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歪世界トレイン
[8] -25 -50 

1: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:25:16 ID:4iSJ1d7xp2

乗客Yx1

戸野 千織(トノ チオリ)

目が覚めたらそこは、走る列車の中だった



96: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:03:40 ID:spmolqlGjY

シャワーを浴び終え、駅員服に着替える

ブリアン「――うん、まぁまぁマシなにおいになったね」 クンクン

ブリアン「僕や車掌のそばにいれば、人間だと思われなくなるよ」

千織「はは…」

なんだか複雑な気持ちだ

千織「あの、私はこれからどうすれば?」

ブリアン「んー。とりあえず今は、列車の休止時間。ぶっちゃけすることないよ」

97: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:05:39 ID:spmolqlGjY

千織「明日の朝に出発するって言ってましたけど、この世界も、人間界と同じ時間で進むんですか?」

ブリアン「そうだよ。1日は24時間で、朝も昼も夜もある」

千織「そうですか…。私がこっちに来てから、何日たったんでしょう」

ブリアン「昨日の夜にこの列車に乗って、外に飛び出して、今日の昼に列車に積まれて…で、今は夜だからまる1日じゃない?」

千織「1日…。あぁ、お父さんとお母さん、心配してるだろうなぁ」

98: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:08:25 ID:spmolqlGjY

千織「―…そうだ。私がこの世界にきたきっかけなんですけど」

千織「学校の帰り道、不思議な男にチョコをあげたら、この世界に連れてこられちゃったんです」

ブリアン「男の子?」

千織「3月なのに半袖半ズボンで…生気のない顔してて。この世界に住んでる子じゃないかって思うんです」

ブリアン「知らないね。多分車掌も知らないと思うよ」

千織「そ、そうですか…」 ショボーン

千織「何でその子は、私をこの世界に連れてきたんでしょう」

ブリアン「この世界じゃ人間の希少価値は高いから、送り込んでやろうと思ったんじゃないの。誰かに頼まれたのか、ただのイタズラなのか知らないけど」

千織「でも、私その子に連れてこられるの2回目なんです。おかしいですよね」

99: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:11:49 ID:spmolqlGjY

車掌「――で?私が何か知っていないかって?」

箒をもって車内の掃除をしていた車掌に尋ねる

千織「はい」

車掌「…」

車掌「具体的にその少年が誰なのかは知らないが、推測はできる」

千織「!」

車掌「おそらく、もう生きてはいない者だろう。しかし、人間の世界に存在しているところを見る限り、この世界の者でもない」

車掌「そして君に、何か理由があって執着している」

100: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:17:28 ID:spmolqlGjY

千織「そ、それって…」

千織「わ、私、幽霊に憑かれてるってことですか?」

車掌「私は幽霊という概念に理解はないが、君たちの世界に存在する死者をそう呼ぶならそうなのだろう」

千織「ひー!いやだー!私霊感とか全然ないと思ってたのに…!」

千織「幽霊を祓わないと、私何度でもここに来ちゃうんだ…」

ブリアン「問題ないでしょ」

千織「え?」

ブリアン「千織は車掌に買われたんだから。元の世界に戻った後のこととか考える必要ある?」

千織「え、えぇえ!?」

101: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:19:35 ID:spmolqlGjY

千織「た、確かにその、私買われて、ここで働くつもりはあるんですけど…実際に車掌さんにそう言ってしまいましたし。でも、でも一生この世界にいるのはちょっと、困るというか、」

焦ったように車掌をみる

車掌「…」 ハァ

車掌「君と連れの男を人間界へ送り返す分だけの精力を働いて返してくれれば、送ってやる」

千織「えっ…」

ブリアン「はああああ!?!?」

ブリアンが真っ黒な毛を逆立てた

102: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:24:48 ID:spmolqlGjY

ブリアン「正気なの!?何のために2000万も払ったと思ってんの!?馬鹿じゃないの!?」

車掌「ずっと傍においておく理由があるか?」

ブリアン「あるよ!人間は精力の塊だ、死ぬまで働かせるか、すぐにでも燃料の一部にすれば、この列車の寿命を延ばすことができる!」

車掌「私一人いれば問題ない」

ブリアン「問題ないわけないだろ!いつか精力には限界がくる、わかってることじゃないか!!」

ブリアン「あの2000万だって、車掌の精力から錬成したものだろ!ちょっと働いて返してもらうだけじゃ大赤字だよ!!」

103: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:27:46 ID:spmolqlGjY

千織「え…!?」

千織「す、すみません、話がちょっとわからないんですが」

ブリアン「っ…」

ブリアン「千織、おいで。僕が説明してあげる」

車掌「だめだ」

車掌が千織の手をつかむ

車掌「お前の説明じゃ偏見が大きい。私から説明する」

ブリアン「…!」

ブリアン「あぁそうかい!勝手にしなよ!!」

ブリアンは不機嫌そうに尻尾を床にたたきつけると、どこかへ行ってしまった

104: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:52:18 ID:spmolqlGjY
多めと言いつつ9レスしか書けなかったので切腹_(:3」 ∠ )_
105: 名無しさん@読者の声:2017/5/14(日) 07:45:59 ID:spmolqlGjY
>>98
✕不思議な男
〇不思議な男の子
106: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/15(月) 01:00:22 ID:spmolqlGjY

2人きりになると、車掌が静かに話し始めた

車掌「―・・・以前にも言ったが、この列車は電気や蒸気で動く類のものではない」

車掌「精力と呼ばれる、心身の活動力を源としている」

千織「心身の活動力・・・」

車掌「生命力と言ってもいい。どの生物にも問わず存在しており、その形は限定されない」

車掌「前、君がこの列車に迷い込んだとき、私は君から髪という精力を頂戴した。その精力を使って、君を君の住む場所へ送り届けたというわけだ」

107: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/15(月) 01:01:44 ID:spmolqlGjY

千織「そうだったんですね…」

千織「…車掌さんは、ご自身の精力を使って、この列車を動かしているんですか?」

車掌「そうだ。この世界に住む者たちは、もともと死者だから精力を持ち合わせていないが、私は精力をもっている」

千織「車掌さんは生きているってことですか?」

車掌「この列車を動かすためだけに精力が与えられているだけだ。それが生きていると言うのかは知らない」

車掌「実際に目で見たほうがいいだろう。ついてこい」

108: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/15(月) 01:03:48 ID:spmolqlGjY

案内されたのは、車掌室だった

車掌「これが私の食事だ」

車掌が目をやった先をみると、茶色い箱があった

中には客から回収したと思われる乗車券が積まれている

千織「食事…?」

車掌「見ていろ」

車掌が手をかざすと、ゆらゆらと乗車券が揺れた

その形態は徐々に変化し、1枚1枚が青白い光になり、合わさっていく

109: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/15(月) 01:07:04 ID:spmolqlGjY

千織「…!?」

車掌はその光の塊を手のひらにのせると、自分の胸にあてがった

そのまま、ずずず、と自分の胸の中へ埋め込んでいく

千織「…」

呆気にとられている間に、光の塊は完全に車掌の体内へ入っていった

車掌「……これで終わり」

千織「い、いったい何が」

車掌「乗客は精力をもっていないので、金をだして精力を購入している。それが乗車券という形で私の元へきている」

車掌「私はその精力を吸収し、消費することで、この列車を動かしている」

千織「…!」

110: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:18:08 ID:spmolqlGjY

千織「…わ、私のために払ったお金、車掌さんの精力を使ったんですよね?どのくらい使ったんですか…?」

車掌「別に気にしなくていい」

千織「でも!」

車掌「問題になる量ではないと言っている。ブリアンが大げさなだけだ」

千織「…」

千織「…本当に、ごめんなさい」

千織「私の精力、できる限り差し上げたいです。どうすればいいですか?」

111: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:20:01 ID:spmolqlGjY

車掌「…」ハァ

車掌「君は躊躇もせず働くだの精力を渡すだの言うが、深刻さをわかっていないな」

千織「え…」

車掌「精力は生命力に等しいと、さきほど言ったことを忘れたのか?休めば回復する体力とは違う。自分の寿命を減らす覚悟があるなら考えてやる」

千織「そ、それは…」

そのとき

ぐううぅぅ〜〜

不意に、千織のお腹が鳴った

112: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:21:21 ID:spmolqlGjY

千織「…」

車掌「…」

千織「ご、ごめんなさい…」 カアアァ

千織(もおぉ〜!何でこんな時に鳴るのよ!ばか!ばか!)

恥ずかしさで顔をおさえる

車掌「…まったく」

車掌「君は緊張感がないな」

千織「す、すみません…」

113: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:22:30 ID:spmolqlGjY

車掌「…いや。普通に考えれば、君も腹がへって当然か。私の方こそ、自分だけ食事を済ませてしまってすまなかったな」

千織「い、いえ…」

謝られたことに少し驚く

車掌「積み荷に、乗客用の非常食があったはずだから、もってきてやる」

千織「あ、ありがとうございます」

114: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:25:14 ID:spmolqlGjY

車掌がもってきたのは、「草」だった

千織「…草?」

車掌「ヤエヌクラ草という、この世界で最も簡単に手に入る食材だ」

車掌「この世界には人間がいないからな。君が慣れ親しんだ食料はない」

千織「た、食べても大丈夫でしょうか」

千織「食べたら元の世界へ戻れなくなるとか、ないですか?」

車掌「嫌なら食べなくてもいいが」

千織「た、食べます、食べます」

115: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:27:11 ID:spmolqlGjY

シャク、と草を口の中へ入れる

千織「…」 シャク

千織「…」 シャクシャク

車掌「別にまずくはないだろう」

千織「無味、ですね…。噛み続けたガムの味です」

車掌「そのうちマシなものを調達するから、我慢してくれ」

千織「と、とんでもないです。餓死するよりずっとましです」

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