きな目にも一杯の涙が溜まっている
料理人は心の中で小さくガッツポーズしていた
…………
秋風「ん……、その魔晶石、外殻はどうなっていた?」
秋風の言葉に二人が大きく目を見開く
学者「外殻……!」
薬学士「!」
薬学士「そうか、あれだけ大きな魔晶石でも基本的に……」
秋風「そう、魔晶石は外気に触れると無闇に精霊反応を起こさないように外殻を作る」
秋風「物によるが外殻が大部分で、実際使える量は半分から四分の1しかないってこともある」

52 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:18:37.01 ID:1Ke1jIMAO
秋風「逆に言えば外殻を作らなかった魔晶石は精霊になって蒸発してしまう」
秋風「私の推測では」
秋風の目が二人を見ると、ごくりと唾を飲む音が聞こえる
秋風「それは群体ではないかな?」
学者「群体っつーとあのボルボックスとかの奴ですかい?」
秋風「それとは若干違うかな」
薬学士「でもお師匠さま、確かに天然魔晶石は魔法菌が特定の地質に反応して結晶化する事は分かってますが」
薬学士「私は魔法菌が群体を作った話は聞いたことがありません」
秋風「うん、非常にレアなケースだな」
秋風「だが私は百年ほど前にそう言った話を聞いたことがある」
料理人「」
料理人「ひひ、百年?!」
やはり目の前にいるのは魔王なのだ、料理人は初めて理解した
秋風「まあ魔王だしな、こう見えても二百が近いぞ」
秋風「それの処理はだな、まず外殻を溶剤で溶かす」
秋風「この時あまり広い範囲を溶かすと爆発の危険がある」
秋風「ある程度溶かしたら、次に薄めた溶剤、しばらく置いたら続いて安定剤を注ぐ」
秋風「こうして少しずつバラしていく」
料理人には全く掴めない話だが、薬学士と学者はメモを取りつつ大きく頷いている

53 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:29:24.62 ID:1Ke1jIMAO
秋風「それだけ大きいなら外殻がかなり厚いはずだからそこに気をつける」
…………
秋風「あとだな」
秋風は何故か料理人の方をちらりと見た
秋風「そんな多量の魔晶石を置いていたら、どこぞの魔王が攻めてくるぞ」
秋風「出来るだけ上手にさばけ」
最後の話は料理人にも狩人にも理解が出来た
薬学士「お師匠さまもいくらか預かってくれますか?」
秋風「いいよ、もらおう」
秋風「処理には私も立ち会おう」
魔晶石……それがあれば魔法剣を作ったり万能薬を作ったり出来るらしい
料理人はあの魔晶石の大きさを思い出していた
あれだけあれば小規模な軍隊なら全員に魔法剣を持たせるようなこともできるかも知れない
それは実質的に世界を手に入れるにも等しいだろう
料理人はようやく話の重大さに気付いた

54 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:30:16.35 ID:1Ke1jIMAO
秋風「南港の魔王にも話をつけておいてやる」
秋風「まあ不肖の弟子は三つくらい持っておいて、研究にでも使え」
……それは破門した弟子の復帰を許すと言うことに他ならない
薬学士は手を口に当てて、声を抑え泣いた
料理人は彼女を抱きしめた……
秋風「あれ、そう言う関係?」
料理人「違います」
薬学士「///」
料理人(なぜそこで赤くなるのか、可愛いではないか)
料理人は一瞬悪代官な気分になった
秋風「帰りは美味い飯の駄賃に私が送ってやる」
秋風「不肖の弟子も魔法ぐらい使えたら良かったのだがな」
魔法を使える人間は、実に少ない
料理人にしても、僅かに魔法の刃を作る程度である
基本的に魔法使いは精霊と契約した上で、魔法の指輪などを装備しなければ魔法を使えない
料理人のそれは、鍛鉄を介し魔力を放つだけのもので、殆ど魔法とは呼べない代物である

55 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:31:35.28 ID:1Ke1jIMAO
その日は秋風の小屋の中で寝ることになった
しかし、狭い上にベッドも二つしかない
今更ながらこういった家具をどうやって運んだのか気になったので料理人は秋風に聞いてみた
秋風「魔法で」
魔法便利だな
料理人「私も普通に魔法を覚えておけば良かったかな?」
包丁一刀流の門下としては包丁で使えない魔法を使うわけにはいかないが
学者「妙なこだわりでおじゃるな」
妙なのは学者の話し方だ
薬学士「私でも大型の魔晶石を使えば魔法が使えますけど……」
秋風「それは誰でもだからな」
狩人「僕にも使えるんですか?」
秋風「魔法剣を振るようなものだ」
狩人「なるほど……」
料理人「つまりあの魔晶石を解体したらみんな魔法使いか」
秋風「だから恐ろしいんだ」
秋風「魔王が奪い合う種になるのも分かるだろう」
料理人「それも当然か……」
秋風「さて、皆、もう休め」
薬学士「はい」
秋風の魔王は、可愛い不肖の弟子を抱きしめて、頭を撫でた
料理人「で、どこで寝ようか?」