乗客Yx1
戸野 千織(トノ チオリ)
目が覚めたらそこは、走る列車の中だった
111: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:20:01 ID:spmolqlGjY
車掌「…」ハァ
車掌「君は躊躇もせず働くだの精力を渡すだの言うが、深刻さをわかっていないな」
千織「え…」
車掌「精力は生命力に等しいと、さきほど言ったことを忘れたのか?休めば回復する体力とは違う。自分の寿命を減らす覚悟があるなら考えてやる」
千織「そ、それは…」
そのとき
ぐううぅぅ〜〜
不意に、千織のお腹が鳴った
112: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:21:21 ID:spmolqlGjY
千織「…」
車掌「…」
千織「ご、ごめんなさい…」 カアアァ
千織(もおぉ〜!何でこんな時に鳴るのよ!ばか!ばか!)
恥ずかしさで顔をおさえる
車掌「…まったく」
車掌「君は緊張感がないな」
千織「す、すみません…」
113: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:22:30 ID:spmolqlGjY
車掌「…いや。普通に考えれば、君も腹がへって当然か。私の方こそ、自分だけ食事を済ませてしまってすまなかったな」
千織「い、いえ…」
謝られたことに少し驚く
車掌「積み荷に、乗客用の非常食があったはずだから、もってきてやる」
千織「あ、ありがとうございます」
114: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:25:14 ID:spmolqlGjY
車掌がもってきたのは、「草」だった
千織「…草?」
車掌「ヤエヌクラ草という、この世界で最も簡単に手に入る食材だ」
車掌「この世界には人間がいないからな。君が慣れ親しんだ食料はない」
千織「た、食べても大丈夫でしょうか」
千織「食べたら元の世界へ戻れなくなるとか、ないですか?」
車掌「嫌なら食べなくてもいいが」
千織「た、食べます、食べます」
115: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/16(火) 01:27:11 ID:spmolqlGjY
シャク、と草を口の中へ入れる
千織「…」 シャク
千織「…」 シャクシャク
車掌「別にまずくはないだろう」
千織「無味、ですね…。噛み続けたガムの味です」
車掌「そのうちマシなものを調達するから、我慢してくれ」
千織「と、とんでもないです。餓死するよりずっとましです」
116: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/17(水) 23:50:20 ID:spmolqlGjY
食事を終えると、寝台車両へ案内された
1〜6両目が一般車両、7両目が寝台車両、8両目が貨物車両となっているようだ
車掌「ここの寝台で寝てくれ。最近ここは開放してないし、客がいきなり乗り込んでくることもない」
千織「はい」
千織「車掌さんやブリアンさんはどこで寝てるんですか?」
車掌「私は車掌室で寝ている。ブリアンは適当なところで寝ている」
千織「そ、そうなんですね」
117: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/17(水) 23:56:06 ID:spmolqlGjY
千織「…」 オドオド
車掌「?」
千織「あ、あの。ここが安全だとはわかってるんですけど…私、怖くて。魚人とか、未だに信じられないし…」
千織「ここは車掌室と距離があるので、何かあった時に不安で」 アセアセ
車掌「…」
千織「…」
車掌「…つまり?何が言いたい?」
千織「そ、その… 車掌さんの近くで寝させてもらったら安心だなって…」
118: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/17(水) 23:57:58 ID:spmolqlGjY
車掌は少し考える素振りを見せたが、小さく首を振った
車掌「君は甘えすぎだ。自分の身は自分で守ることも覚えろ」
千織「は、はい…」 ガーン
車掌「明朝6時に列車を動かす。5時には起きるように」
そういうと、車掌は寝台車両から出ていった
千織「…」
千織「…悪い人じゃ、ないんだけど」
気軽に話せるようになるには、まだ時間がかかりそうだ
119: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/18(木) 00:00:09 ID:spmolqlGjY
補足:列車編成
・最前部:運転席
・1〜4両目:一般車両
・中間部:車掌室
・5〜6両目:一般車両
・7両目:寝台車両
・8両目:貨物車両
・最後部:運転席
120: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/18(木) 20:56:06 ID:spmolqlGjY
―――魚人宅
恭太「へっくしゅん!」
柱に縛り付けられたまま、くしゃみをする
恭太(俺…死ぬのかな…)
寒さと空腹で、心身ともに限界だった
恭太(ちおちゃん…ちおちゃんは、食べられちゃったのかな)
恭太(俺、無力だ…好きな女の子ひとり、守れないなんて)
恭太(何でこんなことに…俺たちが何をしたっていうんだ…)
夢であってほしい
そう願いながら、恭太は眠りについた
121: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/18(木) 20:57:25 ID:spmolqlGjY
魚人母「――な、な、何だってんだい、あんたたち!」
銃をつきつけられた魚人母が、後ずさりする
???「…」
???「隊長、家の中をチェックしましたが、人間とこの魚人以外いないようです」
???「そうか。仕事が少なくて助かるな」
???「人間はかなり衰弱しているようです。急いだほうがよろしいかと」
???「あぁ」
魚人母「…!? あんたら、あの人間を連れていくつもりなのかい!」
魚人母「そうはいかないよ、あれはウチの獲物だ!!」
122: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/18(木) 21:01:04 ID:spmolqlGjY
???「静かにしろ」
バンッ、バンッ
魚人母「ぎえぇっ」 バタッ
容赦なく発砲され、魚人母は倒れこんだ
魚人母「よ、よくも…よくもおお…!」
???「歪世界に迷い込んだ人間を捕らえ、奴隷にしたり食したりすることは異界法違反だ。たとえそれが未遂でもな」
魚人母「なん、だと」
???「貴様は刑罰に処する」
バンッ
123: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/18(木) 21:03:59 ID:spmolqlGjY
男たちが恭太の前に立つ
???「――隊長。こちらがその人間です」
???「ふむ。意識を失っているな。身元を確認できるものは?」
???「人間のものとみられる学生?手帳を見つけました。沖恭太、東京都荒川区○○在住…」
???「よし、送り届けるぞ」
???「記憶の処理はどうなさいますか?」
???「消してやろう。恐怖でいっぱいだっただろうからな」
恭太(・・・・・・ん・・・?)
人の存在に気づき、意識を戻し始めた
124: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/18(木) 21:05:47 ID:spmolqlGjY
恭太(だれか、いる…?魚人か…?)
???「おや、目を覚ましたようですよ」
???「沖恭太くん。もう大丈夫だ」
恭太「大丈夫…?」
???「君の身柄は、我々異界警察が保護した。安心したまえ」
恭太「警察…!?」
はっと目を開ける
125: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/18(木) 21:13:32 ID:spmolqlGjY
???「おっと。もう少し寝ていたまえ。ちゃんと送り届けるから、大丈夫だよ」
男が恭太の目を手で覆った
恭太「っ…ちおちゃんを、ちおちゃんを助けてくれ!頼む!」
???「ちおちゃん…?」
???「まだ歪世界に人間がいるのか?」
???「調べてみます」
???「―――…いえ。この世界に、他に人間の気配はありません」
126: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/18(木) 21:14:39 ID:spmolqlGjY
???「ニオイ探知はどうだ?」
???「反応していません」
???「…ふむ。どういうことだろう?」
???「その少年も、恐怖で記憶が混乱しているのでしょう」
恭太(ちおちゃんがいない…!?そんな、馬鹿な)
恭太(まさか、食べられちゃったのか…!?)
恭太「あああああっ!!」
127: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/18(木) 21:15:49 ID:spmolqlGjY
恭太「ちおちゃん、ちおちゃん…!!!」
後悔のあまり、叫びをあげる
???「落ち着いて。隊長、記憶の削除を行ってよろしいですか」
???「あぁ」
恭太「ちおちゃん…!!」
その言葉を最後に、恭太は意識を失った
128: 名無しさん@読者の声:2017/5/22(月) 22:43:57 ID:3/JsMTxgiM
支援
129: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/23(火) 13:36:40 ID:spmolqlGjY
>>128
支援ありがとうございます、嬉しいです!!
更新遅れてすみません、がんばります\(^o^)/
130: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/23(火) 13:39:48 ID:spmolqlGjY
―――千織が歪世界にきてから、3日目の朝
「――おり。ちおり」
千織「ん…」
車掌「千織。起きなさい」
千織「んん〜おかあさーん…」
千織「だいじょうぶ、まだあと5ふんねても…まにあうから…」 グーグー
車掌「…」
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