乗客Yx1
戸野 千織(トノ チオリ)
目が覚めたらそこは、走る列車の中だった
64: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/8(月) 23:51:38 ID:spmolqlGjY
千織(・・・私、どうなっちゃうんだろう)
施錠されたドアを眺め、絶望とわずかな期待を抱く
すると
『――次は、ミヤコ駅。ミヤコ駅でございます』
千織「!」
アナウンスと同時に、列車が速度を緩め始めた
千織(どうすれば・・・)
プシューッ
列車が止まると、乗客が乗り降りする音と同時に、千織のいる貨物車両に誰かが入ってきた
千織「わっ」 バサッ
千織に大きな風呂敷がかぶせられる
65: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/8(月) 23:57:48 ID:spmolqlGjY
兎男「ん?今何か声がしたような・・・」
車掌「そうですか?気のせいでしょう」
兎男「いやはや、私も年ですかな。えーと、これとこれを運べばいいんですな?」
車掌「はい。あと、隅の大きなダンボールも」
兎男「わかりました」
数人の兎男たちが、荷物を運び出している
千織(車掌さんが、見つからないようにしてくれてる・・・?)
やがて、荷物の出し入れが終わったのか、人が出ていく音がした
車掌「――もういいだろう」
フワッと風呂敷がとられる
66: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:01:26 ID:spmolqlGjY
千織「車掌さん・・・」
車掌「君の望み通り、君を買った。今後、全ての行動は私の指示に従ってもらう」
千織「はっ、はい・・・あ、ありがとうございます!」
手足を拘束していた縄をほどく
車掌「名前は?」
千織「はい?」
車掌「君の名前を聞いている」
千織「はっ、はい。戸野千織、です」
車掌「千織。まず君はシャワーをあびて、この服に着替えなさい」
ぽん、と真っ黒な服を渡される。どうやら駅員服のようだ
67: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:05:43 ID:spmolqlGjY
千織「え、えと、シャワーですか?」
車掌「この貨物車両を出てすぐ右手にある」
千織「あの、ありがたいんですけど、その前にいろいろ聞きたいことが・・・」
車掌「君の人間の臭いを消すためでもある。再び変な輩に嗅ぎつけられる前に、対処しなければならない」
千織「人間の臭い・・・。そんなのがあるんですか」
車掌「ある。さきほどの風呂敷は、視覚的だけでなく嗅覚的にも隠す効果があった」
千織「車掌さんは、人間じゃないんですか・・・?」
車掌「そうだ」
さらりと答える
しかし、さきほどの魚人と比べて、風貌は人間にしか見えない
68: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:10:01 ID:spmolqlGjY
千織「人間じゃないって、じゃあ一体・・・」
車掌「静かに」
不意に、口を押えられ、車両の隅へ追いやられた
車掌が覆い隠すように千織の前に立つ
ガタン
ドアが開き、貨物車両に魚人が入ってきた
魚人「・・・お、いたいたぁ」
まさしく千織と恭太を誘拐した魚人だった
車掌「どうされましたか?なにかお忘れ物でも」
魚人「いや別に、なにもないんだが・・・」
ゆっくりと2人に歩み寄ってくる
69: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:13:19 ID:spmolqlGjY
千織「・・・?」
嫌な予感がした
車掌と魚人が、わずか1mの距離に対峙する
察したのか、車掌は小さく息を吐いた
車掌「―・・・申し訳ありませんが」
車掌「この人間を返すことはできません」
魚人「じゃあ死んでもらうしかねぇなあっ!!」
魚人は車掌めがけて腕を振り上げた
70: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:15:20 ID:spmolqlGjY
千織「っ・・・」
思わず目をつむり、うずくまった
・・・・・・・
・・・・・・・・・
何も音がしない
千織(いったい、何が起きたの・・・?)
薄く目をあけると―――
千織「え・・・」
魚人は腕を振り上げたまま、硬直していた
71: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:41:32 ID:spmolqlGjY
魚人「て、てめぇ!なんだこれは…!」
車両の壁や床から黒い手が出現し、魚人の手足に巻き付いている
車掌「あなたはもう、乗客ではありませんから。容赦はしません」
魚人「…!」
魚人「ま…待ってくれ!俺はそんなつもりじゃなかった、はは、」
車掌「残念ながら、あなたには遅かれ早かれ死んでいただく予定でした。私が人間を所有していると、あちこちにバラされては困りますので」
魚人「そんなことはしない、そんなことはしないから殺さないでくれ!」
車掌「千織、目を閉じて」
千織「っ…」
次の瞬間、ザシュッッ、と鈍い音がした
72: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:44:18 ID:spmolqlGjY
千織「…」
思わず目をあけてしまう
魚人は黒い手に胸を3か所、突き抜かれていた
巨体が倒れる姿を見て、口をおさえる
千織「あ、あなたは、…」
黒い手が、すすす、と消えていく
車掌「…」
車掌「…この列車は、全て私の意志で生きている。そういうことです」
73: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:13:52 ID:ufTVIcJVgc
――しばし沈黙が流れたあと
千織はハッとして叫んだ
千織「そうだ、沖くん!沖くんを助けなきゃ!!」
車掌「・・・あぁ、あの連れの」
千織「この魚人に連れ去られた後、離れ離れになっちゃったんです!どうしよう、早く探しに行かないと――」
車掌「もう手遅れだろう」
千織「どういうことですか!?」
車掌「この世界で人間は希少であり、食料としても奴隷としても需要が高い。常識的に考えて、あの男はもう煮るなり焼くなりされている」
74: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:15:52 ID:ufTVIcJVgc
千織「っ・・・なにが常識なんですか!!」
千織「大事な友達なんです!お願いです、助けてください!お願いします!!」
車掌「これ以上私の仕事を増やさないでほしい」
千織「お願いします!車掌さんしか頼れないんです…!お願いします、お願いします」
何度も頭を下げる
車掌「…」
車掌「…では、その男を助けて、私に何のメリットがあるのか教えてほしい」
千織「え…」
車掌「私は人間を助けるボランティア活動をしているわけではない」
75: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:21:23 ID:ufTVIcJVgc
千織「っ… に、人間は希少なんですよね?その人間をもう1人、車掌さんが手に入れられると思えば」
車掌「私は人間を食べないし奴隷にする趣味もない。君を買ったのも仕方なく、だ」
千織「じゃ、じゃあ、車掌さんは何が欲しいんですか?」
車掌「…」
車掌「この列車を動かすのに必要な精力。私はそれだけあればいい」
千織「よ、要するに、この列車の人手が足りてないってことですよね!?じゃあ、私が一生懸命働きますから!車掌さんの負担を減らせるように、何でもしますから…!」
76: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:23:46 ID:ufTVIcJVgc
車掌「…何も理解してないくせに、よく言う」
千織「え?」
車掌「やれやれ」
ため息をつくと、車掌は息絶えた魚人の懐に手を入れた
千織「・・・?」
車掌「―あった」
取りだしたのは、なにやら携帯電話のようなもの
77: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:25:40 ID:ufTVIcJVgc
カチャカチャ、カチ
慣れた手つきで操作し、どこかに通話をかけはじめた
プルルルル、プルルルル―――ガチャッ
魚人母『はいもしもし』
車掌「――あぁもしもし、俺だけど」
千織「!」
なんと、車掌の声が魚人そっくりになっていた
78: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:27:57 ID:ufTVIcJVgc
魚人母『俺?』
車掌「やだなぁ俺の声忘れたの、母さん」
魚人母『あぁ、あんたかい?あんたミヤコ駅ついたんかね?』
車掌「着いたよ、ついさっきね。奴隷も無事だ」
魚人母『そいつは良かった。高値で売ってくるんだよ〜』
車掌「わかってる。ところでさ、昨日捕まえたもう1匹の人間って、どうした?」
魚人母『んん?あんたが飯にしろって言ったから、ちょうど今、塩を塗ってるところさね』
千織「・・・!!」
車掌「そう。せっかく準備してるところ申し訳ないんだけどさ・・・」
79: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:30:45 ID:ufTVIcJVgc
車掌「ちょうど今、男の人間を買いたいっていう貴族に会ったんだ。聞いてくれよ、6000万で買ってくれるっていうんだ」
魚人母『ろっ・・・6000万!?!?』
車掌「うん。だからさぁ、ちょっと食べるのは中止で。俺が取りにいくまで生かしといてくれないかな」
魚人母『わ、わかったよ。それなら仕方ないね』
車掌「じゃあ、よろしく頼む」ピッ
千織「・・・」
車掌「・・・運が良かったな」
車掌の声は、野太い怪物の声からいつもの声に戻っていた
80: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:34:11 ID:ufTVIcJVgc
千織「・・・っ」
千織は目に涙を浮かべ、頭を下げた
千織「ありがとうございますっ・・・。車掌さんがいなかったら、ほんとに、私たち・・・」
車掌「・・・・」ハァ
車掌「とりあえず、昨日君たちが連れ去られた駅――ササノコ駅に戻るのは、明日の夜になる」
千織「あ・・・明日の夜ですか?もっと早くできませんか?」
車掌「君たちのためにこの列車を動かしているわけではないからな。明日の朝ミヤコ駅の物資をのせ、他の駅を経由しつつササノコ駅へ戻る」
81: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:37:12 ID:ufTVIcJVgc
千織「でも、でも早く行かないと沖くんが」
車掌「君は」
冷めた瞳で睨まれた
車掌「君は、私に買われたことを忘れたのか?言い方を変えれば、君は私の奴隷であり、私は君の主人だ」
千織「…!」
車掌「願いをきいてやったからといって調子に乗るな。今後は私の指示に従え」
千織「は、はい・・・」
82: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:08:36 ID:spmolqlGjY
「にゃ〜」
千織「あ・・・!」
みると、さきほどの黒猫が歩み寄って来ていた
車掌「・・・」
千織「あ、あの、さっきこの猫ちゃんが私に・・・」
車掌「知っている。どうせこいつが余計なことを言ったんだろう」
黒猫「余計な事とは心外だなぁ。貴重な人間が下衆な輩に奪われるのはもったいないと思わない?」
車掌「別に」
黒猫「またそんなこと言って。精力があるに越したことはないじゃないか」
千織「・・・」 ポカーン
83: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:12:54 ID:spmolqlGjY
黒猫「あ、自己紹介遅れたけど。僕の名前はブリアン。君の名前は?」
千織「と、戸野千織です」
ブリアン「千織ちゃんね。僕はこの列車の車掌補佐をやってるんだ〜」
千織「補佐…。ね、猫なのに?」
ブリアン「魚が手足生やして歩いてるこの世界で、驚くことじゃないでしょ〜」
車掌「ブリアン、しばらく彼女の面倒をみてやってくれ」
ブリアン「え〜?」
車掌「私はまだ仕事が残っている。何かあったら私のところへ連れてこい」
ブリアン「わかったよ〜」
車掌は貨物車両から出ていき、千織はブリアンと2人きりになった
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