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料理人と薬学士

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Part18
228 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:15:06.48 ID:exuFE9LAO
鉄斧「どれ、道を開けてもらうか」
鉄斧の魔王はここが見せ場、とばかり鉄斧で大地を叩く
鉄斧「はああっ!」
土を自在に操る鉄斧の一撃により、砦までの道を取り囲むように岩の柱が立ち並ぶ
小冠「じゃあ中から開けるよ!」
小冠の魔王は一つ地面を蹴ると、敵の門をあっさり飛び越える
しばらくして、門が開く
魔王狩りが何か行動を起こす間もなく、北砦は落ちた
…………
魔王狩り「……はあ……」
魔王狩り「勇者様の前に魔王さんが二人でお越しか」
秋風「ああ、もう戦いは終わった」
秋風「自爆するか?」
魔王狩り「……いや」
魔王狩り「見越してやがるな」
秋風「少人数では目的は果たせないんだろ?」
大剣「馬鹿とは言え、俺の弟が全く動かない北終の魔王に命かけて媚びへつらっているとも思えんしな」
魔王狩り「糞兄貴……」
料理人「ちょっと良い?」
秋風「なんだ?」
料理人「私は私の戦いの為にここに来た」
料理人「ここは私の故郷でさ」
魔王狩り「敵討ちか?」
魔王狩り「人如きが?」
料理人「ああ……剣を交える訳じゃない、料理を作らせてもらう」
料理人「ここの……大楠の郷土料理だ」

229 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:17:23.40 ID:exuFE9LAO
魔王狩り「……!」
料理人「本当は秋風に食わせようと思ったんだが、みんなで食ってくれ」
料理人「少し厨房を借りるよ?」
秋風「じゃあ、その間に話してもらおうか」
大剣「なんのつもりで魔王狩り戦争なんかやらかした?」
魔王狩り「……北終の版図拡大」
大剣「はあ?」
秋風「前回の大戦の結果は知っているはずだ」
秋風「本当に狂ったのか?」
魔王狩り「早まるな、それは北終の豚の目的だ」
魔王狩り「だいたい前大戦は遥かに南でやってたんだ、北終の魔王が戦に関わってなくても不思議ではあるまい」
秋風「何故止めなかった!」
魔王狩り「俺には二つの目的がある」
魔王狩り「腕試しとほんの少しの嫌がらせだ」
秋風「……嫌がらせ……」
大剣「やはり女神を呼び出してやろうって腹積もりか」
大剣「しかし、嫌がらせだと?」
魔王狩り「あのインチキ女神がママさんを殺したのは間違いないんだ」
秋風「それは違うぞ!」
魔王狩り「違わないんだよ、俺の中では!」

230 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:22:39.25 ID:exuFE9LAO
魔王狩り「いいか、あの糞魔女に何人同朋が殺されたと思う!」
魔王狩り「ママさんは仲間を救うために前線に出て敵に撃たれたんだ!」
魔王狩り「ちょっと嫌がらせするくらい良いだろう!」
秋風「そんなことのために同じ師匠の家の同胞を、大楠を殺したのか!」
魔王狩り「奴は自殺したんだ!」
魔王狩り「目の前で……俺だって死ぬかと思ったほどの大魔力を……自分の魔晶石に入れて……」
秋風「……自爆……!」
魔王狩り「後悔もした、だがもう始めてしまった! もう引けないんだ!」
魔王狩り「いいか、あの魔女はオレ達がどうやっても、奴には適わないことを知らしめた」
魔王狩り「それはこの体制のまま、五百人の魔王で破壊神を押さえ込む体制のまま、一切変える気はない、と言う意思表示だ」
魔王狩り「だが生きるってことは辛いことだろ! 例え魔王と呼ばれる力を持っていようと!」
魔王狩り「オレの目的は、まずその構造的欠陥を魔女に思い知らせることで、たかだか百年で押さえ込みが破綻することを見せつけ」
魔王狩り「奴に新しいシステムを、より痛みの少ないシステムを構築させることだ!」

231 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:25:38.73 ID:exuFE9LAO
魔王狩り「あの魔女に!」
魔王狩り「犬として鎖に繋がれ、死ぬより辛い生を味わわされ!」
魔王狩り「それでも生きるのが良いと言うのか!」
魔王は、枷……
秋風には魔王狩りの苦しみが痛いほど解る
秋風「……」
秋風「はっきりと言わせてもらう」
秋風「私は、それでも生きたい」
魔王狩り「!」
魔王狩り「そうかよ……」
魔王狩りは秋風の言葉を聞き、苛立ちをかみ殺すと、席を立ち、部屋を出ようとする
大剣「待て」
大剣「お前に復讐したがってる奴がいるだろ」
魔王狩り「……」
秋風「どうせ死ぬ気なら、せめて一太刀食らってやってくれ」
魔王狩り「……」
魔王狩りは何も言わず、その場に座り込んだ
……やがて、柔らかく甘い香りが漂ってくる
…………
料理人「東に出汁があるなら、西にはフォン、ブイヨンがある」
料理人「大楠風のビーフシチューだ」
料理人「さんざん待たせて悪いが、これが私に作れる最高の料理だ」
料理人の意気込みは見えるが、意図はまるで分からない
魔王狩りは少し苛立っていたが、優しい香りが鼻をくすぐる
料理人の料理を戦闘スタイルで言うならパワータイプだろう

232 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:28:40.17 ID:exuFE9LAO
しかし、それはひたすらに優しさを
荒れる魔王の心を包むほどの優しさを
魔王狩りの胸の奥に届ける
魔王狩りはようやくスプーンを取り、なんの変哲もなさそうなビーフシチューを啜った
秋風「美味い……これ」
大剣「おお、シンプルなのにうめえ!」
料理人「ベースに東の森産の葡萄を使った、甘い香りのアルコール度数の高いワインを使ってるんだ」
料理人「これは二年前の、だね」
魔王狩り「……!」
料理人「……」
料理人は思った
……届け、私の刃
魔王狩り「……」
魔王狩りと呼ばれた魔王、大剣の魔王の弟は拳を握り締める
魔王狩り「……っあったけえ……」
呟く魔王狩りを見て、料理人は、心の中でガッツポーズした
料理人「……生きてたら私の料理より美味い料理にもいっぱい会えるよ?」
料理人「生きないか? ……私たちと一緒に!」
料理人の刃は、確かに魔王狩りに届いている
……しかし
魔王狩り「……無理だ……」
料理人「……で、でも……」
魔王狩り「…………すまなかった」
魔王狩りは席を立つ
そしてそのまま……
魔王狩りは北終の国へと帰って行った


233 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:31:09.98 ID:exuFE9LAO
エピローグーー
北終の魔王は幾つもの魔晶石をひたすらにその腹に蓄えて行った
百を超え、そろそろ二百を超える
魔晶石は危険な爆弾である
自らの肉に爆弾を埋め込み、いたずらに攻撃を受けることを防ぐための策であると共に、体内で濃縮される魔晶石が哲学者の石になることに期待していたのだ
哲学者の石があれば、神になれる
北終「わしは……しなん……わしは……しなん……」
北終に帰還した魔王狩りには、自らの目的を果たす術があった
料理人の料理の温もりは、魔王狩りに生きる希望を与えたが、それは逆に自らが大楠の魔王の命を奪った事実を思い知らせ、彼を苦しめた
自殺する気はない
なにより、北終の魔王を倒しても、その破壊神が現れる
それを倒さねばならない
魔王狩り「ごきげんよう、豚野郎」
北終「……わしは……しなん……わしは……しなん……」
どうやら多数の魔晶石は濃縮するどころか体内で反発を起こしているようだ
ぶくぶくと太った肉体からぽつぽつと魔晶石が吹き出物のように飛び出している
そのグロテスクな見た目の魔王に、魔王狩りは躊躇無く刃を振り下ろし、最後の魔王を狩った

234 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:34:00.05 ID:exuFE9LAO
…………
料理人たちは高山麓に帰ってきていた
風の噂に北終の魔王が倒れたことを知る
戦争は終わった
魔晶石狩りを剣士や騎士たちが炙り出して殲滅したり、後始末で幾つかの小競り合いや事件はあった
しかし、料理人は平和を取り戻していた
小冠「やっぱり料理人ちゃんの料理好き〜!」
南港「それは儂のハンバーグなのじゃ!」
薬学士「私が作ったのも食べてよ〜!」
秋風「弟子はまだまだ未熟」
東磯「美味い、好き」
西浜「……」フフ
大剣「うん、うめえ」
鉄斧「次に来る時はワシもなんか獣狩って来よう」
学者「なぜ魔王大集合になってるでやすか……?」
狩人「平和になったんですよ!」
料理人「そうだね!」
残念なことがあるとすれば、ここに大楠の魔王や魔王狩りが居ないことだろう
お世話になった人たちにまたご馳走もしたい
女神が現れた話は聞かない
魔王たちは魔王化の研究を進めているが、ほんの少し決定打を欠いていた
しかし
みんなと一緒なら、楽しい
それはこの先どうなるとしても、きっと魔王達の心に
ずっと幸せな記憶として、息づいていくことだろう
ーー終わりーー

235 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:40:14.89 ID:exuFE9LAO
ああ、終わりました、たぶん
ここまで駄文を読んで下さった皆さん、ありがとうございます
これは書いてる時に滅茶苦茶調べることがありました
書き方も途中で色々変わりました
勉強になりました
途中で切れなかったらもう少しマシになったかも……でも後の祭りですね
まだおまけみたいなのは有りますが、疲れたので寝ます
お休みなさい

236 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/03/21(金) 03:01:31.44 ID:hcQ9fzOu0
乙乙!

237 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 11:34:07.53 ID:exuFE9LAO
おまけ
小冠「そう言えばなんで南港は三十年もうちに来なかったの?」
高塔王「うちの長男が生まれた頃ですな」
小冠「その頃って王様にベタベタだったじゃない」
南港「うむ……」
料理人「そりゃ寂しかったんだろ、甘えてた人が他の子に取られて」
小冠「あー」
高塔王「なるほど」
秋風「私の事言えないな」
南港「う、うっさいわ!」
南港「その頃はじゃなあ、西浜の奴が五十年前の事件もあって儂を監視してて」
西浜「……」ム
料理人「はっきり怒ってるぞ」
薬学士「要するに南港ちゃんは甘えん坊なんだねえ」
高塔王「それだけではないと思いますぞ」
小冠「あれ、王様くん南港ちゃん庇っちゃう?」
高塔王「いや……、私たちが普通に年を重ね、子をなし、老い、生活を続けて、やがては先に死んでいく」
高塔王「取り残されるようで寂しかったんでしょう」
東磯「……だろうな」
小冠「ボク取り残されてるのー?」
秋風「魔王はだいたい取り残されてるだろ」
薬学士「かと言って自分で取り残されるのは禁止です!」
料理人「寂しがり屋の癖に一人で生きたがるとかマゾなの?」
秋風「な、私は総合的に考えてだな!」

238 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 11:36:10.79 ID:exuFE9LAO
薬学士「マゾ魔王!マゾ魔王!」
学者「薬学士殿攻撃力高い」
秋風「だってみんなに死んで欲しくないもん」
料理人「もん、は無いな」
狩人「そこ?!」
薬学士「みんな生まれた時は違うけど死ぬ時は一緒だよ!」
学者「桃園の誓いでやすかあ?」
鉄斧「ワシ黄忠ポジションじゃな」
大剣「何言ってんのか分かんねえよ」
高塔王「そう言えば大剣の魔王様は外交関係もあるのにほとんどうちには来てくれませんな」
小冠「ボクの事が苦手なのかな〜? くすぐるぞぉ〜?」
大剣「それで苦手に思われてないと思ってるのかよ」
鉄斧「ワシにも容赦なく若者の付き合いを強いるからのう」
小冠「なんだとぉ〜?」
小冠の魔王は二人を半日くすぐり倒した
秋風(私もすっごい苦手だけど黙っていよう……)
その日も、魔王も人も関係なく、薬学士の家では笑い声が響いていた
ーーやがて料理人たちも魔王になり、新しい家族との生活を始めるのだが、それはまた、別のお話…………

240 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/03/21(金) 21:27:04.17 ID:hcQ9fzOu0
乙乙!