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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編その3】
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:15:11 ID:.RxhzfPc96
あらすじ

永遠の命。その鍵となる救い主、カロル。
欲望に目覚めた西の国。狂気は果てしなく蠢く

遂に勃発してしまった戦争
強大な西の国に立ち向かうべく王国、東国、南国は6ヶ国同盟から成る平和協定を破り、3国連合軍を結成する

南国は多大な犠牲を払い、国王ローレンの命と引き換えに西帝国軍の主力を削った
東国は張り巡らされた罠を果敢に打破するも圧倒的な力の前に粉砕される

敵地にて孤軍となった王国軍
総指揮官フィクサーの戦略采配が功を奏し、帝都本拠地の制圧を完了した

一方で吉報を待ち、国内に留まる王国の国王ヒメ
迫り来る侵略の魔の手を退ける為、東国のホビット族と手を結ぶ
彼らによって明かされた最後の真実
アピシナの大樹の成り立ち

かつて癒しの力は破滅を導いた
人もホビットも共通する願い
永遠の命が野心をくすぐる

穢れなき無垢な愛情は火種となって注がれ、混沌とした世界を象徴するように大樹を巡る争いは止まなかった

忘れ去られた無残な過去
300年もの月日を経てなお繰り返される歴史
誰も止めることは叶わない

友情を取るか、安寧を取るか
時を追う毎に取捨選択を強いられる
捨てていいものなど一つもないのに


2: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:17:06 ID:ItyqIbwMvc
かくして戦争に勝利した連合軍
しかし争いは終わらない
王国軍総指揮フィクサーの反逆
逆境を乗り越えた先に待つのは更なる窮地であった

西国に君臨する至上最悪の女帝ファルージャ
肉欲を愛と呼び、打算を恋とする魔性の持ち主
彼女の魅力は人々をことごとく誘惑し、自らの配下に取り込んだ

ファルージャは救い主を拉致し、大樹へと到達する
不朽の美を我が物に。
目的を遂げた彼女は大樹を焼き払った


友を奪還する
想いを一つに仲間たちは最後の戦いに赴く

抑圧と貧困に耐えかねた西国のレジスタンス組織イアマン
フィクサーに背き、王国軍を追われた元軍長ドレッド
彼らの協力を得て再び戦いは加速する

激しい戦いの末、国王とその仲間は国賊フィクサー、女帝ファルージャ打倒を果たした
友も無事に取り戻し、全ては決着した

1つの争いが終わり、世界に変革が訪れる
時代はまだ始まったばかりだ………


http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/1-10

1スレ(少年「ボクが世界を変えてみせる」)

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1385288769/1-10

2スレ(カロル「ボクが世界を変えてみせる」)

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1416136192/l10#under
3スレ(カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編】)

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbss/test/mread.cgi/ryu/1438354858/l10

4スレ(カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編その2】)
3: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:20:32 ID:ItyqIbwMvc
―――西国領内(山岳地帯)―――

ドドドッ ドドドッ

ウォォォオオオオオオ!!!!!

団長「ぬぅ…!わらわらと群がりおって!蹴散らすぞ!」ガガッ

護衛's「団長に続けぇっ!!」ガガガッ

ザシュッ ドバッ ズブッ ブシャッ
4: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:21:14 ID:ItyqIbwMvc
ワァーワァーギャーギャー

宣教師「またですか…」ジッ

ヒメ「いや、今回は野盗の集団だ。適当に追い払って先を急ぐ」

宣教師「この調子ではクーペさんの待つ廃村に着くのもいつになるか分かりませんね…」

ヒメ「…仕方ないだろ。僕たちがいるのは敵地のど真ん中だ。多少の妨害はやむを得ない」

宣教師「ですが兵の皆さんも連日の戦いで疲弊してますよ…」

ヒメ「クーペたちと合流出来れば医療班も確保できる。それまでの辛抱だ」

宣教師「……」

ヒメ「…カロルにも、ちゃんと言っておけよ。なんとか誤魔化しておいたが疑ってる奴もいる。あいつの力はなるべく知られない方がいい」

宣教師「はい…」

護衛15「陛下!後方から帝国軍の残党が!?」

ヒメ「ちっ…王国軍の兵で対処しろ!」

護衛16「その王国軍の兵なのですが…フィクサーの解放を求めて抗う者たちが出ました」

ヒメ「…恩赦の件を強調して説得に当たれ。反逆に加担する者は極刑に値するともな」

護衛16「ははぁっ!!」

宣教師「…このやりとりも既に二度目ですね」

ヒメ「つい先日まで争っていた敵を従えて行軍するんだ。今さら驚くことでもないだろ」

宣教師「……」

ヒメ「罪を背負って自国に帰る不安や単純な保身、諦めきれない野心…あいつらを突き動かす闇は深い。だからこそ僕らは冷静でいないとな」

宣教師「私達は無事に王国へ帰れるのでしょうか…」

ヒメ「帰るさ。やらなきゃならない事が山ほどあるからな」

宣教師「…そうですね」シュン

ヒメ「それに…反逆者の中には悔い改めようとしてる奴らもいる。恩赦を引き合いに出せば積極的に償おうとするだろう」

宣教師「……」

ヒメ「勝てば終わりじゃない。大事なのはその後だ。おまえにも力を貸してもらうぞ」

宣教師「はい…」
5: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:21:54 ID:ItyqIbwMvc
〜〜〜夜〜〜〜

―――西国領内(廃村)―――

ワラワラ ワラワラ

団長「今夜はこの村で休息を取る!貴様らは襲撃に備え、二時間毎に交代で見張りをしておけ!陛下の信用を得たければ忠を尽くす事だ!」

王国兵's「ははっ!!」

団長「お前達は陛下の身辺警護とフィクサーの監視だ。何があっても目を離してはならんぞ!」

護衛's「承知しました!」

団長「負傷者は合流した医療班に申し付け、手当てを受けろ!王国軍の者も遠慮なく言え!」

王国兵's「わ、我々も…?」

団長「…陛下が申されたことだ。傷付いた体では祖国まで辿り着けんだろう」

王国兵's「……!」

団長「以上だ!総員配置に着け!」

バラバラ バラバラ
6: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:25:33 ID:ItyqIbwMvc
宣教師「お待たせして申し訳ありません。大丈夫でしたか?」

クーペ「えぇ、変わりなく。司祭様達がご無事で何よりです」ニコッ

宣教師「いろいろと立て込んでて時間が掛かってしまいましたが…」

クーペ「ふふ、とんでもないですよ。ところで救い主様は…?」

宣教師「カロルくんでしたら国王の馬車に…」

クーペ「へぇ!国王様と!やっぱり救い主様は大切にされてるんですね!」

宣教師「…はい。二人は親友ですから」

クーペ「本当に良かったです!後は国に帰れば全て円満ですよね!」

宣教師「……」

クーペ「ココットも寂しがってるだろうし帰ったら、とびきり美味しいハンバーグ焼いてあげなきゃ!」

宣教師「円満、ですか…」ポツリ

クーペ「? どうかなさったんですか?」

宣教師「あ、いえ…」
7: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:30:10 ID:ItyqIbwMvc
クーペ「本当に大丈夫ですか?顔色もよくありませんし…」

宣教師「お構い無く。慣れない旅で疲れが出ただけですよ」

クーペ「…そうでしたか。あれだけの事があった直後ですもんね」

宣教師「…そういえば国王も感謝してましたよ。帝都の鎮圧に成功したのはひとえにクーペさんのおかげだと」

クーペ「そ、そんな?わたしはただ薬を調合しただけでなにも…」

宣教師「いえいえ、その薬が無ければ宮殿はおろか帝都にも入れなかったのですから」

クーペ「…でも」

宣教師「?」

クーペ「わたしの薬がたくさんの人の命を奪ってしまったんですよね…。敵だったとはいえ、医術をそういう手段に…」

宣教師「クーペさん…」

クーペ「もちろん仕方なかったんだと分かってます…分かってますけど…薬師の名を汚してしまったようで」シュン

宣教師「悔いを残したのは皆さんも同じですよ。この戦いに関わった全ての人が等しく苦悩を抱えているでしょう」

クーペ「そうですよね…。わたしだけではないですよね、やっぱり…」

宣教師「…この過ちはきっと良い方向に繋がりますよ。いや、繋げましょう」

宣教師「その一心で戦ってきたんですから…」

クーペ「はい…頑張りましょう」ニコッ

医療班1「クーペさん!ちょっと来てもらっていいですか!」

クーペ「あ、はーい!では司祭様、失礼します!」クルッ

宣教師「」ペコッ
8: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:32:27 ID:ItyqIbwMvc
宣教師「……」スタスタ

団長「む?」

宣教師「お一人ですか?」

団長「うむ。こればかりは譲れん役目だ」

宣教師「私も加えていただいても?」

団長「あぁ、構わんよ。馬車の警護など退屈だろうがな」

宣教師「中のヒメくんに聞かれたら怒られますよ?」クスッ

団長「う……し、失言だ。忘れてくれ」

宣教師「ふふ…どうしましょう?」

団長「ええい!要求はなんだ!?」

宣教師「では話し相手になっていただけますか?」

団長「…ふん、お安いご用だ」ニッ
9: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:44:30 ID:ItyqIbwMvc
宣教師「この村にいると…あの二人を思い出しますね」

団長「ドレッドとクンバヤか」

宣教師「えぇ」

団長「どちらも立派な最期だった。悔いはあるまい」

宣教師「そうでしょうか…」

団長「……」ジッ

宣教師「なにかを夢見て戦った人たちが望んだ未来を生きられないのは…本当に良いことだと言えるのでしょうか」

団長「ふぅむ……」

宣教師「……」

団長「……そうしてでも誰かに夢を繋ぎたかったのだろう。自分の生きた証を残したかったのだ」

宣教師「そうですよね。男の人って…」

団長「かくいうワシも…どこかでそう在りたいと思っている」

宣教師「…団長さんも夢追い人だったんですね。現実主義なのだとばかり」

団長「ふっ。男とはそうした生き物だ」

宣教師「なるほど…」クスッ
10: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:45:54 ID:ItyqIbwMvc
宣教師「とりあえず一段落…ですかね」

団長「いや、まだまだ国境を越えるまでは安心出来ん」

宣教師「算段はあるんですか?」

団長「…ない。が、なんとかしてみせる」

宣教師「ヒメくんはなんと?」

団長「限られた情報の中で最善の帰路を講じておられる」

宣教師「10日もかけて山越えしたのもヒメくんの考えで?」

団長「そうだ。身を潜められる上に突然、大勢の敵に囲まれる心配もなかろう?」

宣教師「…よく考えてますね。あんなに小さかった子が…たった数年でこんなにも」

団長「ワシは信じておったがな。陛下ならば必ずや賢く勇敢な国王となられる事を」

宣教師「まったく驚かされます…。いつの間にか私など彼に頼りきりで…」

団長「…ワシもだ。今となっては役人達を始め、全国民が陛下の身に寄りかかっている」

宣教師「…正直あそこまで立派になるとは思ってもみませんでした」

団長「先代であるお父君への想いもあるのだろう。あのお方も若い頃は立派だった。時代に恵まれなかっただけでな」

宣教師「…残酷ですね。なにを願っても環境に閉ざされるなんて」

団長「うむ。だが陛下は変えようとしておられる。残酷な現実をな」

宣教師「ヒメくんは本当に大変なのはこれからだと言ってましたが…どうなると言うのですか?」

団長「…どうなる、か。はたしてどうなるやら。戦争というものを経験したのは今回が初なんでな。ワシにはなんとも言えん」

宣教師「そうですか…。そうですよね」
11: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:49:23 ID:.RxhzfPc96
団長「ここから先は未知の領域だ。しかし何が起きようとワシは最後まで陛下を信じよう。それがワシに出来る最善だ」

宣教師「…呑まれないといいですけどね」

団長「……?」

宣教師「いくら成長したとはいえ、彼はまだ子供です。課せられた使命や人の期待をどこまで背負いきれるか」

団長「無論、ただ宛にするのではない。ワシらが支えるのだ」

宣教師「それでも重圧を抱えるのは彼ですよね」

団長「なにが言いたい?」

宣教師「いえ…ただ私は自分の不甲斐なさを実感しているだけです」

団長「止められなかった事を悔やんでいるのか?」

宣教師「…あそこで止められていれば何人の命が救われていたか。そう考えると、どうしても」

団長「ワシは後悔などしておらんぞ。成すべき事を成した。それで十分だ」

宣教師「心強い限りです…」

団長「君もだ。胸を張れ」

宣教師「へ…?」

団長「一度に止める事は出来なかっただろうが…レジスタンスの殺戮を止めたのはまさしく君の偉業だ」

宣教師「……」

団長「奴らが復讐に燃え、殺戮を許容したままでは陛下の思惑に沿わなかっただろう。
だが君が懸命に説得し、立ちはだかったおかげで奴らの意識が変わり、ひいては和睦を受け入れた」

宣教師「そんなつもりではなかったのですがね…」

団長「一時の感情だとしても結果は良い方向へと向かった。君の持ち前の気の強さと正義感が我々を救ったのだ」

団長「だから胸を張れ。君も大いに貢献した英雄の一人だ」

宣教師「ふふ、なんだか照れくさいです…」テレッ

団長「構わぬよ。余韻に浸るくらいは許されていい筈だ」ニコッ

宣教師「ふふ…」ニコッ
12: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:51:50 ID:.RxhzfPc96
―――馬車の中―――

ヒメ「」カリカリ

ラム「戻ってくるなり何書いてんの?」

ヒメ「今後の事だ」カリカリ

カロル「ねぇヒメくん。まだ外に出たらダメなの?」

ヒメ「あぁ」カリカリ

カロル「…どうして?」

ヒメ「どうしてもだ」カリカリ

カロル「……」シュン

ラム「まぁまぁ?帰ったら、いつもみたいに外で遊べるよ?」

カロル「うん…」

ヒメ「……」カリカリ

カロル「ヒメくん!あと何日で帰れるの?」

ヒメ「さぁな。国境まで約1ヶ月は掛かるとして…王都まで戻るのに最低でも10日以上は…」

カロル「そっか!楽しみだね?」

ラム「はぁ…1ヶ月以上かぁ。長いなぁ…」

カロル「お母さまたちにはどれくらいで会えるのかな?」

ラム「王都からだと…馬を借りても1ヶ月は掛かるんじゃない?」

カロル「へぇ!そうなの?ヒメくん?」

ヒメ「…悪いけど集中させてくれないか。今はこっちを優先させたいんだ」カリカリ

カロル「あ…ごめんなさい」シュン

ラム「少し静かにしてよっか…」

カロル「はーい…」
13: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:01:01 ID:ItyqIbwMvc
〜〜〜深夜〜〜〜

カリカリ カリカリ

カロル「ん、うぅ……ヒメくん、まだ起きてるの?」ムニャッ

ヒメ「? あぁ、起こしたか。悪いな」

カロル「ううん…ボクのことよりヒメくんは大丈夫?明日も早いんでしょ?」

ヒメ「心配するな。王宮では徹夜なんてしょっちゅうだった」

カロル「でも…ちゃんと寝ないと疲れが取れないよ?」

ヒメ「もうすぐ寝るよ。忘れない内に書き留めておきたいんだ」カリカリ

カロル「…すごく分厚いね。そんなにたくさんなにが書いてあるの?」

ヒメ「思い付いた事とか予想出来る事態への対策。ほったらかしにしてた公務の必要書類に今後の政務で行われる課題。とにかく色々だ」

カロル「ボクも手伝える?」

ヒメ「ありがたいけど、これは僕にしか出来ない事だからな。おまえは休め。拐われてた間、心労が祟っただろ」

カロル「…ヒメくんは優しいね」ニコッ

ヒメ「は?なんだよ、急に…」

カロル「こんなことしかできないけど…ボクからのお返し」スッ

ヒメ「!」ドキッ

フワッ

ヒメ「あ……」

カロル「助けてくれてありがとう」ニコニコ

ヒメ「い、いや…」

カロル「じゃあおやすみなさい。ヒメくんも早く寝た方がいいよ」バサッ

ヒメ「わ、分かってる…」

カロル「ふあぁ…一人で頑張りすぎないでね。ボクもみんなも…ヒメくんの助けになるよ」ムニャムニャ

ヒメ「…あぁ」

カロル「くぅ…」スヤスヤ

ヒメ「…バーカ。いつも助けられてるよ」クスッ
14: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:02:56 ID:ItyqIbwMvc
〜〜〜10日後〜〜〜

―――西国領内(平野)―――

ドドドドドドドッ!!!

西国軍長「現れたぞ!!王国の侵略者共だ!!」

ゾロゾロ ゾロゾロ

ヒメ「っ…多いな!各地の有力者が団結したのか!」ギリッ

団長「ぬぅ!何がなんでも我らを生きて帰さぬつもりのようですな」ジャキッ

西国軍長「よくもノコノコと間抜け面を引っ提げてやって来たな!将軍閣下の仇!今こそ討ち取ってくれるわ!掛かれ!!」バッ

ワァァァアアアアアアア!!!!

ヒメ「(帝国の覇権を奪われた奴らにとって僕の命は挽回に欠かせない…。死に物狂いで来るだろうな。さすがに手強そうだ!)」グッ

団長「陛下!指示を!」

ヒメ「この平野を抜ければ、いよいよ国境だ!僕達には後がない!突破するぞっ!!」カッ

団長「ははぁっ!!者共ワシに続けぇ!!」パカラッパカラッ

オォォオオオオオオ!!!!!

ドガガガガガガッ
15: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:04:38 ID:ItyqIbwMvc
ガキンッ ズバッ ドスッ ザンッ

西国軍長「弓隊放て!」

ヒュヒュヒュヒュヒュンッ

ズブッ ドスッ ザクッ ズンッ

団長「怯むなぁっ!!こちらも迎撃しろ!!」

ヒュヒュヒュヒュヒュンッ

ブスッ ズドッ グサッ バスッ

西国軍長「小癪な!一掃してくれるわ!大槍砲発射せよ!」ババッ

ボヒュンッ ドゴゴゴゴォッ!!

団長「なっ…!あれは国境城塞戦でカカドゥーラの軍勢が使った兵器か…!」

西国軍長「さらに絶望をくれてやる!投石砲台用意!偽善に満ちた王国人の石頭をカチ割ってやれぃ!!」ババッ

ヒューン ゴシャアッ!ゴシャアッ!

団長「く、く…おのれぇい!!」ギリッ
16: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:06:28 ID:ItyqIbwMvc
ヒメ「(…ヤツら、何日も前から待ち構えてたな。道理で難なく、ここまで来れた訳だ)」

ヒメ「(部隊配置。兵器の準備。攻撃展開。なにもかもが周到だ。その上、士気も尋常じゃなく高まっている…)」

ヒメ「(先日まで反逆者だった王国軍を主力にしているこちらの連携では分が悪い…!一旦退くか…!?)」

宣教師「ひ、ヒメくん!」タタタッ

ヒメ「な、なにやってるんだ!後方に隠れてろと言っただろ!?」

宣教師「物凄い轟音が鳴り響いてますが…いったいどうなってるんですか!?」

ヒメ「…襲撃だ!分かるだろ!いいから後ろに控えてろ!?」

宣教師「っ……!な、なんですか!あの大軍は?今までの比ではありませんよ!?」ゾクッ

ヒメ「だから控えてろって!何かあれば指示を出すから!」

宣教師「……!?」

ヒメ「ちっ…そうだよ!素人目に見ても明らかだろうな!はっきり言って一方的にやられてる!敵も馬鹿じゃないってことさ!」

宣教師「そ、そんな…」

ヒメ「それもそうさ!あいつらにしてみれば僕達は西国の尊厳も秩序も全てを奪い、破壊した憎むべき敵だ!負けられないのはお互い様なんだよ!」

宣教師「だ、大丈夫なのですか…?」

ヒメ「だから!その為に戦ってるんだろ!何度も言わせるな!?」

宣教師「……!」

ヒメ「下がってろ!こっちはそれどころじゃないんだよ!!」

宣教師「っ……」ダッ

ヒメ「……」

タタタッ………

ヒメ「(ごめんな…。でもこうしておいた方が…いざという時、気兼ねなく逃げられるだろ?)」

ウォォォォォオオアアァァアアアアア!!!

ヒメ「」ビクッ
17: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:08:48 ID:ItyqIbwMvc
西国軍長「な、なんだぁ!?」ギョギョッ

ズガガガガガガッ

団長「あ、あれは…!?」

ギャアアアアアアア!!!

ヒメ「敵陣を喰い破っていく…!なんなんだ、あの部隊は…!」ハッ

王国軍長「王国軍騎兵団!参上仕った!!」ガガガッ

団長「お、おぉ…!おぉ…!!」ググッ

王国軍長「我らが来たからには貴様らの好きにはさせんぞ!西の蛮人共め!?」バシュッ

西国軍長「うぅ…くそ!王国の羽虫なんぞ返り討ちにしてやれぃっ!?」

団長「勝機が見えたぞ!恐れず攻め込めぇ!!」ズバッ

オォォオオオオオオ!!!

ヒメ「え、援軍…なのか!?」
18: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:12:00 ID:ItyqIbwMvc
ドガガガガガガッ

ワァァァアアアアアアア!!!

西国軍長「これまでか…!出直すぞ!退け!退けぇい!?」パカラッパカラッ

ダダダダダダダッ…………

団長「ふぅ…なんとか退けましたな」

ヒメ「あぁ、正直もうダメかと思った…」

王国軍長「陛下!ご無事でなによりにございます!」ザッ

ヒメ「…助かったよ。おまえの名は?」

王国軍長「はっ!王国軍騎兵団を任されております!ロードホズ・アクナカイルと申します!」

ヒメ「騎兵団……貴族の配下じゃないか!なぜ僕を!?」

王国軍長「何を申されます!我らは貴族なれど陛下に仕える忠臣!陛下の危機となりますればいついかなる時も駆け付ける次第!!」

団長「…なぜここが分かった?表向きは陛下は城に籠っておられると、そう聞かされていた筈だが?」

王国軍長「政務官殿の仰せ付けにより陛下をお迎えするべく挙兵して参ったのだ。
我らも突然の事にて驚かされたが、なにやら政務官殿は逐一こちらの状況を探り、援軍の機会を待っておられたのだとか」

ヒメ「政務官…!そうか、リルラが!」パァァ

団長「ふん…奴もたまには良い事をするものだな」ニッ
19: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:12:51 ID:.RxhzfPc96
王国軍長「ダィール様やソメリア卿も大変、陛下の身を案じておられました。
此度はお二方の強いお力添えにより騎兵団を動かせたのです」

ヒメ「(? ダィールにソメリア……たしか貴族側の最高権力者ハリアンス家の派閥だったか。けど奴らは王族を毛嫌いしていたような…?)」

王国軍長「どうか今回の活躍につきましては陛下の一存にて格別に計らっていただきとう存じます!」

ヒメ「(……はっは〜ん?そういうことか?)」ジロッ

王国軍長「我ら騎兵団1万5千!これより陛下を警護し、王都まで無事に送り届けさせていただきます!」

ヒメ「よろしく頼む。後ほど卿にも感謝を伝えさせてもらうよ」

王国軍長「はっ!我が主も陛下の無事を確かめれば、さぞ喜ばれましょう!」

団長「奴らが陛下に力を貸すなど、どういう風の吹き回しでしょうな?」コショコショ

ヒメ「おそらくは僕が不在にしていた間に何か問題を起こしたんだろう。その弱味を政務官に握られて、といったとこじゃないか?」コショコショ

団長「ふっ!なるほど…?」プッ

ヒメ「政務官たちも必死に戦ってくれてたみたいだ。帰ったら礼を言わないとな」

団長「…頼もしき家臣に恵まれましたな」ニコッ

ヒメ「あぁ…これからも安心してやっていけそうだ」ニコッ
20: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:17:03 ID:ItyqIbwMvc
ワイワイガヤガヤ

ヒメ「待たせたな」スタスタ

宣教師「あ……戦いはどうなったのですか?」

クーペ「わたしたちは帰れるんですよね…?」オロオロ

ヒメ「……」

宣教師「……!?」ゴクリ

クーペ「え…?」ビクビク

ヒメ「喜べ!大勝利だ!」ニカッ

宣教師「〜〜〜!」パァァ

クーペ「……!」ウルッ

ヒメ「不安にさせて悪かったな。でも、もう大丈夫だ」

宣教師「クーペさん!」ダキッ

クーペ「やりましたね!司祭様!」ダキッ

ヒメ「皆、帰り支度は済ませたか!ここからは王都まで直進だ!一人足りとも欠かさず王国の地を踏もう!」

ワァァァアアアアアアア!!!
21: 名無しさん@読者の声:2017/4/29(土) 22:48:23 ID:/FBqKYUaXc
5スレ目突入乙です!最後まで突っ走ってください!
CCCCC
22: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:15:10 ID:WB3T0gfyVY
>>21
ありがとうございます!
ここまで来たらがむしゃらにスパートを切りたいと思います!
書くたびにゴールが遠ざかってるような気もしますがw
23: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:19:47 ID:WB3T0gfyVY
今から投稿する物は本編と一切関係ありません
イベント中&SS板統合直前ということで二日目も参加したいという浅はかな気持ちから生まれた駄文です
箸休め的な意味合いで捉えていただけたら幸いです


こんなカロルはイヤだ

【2スレ目の208での一幕】

母「坊やは宣教師様がお嫁さんだったらどう?」ニコニコ

カロル「宣教師さまが?」キョトン

宣教師「お、お母様!そんな…気が早いで……」アタフタ

カロル「うーん…無理!」

宣教師「え……」

カロル「ぜんぜん好みじゃないもん!」ヘラヘラ

母「そ、そう」

宣教師「(こ、このガキ…)」

【※はっきりフる】
24: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:20:27 ID:BMI.v0bS.A
こんな宣教師はイヤだ

【4スレ目、964の一幕】

ラム「ちょっと!話が違うじゃないか!あいつの一声で暴動が起こってるよ!」アセアセ

ヒメ「そんなバカな…!?」ガクガク

宣教師「えぇ、バカですね。男って本当……はぁっ」イライラ

ラム「どうするんだよ!なにか秘策はないの!?」

ヒメ「冗談じゃない…!こんな……これ以上どうしろって言うんだ!」

宣教師「……この手だけは使いたくなかったのですが」

ラム「え!?」

ヒメ「この危機を脱する手があるのか!?」パァァ

宣教師「魅力には魅力!私が全力で彼らを誘惑します!」カッ

ラム「えぇっ!?」

ヒメ「な、なに言ってんだよ!」

宣教師「私だって女なんです!やってやれないことはありません!」ヌギッ

ヒメ「バカ!よせ!脱ぐな!」アワアワ

ラム「そうだよ!聖職者が色仕掛けなんてしていいわけ!?」アセアセ

宣教師「聖職者を無理やり脱がせるのが好きな男もいます!(※1スレ目の最後らへん参照)」

ヒメ「いやいや聖職者が積極的に脱ぐのは違うんじゃないか!?」

宣教師「そう言っておきながら既に私の虜となっているんでしょう?」

ヒメ「なるかバカ!!」

宣教師「さぁ見なさい兵士の皆さん!!教団の司祭ともあろう者が脱ぎますよー!!」バサッ

ワァーワァー! ジョオウヘイカバンザーイ!

宣教師「……」スッポンポン

ヒメ「だーれも見向きもしないじゃないか」

ラム「おわったね」

『※このあとめっちゃバッドエンド』
25: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:21:07 ID:BMI.v0bS.A
こんな友達はイヤだ

【1スレ目、193の一幕】

パッチ「それにしても髪切ってるから分からなかったよ」

ルーボイ「そうだよ、昨日はもうちょっと長かったじゃんか?」

カロル「あはは。分かりにくくてごめんね?
でもアレはカツラだから髪を切った訳じゃないんだ」

ルーボイ「なんでカツラなんか被ったんだ?ハゲてないのに」

カロル「は、はは…ホビットだって思われない為に女の子のカッコをしてたの」

ルーボイ「へ?女の子のカッコ?」

パッチ「まさかキミ…男なの?」

カロル「う、うん。実はそうなんだ…」カァァ

パッチ「えぇ!気付かなかったよ!?」

ルーボイ「」ガーン

パッチ「(あ、ショック受けてる)」チラッ

ルーボイ「……」

パッチ「ドンマイ!」ポンッ

ルーボイ「最悪、男でもいいか…」ボソッ

パッチ「!!!」ゾクッ

カロル「?」キョトン

【※種族どころか性別も友情も越してくる】
26: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:22:23 ID:WB3T0gfyVY
こんなお母さまはイヤだ

【1スレ目、672の一幕】

―――大聖堂(地下牢)―――

ダガ「ふぅっ!ふぅっ!」ビクンビクン

母「手足を縛って目隠しをされながらお尻を踏まれる気分はいかが?」グリグリ

ダガ「ぐはぁっ!屈辱的だが…たまらんっ!」ビクンビクン

ジョー「こ、これは…」

神父「なんたる破廉恥な…!」

トト「うわぁ…」

母「来てくださいましたの?」

ダガ「なに!誰かいるのか!?」

母「」グリグリ

ダガ「おうつ!」ドピュッ

母「ふふ…もう出したの?情けない男…」

ダガ「んだとてめぇ!」

母「」グリグリ

ダガ「んはぁっ!?」ビクビク

母「ほら!もっと鳴きなさい!お客様にその不細工なあえぎ声を聞かせるのよ!この豚!あんたなんか豚なのよ!」ペシンペシン

ダガ「ブヒィィィイ!!」ガクガク

ジョー「………」

神父「………」

トト「………」

【※目的を忘れてヒートアップする】
27: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:23:14 ID:WB3T0gfyVY
こんな団長はイヤだ

【2スレ目、965の一幕】

団長「昨日の早朝から巡礼が始まり、日の出まで戦ってきた訳か…。長かったな」

ミシング「あーん!ミシングちゃん、動きっぱなしでもう眠たーい…。おじさまのたくましい腕枕が欲しいなー?なー?」チラチラ

ヒメ「言っとくが、こいつ妻子持ちだからな?」

ミシング「え!?そうだったの!?」

団長「…う…おっほん!」

ミシング「そんなー!あたしってば弄ばれたー!えーん!」

団長「」ポンッ

ミシング「ふえ?」

団長「第七夫人からで良ければ…」

ミシング「だ、ダイナナ……!?」

ヒメ「お、おまえ…」ドンビキ

団長「英雄色を好むと言いましょう?」

ヒメ「女性の気持ちをなんだと思ってるんだ!奥さんや子供に申し訳なくないのか!?」

団長「バレなければいいのでござる」

ヒメ「ござるじゃねーよ、絶対言い付けるからな」

ミシング「あたし…それでもいい!」

ヒメ「えっ」

ミシング「遊びでも好きな人といられるなら…」ポッ

団長「ふっ!また一人、都合のいい女ができた」ニィッ

ヒメ「(た、爛れてる…大人って……)」ズーン

【※武人なのに不倫しまくる】
28: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:25:59 ID:BMI.v0bS.A
こんなヒメはイヤだ

【3スレ目、898の一幕】

ヒメ「衛兵!そいつを地下に戻せ!」

衛兵1「はっ!来い!」グイッ

アントリア「っ…!扱いが乱暴じゃないか…!?」ギシッ

衛兵2「この者はいかがなさいますか?」

アリアス「えっ」ビクッ

ヒメ「そいつも牢に押し込め。もう用済みだ」

衛兵2「ははっ!」

アリアス「は!?証言したら罪を免除してくれる約束じゃないのよ!?」

団長「まことによろしいので…?」コショコショ

ヒメ「約束なんか知るか。罪人だぞ、そいつ」

団長「…承知しました」

衛兵2「神妙にしろ!」ガッ

アリアス「あぁぁ!!ちょっと陛下ぁぁ……」ズルズル

【※約束を守らない】


以上になります!SSフェスティバル二日目!本番はここから!もっと盛り上がりますように!
29: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:21:09 ID:eI.uCZwLb.
〜〜〜1ヶ月後〜〜〜

―――王都(城下町)―――

門衛1「開門!開門せよ!」

門衛2「道を開けろ!!」

ザワッ

町民1「な、なんだなんだ…?やけに物々しいな?」

町民2「またどっかの国から使者でも来たのか?」

ギィィィィイイイイ………

ザッザッザッザッ

町民3「え…!?」

町民4「そ、そんなバカな!?」

町民5「あれはうちの国の旗印……じゃあ、あの兵士の集団は…!?」

町民6「王国軍は西の国に寝返ったんじゃなかったのか!?」

町民7「み、見ろ!馬車の中から誰か出てくるぞ!?」

ヒメ「ふぅ。たった数ヶ月でも離れてみると…ここの空気がいかに清潔だったかが分かるな」ストッ

宣教師「えぇ、ですがあの国で学んだ現実は私たちの糧になることでしょう」ストッ

ザワッ

町民5「こ、国王様!?」

町民8「司祭様もいるぞ!?」

町民3「ど、どうなってるんだ…!城にいらっしゃったんじゃなかったのか…?」

ヒソヒソ ヒソヒソ

ヒメ「民衆に説明を」

団長「はっ!」ザッ
30: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:21:50 ID:eI.uCZwLb.
ザワザワ ザワザワ

団長「聞け!愛すべき王国の民よ!」

町民's「」オロオロ

団長「突然の事で驚かせただろうが、こちらにおわすのは正真正銘、我らが国王ヒメ様である!!」

町民's「……?」オロオロ

団長「既に聞かされているだろうが我が国は総指揮官フィクサーの裏切りに遭い、西の国と再びまみえる事となった!」

町民8「ヒッ…!?」サァァ

町民9「と、とうとう国王様が兵を徴収しに…!」ブルッ

町民10「司祭様もいるって事は教団も……やっぱり戦争は起こるのか…!?」ビクビク

団長「だがそれも、もはや過去の話だ!」

町民's「!?」

団長「国王陛下が自ら兵を率い、帝都に巣食う敵軍もろとも国賊フィクサーを成敗なされた!!」

町民's「え!?」ギョギョッ

団長「今日まで諸君らに不安を与えてしまい、まこと申し訳なく思う!しかしその不安も今この時、一点の曇り無く晴れるだろう!」

町民's「」ドキドキ

団長「此度の反逆は我々、国王直属軍の手により鎮圧!!西の国との戦も我が国の全面勝利で決した!!全ては国王陛下のお導きなり!!!」

町民's「〜〜〜!!!」プルプル

ヒメ「隠していて悪かったな。今日からは安心して、また日々を過ごしてくれ」ニコッ

ウオォォオオオオオ!!! ワァァァアアアアアアア!!!

宣教師「私まで顔を出す必要があったのですか?」

ヒメ「まぁそう言うなよ。僕らは一応、王国と教団の象徴だ。こうして威光を高める機会も必要なのさ」

宣教師「そういうものなのでしょうか…」ウーン

町民's「バンザーイ!!!国王陛下バンザーイ!!!」
31: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:22:37 ID:W5Vcpfi1ZU
―――王宮―――

ヒメ「……」スタスタ

政務官「一同、出迎えよ!陛下の帰還である!!」

高官's&衛兵's「ハハーッ!!!」ザザッ

団長「」ザザッ

ネバル「お帰りなさいです!陛下ー!」フリフリ

ゴチンッ!

ネバル「」プシュー

政務官「なにを呑気に手を振っているんだ?皆に習って控えろ!」ピキッピキッ

ネバル「うぅ…お出迎えするって言うですもん」ヨロッ

ヒメ「ははは!相変わらずだな、おまえは?」クスクス

ネバル「へ、陛下!陛下もお変わりなくです!」パァァ

ヒメ「そうか?かなり泥臭くなったけどな?」クンクン

ネバル「オイラも畑耕してた頃はまいんち泥んこでしただよ!」

ヒメ「畑仕事と一緒にするなよ…。苦労して戦ってきたんだから」ヒクヒク

ネバル「なにを言うですか!畑仕事も立派な戦いです!年中せっせと手入れするのも大変な苦労ですだよ!?」

ヒメ「わ、分かった、分かった。悪かったよ」アセアセ

ネバル「分かればいいです!えへん!」ドヤッ

ゴチンッ!

ネバル「」プシュー

政務官「分かっていないのは貴様だ!控えろと言っているだろ!?」ギロッ

ネバル「はひぃ〜……パワハラですぅ…」シクシク
32: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:26:36 ID:eI.uCZwLb.
政務官「まずはご無事で何よりに御座います…。役人一同、この日を待ちわびておりました」ペコッ

ヒメ「おまえが手を回していてくれたおかげだよ。援軍が到着していなければ今頃は西国の土に埋まっていたかもな」クスッ

政務官「当然の配慮です」

ヒメ「助かった。礼を言うぞ」

政務官「もったいなきお言葉…」

ヒメ「ハリアンス家からは何か求められたのか?」

政務官「要求はございませんが、こちらから勲章を授与し、関係の改善を図ろうと考えております」

ヒメ「そうか。じゃあ感謝状をしたためておこう。文はおまえに任せる」

政務官「承知しました」

ヒメ「見事な手際だった。おまえを推挙した僕の判断は間違ってなかったようだな」クスッ

政務官「……」ワナワナ

ヒメ「政務官…?」

政務官「よくぞ…ご無事で戻られました」グッ

ヒメ「な、なんだ?わざわざ改まって…?」

政務官「私は信じておりました…。家臣として心より賛美を述べさせていただきます」ペコッ

ヒメ「…あぁ、ありがとう」ニコッ

政務官「し、失礼…!」プイッ

ネバル「あー!リルラ様、ひょっとして泣いてるですかー!?」

団長「ほほう?鬼の目にも…というやつか」ニヤッ

政務官「や、やかましい!泣いてなどいない!」ガァーッ

ヒメ「はは…まったく帰って早々、騒がしいな」ニコニコ
33: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:28:11 ID:eI.uCZwLb.
ヒメ「皆、僕が不在にしている間、きっちり役目を果たしてくれたみたいだな。本当にご苦労だった」

ハハーッ!!!

ヒメ「早速だが報告を聞かせてくれ。何か変わりはあったか?」

シーン

ヒメ「? どうした?」キョトン

政務官「…今日のところはひとまずお休みなされてはいかがでしょうか。長期に渡る戦を終えられ、疲れが残っておられるかと」

ヒメ「…何があったんだ」ジロッ

政務官「……」

ヒメ「答えろ。命令だ」

政務官「…北の国より書状が届いております」

ヒメ「内容は?」

政務官「三国連合の解散及び平和協定を破棄した国々に対する賠償要求に御座います」

ヒメ「対応は済ませてあるのか?」

政務官「いえ…見合わせております」

ヒメ「連盟国はどう対処したんだ?」

政務官「南の国は下ったとの報せが…」

ヒメ「…東の国は?」

政務官「……」

ヒメ「はっきりしろ。東の国はどうしたんだ」

政務官「軍備を…整えておられます」

ヒメ「!?」

団長「た、戦うと言うのか!?」

政務官「そう知らされている…」

ヒメ「ミリア王妃がそんな決断を…?なぜだ…?」

政務官「ホビット族への領地壌土。この約束を果たす為であるとか」

ヒメ「……!」
34: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:31:18 ID:eI.uCZwLb.
団長「か、勝ち目はあるのか!東の国にはもはや戦い抜く力など残っておらんだろう!?」

政務官「…おそらくはホビット族が要となるだろうな」

団長「無理だ!たしかに彼らとは一時共闘し、城塞防衛戦を乗り切ったが…とても正面から軍を崩せるとは思えん!」

政務官「同感だ。だが私はあちらに関与出来る立場にない」

団長「な、なにを考えておるんだ…!自ら滅びようとしているのか…!?」

ネバル「あ、あの!」

政務官「なんだ?」

ネバル「た、助けない…ですか?」

団長「むぅ…」

政務官「……」

ネバル「み、ミリア様はブルードル陛下や宰相様を失って自棄になってるです!きっとそうです!王国が助けないと!」

政務官「…それは出来ない」

ネバル「ど、どうしてです!?」

政務官「我々が同盟間を無闇にこじらせ、禁を犯したのは事実。北の国の主張はもっともだ」

団長「うむ…」

ネバル「そ、そんな!」
35: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:34:28 ID:eI.uCZwLb.
ネバル「助け合わないですか!?一緒に戦ったですよ!?」

政務官「…無論そうしたい。だが我々が戦犯であるのは明白だ」

団長「動き出しておるのは一国ではあるまい?」

政務官「察していたか…。そうだ。北の国の他に二つの国がこの件に乗り出している」

ネバル「む、向こうも三国連合をしたってことですだか…!?」

政務官「…正当だ。それだけに強引が目立つがな」

ネバル「そんなの…ズルいです!自分たちばっかりいい思いしようとして…何が正当ですか!?」

団長「平和を誓い、共に手を取り合った。かつての同盟が二つに割れた、か」

政務官「こうなる事は見越していた」

ネバル「どういうことです!?分かってたなら対策もあるですよね!?」

政務官「……」

ネバル「リルラ様!ねぇ!どうなんですだか!?」

政務官「東国、南国、それぞれの代表を失い、示し合わせていた流れが反故になる誤算があった」

ネバル「……!」

政務官「しかしまだ望みはあったのだ…。フィクサーの反逆さえなければな」

ネバル「!!!」ハッ
36: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:35:53 ID:eI.uCZwLb.
ネバル「王国が…悪いですか?自分たちが…台無しにしてしまったですか?」ブルッ

政務官「…軍が機能していれば交渉の時間も大いに稼げた。東、南、両国の負担も減らしてやれただろう」

団長「国賊の名を着た王国軍に民も我々も信を置けん。一度解体し、再構築せねばならん」

ネバル「でも…でも!そんなことしてたら!」

政務官「…東の国は滅びるだろうな」

ネバル「なら…やっぱり…!」

団長「うぅむ……」

政務官「我々にも余裕はない。北の国と交渉し、同盟国との友好を再度取り成さねばならない」

団長「自国の安寧を維持し、移住を強いた民の土地を復興させてやるのも重要だ」

ネバル「見捨てるですか…?」

政務官「…冷静になり、改めて協議する必要があると文を寄越した。返事は来ていないが」

ネバル「ミリア様……死ぬ気でいるですね。お優しい方だから…オイラ達を気遣って関わらせないようにしてるです」

団長「ずいぶん思い入れがあるようだな」

ネバル「当たり前です…!オイラは陛下と二回、東の国に行ったです!ブルードル陛下ともミリア王妃とも…お酒を飲んで楽しく話したです!」ウルッ

団長「それは…残念だったな」

ネバル「残念だったな…!?残念で済ましていいですか!?これじゃ王国も北の国と変わらないですよ!?」

団長「…すまん」

ネバル「なんだったですか…。今まで……なんで戦ってきたですか」

ヒメ「……」
37: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:39:40 ID:eI.uCZwLb.
ネバル「陛下は…なんで何も言わないですか?」ジッ

ヒメ「……」

ネバル「陛下も見捨てるですか?ブルードル陛下をあんなに慕っていたですよね!?」

政務官「…私情を口にするな。全ては王国の為だ」

ネバル「自分たちだけですか!?東の国もおんなじように人が暮らしてるですよ!?」

政務官「黙れ!!」

ネバル「」ビクッ

政務官「たかだか2、3年程度の経験で偉そうに語るな!どうにもならない事をごちゃごちゃと喋ってる暇があれば次を見据えて思考しろ!!」

ネバル「なっ…」

政務官「我々は王国の役人だ!王国の為に仕え、王国に住まう民を生かすのが我々の使命だ!!」

ネバル「う…っ……」

政務官「貴様のごとき素人に毛が生えたような木っ端役人が出る幕などない!」

ネバル「っ〜〜!!」キッ

政務官「なんだ、その目はぁ!?」

ネバル「……!!」ギュウウ
38: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:41:23 ID:eI.uCZwLb.
ネバル「そ、その言いぐさはあんまりです!!」

政務官「……」

ネバル「オイラだって…一生懸命やってるです!王国の為に考えてるです!!」

政務官「ならば分を弁えろ!貴様が本来当たるべき管轄は民間への支援だ!国外情勢への意見など差し出がましいものと知れ!!」

ネバル「管轄はそれぞれでも意見はしていい筈です!口出ししちゃいけないなんて誰が決めたです!?」

政務官「ほう!では意見とやらを聞かせてもらおう!東の国と自国の安全を同時に保証する手立てがどこにある!?」

ネバル「そ、それは…全員で話し合って……」

政務官「話し合う余地などない!そんな方法はどこにもないのだからな!」

ネバル「だ、だけど…」

政務官「だけどではない!何も考えられない無能が口答えをするな!!」

ネバル「む、のう…」ガーン

ヒメ「やめろ!!」

政務官&ネバル「……!?」

ヒメ「二人ともそこまでにしておけ」

政務官「はっ…」

ネバル「……」シュン

ヒメ「…後日、改めて話し合おう。僕も少し休むことにする」

政務官「かしこまりました」

ヒメ「出迎えご苦労だった。皆は引き続き、公務に戻ってくれ」

ハハーッ!!!
39: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:47:52 ID:eI.uCZwLb.
―――王宮(客室)―――

カロル「わー!」キラキラ

宣教師「これはまた…広い部屋に通されましたね」マジマジ

ラム「全体的にきらびやかだなぁ…。客室でこれならヒメはもっとすごい部屋に住んでるんじゃ…」

宣教師「い、いやぁ…彼の部屋はもう少し落ち着いていましたよ?」

カロル「あはは!すっごーい!!」ピョンッ ポフッ

ラム「あんなにはしゃいじゃって?よっぽど嬉しいのかな?」

宣教師「彼曰く"初めてのお泊まり"なので胸が昂っているのでしょう」

ラム「民家ならまだしも…お城だからね、ここ」

宣教師「それでも彼にとっては"友達の家"なのですよ」クスッ

ラム「…カロルくんらしいや」クスッ

カロル「ねぇ!見てみて!このベッド!とってもおっきいよ!」ポフン

ラム「うん。5人くらいで寝ても軋まなそう」

カロル「今日は三人で一緒に寝ようよ!いいでしょ?」キラキラ

ラム「だってさ?」

宣教師「もちろん構いませんよ」ニコッ

カロル「やったー!」
40: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:50:41 ID:W5Vcpfi1ZU
ラム「うわー…横になってみるとますます広いね」フカフカ

宣教師「えぇ、それにとても柔らかで心地いいです…。これが最高級のぬくもりなのでしょうか…」ホワーン

カロル「ラムくん。もっとこっちにおいでよ!」モゾモゾ

ラム「へ?なんでさ?こんなに広いんだし空けた方がいいんじゃない?」

カロル「ぎゅっ!」ダキッ

ラム「わっ!な、なに!?」ビクッ

宣教師「ふふ、仲良しですね?」

カロル「えへへ!旅してた時もね、こうやってお母さまとマルクと三人で添い寝してたの!ちっちゃいベッドだったけど暖かかったよ!」

ラム「べ、別にくっつかなくてもいいと思うんだけど…せっかく大きいベッドで寝てるんだし」ヒクヒク

宣教師「ふむふむ、なるほど、身を寄せ合って暖め合うのですね。
しかし一つのベッドで事足りるとは…体の小さいホビットならではの術という訳ですか」

ラム「どこに感心してるのさ…。あと小さいのはコンプレックスだから、あんまり分析しないでよ…」

宣教師「小さくていいじゃないですか。二人とも可愛らしいですよ?」

ラム「全然嬉しくない…。むしろけなされた気分だよ」ムスッ

カロル「ぼ、ボクだって、いつかおっきくなるよ!夜更かししないもの!」アセアセ

宣教師「どうでしょうねー…。身長なんて意外と望んだようにはならないものですよ?」

ラム「そ、そんな言い方ないじゃん!たしかにもう10才を過ぎたから伸びないけどさ…!」イジイジ

カロル「うぅ…ずっとこのまんまだったら、みんなに笑われちゃう」グスンッ

宣教師「可愛いげがあっていいですよ。私なんて気付けば、こんな大女になってましたし…」ズーン

ラム「……ま、まぁそういう種族だからね。しょうがないよ」

宣教師「人であって巨人ではないのですが…」

カロル「うらやましいなー。ボクも宣教師さまみたいにおっきくてカッコいい人になりたい」

宣教師「私はキミたちが羨ましいですよ。はぁ…」

カロル「? どうしてため息つくの?」

ラム「女の人にもコンプレックスはあるんだよ…。そっとしてあげよ」

カロル「う、うん…?」オロオロ
41: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:53:42 ID:eI.uCZwLb.
カロル「うぅん…むにゃむにゃ」ギュー

ラム「(すっごいしがみついてくる…。でも振りほどいたら可哀想だし…)」

宣教師「ぐっすり眠ってますね?」ニコニコ

ラム「僕は寝れないけどね…」

宣教師「安心しているんですよ。私やキミがそばにいて」

ラム「……」

宣教師「今回の件に関わらず…私たちは元々、繋がる筈のなかった者同士ですからね」

ラム「こうやって同じ布団にくるまるなんて考えられなかったよね」

宣教師「…これが彼の望む世界なのかもしれませんよ」

ラム「……?」

宣教師「分け隔てなく穏やかな一時…。この部屋には今、確かな平穏があります」ニコニコ

ラム「…朝になるまでの短い時間だけどね」チラッ

カロル「んんぅ……えへへ、ふやぁ」スヤスヤ

宣教師「ふふ…安らぎに満ちた寝顔ですね」クスッ

ラム「どんな夢見てるんだろ?」

宣教師「良い夢に違いありませんよ。こんなにあどけない笑顔なんですもの」

ラム「…僕も寝よっかな」

宣教師「それがいいでしょう。もう小窓から星空が見えています」

ラム「……おやすみ」フカッ

宣教師「はい、おやすみなさい」ニコッ

ラム「」スゥゥ

宣教師「良い夢を…」ポンポン
42: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 20:58:25 ID:iNoKbPh17s
―――王国(北の領土・最果ての町)―――

ゴォォオオオ……

北の民1「ヒークシュン!」

北の民2「さむっ…寒くね!?」

北の民3「さみぃなぁ〜。身も心もひもじぃぜ〜」

北の民2「モクある!?モク!!」

北の民3「ねぇよ〜。薄っぺらいあばら家にゃガバガバのクセェ壁しか〜」

北の民2「ぶるるるる!てかさむっ!寒くね!?」

北の民3「さみぃなぁ〜。なんでこんなに寒いんだろうな〜。王様はなぁにやってんだか〜」

北の民1「ふへっ!あひひ!ヒークシュン!」

北の民3「風邪か〜?死ぬ前に寝とけよ〜?」

ガラッ

ビュウウウウウ!!

北の民1「ヒィィ!!」ガチガチ

北の民2「さむっ!!寒いって絶対!?」ガタガタ

北の民3「お、お、おぉう!やめろよ〜閉めてくれよぉ〜」ブルブル

売人「くちゃっくちゃっ」

北の民1「な、なんだと思や……プチョリスフの旦那か」

売人(プチョリスフ)「ぺっ」
43: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 20:59:53 ID:iNoKbPh17s
北の民1「今日は勘弁してくれやせんかねぇ。ちょいと手持ちが…」

プチョリスフ「あ?吸わねーの?」

北の民1「吸いてーんですけど金が…」

北の民2「さむっ!寒くね!?なぁ寒くね!?」

北の民3「しっ!静かにしろ〜!旦那の前だぜ〜!」

プチョリスフ「チンケなツラァ並べやがって……」

北の民1「え、えへ!どうもチンケなツラでごぜぇやす」ヘラヘラ

プチョリスフ「ムカムカしてきやがるなぁ…」

北の民1「ふ、ふひ」ヘコヘコ

プチョリスフ「金に困ってんならよ。ちょいと付き合えよ」

北の民1「」ビクッ

プチョリスフ「まぁそう怖がるなって…むしり取ろうってんじゃねーんだ」ニヤニヤ

北の民1「!!!」ヒシッ

北の民2「」ガタガタ

北の民3「」ブルブル

プチョリスフ「ここはさみぃな。あったけぇとこに行くぞ」
44: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:00:55 ID:iNoKbPh17s
部下1「」シュボッ

プチョリスフ「ふー」スパスパ

部下2「…いいんですか?こんなことしちまって?」

プチョリスフ「しょうがねぇだろ。ここじゃもう商売にならねぇ」

部下1「うざってぇ…。それもこれも」

部下2「せっかくバックヤードに開拓した市場をクソガキ(※国王)に潰されちまったからなぁ」

部下1「こんな雪とささくれしかねぇ北の領土の最果てまで逃げたってのに……」

部下2「王都最大の歓楽街を仕切る筈だった俺達が…今じゃ場末のケチな粉売りだ。みっともねぇったらありゃしねぇ」

プチョリスフ「つまんねー話はよせよ。モクがシケらぁな」スパスパ

部下1「にしたって…こりゃまずいんじゃ?」

プチョリスフ「いいんだよ。貿易だ、貿易」

部下1「先方はなんつってんすか?」

プチョリスフ「うちに仕入れを取り付けた。なんつってもでけぇ取引だ。くれぐれも慎重にだとよ」

部下2「そんな計画をあんな奴らに任せて大丈夫ですか?くたびれた廃人ばっかですぜ?」

プチョリスフ「だからいいんだろうが?扱いに困らねぇ」

部下1「しっかし問題は量っすよねぇ。こんなとこじゃ…」

プチョリスフ「同業にも情報を売り回せ。こぎつけりゃいいんだ。どいつも今の王政に縛られてがんじがらめ。喜んで飛び勇むさ」

部下2「おぉそれはいい!別口で儲けが出るな!」

部下1「でもよぉ…あてにしていいのか?」

プチョリスフ「…金で買ったネタだ。払った分はしっかり稼がねぇとよ」スパスパ
45: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:03:01 ID:lvGUj2/ilc
―――王都(王宮)―――

宣教師「帰れない…?」

ヒメ「あぁ、しばらくは城に留まってもらう」

宣教師「…しばらくとはいつまでですか?」

ヒメ「僕がいいと言うまでだ」

宣教師「せめて理由を聞かせてください。そうでなければ説明のしようがありません」

ヒメ「説明する必要はない。おまえには教団の活動に専念してもらうからな」

宣教師「!? 二人だけで、ここに残すのですか!」

ヒメ「いや、一人だ。ラムは帰らせる」

宣教師「カロルくんはどうするんです!?」

ヒメ「どうもしない。いてもらうだけだ」

宣教師「だからそれはどうしてです!?」

ヒメ「声を荒げるな。決まったことだ」

宣教師「き、決まったこと…?」
46: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:03:22 ID:lvGUj2/ilc
宣教師「まさかキミが…彼から自由を奪うような真似をするなんて」

ヒメ「……」

宣教師「理由があってのことだとは分かります…。ですが私達にすら隠すとは思いませんでした」

ヒメ「別に隠してなんかない」

宣教師「……」

ヒメ「以上だ。下がれ」

宣教師「また…そうやって一人で抱えようとするんですね」

ヒメ「は?」

宣教師「そんなに私達は頼りないですか?お荷物なんですか?」

ヒメ「なにも言ってないだろ」

宣教師「教えてください。私達にできる事があるならなんでもします!」

ヒメ「そうか。気持ちだけで十分だ」

宣教師「…キミを疑いたくないんです」

ヒメ「……」

宣教師「お願いします!」ペコリ

ヒメ「はぁ…あのな。僕たちには守秘義務があるんだよ。なんとなく分かるだろ」

宣教師「それほどに大きな事態が予想されているのですか?」

ヒメ「だから探るなって…」

宣教師「私にだけ教えてください!誰にも言いませんから!ね!?」ガシッ

ヒメ「…あぁもう!しょうがないヤツだな!」ワシワシ

宣教師「……!」パァァ
47: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:04:36 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「本当になにも隠してないんだよ。どうなるか分からないから念のためだ!」

宣教師「???」

ヒメ「…これから先、国内が大きく乱れると予想される」

宣教師「……!」

ヒメ「その時、僕の選択が間違っていたか正しかったかが問われるだろう」

宣教師「何が…起きるというのですか?」

ヒメ「ぼんやりとしか浮かばないけど…今までにない何かだ。時代が変化する背景には必ず大きな影響が及ぼされる」

宣教師「なぜキミに分かるんですか…?そのような…体験した事もないのに」

ヒメ「…今、言えるのはそれだけだ」

宣教師「っ…分かりました。カロルくんにも、よく言っておきます」

ヒメ「あぁ、頼む」

宣教師「…でもこれだけは言わせてください」

ヒメ「なんだ?」

宣教師「カロルくんが変えた世界をキミが守ろうとしている…でも」

ヒメ「……」

宣教師「その為に自分が犠牲になろうとするなら私達は全力で止めます。たとえ何があろうとも…絶対に」

ヒメ「心配するな。そんな気はさらさらないさ」

宣教師「…分かりました。失礼します」スタスタ

ヒメ「……」
48: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:07:14 ID:lvGUj2/ilc
〜〜〜回想(ヒメ)〜〜〜

―――地下牢獄―――

カツンカツン カツンカツン

ヒメ「照らせ」

団長「はっ!」バッ

アントリア「うっ!うぅ……」ヨロッ

ヒメ「ふん…見ない間にずいぶん老けたな」

アントリア「ゆる…してくれ…もう……ゆるしてくれ」ワナワナ

ヒメ「…クサいんだよ。そんな芝居で僕が同情するとでも思ってるのか?」

アントリア「……」ピタッ

ヒメ「人を騙して生き抜いた末路がコレか。こうはなりたくないもんだな」

アントリア「ふっ…ずいぶん顔つきが変わったな」

ヒメ「?」

アントリア「よほど辛かったのだろうね。以前より厳しさが際立っている」

団長「…貴様が余計な真似をしてくれたせいだろうがぁ!?」カッ

アントリア「僕が?ハハ、違うだろう?なるべくしてなったのだよ。物事とは運命の兼ね合いだ」

団長「なにぃ!?貴様が大臣や政務官を操り、西の国を動かしたのが全ての発端であろうが!?」

アントリア「ほう?では僕以外にいなかったのか?この戦争に加担した人物は?」

団長「ぬ!?」

アントリア「一人の力で起こせるものなどタカが知れている。君たちもまた…加担した一人に含まれるのではないだろうか?」

団長「ぐ、ぬぅ!屁理屈ばかりこねおってぇ…!!」ワナワナ

アントリア「ここへ来たということは…目標を果たしたのかな?」

ヒメ「…そうだ。約束通り真実を話してもらうぞ」

アントリア「真実…?」

ヒメ「今さらとぼけるな。おまえの知る全てを打ち明けろ」

アントリア「クックッ…失われた歴史か」ニヤッ
49: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:08:13 ID:lvGUj2/ilc
アントリア「話すのは構わないが知ったからと言って、なんになると?」ニヤニヤ

団長「えぇい!忌々しい!減らず口を叩いとらんで陛下の問いに答えぬか!?」

アントリア「おやおや…むごいものだよ。人というのは…これだから恐ろしい」

団長「……?」

アントリア「ルフィアス殿。君も昔は僕に敬意を表していた筈だ。それが今となれば侮蔑の念しか抱かない」

団長「自業自得であろうが!己のした事も忘れたか?」

アントリア「ふむ、そうだろう、そうだろう。僕は罪深い。だから君は僕を憎むのだろうね」

団長「なにが言いたい…?」

アントリア「人は罪を憎み、赦す事を良しとしない。善悪など誰が決めていいものでもないのに…」

団長「回りくどいわ!はっきり答えろ!!」

アントリア「ふむ…要するに歴史とはその繰り返しさ」

団長「!?」

アントリア「罪が生まれ、裁かれる。罰は憎しみとなり、新たな罪を犯す。罪は裁かれ、また新たな罰という名の枷を背負う」

ヒメ「……」

アントリア「枷を外す為に…また新たな固定概念が生まれる。善悪は入れ替わり、立ち代わり、ただ繰り返す」

ヒメ「…終わらない争いは何を引き金に始まったんだ?」

アントリア「今の君たちと同じさ。いつの間にか、そうなっていた」

ヒメ「……!」

団長「むぅ…!」
50: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:09:05 ID:iNoKbPh17s
アントリア「たとえば政治も戦争も定石はあるが必勝の策はない。全ては結果の後付けでしかないのだよ」

アントリア「それと同様に…時代も未来の後付けでしかない。勝手な憶測で過去を語ろうと真実など見えはしないのだ」

アントリア「アピシナの争い、終わらない争い、西国との争い、どれも予兆などあったかい?」

アントリア「あれだけの大惨事になると誰が予想していた?」

ヒメ「……」

アントリア「アピシナは大陸に混沌をもたらそうと大樹を育てたのか?」

アントリア「かつての国々は最初から争うつもりで政を進めていたのか?」

アントリア「君はこうなると分かっていて癒しの力を持つホビットと友人でいようとしたのか?」

ヒメ「……!」

アントリア「違うだろう?皆、想像もしていなかったんだ。争わなければならないのは分かっていても…その結末までは見えていないんだ?」

ヒメ「(癪だけど…まさにその通りだ!)」ギリッ

アントリア「僕がいようといなかろうと起こっていたのさ。違う誰かが引き金となってね」

ヒメ「…どうやったら、その連鎖を断ち切れる?」

団長「へ、陛下!?」
51: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:10:27 ID:iNoKbPh17s
団長「このような男に教えを乞うなど…なりませぬ!また謀略の餌食となりますぞ!」

ヒメ「だが…こいつは知っている。一時代の始まりも終わりも」

団長「し、しかし!」

ヒメ「知恵が必要なんだ!歴史を失った王国には…最も大事な知恵が書かれていない!」

団長「む、うぅ…」

ヒメ「僕だって、こんな奴に頼りたくない!父上を斬ったこいつを…今すぐにでも殺してやりたい!」ググッ

団長「ヒメ様…」

ヒメ「だけどそれじゃダメなんだ!罪人だから…仇だから…そんな理由にこだわってたら何も生まれないんだよ!」

ヒメ「たった一つの国が世界に平和をもたらそうとするなら悪の言葉も吸収しなければならないんだ!」

ヒメ「悪を知らずに善を知ることは出来ない!ファルージャのように…理屈や倫理を台無しにする悪もいる!!」

ヒメ「きれいごとじゃ政は成り立たない!一人も悲鳴をあげずに笑ったまま過ごせる未来なんて作れっこないんだよ!」

団長「……」オロオロ

アントリア「クックッ!」ニヤニヤ
52: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:17:26 ID:iNoKbPh17s
ヒメ「なぁ…団長。おかしいか?僕はおかしいのか!?」

団長「い、いえ、滅相も」アセアセ

ヒメ「あぁそうか!僕はおかしくなりそうだよ!いいや、とっくにおかしくなってる!!」

団長「はっ…!?」

ヒメ「国を根本から作り直して!人類史から見ても大きな節目となるだろう決戦を終えて!それでもまだ時代は一歩も先に進んでないんだぞ!?」

団長「……!?」

ヒメ「…人を斬った!ためらいもなく!人の為に!人を斬った!」

ヒメ「平和な国を作ろうとしてやってきた事は殺戮だ!僕はただがむしゃらに剣を振るった!ただの愚か者だ!」

団長「ど、どうされたのですか!落ち着きなされ!」アセアセ

ヒメ「それもこれも運命で…時代の流れでしかなかったのなら…僕は何を守ろうとしているんだ?」ブルッ

団長「平和な世界を実現なされようとしておられるのではないですか!」

ヒメ「平和だったじゃないか!それまでは!?」

団長「」ビクッ

ヒメ「平和だった…そうだろ?差別があったって…ホビットを苦しめていたって…平和だったんだ。父上だって、そう言ってた!」

団長「…初心をお忘れか。犠牲の上に成り立つ平和など偽りだとおっしゃられたではございませぬか?」

ヒメ「今だって犠牲を強いてるじゃないか…。何人死んだ?僕のした事で……何十万の人々を殺した?」ガクガク

団長「それは…仕方なく」

ヒメ「仕方なく…?じゃあホビットを差別するのも仕方なくでいいんだよな?」ヘラッ

団長「なっ…!じ、自分が何を言ってるかお分かりか!?」

ヒメ「だって…だってそうだろ?ホビットを差別しておけば、こんな事にはならなかった…」

団長「…親友である小童にも今の言葉を伝えられるのですか?」

ヒメ「う……う、あう…あうぅ……」ガチガチ

団長「やはりやめておきましょう。今はまだ疲れが残っておられる。ゆるりと休まれよ」
53: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:20:02 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「そうだ…」ボソッ

団長「……?」

ヒメ「あいつじゃなければ…あいつ以外のホビットなら」

団長「っ……陛下!」イラッ

ヒメ「名案だろ!あいつだけは僕のそばに置いて、他のホビットに我慢してもらうんだ!」ヘラヘラ

団長「馬鹿げた事をおっしゃるな!」

ヒメ「なんだよ!そうすれば平和だろ!東の国も救われるだろ!誰も死ななくていいんだろ!?」

団長「くっ…ご無礼仕る!!」ガシッ

ヒメ「うわっ!な、なんだよ!やめろよ!僕に手を出すのか!家臣のくせに!」ジタバタ

団長「いい加減にしろぉ!!!」カッ

ヒメ「っ〜〜〜!!」ビリビリ

団長「それが貴方の決断か!?ご自分の意思を曲げてまで楽に逃げようとするのが貴方の目指す国家か!?」

ヒメ「……」

団長「申し訳ないが…そんな王に仕える気などワシはない!どうぞこの首跳ねてくだされ!?」

ヒメ「…うる、さい」ウルッ

団長「!?」

ヒメ「うるさい!うるさい…うるさい、ばかぁ」ポロポロ

団長「な、な、なんと…!?」ガクゼン

ヒメ「ひっ!ひっく……ふ、えぇん……」ポロポロ

団長「(泣いておられる…。幼い頃から気丈な…涙など見せた事もなかったヒメ様が……平凡な子供のように泣きじゃくっておられる!?)」ワナワナ
54: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:20:45 ID:iNoKbPh17s
『…呑まれないといいですけどね』

団長「(そうか…。そうだったのだな)」

ヒメ「どうすればいいんだよぉ…。僕だって、がんばってるのに…じゃあ、おまえがやれよぉ…」ポロポロ

団長「ヒメ様…」ヒシッ

ヒメ「ひぃ…!」ゾワッ

団長「申し訳ござらぬ…!いつの間にかワシは…貴方に全てを押し付けていたようだ」ギュッ

ヒメ「離せ!離せよぉ!死刑だぞぉ!」ジタバタ

団長「(耐えられる筈がなかったのだ。ようやく全てを終え、本当の意味で望んだ未来に向かえると思った矢先に…また一からやり直せなど)」

団長「(宣教師の言っておった通りだ。ワシは支えるなどと嘯きながら、その実ヒメ様がまたなんとかしてくださるだろうと緩みきっていた)」

団長「(こんな幼年期を過ぎたばかりの少年に…巨大な負荷を背負わせた。ワシも…皆も)」

団長「(友人とのふれあいさえ我慢し、政に思案を巡らせる。どれだけ寂しかっただろうか)」

団長「(周囲の大人を安心させる為、恐怖を隠して気丈に振る舞い続ける。どれだけ過酷だっただろうか)」

団長「(ひたすらに命を奪い合う日々が…どれだけ苦しかっただろうか)」

団長「(ワシは何も分かっていなかった。正義の旗を乱暴に振り翳し、痛め付けていただけだったのだ)」
55: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:23:28 ID:iNoKbPh17s
アントリア「なにやら揉めているようだが話は終わりかね?」

団長「」ギロッ

アントリア「……」ニヤニヤ

団長「貴様…どこまで狡猾なのだ」ビキィッ

アントリア「なんのことやら…」

団長「これが狙いか…!陛下の…決死の努力を踏みにじり、自信を打ち砕く…!」プルプル

アントリア「ふっ!クックッ!」

団長「貴様という奴は…男の風上にも置けぬ醜悪で陰湿な腐れ外道よぉっ!!」ガァーッ

アントリア「一つ助言をしてあげよう」

団長「助言だと!よくもぬけぬけと!?」

アントリア「繰り返される時代の背景には必ず多大な影響が及ぼされる。
元歴史学者として言えるのは…いかなる偉業の影にもそれに見合うだけの退廃が付きまとうという事だ」

団長「陛下…!」ジッ

ヒメ「ひっ…ぐす!」グシグシ

アントリア「君が本気で一時代を築き上げようと言うのなら…失う物を嘆いてはいけないよ」

団長「……!」

アントリア「何かを失い、何かを産み出す。それが時の流れだ」

アントリア「この程度の試練を越えたくらいでいい気になっていたのなら……」

ヒメ「〜〜〜……」ブルブル

アントリア「まだまだ破滅への道は続くとだけ言っておこうか」

ヒメ「」ゾクッ
56: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:25:43 ID:iNoKbPh17s
アントリア「君は差別という名の鎖を解き、真の平和を目指して歩み始めた」

アントリア「その歩みが絶望の一途であるとも気付かずに」

アントリア「知らないふりをしていればよかった。何も見ていなかったと思い込めばよかった。そうすればホビットが全て受け止めてくれる」

アントリア「実際どうなった?世界は良い方向へ向かったのか?否、更なる深みにはまってしまっている」

アントリア「永く護られた安全神話を崩してしまったのは君自身なのだ」

団長「耳を貸してはなりませぬ!」

ヒメ「……」

アントリア「君の言った通りさ。この世に恒久平和などない。あるのは幸か不幸か…その二つだ」

ヒメ「どうしようもないのか…?僕は…破滅に向かうしかないのか?」ゾワゾワ

団長「断じて!断じて違いまする!!」ジッ

ヒメ「!?」

団長「確かに其奴は我々の知らぬ過去を見てきた生き証人!だが…信用に値せぬ!!」

団長「どれだけ過去を知り尽くそうと未来は誰にも読めませぬ!陛下の成そうとされる未来こそが史上初の恒久平和となられるやもしれん!」

団長「なれば!その道を作るは我々、今を生きる者の使命です!」

団長「貴方の行く道が破滅となるか繁栄となるかは…我々が共に見届けましょうぞ!!」

ヒメ「おまえ…」

団長「…我々をもっと頼ってくだされ。必ずや応えてみせます。この男の言葉などより我々を信じてはいただけませぬか?」

ヒメ「……いいのか。さっき吐いた暴言も…紛れもない本音だぞ」

団長「ワシとて…いや、皆そうです。貴方が変化を受け入れなければ…誰も差別を正義と信じて疑わなかった」
57: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:26:45 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「…本当はカロルが拐われたと知った時に限界を感じたんだ」

団長「……」

ヒメ「それでも宣教師は諦めなかった…。おまえたちが支えると言ってくれた。だから…僕はっ…」ウルッ

団長「」ナデリ

ヒメ「僕は…弱いよ…。ずっと…ずっと……」グスッ

団長「強くなり申した」ギュッ

ヒメ「!」

団長「ローレン陛下や宰相殿も他国の者でありながら貴方に命を預け、力をお貸しくださった。もはや貴方を認めぬ者など一人もおりませぬ」

ヒメ「……」

団長「貴方の下で戦い死んだ息子さえ誇らしく思えるほど…ワシはヒメ様の家臣で良かったと…そう思えるのです」

ヒメ「…離れろ!」ドンッ

団長「は!?」ヨロッ

ヒメ「…分かった。もう十分わかったよ」カァァ

団長「へ、陛下…!」

ヒメ「…戻ろう。これ以上こいつの話を聞いても気が沈むだけだ」

団長「それがよろしいかと…」

アントリア「クックッ…ひどいなぁ。親切心から助言してあげたと言うのに」

団長「ちっ!黙っていろ!」ガンッ

アントリア「…せいぜい探すといい。閃きようもない答えとやらを」ニヤニヤ

団長「ぐっ…!?」
58: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:28:55 ID:iNoKbPh17s
―――王宮(公務室)―――

ヒメ「……」

団長「お気になされるな。奴の言葉など負け惜しみに過ぎませぬ」

ヒメ「いや、あいつの言葉は正しいよ。事実だけを淡々と述べてる」

団長「ま、まさかまだ…!?」

ヒメ「でもあいつは…悪意を持って伝える真実を選んでる。希望を隠して絶望だけに目を向けさせようと…」

団長「…よろしゅうござった。惑わされてはおらぬようですな」

ヒメ「僕に忠誠を誓ったリルラがヤツに洗脳されていたのは不自然だったけど、やっと分かった」

団長「む?」

ヒメ「王国の影に君臨してきたラーダの末裔。そして終戦後の時代を司った黒幕」

ヒメ「ヤツ以上に"王国"を知る者はいない。ヤツの記憶は……それだけ重要な宝だ」

ヒメ「…あいつしか知らないんだ。失敗も成功も…僕たちは何も知らないんだ」

団長「むぅ……」

ヒメ「字の読み書きや数の計算だって…教えられた事だから出来るだろ?」

団長「そ、それは一般教養では…」

ヒメ「ファルージャがそうだった。あの女は一般教養はおろか暦すら知らず年齢すら分からないと言った」

団長「なっ…そんなバカな!」

ヒメ「そんな女だから…何もかも常識はずれだったんだ!だから僕たちは読み損なった!」

団長「(ぬぅ…あの貧民街の様子を察するにあながち嘘とは思えん)」

ヒメ「そういう人間がたくさんいるんだ…。ファルージャのように…自分の価値観の中でしか生きていけない人間が…」
59: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:30:17 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「…僕たちは今、そういう局面にいるんだよ。無知な集団が手探りで道を探して理解しないまま状況だけが進んでる」

ヒメ「それなら憎くても、信用出来なくても、確実に何かを知るヤツを頼りたくなってしまうだろう…?」ブルッ

団長「うぅむ…」

ヒメ「…絶望だ。僕は今、本当の絶望を知った気がするよ」

団長「滅多なことを申されるな…。絶望とは絶たれた望みを指す。我らの望みは絶たれてなどおりません」

ヒメ「…そうだな。じゃあ挫折とでも言えばいいか」

団長「ヒメ様!」カッ

ヒメ「……ごめんな」

団長「」ハッ

ヒメ「ごめん…」シュン

団長「(ワシはまた……)」

団長「(だが…乗り越えていただかねばならん。乗り越えていただかねば……)」

ヒメ「…考えれば考えるほど訳が分からなくなるんだ」

団長「」ピクッ

ヒメ「どこに向かおうとしてるのか…」

団長「…自信をお持ちください。確実に正しい道を歩んでおられます」

ヒメ「正しい、か。僕はもう潔白じゃないのにな」

団長「そのような…」

団長「(…なぜこうも安らぐ間もなく試練が降りかかるのか。陛下には休息が必要だ)」

ヒメ「……」

団長「…今日のところはここまでにしておきましょう。ワシも出来うる限り情報を集めておきますゆえ」

ヒメ「…あぁ、そうだな」
60: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:32:15 ID:iNoKbPh17s
―――国王の間―――

ヒメ「(カロルは…最後まであいつらを救おうとしていた)」

ヒメ「(私欲に溺れ、自分勝手に振る舞い、大勢の命を奪ったファルージャたちを)」

ヒメ「(結局は何一つ改めようとしなかった愚かな連中だ)」

ヒメ「(それでもあいつは救おうとした。なんで…なんでそこまでして…)」

ヒメ「(フィクサーの命も庇った。あいつは敵だと何度も説明したのに…)」

ヒメ「(あんなのは慈悲とも呼べない…甘すぎるだけだ。それなのにどうして…)」

ヒメ「なんで今さら…こんなに深く考えてしまうんだ?壊れそうになってしまう事が…どうしてこんなに心地いい?」ブルブル

ヒメ「(僕は…何がしたいんだ?)」

ヒメ「カロル…カロル……」

ヒメ「こんな罪の意識と向き合いながら…おまえは……それでも救おうとしてきたのか?」

ヒメ「(狂ったように泣き出したおまえの気持ちが…今ようやく分かったよ)」

ヒメ「分かりたく…なかった」ポツリ

ヒメ「っ…くぅ…!」グシッ

ヒメ「ごめんなさい…ごめんなさい」ポロッ

ヒメ「ブルードル陛下…宰相殿…ローレン陛下…父上……」ポロポロ

ヒメ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」ギュウウ

…………………
61: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:32:54 ID:iNoKbPh17s
〜〜〜二日後〜〜〜

―――城門前―――

宣教師「すみません…。キミを一人にしてしまって」シュン

カロル「ううん!気にしないで?宣教師さまには宣教師さまのお仕事があるんだもの!」

宣教師「ほ、本当に一人で大丈夫ですか!?ちゃんと歯磨きしてご飯もしっかり食べて…あ、身清めも忘れてはいけませんよ!?」

カロル「ありがとう!でもボクは大丈夫だよ?宣教師さまもお仕事がんばってね!」ニコッ

宣教師「うぅ…神よ。どうか彼を守ってください!」ギュッ

ラム「大げさだってば。城で過ごせるなんて羨ましい話じゃん」

カロル「…ラムくんも帰るんだよね」

ラム「うん。移民用の馬車で、ついでに送ってってくれるってさ」

カロル「みんなによろしくね…。ボクはまだ帰れないけど…お母さまには心配いらないよって言っておいて?」

ラム「いいよ。伝えとく」

カロル「ありがとう…」ホッ

ラム「本当はもうちょっと残っててもよかったんだけどねー。なかなかあんな豪華な生活する機会なんてないしさ」

カロル「えへへ!今度はみんなでお泊まりできたらいいね?」ニコニコ

ラム「そうだね。ヒメに頼んでみてよ?」クスッ

カロル「うん!」

宣教師「では…行きましょうか」

ラム「じゃ、またね!」

カロル「またね!宣教師さまもラムくんも気をつけて!」フリフリ

宣教師「えぇ!キミもいい子にしているんですよ?」フリフリ

ラム「ちょっとした贅沢だし楽しんでおいでよ!帰ったらルーボイたちにも自慢したらいいよー!」フリフリ

カロル「うん!そうする!」フリフリ

スタスタ スタスタ………

カロル「またねー!」フリフリ
62: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:33:54 ID:lvGUj2/ilc
―――王宮(議場)―――

政務官「周知の通り、北国は豪腕を振るった政略が目立ち、国家としての成り立ちも非常に強固だ」

政務官「その歴史は古く、王国や南国よりも以前から大国の基盤を築いていたとされている」

政務官「世界最古の王族と呼ばれる北国では独自の文化が根付いており、我が国を象徴する教団の信仰も受け入れられていない」

政務官「また西国が帝国主義を掲げていた当時に植民地とされていた北西の小国を援助し、解放に導いた功績が称えられている」

政務官「この小国と通じ合い、現在の平和協定加盟国である二国と、とある利益を共有している」

政務官「その利益というのが油だ。大陸の果てに位置する国々では寒冷に見舞われ、作物の育ちが悪い」

政務官「ゆえに植物性の油や燃料などの消費が激しく生産が困難だそうだ。だからこそ北西の小国から大量の油を輸入している」

政務官「熱帯域にある南国からも輸入していたそうだが一切停止された。これは経済的制裁措置と見られる」

政務官「実は我が国とも馴染み深く、鉄鋼資材の加工技術を交換し合うなど両国間の交流も行われていた」

政務官「先代の頃より私が先頭に立って進めていた計画の一つ、時計塔を目玉とした城下歓楽街建設計画にも北国の高官から意見を頂戴している」

政務官「だが軍事においては西国に次ぐ力の入れようだ。王国から取り入れた加工技術もそこに充てていると聞いている」

高官1「ふむふむ…」カリカリ

高官2「なるほど…」カリカリ

ネバル「(難しすぎて、ぜんぜん話入ってこないです…)」オロオロ

ヒメ「……」

ネバル「(? 珍しく陛下もボーッとしてるですね。疲れてるですだか?)」チラッ
63: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:35:37 ID:lvGUj2/ilc
政務官「さて、ここからが本題だ。まず北国は現在、三国協定を結び直し、東国に要求を迫っている」

政務官「東国はそれに対し、抗戦に臨む姿勢だ。しかし非は東国にあり、味方となる国々は存在しない」

政務官「そこへ我々が介入する訳にはいかない。同じく要求を差し迫られる上では入念に協議し、穏便に済ませられればと考える」

政務官「さしあたって東国、北国に使者を寄越し、南国にも協力を要請する。その任には2名の高官に出向いてもらうが…」

高官1「はっ!」

高官2「お任せください!」

政務官「うむ。万全を期しているようだな」

高官1「政務官より学ばせていただいた交渉技術と人脈を活用させていただきました!」

高官2「必ずや朗報をお持ちします!」

ネバル「(ひえー…西国との一件から皆さん、すごい熱意です。オイラも頑張らなきゃ!)」

政務官「ネバル。お前は何か用意していないのか?」

ネバル「は、はい!えーと…陛下が所有する専属農園のイチゴをブランド化する計画を立ててるです!」ガタッ

政務官「ほう!」

ネバル「今や陛下は国民の人気者です!陛下の名前を使って商売する業種が溢れるぐらいです!」

ネバル「なので陛下の名前に規制を掛けて認可を必要とさせるです!
そして改めて王国認可のブランド品として農園のイチゴを広めるです!」

ネバル「品名はヒメイチゴ!無料配布を取り止め、これを他国にも宣伝するです!」

政務官「ふむ、良い案だ。陛下は許可なされたのですか?」

ヒメ「ん…あぁ、話は通ってる。好きにしろ」

政務官「そうですか。ではその方向で進めておけ。食と娯楽は重要な文化だ。我が国の味覚を広められれば交流も大いに深まるだろう!」

ネバル「はいです!」ピシッ
64: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:36:19 ID:lvGUj2/ilc
政務官「では以上だな…。最後に陛下より…」チラッ

ヒメ「……」ボーッ

政務官「陛下?」

ヒメ「っ…!あぁ、すまない!」ハッ

政務官「議会を閉じる前に総評をお伺いしたく存じますが、いかがなされましたか?」

ヒメ「そ、そうか!うん!問題ない!みんなご苦労だった!」アセアセ

政務官「目の下に深く黒ずみが出来ておりますが…もしやご気分が優れないので?」

ヒメ「い、いや、大丈夫だ…」

政務官「ふむ、それならよいのですが…」

ネバル「(陛下…もしかしたらオイラがこの前、責めるような言い方したから…)」ハラハラ

政務官「ではこれにて議会は閉幕とする。各自、解散せよ!」

バラバラ バラバラ
65: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:37:07 ID:lvGUj2/ilc
ネバル「陛下!すみませんでしたです!」ペコッ

ヒメ「は…?な、なんだよ?」

ネバル「オイラそんなつもりじゃなくて…陛下は悪くないです!だから元気出してくださいです!」アワアワ

ヒメ「……?」

ネバル「と、とにかくですね!オイラも自分で頑張ろうって決めたです!心配しないで任せてくださいです!」

ヒメ「そ、そうか…?」

ゴチンッ!

ネバル「」プシュー

政務官「無駄口を叩いてないで自分の仕事に戻れ」コキッ

ネバル「うぅ…役人がこんなブラック環境だなんて…」シクシク

政務官「ところで陛下…この後、お時間はございますかな?」

ヒメ「構わないが…どうかしたのか?」

政務官「少々お耳に入れておきたい事が」

ヒメ「…分かった」
66: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:38:22 ID:lvGUj2/ilc
―――国王の間―――

政務官「敵対する貴族勢と大后様が通じております」

ヒメ「母上が…?」

政務官「大后様は上流貴族の生まれ、名家の令嬢ゆえ気位の高いお方です。以前より陛下の方針にも反感を示しておられました」

ヒメ「……」

政務官「此度の功績につきましても遺憾とのお言葉を頂戴しました。特に西国から勝ち取った国益はどうなさるおつもりかと」

ヒメ「…向こうは内紛の真っ最中だ。それどころじゃないだろ」

政務官「そのように説明申し上げましたが納得は得られませんでした。陛下は何か聞かされておりませんか?」

ヒメ「母上とは最低限、顔を合わせるだけだ。口出しされても鬱陶しいしな」

政務官「…ですが矛先が我々に向かい、強行策に移ろうとしておいでです。一度、話し合ってみられては?」

ヒメ「そんな暇はない!」

政務官「僭越ながら…この頃はあまり覇気が見られませんな」

ヒメ「なんだと…?」

政務官「ネバルら役人一同は心機一転、新たな努力をしようと試みています。東国の問題改善に取り組み、国内の繁栄にも尽力している」

ヒメ「……」

政務官「…いったい何があったのです?西国との一件に関わっているのでしょうか?」

ヒメ「僕だって、そういう時もある…」

政務官「それでは困るのです。我々もそうですが…何より陛下が先頭に立っていただかねば?」

ヒメ「……」

政務官「とにかく…母君とよく話し合ってください。いらぬ混乱を招く前に」

ヒメ「ちっ…」

政務官「!!!」

ヒメ「分かった!分かったよ!話せばいいんだろ!?」スタスタ

政務官「へ、陛下…?」オロオロ
67: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:39:33 ID:iNoKbPh17s
―――王宮(回廊)―――

ヒメ「……」イライラ

給仕1「あ、陛下!」

ヒメ「ん?」

給仕1「ちょうどよかった!いつもよりいいお砂糖使ったジャムを作ってみたんで良かったら召し上がっていきませんか?」

ヒメ「……」

給仕1「陛下の農園で採れたイチゴをブランドにするそうでネバル様に頼まれたんです!その名もヒメジャム!」

ヒメ「(ヒメイチゴと言い酷いネーミングセンスだな…)」

給仕1「お一ついかがですか?麦パンと合いますよ!」

ヒメ「今はちょっとな…。後で部屋に持ってきてくれ」

給仕1「そう言わず!とびきり美味しいですよ!ね?」チラッ

カロル「うん!」ヒョコッ

ヒメ「!!?」ギョギョッ

給仕1「ほら!救い主様のお墨付きですよ!」

カロル「ヒメくんも食べてごらんよ!とっても甘くておいしいよ!」

ヒメ「お、おまえ…なんで…」ワナワナ

カロル「?」キョトン

給仕1「あー!こんなに口いっぱいジャムつけて!行儀悪いって言われちゃいますよ?」

カロル「あ、ホントだ。つい夢中で食べちゃったから」ベタベタ

ヒメ「……!」プルプル

給仕1「もー拭いて拭いて!」キュッキュッ

カロル「ぅん!わぷっ!」ゴシゴシ

ヒメ「何してるんだよっ!?」カッ

給仕1「」ビクッ

カロル「」ビクッ
68: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:40:41 ID:lvGUj2/ilc
給仕1「あ、あの…陛下?」 オロオロ

カロル「ヒメくん…どうかしたの?」アセアセ

ヒメ「分かってないな…!おまえは…なんにも!」イライラ

給仕1「も、もしかして先に食べちゃったから…?」

カロル「へ?そ、そうだったの?ごめんなさい…!」アセアセ

ヒメ「……!」イライラ

給仕1「も、申し訳ございません!私が悪いんです!陛下にお出しする前に味見を頼んじゃって…」

カロル「ちがうよ!ボクがお城を探検してて!いい匂いがしたから勝手に入っちゃって…!」アセアセ

ヒメ「探検…?ふざけるなよ…!護衛は!?何も言わずに通したのか!?」

カロル「え?ちゃ、ちゃんと言ったよ…?探検したいって…」

ヒメ「ちっ…!」

カロル「ひ、ヒメくん、どうしたの?ホントに大丈夫?」ハラハラ

ヒメ「よくそんな能天気でいられるな!おまえ、本気で自分の立場分かってないのかよ!?」

カロル「ボク…?」

ヒメ「頼むから余計な心配かけないでくれよ!僕の許可なく城内を出歩くな!部屋で大人しくしてろ!」

カロル「……?」オロオロ

ヒメ「分かったな!?」

カロル「は、はい…?」コクッ

ヒメ「まったく…!」スタスタ

カロル「……」ポカーン

給仕1「す、すみません!私のせいで!」アセアセ

カロル「ううん…」
69: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:05 ID:iNoKbPh17s
〜〜〜数日後〜〜〜

―――王都(憲兵団本部)―――

政務官「陛下にいったい何があった?」

団長「……」

政務官「ここ最近、明らかに様子がおかしい。まるで魂が抜けてしまわれたかのようだ」

団長「そうか…」

政務官「何か知らないか?」

団長「…知らんな」

政務官「……」

団長「……」

政務官「話せ。何があった?」

団長「知らんと言っておるだろう」

政務官「マシな嘘をつけ。態度で筒抜けだ」

団長「ふん…」

政務官「あのままでは任せておけない。一刻も早く以前の陛下を取り戻していただかなくては…」

団長「陛下は常に国の行く末を考えておられるよ。考えているからこそ…今の状態になってしまったのだ」

政務官「それはどういう意味だ?」

団長「…頼りすぎたのかもしれん。陛下の心は幼い頃と変わらず孤独なままだった」

政務官「? 貴様も様子がおかしいな…。陛下の変調と関係があるのか?」

団長「疲れておるだけだ…。今回ばかりは…疲れた」

政務官「何を腑抜けた事を…!貴様も陛下もどうなっているんだ!」ギリッ
70: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:54 ID:iNoKbPh17s
政務官「いいか!危機はすぐそこまで差し迫っているんだ!落胆している暇などないぞ!」

団長「…思えば息子に正義とは何かと問われ、ワシは己に恥じぬ行いが正義だと答えた」

政務官「……?」

団長「…陛下もそうだ。己を信じられなくなっている。全ての行いが過ちに繋がっているのではないかと」

政務官「…疑心暗鬼に駈られていると?」

団長「あまり無理をさせないでやってくれ。陛下もああ見えて幼いのだ」

政務官「ふむ、分からんでもないが…そうもいかないだろう。少なくとも今の環境下では」

団長「…複数の役人以上の働きを陛下に課すのは酷だと言っておるのだ」

政務官「甘えた事を抜かすな。役人には役人の働きがあるんだ。陛下にはそれを取り纏める責務がある」

団長「その責務が…陛下を追い詰めているとなぜ分からん?」

政務官「そうされたのは陛下自身だ。我々は陛下の意思に倣い、立場を弁えている」

団長「しかし…いつまでも陛下をあてにする訳にはいかんだろう」

政務官「あてにするだと?誰があてにした?我々はそれぞれ独自に動き、考え、公務に殉じている。貴様の言い分こそ我々をあてにした甘えだ」

団長「……」

政務官「まさか…陛下までもがそのような言い訳を口にしているのではなかろうな?」

団長「勘繰るな。個人的な意思だ…」

政務官「ならばよいが…陛下の心労が深刻なようなら私も考えねばならんぞ」

団長「なにをだ…?」

政務官「王座の守護をだ」

団長「……?」
71: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:44:58 ID:iNoKbPh17s
政務官「陛下には現在、許嫁がおられない。前制度の悪政によるものだが…公務に集中させる意味もあった」

団長「い、許嫁…?」

政務官「もしもこれ以上、支障をきたすようであれば本来の位置に戻っていただき、王の務めを果たしていただく」

団長「陛下に…子を成せと言うのか?」

政務官「そうだ。然るべき相手と然るべき形でな」

団長「き、貴様…何を考えている?陛下に望まぬ婚約をさせようと言うのか?」

政務官「北国には姫君がおられる。長女は既に婚約済みだが…次女はまだ純潔を保っているそうだ」

団長「……!?」

政務官「長女と比べれば位は劣るが…それでも仲を取り成せれば北国との間に親睦が生まれるだろう」

団長「ま、待て!ま、まさか…」

政務官「歳もそう変わらず見目麗しい美少女と評判だ。決して悪い話ではあるまい」

団長「政略結婚ではないか…!陛下が納得する筈が…!」

政務官「これまで口出しせず自由にやらせていたのは、あくまで王としての資質を認めてのこと。だが腑抜けてしまったのなら話は別だ」

団長「っ…腑抜けだと!」

政務官「納得のいかぬ状況でも国の為に身を捧げる。それが政治というものだ。違うか?」

団長「早計だ…!今は大事を成されて間もなく気が落ち着かぬのは当然であろう!」

政務官「それでは示しが付かん。国王の態度一つでそれぞれの士気に関わる」

団長「ぐっ…!」
72: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:50:34 ID:iNoKbPh17s
政務官「それだけではない。もう間もなく国賊フィクサーの処刑執行日が迫っている。
民衆も見守る一大事ゆえ陛下にはなおのこと毅然としていただかねばならない」

団長「…貴様には人の心というものがないのか!これまでの功績を省みるに…陛下は十分役目を果たしている筈だ!」

政務官「…一つ果たせば終わりか?」

団長「な、なにぃ!?」

政務官「一つの役目を達すれば次の役目は放棄してもいいのかと聞いているんだ?」

団長「そ、そうは言わんが…」

政務官「そう言っているんだよ!貴様は!先ほどから!ずっとな!」

団長「うっ…ぐ」タジッ

政務官「多大な功績は認めている。役目の辛さも理解出来る。
だがそれを言い訳にしたところで危機を免れる訳ではない!」

団長「……!?」

政務官「世継ぎの件にしても…2、3年以内には決定しなければならない事だ。
陛下にその気がないと言うのなら強引にでも推し進めるのみ」

団長「な、何をしようと言うのだ…?」

政務官「何をしてでも、だ」

団長「っ……」ゴクリ
73: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:52:07 ID:lvGUj2/ilc
政務官「既に国内でも不穏な噂が出回っている」

団長「噂だと…?」

政務官「戦勝国となった王国に期待を抱き、民も血の気が強まっているらしい。
これまでのように不満を押し留めてもらえるとは限らない」

団長「ば、馬鹿な!内乱が勃発するとでも!?」

政務官「可能性は大いにあるだろう。陛下不在の間、実際に貴族勢が民を煽動しようと企てた」

団長「な、なぜだ!これだけ誠実な執政に務められておるというのに…何が不満だと!?」

政務官「不満など、どこからでも生まれるものだろう。民とは常に、これまで以上の国を欲する生き物なのだ」

団長「な、なんだと…これでは、これでは、いつになれば陛下に安らぎが訪れるのだ!?」

政務官「ふん…子を成し、世継ぎとして相応しい人物に育て、王位を返上すれば隠居も可能ではないか?」

団長「何十年先の話だ!それは!?」

政務官「ならば我々に任せるか?」

団長「で、出来るのか!?」

政務官「陛下の威光が絶対となりつつある現状において役人による国家百年の計を案じられるとすれば…それはもはや陛下が理想とした国家と程遠い物となるだろうがな」

団長「で、ではどうすればいい!何も王を降りさせよと言うのではない!休息を願い出ておるだけだぞ!」

政務官「自由に使える時間は設けてある。そこを有効に使っていただけばいいだろう」

団長「寝る間も惜しんで思案する陛下にそんな時間があると思うか!?」

政務官「皆も同じことだ。ましてや陛下には我々より比較的、多くの時間を取らせてある」

団長「ぬ、ぬ、ぐぅぅ…!!」ワナワナ
74: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:58:12 ID:lvGUj2/ilc
政務官「親心を抱くのは勝手だが…陛下の役目を妨げるのなら今すぐ退け。己の立場を誤解するな」

団長「…あ、甘やかしてやりたくもなるではないか!」

政務官「?」

団長「あのお歳であれだけの偉業を達成された。その達成感を噛み締める時間があってもよいではないか…!」ワナワナ

政務官「時間と人は同様に流れる。起こってしまった上は悲観しても仕方あるまい」

団長「っ…くそっ!」ググッ

政務官「私とて悩ましい。信頼していただけに…あのようなお姿は見たくなかった」

団長「どうしても…陛下を休ませる訳にはいかんのか…!?」

政務官「…陛下を通さねば役人の公務にも差し支える。王の働きはそれだけ重要なのだ」

団長「……!」

政務官「なにも我々が楽をしたいが為に言っているのではない。案ずればこそ…努力を強いているのだ。分かってくれ」

団長「……」

政務官「何より陛下自身が積み上げた努力を無駄にしない為にも、な」

団長「…すまん。ワシが間違っておった」
75: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:01:44 ID:iNoKbPh17s
政務官「気持ちはよく分かる。幼い頃より側に仕えてきた身としては…計り知れぬ想いがあろう」

団長「いや、これはワシの不手際だ。危うく陛下に堕落を覚えさせるところであった…」

政務官「…見守るのも一つの気配りだ。今は忍んで耐えろ」

団長「承知した…」

政務官「…安らぎとは平穏。望む未来は己で勝ち取るより他にないのだ」

政務官「…私は貴様も信頼している。あまり落胆させてくれるな」

団長「……すまんな。ワシに出来る事があればよいのだが」

政務官「では一つ頼んでおこう」

団長「む…なんだ?」

政務官「陛下専属の農園に護衛を配置し、強く警戒を促してくれ」

団長「の、農園に…?なぜだ?」

政務官「陛下が民へ無料配布されていた苺に仕掛けを施そうとする者がいるとも限らん」

団長「そ、そんな真似をして何になると言うのだ?」

政務官「あの苺は陛下と民にとって直接の絆を意味する。
もしも民意を剥ぎ取り、失墜させようと目論む者あれば真っ先に狙われる恐れがあるだろう」

団長「……!?」

政務官「人の心はたやすく、政治とは恐ろしいものだ。
私が陰で陛下をどれだけ支えてきたか少しは理解してもらえたか?」

団長「うむ…。そうだな。ワシは…政治には向かんようだ」ブルッ
76: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:04:58 ID:aJfL34ZFgU
〜〜〜処刑執行日〜〜〜

―――城下町(断頭台)―――

ワイワイガヤガヤ

ガタンガタン ゴゥンゴゥン

政務官「そこでいい。開け」

ギギギ…ギィィィ………

政務官「罪人をこちらへ」

ザッザッザッ

政務官「杭に縛り付けろ」

シュルシュル

フィクサー「」ギッギッ

政務官「ふん…」ジッ

ザワザワ ザワザワ

町民1「と、とうとう処刑されるのか…」ゴクリ

町民2「あいつのせいで俺達はさんざん怯えさせられたんだ。ざまぁみろだぜ!」

町民3「だ、だけど…いざ目の前でとなると、ちょっと…」ビクビク

町民4「国を裏切る奴が悪い!俺の従兄弟だって、あの戦争で死んだんだ!立派に戦ってな!」

町民5「…兵士になった友人がフィクサーに利用されて反逆者にされた。あいつはそんな奴じゃなかったのに!」ギリッ

町民6「よくも息子を不名誉に死なせたな…!地獄に落ちろぉ!!」

町民7「西国人を不必要に虐殺してきたと言うし、やっぱりまともな人間じゃなかったんだろうな」

町民8「ああいう奴は世の為にならないよ。死んでもらった方がいい」

町民9「父親を失って路頭に迷わされた遺族も大勢いるんだ!許せねぇよ!」

町民10「そこをいくと国王は俺達を戦場に行かせないようにこっそり解決してくれてたんだから本当に偉大なお方だよな!あの方を信じていれば間違いないよ!」

町民11「そうさ!あの野蛮な西の帝国軍を返り討ちにしたばかりかホビット族やレジスタンスもやり込めて反乱を食い止めてやったってんだからスゲーや!」
77: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:14:54 ID:aJfL34ZFgU
ブーブー ギャーギャー

政務官「…準備は整いましたな。始めるとしましょうか」

ヒメ「……」

ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ

フィクサー「……」ビシビシッ

ヒメ「…ある、のか」ボソッ

政務官「なにかおっしゃられましたか?」

ヒメ「ここまでする必要があるのか…?」

政務官「ここまで、とは?」

ヒメ「奴は罪人だ…許されてはいけない。でも…」

政務官「……?」

ヒメ「無抵抗の人間に容赦なく罵声と物を投げつけて…女子供も見守る場で…惨殺する必要が…」

政務官「恐れながら…王国軍全体の罪を補うには十分な落とし処かと」

ヒメ「…そうかも、しれないけど」

政務官「奴に関しましては生かしておく理由が見当たりません。むしろ早い内に始末を着け、民を納得させるのが先決」

ヒメ「これが民にとって…いい事なのか?」

政務官「彼らの浴びせる憎悪が目に写りませんか?」

ブーブー ギャーギャー!

政務官「罪と共に焼き払うのです。遺恨も…執着も…火種となって燃え盛りましょう」

ヒメ「……!」

政務官「しかとお見届けくださいませ。陛下にはその義務がございます」

ヒメ「…あぁ、僕が…そうさせたんだもんな」
78: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:16:33 ID:aJfL34ZFgU
政務官「罪人の身体に聖酒を注げ!」

バシャッバシャッ

政務官「……火を放て!」

ボッ

フィクサー「ぅむぅぅ!ムゥグゥゥゥ!!?」ジタバタ

ゴォォオオオオ

フィクサー「ムゥゥウ!!ムォオオオオ!!アァギィィィイイイイ!!!!」メラメラ

ワァーワァー! ヒューヒュー!

ヒメ「(なんて…むごたらしい光景だ)」

ギャアアアアアアアアアアアアア…………

パチパチ パチパチ

ヒメ「(喝采が起こるたび複雑になる…。僕が彼らをこうしてしまったんだ…)」

ヒメ「(僕が……)」プイッ
79: 名無しさん@読者の声:2017/5/13(土) 09:00:17 ID:sH/Q6vdCDA
>>23-28
腹抱えて笑ったw
カロルばっさり振りすぎwルーボイなんか吹っ切れてるしカロル逃げてー!こんな団長いやだwwラキアが熱血になったのは爛れた女性関係をおくる父親を反面教師にしてかと思ってしまったwww 
んでんで、お母様は…うっ……ふぅ。けしからんもっともっとやって下さい!フキフキ

ヒメ、まだ若いのに頭を抱える問題ばかりで心労で倒れないか心配だ…
5スレ目も楽しみにしてます
つC
80: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/14(日) 21:55:00 ID:GOHZ5LrNmo
>>79
勢い任せにあんなの投下するんじゃなかったと激しく後悔していましたが、そう言っていただけて何よりですw
一場面の改変なので読んでない人には不親切ですし状況とかネタ振りが分かりづらいですが、ちょこっとでも過去スレの描写を思い出していただけたら幸いです!

ヒメにはまだまだ苦労してもらう予定です!
まだ終わりが見えませんがお付き合いくださると嬉しいです!
支援ありがとうございました!
81: 名無しさん@読者の声:2017/5/15(月) 16:31:24 ID:N4KlrDl3c2
>>80
楽しく読ませてもらいましたよ!
読んでて思い出したし面白かったですwww

ヒメの苦労はまだまだ続くんですね、ならもっと苦労してもらいましょうw(このSSは愛と成長を描いた物語だと思ってるのでヒメには悩んだり苦労してかっこいい青年へとなってもらいましょー!w)
以前、作者への質問スレだったかな?でだいたい骨組みは出来てる、みたいなことをおっしゃってたのでそれに向かって展開していってください、応援してます!
この物語もキャラたちも作者さんのことも大好きなので、もちろんおわりとかかれるそのときまでついていきます!!
82: お返事遅れてごめんなさい! ◆WEmWDvOgzo:2017/5/17(水) 22:33:00 ID:1dMW/jb7SY
>>81
よかったです!w
番外編じゃないですけど、自分の書いたSSからこういうのを投稿する機会はなかなか無いので反応を貰えて本当に嬉しかったです!
いつも最高のタイミングでヤル気スイッチを押していただけて感謝のしようもありません!
おかげさまで今はとても捗ってます!いつもありがとうございます!

愛と成長…!深いテーマですね!自分に描けるか不安ですが頑張ります!
でもどんどんヒメが主人公街道を突き進むので最近はカロルの動かし方がめっちゃ難しくなっちゃいましたw
ヒメが愛と成長を経ていくたびにカロルの出番が無くなるような…どっちが主人公だか分からなくなりますねw

応援ありがとうございます!
読み手様にも納得いただけるエンドでおわりと書けるよう頑張ります!
83: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:54:34 ID:mpOxahS5ac
〜〜〜夜〜〜〜

―――北の領土(雪原の隠れ里)―――

バッバッ ドサッドサッ

プチョリスフ「よーしよし、こっちだ。ガンガン積み込めー!こぼすなよー!」

部下1「ケェー!すっげぇ!ぶっ飛びそうな匂いがプンプンするぜ!」

部下2「こりゃあ入りきらねぇな。もちっと人手が要るぜ」

プチョリスフ「いいよ。どうせ急ぐもんでもねぇから」

部下1「つかあの話は本当なんすか?」

プチョリスフ「ん?」

部下1「北国と東国が一戦交えるっつーの」

プチョリスフ「わかんねぇ。多分そうなんじゃね?」

部下1「た、多分って…俺ら多分で密輸しようとしてんすか?」

プチョリスフ「情報屋から出回ってるネタじゃ貴族が大量のブツをダシに北国の連中と仲良くしたがってるとよ」

部下1「んなことしてなんになるんだか?偉いさんの考えるこたぁ分かりやせんね」

プチョリスフ「分からなくていいんだよ。俺達が頭使うことじゃねぇし」

部下2「一旦運び出しやしょうや!いっぺんにゃ無理だコレ!」

部下1「運ぶったって関門はどうすんすか?」

プチョリスフ「どうもしねーよ」

部下1「え?」

プチョリスフ「俺達はただ品を運ぶだけ。受け渡しまでは向こうが手配するこった」

部下1「うーん…大丈夫っすかねぇ」

プチョリスフ「んな事よか業者にしっかり口止めしとけよ。一匹間抜けがいたら、せっかくの儲け話がおじゃんだぜ」

部下1「うっす!」
84: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:55:15 ID:gQj8L.R5T.
―――王宮(ダンスホール)―――

シャララララン

ワイワイガヤガヤ

貴族1「良ければ私と踊っていただけませんか?」スッ

令嬢1「まぁ嬉しい?」パシッ

ポロロロロン

ヒューヒュー! ピーピー!

公爵「ご機嫌麗しゅう、大后陛下…今宵もお楽しみいただけておりますかな?」カランッ

大后「こんばんは、ハリアンス公爵。本日も贅沢な夜会ね。心安らぎますわ?」ニコッ

公爵「素晴らしい演奏。美しい舞踊。芸術性溢れる装飾。絵になり肥やしともなる料理の数々。そしてなにより…素敵な貴婦人と堪能する上品な美酒。今夜はわたくし達の為にある」スッ

大后「あら…お上手ですこと?」カンッ

公爵「この一時が永遠となればどれほど報われましょうか」クイッ

大后「同感致しますわ。それこそ本来のあるべき形…」クスッ

公爵「んぅむ。大后陛下。やはり貴女様のお考えはわたくし共に通ずるようだ」

大后「公爵殿こそ、あたくしをよく理解しておいでよ?」クスクス

公爵「…今宵も国王は参られませぬか」

大后「えぇ、とても愉快な会ですのに…相も変わらず筆を取っておられますわ。お父上に似たのかしら」

公爵「まさか。先代はわたくしも知るところですが、ああも諦めの悪い御仁ではなかった」

大后「左様ね。名を上げるのは良い事だけれども…やり方がよろしくないわ?」

公爵「まさしく…」
85: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:55:49 ID:gQj8L.R5T.
大后「王族とは何か…陛下は思い違いをしてらっしゃいますのよ」

公爵「大后陛下の心中を思えばわたくしも胸が痛みます。これではこの先、王国の未来は陰りを深めるばかり…」

大后「どうしたものでしょうねぇ」

公爵「大后陛下から説得なされてはいかがか?」

大后「そうしたいところですが困ったことにあたくしの忠告も聞き入れてはもらえませんの…」

公爵「それは益々、苦労されますな」

大后「王族…それは爵位の最上位であり、貴族の頂点に君臨する者。
所詮、民など貴族によって生かされる奴隷に過ぎませんわ?」

公爵「まことおっしゃる通り…」

大后「それなのに今の体制と言えば貴族を蔑ろにした品のない慈善事業の真似事ばかり。
まるでわたくし達が民の奴隷と成り果ててしまっているような…不愉快極まりない腐敗ぶりですこと?」フンスッ

公爵「然りも然り。この上ない屈辱に御座います…」

大后「されどもわたくしとて母の情がございますわ。願わくは荒事にならぬよう陛下に正しき道を諭して差し上げたいの」

公爵「…お話の途中、失礼致します。あれを」チラッ

執事「はっ…」バサッ

大后「……?」

ジャラララララ

大后「ま、マァァア!!」キラキラ
86: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:56:24 ID:mpOxahS5ac
大后「なんて透明な輝き…!色とりどりの光沢が眩しく瞳を焦がしますわ…!?」キラキラ

公爵「以前に西国より買い付けた宝石類にございます。これはほんの一部でしかありませんが」

大后「……!」チラッチラッ

公爵「…僭越ながら、これらを大后陛下に献上致したく存じます」

大后「あぁらマァ〜!なんてこと!?そんなわたくしにだなんて!気が咎めますわ〜!?」ウヒョー

公爵「どうかお近付きの印に。確かな審美を知る大后陛下にこそ相応しく思います」

大后「え〜そうかしらぁ〜?そこまで仰っていただいたらぁ〜?受け取らないと失礼に当たりますわよねぇ〜?」ニヤァァ

公爵「わたくしにお気遣いなど滅相も…されど大后陛下に身に付けていただければ、それらの宝飾もなおのこと輝きましょう」

大后「そ、そぉう?」フンスッ

公爵「はい。次の夜会が待ち遠しく…美しく着飾った大后様のお姿を一刻も早くお目にかかりたいと」

大后「ま、まぁ〜?そんな大仰にお世辞を並べていただかなくともよろしくてよ!」ニタニタ

公爵「いえいえ、本心から…。先日、贈らせていただいたお召し物に合わせてくだされば、より栄えるというもの」

大后「うっふふ〜!次の夜が楽しみですわねぇ!」ルンルン

公爵「」ニヤリ
87: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:58:15 ID:mpOxahS5ac
〜〜〜朝〜〜〜

―――城下町(バックヤード)―――

ワイワイガヤガヤ

宣教師「ふむふむ、この辺りの治安も安定してきたようですね」スタスタ

司教「はい。ミシング殿が筆頭となって興した慰霊活動や司祭様が積極的に発する融和の声が民衆に響いたのでしょう。喜ばしい限りです」スタスタ

宣教師「教団を任されて数年足らずですが…ようやく進歩を実感できた気がします」クスッ

司教「最近では孤児院への出資者も増加し、里親を願い出る声も多くなっているそうですぞ」

宣教師「それ以上に孤児が増えましたけどね…」

司教「む、うぅん……」オホンッ

宣教師「里親を名乗り出てくださった方々の多くが先日までの争いで実際に家族を失われ、それぞれに思うところがあったのでしょう…」

司教「…手放しに喜んでもいられませんな」

宣教師「良い変化の後には暗い陰が伴うものですよ…。以前の差別にしても、今回の件にしても」

司教「……」

宣教師「ですが変えようとしなければ何も変えられません。
私達はきっと…こうやって少しずつ正しい未来を歩んでいるのだと思います」ニコッ

司教「良きお考えかと」ニコッ

宣教師「それに何より今は民も国も一丸となって、あらゆる活動に前向きな姿勢を見せています」ニコニコ

司教「ほほほ!これからの王国には明るい兆しが見えますな」

宣教師「えぇ、国への信頼によるものでもありますが…何より誠実な王がいてこそ成り立つ期待でしょうね」

司教「ホビットと人間の差別意識を取り払い、真の平和を実現する…決して夢ではないと言えるところまで差し掛かりましたな」

宣教師「夢ではありませんよ。私達はずっとそこに向かって進んできたのですから」
88: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:59:09 ID:gQj8L.R5T.
宣教師「おや…?あれは?」ピタッ

司教「んぅ?」

ゾロゾロ ゾロゾロ

宣教師「掲示板の前に人だかりが出来てますが…どうしたんでしょうか?」

司教「また何か発表が出たのでは?」

裏通りのホビット1「あ、司祭様!司教様!」オロオロ

宣教師「こんにちは。そんなに慌ててどうしたのですか?」

裏通りのホビット1「あそこに書いてある内容って本当なんですか!?」

宣教師「? 何が書いてあるのです?」

裏通りのホビット1「ば、バックヤードを取り潰して貴族専用の高級街にするって!?」

宣教師「はい?」

司教「き、貴族専用…?」

裏通りのホビット1「それにホビットは王都から追い出すとか!教団と国王は不正に繋がってるとか好き放題書かれてますよ!?」

宣教師「……」

司教「し、司祭様!これはどういう…!?」アセアセ

宣教師「行きましょう」スタスタ

司教「は!?い、行くとは…?あっ!お、お待ちくだされ!」アセアセ
89: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:59:49 ID:mpOxahS5ac
ザワザワ ザワザワ

裏通りのホビット2「なんだよ、これ!あんまりじゃないか!」

裏通りのホビット3「僕達の居住区を取り潰すってなに!?」

裏通りのホビット4「どうして急に!?何も悪いことなんかしてないのに!」

裏通りのホビット5「教団と国王が繋がってる…?なんなんだろ?この件と関係あるのかな?」

裏通りのホビット6「とにかくこんなの絶対に反対だ!ただでさえ、こっちに追いやられて窮屈してるのにさ!」

裏通りのホビット7「俺なんて仲間とお金を貯めて、やっとお店を出せたばかりなんだぞ!困るよ!」

裏通りのホビット8「この前の争いにも協力したのに!俺たちだって戦ったんだぞ!」

裏通りのホビット9「そうだよ!しかも司祭様は戦いが終わったら僕達も王国民として認めてもらえるって言ったんだ!嘘だったのか!?」

宣教師「嘘なんかではありませんよ」ザッ

裏通りのホビット's「わぁぁ!?」ビクッ
90: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:02:30 ID:gQj8L.R5T.
裏通りのホビット10「し、司祭様だ!」

裏通りのホビット11「これはなんなんですか!?」

裏通りのホビット12「僕達どうなっちゃうんだよ!?」

司教「お、落ち着きなさい!そんなに詰め寄るんじゃない!」アセアセ

裏通りのホビット13「いいから答えてくださいよ!」

裏通りのホビット14「教団!?王国!?どっちが決めたの!?」

宣教師「ここに書いてある内容は全くのデタラメです!」

裏通りのホビット's「え…?」

宣教師「おそらく誰かの悪戯でしょう。本気にしてはいけません」

裏通りのホビット2「じや、じゃあ居住区がなくなるっていうのは…?」

宣教師「ありえません」キッパリ

裏通りのホビット3「で、でもこれにはそう書いて…」

宣教師「ですからデタラメです。そんな話は聞いていません」

裏通りのホビット4「だ、だけど!」

宣教師「安心してください。もしそれが本当だとしたら私が許しませんから」

裏通りのホビット5「こ、ここには王国と教団が繋がってるって書いてあるぞ!裏でなんか企んでるんじゃ…」

宣教師「いいでしょう。この話が真実かどうか城に赴いて尋ねてみます」

裏通りのホビット's「……」

宣教師「教団と王国の繋がりは決して不正な物などではありません。これまで皆さんには隠し事のない活動を示してきたつもりです」

裏通りのホビット7「司祭様がそこまで言うんなら…」

裏通りのホビット8「うん…。司祭様は信用してる」

宣教師「ありがとうございます」ニコッ

司教「…いったいどうした事でしょうか?」

宣教師「今からそれを確かめに行くんです。付いてきてください!」ダッ

司教「は、走らずとも…!」ダッ
91: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:03:17 ID:gQj8L.R5T.
―――城下町(表通り)―――

宣教師「」タタタッ

司教「い、急ぎすぎっ…です。も、もう少し…ペースを……」フラフラ

宣教師「急ぐべき事態です!皆さんの信用に関わるのですから!」タタタッ

司教「ひぃ!ひぃ…!し、司祭様…戦に出られてから、体力が尋常ではない…!」ゼェゼェ

ヒューヒュー! ピーピー!

宣教師「ん?」ピタッ

司教「も、もう…走れん…」バタッ

宣教師「」チラッ

町民1「見たか?このビラ?」ペラッ

町民2「おう!北国と戦争だってな!」

宣教師「……!?」

町民3「きっとまた国王様がなんとかしてくださるさ!」

町民4「そうだそうだ!俺達にはあの恐ろしい西の国を撃退した国王様が付いてるんだぜ!」

町民5「北の国がなんぼのもんよ!あんな奴らルフィアス団長を始めとした最強の軍がちょこっと摘まんでポイッてな具合だぁ!」

町民6「こいつはいい!早速前祝いに宴といこうぜ!」

町民7「王国バンザーイ!ヒメ様バンザーイ!」

町民8「このまま大陸まるごと王国にしちまえーい!」

ヒューヒュー! ピーピー!

宣教師「…司教さん。すみませんが先に行ってますよ」ダッ

司教「お、お気をつけて…」グッタリ
92: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:04:37 ID:gQj8L.R5T.
―――城(応接間)―――

宣教師「……」

ガチャッ

宣教師「」ピクッ

ネバル「お、お待たせしてすみませんです!ネバルと申しますです!な、何とぞよろしくしますです!」ペコッ

宣教師「…はじめまして」ペコッ

ネバル「え、えっと!本日のご用件はなんですだか…?」

宣教師「このようなビラが城下で配られてました」ピラッ

ネバル「はいです…?」パシッ

宣教師「ご説明いただいてもよろしいですか?」

ネバル「な、なんです?これ…!?」ギョギョッ

宣教師「なんですって…あなた方が出されたのでは?」

ネバル「し、知らねーですだよ、こったらもん!オイラ聞いてねーです!」オロオロ

宣教師「…他の役人の方は?」

ネバル「ないです!役人は合議で動くから…オイラが知らねーってのはありえないです!」アセアセ

宣教師「確認を取れませんか?」

ネバル「そ、そりゃもちろん!すぐにご報告するです!」コクコク
93: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:04:58 ID:mpOxahS5ac
宣教師「それからもう一件」

ネバル「ま、まだあるです!?」

宣教師「裏通りに作ったホビットの居住区を取り潰し、貴族の歓楽街にするとの話を耳にしました。これについても返答願います」

ネバル「ひょえー!?そ、そんなぶったまげた話…どこで!?」

宣教師「裏通りの掲示板に貼り出されていましたよ」

ネバル「〜〜〜!!」

宣教師「どういう事なのか、きちんと納得のいく説明をしていただけますか?」

ネバル「あわわ…お、オイラじゃなんとも…!リルラ様も出払ってるですし!」アワアワ

宣教師「国王はどうしているのです?」

ネバル「へ、陛下は…」

宣教師「?」

ネバル「と、とにかくオイラもその!じ、事情が分かり次第、連絡しますです!」

宣教師「…お願いします」
94: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:05:45 ID:mpOxahS5ac
ネバル「わ、わざわざ教えてくださってありがとうございますです!教団の司祭様にご足労させちゃって!」アセアセ

宣教師「いえいえ、城下の騒ぎは知らされていなかったのですか?」

ネバル「は、はいです。そんなでっかい報せが打ち上がったなんて全く知らないです…」

宣教師「……」

ネバル「あ、もしかしたら…」ハッ

宣教師「心当たりが?」

ネバル「い、いやぁ!なんでもないですだよ!あ、あとはこっちでやっときますですから!あはは!」アワアワ

宣教師「そうですか…」

ネバル「じゃ、じゃあオイラはこの辺でおいとましますです!」ガタッ

宣教師「あ、待ってください!」

ネバル「は、はい!?」

宣教師「カロルくんの様子はどうですか?」

ネバル「…か、カロルくん?」キョトン

宣教師「はい。こちらにお泊まりしてる筈なのですが」

ネバル「あ、あ〜救い主様ですだね!え、え〜…元気ですよ!」

宣教師「それは良かった。来たついでにご挨拶に伺いたいのですが」

ネバル「え!?」

宣教師「はい?」

ネバル「い、今はちょっと!また今度じゃダメですか!?」アセアセ

宣教師「何か会わせられない理由でも?」

ネバル「そ、そうじゃ…ないですけど」モゴモゴ

宣教師「……」ジッ

ネバル「あ、いや…」オロオロ

宣教師「……」ジーッ

ネバル「うぅ〜…ご案内するですぅ」ショボン

宣教師「ありがとうございます」ニコッ
95: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:06:42 ID:mpOxahS5ac
―――王宮(客室)―――

ネバル「こ、ここです…」シブシブ

宣教師「(先日、泊まった部屋ですね…)」

ネバル「お、オイラが会わせたって絶対言わないでくださいですよ!?」

宣教師「やはり会わせられない理由が?」

ネバル「あっ」

宣教師「今の発言はそうとしか取れませんが」

ネバル「あ、あ〜!もうこんな時間です!忙しい忙しい!じゃあ後はお任せしますです!」ピュー

タタタッ………

宣教師「……役人と思えないくらい素直な方ですね」
96: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:07:18 ID:gQj8L.R5T.
宣教師「」コンコン

シーン

宣教師「カロルくん?」コンコン

シーン

宣教師「(…どうしたんでしょう?)」

宣教師「カロルくーん!私です!宣教師ですよー!」コンコン

ガチャッ

カロル「宣教師さま…?」オソルオソル

宣教師「はい」ニコッ

カロル「」キョロキョロ

宣教師「? どうかしましたか?」

カロル「う、ううん!なんでもないよ!」ニコッ

宣教師「……?入ってもいいですか?」

カロル「うん!入って!」アセアセ

宣教師「は、はぁ」スッ
97: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:10:37 ID:mpOxahS5ac
宣教師「改めて見ても広い部屋ですね。一人ではもて余すでしょう?」

カロル「うん…でも慣れたよ!」

宣教師「ふふ。どうですか?お城での生活は?」

カロル「すごいよ!お城の人たちが毎日お部屋をキレイにしてくれるし、ごはんも見たことないのばっかり!」

宣教師「ふむふむ。居心地は悪くなさそうですね」ニコニコ

カロル「お風呂もね、こーんなに広いんだ!泳いでもぶつからないくらい!」

宣教師「それは楽しそうですね」ニコニコ

カロル「…た、楽しいよ。とっても!」

宣教師「?」

カロル「宣教師さまはどう?お仕事うまくいってる?」

宣教師「えぇ、順調ですよ。ホビット族との仲も良好になってます」ニコニコ

カロル「そっか!よかった!お母さまも大喜びするよ!」ニコニコ

宣教師「…それはそうと先ほど呼び掛けた時に応答がありませんでしたが何かしていたのですか?」

カロル「……!」ドキッ

宣教師「(分かりやすい)」
98: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:12:07 ID:gQj8L.R5T.
カロル「あ、あの…えと…」シドロモドロ

宣教師「見たところ…こざっぱりしていますし退屈しそうですね?」キョロキョロ

カロル「…ほ、本があるよ!こんなに!」ビッ

宣教師「読書ですか。しかしこの棚にある本は難しい物ばかりですよ」

カロル「お母さまに教えてもらってるから読み書きはできるよ!ちょっぴりだけど…」モジモジ

宣教師「…歴史書に医学書、純文学ですか。キミにはまだ早いのでは?」

カロル「そ、そうかな?読んでみるとおもしろいよ!」アタフタ

宣教師「ではこの『氷の丘』という本はどんな内容でした?」スッ

カロル「え?こ、こおり……か、かき氷のお話だっけ!」メダパニ

宣教師「いいえ、これは身分ゆえに結ばれなかった男女の恋愛模様を文字に起こした物語です」

カロル「えっ」

宣教師「平民の男がどれだけ想いを成就しようともがいても、あらゆる障害が立ちはだかって、ささやかな逢瀬さえも叶わない」

宣教師「貴族の娘は抗うこともせず、ただ報われない恋を悲しみ、運命に翻弄されるまま咽び泣く」

宣教師「まるで氷の丘を這いずるように滑り落ちていく二人の男女…それがこの本の大まかな筋書きです」

カロル「……か、かき氷は?」

宣教師「出てきません」キッパリ

カロル「!?」ガーン
99: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:14:21 ID:mpOxahS5ac
カロル「あう…」ズーン

宣教師「その様子では何かあったんですね」

カロル「うぅ…ウソついてごめんなさい…」シュン

宣教師「怒りませんよ。叱るまでもなくウソは良くないものだと分かっているでしょうから」

カロル「はい…」

宣教師「問題は…キミがウソをついてまで隠したいと思っている事です」

カロル「……」キュッ

宣教師「話したくないですか?それなら、それで構いませんよ?」

カロル「……」

宣教師「ただし…キミが打ち明けられず思い悩んでいるなら、いつでも相談してください」ニコッ

カロル「宣教師さま…!」ウルッ

宣教師「はい…?」ニコニコ

カロル「ボクね、ボク…!」ウルウル

宣教師「(彼が私に隠そうとした悩み…。あの一件から間もないですし、きっと重大なことなのでしょう)」

カロル「ヒメくんとケンカしちゃったの!」ブワッ

宣教師「」ズルッ

カロル「どうしよう!?宣教師さまぁ!?」ダキッ

宣教師「(そ、そうでした…。こういう子でしたね…!)」ヒクヒク
100: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:15:35 ID:mpOxahS5ac
カロル「ボクがね、ヒメくんのおやつ…食べちゃったの。だから…だから…うわーん!」シクシク

宣教師「(喧嘩と言うから、どれほどの事かと思えば…なんて浅い…)」ヒクヒク

カロル「部屋から一歩も出ちゃダメって言われちゃって謝りたいのに出られないの…!」グスッ

宣教師「あぁ、なるほど…だからさっきは出てこなかったんですね」

カロル「イチゴのジャムおいしそうだったから…我慢できなくて!わぁぁん!」ビエー

宣教師「いつもの冗談ですよ。彼はそんなつまらない事で腹を立てたりしませんから、ね?」ナデナデ

カロル「ううん…ちがうの」ギュッ

宣教師「?」

カロル「いつものヒメくんじゃなかった…。目がすごく怒ってて怖かったもの…」グシッ

宣教師「……」

カロル「西の国から帰る時もピリピリしてた…。寝ないで、ずっとお仕事してて」

宣教師「…きっと疲れているんですよ。日を置いたら、またいつもの調子に戻ります」

カロル「でも…ちゃんと謝りたいよ。ボクがわるいんだもの」

宣教師「でしたら、こういうのはどうです?」

カロル「……?」

宣教師「一緒に食事をしようと誘うんです。おいしいご飯を食べながら談笑すれば怒りなんてどこ吹く風とばかりに仲直りできますよ」

カロル「!」パァァ

宣教師「部屋から出られないのなら使用人の方に頼んで伝言してもらうといいでしょう。
彼も気にしてるでしょうし二つ返事で応じてくれますよ!」

カロル「ホント!?」キラキラ

宣教師「えぇ」ニコニコ

カロル「宣教師さま、すごい!ボク、ぜんぜん思いつかなった!」

宣教師「それほどでも」ニコニコ

カロル「ありがとう!そうするね!」ニコッ

宣教師「いえいえ、どういたしまして」ニコニコ
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sage:


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