百物語2014
Part7
118 :いそべ@投稿代理 ◆8JXCKM3oNw :2014/08/23(土) 22:40:00.94 ID:2yX9zsEM0
第38話 コソコソ ◆.PiLQRq.0A 様
『自殺者の末路』
(1/3)
自殺した者の魂は浮かばれない、という話を良く聞く。
賽の河原で延々と石を積むとか、成仏できないまま現世をさまよい続けるだとか、色々な話がある。
毎夏、怪談が好きな人間を集めて怪談会を開いているが、今年は何の流れだかそういう話になった。
「自殺はやっぱ駄目だね」と場が収まりかけたとき、その中の一人が神妙な面持ちで話し始めた。
「自殺者の末路ってさ、ちょっと違うと思うんだけど……」と前置きをして。
この話をしてくれたSという男の知り合いに梶という男がいた。
梶は弱いくせにギャンブルが好きで好きで仕方なく、いつもどこかに借金をしていた。
そのくせ、プライドは一人前以上に持ち合わせており、『いつか俺はビッグになる』と信じているような奴だった。
当時、梶は都内の割と広いマンションに住んでいたと言う。
しかし、そんな男だから、家賃や光熱費などは滞納し放題。ついには管理会社から立ち退きを命じられてしまったらしい。
梶は新しい部屋を探すとき、彼が不動産会社に出した提案は『とにかく安く、とにかく洒落ていて、都内のマンション』だったそうだ。
不動産会社は最初の内はくつか安い物件を紹介していたが、梶の無茶な要求に対して、
「決してお勧めではないんですが、もうこれくらいしか……」と、一つの物件を紹介した。
都内の一等地、広さは前に梶が住んでいたマンションよりも広く、家賃はなんと10,000円だと言う。
ただし、確実に「出る」と紹介された。
梶は即座にこの物件に決めた。
再三バツが悪そうに止める不動産会社を振り切って、部屋の中を見ることもなく、その場で契約を結ぼうとしたそうだ。
しかし、不動産会社は契約するためにある条件を出した。
『その部屋に梶が一週間泊まり、その間毎日、不動産会社へ連絡を入れること』
梶は二つ返事で頷いた。
119 :いそべ@投稿代理 ◆8JXCKM3oNw :2014/08/23(土) 22:41:02.50 ID:2yX9zsEM0
(2/3)
一日目、梶は一週間の宿泊に必要な物を持ってそのマンションを訪れた。
玄関を入るとダイニングキッチンがあり、曇りガラスがはめ込まれた仕切戸の向こうには広々としたリビング広がっていた。
梶は荷物を置くやいなや早速パチンコへ出かけ、帰ってきたのは深夜0時に近い時間だった。
缶ビールを何本か空け、不動産会社が用意してくれた布団に身体を預けた。
どれくらい眠ってしまったのかは分からない。『ドスンッ!』と言う大きな音で目が覚めた。
音の出所に視線を向け、梶は思わず息を呑んだ。
リビングとダイニングキッチンを隔てる曇りガラスの仕切戸に影が映っていた。
最初は何か分からなかった梶も、しばらく見ているとようやくその正体が分かった。
ーー首吊りだ。
それは地面から数十センチほど浮きあがり、頭を垂れている人間の影だった。
首を支点にして左右にゆらゆらと揺れ動き、その度に『ズリ…ズリ…ズズッ……』という縄がこすれる音が辺りに響く。
梶はまんじりともせず、その影を睨み付けていた。
徐々に影の振れ幅は小さくなり、こすれる音が止むと同時に影は消えた。
二日目、梶は昨夜に体験したことを不動産会社で夢中になって話した。
不動産会社からは『やめておきませんか?』と何度も薦められ、他の物件も紹介されたが、
『特に何をされるわけでもないから』と梶は首を横に振り、その部屋に泊まり続けることを決めた。
その夜も次の夜も、梶の眠りは首吊りの音で妨げられた。
しかし、四日目ともなるとさすがに少しは慣れ、梶はその音が決まって深夜2時に鳴ることに気がついた。
ーーじゃあ、その時間、部屋にいなければいいじゃないか。
五日目、そう思い立ち、0時近くに部屋を出て安い居酒屋で酒を煽っていた。
頃合を見て部屋へ戻り、何事もなく朝まで過ごすことが出来た。
ーーこりゃあいい
梶はそれから毎日、飲み歩くようになった。
約束の一週間が過ぎ、梶はなおも渋る不動産会社から部屋を契約した。
120 :いそべ@投稿代理 ◆8JXCKM3oNw :2014/08/23(土) 22:42:22.41 ID:2yX9zsEM0
(3/3)
「でね、ここからは俺の想像なんだけど……」
そう前置きをして、酒を舐め、Sは話を続けた。
「梶はもともと金が無い奴だし、さすがに毎日飲み歩くわけにも行かなくなったんじゃないかな。
しばらくは知り合いの家に泊まったりしたのかもしれない。
でも、それも出来なくなって、仕方なくあの部屋に戻ったんだと思う。
それで、多分また見たんだよ、首吊りの影」
「俺さ、自殺者の末路ってさ、賽の河原で石積みでも浮遊霊になって彷徨うんでも無いと思う。
きっと繰り返すんだよ、自殺を。死んだ瞬間からずっと。
だから『死ねば楽になる』なんて絶対嘘だと思う。死ぬ思いってのが延々と続くんだし。
死に続けて、死に続けて、もう何がなんだか分からないようになって……
代わりを見つけて、引きずり込むんだろうなぁ」
Sはそう言って話を終えた。
梶の訃報が届いたのは、Sが都内の不動産会社を辞め、地方で再就職をしてから四日後のことだったそうだ。
【了】
124 :仮の人 ◆sFvsmjhswAfh :2014/08/23(土) 22:54:05.04 ID:xjoFQ2ov0
【第三十九話】
『幽霊実験』
(1/2)
A子さんはある晩、テレビで心霊番組を観ていたそうだ。
その時やっていたのが、自分の部屋に幽霊がいるかどうか調べる方法というものだった。
やり方は、
1、自分の部屋の玄関をイメージする
2、そのまま部屋に入り、窓を開けていく
というもので、その間に誰かがいればそれが部屋にいる幽霊だ、とのこと。
お手軽だしちょっと面白そうだと感じたA子さんは、自分でも試してみることにした。
一人暮らしの自分の1ルームマンションの玄関をイメージする。
ドアを開けると右手にキッチン、左手にトイレとバス。誰もいない。
さらにドアを開き、狭い自分の部屋を見渡す。
誰か居る。
部屋の右奥、ソファーの真横。天井まで頭が付きそうな程背の高い、全身真っ黒な男が俯いて立っていた。
「きゃっ!」
驚いて目を開け、その場所を振り向く。もちろんそんな男はいない。
多少気味は悪かったが、心霊番組を観ていたせいで変なイメージが残っていただけだろうとA子さんは納得することにした。
その日の深夜。
A子さんは寝苦しさで目が覚めた。
どうも視線を感じて眠れない。頭の中に先ほどの黒い男のイメージが浮かび離れない。
怖いテレビ見たから。気のせい、気のせい。
そうやって何度も自分に言い聞かせ、その日はどうにか眠ることができた。
125 :仮の人 ◆sFvsmjhswAfh :2014/08/23(土) 22:54:32.97 ID:xjoFQ2ov0
(2/2)
しかし、次の日からふとした時に部屋の中のあの場所から視線を感じるようになった。
毎日というわけではない。だが、気味の悪さは抑えきれない。
しかも、日が経つにつれその視線を外でも感じるようになってきてしまった。
ふとした瞬間の電柱の影。職場のロッカーの隅。電車の窓の向こう側。
気が付くとあの男の姿が見える気がしてA子さんは精神的にまいってしまっていた。
あんな実験したから。あんな部屋に住んでるから。
友人に愚痴をこぼすと、「じゃあ、引っ越したら?」と軽い返事。
でも、案外いい考えかもしれない。
このままだと気が狂いそうだし、そういえばそろそろマンションの賃貸契約の更新があった。ついでにもっと職場に近い所に引っ越そう。
引っ越しの日、A子さんは久しぶりに晴れ晴れとした気分で新居の荷物を解いていた。
疲れたな。ちょっとソファーで横になろう。
ごろんと横になり、目を閉じて休憩していたA子さんが再び目を開いた時、自分を見下ろすあの男の姿があった。
【了】
127 :ロクイチマル ◆5wVJdkoU4E :2014/08/23(土) 22:57:30.72 ID:fYC5LdIC0
【第四十話】『怖い夢』
夢っていうものは大概、見ている最中はまるでそれが現実のように感じられて、目が覚めた瞬間は内容を鮮明に覚えているのに、
起きて顔でも洗っているうちに頭に霧でも掛かったみたいにそれがどんな夢だったかを忘れてしまう、そんなものだと思う。
俺が普段見る夢も大抵そういう感じなんだが、昔見た夢で、その内容の隅々まで克明に覚えているものがある。
それは俺が小学1〜2年生くらいの頃に見た夢だった。
はじめ、当時小学生の俺は、壁一面に変な象形文字みたいなものが書かれた古代エジプトの遺跡の中で、
無機的な表情のマネキンみたいなお化けに追いかけられていた。
(同年代の人には分かると思うけど、寝る前に読んでた某カードゲーム漫画の影響を多大に受けてるw)
そこまではしょっちゅう見るようなありふれた怖い夢だったんだけど、マネキンお化けから逃げるうちに、
ふと俺はそれが夢であることに気づいた。
何かきっかけがあったわけでもないんだけど、何故か「あ、これ夢だ」って分かったんだ。
自分が夢を見ていると気づいた瞬間、いつのまにか俺は古代エジプトの遺跡ではなく、
背丈と同じくらいの高さの草(芦?)が生えた土手みたいなところにいた。
そして不思議なことに、まだ何かに追いかけられているという実感があった。
さっきみたいにマネキンお化けの姿は見えないが、逃げなくてはいけないという気持ちに駆られた俺は、
それが夢だと分かっていながらも何となく怖くて、草をかき分けながら走り続けた。
走って逃げいている途中で、何人かの大人が立っていた。
もちろん俺は助けを求めるために話しかけたんだが、そこに立っていたモブキャラみたいな大人は皆、
顔がムンクの叫び?とは少し違うけど、そんな感じの人間とは思えない形相をしていた。
俺は走りながら、懲りずに何度も出会う大人の顔を覗き込むけど、揃いも揃ってムンク状態。
そうして逃げているうちに、俺はなんとなく、この夢はこのままずっと覚めることがないんじゃないか?
という予感がしてきた。
それに気づいた時はマジで怖くなって、誰でもいいから助けて、と泣きながら立ち止まってしまった。
と、そこで後ろから、俺の肩にポンと手が置かれた。
128 :ロクイチマル ◆5wVJdkoU4E :2014/08/23(土) 22:58:40.57 ID:fYC5LdIC0
ヤバイ、捕まった。
そう思った俺は怯えながらも、反射的に後ろを振り向いた。
だけど、その手は俺のことを追いかけていた「何か」ではなかった。
後ろに立っていたのはお婆ちゃん。しかもその顔は、他の大人みたいなムンクの叫びじゃなくて、
凄く穏やかな表情だった。
え?誰?
そう思った次の瞬間には、俺は自分のベッドの上で寝ていた。
で、なんでこんな昔の夢の話を今しているかというと、理由がある。
今は大学生で一人暮らしをしているんだけど、つい先月の末頃、ひい祖父ちゃんが死んで、その葬式で地元に帰った。
ひい祖父ちゃんは天寿を全うして静かに往生したんだそうで、お通夜も物悲しい雰囲気は全然なく、
親戚が集まった食事会みたいな感じだった。
そこで田舎の婆ちゃん(ひい祖父ちゃんの娘、祖母の姉)が、ひい祖父ちゃんの写ってるアルバムを持ってきて、
一同で思い出話が始まったんだが、そこにあった一枚の集合写真を見て、俺はギョッとした。
写真に写っている一人に、まさに俺の夢に登場したあの婆ちゃんがいたんだ。
聞いてみるとその人は、ひい祖父ちゃんの妹で、20年くらい前に病気で死んでいるらしい。
写真が撮られたのは今から26年前で、俺は生まれていない。
俺はその日、写真ではじめてその婆ちゃんの存在を知ったはずなのに、俺が小学生の頃に見た夢の婆ちゃんと間違いなく同一人物だった。
よく聞いてみると、その婆ちゃんは俺が生まれたばかりで首も据わらない頃に一度だけこっちに来て、
俺を抱っこしてくれたことがあるらしい。(もちろん俺は覚えていないけど)
今思えば、きっと親戚のよしみで婆ちゃんが俺のことを助けてくれたんだなって思う。
見てから10年以上経っても、登場した婆ちゃんの顔の詳細まで鮮明に覚えているあの夢。
そもそもなんだか「忘れてはいけない」ような気がしていたんだけど、不思議なことってあるんだなって本気で思ってる。
そしてあの夢で、婆ちゃんが俺のことを助けてくれなかったら一体どうなっていたんだろう、と思うと、
今でもどうしようもなくゾッとする。
【了】
134 :ぬこ ◆RMw3.cMGUE :2014/08/23(土) 23:19:40.70 ID:0yX1QsY/I
【第四十一話】『足が欲しい』
大学時代、一つ上の先輩(♀)から聞いた話。
小学4年生の頃、学校から帰るときいつもある脇道からでてくる中年の男性がいた。しかも常に彼女がその脇道を通りかかる時に出てきてぼんやりと立っていたという。
幼心ながら不気味に思っていた先輩はそのことを母親に相談した所しばらく車で送り迎えをすることになった。
1ヶ月ほど車で送り迎えを行った後、もうそろそろいいだろうと言いことになり再び徒歩での登下校になった。そして実際、それからしばらくは何も無かった。
しかしその男は再び現れた。彼女がいつものように帰り道を歩き例の脇道にさしかかったときだった。ヌッと誰かが脇道から出てきた。
あの中年の男だった。そしていつも黙って立っているだけだった男は彼女の方をみてこう言った。
『足が欲しい』
気がつくと彼女は自宅の前にいた。しかしその間の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっていた。それ以降、その男には一度もあっていないという。
そういえば、そのおっさん腰から下がどんな風だったか全然思い出せないんだって
と先輩は話の最後にそう語った。
137 :ぬこ ◆RMw3.cMGUE :2014/08/23(土) 23:31:47.13 ID:0yX1QsY/I
【第四十二話】 『足が欲しい 二』
同じ先輩がやはり小学生の頃に体験した話。
その日は風邪気味で学校を休んでおり自宅の2階にある自室で布団にくるまっていた。
ぼんやりと外を眺めていると家の前にある道に喪服のような黒い服と帽子をまとった髪の長い女性が俯いて立っていることに気がついた。
何故かその女性のことが気になり彼女はベランダに出ていった。(なぜそのようなことを考えたのか後になって振り返ってみてもよくわからないという。)すると彼女がベランダに出ると同時にその女性がふっと顔をあげた。
その顔は雪のように白かった。比喩ではなく本当に肌が真っ白だったのだ。
そしてつぶやいた。そのつぶやきは離れているはずの彼女にもはっきり聞こえたという。
『足が欲しい』
気がつくと彼女はベランダで倒れていた。時計をみると気を失った時から2時間ほどたっていた。
ちなみにその先輩は今でも五体満足で生活している。また20数年の人生の中で手足を失うような病気や事故が起きたこともないという。
彼女が幼い頃に遭遇したものがなんだったのかは未だにわからないそうだ。
【了】
139 :ぬこ ◆RMw3.cMGUE :2014/08/23(土) 23:37:35.15 ID:0yX1QsY/I
【第四十三話】『転落』
職場の同僚(♀)から聞いた話。
彼女が通っていた小学校のすぐ隣には昼間でも薄暗い森があった。
ある日、何を思ったのかそこを探検してみたいと思い、昼休み一人で森へ入っていった。
一応、道らしきものはあったためそこをたどりながらしばらく歩いていくと開けた空き地に出た。そこの真ん中にはこじんまりとした祠と小さな地蔵があるのみだった。
なんだつまらないと思い、そこを後にした。残りわずかになった昼休みの時間は校庭のすみにあるジャングルジムに登ってそこでぼんやり校庭を眺めながら過ごすことにした。
ジャングルジムの頂上で校庭や、さっき行ったばかりの森を眺めていると突然何かに背中を押された。
気がつくとジャングルジムとは反対方向の校門前に倒れていた。
ズボンをみればボロボロにすれていた。まるで何かに引きずられたかのように…
ちなみに校庭には彼女の同級生もいたはずなのだが誰も彼女学校ジャングルジムから校門前に異動するのをみていないという。
そういえばウチの学校の前、結構車とおるんだよね。と彼女はこの話を語った時、最後にそう付け加えた。
【了】
141 :会計 ◆QAI42rkje6 :2014/08/23(土) 23:39:04.72 ID:gGSU/C180
【四十四話】会計 ◆QAI42rkje6
『法事』
これは妹が小学五年生くらいの時に体験した出来事です。
当時はお盆の時期で、法事をしていました。
始まる前にお坊さんが餓鬼の話をして「部屋の隅には霊が出やすい」と言ったので、
母が「こっちくる?」と言いましたが私はそのままでした。(特に深い意味はありません)
それが終わってからお経が始まりました。
そして、お経を唱えている最中にクラッとしたと同時に目の前が何も見えないくらい
真っ暗になりました。(正座のままで倒れたりはしていなかった)
「 」
暗くなっている間に左ななめ後ろ(母や祖母や坊さんは右斜め前あたり、私は
母たちから見て左ななめ後ろの部屋の角にいた)から耳元で何か聞こえたんです。
お経が聞こえたとしても近すぎだったし、耳元に直接話すようなかんじでした。
体感時間は3秒くらいだったけど、一秒もたってないくらい一瞬でした。
それは男性の声の様だということ以外分からなくて、何を言ったのかもわかりませんでした。
家に帰るまで恥ずかしかったのか言わず、家について車を降りてから母に言ったら
「おじいちゃんが来てくれたんやわ」
といいましたが結局わからずに現在を過ごしています。体の方もこれといって
なんともないし害はなさそうだったんですが、
あれは何だったのか…
ただの眩暈だったのか…
餓鬼の話をしていて霊が寄ってきたのか…
本当に祖父が来てくれたのか…
おそらく一生分からずに過ごしていくのでしょう。
【了】
143 :50@投稿代理 ◆YJf7AjT32aOX :2014/08/23(土) 23:47:09.75 ID:ALSJsfvd0
第45話 ヨサック◆skAMDOCpdQ様
『旅館の旧館』(1/2)
真夏のある日、涼を取る為にと上司のKさんがこんな話をしてくれた。
今から30年程前、新入社員だったKさんは、慰安旅行でとある旅館に泊まる事になった。
当時Kさんは、社長の親族である先輩からパワハラを受けていた。本当は旅行になど参加したくない。
しかも部屋は修学旅行のような大部屋。どうしても先輩と顔を合わせてしまう。だが断る事が出来なかったそうだ。
夜も更けて、酒の回った先輩は案の定絡んできた。Kさんと同僚の二人で肝試しをして来いと言うのだ。
場所は宿泊している旅館の旧館。
渡り廊下で新館と繋がってはいるものの、「立ち入り禁止」の看板があり封鎖されている。
流石にまずいでしょう、と説得するが先輩は聞く耳を持たない。
部屋に備え付けの懐中電灯を持たされて、とうとう旧館まで連れて行かれたという。
旧館は昔ながらの日本旅館といった様子だった。当然ながら玄関や雨戸も開かない。
これは無理ですよ、戻りましょう、とKさん達は口を揃えるが、先輩は入れる場所があると言う。
新館からは見えない方向に回り込むと、雨戸が壊れている所があった。ガラス戸は割れ、鍵が開いている。
ほらな、ここから行ってこい。先輩の言葉に二人は顔を見合わせた。
先輩は常識を欠いたところがあり、よく無茶な行動に出る人だった。
まさか雨戸を壊し、ガラス戸を割ったのは…
疑念を抱いたが何も言えず、結局強引に中に入らされたのだそうだ。
旧館の中は明かりひとつ無く、懐中電灯を頼りに板張りの廊下を進んだ。
しばらくすると曲がり角に差しかかった。もうこの辺で帰ってもいいんじゃないか、
そう同僚と話していると、奥から足音が聞こえてきた。
まずい、旅館の人だろうか。慌てて側の障子を開け、物陰に身を潜めた。
見つかったらただ事では済まない。緊張する二人がいる部屋の方へ、足音はどんどん近づいて来る。
明かりを持っているのか、障子にうっすらと影が映った。細身で長い髪。女性のようだ
144 :50@投稿代理 ◆YJf7AjT32aOX :2014/08/23(土) 23:48:00.94 ID:ALSJsfvd0
(2/2)
しかし、この世のものでない事もすぐに分かった。
その女は逆さまになり、天井を歩いていたからだ。
息を殺して見つめる中、女はゆっくりと部屋の前を通り過ぎた。
ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、またすぐにぎしり、ぎしりと音がする。
さっき姿を現した方から再び、女が天井を歩いて来るではないか。
女は同じ方向からやって来ては、部屋の前を通り過ぎるのを繰り返し続けた。
これでは部屋から出るに出られない。しかも、もしここに入って来たら…
そんな不安に、Kさん達はひたすら耐えたのだそうだ。
どれだけ時間がたったろうか。部屋の中は暗いが、耳をすますと外から鳥の囀りが聞こえる。
朝だ。いつの間にか女の往来も止んでいる。二人は涙ながらに喜びあったそうだ。
怯えながらも何とか侵入口まで戻り、やっとの思いで表に出たその時だった。
ーーー背後の暗がりから「ちがう」と女の声がした。
もう闇雲に走った事しか覚えていない、とKさんは言う。
気付くと新館の大部屋で、同僚も一緒に戻って来ていた。
早朝に大騒ぎで駆け込んで来た新人二人。睡眠を妨害された先輩はKさん達を怒鳴りつけた。
もちろん事情を説明しようとしたが、先輩は一言「知るか」と言って寝直してしまったそうだ。
慰安旅行から帰ってすぐにKさんは辞表を提出し、その後現在の会社に入社した。
同僚の方はそのまま勤め続けたそうで、しばらくの間Kさんと交流があった。
彼から聞いた所によれば、先輩は旅行後一年程で退職したらしい。
退職前の先輩はよく、天井を見ては怯えていたそうだ。
【了】
第38話 コソコソ ◆.PiLQRq.0A 様
『自殺者の末路』
(1/3)
自殺した者の魂は浮かばれない、という話を良く聞く。
賽の河原で延々と石を積むとか、成仏できないまま現世をさまよい続けるだとか、色々な話がある。
毎夏、怪談が好きな人間を集めて怪談会を開いているが、今年は何の流れだかそういう話になった。
「自殺はやっぱ駄目だね」と場が収まりかけたとき、その中の一人が神妙な面持ちで話し始めた。
「自殺者の末路ってさ、ちょっと違うと思うんだけど……」と前置きをして。
この話をしてくれたSという男の知り合いに梶という男がいた。
梶は弱いくせにギャンブルが好きで好きで仕方なく、いつもどこかに借金をしていた。
そのくせ、プライドは一人前以上に持ち合わせており、『いつか俺はビッグになる』と信じているような奴だった。
当時、梶は都内の割と広いマンションに住んでいたと言う。
しかし、そんな男だから、家賃や光熱費などは滞納し放題。ついには管理会社から立ち退きを命じられてしまったらしい。
梶は新しい部屋を探すとき、彼が不動産会社に出した提案は『とにかく安く、とにかく洒落ていて、都内のマンション』だったそうだ。
不動産会社は最初の内はくつか安い物件を紹介していたが、梶の無茶な要求に対して、
「決してお勧めではないんですが、もうこれくらいしか……」と、一つの物件を紹介した。
都内の一等地、広さは前に梶が住んでいたマンションよりも広く、家賃はなんと10,000円だと言う。
ただし、確実に「出る」と紹介された。
梶は即座にこの物件に決めた。
再三バツが悪そうに止める不動産会社を振り切って、部屋の中を見ることもなく、その場で契約を結ぼうとしたそうだ。
しかし、不動産会社は契約するためにある条件を出した。
『その部屋に梶が一週間泊まり、その間毎日、不動産会社へ連絡を入れること』
梶は二つ返事で頷いた。
119 :いそべ@投稿代理 ◆8JXCKM3oNw :2014/08/23(土) 22:41:02.50 ID:2yX9zsEM0
(2/3)
一日目、梶は一週間の宿泊に必要な物を持ってそのマンションを訪れた。
玄関を入るとダイニングキッチンがあり、曇りガラスがはめ込まれた仕切戸の向こうには広々としたリビング広がっていた。
梶は荷物を置くやいなや早速パチンコへ出かけ、帰ってきたのは深夜0時に近い時間だった。
缶ビールを何本か空け、不動産会社が用意してくれた布団に身体を預けた。
どれくらい眠ってしまったのかは分からない。『ドスンッ!』と言う大きな音で目が覚めた。
音の出所に視線を向け、梶は思わず息を呑んだ。
リビングとダイニングキッチンを隔てる曇りガラスの仕切戸に影が映っていた。
最初は何か分からなかった梶も、しばらく見ているとようやくその正体が分かった。
ーー首吊りだ。
それは地面から数十センチほど浮きあがり、頭を垂れている人間の影だった。
首を支点にして左右にゆらゆらと揺れ動き、その度に『ズリ…ズリ…ズズッ……』という縄がこすれる音が辺りに響く。
梶はまんじりともせず、その影を睨み付けていた。
徐々に影の振れ幅は小さくなり、こすれる音が止むと同時に影は消えた。
二日目、梶は昨夜に体験したことを不動産会社で夢中になって話した。
不動産会社からは『やめておきませんか?』と何度も薦められ、他の物件も紹介されたが、
『特に何をされるわけでもないから』と梶は首を横に振り、その部屋に泊まり続けることを決めた。
その夜も次の夜も、梶の眠りは首吊りの音で妨げられた。
しかし、四日目ともなるとさすがに少しは慣れ、梶はその音が決まって深夜2時に鳴ることに気がついた。
ーーじゃあ、その時間、部屋にいなければいいじゃないか。
五日目、そう思い立ち、0時近くに部屋を出て安い居酒屋で酒を煽っていた。
頃合を見て部屋へ戻り、何事もなく朝まで過ごすことが出来た。
ーーこりゃあいい
梶はそれから毎日、飲み歩くようになった。
約束の一週間が過ぎ、梶はなおも渋る不動産会社から部屋を契約した。
120 :いそべ@投稿代理 ◆8JXCKM3oNw :2014/08/23(土) 22:42:22.41 ID:2yX9zsEM0
(3/3)
「でね、ここからは俺の想像なんだけど……」
そう前置きをして、酒を舐め、Sは話を続けた。
「梶はもともと金が無い奴だし、さすがに毎日飲み歩くわけにも行かなくなったんじゃないかな。
しばらくは知り合いの家に泊まったりしたのかもしれない。
でも、それも出来なくなって、仕方なくあの部屋に戻ったんだと思う。
それで、多分また見たんだよ、首吊りの影」
「俺さ、自殺者の末路ってさ、賽の河原で石積みでも浮遊霊になって彷徨うんでも無いと思う。
きっと繰り返すんだよ、自殺を。死んだ瞬間からずっと。
だから『死ねば楽になる』なんて絶対嘘だと思う。死ぬ思いってのが延々と続くんだし。
死に続けて、死に続けて、もう何がなんだか分からないようになって……
代わりを見つけて、引きずり込むんだろうなぁ」
Sはそう言って話を終えた。
梶の訃報が届いたのは、Sが都内の不動産会社を辞め、地方で再就職をしてから四日後のことだったそうだ。
【了】
124 :仮の人 ◆sFvsmjhswAfh :2014/08/23(土) 22:54:05.04 ID:xjoFQ2ov0
【第三十九話】
『幽霊実験』
(1/2)
A子さんはある晩、テレビで心霊番組を観ていたそうだ。
その時やっていたのが、自分の部屋に幽霊がいるかどうか調べる方法というものだった。
やり方は、
1、自分の部屋の玄関をイメージする
2、そのまま部屋に入り、窓を開けていく
というもので、その間に誰かがいればそれが部屋にいる幽霊だ、とのこと。
お手軽だしちょっと面白そうだと感じたA子さんは、自分でも試してみることにした。
一人暮らしの自分の1ルームマンションの玄関をイメージする。
ドアを開けると右手にキッチン、左手にトイレとバス。誰もいない。
さらにドアを開き、狭い自分の部屋を見渡す。
誰か居る。
部屋の右奥、ソファーの真横。天井まで頭が付きそうな程背の高い、全身真っ黒な男が俯いて立っていた。
「きゃっ!」
驚いて目を開け、その場所を振り向く。もちろんそんな男はいない。
多少気味は悪かったが、心霊番組を観ていたせいで変なイメージが残っていただけだろうとA子さんは納得することにした。
その日の深夜。
A子さんは寝苦しさで目が覚めた。
どうも視線を感じて眠れない。頭の中に先ほどの黒い男のイメージが浮かび離れない。
怖いテレビ見たから。気のせい、気のせい。
そうやって何度も自分に言い聞かせ、その日はどうにか眠ることができた。
125 :仮の人 ◆sFvsmjhswAfh :2014/08/23(土) 22:54:32.97 ID:xjoFQ2ov0
(2/2)
しかし、次の日からふとした時に部屋の中のあの場所から視線を感じるようになった。
毎日というわけではない。だが、気味の悪さは抑えきれない。
しかも、日が経つにつれその視線を外でも感じるようになってきてしまった。
ふとした瞬間の電柱の影。職場のロッカーの隅。電車の窓の向こう側。
気が付くとあの男の姿が見える気がしてA子さんは精神的にまいってしまっていた。
あんな実験したから。あんな部屋に住んでるから。
友人に愚痴をこぼすと、「じゃあ、引っ越したら?」と軽い返事。
でも、案外いい考えかもしれない。
このままだと気が狂いそうだし、そういえばそろそろマンションの賃貸契約の更新があった。ついでにもっと職場に近い所に引っ越そう。
引っ越しの日、A子さんは久しぶりに晴れ晴れとした気分で新居の荷物を解いていた。
疲れたな。ちょっとソファーで横になろう。
ごろんと横になり、目を閉じて休憩していたA子さんが再び目を開いた時、自分を見下ろすあの男の姿があった。
【了】
【第四十話】『怖い夢』
夢っていうものは大概、見ている最中はまるでそれが現実のように感じられて、目が覚めた瞬間は内容を鮮明に覚えているのに、
起きて顔でも洗っているうちに頭に霧でも掛かったみたいにそれがどんな夢だったかを忘れてしまう、そんなものだと思う。
俺が普段見る夢も大抵そういう感じなんだが、昔見た夢で、その内容の隅々まで克明に覚えているものがある。
それは俺が小学1〜2年生くらいの頃に見た夢だった。
はじめ、当時小学生の俺は、壁一面に変な象形文字みたいなものが書かれた古代エジプトの遺跡の中で、
無機的な表情のマネキンみたいなお化けに追いかけられていた。
(同年代の人には分かると思うけど、寝る前に読んでた某カードゲーム漫画の影響を多大に受けてるw)
そこまではしょっちゅう見るようなありふれた怖い夢だったんだけど、マネキンお化けから逃げるうちに、
ふと俺はそれが夢であることに気づいた。
何かきっかけがあったわけでもないんだけど、何故か「あ、これ夢だ」って分かったんだ。
自分が夢を見ていると気づいた瞬間、いつのまにか俺は古代エジプトの遺跡ではなく、
背丈と同じくらいの高さの草(芦?)が生えた土手みたいなところにいた。
そして不思議なことに、まだ何かに追いかけられているという実感があった。
さっきみたいにマネキンお化けの姿は見えないが、逃げなくてはいけないという気持ちに駆られた俺は、
それが夢だと分かっていながらも何となく怖くて、草をかき分けながら走り続けた。
走って逃げいている途中で、何人かの大人が立っていた。
もちろん俺は助けを求めるために話しかけたんだが、そこに立っていたモブキャラみたいな大人は皆、
顔がムンクの叫び?とは少し違うけど、そんな感じの人間とは思えない形相をしていた。
俺は走りながら、懲りずに何度も出会う大人の顔を覗き込むけど、揃いも揃ってムンク状態。
そうして逃げているうちに、俺はなんとなく、この夢はこのままずっと覚めることがないんじゃないか?
という予感がしてきた。
それに気づいた時はマジで怖くなって、誰でもいいから助けて、と泣きながら立ち止まってしまった。
と、そこで後ろから、俺の肩にポンと手が置かれた。
128 :ロクイチマル ◆5wVJdkoU4E :2014/08/23(土) 22:58:40.57 ID:fYC5LdIC0
ヤバイ、捕まった。
そう思った俺は怯えながらも、反射的に後ろを振り向いた。
だけど、その手は俺のことを追いかけていた「何か」ではなかった。
後ろに立っていたのはお婆ちゃん。しかもその顔は、他の大人みたいなムンクの叫びじゃなくて、
凄く穏やかな表情だった。
え?誰?
そう思った次の瞬間には、俺は自分のベッドの上で寝ていた。
で、なんでこんな昔の夢の話を今しているかというと、理由がある。
今は大学生で一人暮らしをしているんだけど、つい先月の末頃、ひい祖父ちゃんが死んで、その葬式で地元に帰った。
ひい祖父ちゃんは天寿を全うして静かに往生したんだそうで、お通夜も物悲しい雰囲気は全然なく、
親戚が集まった食事会みたいな感じだった。
そこで田舎の婆ちゃん(ひい祖父ちゃんの娘、祖母の姉)が、ひい祖父ちゃんの写ってるアルバムを持ってきて、
一同で思い出話が始まったんだが、そこにあった一枚の集合写真を見て、俺はギョッとした。
写真に写っている一人に、まさに俺の夢に登場したあの婆ちゃんがいたんだ。
聞いてみるとその人は、ひい祖父ちゃんの妹で、20年くらい前に病気で死んでいるらしい。
写真が撮られたのは今から26年前で、俺は生まれていない。
俺はその日、写真ではじめてその婆ちゃんの存在を知ったはずなのに、俺が小学生の頃に見た夢の婆ちゃんと間違いなく同一人物だった。
よく聞いてみると、その婆ちゃんは俺が生まれたばかりで首も据わらない頃に一度だけこっちに来て、
俺を抱っこしてくれたことがあるらしい。(もちろん俺は覚えていないけど)
今思えば、きっと親戚のよしみで婆ちゃんが俺のことを助けてくれたんだなって思う。
見てから10年以上経っても、登場した婆ちゃんの顔の詳細まで鮮明に覚えているあの夢。
そもそもなんだか「忘れてはいけない」ような気がしていたんだけど、不思議なことってあるんだなって本気で思ってる。
そしてあの夢で、婆ちゃんが俺のことを助けてくれなかったら一体どうなっていたんだろう、と思うと、
今でもどうしようもなくゾッとする。
【了】
134 :ぬこ ◆RMw3.cMGUE :2014/08/23(土) 23:19:40.70 ID:0yX1QsY/I
【第四十一話】『足が欲しい』
大学時代、一つ上の先輩(♀)から聞いた話。
小学4年生の頃、学校から帰るときいつもある脇道からでてくる中年の男性がいた。しかも常に彼女がその脇道を通りかかる時に出てきてぼんやりと立っていたという。
幼心ながら不気味に思っていた先輩はそのことを母親に相談した所しばらく車で送り迎えをすることになった。
1ヶ月ほど車で送り迎えを行った後、もうそろそろいいだろうと言いことになり再び徒歩での登下校になった。そして実際、それからしばらくは何も無かった。
しかしその男は再び現れた。彼女がいつものように帰り道を歩き例の脇道にさしかかったときだった。ヌッと誰かが脇道から出てきた。
あの中年の男だった。そしていつも黙って立っているだけだった男は彼女の方をみてこう言った。
『足が欲しい』
気がつくと彼女は自宅の前にいた。しかしその間の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっていた。それ以降、その男には一度もあっていないという。
そういえば、そのおっさん腰から下がどんな風だったか全然思い出せないんだって
と先輩は話の最後にそう語った。
137 :ぬこ ◆RMw3.cMGUE :2014/08/23(土) 23:31:47.13 ID:0yX1QsY/I
【第四十二話】 『足が欲しい 二』
同じ先輩がやはり小学生の頃に体験した話。
その日は風邪気味で学校を休んでおり自宅の2階にある自室で布団にくるまっていた。
ぼんやりと外を眺めていると家の前にある道に喪服のような黒い服と帽子をまとった髪の長い女性が俯いて立っていることに気がついた。
何故かその女性のことが気になり彼女はベランダに出ていった。(なぜそのようなことを考えたのか後になって振り返ってみてもよくわからないという。)すると彼女がベランダに出ると同時にその女性がふっと顔をあげた。
その顔は雪のように白かった。比喩ではなく本当に肌が真っ白だったのだ。
そしてつぶやいた。そのつぶやきは離れているはずの彼女にもはっきり聞こえたという。
『足が欲しい』
気がつくと彼女はベランダで倒れていた。時計をみると気を失った時から2時間ほどたっていた。
ちなみにその先輩は今でも五体満足で生活している。また20数年の人生の中で手足を失うような病気や事故が起きたこともないという。
彼女が幼い頃に遭遇したものがなんだったのかは未だにわからないそうだ。
【了】
139 :ぬこ ◆RMw3.cMGUE :2014/08/23(土) 23:37:35.15 ID:0yX1QsY/I
【第四十三話】『転落』
職場の同僚(♀)から聞いた話。
彼女が通っていた小学校のすぐ隣には昼間でも薄暗い森があった。
ある日、何を思ったのかそこを探検してみたいと思い、昼休み一人で森へ入っていった。
一応、道らしきものはあったためそこをたどりながらしばらく歩いていくと開けた空き地に出た。そこの真ん中にはこじんまりとした祠と小さな地蔵があるのみだった。
なんだつまらないと思い、そこを後にした。残りわずかになった昼休みの時間は校庭のすみにあるジャングルジムに登ってそこでぼんやり校庭を眺めながら過ごすことにした。
ジャングルジムの頂上で校庭や、さっき行ったばかりの森を眺めていると突然何かに背中を押された。
気がつくとジャングルジムとは反対方向の校門前に倒れていた。
ズボンをみればボロボロにすれていた。まるで何かに引きずられたかのように…
ちなみに校庭には彼女の同級生もいたはずなのだが誰も彼女学校ジャングルジムから校門前に異動するのをみていないという。
そういえばウチの学校の前、結構車とおるんだよね。と彼女はこの話を語った時、最後にそう付け加えた。
【了】
141 :会計 ◆QAI42rkje6 :2014/08/23(土) 23:39:04.72 ID:gGSU/C180
【四十四話】会計 ◆QAI42rkje6
『法事』
これは妹が小学五年生くらいの時に体験した出来事です。
当時はお盆の時期で、法事をしていました。
始まる前にお坊さんが餓鬼の話をして「部屋の隅には霊が出やすい」と言ったので、
母が「こっちくる?」と言いましたが私はそのままでした。(特に深い意味はありません)
それが終わってからお経が始まりました。
そして、お経を唱えている最中にクラッとしたと同時に目の前が何も見えないくらい
真っ暗になりました。(正座のままで倒れたりはしていなかった)
「 」
暗くなっている間に左ななめ後ろ(母や祖母や坊さんは右斜め前あたり、私は
母たちから見て左ななめ後ろの部屋の角にいた)から耳元で何か聞こえたんです。
お経が聞こえたとしても近すぎだったし、耳元に直接話すようなかんじでした。
体感時間は3秒くらいだったけど、一秒もたってないくらい一瞬でした。
それは男性の声の様だということ以外分からなくて、何を言ったのかもわかりませんでした。
家に帰るまで恥ずかしかったのか言わず、家について車を降りてから母に言ったら
「おじいちゃんが来てくれたんやわ」
といいましたが結局わからずに現在を過ごしています。体の方もこれといって
なんともないし害はなさそうだったんですが、
あれは何だったのか…
ただの眩暈だったのか…
餓鬼の話をしていて霊が寄ってきたのか…
本当に祖父が来てくれたのか…
おそらく一生分からずに過ごしていくのでしょう。
【了】
143 :50@投稿代理 ◆YJf7AjT32aOX :2014/08/23(土) 23:47:09.75 ID:ALSJsfvd0
第45話 ヨサック◆skAMDOCpdQ様
『旅館の旧館』(1/2)
真夏のある日、涼を取る為にと上司のKさんがこんな話をしてくれた。
今から30年程前、新入社員だったKさんは、慰安旅行でとある旅館に泊まる事になった。
当時Kさんは、社長の親族である先輩からパワハラを受けていた。本当は旅行になど参加したくない。
しかも部屋は修学旅行のような大部屋。どうしても先輩と顔を合わせてしまう。だが断る事が出来なかったそうだ。
夜も更けて、酒の回った先輩は案の定絡んできた。Kさんと同僚の二人で肝試しをして来いと言うのだ。
場所は宿泊している旅館の旧館。
渡り廊下で新館と繋がってはいるものの、「立ち入り禁止」の看板があり封鎖されている。
流石にまずいでしょう、と説得するが先輩は聞く耳を持たない。
部屋に備え付けの懐中電灯を持たされて、とうとう旧館まで連れて行かれたという。
旧館は昔ながらの日本旅館といった様子だった。当然ながら玄関や雨戸も開かない。
これは無理ですよ、戻りましょう、とKさん達は口を揃えるが、先輩は入れる場所があると言う。
新館からは見えない方向に回り込むと、雨戸が壊れている所があった。ガラス戸は割れ、鍵が開いている。
ほらな、ここから行ってこい。先輩の言葉に二人は顔を見合わせた。
先輩は常識を欠いたところがあり、よく無茶な行動に出る人だった。
まさか雨戸を壊し、ガラス戸を割ったのは…
疑念を抱いたが何も言えず、結局強引に中に入らされたのだそうだ。
旧館の中は明かりひとつ無く、懐中電灯を頼りに板張りの廊下を進んだ。
しばらくすると曲がり角に差しかかった。もうこの辺で帰ってもいいんじゃないか、
そう同僚と話していると、奥から足音が聞こえてきた。
まずい、旅館の人だろうか。慌てて側の障子を開け、物陰に身を潜めた。
見つかったらただ事では済まない。緊張する二人がいる部屋の方へ、足音はどんどん近づいて来る。
明かりを持っているのか、障子にうっすらと影が映った。細身で長い髪。女性のようだ
144 :50@投稿代理 ◆YJf7AjT32aOX :2014/08/23(土) 23:48:00.94 ID:ALSJsfvd0
(2/2)
しかし、この世のものでない事もすぐに分かった。
その女は逆さまになり、天井を歩いていたからだ。
息を殺して見つめる中、女はゆっくりと部屋の前を通り過ぎた。
ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、またすぐにぎしり、ぎしりと音がする。
さっき姿を現した方から再び、女が天井を歩いて来るではないか。
女は同じ方向からやって来ては、部屋の前を通り過ぎるのを繰り返し続けた。
これでは部屋から出るに出られない。しかも、もしここに入って来たら…
そんな不安に、Kさん達はひたすら耐えたのだそうだ。
どれだけ時間がたったろうか。部屋の中は暗いが、耳をすますと外から鳥の囀りが聞こえる。
朝だ。いつの間にか女の往来も止んでいる。二人は涙ながらに喜びあったそうだ。
怯えながらも何とか侵入口まで戻り、やっとの思いで表に出たその時だった。
ーーー背後の暗がりから「ちがう」と女の声がした。
もう闇雲に走った事しか覚えていない、とKさんは言う。
気付くと新館の大部屋で、同僚も一緒に戻って来ていた。
早朝に大騒ぎで駆け込んで来た新人二人。睡眠を妨害された先輩はKさん達を怒鳴りつけた。
もちろん事情を説明しようとしたが、先輩は一言「知るか」と言って寝直してしまったそうだ。
慰安旅行から帰ってすぐにKさんは辞表を提出し、その後現在の会社に入社した。
同僚の方はそのまま勤め続けたそうで、しばらくの間Kさんと交流があった。
彼から聞いた所によれば、先輩は旅行後一年程で退職したらしい。
退職前の先輩はよく、天井を見ては怯えていたそうだ。
【了】
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