料理人と薬学士
Part3
28 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:13:05.99 ID:IlYXT6yAO
四人は深い森を進む
女性三人を守るように狩人が前を歩く
途中、急に弓矢を放ったかと思うと、森の中に駆け入り、山鳩を持って帰ってきた
学者「おほうっ、食料げっと!」
料理人「狩人くんがいると楽勝な気がするなあ」
薬学士「頼もしいね!」
狩人「あう……///」
四人は川に辿り着くと湖を目指し上っていく
料理人「学者さん、大丈夫?」
学者「いやあ、私は荷物少ないし楽勝でっせ!」
薬学士「魔物もあまり遭遇しないし、思ったより早く着くかも……」
そんな話をしていると、魔物が出てくるものである
魔物「ぐるる……」
学者「あれは食えないよ?」
料理人「魔物は毒あるからね」
狩人「……いっぱいいます」
薬学士「囲まれたかも」
料理人「!」
周囲から忍び寄る大型含む十数頭の魔物……
薬学士「えいっ」
薬学士は可愛い掛け声と共に黄色い玉を森に投げ込んだ
響く轟音と閃光ーー
学者「うひゃあああああああっ」
料理人「うおおっ」
狩人「こっ、これは……」
薬学士「みんな目を瞑って!」
料理人「……さ、先に言ってね?」
29 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:16:06.95 ID:IlYXT6yAO
その黄色い玉は比較的野生動物に近い魔物を驚かせ、退かせるための閃光衝撃弾であった
四人は大した戦闘をすることなく、この場を切り抜けた
料理人「慣れてるなあ」
学者「ふひひ、私も作り方教わりたいですなあ」
狩人「頼もしいね〜」
薬学士「まだいっぱいあるよ〜」
薬学士の戦闘能力は、パーティーで最も高いかも知れない
しかし弾数に制限がある以上、頼りきるわけにもいかない
料理人の提案で、敵が少数なら物理的に戦って切り抜けることに決めた
湖に着くまでに、数度の肉弾戦をこなし、数発の魔法弾を使った
料理人「湖が見えてきたぞ」
学者「いやあ、さすがに疲れましたあ」
料理人「昼も食べてないからな、さっきの鳩で料理しよう」
狩人「僕は魚を釣ってきます」
料理人「なんと言う食料確保要員」
薬学士「料理人ちゃんもいるし楽しく旅ができちゃうなあ」
学者「強力な魔物が居なければいいんですがにい」
料理人「怪我人が出れば途中帰還も考えないと駄目か……」
料理人は火をおこすと、台を作り、鍋を乗せる
学者「鍋を常備するあたり、流石料理人」
薬学士「わくわくする!」
30 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:20:46.24 ID:IlYXT6yAO
料理人「焼き物もできるように厚手の片手鍋を持ってきた」
学者「重かったんじゃないですかあ?」
薬学士「あ、そうだ」
薬学士はその背丈の半分は有りそうなリュックを下ろすと、布を巻いた小さなビンを取り出した
薬学士「料理人ちゃん、これ飲んで?」
料理人「ん?」
薬学士が取り出した薬の匂いを少し嗅いでみる
何かその匂いだけで背中に熱が上がってくるのを感じる
一口、口を付ける
料理人「……これは……」
薬学士「ちょっとした疲労回復薬だよ〜」
一気に薬をあおると、料理人はすっかり疲労が回復し、やる気まで湧くのを感じた
料理人「有り難う、薬学士」
薬学士「いっぱい用意したから使わないともったいないからね〜!」
料理人「ふふっ」
料理人は鍋をさばきつつ、薬学士の頭を撫でた
薬学士「あうう///」
学者「よいですなあ、らぶらぶですなあ」
料理人「それは違う」
料理人は木を切り出し、板を並べ、そこにお皿を並べる
学者「お皿まで……どんだけ準備しておるんですかそなたは」
料理人「みんなに美味い物を食べさせるのが私の仕事だからね」
31 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:25:32.09 ID:IlYXT6yAO
学者「しかも包丁で木を斬るとか……初めて見やしたわ」
料理人「私の師匠に言わせると、包丁一本で木の伐採から魔物の討伐まで全てをこなすのが真の料理人らしい」
学者「断じて言おう、そんな料理人はあんたとその師匠だけであると!」
薬学士「でも、すごく助かるよ〜」
料理人「ん、任せて」
料理人はそう言うと、包丁を研ぎだした
学者「ありゃ? 欠けちゃいましたか?」
料理人「ん〜、まあ仕方ないよね、これは」
薬学士「……欠けない包丁作ろうか?」
料理人「??」
学者「そうか、魔晶石を使った魔法剣ならぬ魔法包丁ですな」
薬学士「うん、とりあえず専門設備が無いと無理だけど、いつか必ず作るよ」
料理人「そっか、有り難う、それはすごく便利そうだね」
そう言うやりとりをしていると、狩人が声を上げた
狩人「フィッシュ!」
どうやらかなりの大物のようである
しかし、しばらく様子を見るに、どうやらそれは魔物であるらしかった
料理人「マズい、行こう!」
薬学士「はいっ」
学者「あう、私はお鍋見ておりやすぜ!」
32 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/02/14(金) 03:31:33.16 ID:IlYXT6yAO
巨大な魚型の魔物は、何の躊躇もなく陸上に上がってきた
狩人に食らいつくか水に落とそうとしているようである
料理人「包丁一刀流、三枚下ろし!」
料理人の包丁から閃光が迸る
料理人の戦闘術は基本的にこの魔法の刃による斬撃である
狩人は竿を放すと、すかさずナイフで魚の顎を貫く
しかし、魚は痛覚を持たないと言われている
数撃の斬撃を浴びせかけたくらいでは止まらない
狩人は魚の攻撃をかわし、木に衝突してしまった
狩人「うわっ!」
料理人「くそっ!」
料理人「兜斬り!」
料理人は包丁に魔翌力を集中すると鋭く巨大な斬撃で魚の頭を叩き落とす
狩人「ううっ……」
料理人「大丈夫?!」
薬学士はすかさずポーションを取り出し、狩人に与える
狩人「ふうっ……はあ……」
狩人「……有り難うございます、痛みが和らぎました」
料理人「ちょっと大物すぎたね」ハハッ
料理人「じゃあご飯作るから、休んでいてね」
料理人は狩人を抱えて元居た場所に戻る
学者「お姫様だっこですかあ、うひひゃ」
料理人「斬るよ?」
薬学士「いいなあ」
料理人「えっ」
33 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:33:27.84 ID:IlYXT6yAO
そのまま四人は湖で一泊することにした
薬学士は料理ができるまで植物や鉱石を集めている
学者「ジビエって臭いが強いイメージありますけど、いい香りですなあ」
料理人「旬に内臓を傷つけないように穫って、新鮮なうちにちゃんと処理したら案外いい匂いなんだよ」
料理人「血抜きしてないとか、時期を外すとかすると臭いと言うか食べられないことがあるけど」
学者「ほへぇ、難しいもんでやすなあ」
料理人「私にしてみたら学者さんや薬学士がやってることの方が難しいと思うけど」
学者「そりゃ専門ってものが有りますわな」
料理人「つまりそういうことなんだろうね」
学者「プロフェッショナルですなあ」
料理人「私はそんな大したもんじゃないけど……、この肉も少し熟成させた方が美味いんだ、帰ったら塩漬けにしてある奴食べよう」
学者「楽しみでがす」
薬学士「おなかへったあ……」
34 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:36:59.50 ID:IlYXT6yAO
皿が少ないので、いくつかの料理を一緒に盛り付ける
日持ちする根菜類が中心ではあるが、メインには肉を使える
料理人(狩人くんのお陰だなあ)
…………
料理人「やっぱり食器も大事だなあ」
学者「まあ荷物増やすのも駄目でやすし」
薬学士「でも美味しそう〜」
料理人「ありがと、油を大量に使うフライとかは流石に難しいけど、ソテーとかできるだけ凝ったもの作るよ」
狩人「さっき釣った魚、血抜きして内臓も処理して葦で通しておきました」
料理人「うん、これは明日食べよう、あ、塩はたくさん持ってきたから締めておいて」
狩人「了解!」
学者「魔物じゃないですよね?」
狩人「これは大丈夫です」
薬学士「肩は大丈夫?」
狩人「えーと、……うん、若干痛みはありますがポーションが効いたみたいです」
狩人「有り難うございます、薬学士さん」
薬学士「てひひ〜///」
料理人「じゃあ、食べようか」
三人「いたらきまーっ!」
食事を終えると、テントを張って就寝の準備をする
交代で見張りをすることにして、料理に使った火に薪を加えて魔物除けにする
35 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:39:22.33 ID:IlYXT6yAO
最初に料理人が見張りをすることにした
三人は二組に別れてテントに入る
しかし、少しすると薬学士がテントから出てきた
料理人「眠れないの?」
薬学士「……うん」
薬学士「ちょっと怖くなっちゃって……」
料理人「あれはこの前話してた哲学者の石とは違うのか?」
薬学士「それは間違いなく違うよ」
薬学士「何より哲学者の石はすごく高い純度で、血のような赤い色をしてるから」
料理人「あれはピンク色だったもんなあ」
薬学士「なにが怖いって、哲学者の石と違って魔晶石はすごく不安定なんだ……ひょっとしたら明日にも爆発するかも分からないくらい」
薬学士「自然生成では前例がないし、人工生成でも成功例がない」
薬学士「と言うか危ないから作らないし」
料理人「なるほど」
料理人「眠れないならホットミルク作ろうか?」
薬学士「ミルクまで持ってきたの?」
料理人「うん、腐るからあんまり量はないよ」
料理人「早めに処理したいから飲んじゃいなよ」
薬学士「うん、じゃあもらう〜」
料理人「よし」
料理人は鍋を火にかけると、ミルクを注ぎ込む
薬学士「寒いね……」
料理人「まだ四月だしね」
36 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:43:00.38 ID:IlYXT6yAO
料理人「寒いならこっちにおいで」
薬学士「うん」
料理人は自分がかぶっている毛布を薬学士に半分かけると、優しく抱き寄せる
片手でリュックからコップを取り出すと、少し水を入れて濯ぐ
鍋を持ち上げ、コップにミルクを満たしていく
料理人「はい」
薬学士「有り難う〜」
薬学士「星が綺麗」
料理人「明日も晴れそうだな」
料理人「天気が崩れないうちに辿り着けたら良いが……」
薬学士「うん」
料理人は可愛い薬学士の瞳に映る星の光と火の灯りに、うっかり見とれてしまう
料理人(……)ハッ
料理人(……っわわ、……気付いてないかな?)
料理人(今の、私が男だったらヤバかった)
薬学士を見ないように星に目を向ける
すると今度は薬学士が料理人の瞳に見とれてしまう
薬学士は、料理人の真剣な眼差しが好きだ、と思った
料理人「少し寝ておこう」
薬学士「うん」
薬学士はテントに入り、眠りにつく
料理人は少し心地いい胸の鼓動を感じつつ、空を見上げた
空が白みだした頃、狩人が起きてきた
狩人「あれ? まだ交代して無かったんですか?」
料理人「あ、うん、ちょっと寝れなくて」
37 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:50:32.97 ID:IlYXT6yAO
料理人は狩人に交代してもらい、眠りについた
翌朝ーー
料理人「さて、朝ご飯作るか」
塩と水だけで練った小麦粉を鍋にバターを落としてから、焼く
たったそれだけだが、美味しそうな香りが立ち上る
すると一晩中寝ていた学者がのろのろと、まるで香りにおびき寄せられたように起きて出てきた
学者「あう、見張りしてない」
頭を抱えてうにうにする様が、実に気持ち悪い
料理人「顔を洗っておいで」
学者「ほえあ〜」
返事やら唸ってるやら分からない返事をして、学者は湖に向かった
そして続いて、薬学士が起きてくる
薬学士「おはよ……ふあぁ」
料理人「おはよう」
薬学士「うん? 料理人ちゃん寝てないの?」
小首を傾げる薬学士はさっきのモンスターと違い実に可愛い
そう思ったところで料理人は、ヤバいヤバいと首を振る
薬学士「?」
料理人「私は狩人くんと交代して少し寝たよ」
薬学士「狩人くんは?」
料理人「また釣りをしてる」
薬学士「またモンスターを釣らなきゃいいけど」アハハ
料理人「そうだね」クスッ
そう言った瞬間、狩人の声が上がる
狩人「フィッシュ〜!」
38 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:51:57.45 ID:IlYXT6yAO
料理人「」
薬学士「」
二人は一瞬凍りついたが、どうやら今度は普通の魚のようだ
狩人は大物を釣り上げるとニコニコしてその魚を掲げて見せた
料理人「おお、立派なトラウトだ、料理しがいがあるな」
狩人「やったよ〜」
学者「うひひゃ、立派なモンスターですねえ」
料理人「全くね」ハハッ
簡単な朝食を終えると、四人は早急に片付けを済ませて再び旅立つことにした
今日中に峡谷に着きたいところであるが、湖をまわるのに1日かかる計算である
湖の浜辺に足を取られるので、少し大回りで回避する
食料類はほとんど料理人が持っているが、テントを背負っている狩人も歩きづらそうである
ふと、料理人は思った
これから訪れる秋風峡谷の魔王は薬学士の師匠だと言う
実際人間に親身な魔王が多いこの世界では、それ自体が咎められることではない
料理人が気になったのは、こんなに人里から離れている峡谷に何故薬学士が旅立ち、魔王に教えを請い、また村まで帰ったのか、と言うことだ
39 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:55:46.74 ID:IlYXT6yAO
料理人(しかも今十五ってことは、少なくとも十二〜三才でそんな旅をしたってことか……?)
料理人は薬学士を見る
自分にぴったりくっついて歩く薬学士が、可愛い
いやいや、そんなことではなく
この子には一体どんな過去が有るんだろう?
それが気になった
秋風魔王に会ったら、こっそり聞き出せるだろうか?
ふと、薬学士と目が合う
ニッコリ笑う薬学士が愛おしい
料理人「大丈夫?」
薬学士「うん、大丈夫だよ!」
学者「それにしても料理人ちゃんも狩人くんも健脚でやすなあ」
学者「山歩きになれてるんですにー」
料理人(まともに喋れない人なんだな……)
狩人「僕は山歩きが仕事ですからね」
料理人「私も似たようなものだよ」
学者「私らも結構山に入るんですがなあ」
薬学士「やっぱり鍛えてる人は違うんだよ」
そんな会話をしながら、昼を過ぎた頃に湖の対岸に着いた
秋風峡谷はまだ遠い
料理人「やっぱり一日かかるかあ」
学者「仕方ありませんな〜」
薬学士「休憩しなかったら行けると思ったんだけどな〜」
狩人「でも明日も湖で食料確保できますよ」
料理人「そうだね、ここでキャンプして昨日の魚と今朝の魚をさばこうか」
四人は深い森を進む
女性三人を守るように狩人が前を歩く
途中、急に弓矢を放ったかと思うと、森の中に駆け入り、山鳩を持って帰ってきた
学者「おほうっ、食料げっと!」
料理人「狩人くんがいると楽勝な気がするなあ」
薬学士「頼もしいね!」
狩人「あう……///」
四人は川に辿り着くと湖を目指し上っていく
料理人「学者さん、大丈夫?」
学者「いやあ、私は荷物少ないし楽勝でっせ!」
薬学士「魔物もあまり遭遇しないし、思ったより早く着くかも……」
そんな話をしていると、魔物が出てくるものである
魔物「ぐるる……」
学者「あれは食えないよ?」
料理人「魔物は毒あるからね」
狩人「……いっぱいいます」
薬学士「囲まれたかも」
料理人「!」
周囲から忍び寄る大型含む十数頭の魔物……
薬学士「えいっ」
薬学士は可愛い掛け声と共に黄色い玉を森に投げ込んだ
響く轟音と閃光ーー
学者「うひゃあああああああっ」
料理人「うおおっ」
狩人「こっ、これは……」
薬学士「みんな目を瞑って!」
料理人「……さ、先に言ってね?」
29 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:16:06.95 ID:IlYXT6yAO
その黄色い玉は比較的野生動物に近い魔物を驚かせ、退かせるための閃光衝撃弾であった
四人は大した戦闘をすることなく、この場を切り抜けた
料理人「慣れてるなあ」
学者「ふひひ、私も作り方教わりたいですなあ」
狩人「頼もしいね〜」
薬学士「まだいっぱいあるよ〜」
薬学士の戦闘能力は、パーティーで最も高いかも知れない
しかし弾数に制限がある以上、頼りきるわけにもいかない
料理人の提案で、敵が少数なら物理的に戦って切り抜けることに決めた
湖に着くまでに、数度の肉弾戦をこなし、数発の魔法弾を使った
料理人「湖が見えてきたぞ」
学者「いやあ、さすがに疲れましたあ」
料理人「昼も食べてないからな、さっきの鳩で料理しよう」
狩人「僕は魚を釣ってきます」
料理人「なんと言う食料確保要員」
薬学士「料理人ちゃんもいるし楽しく旅ができちゃうなあ」
学者「強力な魔物が居なければいいんですがにい」
料理人「怪我人が出れば途中帰還も考えないと駄目か……」
料理人は火をおこすと、台を作り、鍋を乗せる
学者「鍋を常備するあたり、流石料理人」
薬学士「わくわくする!」
30 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:20:46.24 ID:IlYXT6yAO
料理人「焼き物もできるように厚手の片手鍋を持ってきた」
学者「重かったんじゃないですかあ?」
薬学士「あ、そうだ」
薬学士はその背丈の半分は有りそうなリュックを下ろすと、布を巻いた小さなビンを取り出した
薬学士「料理人ちゃん、これ飲んで?」
料理人「ん?」
薬学士が取り出した薬の匂いを少し嗅いでみる
何かその匂いだけで背中に熱が上がってくるのを感じる
一口、口を付ける
料理人「……これは……」
薬学士「ちょっとした疲労回復薬だよ〜」
一気に薬をあおると、料理人はすっかり疲労が回復し、やる気まで湧くのを感じた
料理人「有り難う、薬学士」
薬学士「いっぱい用意したから使わないともったいないからね〜!」
料理人「ふふっ」
料理人は鍋をさばきつつ、薬学士の頭を撫でた
薬学士「あうう///」
学者「よいですなあ、らぶらぶですなあ」
料理人「それは違う」
料理人は木を切り出し、板を並べ、そこにお皿を並べる
学者「お皿まで……どんだけ準備しておるんですかそなたは」
料理人「みんなに美味い物を食べさせるのが私の仕事だからね」
31 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:25:32.09 ID:IlYXT6yAO
学者「しかも包丁で木を斬るとか……初めて見やしたわ」
料理人「私の師匠に言わせると、包丁一本で木の伐採から魔物の討伐まで全てをこなすのが真の料理人らしい」
学者「断じて言おう、そんな料理人はあんたとその師匠だけであると!」
薬学士「でも、すごく助かるよ〜」
料理人「ん、任せて」
料理人はそう言うと、包丁を研ぎだした
学者「ありゃ? 欠けちゃいましたか?」
料理人「ん〜、まあ仕方ないよね、これは」
薬学士「……欠けない包丁作ろうか?」
料理人「??」
学者「そうか、魔晶石を使った魔法剣ならぬ魔法包丁ですな」
薬学士「うん、とりあえず専門設備が無いと無理だけど、いつか必ず作るよ」
料理人「そっか、有り難う、それはすごく便利そうだね」
そう言うやりとりをしていると、狩人が声を上げた
狩人「フィッシュ!」
どうやらかなりの大物のようである
しかし、しばらく様子を見るに、どうやらそれは魔物であるらしかった
料理人「マズい、行こう!」
薬学士「はいっ」
学者「あう、私はお鍋見ておりやすぜ!」
32 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/02/14(金) 03:31:33.16 ID:IlYXT6yAO
巨大な魚型の魔物は、何の躊躇もなく陸上に上がってきた
狩人に食らいつくか水に落とそうとしているようである
料理人「包丁一刀流、三枚下ろし!」
料理人の包丁から閃光が迸る
料理人の戦闘術は基本的にこの魔法の刃による斬撃である
狩人は竿を放すと、すかさずナイフで魚の顎を貫く
しかし、魚は痛覚を持たないと言われている
数撃の斬撃を浴びせかけたくらいでは止まらない
狩人は魚の攻撃をかわし、木に衝突してしまった
狩人「うわっ!」
料理人「くそっ!」
料理人「兜斬り!」
料理人は包丁に魔翌力を集中すると鋭く巨大な斬撃で魚の頭を叩き落とす
狩人「ううっ……」
料理人「大丈夫?!」
薬学士はすかさずポーションを取り出し、狩人に与える
狩人「ふうっ……はあ……」
狩人「……有り難うございます、痛みが和らぎました」
料理人「ちょっと大物すぎたね」ハハッ
料理人「じゃあご飯作るから、休んでいてね」
料理人は狩人を抱えて元居た場所に戻る
学者「お姫様だっこですかあ、うひひゃ」
料理人「斬るよ?」
薬学士「いいなあ」
料理人「えっ」
そのまま四人は湖で一泊することにした
薬学士は料理ができるまで植物や鉱石を集めている
学者「ジビエって臭いが強いイメージありますけど、いい香りですなあ」
料理人「旬に内臓を傷つけないように穫って、新鮮なうちにちゃんと処理したら案外いい匂いなんだよ」
料理人「血抜きしてないとか、時期を外すとかすると臭いと言うか食べられないことがあるけど」
学者「ほへぇ、難しいもんでやすなあ」
料理人「私にしてみたら学者さんや薬学士がやってることの方が難しいと思うけど」
学者「そりゃ専門ってものが有りますわな」
料理人「つまりそういうことなんだろうね」
学者「プロフェッショナルですなあ」
料理人「私はそんな大したもんじゃないけど……、この肉も少し熟成させた方が美味いんだ、帰ったら塩漬けにしてある奴食べよう」
学者「楽しみでがす」
薬学士「おなかへったあ……」
34 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:36:59.50 ID:IlYXT6yAO
皿が少ないので、いくつかの料理を一緒に盛り付ける
日持ちする根菜類が中心ではあるが、メインには肉を使える
料理人(狩人くんのお陰だなあ)
…………
料理人「やっぱり食器も大事だなあ」
学者「まあ荷物増やすのも駄目でやすし」
薬学士「でも美味しそう〜」
料理人「ありがと、油を大量に使うフライとかは流石に難しいけど、ソテーとかできるだけ凝ったもの作るよ」
狩人「さっき釣った魚、血抜きして内臓も処理して葦で通しておきました」
料理人「うん、これは明日食べよう、あ、塩はたくさん持ってきたから締めておいて」
狩人「了解!」
学者「魔物じゃないですよね?」
狩人「これは大丈夫です」
薬学士「肩は大丈夫?」
狩人「えーと、……うん、若干痛みはありますがポーションが効いたみたいです」
狩人「有り難うございます、薬学士さん」
薬学士「てひひ〜///」
料理人「じゃあ、食べようか」
三人「いたらきまーっ!」
食事を終えると、テントを張って就寝の準備をする
交代で見張りをすることにして、料理に使った火に薪を加えて魔物除けにする
35 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:39:22.33 ID:IlYXT6yAO
最初に料理人が見張りをすることにした
三人は二組に別れてテントに入る
しかし、少しすると薬学士がテントから出てきた
料理人「眠れないの?」
薬学士「……うん」
薬学士「ちょっと怖くなっちゃって……」
料理人「あれはこの前話してた哲学者の石とは違うのか?」
薬学士「それは間違いなく違うよ」
薬学士「何より哲学者の石はすごく高い純度で、血のような赤い色をしてるから」
料理人「あれはピンク色だったもんなあ」
薬学士「なにが怖いって、哲学者の石と違って魔晶石はすごく不安定なんだ……ひょっとしたら明日にも爆発するかも分からないくらい」
薬学士「自然生成では前例がないし、人工生成でも成功例がない」
薬学士「と言うか危ないから作らないし」
料理人「なるほど」
料理人「眠れないならホットミルク作ろうか?」
薬学士「ミルクまで持ってきたの?」
料理人「うん、腐るからあんまり量はないよ」
料理人「早めに処理したいから飲んじゃいなよ」
薬学士「うん、じゃあもらう〜」
料理人「よし」
料理人は鍋を火にかけると、ミルクを注ぎ込む
薬学士「寒いね……」
料理人「まだ四月だしね」
36 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:43:00.38 ID:IlYXT6yAO
料理人「寒いならこっちにおいで」
薬学士「うん」
料理人は自分がかぶっている毛布を薬学士に半分かけると、優しく抱き寄せる
片手でリュックからコップを取り出すと、少し水を入れて濯ぐ
鍋を持ち上げ、コップにミルクを満たしていく
料理人「はい」
薬学士「有り難う〜」
薬学士「星が綺麗」
料理人「明日も晴れそうだな」
料理人「天気が崩れないうちに辿り着けたら良いが……」
薬学士「うん」
料理人は可愛い薬学士の瞳に映る星の光と火の灯りに、うっかり見とれてしまう
料理人(……)ハッ
料理人(……っわわ、……気付いてないかな?)
料理人(今の、私が男だったらヤバかった)
薬学士を見ないように星に目を向ける
すると今度は薬学士が料理人の瞳に見とれてしまう
薬学士は、料理人の真剣な眼差しが好きだ、と思った
料理人「少し寝ておこう」
薬学士「うん」
薬学士はテントに入り、眠りにつく
料理人は少し心地いい胸の鼓動を感じつつ、空を見上げた
空が白みだした頃、狩人が起きてきた
狩人「あれ? まだ交代して無かったんですか?」
料理人「あ、うん、ちょっと寝れなくて」
37 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:50:32.97 ID:IlYXT6yAO
料理人は狩人に交代してもらい、眠りについた
翌朝ーー
料理人「さて、朝ご飯作るか」
塩と水だけで練った小麦粉を鍋にバターを落としてから、焼く
たったそれだけだが、美味しそうな香りが立ち上る
すると一晩中寝ていた学者がのろのろと、まるで香りにおびき寄せられたように起きて出てきた
学者「あう、見張りしてない」
頭を抱えてうにうにする様が、実に気持ち悪い
料理人「顔を洗っておいで」
学者「ほえあ〜」
返事やら唸ってるやら分からない返事をして、学者は湖に向かった
そして続いて、薬学士が起きてくる
薬学士「おはよ……ふあぁ」
料理人「おはよう」
薬学士「うん? 料理人ちゃん寝てないの?」
小首を傾げる薬学士はさっきのモンスターと違い実に可愛い
そう思ったところで料理人は、ヤバいヤバいと首を振る
薬学士「?」
料理人「私は狩人くんと交代して少し寝たよ」
薬学士「狩人くんは?」
料理人「また釣りをしてる」
薬学士「またモンスターを釣らなきゃいいけど」アハハ
料理人「そうだね」クスッ
そう言った瞬間、狩人の声が上がる
狩人「フィッシュ〜!」
38 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:51:57.45 ID:IlYXT6yAO
料理人「」
薬学士「」
二人は一瞬凍りついたが、どうやら今度は普通の魚のようだ
狩人は大物を釣り上げるとニコニコしてその魚を掲げて見せた
料理人「おお、立派なトラウトだ、料理しがいがあるな」
狩人「やったよ〜」
学者「うひひゃ、立派なモンスターですねえ」
料理人「全くね」ハハッ
簡単な朝食を終えると、四人は早急に片付けを済ませて再び旅立つことにした
今日中に峡谷に着きたいところであるが、湖をまわるのに1日かかる計算である
湖の浜辺に足を取られるので、少し大回りで回避する
食料類はほとんど料理人が持っているが、テントを背負っている狩人も歩きづらそうである
ふと、料理人は思った
これから訪れる秋風峡谷の魔王は薬学士の師匠だと言う
実際人間に親身な魔王が多いこの世界では、それ自体が咎められることではない
料理人が気になったのは、こんなに人里から離れている峡谷に何故薬学士が旅立ち、魔王に教えを請い、また村まで帰ったのか、と言うことだ
39 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 03:55:46.74 ID:IlYXT6yAO
料理人(しかも今十五ってことは、少なくとも十二〜三才でそんな旅をしたってことか……?)
料理人は薬学士を見る
自分にぴったりくっついて歩く薬学士が、可愛い
いやいや、そんなことではなく
この子には一体どんな過去が有るんだろう?
それが気になった
秋風魔王に会ったら、こっそり聞き出せるだろうか?
ふと、薬学士と目が合う
ニッコリ笑う薬学士が愛おしい
料理人「大丈夫?」
薬学士「うん、大丈夫だよ!」
学者「それにしても料理人ちゃんも狩人くんも健脚でやすなあ」
学者「山歩きになれてるんですにー」
料理人(まともに喋れない人なんだな……)
狩人「僕は山歩きが仕事ですからね」
料理人「私も似たようなものだよ」
学者「私らも結構山に入るんですがなあ」
薬学士「やっぱり鍛えてる人は違うんだよ」
そんな会話をしながら、昼を過ぎた頃に湖の対岸に着いた
秋風峡谷はまだ遠い
料理人「やっぱり一日かかるかあ」
学者「仕方ありませんな〜」
薬学士「休憩しなかったら行けると思ったんだけどな〜」
狩人「でも明日も湖で食料確保できますよ」
料理人「そうだね、ここでキャンプして昨日の魚と今朝の魚をさばこうか」