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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編その3】
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:15:11 ID:.RxhzfPc96
あらすじ

永遠の命。その鍵となる救い主、カロル。
欲望に目覚めた西の国。狂気は果てしなく蠢く

遂に勃発してしまった戦争
強大な西の国に立ち向かうべく王国、東国、南国は6ヶ国同盟から成る平和協定を破り、3国連合軍を結成する

南国は多大な犠牲を払い、国王ローレンの命と引き換えに西帝国軍の主力を削った
東国は張り巡らされた罠を果敢に打破するも圧倒的な力の前に粉砕される

敵地にて孤軍となった王国軍
総指揮官フィクサーの戦略采配が功を奏し、帝都本拠地の制圧を完了した

一方で吉報を待ち、国内に留まる王国の国王ヒメ
迫り来る侵略の魔の手を退ける為、東国のホビット族と手を結ぶ
彼らによって明かされた最後の真実
アピシナの大樹の成り立ち

かつて癒しの力は破滅を導いた
人もホビットも共通する願い
永遠の命が野心をくすぐる

穢れなき無垢な愛情は火種となって注がれ、混沌とした世界を象徴するように大樹を巡る争いは止まなかった

忘れ去られた無残な過去
300年もの月日を経てなお繰り返される歴史
誰も止めることは叶わない

友情を取るか、安寧を取るか
時を追う毎に取捨選択を強いられる
捨てていいものなど一つもないのに


69: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:05 ID:iNoKbPh17s
〜〜〜数日後〜〜〜

―――王都(憲兵団本部)―――

政務官「陛下にいったい何があった?」

団長「……」

政務官「ここ最近、明らかに様子がおかしい。まるで魂が抜けてしまわれたかのようだ」

団長「そうか…」

政務官「何か知らないか?」

団長「…知らんな」

政務官「……」

団長「……」

政務官「話せ。何があった?」

団長「知らんと言っておるだろう」

政務官「マシな嘘をつけ。態度で筒抜けだ」

団長「ふん…」

政務官「あのままでは任せておけない。一刻も早く以前の陛下を取り戻していただかなくては…」

団長「陛下は常に国の行く末を考えておられるよ。考えているからこそ…今の状態になってしまったのだ」

政務官「それはどういう意味だ?」

団長「…頼りすぎたのかもしれん。陛下の心は幼い頃と変わらず孤独なままだった」

政務官「? 貴様も様子がおかしいな…。陛下の変調と関係があるのか?」

団長「疲れておるだけだ…。今回ばかりは…疲れた」

政務官「何を腑抜けた事を…!貴様も陛下もどうなっているんだ!」ギリッ
70: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:54 ID:iNoKbPh17s
政務官「いいか!危機はすぐそこまで差し迫っているんだ!落胆している暇などないぞ!」

団長「…思えば息子に正義とは何かと問われ、ワシは己に恥じぬ行いが正義だと答えた」

政務官「……?」

団長「…陛下もそうだ。己を信じられなくなっている。全ての行いが過ちに繋がっているのではないかと」

政務官「…疑心暗鬼に駈られていると?」

団長「あまり無理をさせないでやってくれ。陛下もああ見えて幼いのだ」

政務官「ふむ、分からんでもないが…そうもいかないだろう。少なくとも今の環境下では」

団長「…複数の役人以上の働きを陛下に課すのは酷だと言っておるのだ」

政務官「甘えた事を抜かすな。役人には役人の働きがあるんだ。陛下にはそれを取り纏める責務がある」

団長「その責務が…陛下を追い詰めているとなぜ分からん?」

政務官「そうされたのは陛下自身だ。我々は陛下の意思に倣い、立場を弁えている」

団長「しかし…いつまでも陛下をあてにする訳にはいかんだろう」

政務官「あてにするだと?誰があてにした?我々はそれぞれ独自に動き、考え、公務に殉じている。貴様の言い分こそ我々をあてにした甘えだ」

団長「……」

政務官「まさか…陛下までもがそのような言い訳を口にしているのではなかろうな?」

団長「勘繰るな。個人的な意思だ…」

政務官「ならばよいが…陛下の心労が深刻なようなら私も考えねばならんぞ」

団長「なにをだ…?」

政務官「王座の守護をだ」

団長「……?」
71: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:44:58 ID:iNoKbPh17s
政務官「陛下には現在、許嫁がおられない。前制度の悪政によるものだが…公務に集中させる意味もあった」

団長「い、許嫁…?」

政務官「もしもこれ以上、支障をきたすようであれば本来の位置に戻っていただき、王の務めを果たしていただく」

団長「陛下に…子を成せと言うのか?」

政務官「そうだ。然るべき相手と然るべき形でな」

団長「き、貴様…何を考えている?陛下に望まぬ婚約をさせようと言うのか?」

政務官「北国には姫君がおられる。長女は既に婚約済みだが…次女はまだ純潔を保っているそうだ」

団長「……!?」

政務官「長女と比べれば位は劣るが…それでも仲を取り成せれば北国との間に親睦が生まれるだろう」

団長「ま、待て!ま、まさか…」

政務官「歳もそう変わらず見目麗しい美少女と評判だ。決して悪い話ではあるまい」

団長「政略結婚ではないか…!陛下が納得する筈が…!」

政務官「これまで口出しせず自由にやらせていたのは、あくまで王としての資質を認めてのこと。だが腑抜けてしまったのなら話は別だ」

団長「っ…腑抜けだと!」

政務官「納得のいかぬ状況でも国の為に身を捧げる。それが政治というものだ。違うか?」

団長「早計だ…!今は大事を成されて間もなく気が落ち着かぬのは当然であろう!」

政務官「それでは示しが付かん。国王の態度一つでそれぞれの士気に関わる」

団長「ぐっ…!」
72: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:50:34 ID:iNoKbPh17s
政務官「それだけではない。もう間もなく国賊フィクサーの処刑執行日が迫っている。
民衆も見守る一大事ゆえ陛下にはなおのこと毅然としていただかねばならない」

団長「…貴様には人の心というものがないのか!これまでの功績を省みるに…陛下は十分役目を果たしている筈だ!」

政務官「…一つ果たせば終わりか?」

団長「な、なにぃ!?」

政務官「一つの役目を達すれば次の役目は放棄してもいいのかと聞いているんだ?」

団長「そ、そうは言わんが…」

政務官「そう言っているんだよ!貴様は!先ほどから!ずっとな!」

団長「うっ…ぐ」タジッ

政務官「多大な功績は認めている。役目の辛さも理解出来る。
だがそれを言い訳にしたところで危機を免れる訳ではない!」

団長「……!?」

政務官「世継ぎの件にしても…2、3年以内には決定しなければならない事だ。
陛下にその気がないと言うのなら強引にでも推し進めるのみ」

団長「な、何をしようと言うのだ…?」

政務官「何をしてでも、だ」

団長「っ……」ゴクリ
73: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:52:07 ID:lvGUj2/ilc
政務官「既に国内でも不穏な噂が出回っている」

団長「噂だと…?」

政務官「戦勝国となった王国に期待を抱き、民も血の気が強まっているらしい。
これまでのように不満を押し留めてもらえるとは限らない」

団長「ば、馬鹿な!内乱が勃発するとでも!?」

政務官「可能性は大いにあるだろう。陛下不在の間、実際に貴族勢が民を煽動しようと企てた」

団長「な、なぜだ!これだけ誠実な執政に務められておるというのに…何が不満だと!?」

政務官「不満など、どこからでも生まれるものだろう。民とは常に、これまで以上の国を欲する生き物なのだ」

団長「な、なんだと…これでは、これでは、いつになれば陛下に安らぎが訪れるのだ!?」

政務官「ふん…子を成し、世継ぎとして相応しい人物に育て、王位を返上すれば隠居も可能ではないか?」

団長「何十年先の話だ!それは!?」

政務官「ならば我々に任せるか?」

団長「で、出来るのか!?」

政務官「陛下の威光が絶対となりつつある現状において役人による国家百年の計を案じられるとすれば…それはもはや陛下が理想とした国家と程遠い物となるだろうがな」

団長「で、ではどうすればいい!何も王を降りさせよと言うのではない!休息を願い出ておるだけだぞ!」

政務官「自由に使える時間は設けてある。そこを有効に使っていただけばいいだろう」

団長「寝る間も惜しんで思案する陛下にそんな時間があると思うか!?」

政務官「皆も同じことだ。ましてや陛下には我々より比較的、多くの時間を取らせてある」

団長「ぬ、ぬ、ぐぅぅ…!!」ワナワナ
74: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:58:12 ID:lvGUj2/ilc
政務官「親心を抱くのは勝手だが…陛下の役目を妨げるのなら今すぐ退け。己の立場を誤解するな」

団長「…あ、甘やかしてやりたくもなるではないか!」

政務官「?」

団長「あのお歳であれだけの偉業を達成された。その達成感を噛み締める時間があってもよいではないか…!」ワナワナ

政務官「時間と人は同様に流れる。起こってしまった上は悲観しても仕方あるまい」

団長「っ…くそっ!」ググッ

政務官「私とて悩ましい。信頼していただけに…あのようなお姿は見たくなかった」

団長「どうしても…陛下を休ませる訳にはいかんのか…!?」

政務官「…陛下を通さねば役人の公務にも差し支える。王の働きはそれだけ重要なのだ」

団長「……!」

政務官「なにも我々が楽をしたいが為に言っているのではない。案ずればこそ…努力を強いているのだ。分かってくれ」

団長「……」

政務官「何より陛下自身が積み上げた努力を無駄にしない為にも、な」

団長「…すまん。ワシが間違っておった」
75: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:01:44 ID:iNoKbPh17s
政務官「気持ちはよく分かる。幼い頃より側に仕えてきた身としては…計り知れぬ想いがあろう」

団長「いや、これはワシの不手際だ。危うく陛下に堕落を覚えさせるところであった…」

政務官「…見守るのも一つの気配りだ。今は忍んで耐えろ」

団長「承知した…」

政務官「…安らぎとは平穏。望む未来は己で勝ち取るより他にないのだ」

政務官「…私は貴様も信頼している。あまり落胆させてくれるな」

団長「……すまんな。ワシに出来る事があればよいのだが」

政務官「では一つ頼んでおこう」

団長「む…なんだ?」

政務官「陛下専属の農園に護衛を配置し、強く警戒を促してくれ」

団長「の、農園に…?なぜだ?」

政務官「陛下が民へ無料配布されていた苺に仕掛けを施そうとする者がいるとも限らん」

団長「そ、そんな真似をして何になると言うのだ?」

政務官「あの苺は陛下と民にとって直接の絆を意味する。
もしも民意を剥ぎ取り、失墜させようと目論む者あれば真っ先に狙われる恐れがあるだろう」

団長「……!?」

政務官「人の心はたやすく、政治とは恐ろしいものだ。
私が陰で陛下をどれだけ支えてきたか少しは理解してもらえたか?」

団長「うむ…。そうだな。ワシは…政治には向かんようだ」ブルッ
76: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:04:58 ID:aJfL34ZFgU
〜〜〜処刑執行日〜〜〜

―――城下町(断頭台)―――

ワイワイガヤガヤ

ガタンガタン ゴゥンゴゥン

政務官「そこでいい。開け」

ギギギ…ギィィィ………

政務官「罪人をこちらへ」

ザッザッザッ

政務官「杭に縛り付けろ」

シュルシュル

フィクサー「」ギッギッ

政務官「ふん…」ジッ

ザワザワ ザワザワ

町民1「と、とうとう処刑されるのか…」ゴクリ

町民2「あいつのせいで俺達はさんざん怯えさせられたんだ。ざまぁみろだぜ!」

町民3「だ、だけど…いざ目の前でとなると、ちょっと…」ビクビク

町民4「国を裏切る奴が悪い!俺の従兄弟だって、あの戦争で死んだんだ!立派に戦ってな!」

町民5「…兵士になった友人がフィクサーに利用されて反逆者にされた。あいつはそんな奴じゃなかったのに!」ギリッ

町民6「よくも息子を不名誉に死なせたな…!地獄に落ちろぉ!!」

町民7「西国人を不必要に虐殺してきたと言うし、やっぱりまともな人間じゃなかったんだろうな」

町民8「ああいう奴は世の為にならないよ。死んでもらった方がいい」

町民9「父親を失って路頭に迷わされた遺族も大勢いるんだ!許せねぇよ!」

町民10「そこをいくと国王は俺達を戦場に行かせないようにこっそり解決してくれてたんだから本当に偉大なお方だよな!あの方を信じていれば間違いないよ!」

町民11「そうさ!あの野蛮な西の帝国軍を返り討ちにしたばかりかホビット族やレジスタンスもやり込めて反乱を食い止めてやったってんだからスゲーや!」
77: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:14:54 ID:aJfL34ZFgU
ブーブー ギャーギャー

政務官「…準備は整いましたな。始めるとしましょうか」

ヒメ「……」

ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ

フィクサー「……」ビシビシッ

ヒメ「…ある、のか」ボソッ

政務官「なにかおっしゃられましたか?」

ヒメ「ここまでする必要があるのか…?」

政務官「ここまで、とは?」

ヒメ「奴は罪人だ…許されてはいけない。でも…」

政務官「……?」

ヒメ「無抵抗の人間に容赦なく罵声と物を投げつけて…女子供も見守る場で…惨殺する必要が…」

政務官「恐れながら…王国軍全体の罪を補うには十分な落とし処かと」

ヒメ「…そうかも、しれないけど」

政務官「奴に関しましては生かしておく理由が見当たりません。むしろ早い内に始末を着け、民を納得させるのが先決」

ヒメ「これが民にとって…いい事なのか?」

政務官「彼らの浴びせる憎悪が目に写りませんか?」

ブーブー ギャーギャー!

政務官「罪と共に焼き払うのです。遺恨も…執着も…火種となって燃え盛りましょう」

ヒメ「……!」

政務官「しかとお見届けくださいませ。陛下にはその義務がございます」

ヒメ「…あぁ、僕が…そうさせたんだもんな」
78: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:16:33 ID:aJfL34ZFgU
政務官「罪人の身体に聖酒を注げ!」

バシャッバシャッ

政務官「……火を放て!」

ボッ

フィクサー「ぅむぅぅ!ムゥグゥゥゥ!!?」ジタバタ

ゴォォオオオオ

フィクサー「ムゥゥウ!!ムォオオオオ!!アァギィィィイイイイ!!!!」メラメラ

ワァーワァー! ヒューヒュー!

ヒメ「(なんて…むごたらしい光景だ)」

ギャアアアアアアアアアアアアア…………

パチパチ パチパチ

ヒメ「(喝采が起こるたび複雑になる…。僕が彼らをこうしてしまったんだ…)」

ヒメ「(僕が……)」プイッ
79: 名無しさん@読者の声:2017/5/13(土) 09:00:17 ID:sH/Q6vdCDA
>>23-28
腹抱えて笑ったw
カロルばっさり振りすぎwルーボイなんか吹っ切れてるしカロル逃げてー!こんな団長いやだwwラキアが熱血になったのは爛れた女性関係をおくる父親を反面教師にしてかと思ってしまったwww 
んでんで、お母様は…うっ……ふぅ。けしからんもっともっとやって下さい!フキフキ

ヒメ、まだ若いのに頭を抱える問題ばかりで心労で倒れないか心配だ…
5スレ目も楽しみにしてます
つC
80: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/14(日) 21:55:00 ID:GOHZ5LrNmo
>>79
勢い任せにあんなの投下するんじゃなかったと激しく後悔していましたが、そう言っていただけて何よりですw
一場面の改変なので読んでない人には不親切ですし状況とかネタ振りが分かりづらいですが、ちょこっとでも過去スレの描写を思い出していただけたら幸いです!

ヒメにはまだまだ苦労してもらう予定です!
まだ終わりが見えませんがお付き合いくださると嬉しいです!
支援ありがとうございました!
81: 名無しさん@読者の声:2017/5/15(月) 16:31:24 ID:N4KlrDl3c2
>>80
楽しく読ませてもらいましたよ!
読んでて思い出したし面白かったですwww

ヒメの苦労はまだまだ続くんですね、ならもっと苦労してもらいましょうw(このSSは愛と成長を描いた物語だと思ってるのでヒメには悩んだり苦労してかっこいい青年へとなってもらいましょー!w)
以前、作者への質問スレだったかな?でだいたい骨組みは出来てる、みたいなことをおっしゃってたのでそれに向かって展開していってください、応援してます!
この物語もキャラたちも作者さんのことも大好きなので、もちろんおわりとかかれるそのときまでついていきます!!
82: お返事遅れてごめんなさい! ◆WEmWDvOgzo:2017/5/17(水) 22:33:00 ID:1dMW/jb7SY
>>81
よかったです!w
番外編じゃないですけど、自分の書いたSSからこういうのを投稿する機会はなかなか無いので反応を貰えて本当に嬉しかったです!
いつも最高のタイミングでヤル気スイッチを押していただけて感謝のしようもありません!
おかげさまで今はとても捗ってます!いつもありがとうございます!

愛と成長…!深いテーマですね!自分に描けるか不安ですが頑張ります!
でもどんどんヒメが主人公街道を突き進むので最近はカロルの動かし方がめっちゃ難しくなっちゃいましたw
ヒメが愛と成長を経ていくたびにカロルの出番が無くなるような…どっちが主人公だか分からなくなりますねw

応援ありがとうございます!
読み手様にも納得いただけるエンドでおわりと書けるよう頑張ります!
83: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:54:34 ID:mpOxahS5ac
〜〜〜夜〜〜〜

―――北の領土(雪原の隠れ里)―――

バッバッ ドサッドサッ

プチョリスフ「よーしよし、こっちだ。ガンガン積み込めー!こぼすなよー!」

部下1「ケェー!すっげぇ!ぶっ飛びそうな匂いがプンプンするぜ!」

部下2「こりゃあ入りきらねぇな。もちっと人手が要るぜ」

プチョリスフ「いいよ。どうせ急ぐもんでもねぇから」

部下1「つかあの話は本当なんすか?」

プチョリスフ「ん?」

部下1「北国と東国が一戦交えるっつーの」

プチョリスフ「わかんねぇ。多分そうなんじゃね?」

部下1「た、多分って…俺ら多分で密輸しようとしてんすか?」

プチョリスフ「情報屋から出回ってるネタじゃ貴族が大量のブツをダシに北国の連中と仲良くしたがってるとよ」

部下1「んなことしてなんになるんだか?偉いさんの考えるこたぁ分かりやせんね」

プチョリスフ「分からなくていいんだよ。俺達が頭使うことじゃねぇし」

部下2「一旦運び出しやしょうや!いっぺんにゃ無理だコレ!」

部下1「運ぶったって関門はどうすんすか?」

プチョリスフ「どうもしねーよ」

部下1「え?」

プチョリスフ「俺達はただ品を運ぶだけ。受け渡しまでは向こうが手配するこった」

部下1「うーん…大丈夫っすかねぇ」

プチョリスフ「んな事よか業者にしっかり口止めしとけよ。一匹間抜けがいたら、せっかくの儲け話がおじゃんだぜ」

部下1「うっす!」
84: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:55:15 ID:gQj8L.R5T.
―――王宮(ダンスホール)―――

シャララララン

ワイワイガヤガヤ

貴族1「良ければ私と踊っていただけませんか?」スッ

令嬢1「まぁ嬉しい?」パシッ

ポロロロロン

ヒューヒュー! ピーピー!

公爵「ご機嫌麗しゅう、大后陛下…今宵もお楽しみいただけておりますかな?」カランッ

大后「こんばんは、ハリアンス公爵。本日も贅沢な夜会ね。心安らぎますわ?」ニコッ

公爵「素晴らしい演奏。美しい舞踊。芸術性溢れる装飾。絵になり肥やしともなる料理の数々。そしてなにより…素敵な貴婦人と堪能する上品な美酒。今夜はわたくし達の為にある」スッ

大后「あら…お上手ですこと?」カンッ

公爵「この一時が永遠となればどれほど報われましょうか」クイッ

大后「同感致しますわ。それこそ本来のあるべき形…」クスッ

公爵「んぅむ。大后陛下。やはり貴女様のお考えはわたくし共に通ずるようだ」

大后「公爵殿こそ、あたくしをよく理解しておいでよ?」クスクス

公爵「…今宵も国王は参られませぬか」

大后「えぇ、とても愉快な会ですのに…相も変わらず筆を取っておられますわ。お父上に似たのかしら」

公爵「まさか。先代はわたくしも知るところですが、ああも諦めの悪い御仁ではなかった」

大后「左様ね。名を上げるのは良い事だけれども…やり方がよろしくないわ?」

公爵「まさしく…」
85: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:55:49 ID:gQj8L.R5T.
大后「王族とは何か…陛下は思い違いをしてらっしゃいますのよ」

公爵「大后陛下の心中を思えばわたくしも胸が痛みます。これではこの先、王国の未来は陰りを深めるばかり…」

大后「どうしたものでしょうねぇ」

公爵「大后陛下から説得なされてはいかがか?」

大后「そうしたいところですが困ったことにあたくしの忠告も聞き入れてはもらえませんの…」

公爵「それは益々、苦労されますな」

大后「王族…それは爵位の最上位であり、貴族の頂点に君臨する者。
所詮、民など貴族によって生かされる奴隷に過ぎませんわ?」

公爵「まことおっしゃる通り…」

大后「それなのに今の体制と言えば貴族を蔑ろにした品のない慈善事業の真似事ばかり。
まるでわたくし達が民の奴隷と成り果ててしまっているような…不愉快極まりない腐敗ぶりですこと?」フンスッ

公爵「然りも然り。この上ない屈辱に御座います…」

大后「されどもわたくしとて母の情がございますわ。願わくは荒事にならぬよう陛下に正しき道を諭して差し上げたいの」

公爵「…お話の途中、失礼致します。あれを」チラッ

執事「はっ…」バサッ

大后「……?」

ジャラララララ

大后「ま、マァァア!!」キラキラ
86: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:56:24 ID:mpOxahS5ac
大后「なんて透明な輝き…!色とりどりの光沢が眩しく瞳を焦がしますわ…!?」キラキラ

公爵「以前に西国より買い付けた宝石類にございます。これはほんの一部でしかありませんが」

大后「……!」チラッチラッ

公爵「…僭越ながら、これらを大后陛下に献上致したく存じます」

大后「あぁらマァ〜!なんてこと!?そんなわたくしにだなんて!気が咎めますわ〜!?」ウヒョー

公爵「どうかお近付きの印に。確かな審美を知る大后陛下にこそ相応しく思います」

大后「え〜そうかしらぁ〜?そこまで仰っていただいたらぁ〜?受け取らないと失礼に当たりますわよねぇ〜?」ニヤァァ

公爵「わたくしにお気遣いなど滅相も…されど大后陛下に身に付けていただければ、それらの宝飾もなおのこと輝きましょう」

大后「そ、そぉう?」フンスッ

公爵「はい。次の夜会が待ち遠しく…美しく着飾った大后様のお姿を一刻も早くお目にかかりたいと」

大后「ま、まぁ〜?そんな大仰にお世辞を並べていただかなくともよろしくてよ!」ニタニタ

公爵「いえいえ、本心から…。先日、贈らせていただいたお召し物に合わせてくだされば、より栄えるというもの」

大后「うっふふ〜!次の夜が楽しみですわねぇ!」ルンルン

公爵「」ニヤリ
87: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:58:15 ID:mpOxahS5ac
〜〜〜朝〜〜〜

―――城下町(バックヤード)―――

ワイワイガヤガヤ

宣教師「ふむふむ、この辺りの治安も安定してきたようですね」スタスタ

司教「はい。ミシング殿が筆頭となって興した慰霊活動や司祭様が積極的に発する融和の声が民衆に響いたのでしょう。喜ばしい限りです」スタスタ

宣教師「教団を任されて数年足らずですが…ようやく進歩を実感できた気がします」クスッ

司教「最近では孤児院への出資者も増加し、里親を願い出る声も多くなっているそうですぞ」

宣教師「それ以上に孤児が増えましたけどね…」

司教「む、うぅん……」オホンッ

宣教師「里親を名乗り出てくださった方々の多くが先日までの争いで実際に家族を失われ、それぞれに思うところがあったのでしょう…」

司教「…手放しに喜んでもいられませんな」

宣教師「良い変化の後には暗い陰が伴うものですよ…。以前の差別にしても、今回の件にしても」

司教「……」

宣教師「ですが変えようとしなければ何も変えられません。
私達はきっと…こうやって少しずつ正しい未来を歩んでいるのだと思います」ニコッ

司教「良きお考えかと」ニコッ

宣教師「それに何より今は民も国も一丸となって、あらゆる活動に前向きな姿勢を見せています」ニコニコ

司教「ほほほ!これからの王国には明るい兆しが見えますな」

宣教師「えぇ、国への信頼によるものでもありますが…何より誠実な王がいてこそ成り立つ期待でしょうね」

司教「ホビットと人間の差別意識を取り払い、真の平和を実現する…決して夢ではないと言えるところまで差し掛かりましたな」

宣教師「夢ではありませんよ。私達はずっとそこに向かって進んできたのですから」
88: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:59:09 ID:gQj8L.R5T.
宣教師「おや…?あれは?」ピタッ

司教「んぅ?」

ゾロゾロ ゾロゾロ

宣教師「掲示板の前に人だかりが出来てますが…どうしたんでしょうか?」

司教「また何か発表が出たのでは?」

裏通りのホビット1「あ、司祭様!司教様!」オロオロ

宣教師「こんにちは。そんなに慌ててどうしたのですか?」

裏通りのホビット1「あそこに書いてある内容って本当なんですか!?」

宣教師「? 何が書いてあるのです?」

裏通りのホビット1「ば、バックヤードを取り潰して貴族専用の高級街にするって!?」

宣教師「はい?」

司教「き、貴族専用…?」

裏通りのホビット1「それにホビットは王都から追い出すとか!教団と国王は不正に繋がってるとか好き放題書かれてますよ!?」

宣教師「……」

司教「し、司祭様!これはどういう…!?」アセアセ

宣教師「行きましょう」スタスタ

司教「は!?い、行くとは…?あっ!お、お待ちくだされ!」アセアセ
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名前:
sage:


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