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妹「電気つけないでぇっ!!!!」

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Part5
566:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 05:36:13.76 ID: Kav2TyQH0

兄「……」

確かに、一瞬そう考えてしまった。
もし妹がこのまま立ち直れないのなら――あるいは、妹が兄を必要とするのならば、そういうのも悪くないのかもしれない。

友人「まさかおまえ、一生妹のことを養っていくつもりか?」

目の前に映る、滑稽なようなものを見る目。

なんなんだ?
なぜ皆、そう否定するのか。

兄「そうだったら…?」

声に怒りのようなもの込めて、吐き出すように言った。


友人「なら、お前が死んだ後どうするんだよ」

兄「……」

572:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 05:43:43.22 ID: Kav2TyQH0

友人「だから今の内はそっとしてやってさ…、妹ちゃんが自然回復するのを待てば…」

兄「もう、いい」

友人「あ、おい…何処行くんだよ…」


こいつの声は、もう聞きたくも無い。
鞄を手に取り、席を離れる。

今自分がどんな顔をしているのだろう。
横を通りすがるクラスメイトの、怯むような――気味の悪いものをみるような目は何なのか。

早歩きで、近くの椅子にぶつかるのも気にせず、教室を抜け出した。

教師が呼び止めにくるのも気にしない。
そのまま昇降口に向かい、校門の外を出た。

584:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 05:48:50.87 ID: Kav2TyQH0

『自然回復するのを待てばいい――』

友人の言っていることは、確かに間違ってはいない。


しかし、あの家で?
あんな両親がいる乱暴な家庭で?

両親の暴力が振りかかる、そんな家庭で自然回復なんてできるのか?


恐らく、無理だろう。
少なくとも、あの子にとっては…。

(でも、どうすればいい…?)

このままでは僕の妹は…。

592:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 05:53:10.55 ID: Kav2TyQH0

一寸先は闇。

果てしなく先の見えない、妹の未来。

兄「……」

いつか――
いつか、僕が妹を養うことになるのかもしれない。


そんなことを考えながら家に着き、家の門を開いた…。

その時、目尻に何か違和感を感じた。

僕の左手――庭の方に目を向けると、いくつもの家具が並んでいた。

602:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 05:59:26.30 ID: Kav2TyQH0

兄「なんだ、これ…」

急いで庭の方へ駆け寄りそれを見回した。何度も何度も見回した。

(こんなこと、誰がやったんだ…?)

そして、僕はその家具の中からあるものを見つけた。

兄「これって…」

それは、まさしく妹のパソコンだった。


兄「――っ!」

もしや、と思い玄関を勢いよく開け――廊下を走り――階段を駆け上り
そして妹の部屋の扉を開ける。

妹「……」

部屋の隅で、体操座りをしている妹の腕には、アザがいくつものあざがあった。


610:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:04:40.84 ID: Kav2TyQH0

兄「…どう、して…」

僕はゆらゆらと…崩れそうになりながら妹に近づいていった。

妹「…ごめんね…おにちゃん」

目に涙を溜めたまま――

妹「お父さんが、この家から出てけ…って…」

――微笑んだ。


その場で座り込んで、肩に手を回し…僕は妹のことを強く抱きしめた。






618:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:10:59.16 ID: Kav2TyQH0

空っぽになった部屋には、もう妹の居場所はない。
この家庭が、妹を追放したということ。

僕は妹を抱きかかえ、自分の部屋に連れ込み、夜になるのを待った。

やがて父親が帰ってくると、まるで予想したかのように僕の部屋にやってきた。


父「…出て行けといったはずだ。なにをしている?」

妹「……」

兄「おい…どういうことだよ」

その場を立ち上がり、父を睨み付けて言う。


父「家具は全て売り払う。明日には業者が来る。やる事をやらない娘はウチにはいらない」

…本気で言っているのか? こんなの、娘に対してやることじゃない。
いや…もう娘ではないのかもしれない。あの父親にとって。

625:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:18:33.90 ID: Kav2TyQH0

そうして父はそう言ってから、その場を去った。

子供を見捨てるような、僕たちを見捨てるような視線を送って。


妹「…ごめん、いくね」

妹は目を赤くして、部屋を出て行こうとその場を立ち上がった。

兄「…まてよ」

伸びた僕の手が、妹を動きを静止させた。
どこに行くというのだろう?

妹がうな垂れるようにその場に佇んだまま、静寂が流れる。
もう妹の目には色がなかった。この世界に絶望したような、そういう…。

兄「…わかったよ」

妹「…え?」

僕は妹を連れて、家を飛び出した。

629:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:22:31.52 ID: Kav2TyQH0

外は酷い寒さで覆われていた。

刺すような冷たい風に耐えながら、僕は妹の手を引っ張った。

妹「おにい…ちゃん」

兄「……」


何処へ行くというのだろう。
僕たちに、行く場所なんてあるのだろうか?

張り詰めた寒さの中、妹の手を強く握り締めていた。






636:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:27:45.48 ID: Kav2TyQH0

町をさまよい続けて、数十分、あるいは数時間が経った。

氷のように冷たくなった妹の手――しっかりと、兄の手で妹を支えながら歩いていく。


先のみえない闇の中を進みながら、探し求める。

妹の居場所を。

僕たちの居場所を。


そんなもの、どこにも無いというのに――


結局、辿り着いた場所は、薄暗い森の中。

木を背もたれにして、僕たちはその場に座りこんだ。

644:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:33:25.48 ID: Kav2TyQH0

妹「……」

妹が体を震わせている。それを僕は背中に手を回し、優しく包み込む。

妹「…あったかい」

兄「…そうか」

白く濁った息が、僕らが生きていることを実感させた。


暗い森の中、僕は辺りを見回した。

兄「……」

視界に映るのは、無数の樹木ばかり。

(……)

そうか――

やっと、あの日記の意味が分かった気がした。

650:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:39:00.28 ID: Kav2TyQH0

兄「なあ…妹」

妹「……なぁに?」

妹は手を震わせながら、こちらを向いた。


兄「……家、作ろうか」

妹「…え?」

一瞬、僕が何を言っているのか理解できないような、困惑した表情を見せた。

兄「木でできた家…ログハウス…作って2人で住もう」

妹「……」

兄「動物に囲まれた庭つくってさ…」

妹「……」

妹は泣いていた。
ひょっとすると、僕も泣いていたのかもしれない。

657:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:43:18.43 ID: Kav2TyQH0


妹は涙を流しながら、微笑んでいた。

妹「…うん…うんっ! 作ろうよ!」

妹は声のトーンを変え、喜んで賛成してくれた。
妹の明るい声に、僕の体が温まるようなそんな気配がした…。

僕たちに居場所なんてない。


なら――居場所がないなら、作ればいい。


そして、僕たちは家を建てるための材料を探して歩き回った。

665:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:51:30.53 ID: Kav2TyQH0

僕たちは、暗い闇の中を歩き回っていた。
妹の手をしっかりと掴み、荒れ道の中を進んでいく。

兄「足場、気をつけろよ…」

妹「うん…」


そして、あちこちから木の枝から太い丸太までかき集めた。

すでに夜明けを迎え、日が昇っている。


僕と妹はその場にへたり込み、仰向けになった。

兄「…よく、やったな」

そう言うと、握り締める手が少し強まるのを感じた。

669:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 06:57:27.12 ID: Kav2TyQH0

土の上で仰向けになったまま、鈍色の空をみつめる。

ああ――ここが僕らの居場所なんだ。
ふと、そんなことを思ってしまう。


妹「ね、おにいちゃん…」

兄「…ん? ――っ」

一瞬、何をされたのか分からなかった。
妹は僕の上にのっかかり、唇を重ねている事に気付いたのはその後しばらくしてから。

妹「……」

兄「……」

そして、自分が微笑んでいることに気付く。

675:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 07:02:00.40 ID: Kav2TyQH0

兄「眠いか…?」

妹「…ん」

そう小さく頷くと、妹は空に視線を向けて、ゆっくりと目蓋を閉じた。
僕も同じように、上をみて目蓋を閉じた。


妹「ねぇ…おにいちゃん」

兄「…ん」

妹「…起きたら…ログハウス…できてるかな」

心に詰まるようなものを感じた。

兄「…ああ、きっとできてるよ」

妹「そっか…、楽しみだね…………ログハウス……」


そう言って、妹は眠りに堕ちた。

682:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 07:08:48.64 ID: Kav2TyQH0

そのまま、僕たちは手を繋ぎながら、何日も――あるいは何週間も土の上で眠り続けた。

夢をみていた。
森の中でログハウスを建てて、部屋の中でぬくもりを分け合って――


(…………)

そして、ふと起きた時には、空がとても暗く感じられた。

兄「……」

妹の方を向くと、妹は動かなかった。

(そっか……)

――そのまま僕は眠りにつこうとした

ゆっくりと目を閉じようとした時、近くにあるものが建っていることに気付いた。

最後の力を振り絞って顔を持ち上げ見ると――それはログハウスだった。

687:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 07:12:08.15 ID: Kav2TyQH0

家の前には――妹が立っていて、僕を招いている。
妹の周りには色んな動物が囲んでいる。

(ああ……)


やっと見つけた。


僕は、一歩踏みしめる。

――妹との幸せの日々を想像しながら





             -終-

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