乗客Yx1
戸野 千織(トノ チオリ)
目が覚めたらそこは、走る列車の中だった
391: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/8(土) 19:22:54 ID:7Cg5LKsjhw
千織(・・・私は)
千織(・・・車掌さんの言うことは正論だと思う・・・けど、)
千織(兎男さんの言ってることは、変じゃない)
車掌「だからお前は、他の兎男たちよりも浮いてしまうんだ」
兎男「!」
兎兄貴「てめえ!!」
千織「ま・・・」
千織「待って!!!」
392: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/8(土) 19:25:21 ID:7Cg5LKsjhw
「!?」
人一倍大きな声を出した千織に、皆がぎょっとする
ブリアン「千織・・・?」
千織「あ・・・あの」
千織「それ以上、兎男さんを悪く言わないでください。車掌さんは・・・わ、わかってないです」
兎男「! 千織ちゃん!」
車掌「・・・わかってない?」
393: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/8(土) 19:28:41 ID:7Cg5LKsjhw
千織「車掌さんの言ってることは正しいです!でも、でも・・・人の心って、単純じゃないんです」
千織「理論的に考えてやめておいた方がいいことも、本心ではやりたいって思っていたら、やらなきゃいけないことがあるんです」
車掌「・・・お前が私を振り回すときは、いつもそれだな。理論で拒否しても、強引に感情で押してくる」
車掌「それは大いに結構だが、自分のキャパシティを考えてやれと言っている」
千織「キャパシティとか、そういうのを無視してでもやりたいと思うことがあるんです!」
千織「そ、それが・・・人間の心の1つ、だと思うんですけど」
兎男「千織ちゃん・・・」
394: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/9(日) 10:10:43 ID:7Cg5LKsjhw
兎兄貴「・・・兎男・・・お前、人間だったのか?」
千織「つ、つまり!兎男さんは変わってるとか、浮いてるとかじゃなくて・・・他の人より、人間の心を豊かにもってるんだと思うんです」
千織「だから、そこを否定してあげてほしくないんです・・・」
車掌「・・・」
目を細めて息をつく
車掌「・・・この世界には、人間はいない。だから、人間の心などというものは意味をなさない」
車掌「だから、私にはその心を理解することはできないし、理解する必要もない」
千織「そ、そんなの決めつけです!」
395: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/9(日) 10:33:51 ID:7Cg5LKsjhw
千織「意味があるかとか、理解する必要があるかとか、そんなのは車掌さん個人の考え方であって、兎男さんに強制していいことではないと思います」
兎男「・・・!」 ジーン
千織「車掌さんは私の恩人です。でも兎男さんの気持ちもよくわかるんです。私はどっちかが間違っているとは言えません」
千織「だから・・・これ以上皆さんが闘っているところを見たくありません。お願いします・・・」 ペコリ
車掌「・・・」
目を細め、静かに息をつく
車掌「・・・わかった」
千織「車掌さん!」
車掌「実力差は示したし、お前たちも私に勝てないことはわかっただろう。千織に免じて見逃してやるから、さっさと消えろ」
396: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/9(日) 10:35:44 ID:7Cg5LKsjhw
兎兄貴「な、なんだと」
兎男「あ、兄貴・・・」
兎兄貴の腕をつかむ
兎男「引こう。千織ちゃんが、俺たちを助けようとしてくれてるんだよ」
兎男「千織ちゃん、ありがとう。俺、また励まされちゃったよ・・・」
兎男「無理やり車掌の傍に拘束されてるわけじゃないんだよね?それだけ確認させて」
千織「は、はい。私は、事情があって車掌さんのお世話になってるんですけど、決して悪いことはされていないです」
兎男「良かった。・・・いろいろ、ごめんね。迷惑かけて。ありがとう」
397: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/9(日) 10:38:46 ID:7Cg5LKsjhw
訂正
>>389最終行の車掌のセリフ
「人間にとって」の部分を削除してください
398: 名無しさん@読者の声:2018/9/15(土) 20:12:19 ID:5FLtuh9VMs
楽しい物語をありがとう。支援。
399: 名無しさん@読者の声:2018/9/16(日) 11:06:54 ID:H265LO0gUQ
支援
400: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/23(日) 12:41:21 ID:7Cg5LKsjhw
>>398
ひえっ・・・そんな風に言って頂けたら・・・感涙の極みでございます・・・ありがとうございます;;;;
書いていて良かった、本当に;
>>399
支援ありがとうございます!!またもや遅くなってすみません、今週半ば頃には更新する予定です!
401: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 20:50:50 ID:7Cg5LKsjhw
――車掌たちは屋敷から脱出し、地上に出た
兎男たちともそこで別れた
ブリアン「…ふぅ」
ブリアン「ま、とりあえず一件落着って感じ?」
千織「そうですね!」
車掌「・・・」
千織「・・・車掌さん?」
車掌「・・・」 ツーン
402: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 20:51:58 ID:7Cg5LKsjhw
ブリアン「・・・あーわかった」
ブリアン「せっかく苦労して千織を助けたのに、最後に説教くらったから拗ねてんでしょ」 ニヤニヤ
千織「えっ!?」
ブリアン「ぎにゃっ!」
ガバッとブリアンの身体をつかむ
車掌「お前は大して役に立たなかったくせに偉そうな口をきくなよ?」
ブリアン「いいいたいっていたいって」
403: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 20:55:02 ID:7Cg5LKsjhw
千織(車掌さんが・・・拗ねてる?)
千織「車掌さんにも、人間みたいなところあるんですね!」
車掌「ない」
千織「良いと思います!」
車掌「ないと言っている」
ブリアン「もー強情なんだからー」
404: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 20:56:14 ID:7Cg5LKsjhw
3人は列車に戻ってきた
列車の前には、発車を待つ乗客たちが何人もうろついていた
車掌「お待たせして申し訳ありません。早急に発車準備をいたします」
車掌の口調が、いつもの丁寧な敬語に戻る
車掌「ブリアン、乗客に乗車券の確認を」
ブリアン「はーい」
車掌「千織は、貨物を車両に運んで」
千織「は、はい!」
慌ただしく準備にとりかかる
およそ10分後、列車は発車しキサラギ駅を後にした
405: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 21:00:02 ID:7Cg5LKsjhw
千織「――おわった、あぁ〜・・・」
ぐぐっと伸びをして、寝台に寝転がる
あの後、休む間もなく列車業務にうつり、作業が終了したのは夜の23時だった
千織「・・・」
千織「・・・そうだ」
ふと、思い出す
キサラギ町で助けてもらったことについて、しっかりと礼を言わなければと思っていた
起き上がると、車掌室へ向かった
406: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 21:01:51 ID:7Cg5LKsjhw
千織「・・・車掌さん」
車掌室をのぞく
部屋は暗く、明かりはほとんど灯っていなかった
千織「・・・あ」
車掌は、腕と足を組み、椅子に座った状態でうつらうつらとしていた
いつもピンと伸びた背筋が、珍しく横に傾いている
千織(・・・車掌さんが寝てるところ、初めて見た)
千織(でも・・・そうだよね、きっと寝る間もなく助けに来てくれたんだよね。疲れてて当然だ)
407: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 21:04:13 ID:7Cg5LKsjhw
千織(・・・)
千織(・・・帽子があると寝にくそうだな)
歩み寄り、そっと車掌の帽子をはずす
月明かりに照らされて、漆黒の髪と、整った青年の顔があらわになる
千織(・・・)
千織(綺麗だな・・・)
思えば、車掌の顔をちゃんと見たことはほとんどなかった
千織(・・・車掌さんのこと)
千織(・・・もっと、知りたい)
無意識のうちに、髪に触れていた
408: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 21:07:55 ID:7Cg5LKsjhw
柔らかな髪をそっと撫でる
千織「・・・」
千織「・・・」 ハッ
我に返り、顔を紅潮させる
千織(わ、私何して・・・!)
顔を押さえ、下を向く
千織(お、落ち着け落ち着け・・・大丈夫、ばれてない)
車掌「・・・何をしている」
千織「・・・へ・・・」
409: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 21:09:48 ID:7Cg5LKsjhw
眠気まなこの車掌がこちらを見ている
千織「ご、ごめんなさいごめんなさい!起こすつもりはなかったんです!」 アワアワ
千織「た、ただ、帽子があると寝にくそうだな、と、思って・・・」
手に持った車掌帽で顔をかくす
千織「な、何もしてません!本当です本当です・・・」
車掌「・・・なぜ赤くなっている」
千織「そ、それは・・・」
410: ◆e.A1wZTEY.:2018/9/26(水) 21:12:35 ID:7Cg5LKsjhw
車掌「・・・」
千織「・・・」
車掌「おかしな奴だな。何か用があったからここに来たんじゃないのか」
千織「あ、は、はい!そうなんです」
千織「キサラギ町でのお礼、ちゃんと言ってなかったと思って・・・」
車掌「お礼?」
千織「私なんて、見殺すことだってできたはずなのに・・・助けて下さって、本当にありがとうございました!」 ペコリ
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