百物語2014
Part4
61 :かーん ◆UiIW3kGSB. :2014/08/23(土) 20:16:05.83 ID:MZyfIGDL0
【第十九話】
『ずっと前からそこにいた』
(1/2)
私が夏休みを利用して父の実家近くの教習所に通っていた時の話。
進路の決まった高校生や夏休みの学生が合宿を利用して通ってくる、いわゆる繁忙期の前に入校した私は
ほぼ毎日学校に通いあっという間に路上での実習が始まっていた。
当然車に慣れたともいえないまま他の運転手に混じり道路を走る五十分間は
その頃の私にとって常に緊張と恐怖との戦いでした。
そして初めてのトンネルの走行時に私は有得ないものを見てしまったのです。
「昔はこの辺りも事故が多かったんやけど、工事してからはもうすっかり」
道路開通に合わせて数年前に対面から二車線に変えたこのトンネルは時間帯もあって車が通っている気配もない。
そうは言っても山を切り開いて作ったトンネルの入り口出口は中々の急カーブ。
一人緊張感をつのらせる私に気付かず指導員は話し続ける。
助手席の指導員が話す他の2種の教習者のライトの説明に耳を傾けながらハンドルを握る私が見たものは
こちらに近づいてくる対向車のライトでした。
「えっ」
「ん?」
「いや、前…あっと…いえ、何でも…」
思わず声を出した私にのんびりした声でどうしたと返されてしまったのでつい横を見てしまう。
がちがちにハンドルを握っていた為に車が揺れ自分が車を運転していることを思い出す。
車体をまっすぐにする為に前を見た時にはライトもなければ前を走行する車もありませんでした。
パニックになる気持ちを静めて何でもないと返すだけで精いっぱいでした。
不意に蛇行運転なんかした私に指導員は笑いながら早く慣れなよと言われ
復讐項目にハンドル操作とバッチリ書かれてその日は何もなく終わりました。
きっと不必要なほどに緊張していた私の頭が勝手に作り出したものとその時はスルーしていたのですが
62 :かーん ◆UiIW3kGSB. :2014/08/23(土) 20:18:12.45 ID:MZyfIGDL0
(2/2)
そんな出来事からしばらくたったある日。
路上での運転にもそれなりに慣れた頃の学校の帰りに興味深い話を聞いたのです。
単発の送迎バスに一人乗り帰途に着く道すがら運転手さんと話していた時の事。
「お。そうそうこの前ね。とうとう見たよ」
「何ですか?サルですか?」
「サルはここらへんどこにでもおるよ。そうでなくて、前は影も形もなかったけどね
…このトンネル出るようになったらしいんだわ」
「出るって幽霊ですか?マジで?」
「まあ幽霊言うてもライトだけや。トンネル入ってしばらく走ると向こうからライトが近づいてくるっていう」
「それってこのトンネルなんですか?」
その話は場所は違えど私が先日体験した話に酷く似ていました。
聞くとその車は赤だったり白だったりスポーツカーであったりワゴンであったりと様々なようですが
決まってライトが近づいてくると思った瞬間消えてしまうのだそうです。
「ここ最近は大きな事故もなかったのに何でそんな噂が出るかねと仲間と話しとったんやけどね」
その時何故だか私は話に乗る気になれなくて、不思議ですねと簡単に返し違う話をしてしてしまいました。
きっと姿を確認できるようになったのがつい最近というだけなのだろうと思ったのです。
彼らはきっとずっと前からそこにいて、でも気付かれなかっただけなのだと。
対向車のなくなったトンネルではきっとよく見える。
そして…当然私たちが使っているこの車線にもきっと、運転する私たちに紛れるように…
彼らはずっと前からここにだっているのかもしれません。
【了】
64 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/23(土) 20:22:41.03 ID:HxZdyY1N0
【第20話】 サンズリバー ◆QNxpn.SauU 様
『幽体飛行』
(1/2)
一昨年まで祖母の介護を独りでしていた。ある日、彼女の体調が急変、緊急入院となった。
最初は治療も順調だった。3月中旬、いつも通り見舞いに行ったが、瞳が今までにない程澄んでいて、
僕の顔を無言で見つめた。
●深く深く 澄みて清らな大き眼に 菩薩宿れりぢっと見つめる
もう、半月も持たないという直感が働き、覚悟して一旦帰宅した。
数日後、病院から「もう危ない」と電話があり、大急ぎで向かった。まだ意識のあった祖母の第一声は
「私は死ぬる事になっとる。苦労かけて…。」幼少期に両親と死別した僕は、初めて祖母の前で泣いた。
約10日間、病院に寝泊まり、最期は添い寝して看取った。
●吾が手首程の太腿さすりつつ 幾度握り計りしてみる
「嬉しい」と「ありがとう」が最後の言葉。
うっすら目を開け、僕の顔を見て静かに息を引き取った。
●限られし命に主治医 優しかり事のみ せめて嬉しかりける
65 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/23(土) 20:24:21.37 ID:HxZdyY1N0
(2/2)
月日が流れ穏やかになるかと思いきや、幽体離脱が頻繁に始まった。まず身体から魂が抜け浮遊する。
壁や窓、扉まですり抜け空中を飛び交い墓地へと向かう。そして我が魂を入れ込もうと試みるが、
祖母が光りに囲まれて跳ね返し、現世に戻ってしまう。
ある時は、家の仏壇から我が魂を送り込もうとするが、結果は同じ。
これらの現象が2年に渡り続いている。しかし、その間は安堵感で満たされている。
ある日、友人が来て言った。「もう一人いる。おばあさんやね。」
別の日、別の友人が言った。「俺らの話し、おばあちゃんに聞かれてる…。ここにいるよ。」
近所の人たちが口々に言う。「おばあちゃんに護られてるね、幸せになるよ。」
これらの現象は、全て事実で現在進行形である。ほら、今日も……。
【了】
68 :本当にあった怖い名無し:2014/08/23(土) 20:40:10.07 ID:zA3/GSW60
【第21話】かいじゅうのこども ◆dxakKNa1zM
『ガリ、ガリ…』
(1/5)
臨死体験をご存知でしょう。
死に面した人間が、息を吹き返す。
そして死と戦っていた間、その意識の端に焼き付けた景色。
ぽつり…ぽつりと、物語る…。
ある科学者が、臨死体験者に統計をとった。
それによると、臨死体験として語られる映像に、その人の意識が深く関わっている、というのはほんとらしい。
生まれた国と染まった文化、信じた宗教によって、語られる景色にはクラスタがある。
日本だと三途の川。キリストの国では、長い白い階段…。
所詮、朦朧とした意識の中で見た、深層心理の夢のようなものにすぎないと、ときに乱暴に片付けられる、ひそかな伝説。
それが、臨死体験。
果てのないトンネルの闇、いつかは己が呑み込まれて行く、その闇の、向こう側を、恐れ、ときに憧れて…。
では、そのあべこべは?
言うなれば、「臨生体験」。
死者が噂し合う、生者の世界の記憶…。
もっとも、古くから盆には死者が”黄泉帰り”、生者の世界に里帰りすると言いますから、死者達にとって故郷は死の世界であって、生者の世界は思いつきの旅行でしかないのかもしれません。
それでも僕らがそうであるように、旅から戻ったあとに、それぞれの旅した場所を肴に退屈をしのいでいるかもしれませんよ。
闇の帳から、死者たちの囁き声が聞こえてはこないでしょうか。
ガリガリ…ガリガリ…。
69 :本当にあった怖い名無し:2014/08/23(土) 20:40:47.37 ID:zA3/GSW60
(2/5)
東大阪の画材屋に、絵の具を買いに行った帰りでした。
一見、ありふれた道でした。現場の変形は僅かなもので、そこにある違和感といえば、色彩だけでした。まるでチューブからひねり出したかのように血の飛び散ったガードレール。
今でも忘れられません。
兄はまだ二十歳でした。
兄には、恋人がいました。
2人について知っていたことは、そう多くはありません。
一度だけ、家の玄関にいたそのヒトを、ちらと見かけたくらいでしょうか。
兄の通夜の席で、喪服に身を包んだそのヒトと、二時間ほど話をしました。
2人の出会い。
つき合いだして二年だったこと。
彼女が引き継ぐ家業のこと。
兄が語った夢のこと。
お腹に宿した命のこと。
兄はいつも街へ出ていた。
兄のいない、キャンバスと、iMacと、粘土と、いろいろの作品のあるだけの空っぽの部屋は、だから普通の部屋のはずだったけれど。
僕にはそうは思えませんでした。
ーー部屋が寂しく思えたんじゃない。
感じるんだ。
布団に腰を埋めていると、背中に兄の息づかいを……。
もしかしたら生きていたときより、ずっと生々しい……ーー
葬儀も終わって大分落ち着いてきたとき、あのヒトにその話をしました。
彼女は何も言わなかったけれど、話を聞くその瞳は誠実でした。
70 :本当にあった怖い名無し:2014/08/23(土) 20:41:25.97 ID:zA3/GSW60
(3/5)
彼女が母の家事を手伝っている間に、僕は兄の部屋に上がると、あの絵の描かれた画用紙を外しました。
晩ご飯を一緒にしながら、彼女に絵の話をしました。
絵のおおよそは出来上がっていたようでした。
だから僕にも、描かれているのが京都のある有名な寺の景色らしいことは分かっていました。
僕にとっての謎は、絵の具についてでした。
絵の中の、濃密な緑の世界に、バーミリオンを施すような余地は、どこにもないように思われました。
そして兄は絵を始めた子供の頃から、一度に二つの作品に取りかかることは決してしませんでした。
玄関でその絵を見せると、彼女は欲しいと言ってくれました。
僕は油絵の具のそこら一面に散らばったパレットと、まだそこに加わっていないあの赤い絵の具を渡しました。あのヒトもまた、絵描きでしたから。
ある晩、僕は彼女と2人で話をしました。
ずっと兄を憎んでいたことを。
母との喧嘩を治めるために包丁を持ちだしたことがあることを。
勉強をまともにやらず、母を泣かせてばかりいた兄を見下していたことを。
ある日を境に、口をきかなくなったことを。
僕が中学に上がった辺りの頃から、隣の兄の部屋からはガリガリと、何かを削る音がしていたことも、話しました。
彼女は、その音は多分油絵の具を削っている音だと言ったけれど、僕はそれの正体を、結局知らずじまいだった。
その頃から、僕も母も、兄の部屋をノックすることはなくなっていたから。
僕はただ、蛍光灯の下で、静かに兄を呪っていました。
食事も別々にとるようになっていたから、兄に対する憎しみとは、もはやその音に対する憎しみでした。不思議なことに僕はその音を、兄が家を開けることが多くなってからも、空のはずの部屋の向こうから、時折聞いたのでした。
二週間後、彼女は入院しました。
そしてひと月も経たないうちに、死産しました。
赤ん坊の、世界への扉は少しだけ開かれて、むなしくも閉ざされたのです。
死んだ赤子は、僕らの世界に何を見て、何を持ち帰ったのでしょう。
71 :かいじゅうのこども ◆dxakKNa1zM :2014/08/23(土) 20:42:27.33 ID:zA3/GSW60
(4/5)
少しして、僕と母は彼女の実家に招かれました。
襖で仕切られただけの畳の空間が、古い農家における、彼女のプライバシーでした。
あの絵が額縁に嵌って、部屋の仕切りのところから僕らを見下ろしていました。
彼女は椅子を持ってくると、その上に立ちました。シャツから背中が見えるくらいに背伸びをしたあのヒト。
代わりにやりますとは言えずに、僕はただ見ていました。
彼女は絵を下ろし、部屋の障子を少しだけ開けると、光の差した壁に立てかけました。
絵は生まれ変わっていました。
対比の技法。
色のグラデーションを描くと、ぐるりと輪になる。
この環を色相環<しきそうかん>といいます。
色相環の、それぞれ反対側に位置する色同士を補色といって、お互いを引き立て合う。
そして、緑の補色は、赤。
彼女はあの赤い絵の具で、新緑の寺の風景のところどころをなぞったのでした。
それだけで、葉っぱの一枚一枚が魔法がかけられたかのように命を宿したのです。
描かれた景色の瑞々しい空気が、こちら側に流れ込んでくるかのようでした。
僕らは洋服を着たまま和室に八の字に正座したまま、しばらくの間、このすこしちぐはぐなこの時を過ごしました。
僕は気付かれないよう、横に視線を流しました。
通夜の席での、あどけない顔に似合わない喪服に身を包んだ彼女の、しかし黒の中で不思議と鮮やかに見えた彼女の、あの表情を思い浮かべていました。
彼女の横顔は薄暗くてよく見えなくて、線香の匂いと古い家の匂いに混じって、今風の香水の匂いがほんのわずかに漂っているだけでした。
彼女が学生としてこうして絵を描いていられるのも、もう長くはないのだと、ふと僕は思いました。
その日は九月でしたが、あの人の人生もまた、夏を終えようとしていました。
部屋照らす日の光が、赤みを帯びてきました。遠くで虫が鳴いています。
実りの秋が近づいていました。
72 :かいじゅうのこども ◆dxakKNa1zM :2014/08/23(土) 20:44:39.58 ID:zA3/GSW60
(5/5)
この家と田んぼを1人で継いで子を育てていく、彼女の将来のことを思いました。
暗闇の中に沈んだ彼女の横顔を、じっと眺めました。
彼女の白い横顔と、赤い唇を、じっと見つめました。
汗がぽたぽたと畳に垂れる音を、彼女は聞こえていたでしょうか。
ジーンズの上から太ももをつねって、獣の衝動と闘っていました。
背中から、彼女の名前を呼ぶ声がしました。
雨はいつの間にか止んでいました。
庭の木々や土のそれに混じって、飯の匂いがしてきました。
釜で炊いたであろうその匂いは、都会育ちの僕には、不思議と現実離れした、嗅ぎ慣れぬものに思えました。
彼女に続いて縁側へと歩きながら、振り返りたいという欲求を僕を押しとどめました。
あの絵はまるで、死と生を繋ぐ窓のようにも思えました。
けれど。どちらが生の世界で、どちらが死の世界なのでしょうか。
しわがれた声が僕らを呼んでいます。
僕は彼女の少し後ろを続きながら、彼女をろくに見ることができずに、庭のほうを眺めながら、兄の部屋から、生々しい”匂い”が消えたんです、と言いました。
死を見失うということは、生を見失うのと同じことなのかもしれません。
あの絵の緑が、赤い絵の具で息を吹き返したように。
明日の朝、この田舎の山道を駅まで歩いて行くことを、僕は思いました。待ち遠しいと思いました。
人生で一番清々しい朝になると、予感していました。
彼女と、兄の遺骨に手を合わせました。
いつものように呪いの言葉を吐き終わった後、少しだけ、兄に感謝をしました。
ーーありがとう。僕は変われたよ。
きっと誰かが。
誰かが僕の緑のキャンバスから、赤い絵の具を削っていたのです。
ガリガリ、ガリガリ、と。その音がいつしか消えて。
チューブから、赤い絵の具がひねり出された。呪いは終わりました。
僕は、生まれていたことを知ったのでした。
あれから一年が経ちます。
あの日を迎えたら、僕は必ず、しかしこっそりと、こうつぶやくのです。
ハッピーバースデー。
75 :いそべ@投稿代理 ◆8JXCKM3oNw :2014/08/23(土) 20:49:08.27 ID:2yX9zsEM0
【第22話】 サンズリバー ◆QNxpn.SauU
『神か死神か…』
(1/2)
一昨年、祖母を看取ってから、周囲の高齢者の人々が旅立っている。
祖母が他界したのは春の彼岸の中日。四十九日・初盆を終え、秋の彼岸になった。
近所の友人のお父さんの体調が悪化し、救急搬送された。お母さんは早くに海で転落死しており、
病気で入院中の兄しか家族がいない。そこで、私が付き添う事となり、救急車の後を車で追った。
病院に着くと、即座に様々な検査が始まった。
友人のお父さんは、夏前に一度体調を崩し治療を受けており、その時も私が付き添い喜んで頂いた経緯がある。
自宅療養中、私が背中をさすった時に不思議な言葉を発していた。
「○○さん(私の名)の手には不思議な力がある。まるで神の手だ。」という内容だった。
私は笑いながら「この手で元気を送ってるからね。」と、冗談めかしに返答した。
更にこの救急搬送される数日前には、「貴方と話しをすると、頭の中の霧が晴れたみたいだ。もうワシは長くない。
感謝してるよ。」と言われた。悟っていると感じた私は無言で頷くだけだった。
この様な事が頭の中を駆け巡っている間に、検査が終わり主治医との面談が始まった。
今夜は付き添って泊まり込みして欲しいという内容だった。私は快諾し、書類にサインをした。
お父さんは意識はあるが、酸素マスクをして、もはや話す事ができない。しかし、しっかり目を開け私の顔をジッと見た。
澄み切ったとても美しい瞳だ。そして彼はベッドに横たわりながらも、三度お辞儀をし目を閉じた。
一夜を越え夜明け前、友人のお父さんは旅立った。そして、他人の私が葬儀の手配をするという異例の事態となった。
離れた土地から帰郷した親族に感謝されつつ、無事に葬儀を終えた。
76 :いそべ@投稿代理 ◆8JXCKM3oNw :2014/08/23(土) 20:50:59.82 ID:2yX9zsEM0
(2/2)
月日は流れ12月上旬、私は歯医者の帰りに、見知らぬお婆さんが道路で倒れるのを目の当たりにした。
慌てて駆け寄って声をかけたが、全く反応がない。通りすがりの男性に声をかけ手伝ってもらい、すぐ119番通報した。
幸い近くに医者があり、AEDを持ってきてもらったが、ショックの必要なしとのガイダンス。
心臓ではなく脳だと直感したが、救急車が到着するまで20分以上かかり、お婆さんは意識を取り戻す事なく他界した。
親族は御礼をしてくださったが、複雑な気分だった。
年が明け4月。親戚の叔母の訃報の連絡が入った。3月に会った時にはとても元気だったので、耳を疑った。
叔父は既に他界しており、子は息子一人だけ。また葬儀だ。関わった人たちが次々に亡くなり、精神的に参ってしまった。
「俺は死神かもしれん……」と思うようになった。
葬儀が終わり自宅へ帰ってベッドに横たわった。ウトウトしかけると金縛りに合い、また離脱した。
先祖の眠る墓へ飛んで行こうとするが、大きな力が邪魔をして家から出られない。いつもは簡単にすり抜けるのに…。
「また、ばあちゃんか…」と思ったが違っていた。亡くなった身内が総出である。こんなの初めてだ。
母が一歩近づいて言った、「安心しなさい。後は私に任せなさい。」……そして元に戻って眠った。
近所の高齢者の人たちは言う。「○○君(私の名)は、人を見送る運命なのよ。それが貴方の役割。」
友人のお父さんが言った"私の神の手"でも、命を救えなかった。神か死神か…、答えは未だ見つかっていない。
もしかしたら、答えは私があの世に行ってから、遺った人が出すんじゃないかと最近ふと思う。
【了】
【第十九話】
『ずっと前からそこにいた』
(1/2)
私が夏休みを利用して父の実家近くの教習所に通っていた時の話。
進路の決まった高校生や夏休みの学生が合宿を利用して通ってくる、いわゆる繁忙期の前に入校した私は
ほぼ毎日学校に通いあっという間に路上での実習が始まっていた。
当然車に慣れたともいえないまま他の運転手に混じり道路を走る五十分間は
その頃の私にとって常に緊張と恐怖との戦いでした。
そして初めてのトンネルの走行時に私は有得ないものを見てしまったのです。
「昔はこの辺りも事故が多かったんやけど、工事してからはもうすっかり」
道路開通に合わせて数年前に対面から二車線に変えたこのトンネルは時間帯もあって車が通っている気配もない。
そうは言っても山を切り開いて作ったトンネルの入り口出口は中々の急カーブ。
一人緊張感をつのらせる私に気付かず指導員は話し続ける。
助手席の指導員が話す他の2種の教習者のライトの説明に耳を傾けながらハンドルを握る私が見たものは
こちらに近づいてくる対向車のライトでした。
「えっ」
「ん?」
「いや、前…あっと…いえ、何でも…」
思わず声を出した私にのんびりした声でどうしたと返されてしまったのでつい横を見てしまう。
がちがちにハンドルを握っていた為に車が揺れ自分が車を運転していることを思い出す。
車体をまっすぐにする為に前を見た時にはライトもなければ前を走行する車もありませんでした。
パニックになる気持ちを静めて何でもないと返すだけで精いっぱいでした。
不意に蛇行運転なんかした私に指導員は笑いながら早く慣れなよと言われ
復讐項目にハンドル操作とバッチリ書かれてその日は何もなく終わりました。
きっと不必要なほどに緊張していた私の頭が勝手に作り出したものとその時はスルーしていたのですが
62 :かーん ◆UiIW3kGSB. :2014/08/23(土) 20:18:12.45 ID:MZyfIGDL0
(2/2)
そんな出来事からしばらくたったある日。
路上での運転にもそれなりに慣れた頃の学校の帰りに興味深い話を聞いたのです。
単発の送迎バスに一人乗り帰途に着く道すがら運転手さんと話していた時の事。
「お。そうそうこの前ね。とうとう見たよ」
「何ですか?サルですか?」
「サルはここらへんどこにでもおるよ。そうでなくて、前は影も形もなかったけどね
…このトンネル出るようになったらしいんだわ」
「出るって幽霊ですか?マジで?」
「まあ幽霊言うてもライトだけや。トンネル入ってしばらく走ると向こうからライトが近づいてくるっていう」
「それってこのトンネルなんですか?」
その話は場所は違えど私が先日体験した話に酷く似ていました。
聞くとその車は赤だったり白だったりスポーツカーであったりワゴンであったりと様々なようですが
決まってライトが近づいてくると思った瞬間消えてしまうのだそうです。
「ここ最近は大きな事故もなかったのに何でそんな噂が出るかねと仲間と話しとったんやけどね」
その時何故だか私は話に乗る気になれなくて、不思議ですねと簡単に返し違う話をしてしてしまいました。
きっと姿を確認できるようになったのがつい最近というだけなのだろうと思ったのです。
彼らはきっとずっと前からそこにいて、でも気付かれなかっただけなのだと。
対向車のなくなったトンネルではきっとよく見える。
そして…当然私たちが使っているこの車線にもきっと、運転する私たちに紛れるように…
彼らはずっと前からここにだっているのかもしれません。
【了】
64 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/23(土) 20:22:41.03 ID:HxZdyY1N0
【第20話】 サンズリバー ◆QNxpn.SauU 様
『幽体飛行』
(1/2)
一昨年まで祖母の介護を独りでしていた。ある日、彼女の体調が急変、緊急入院となった。
最初は治療も順調だった。3月中旬、いつも通り見舞いに行ったが、瞳が今までにない程澄んでいて、
僕の顔を無言で見つめた。
●深く深く 澄みて清らな大き眼に 菩薩宿れりぢっと見つめる
もう、半月も持たないという直感が働き、覚悟して一旦帰宅した。
数日後、病院から「もう危ない」と電話があり、大急ぎで向かった。まだ意識のあった祖母の第一声は
「私は死ぬる事になっとる。苦労かけて…。」幼少期に両親と死別した僕は、初めて祖母の前で泣いた。
約10日間、病院に寝泊まり、最期は添い寝して看取った。
●吾が手首程の太腿さすりつつ 幾度握り計りしてみる
「嬉しい」と「ありがとう」が最後の言葉。
うっすら目を開け、僕の顔を見て静かに息を引き取った。
●限られし命に主治医 優しかり事のみ せめて嬉しかりける
65 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/23(土) 20:24:21.37 ID:HxZdyY1N0
(2/2)
月日が流れ穏やかになるかと思いきや、幽体離脱が頻繁に始まった。まず身体から魂が抜け浮遊する。
壁や窓、扉まですり抜け空中を飛び交い墓地へと向かう。そして我が魂を入れ込もうと試みるが、
祖母が光りに囲まれて跳ね返し、現世に戻ってしまう。
ある時は、家の仏壇から我が魂を送り込もうとするが、結果は同じ。
これらの現象が2年に渡り続いている。しかし、その間は安堵感で満たされている。
ある日、友人が来て言った。「もう一人いる。おばあさんやね。」
別の日、別の友人が言った。「俺らの話し、おばあちゃんに聞かれてる…。ここにいるよ。」
近所の人たちが口々に言う。「おばあちゃんに護られてるね、幸せになるよ。」
これらの現象は、全て事実で現在進行形である。ほら、今日も……。
【了】
68 :本当にあった怖い名無し:2014/08/23(土) 20:40:10.07 ID:zA3/GSW60
【第21話】かいじゅうのこども ◆dxakKNa1zM
『ガリ、ガリ…』
(1/5)
臨死体験をご存知でしょう。
死に面した人間が、息を吹き返す。
そして死と戦っていた間、その意識の端に焼き付けた景色。
ぽつり…ぽつりと、物語る…。
ある科学者が、臨死体験者に統計をとった。
それによると、臨死体験として語られる映像に、その人の意識が深く関わっている、というのはほんとらしい。
生まれた国と染まった文化、信じた宗教によって、語られる景色にはクラスタがある。
日本だと三途の川。キリストの国では、長い白い階段…。
所詮、朦朧とした意識の中で見た、深層心理の夢のようなものにすぎないと、ときに乱暴に片付けられる、ひそかな伝説。
それが、臨死体験。
果てのないトンネルの闇、いつかは己が呑み込まれて行く、その闇の、向こう側を、恐れ、ときに憧れて…。
では、そのあべこべは?
言うなれば、「臨生体験」。
死者が噂し合う、生者の世界の記憶…。
もっとも、古くから盆には死者が”黄泉帰り”、生者の世界に里帰りすると言いますから、死者達にとって故郷は死の世界であって、生者の世界は思いつきの旅行でしかないのかもしれません。
それでも僕らがそうであるように、旅から戻ったあとに、それぞれの旅した場所を肴に退屈をしのいでいるかもしれませんよ。
闇の帳から、死者たちの囁き声が聞こえてはこないでしょうか。
ガリガリ…ガリガリ…。
(2/5)
東大阪の画材屋に、絵の具を買いに行った帰りでした。
一見、ありふれた道でした。現場の変形は僅かなもので、そこにある違和感といえば、色彩だけでした。まるでチューブからひねり出したかのように血の飛び散ったガードレール。
今でも忘れられません。
兄はまだ二十歳でした。
兄には、恋人がいました。
2人について知っていたことは、そう多くはありません。
一度だけ、家の玄関にいたそのヒトを、ちらと見かけたくらいでしょうか。
兄の通夜の席で、喪服に身を包んだそのヒトと、二時間ほど話をしました。
2人の出会い。
つき合いだして二年だったこと。
彼女が引き継ぐ家業のこと。
兄が語った夢のこと。
お腹に宿した命のこと。
兄はいつも街へ出ていた。
兄のいない、キャンバスと、iMacと、粘土と、いろいろの作品のあるだけの空っぽの部屋は、だから普通の部屋のはずだったけれど。
僕にはそうは思えませんでした。
ーー部屋が寂しく思えたんじゃない。
感じるんだ。
布団に腰を埋めていると、背中に兄の息づかいを……。
もしかしたら生きていたときより、ずっと生々しい……ーー
葬儀も終わって大分落ち着いてきたとき、あのヒトにその話をしました。
彼女は何も言わなかったけれど、話を聞くその瞳は誠実でした。
70 :本当にあった怖い名無し:2014/08/23(土) 20:41:25.97 ID:zA3/GSW60
(3/5)
彼女が母の家事を手伝っている間に、僕は兄の部屋に上がると、あの絵の描かれた画用紙を外しました。
晩ご飯を一緒にしながら、彼女に絵の話をしました。
絵のおおよそは出来上がっていたようでした。
だから僕にも、描かれているのが京都のある有名な寺の景色らしいことは分かっていました。
僕にとっての謎は、絵の具についてでした。
絵の中の、濃密な緑の世界に、バーミリオンを施すような余地は、どこにもないように思われました。
そして兄は絵を始めた子供の頃から、一度に二つの作品に取りかかることは決してしませんでした。
玄関でその絵を見せると、彼女は欲しいと言ってくれました。
僕は油絵の具のそこら一面に散らばったパレットと、まだそこに加わっていないあの赤い絵の具を渡しました。あのヒトもまた、絵描きでしたから。
ある晩、僕は彼女と2人で話をしました。
ずっと兄を憎んでいたことを。
母との喧嘩を治めるために包丁を持ちだしたことがあることを。
勉強をまともにやらず、母を泣かせてばかりいた兄を見下していたことを。
ある日を境に、口をきかなくなったことを。
僕が中学に上がった辺りの頃から、隣の兄の部屋からはガリガリと、何かを削る音がしていたことも、話しました。
彼女は、その音は多分油絵の具を削っている音だと言ったけれど、僕はそれの正体を、結局知らずじまいだった。
その頃から、僕も母も、兄の部屋をノックすることはなくなっていたから。
僕はただ、蛍光灯の下で、静かに兄を呪っていました。
食事も別々にとるようになっていたから、兄に対する憎しみとは、もはやその音に対する憎しみでした。不思議なことに僕はその音を、兄が家を開けることが多くなってからも、空のはずの部屋の向こうから、時折聞いたのでした。
二週間後、彼女は入院しました。
そしてひと月も経たないうちに、死産しました。
赤ん坊の、世界への扉は少しだけ開かれて、むなしくも閉ざされたのです。
死んだ赤子は、僕らの世界に何を見て、何を持ち帰ったのでしょう。
71 :かいじゅうのこども ◆dxakKNa1zM :2014/08/23(土) 20:42:27.33 ID:zA3/GSW60
(4/5)
少しして、僕と母は彼女の実家に招かれました。
襖で仕切られただけの畳の空間が、古い農家における、彼女のプライバシーでした。
あの絵が額縁に嵌って、部屋の仕切りのところから僕らを見下ろしていました。
彼女は椅子を持ってくると、その上に立ちました。シャツから背中が見えるくらいに背伸びをしたあのヒト。
代わりにやりますとは言えずに、僕はただ見ていました。
彼女は絵を下ろし、部屋の障子を少しだけ開けると、光の差した壁に立てかけました。
絵は生まれ変わっていました。
対比の技法。
色のグラデーションを描くと、ぐるりと輪になる。
この環を色相環<しきそうかん>といいます。
色相環の、それぞれ反対側に位置する色同士を補色といって、お互いを引き立て合う。
そして、緑の補色は、赤。
彼女はあの赤い絵の具で、新緑の寺の風景のところどころをなぞったのでした。
それだけで、葉っぱの一枚一枚が魔法がかけられたかのように命を宿したのです。
描かれた景色の瑞々しい空気が、こちら側に流れ込んでくるかのようでした。
僕らは洋服を着たまま和室に八の字に正座したまま、しばらくの間、このすこしちぐはぐなこの時を過ごしました。
僕は気付かれないよう、横に視線を流しました。
通夜の席での、あどけない顔に似合わない喪服に身を包んだ彼女の、しかし黒の中で不思議と鮮やかに見えた彼女の、あの表情を思い浮かべていました。
彼女の横顔は薄暗くてよく見えなくて、線香の匂いと古い家の匂いに混じって、今風の香水の匂いがほんのわずかに漂っているだけでした。
彼女が学生としてこうして絵を描いていられるのも、もう長くはないのだと、ふと僕は思いました。
その日は九月でしたが、あの人の人生もまた、夏を終えようとしていました。
部屋照らす日の光が、赤みを帯びてきました。遠くで虫が鳴いています。
実りの秋が近づいていました。
72 :かいじゅうのこども ◆dxakKNa1zM :2014/08/23(土) 20:44:39.58 ID:zA3/GSW60
(5/5)
この家と田んぼを1人で継いで子を育てていく、彼女の将来のことを思いました。
暗闇の中に沈んだ彼女の横顔を、じっと眺めました。
彼女の白い横顔と、赤い唇を、じっと見つめました。
汗がぽたぽたと畳に垂れる音を、彼女は聞こえていたでしょうか。
ジーンズの上から太ももをつねって、獣の衝動と闘っていました。
背中から、彼女の名前を呼ぶ声がしました。
雨はいつの間にか止んでいました。
庭の木々や土のそれに混じって、飯の匂いがしてきました。
釜で炊いたであろうその匂いは、都会育ちの僕には、不思議と現実離れした、嗅ぎ慣れぬものに思えました。
彼女に続いて縁側へと歩きながら、振り返りたいという欲求を僕を押しとどめました。
あの絵はまるで、死と生を繋ぐ窓のようにも思えました。
けれど。どちらが生の世界で、どちらが死の世界なのでしょうか。
しわがれた声が僕らを呼んでいます。
僕は彼女の少し後ろを続きながら、彼女をろくに見ることができずに、庭のほうを眺めながら、兄の部屋から、生々しい”匂い”が消えたんです、と言いました。
死を見失うということは、生を見失うのと同じことなのかもしれません。
あの絵の緑が、赤い絵の具で息を吹き返したように。
明日の朝、この田舎の山道を駅まで歩いて行くことを、僕は思いました。待ち遠しいと思いました。
人生で一番清々しい朝になると、予感していました。
彼女と、兄の遺骨に手を合わせました。
いつものように呪いの言葉を吐き終わった後、少しだけ、兄に感謝をしました。
ーーありがとう。僕は変われたよ。
きっと誰かが。
誰かが僕の緑のキャンバスから、赤い絵の具を削っていたのです。
ガリガリ、ガリガリ、と。その音がいつしか消えて。
チューブから、赤い絵の具がひねり出された。呪いは終わりました。
僕は、生まれていたことを知ったのでした。
あれから一年が経ちます。
あの日を迎えたら、僕は必ず、しかしこっそりと、こうつぶやくのです。
ハッピーバースデー。
75 :いそべ@投稿代理 ◆8JXCKM3oNw :2014/08/23(土) 20:49:08.27 ID:2yX9zsEM0
【第22話】 サンズリバー ◆QNxpn.SauU
『神か死神か…』
(1/2)
一昨年、祖母を看取ってから、周囲の高齢者の人々が旅立っている。
祖母が他界したのは春の彼岸の中日。四十九日・初盆を終え、秋の彼岸になった。
近所の友人のお父さんの体調が悪化し、救急搬送された。お母さんは早くに海で転落死しており、
病気で入院中の兄しか家族がいない。そこで、私が付き添う事となり、救急車の後を車で追った。
病院に着くと、即座に様々な検査が始まった。
友人のお父さんは、夏前に一度体調を崩し治療を受けており、その時も私が付き添い喜んで頂いた経緯がある。
自宅療養中、私が背中をさすった時に不思議な言葉を発していた。
「○○さん(私の名)の手には不思議な力がある。まるで神の手だ。」という内容だった。
私は笑いながら「この手で元気を送ってるからね。」と、冗談めかしに返答した。
更にこの救急搬送される数日前には、「貴方と話しをすると、頭の中の霧が晴れたみたいだ。もうワシは長くない。
感謝してるよ。」と言われた。悟っていると感じた私は無言で頷くだけだった。
この様な事が頭の中を駆け巡っている間に、検査が終わり主治医との面談が始まった。
今夜は付き添って泊まり込みして欲しいという内容だった。私は快諾し、書類にサインをした。
お父さんは意識はあるが、酸素マスクをして、もはや話す事ができない。しかし、しっかり目を開け私の顔をジッと見た。
澄み切ったとても美しい瞳だ。そして彼はベッドに横たわりながらも、三度お辞儀をし目を閉じた。
一夜を越え夜明け前、友人のお父さんは旅立った。そして、他人の私が葬儀の手配をするという異例の事態となった。
離れた土地から帰郷した親族に感謝されつつ、無事に葬儀を終えた。
76 :いそべ@投稿代理 ◆8JXCKM3oNw :2014/08/23(土) 20:50:59.82 ID:2yX9zsEM0
(2/2)
月日は流れ12月上旬、私は歯医者の帰りに、見知らぬお婆さんが道路で倒れるのを目の当たりにした。
慌てて駆け寄って声をかけたが、全く反応がない。通りすがりの男性に声をかけ手伝ってもらい、すぐ119番通報した。
幸い近くに医者があり、AEDを持ってきてもらったが、ショックの必要なしとのガイダンス。
心臓ではなく脳だと直感したが、救急車が到着するまで20分以上かかり、お婆さんは意識を取り戻す事なく他界した。
親族は御礼をしてくださったが、複雑な気分だった。
年が明け4月。親戚の叔母の訃報の連絡が入った。3月に会った時にはとても元気だったので、耳を疑った。
叔父は既に他界しており、子は息子一人だけ。また葬儀だ。関わった人たちが次々に亡くなり、精神的に参ってしまった。
「俺は死神かもしれん……」と思うようになった。
葬儀が終わり自宅へ帰ってベッドに横たわった。ウトウトしかけると金縛りに合い、また離脱した。
先祖の眠る墓へ飛んで行こうとするが、大きな力が邪魔をして家から出られない。いつもは簡単にすり抜けるのに…。
「また、ばあちゃんか…」と思ったが違っていた。亡くなった身内が総出である。こんなの初めてだ。
母が一歩近づいて言った、「安心しなさい。後は私に任せなさい。」……そして元に戻って眠った。
近所の高齢者の人たちは言う。「○○君(私の名)は、人を見送る運命なのよ。それが貴方の役割。」
友人のお父さんが言った"私の神の手"でも、命を救えなかった。神か死神か…、答えは未だ見つかっていない。
もしかしたら、答えは私があの世に行ってから、遺った人が出すんじゃないかと最近ふと思う。
【了】
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