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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編その3】
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:15:11 ID:.RxhzfPc96
あらすじ

永遠の命。その鍵となる救い主、カロル。
欲望に目覚めた西の国。狂気は果てしなく蠢く

遂に勃発してしまった戦争
強大な西の国に立ち向かうべく王国、東国、南国は6ヶ国同盟から成る平和協定を破り、3国連合軍を結成する

南国は多大な犠牲を払い、国王ローレンの命と引き換えに西帝国軍の主力を削った
東国は張り巡らされた罠を果敢に打破するも圧倒的な力の前に粉砕される

敵地にて孤軍となった王国軍
総指揮官フィクサーの戦略采配が功を奏し、帝都本拠地の制圧を完了した

一方で吉報を待ち、国内に留まる王国の国王ヒメ
迫り来る侵略の魔の手を退ける為、東国のホビット族と手を結ぶ
彼らによって明かされた最後の真実
アピシナの大樹の成り立ち

かつて癒しの力は破滅を導いた
人もホビットも共通する願い
永遠の命が野心をくすぐる

穢れなき無垢な愛情は火種となって注がれ、混沌とした世界を象徴するように大樹を巡る争いは止まなかった

忘れ去られた無残な過去
300年もの月日を経てなお繰り返される歴史
誰も止めることは叶わない

友情を取るか、安寧を取るか
時を追う毎に取捨選択を強いられる
捨てていいものなど一つもないのに


178: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:00:37 ID:asMbRZfNT2
公爵「いやぁまことに驚嘆致しました。まさか猊下が夜会に興味を示しておられたとは!これまで招待を怠った非礼、存分に詫びねばなりますまいな!」

宣教師「いえいえ、突然の申し出に応じていただいて感謝するばかりです」ペコッ

公爵「以前からこうした会に参加なされていたのですかな?」グビッ

宣教師「いえ、今回が初めてです」

公爵「ほう、ではどういった経緯で?」

宣教師「生まれが生まれなのでパーティーといった物に縁がなく、クライリー様からお声かけを受けましたので、せっかくの機会にと」

公爵「なるほど、クライリー君は雑草なりに花を咲かせた優秀な男だ。同じよしみの司祭様に通ずるものがあるのでしょう」ニコニコ

宣教師「雑草?」ピクッ

公爵「おっと失敬、口がすべ……いや、私とした事が言葉を間違えました」

宣教師「…公爵様は平民を雑草呼ばわりされるのですか?」

公爵「ふむ…彼らの暮らしのほとんどは私どもの資財から賄われている訳ですし、さながら花の栄養を吸い取って繁殖する雑草と相違ないかと」

宣教師「……」

公爵「ですがまぁ、やはり雑草は言い過ぎでしたかな」クスッ
179: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:01:36 ID:asMbRZfNT2
宣教師「…聞くところによりますと公爵様は、この会を毎夜に渡って主催されているとか?」

公爵「えぇ、そうですとも。バックヤードの封鎖に伴い、様々な改正が施され、最近は社交場が減りましてな」グビッ

ワイワイワガヤガヤ

公爵「ならばとこうして自ら執り行い、皆様に笑顔と賑わいを提供させていただいてる次第でございますよ」ニコニコ

宣教師「…あなたの仰る皆とは貴族に限定してのことですか?」

公爵「そこまでは?司祭様のような文化人も枠に入れて差し上げますよ」

宣教師「棘のある物言いですね」

公爵「そうですかな。癪に障ったのでしたら失礼」

宣教師「……」

公爵「おや?あまりお酒が進んでおられませぬが」

宣教師「普段は口にしないので…」

公爵「ははは!御聖職に就かれてる身では致し方ありませんか!」

宣教師「そうでもないですよ。少なくとも私はお酒に関して制限を課す事はしていません」

公爵「ほう?さすが寛容にございますな」

宣教師「趣味嗜好はそれぞれですからね。抑圧はせず自由性を尊重させています」

公爵「やはり徳の高いお方は心掛けからして違いまするな。国王にも是非、見習っていただきたいものです」

宣教師「なぜ国王に?」

公爵「いやいや、なんでもございませんよ。それよりお酒が苦手でしたら下げさせましょうか?」

宣教師「……ん、く」グビッ

公爵「? 飲まれないのでは?」

宣教師「ふぅ…私から無理を言って招いてもらったので少量程度ならお付き合いしますよ」ゴクンッ

公爵「ははは!気など遣わずとも!パーティーは楽しむ物です!ご無理は禁物ですぞ!」

宣教師「……えぇ、ほどほどにしておきます」ポワー
180: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:04:08 ID:asMbRZfNT2
宣教師「」スヤスヤ

大后「あらあらまぁ…大変ですこと。教団の司祭様ともあろうお人が?」

公爵「酔い潰れてしまわれたか。クライリー君、すまないが奥の部屋に運んで介抱してやってくれないか」

クライリー「お安いご用です。ハナから俺は付き添いですしね」

公爵「しかし…」チラッ

大后「えぇ…」チラッ

宣教師「しょ、しょんにゃ〜?わらし、へろへろじゃないですぅ〜?」ベロベロ

公爵「たった一口でよくもこうまで…」

大后「天性の下戸でいらっしゃいますのね…」

宣教師「ん〜?あとごふん…」ムニャムニャ
181: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:06:17 ID:ac/TeR61HE
―――ダンスホール(衣装部屋)―――

宣教師「ん、ん……?」パチッ

クライリー「目が覚めたか?」

宣教師「く、クライリーさん……っ!」ズキッ

クライリー「たった一口で頭痛かよ。よえーなんてもんじゃねーな」

宣教師「」ポワンポワン

クライリー「まだボーッとしてるか。しょうがねぇな…ほれ」スッ ピトッ

宣教師「!」ピクッ

クライリー「気付けの水だ。ひゃっこくて気持ちぃだろ?」

宣教師「すみません…」パシッ ゴクゴク

公爵「ほほほ。お目覚めですかな、司祭殿」

宣教師「公爵様…?」

公爵「迎え酒はいかがですか?」キュポッ

宣教師「いえ…もうお酒は結構です」

公爵「ではゆっくりとお喋りでもしてみましょうか?」

宣教師「…はい」

公爵「聞きたい事などありましたら、なんなりとどうぞ。お答えしますよ」

宣教師「……」

公爵「遠慮なさらず?何か尋ねようとなさっていましたよね?」

宣教師「…城下に貼り出されていた報せは公爵様が指示されたのですか?」

公爵「はい、そうですよ」

宣教師「役人の方に確認したところ、そんな話は聞いていないと…」

公爵「言ってませんからね」

宣教師「…戦いを終えて平和へ向かおうとしている今、なぜ歩調を乱すような真似をするのですか?」

公爵「はてさて?乱しているのは王政府側では?」

宣教師「……?」
182: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:07:11 ID:ac/TeR61HE
公爵「私達はね、あなた方のように慈善事業をしている訳ではないのですよ」

宣教師「……」

公爵「私どもは国に財を寄付し、国民の生活を潤し、円満に繁栄を遂げる」

公爵「その働きに応じた利益や地位を求めるのは当然ではございませんか?」

宣教師「…だから裏通りの居住区を取り潰してホビットの皆さんを追いやっても許されると?」

公爵「はい!」ニンマリ

宣教師「……!?」

公爵「あんな者らの居住区などあってもなくても同じでしょう。持つべき者が有効に利用する。それが最も自然です」

宣教師「彼らの生活は考えないのですか?」

公爵「興味がございませんな。元々、外界を縄張りにしていた種族ですから都合が良いのでは?」

宣教師「あなたは自分の生活を他者に奪われても同じ事が言えるのですか…?」

公爵「許せません。ですから我々に抑圧的な政をされる国王陛下に改心していただきたいと存じております」

宣教師「自分勝手な事ばかり…!」

公爵「あなたのような生まれつきの庶民は芋でもかじっていれば地べたでも生きていられるのでしょうが私達はそうはいかないんですよ」

宣教師「な、なんですか!その言い方は…!」

公爵「貴族というのはね、豪華な食事、広大な敷地、贅沢な装飾、心躍る娯楽、沢山の付き人。これがなければ生きていけないんですよ」

宣教師「呆れました…!」
183: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:08:51 ID:ac/TeR61HE
宣教師「クライリーさん、あなたからもなんとか…」

クライリー「ぷふぅ!やっぱ葡萄酒は高級品に限る!」グビッ

宣教師「……!?」

クライリー「俺も最初は信じなかったさ。だがな、半月もこうやって遊んでみろよ。抜け出せなくなるぜ?」ニィィ

宣教師「そんな……あなたは違うと……」

クライリー「あんたもせっかくいい立場にいるんだ。しゃぶりついてみろよ。この味を覚えたら世界が変わるってな!」

宣教師「……!」

公爵「そういうことです」

宣教師「何がどういうことなんですか…!」

公爵「人は誰しも優雅な暮らしを求めてやまない生き物なのですよ」

宣教師「堕落です!そんなの…一時の快楽に溺れているだけではありませんか!」

公爵「えぇ、なんとでもどうぞ」

宣教師「〜〜〜!」ムカムカ
184: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:09:51 ID:ac/TeR61HE
公爵「話は戻りますが、より良い暮らしの為にも私どもは社交場でもっと沢山の人脈……もとい友人を募りたい」

公爵「あなたのような美しく、聡明で、立派な地位を得る方と」

宣教師「あなたのような人となど、とても友人にはなれません!」

公爵「まぁまぁ。偉大なる我らが国王陛下にも共に国の上流に住まう者同士、友好を結びたいのですよ」

公爵「一部の者は貴族としての振る舞いを忘れ、国民だ国王だと建前ばかりのたまいますが…」

公爵「お互いに有益な関係を保つ為にも今一度、現状を見直してみましょうという話ですよ」

公爵「そこで司祭殿にも是非ご協力を賜りたいと」

宣教師「拒否します!」

公爵「……」ピキッ

宣教師「あなた方だけに都合のいい話を聞き入れる道理はありません!民に不平等を押し付けようと言うなら私は断固として戦います!」

公爵「ほぉ…?」イライラ
185: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:17:20 ID:asMbRZfNT2
公爵「少々おだててやれば、ずいぶんな物言いをされますな?」

宣教師「思い通りにならないからといって難癖を付けないでもらえますか?」

公爵「難癖ぇ…?」ビキビキ

宣教師「自制心の欠片もないんですね。あのような発言の後で堂々としていられる訳です」

クライリー「口が過ぎるぜ。司祭さんよ」

宣教師「喋りかけないでください。あなたの声など聴きたくありません」

クライリー「はんっ……」

宣教師「もはや話す事はないでしょう。失礼させていただきます!」スタスタ

公爵「後悔されますよ…」ジロッ

宣教師「しません!さようなら!」ガチャッ

バタンッ!

公爵「…ふぅ。若い方というのは気が短くていけませんな」

クライリー「始末しますか…?」

公爵「いいえ、品のないやり方は好ましくありません」

クライリー「どうされるので?」

公爵「そうですねぇ…。まずは国王陛下のお耳に入れてみましょうか」

クライリー「……?」

公爵「昨夜、司祭殿が私どもの主催する夜会に参加なされた、とでも」ニィィ
186: 名無しさん@読者の声:2017/10/2(月) 08:56:41 ID:TikUHgvq6k
支援、続きまったり待ってます
187: 名無しさん@読者の声:2018/7/1(日) 16:33:07 ID:EAeQA2YNyQ
つC
公爵たちの策略で宣教師ちゃんが今後とうなるのか…きになるなぁ

更新ずっと待ってます
188: 名無しさん@読者の声:2018/7/9(月) 12:13:10 ID:R9nJtCfaWI
もうすぐ一年かぁ…カロルたち〜!カムバーック!
189: 名無しさん@読者の声:2018/10/16(火) 18:22:52 ID:d1XuLDK5rw
支援!
190: 名無しさん@読者の声:2019/3/19(火) 16:07:14 ID:VDzu4f7wLA
待ってます!
つCCCCC
191: ◆WEmWDvOgzo:2019/11/26(火) 23:42:00 ID:Ulgjh/Ikt2
また書きたいけど、もうほとんど覚えてないし待たせすぎて、きっと覚えてる人もいない
申し訳なさすぎる
明らかにこのスレがダメすぎた
やるなら、また書き直さなきゃダメだorz
192: 名無しさん@読者の声:2019/11/27(水) 02:01:34 ID:TBSVoFNPAY
作者さんおかえりなさい!待ってました
大好きな作品だから、何度も読み返してるのでもちろん覚えてますよ
作者さんのペースで大丈夫ですので、またカロルくんの活躍を見させていただきたいです
193: ◆WEmWDvOgzo:2019/11/27(水) 22:41:25 ID:Ulgjh/Ikt2
お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした
お優しい言葉にかなりウルッときてます……
何年も放置してしまっていたのに未だに待っていただけていたなんて、とても感激です
お言葉に甘えて、また1から読み返して話やキャラを思い出しながら書きたいと思います
せめて待たせてしまった分、面白いものを書けるよう頑張ります!
194: 名無しさん@読者の声:2020/1/12(日) 13:25:23 ID:pjsmLUApJo
作者さん来てたのか!
ひたすら待ってます!
195: 名無しさん@読者の声:2020/3/16(月) 06:28:12 ID:yQBBVeWzHc
おかえりー
来ないより来たほうがいいなんてあったり前じゃない !?
カロルが決断に時間がかかるなんてわかってるからいちいち言わないっ!
さ。
書いてくれる?(ふんすっ)
196: 遅くなりすぎてすみませんorz ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:38:27 ID:9xIGFRrFjE
〜〜〜朝〜〜〜

━━━教会━━━

ワイワイガヤガヤ

ダンッダンッ ダンッダンッ

神父「なんなんだ、この騒ぎは!?」

シスター「それが朝から教会の前に大勢詰めかけていて……」

ダァンッ!

シスター「ひっ!」ビクッ

「おい!この記事はどういうことだぁ!?」

「司祭が夜な夜な城に入り浸って豪遊してると聞いたぞぉ!?」

「しかも王都北の領主、クライリーと別室に消えたとか!」

「貴族を誘惑してカーテンの奥で密かに……なんて汚らわしい!」

「あなたを信じた私達を騙して裏では貴族との遊行に耽っていたんですか!まったくおぞましいお方だ!!」

「司祭を出せ!言い訳の一つもしてみたらどうだ!?」

ギャーギャー ギャーギャー!

神父「ラチがあかないな…。司祭様は?」

シスター「さぁ……まだ帰られていないみたいで」オロオロ

神父「まさか……い、いや!そんな筈はない!あのお方は清廉潔白だ!」

シスター「どうしましょう……?」オロオロ

神父「司祭様の帰りを待つしかないだろう…。きっと納得のいく説明をしてくださる」

シスター「そう……ですよね」
197: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:43:14 ID:9xIGFRrFjE
━━━裏通り(ホビット居住区)━━━

ザワザワ ザワザワ

裏通りのホビット1「ねえ、聞いた!?」

裏通りのホビット2「聞いたも何も……そこかしこ、その話で持ちきりだよ!」

裏通りのホビット3「こないだ城に抗議しに行ってくれたばかりなのに!」

裏通りのホビット4「し、信じないぞ!絶対に嘘だ!」

裏通りのホビット5「司祭様が僕らを騙す筈ないよ!」

新聞屋「号外!号外だよー!なんとホビットの居住区を裏で取り引きしていたのは司祭様だった!!」バサバサッ

商人1「早朝から、あの調子だ!新聞屋め!儲けようとしてやがんな!」

商人2「そりゃ儲かるだろうさ。誰だって買いたがるネタだ。チキショーめ」

商人3「国王様に並んで圧倒的支持を誇る教団の司祭が夜会に繰り出し、乱痴気騒ぎときたもんだ!こんな派手な噂はねぇ!」

商人4「これが事実だった日にゃ大ごとだぞぉ!今のうちに乗っかる算段を立てておかねぇとなぁ!」

商人5「おうよ!この裏通りが貴族御用達の歓楽街になるってんなら商売人にしてみりゃうってつけの狙い目だぁ!」

ギャハハハハハハハハハ!

裏通りのホビット’s「……!」ググッ
198: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:45:30 ID:9xIGFRrFjE
━━━王都北領地、領主邸━━━

ワァーワァーギャーギャー!

記者1「どういう事なのか説明してください!昨夜、城で何があったんですか!?」

記者2「司祭様と一夜を明かしたのは本当なんですか!?」

記者3「国民の税金で夜会が開かれているというのは事実なんですか!?」

憲兵1「下がれ!下がれ!」

憲兵2「通行の妨げになる!全員解散しろ!」

記者4「なら邸内に入らせてください!領主様に直接、取材したいんだ!」

憲兵3「ダメだ!領主との接触は一切禁止する!」

記者5「あ!今のは報道の自由を否定した発言として、しっかり記録させてもらいますよ!」カキカキ

憲兵3「なっ!よ、よせ!」アセアセ

憲兵4「いいから解散しろ!これ以上騒ぎを起こすなら署に連行するぞ!」

記者1「ちっ!この事は真っ先に記事にするからな!」

記者2「出直そう!また改めて発表がある!」

記者3「そう言って抜け駆けする気だろ!記事は鮮度が命だからな!」

記者4「絶対にウチが一番に書くぞ!他の新聞屋に遅れるなよ!」

憲兵1「帰れと言うのが分からないか!」

憲兵2「たく!これだから記者ってのは……」ブツクサ
199: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:50:11 ID:9xIGFRrFjE
━━━王都北領地(領主邸内)━━━

クライリー「なにもこんな厳重警備を敷いてくださらんでもなぁ」

団長「窮屈やもしれぬがご容赦願おう。我々とて予想し得ぬ事態に急遽、駆り出された次第だ」

クライリー「はは!そりゃご苦労なことだ。茶でも入れさせようか?」

団長「お気遣い痛み入る。が、結構だ。警護に集中したい」

クライリー「遠慮はいらないさ。それとも酒がお好みかな?」

団長「もってのほかだ」

クライリー「お堅いなぁ。司祭様は景気よく飲んでたものだが」

団長「」ピクッ

クライリー「そりゃもうたらふくと浴びるように酒を煽って……はは!いやぁいい飲みっぷりだったよ!」

団長「……」

クライリー「おっと!憲兵さんの前じゃまずかったか?」ニィィ

団長「くれぐれも迂闊な発言はなさらぬことだ」

クライリー「?」

団長「新聞屋がよからぬ記事を書き、面白おかしく囃し立てておる。彼らは想像力が豊かだ」

クライリー「別に構わんよ。なんなら取材に応じたっていい」

団長「出回った内容次第では己の首を絞める結果になりかねませぬぞ」

クライリー「ご冗談?書かれて困るのはおたくらだろ?」

団長「なに……?」
200: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:57:44 ID:9xIGFRrFjE
クライリー「身辺警護と謳っちゃいるが実際は情報規制だろ?
関係者を監視しといて余計な事は喋らせねぇ魂胆だ?」

団長「……」

クライリー「図星か。怖いなぁ、政治ってやつは?同じ国に仕える仲間でさえ圧力に掛けやがる」

団長「貴公がどう思おうと構わん。我々は任務をまっとうするまでだ」

クライリー「あきれるな。誤魔化す気もないか」

団長「誤魔化すとは?」ジロッ

クライリー「ジョークだよ。そう怖い顔なさんな?」

団長「……先に話したが我々の許しなく外出する事は許さん。外部との接触もだ。よろしいな?」

クライリー「領主の務めはどうするんだ?」

団長「室内で可能な公務をこなしてもらう。無論、我々も協力は惜しまん」

クライリー「ははぁ?そりゃいい?資料を検閲して外と通じ合うのを避けるお手伝いかい?」

団長「混乱を防ぐ為の一時的措置だ」

クライリー「あぁ、そう。そりゃありがたいな。鬱陶しくて助かりますよ」

団長「引き続き、部下を警護に当たらせる。後は任せたぞ」スタスタ

憲兵5「ハハッ!」ビシッ

クライリー「おいおい、領主の警護から指揮のあんたが離れるのか?」

団長「鬱陶しさがマシになっていいだろう?」ガチャッ

バタンッ

クライリー「(ふん……苦し紛れもいいとこだな。だが、もう遅いさ。公爵は徹底的なお方だ)」ニヤリ
201: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 23:05:18 ID:9xIGFRrFjE
━━王都議事堂━━━

高官1「この記事は本当なのか……!?」ワナワナ

高官2「どうやら事実らしい。付き合いで招かれた、こちら側の役人も昨夜、この目で見たと……!」

高官3「朝から城内は目撃者の証言で持ちきりだ!むしろ貴族連中が積極的に吹いて回り、そこら中の記者が飛びついてるぞ!」アセアセ

高官4「なぜ司祭殿はあのような夜会に出席したのだ!?」

高官5「分からん!しかし本人が希望したのは間違いないそうだ……!」

高官1「っ……この記事はどこまでが真実だ!?」クシャッ

高官7「さてな……。真偽の見分けもつかん程、証言が一致しているのは確かだ」

高官2「陛下は聞き及んでいるのか?」

高官4「相変わらず自室にこもり、粛々と公務をこなしておられるよ」

高官6「表舞台に姿を見せず幾月か……いったい、いつまでそうしている気なんだ……」

高官7「そんなものっ……我々は知る由もないわ!」ギリッ

高官8「……この場で騒ぎ立てても仕方ない。事実に関わらず収拾を図ろう」

高官1「だがっ……!」

高官8「後になってデマでした、では済まされんだろう」

高官1「事実であれば隠蔽と見なされるぞ!陛下の意に反する!」

高官6「許容の範囲内ではないか?」

高官2「当の陛下も議会を空けたままだしな」

高官1「そ、それはそうだが……」

高官5「司祭はどうしている!?当人から連絡はないのか!?」

高官4「報告は届いてないな。捜させてはいるが……」

高官1「と、とにかく司祭から話を聞いて事実確認をしたらどうだ!?」

高官3「しかし見つからんことにはなぁ……」

高官8「現状、出来ることから優先するべきではないか?」

ワァーワァーギャーギャー!
202: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 23:08:11 ID:9xIGFRrFjE
〜〜〜2日後〜〜〜

━━━西の領土・聖堂(廊下)━━━

ヒソヒソ ヒソヒソ

「ねぇ聞いた?」

「もちろん!」

「驚いたわよねぇ、まさか司祭様が……」

『あんな淫売だったなんて!』

「あたし知ってるのよ。司祭様ったらクライリー様だけでなくて以前の大臣とも関係があったの」

「やだぁ!そうなのぉ!?」

「誰とでもするのね。いやらしい」

「誰とでもなんて滅相もない。地位を得る方とだけよ〜?」ニヤッ

「不潔だわ!ひょっとしたら国王陛下から懇意にされてるのも……?」

「十分考えられるわね。特に陛下はまだ幼く純情な男児……慰めて籠絡するのなんて簡単でしょう」

「ふふ!範囲まで広いのね。ゾッとしちゃう」クスクス
203: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 23:14:07 ID:9xIGFRrFjE
「だけど……まずいんじゃない?このところ悪い噂ばかりで信者からの苦情も絶えないし、お布施もガクッと減ってるらしいよ?」

「それならまだしも改宗するって言い出す人達もいるとか?」

「え?」

「知らないの?最近、新しい宗派が立ち上がってるの」

「あ!あたし知ってるわよ?外で紙を寄越されたの!たしかぁ……」

「聖教新聞でしょ?」

「そう!それ!」

「へぇ……なんていう宗派なの?」

「えーと……名前は?」

「サイレンス大聖団、でしょ?」

「そうそう!よく覚えてんね!ところで、それって何を教えてるの?」

「さぁ?ただあの大聖団で支給してる修道着のデザインがすごくいいって評判なのよ」

「なにそれ気になる!」

「聖教新聞読まなかったの?」

「うん。あんまり興味もなかったから」

「なんでも担当する役目や位、それぞれに異なる衣装が用意されていて。
しかも一流のデザイナーら全面協力の上で作られた高級ブランドモデルの修道着がタダで支給されるんですって?」

「すご〜い!」

「ああ〜……この白地に青の刺繍が入った服も嫌いじゃないけど一種類だけっていうのは気になってた〜」

「ふふ。いいじゃない。改宗しちゃえば」

「え?」

「服、欲しくないの?新しい物を着なくちゃ異性に言い寄られないわよ?」

「で、でも……そんな簡単に……」

「そんなのあたし達の自由よ。それに……司祭様だって素敵なドレスを着て社交場にいたんだもの。なにが悪いの?」

「そう言われると、そうかも……」

『改宗、しちゃう?』
204: 名無しさん@読者の声:2020/3/19(木) 23:20:33 ID:9xIGFRrFjE
ーーー王都(噴水広場)ーーー

ワァーワァー ワァーワァー

聖団員1「はいはい押さない押さない!まだまだ新聞はありますからね!」バサッ

客1「1枚!」

客2「私も!」

客3「俺もだ!」

町娘1「サイレンス大聖団の聖教新聞読んだ?」

町娘2「うん、喜劇役者のリオーナが入信したってね。ファンだから嬉しい!」

青年1「はは!どうだ!この団服!イカしてるだろ!これでオレも聖団員の仲間入りだ!」ファサッ

青年2「いいな!俺も早く入りたいなぁ。入信希望者が多すぎてなかなか受け付けてもらえないよ」

聖団員1「さぁ、そこのあなたも!どうぞお手に取ってください!真実が書かれていますよ!」バサッ

老人1「うぅむ……そんなに教団が腐敗しきっとったとはな」ペラッ

老婆1「嫌な世の中になったもんじゃ。くわばらくわばら……」

聖団員1「悲しきかな!我々の信心を裏切った教団や王政から発行される記事は嘘にまみれています!
しかし我々サイレンス大聖団の聖教新聞は権力に屈せず真実を伝えますよぉ!」バサッバサッ

ワァーワァー! ワァーワァー!
205: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 23:33:54 ID:9xIGFRrFjE
お待たせしてすみませんでした!
また少しずつ書かせていただきます!
自分の執筆環境が以前と変わっていてペースが大幅に落ちるのですがお付き合いいただけましたら幸いですm(_ _)m
206: 名無しさん@読者の声:2020/4/23(木) 17:57:29 ID:LxsVJVnPGM
完結するまで見続けます
コロナで大変な時期ですので、ご自身の健康第一で執筆なさってください!
207: ◆WEmWDvOgzo:2020/5/5(火) 20:30:26 ID:LsHLnxDW2A
>>206
ありがとうございます!
自分の周囲でも影響が出てますが必死に頑張ってます
一緒にこの厳しい現状を乗り切っていきましょう!
208: 名無しさん@読者の声:2020/8/9(日) 00:27:22 ID:MreiM5x5Co
更新来てた!やったーありがとうございます!

クライリーめ…
サイレンス大聖団がとてもきになるなぁ

このようなご時世なので、お身体にはじゅうぶんお気をつけください
焦らず無理せず、作者さんのペースで頑張ってくださいね
209: 名無しさん@読者の声:2020/9/25(金) 20:17:55 ID:AEhVLUs8qo
更新されるまでの間にと思って最初から読み返してるけど、一番最初のスレの>>812のチキチキパンパン噴いたwwwシリアス展開だったのにwww
作者さんのこういうセンス大好きだ!
初登場時はただの駄々っ子だったヒメも、疑うことを知らなかったカロルもぐんぐん成長していってるし、物語の奥行きが深くて凄く考えさせられます
何度でも読み返しては新しい発見あるし、作者さんのこと尊敬してます
210: 東京名無しンピック2021?:2021/8/6(金) 01:44:24 ID:UI6QUue4Pc
やっと追い付いた!
支援
211: 名無しなのよ:2023/8/19(土) 22:29:45 ID:sLEViBNQkQ
支援
212: 名無しなのよ:2023/11/22(水) 15:52:26 ID:u7hIzhSTBs
更新待ってます!しえん
213: 名無しなのよ:2023/12/17(日) 08:09:57 ID:FfqO1ditts
何年だって待ってます
214: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/18(月) 22:10:18 ID:hiov.r88ZA
ーーー王都(ハリアンス家の屋敷)ーーー

公爵「どうやら都は賑わっておるようですな」

総局長「はい!それはもう!うちの記事もとんでもない売れ行きで!」ヘコヘコ

公爵「ふふ、庶民というのは噂話が好きなものだ」

総局長「嘘か真かを問う前に感情が先走る生き物ですから!」

公爵「恐ろしいものですよ。私は君にほんの些細な出来事を耳打ちしただけなのだが、いつの間にやら都を揺るがす一大事なんだものなぁ」

総局長「当局のモットーは徹底的な真実の究明です!たとえ不確定だとしても疑惑あれば根掘り葉掘り世間に公表する!これぞ記者魂の賜物ですよ!」

公爵「んぅむ。物は言いようですね」

総局長「ははは!不透明な政治を嫌い、我々記者に報道の自由を与えてくださった国王陛下に感謝を込めて権利を行使しているまでです!」

公爵「まあ持ちつ持たれつといこうじゃありませんかね。記事に困ったらこうして茶を飲みながら私と世間話をしたらいい」

総局長「毎日と伺いたいところです!閣下のお屋敷では良い"茶葉"を使っておられますからね!」ヘラッ

公爵「いつでも来なさい。極上の"茶"でもてなしますよ」ニヤッ
215: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/18(月) 22:11:52 ID:hiov.r88ZA
公爵「あぁ、ところで小耳に挟んだのだがね」

総局長「!」バッ

公爵「ふふ、さっそくメモを取り出して熱心なことだ」

総局長「良い茶葉を仕入れられましたか?」ヘラヘラ

公爵「口に合うかは君次第ですが」

総局長「」ゴクリ

公爵「サイレンス大聖団に名だたる有力者らが入信するらしい」

総局長「ほほう?近頃話題の尽きないあの謎の団体ですか」メモメモ

公爵「そこにダィール卿やソメリア卿を中心に貴族が名を連ねるとか」

総局長「ふむふむ!それはスクープですが……」

公爵「香りが足りませんか?」クスッ

総局長「いやぁなにしろ国民は鈍感ですからねぇ。鼻がバカになるくらい強い香りと刺激を求めてるんですよ。人気の役者や豪商たちの中に混じってはその名も霞むでしょうし」ポリポリ

公爵「フッ……ではそこに私の名も並ぶ予定だと言ったら?」

総局長「え!?」

公爵「しかも教皇の座に就くのですよ」ニンマリ

総局長「きょ、教皇ってもしや……サイレンス大聖団は……!?」

公爵「いかにも。私の作った組織ですよ」ニヤニヤ
216: 名無しなのよ:2023/12/18(月) 22:13:11 ID:hiov.r88ZA
総局長「こ、これはまさしく大スクープだ!!」カキカキ

公爵「おっと。待ちなさい」

総局長「」ハッ

公爵「まさか全てを記事にするつもりですか?」

総局長「も、もちろん公爵閣下の作られた組織である事は伏せておきます!」アセアセ

公爵「そうですね。それが良いでしょう」

総局長「題名は教皇に選ばれし神の代理人ハリアンス公爵、私達信徒に説いた福音とは?といった感じでいかがでしょう?」

公爵「構いませんとも。筋書きもお任せしますよ」

総局長「は、はい!考えておきます!」

公爵「さ、今日は茶を切らしてしまいました。また近いうちに仕入れておきましょう」

総局長「分かりました!今日のところはおいとまさせていただきます!いつも美味しい茶をありがとうございます!」ヘコヘコ

公爵「ええ、ではまた」

総局長「失礼します!」
217: 名無しなのよ:2023/12/18(月) 22:14:31 ID:hiov.r88ZA
ーーー王都(噴水広場)ーーー

総局長「……」タバコスパー

ワァーワァーキャーキャー!

女の子1「うちのママがね!サイレンス大せーだんに入れてくれたの!」

女の子2「いいなぁ!うちも入りたーい!」

男の子1「サイレンス大せーだんに入ると月1で馬車で楽しいとこに連れてってくれるんだってよ!」

男の子2「そうなんだー!俺も母ちゃんにお願いしよっかな!」

青年1「やっぱ今どき教団なんか古いよな。サイレンス大聖団に入信しなきゃ流行りに乗り遅れるよ」

青年2「お前流行りで宗派選ぶなよなー」

青年3「まあ実際、教団だって最近はそんな厳しい決め事はないし宗教なんて遊びのサークル感覚で選べばいいんじゃね?」

青年4「王国は一応宗教国家だからな。でもどの宗派にするか選ぶ権利は俺たちにあるんだ。面白い方にいこうぜ」

青年5「入信はホビット以外なら誰でも可だからな!気楽でいいや!」

老婆1「サイレンス大聖団はわしらのような年寄りにも居場所を与えてくれなさる。若い聖団員の方々も優しくしてくれるし会合が楽しみでしょうがないわい」

老婆2「うちの爺さんもすっかり夢中じゃて」

老人1「おぉ〜サイレンス神さま!なまんだぶなまんだぶ!」

総局長「子供から年寄りまですっかり骨抜きにされてやがる。どこまでも恐ろしいお方だよ……」タバコプカプカ

総局長「(まさか知らない間に俺たち新聞屋まで抱き込んで一大宗教を作ってたとはな。サイレンス大聖団の聖教新聞を扱ってるのはウチだぞ?)」

総局長「(一時期は国王陛下の英雄譚一色だった空気も呑まれ、キナ臭い香りが漂ってきやがった)」

総局長「(こりゃ政府が傾くのも時間の問題かもなぁ)」

総局長「ま、俺は売れる記事が書けりゃなんでもいいけどよ」ジュッ グリグリ
218: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 07:34:09 ID:FfqO1ditts
更新来てた嬉しい
作者さまのペースで無理なく進めていってください

サイレンス大聖団の、というか公爵の手腕が素晴らしすぎて着々と世に広まっていってて怖いですね
219: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/19(火) 22:48:03 ID:hiov.r88ZA
ーーー城内(副官室)ーーー

ガチャッ

侍女「コーヒー入りました」

政務官「置いてくれ」

侍女「はい。温かいうちにどうぞ」コトッ

政務官「ありがとう」ズズッ

侍女「……お連れ様はホットミルクでよろしかったですか?」コトッ

宣教師「ええ、ありがとうございます……」

侍女「いえ、では失礼します」ペコリ

バタンッ
220: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:48:49 ID:hiov.r88ZA
政務官「知っているか?コーヒーというのは南の国が原産らしい」

宣教師「そうですか……」

政務官「我が王国領でも南には豆農家があり、栽培が盛んだそうだ」

宣教師「なるほど……」

政務官「私はコーヒーが好きでな。自分で配合した豆を挽いて味わうのがもっぱらの日課なんだ」
 
宣教師「そうなんですね……」

政務官「職業病とも言われるがね。この仕事はなにより睡魔との戦いでもある」

宣教師「はあ……」

政務官「人間、集中力を切らせば終わりだ。我々のような人種は特に」ジロッ

宣教師「……」

政務官「我々役人が眠気を押して働く最中にあなたは貴族との交流を嗜んでいたらしい」 

宣教師「……はい」

政務官「美味かったか?」

宣教師「……」

政務官「公爵と飲む酒は美味かったのかと聞いているんだ!?」ダンッ

宣教師「」ビクッ
221: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:49:37 ID:hiov.r88ZA
政務官「なぜあんな真似をした……!?」

宣教師「……」

政務官「私が公爵派に忍ばせた間者から夜会に司祭が出席していると聞いた時は耳を疑ったぞ」

宣教師「……」

政務官「しかも公爵や太后陛下に接触し、潰れるまで酒に溺れていたと」

宣教師「……」

政務官「私がいち早く手配し、身柄を保護したからよかったものの万が一王都の民の前に変わらず姿を現していたら今頃は暴動になっていただろう」

宣教師「恐れ入ります……」
222: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:50:00 ID:hiov.r88ZA
政務官「まんまとハメられたな。あなたの思惑がどうであれ夜会に出席した時点で公爵の手の内だったのだ」

宣教師「私は……自分の意思で参加したつもりでした」

政務官「だがそうではなかった。あなたが頼ったクライリーとかいう領主も公爵の一味だったのだろう」

宣教師「あの方は以前から教団の活動に協力的でボランティアやホビットの保護活動にも積極的に参加してくれて……」

宣教師「平民の出だった自分と同じように環境に恵まれなかった人たちを助けたいと熱心に語ってくれたんです」

政務官「またありがちな……」

宣教師「 親を失った子どもたちにも気さくに声を掛けて励ましたり年末の時期にはプレゼントをあげて喜ばせたり、ご自身も里親として教団で預かっていた子を引き取ってくれたんです……」

宣教師「そんな人が騙していたなんて……私には信じられなかったんです……!」ウルッ

政務官「……」ハァッ
223: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:50:33 ID:hiov.r88ZA
政務官「典型的な"政治"だな……」

宣教師「……!」ググッ

政務官「あなたはヤツが夜会の恒例メンバーである事を知っていたのか?」

宣教師「……付き合いで仕方なくと話していました」

政務官「出席を促されたことは?」

宣教師「冗談混じりではありますが『試しに来てみるかい?』と持ちかけられた事がありました……」

政務官「分かりやすい呼び水だ。もし公爵との繋がりを持ちたい時には自らを頼るように仕向けている」

宣教師「今にして思えば軽率でした……」シュン

政務官「なぜ一言でも私や陛下を通そうと思わなかったんだ?」

宣教師「城下の混乱を聞きつけていても立ってもいられませんでした……」

政務官「っ……ことの重大さを分かっているのか!?」

宣教師「返す言葉もありません……」
224: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:51:54 ID:hiov.r88ZA
政務官「ここにきて国民の信用を失うことは国王陛下の失墜を意味するのだ!!」ダンッ

宣教師「……すみません」

政務官「あなたの失態によって世論は今、完全に傾いているんだぞ!」

宣教師「っ……」

政務官「巷ではサイレンス大聖団だのいう新興宗教が幅を利かせ、教団を追いやる勢いだそうじゃないか」

宣教師「彼らのことはあまり知りませんが……そこまで意識していませんでした」

政務官「大勢の信者がそちらに流れ込んでいるようだぞ」

宣教師「信仰や教えは強制するものではないので……」

政務官「それではダメだ」

宣教師「……?」

政務官「教団もあくまで王政府の一部であって立派な政治的武器だ。信徒を減らすことはすなわち国王陛下の威光を下げることに他ならぬ」

宣教師「政治的……武器……?」

政務官「いいか。今の王国はある意味では先刻の西国との戦争を凌駕する大きな危機に瀕している」

政務官「悠長に構えていると瞬く間に崩壊するのだぞ」

宣教師「……」
225: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:52:18 ID:hiov.r88ZA
宣教師「その……一つよろしいでしょうか」

政務官「なんだ?」

宣教師「教団が政治的武器というのはどういう意味ですか?」

政務官「……気に入らないか?」

宣教師「いえ、ただ私には分からなくて……」

政務官「……我が国の歴史を紐解けば分かることだ」

宣教師「……?」

政務官「王国は代々王政とは名ばかりの傀儡政権で実質宗教によって支配されていた」

政務官「その流れを断ち切ったのが国王陛下であり、救い主であり、教団の現司祭、つまりあなただ」

政務官「ここ数年で政治は国王の下に行われ、ホビットは人との融和を実現し、教団は支配から遠のいた」

政務官「あなたの教えに従う新生教団は伝統から生まれ変わり、新時代を象徴するものとなっていたのだ」

宣教師「皆さんが信じてくれたから実現したのであって私たち自身がどうという訳では……」

政務官「そうかもしれない。だが綺麗事を言ったところで仕方あるまい。国民は王政府と教団が協力関係にあると理解している」

宣教師「……教団を引き受けたのはヒメくんに頼まれたからですが活動そのものは私の理念に基づいていました。癒着とは違います」

政務官「しかしあなたも陛下も救い主に心動かされ、同じ理想を求めたのだろう?」

宣教師「それはそうですが……」

政務官「ならば同じ道を行く同志だ!違うのか?」

宣教師「だからと言って私達が作り上げた大切な団体をまるで道具のように扱われるのは……」

政務官「しかし……」

宣教師「以前あなたに説得されて戦争に協力した時にも王国のやり方は変わってないと揶揄しましたが……それでも気持ちの面では通じ合ってると信じていたから私達は良い関係を築いていられたんです」

政務官「……すまない。言い方が悪かった」
226: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:52:43 ID:hiov.r88ZA
宣教師「私が悪いのは分かってます……。余計なことをしたばかりに迷惑をかけてしまって」

宣教師「でもあなたやヒメくんに相談出来なかったのは……不審に感じていたから」

政務官「不審……?」

宣教師「最近ヒメくんの様子がおかしいとカロルくんから聞きました」

政務官「そ、それは……」

宣教師「私も感じています。明らかに以前の彼ではなくなっていると」

政務官「……!」

宣教師「なぜ彼はカロルくんを軟禁しているのですか?」

政務官「わ、分からん……。私は直接救い主と関係していないのでな」

宣教師「街では北国との戦争が始まるとビラが撒かれていました」

政務官「ああ、そのようだな……」

宣教師「せっかく王都に馴染んでくれたホビットのみなさんを追い出そうとする動きも見られます。それも内部の縺れによるものなのですか?」

政務官「くっ……」

宣教師「城内では王政府側の派閥から何人も貴族側に引き抜かれてるとも聞いています。今この国では何が起こっているのですか?」

政務官「……順序立てて説明してやりたいが私も暇ではない。ただでさえ貴重な時間を奪われているんだ」

宣教師「全てを話すのが無理なら一つだけ聞かせてください」

政務官「……?」
227: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:53:09 ID:hiov.r88ZA
宣教師「あなたの焦りもヒメくんの変化が関わっているのですか……?」

政務官「……ああ」

宣教師「ヒメくんに何が……?」

政務官「さあな……」

宣教師「彼に会わせてもらえませんか?」

政務官「それは無理だな。近頃の陛下は議会にすら出席されん」

宣教師「それなら直接……」

政務官「試みたよ。何度も話し合った」

宣教師「……」

政務官「あれは心の病だ。触れれば触れるほど悪化する……」

宣教師「……!」

〜〜〜回想〜〜〜

宣教師『…呑まれないといいですけどね』

団長『……?』

宣教師『いくら成長したとはいえ、彼はまだ子供です。課せられた使命や人の期待をどこまで背負いきれるか』

……………

宣教師「……現実になってしまったんですね」ボソッ
228: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:53:39 ID:hiov.r88ZA
宣教師「分かりました……」

政務官「……?」

宣教師「私は何をすればいいですか?」

政務官「……」

宣教師「あなたにお任せします。たとえ道具のように扱われても……ヒメくんもカロルくんも、そしてたくさんの人たちが救われるのなら」

政務官「……すまない」

宣教師「こちらこそごめんなさい。頼ることしか出来なくて」

政務官「そんなことは……」

宣教師「私たちはいつも簡単に理想を口にするけれど、それを実現する為に動いてくれてるのは現実を口にするあなたのような人たちですから」

政務官「……その理想がなければ人々は付いてこない。今までもそうだったんじゃないか?」

宣教師「そうですね。あの大樹での永遠の命を巡る争いが遠い昔のよう。あれはまさに理想を追い求めた戦いでした」

宣教師「でも今は違います。理想を守る為にあらゆる現実に立ち向かっている」

宣教師「その結果、幼い子たちが絶望し、苦しんでいるのなら私も現実を見なくてはいけません」

政務官「幼子などとは思わんが……陛下を支えるのが私の務めだ。存分にあなたを利用させてもらう」

宣教師「遠慮なく使ってください。私に政治は向かないので」ニコッ

政務官「ふん……」クスッ
229: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:54:08 ID:hiov.r88ZA



宣教師「まずは教団の信用回復を図りますか?」

政務官「もちろんだ。だが今はその時ではない」

宣教師「サイレンス大聖団を見極めてからですか」

政務官「まあな……」

宣教師「私の知る限り彼らは神や教えといった主張らしい主張をしていませんが、いったいどうやって信徒を募っているのでしょう?」

政務官「調べさせたいところではあるがあいにくと人手が足りなくてな。教団から一部の人間に声を掛け、調査させるのが妥当だろう」

宣教師「ふむふむ。それなら私が潜入しましょうか」

政務官「……本気か?」

宣教師「どのみち私はしばらく身を隠さなければなりません。下手に公爵派の目がある城内にいるより姿を変えて大聖団の一員として振る舞った方がよいのでは?」

政務官「それはそうかもしれんが万が一正体が割れたらどうするつもりだ?」

宣教師「サイレンス大聖団には各界から大物の方が入信されていると聞きますし私もその1人だと言えば信じるでしょう。なんせ世間から私は誰にでも身体を委ねる淫売と囁かれてますから」

政務官「そんな真似をしてみろ。教団の名が地に堕ちるぞ」

宣教師「経験上ですが危険を犯さなければ何事も成し得ません。私達の戦いはいつも0か100でした」

政務官「……」

宣教師「お願いします」

政務官「(たしかに彼女は1人の宣教師として教団の闇を暴こうと立ち上がり、幾度も死線を潜り抜けてきた。
私も北国の問題に掛かりきりで国内には目を向けられん……。ここは任せてみるべきか)」

宣教師「私にやらせてもらえませんか?」ジッ

政務官「……サイレンス大聖団の弱みを握り、教団の信頼を回復させる。それがあなたの役目だ」

宣教師「分かりました」ニコッ
230: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/19(火) 22:58:49 ID:hiov.r88ZA
>>218
すみません。
前回も3年待たせてしまって今回も気付けば3年経っていました……。
正直、自分でも謝罪も感謝も薄っぺらな嘘に思えるほど毎回裏切ってしまっています。
ですが更新を待ってくれている人が1人でもいる事が心から励みになっています。
いつもありがとうございます。
待たせてしまってごめんなさい。
もしまた待たせてしまったらごめんなさい。
更新できるように頑張ります。
231: 名無しなのよ:2023/12/20(水) 13:57:56 ID:7fuLV14Ddo
>>230
大丈夫です。いつだって何年だって、完結するまで、ずっとここで待ってますから作者さんの気が向く時筆がのる時に進めてくだされば幸いです
日中との寒暖差があって風邪ひきやすい時期ですのでご自愛くださいね
232: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/21(木) 21:28:12 ID:hiov.r88ZA
ーーー王国領北の町ーーー

キャッキャッ ワイワイ

宣教師「……」ザッ

『サイレンス大聖団は王都から外れた北の町に本部を置いている。今、分かっていることはそれだけだ』

『入信希望者は皆、一度ここを訪れて入団手続きを受け、無事審査を通れば正式な一員となれるらしい』

ゾロゾロ ゾロゾロ

聖団員1「はい、入信希望の方はこちらにお並びくださーい!」

宣教師「」スッ

聖団員2「順番の方こちらへどうぞ。まずは瞳を見させていただきますね」

宣教師「どうぞ」メガネハズシ

聖団員2「はい、問題ありません。係の指示に従って行ってください。次の方〜」

宣教師「(最初に瞳の色を見てホビットでないか確かめるんですね)」スタスタ

聖団員3「お待たせしましたー!こちらで採寸を取らせてくださいね!」テキパキ

宣教師「(あとは採寸を取り、サイズの合う団服を支給する。つまりたったあれだけで審査は通過してるのですね)」
233: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:29:20 ID:hiov.r88ZA
宣教師「(拍子抜けするくらい簡単に潜入出来ちゃいました)」

聖団員4「採寸を終えた方どうぞ!最後に簡単な質問をさせてください!」

宣教師「分かりました」

聖団員4「教団の司祭……」

宣教師「!?」ドキッ

聖団員4「についてどんなイメージがありますか?」

宣教師「あ、ああ……そ、そうですね。司祭ですか。えーと(バレたかと思いました……)」ドキドキ

聖団員4「いえね、私達サイレンス大聖団はともかく教団の古参の方たちは異教を嫌うでしょう?
トラブルにならないよう入信前に教団の信者か確かめておかないといけないんで」

宣教師「異教を嫌う、ですか?私達……いえ、教団はそんなことを気にしないと思いますけど」

聖団員4「えーウソですよー。現に対立が生まれてますもん。熱心な教団の信者の人たちは私達を怪しい団体だって決めつけて腫れ物扱いしてくるんですよー?」

宣教師「それはサイレンス大聖団が一方的に教団を貶める内容の記事を流してるからでは?」

聖団員4「いやいや私達は真実しか伝えてませんしー?なんで私達が悪いみたいになってるんですかー?」プクー

宣教師「わ、悪いというか……」

聖団員4「あなたもしかして教団の信者です?」ジト

宣教師「……!」タジッ
234: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:30:33 ID:hiov.r88ZA
宣教師「(ここはとりあえず自然に乗り切らなければ……)」

聖団員4「さっきから教団を庇うような言い方だしぃ?別にいいんだけどあんな終わってる宗派に義理立ててもしょうがなくない?」

宣教師「そ、そうですね。あなたのおっしゃる通りです……」

聖団員4「でしょ?今どきの若い子はみんなそうですよ?
サイレンス大聖団は難しい教えも厳しいルールもなくて誰でも歓迎だし団服もオシャレで信者同士も和気藹々としてるし楽しいイベントも充実してるんですから!」

宣教師「(たしかに宗教というより地域のコミュニティのような感じですが……)」

聖団員4「多いんですよ。あなたみたいに教団の信者だったっていう人。でも大丈夫!こっちの方が絶対楽しいですから!」

宣教師「……」

聖団員4「古いのは忘れて新しい事を楽しみましょ!ね?」

宣教師「そ、そうですね」ニコッ
235: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:31:54 ID:hiov.r88ZA
宣教師「なんとか切り抜けられました……」フー

宣教師「(楽しい、か。私達は戒律こそ厳しくないものの差別を無くすというはっきりとした目標を持って活動してる)」

宣教師「(若い人たちにとってはそういうものが重苦しく感じるのかもしれませんね……)」

青年1「今日は入信した人気の役者たちが演劇を披露してくれるってよ!」

青年2「俺、生の女優見るの初めてだぜ!」

青年3「教団とはやる事が違うよな!あっちじゃ今頃ゴミ拾いだ草むしりだ炊き出しだとボランティアばっかやらされてんじゃないか?」

宣教師「(……ボランティア以外にも礼拝や孤児院の子供達がふれあいの場を作る院外活動など交流はしてますが新鮮味に欠けるのでしょうか)」

若い女1「見てみて!このアクセサリー!オシャレでしょう?」チャラッ

若い女2「すごーい!どこで買ったの?」

若い女1「ブランドに詳しい貴婦人が集会で教えてくれたの!貴族の間でこれが流行ってるんですって!」

若い女2「えー!私も参加したかった!」

若い女1「今度社交会で流行りのメイクを教えてくれるって言うから行こうよ!」

若い女2「やった!絶対行く!」

宣教師「(ふむふむ、若者が好む遊びや流行りをしっかり押さえている。なるほど、これは私たちにはない発想ですね)」

宣教師「町の住人にも聞き込みしてみますか」
236: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:33:14 ID:hiov.r88ZA
店員1「ほらほら寄った寄ったー!サイレンス大聖団御用達の土産屋だよー!」

店員2「うちは今一番アツい競馬レースだ!勝ち馬を予想して当てたら賞金!まだやった事がないなら試しに賭けてみて!」

店員3「王国貴族ご推薦の素晴らしい品々をご覧あれ!王都広しとはいえこれだけの物を取り扱ってるのはウチだけですよ!」

宣教師「すごい賑わいですね」

町民1「ええ!そりゃもう!サイレンス大聖団様々ですわ!」

宣教師「この町に進出して日が浅いでしょうに」

町民1「そこですよ!私どもも頭が追いつかないくらい急速に変化しちゃって!」

宣教師「(急拵えでところどころテント張りやハリボテで賄っている店舗を豪華な飾りつけや目を引く商品で誤魔化してる訳ですか。
競馬場は広い牧場を借りたのでしょう。町の開発に携わった方々のアイデアと依頼主の徹底した節約が光ってます)」キョロキョロ

町民1「サイレンス大聖団が本部を置いてからこの町はめざましい発展を遂げましたよ。
今まで貴族の間だけで楽しまれた娯楽や贅沢品を惜しみなく私達庶民に流通させてくれたからです!」

宣教師「たしかに……普通なら手の届かないような品ばかり目に入りますね」

町民1「私も今じゃサイレンス大聖団のファンですよ。特に最近は教団も良い噂を聞かないしね」

宣教師「……やはり司祭は信用出来ませんか?」

町民1「俺は話したこともなきゃ会ったこともないからどんな人か知らないですけどねぇ。火のないところに煙は立たずとも言うし……」

宣教師「(今話してるのが噂の張本人だと知ったらどんな顔をするんですかね)」クスッ

町民1「どうしたんです?」

宣教師「あ、いえ。お話ありがとうございました」ペコリ
237: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:35:15 ID:hiov.r88ZA
町民2「とにかくサイレンス大聖団には感謝してますよ!教団なんかにはもう付いていけません!」

宣教師「皆さんそうおっしゃいますね。聖団はずいぶんと教団を目の敵にしてるみたいですけど」

町民2「逆ですよ!逆!教団が聖団を敵視して頑なに拒んでるんだ!」

宣教師「そうなんですか?」

町民2「実はここだけの話、聖団員が信者に嫌がらせを受けてるんですよ」

宣教師「嫌がらせ?」

町民2「ウチんとこはポストにゴミを詰められたんです」

宣教師「なぜ教団の信者の仕業だと分かったんですか?」

町民2「そんなの簡単です!みんなやられてんですから!」

宣教師「みんなって……証拠はあるんですか?」

町民2「ええ!聖教新聞にしっかり書いてありますよ!教団の嫌がらせ被害が相次いでるってね!」

宣教師「その記事を書いた方はどうやって加害者の信者を特定したんですか?」

町民2「そんなのウチらは知りませんよ!とにかく書いてあるんだから間違いないんですよ!」

宣教師「なるほど……」

町民2「あなたも入信したってことは聖教新聞を取るんでしょう?ちゃんと読んだ方がいい!あれには真実が書かれてるから!」

宣教師「……そうですね。ぜひ読んでみたいです」
238: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:36:57 ID:hiov.r88ZA
新聞屋1「はい!聖教新聞一部ですね!どうぞ!」バサッ

宣教師「お代はこちらに」チャリンッ

新聞屋1「まいどどーも!」

宣教師「(ずいぶんと分厚いですね。新聞というよりはパンフレットのような見た目ですが……)」ピラッ

『衝撃!!教団の悪事がまたも明るみに!!』

宣教師「(分かりやすい太文字で大袈裟に誇張した表現……これならたしかに目を惹きますね)」ペラッ

宣教師「(寄付金の不正な使い込み……孤児たちに過酷な強制労働……強引な勧誘……札や御守りの押し売り……非入信者への嫌がらせ行為の数々……)」イラッ

宣教師「……」ブンッ

聖教新聞「」バサッ

宣教師「」ハッ

宣教師「いけませんいけません!道ばたにゴミを捨てるなんて聖職者としてあるまじき行為!それこそ記事に書かれてしまいます!」アセアセ

宣教師「(それにしても酷い書かれようですね。以前までの教団ならいざ知らず現在は真っ当な活動しかしていないのに)」

宣教師「(だいたいにしてこの不正な使い込みというのも先日の夜会に出席した件を結びつけて色んな社交会に顔を出しては散財してるなんてでっち上げを並べて!
なんですか、関係者は語るって!あの夜、私以外に教団関係者なんていなかったじゃないですか!)」ムカムカ

宣教師「(孤児院の子供達の強制労働も院外学習でボランティアをした時の出来事を取り上げて悪く書いてますし強引な勧誘や押し売りに至っては私が引き継ぐ前の頃の話でしょうに!)」

宣教師「(非入信者への嫌がらせはさっき町の人も言ってましたね……。でもよく読むと"そうに違いない"とか"見ていた人の話によると"なんていう曖昧な情報や憶測を書き連ねてホントのように見せてるだけ!)」

宣教師「(やっぱりこの団体は何かおかしいですね……!必ず真実を突き止めなければ!)」メラメラ

???「」ジー

宣教師「ん?」

宣教師「(な、なんでしょう。人のことをじろじろ見て?)」ドキドキ

???「ねえ、もしかして」

宣教師「(まさか私の正体に気付かれた……!?)」ハッ

???「宣教師様?」

宣教師「違います!私は決して司祭では……へ?」キョトン

???「覚えてないの?ぼくだよ。ほら」フードヌギッ

宣教師「き、キミは!」
239: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:39:51 ID:hiov.r88ZA
???「久しぶり」ニコッ

宣教師「ぱ…パッチくん!パッチくんじゃないですか!」パァァ

???(パッチ)「宣教師様ったらひどいや。村で毎日お話聞いてたのに忘れちゃったの?」

宣教師「ご、ごめんなさい!ずいぶん背も伸びて大人びていたので」

パッチ「あれから何年経ったのかな。村で過ごしてた頃が懐かしいね」

宣教師「ええ、キミもルーボイくんもまだ幼くてよく手を焼いていましたっけ」シミジミ

パッチ「ルーボイくんか。よく一緒に遊んでたなぁ」

宣教師「彼も元気にしてますよ」

パッチ「そうなんだ。まあそれくらいが取り柄だもんね」

宣教師「ふふ、本人に聞かれたら怒られますよ?」

パッチ「思い出すなぁ。魚屋のテパ兄ちゃんともよく遊んだし村長はよく勉強を教えてくれたっけ」

宣教師「そうですね。あの村にはとてもお世話になりました」

パッチ「……うん。そうだよね」

宣教師「それよりもパッチくんはなぜここに?今までどうしていたんですか?」

パッチ「僕?そうだね……。親切な人に拾われたんだ」

宣教師「そうでしたか。とにかく無事でなによりです。あなたと再会出来てどれほど嬉しいか……!」ウルッ

パッチ「ありがとう。僕もうれしいよ。宣教師様にまた会えて」ニコッ

宣教師「っ……ホントに、うれしいです」グスッ

パッチ「ここじゃなんだし僕の家においでよ。積もる話もあることだしさ」ニコニコ

宣教師「そうですね。お邪魔させてもらいます」ニコッ
240: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 15:10:19 ID:6KwZzvLqkY
パッチ!!懐かしいなぁ元気そうでよかった
でもちょっと怖いぞこの登場の仕方…

つCCCC
241: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/22(金) 21:51:40 ID:hiov.r88ZA
ーーー北の町(寄宿舎)ーーー

パッチ「ここだよ」

宣教師「へぇ、立派な建物ですね!学生寮ですか?」

パッチ「そんな感じ。親切な人が僕らの為に用意してくれたんだ」

宣教師「ここに住んでる人はみんな同じ人に拾われたんですか?」

パッチ「そうだよ。今どき僕みたいな境遇は珍しくないしね」

宣教師「キミを助けてくれた上に大勢の人たちを救ってるなんて、とても素晴らしい方なんですね!」キラキラ

パッチ「うん。いい人だよ」

宣教師「機会があれば是非会ってお礼をしたいです。こんなに素敵な再会が出来たんですから!」

パッチ「そうだね。今度会ったら伝えてみるよ」

宣教師「お願いしますね!」

パッチ「そろそろ中に入ろうか。少し歩かせちゃったし宣教師様も疲れたでしょ?」

宣教師「そうですね。キミとゆっくりお話したいですし上がらせてもらいます!」ウキウキ

パッチ「僕もだよ」ニコッ
242: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:53:02 ID:hiov.r88ZA
バタンッ

宣教師「お邪魔します」

パッチ「どーぞ。狭いけどくつろいでって」ニコニコ

宣教師「綺麗にしてますね。さすがしっかり者のパッチくんです!」

パッチ「あはは、よしてよ。ただ無趣味で物が溜まらないだけなんだから?」

宣教師「そんなことはありませんよ。キミはいつもわんぱくなルーボイくんと対照的に落ち着いてましたし」

パッチ「そうだったかなぁ?」

宣教師「そうですよ。彼なんて未だにガキ大将気分が抜けてないんですから?」

パッチ「そっか。まあ座ってよ。今お茶入れるからさ」トポトポ

宣教師「ありがとうございます。失礼しますね」ストッ

パッチ「はい。大した物は出せないけど」コトッ

宣教師「いえいえ、キミが入れてくれたお茶を飲めるなんてこれほどの贅沢はありませんよ」ニコニコ

パッチ「ふふふ、大袈裟だなぁ。まるでもう会えないと思ってたみたいじゃん?」

宣教師「あ、いえ!そ、そんなつもりじゃ……」アワアワ

パッチ「ほらほら、慌てるとこぼしちゃうよ?」

宣教師「ご、ごめんなさい。でもホントにそういう意味じゃないんです」シュン

パッチ「分かってるよ。ちょっとからかってみただけだって?」クスッ

宣教師「ああ……それなら良かったです」ホッ
243: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:54:13 ID:hiov.r88ZA
パッチ「僕のこともいいけどさ。宣教師様は何してたの?」

宣教師「私ですか?」

パッチ「うん。わざわざこんな所になんの用で来たの?」

宣教師「それは……王都で話題だったので興味本位で」

パッチ「ふーん。でもさ、宣教師様は今も教団の人なんでしょ?もしかして辞めちゃったの?」

宣教師「えーと、その……辞めたというか……」

パッチ「どうしたのさ?なんかはっきりしないね?」

宣教師「……」

パッチ「ひょっとして聞いたらまずかった?」

宣教師「そ、そんなことは……」ツツー

パッチ「ウソだー?すごい動揺してるもん?」

宣教師「ど、動揺ですか?あ、そうだ!森のくまさん歌いましょうか!」アセアセ

パッチ「それは童謡でしょ!」
244: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:54:58 ID:hiov.r88ZA
パッチ「ショックだなぁ?久しぶりに会えたのに隠し事されるなんて?」

宣教師「か、隠し事だなんて……」

パッチ「だってそうでしょ?この町に来た理由も話せないなんておかしいじゃん?」

宣教師「で、ですから観光で……」

パッチ「観光ねぇ。サイレンス大聖団になんか入信して?」

宣教師「ど、どうしてそれを!?」ガタッ

パッチ「どうしても何も聖団の団服着てるじゃん」

宣教師「ハッ!そういえば支給されて着替えたんでした!」

パッチ「ははは……昔からそういうとこあるよね?」ヒクヒク

宣教師「これには深い訳があるんです!どうか私が教団の人間だという事はナイショにしててください!」アセアセ

パッチ「別に言わないよ?僕は聖団員じゃないし?」

宣教師「ありがとうございます……!」ホッ

パッチ「でもここに来た理由くらいは話してほしいな?」

宣教師「分かりました…」
245: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:55:50 ID:hiov.r88ZA
パッチ「サイレンス大聖団を内側から探りに来た?」

宣教師「しっ!大きな声で言わないでください!隣の部屋に聞こえたら大変です!」

パッチ「いや、そんな大きい声出してないよ…」

宣教師「どこで誰が聞いてるか分からないんですから!」

パッチ「気にしすぎだよ。あんなの流行り好きな人たちの溜まり場じゃん」

宣教師「それでもです!なにせ今回の任務は王政府の勅命……あ、いや!勅命というか直面してるんですから!危機に!」アワアワ

パッチ「何言ってるのか分からないよ。お茶飲んで一息付いたら?」

宣教師「」ズズッ

宣教師「はぁ……沁みる……」ホッコリ

パッチ「どう?落ち着いた?」

宣教師「はい。見苦しいところをお見せしました……」

パッチ「とりあえず詳しく話してみてよ。僕も協力出来ることがあるかもしれないしさ」

宣教師「協力してくれるんですか!?」

パッチ「うん。するよ。だって僕は宣教師様の教え子だもん」ニコッ

宣教師「ぱ、パッチくん……キミという子は……!」ウルウル

パッチ「もー!泣かないでよ。相変わらず大袈裟だなぁ?」

宣教師「そんな風に言われたら……泣きたくなるに決まってますよ!」ゴシゴシ
246: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:56:56 ID:hiov.r88ZA
パッチ「ふーん、そっか。サイレンス大聖団が教団を悪者にして勢力を拡大しようとしてるんだね」

宣教師「そうなんです。それも物凄い勢いで」

パッチ「勉強と仕事で忙しくてあんまりよく知らなかったけど、そんなことになってたんだ?」

宣教師「この町も聖団の台頭によって急成長したと聞いてます。住んでいて感じる事はありませんか?」

パッチ「うーん。どうかなぁ?町は賑わってるけど僕は別に高級服も競馬レースも興味ないし」

宣教師「住人からするとそんなものなんですかね」

パッチ「まあね。観光名所とかって地元の人は案外行かないでしょ?そういう感じだよ」

宣教師「そうですよね。となると町の人たちは聖団に入信してない人がほとんどなのでしょうか?」

パッチ「ううん、みんな入ってるんじゃないかな?」

宣教師「へ?でもあまり関心は持たれてないのでは?」

パッチ「僕なんかは元々よそ者だからね。ずっと住んでる人たちはいい町おこしになって喜んでるよ」

宣教師「なるほど……」

パッチ「それに入信してないと嫌がらせがあるからね。興味なかった人たちもそれで渋々入信してるみたい?」

宣教師「」ピクッ
247: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:58:09 ID:hiov.r88ZA
宣教師「その話詳しく聞かせてください!」ズイッ

パッチ「ち、近いよ……」

宣教師「大事なことかもしれないんです!」

パッチ「そ、そう?ただ単に聖団入信者は優遇されてそうじゃない人たちは不遇な扱いを受けるってだけだよ?」

宣教師「具体的にお願いします!」

パッチ「たとえば買い物する時に聖団員じゃないと値段を高くされたり公園や厠が聖団の敷地になってて使えなかったりするんだ」

宣教師「町の施設を聖団が所有してるんですか?」

パッチ「うん。特に困るのは水だよ。町には6つの井戸があるんだけど、そのうちの4つを聖団が区切って見張りを立ててるんだ」

宣教師「な、なんて横暴な!元々は町の皆さんが使ってた物じゃないですか!」

パッチ「そうだけど聖団は資金力にものを言わせてるんだよ。町長も領主も抱きかかえられてるんだ」

宣教師「それで町の人たちは仕方なく聖団員に……」

パッチ「そういうこと。僕も聖団服持ってるんだよ?」ビッ

宣教師「あ、壁に掛かってますね。ん?」
248: 支援ご感想ありがとうございます!:2023/12/22(金) 21:59:48 ID:hiov.r88ZA
宣教師「(本棚に初代教団の聖書が……なぜ今さらあんな物を?)」ジー

パッチ「どうしたの?」

宣教師「あ、いえ、見たことのある本があったので」

パッチ「ああ、聖書?懐かしいでしょ。よく宣教師様が読み聞かせてくれたもんね」

宣教師「……そうですね。今となっては恥ずかしい限りですが」

パッチ「そうなの?僕は大切にしてるよ」

宣教師「思い出、ですものね」

パッチ「まあね」

宣教師「パッチくんは……今の教団についてどう思いますか?」

パッチ「僕?」

宣教師「はい。聖団や町の人たちは否定する声が多かったので」

パッチ「僕は……」

宣教師「」ゴクリ

パッチ「よく分かんない」

宣教師「」ガクッ

パッチ「ほら、僕って神様とか信じないから?」ヘラヘラ

宣教師「な、なるほど……」
249: 名無しなのよ:2023/12/27(水) 21:37:28 ID:FfqO1ditts
最後に出た時はみんな嫌いだみんな死んじゃえと言ってたパッチ、あれからどうしてたんだろう?どうやって生きてこれたんだろう?

年末年始お忙しいとは思いますが体調崩さぬようお気をつけください
つC
250: ◆WEmWDvOgzo:2024/1/1(月) 00:11:31 ID:PPdTfIjnZQ
明けましておめでとうございます。
更新遅くて申し訳ありません。
感想とても励みになっております。
来年もよろしくお願い致しますm(_ _)m
251: 名無しなのよ:2024/1/8(月) 17:39:21 ID:0H4X6K45kU
𝐻𝑎𝑝𝑦𝑁𝑒𝑤𝑌𝑒𝑎𝑟
作者さんにとって良い一年となりますように
更新頻度はお気になさらないでください!
待つ時間も楽しいですし読み返して理解を深める良い機会ですから
今年もよろしくお願い致します
252: 名無しなのよ:2024/3/3(日) 02:13:17 ID:OFbOhCPxzw
待ってます
つC
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