あらすじ
永遠の命。その鍵となる救い主、カロル。
欲望に目覚めた西の国。狂気は果てしなく蠢く
遂に勃発してしまった戦争
強大な西の国に立ち向かうべく王国、東国、南国は6ヶ国同盟から成る平和協定を破り、3国連合軍を結成する
南国は多大な犠牲を払い、国王ローレンの命と引き換えに西帝国軍の主力を削った
東国は張り巡らされた罠を果敢に打破するも圧倒的な力の前に粉砕される
敵地にて孤軍となった王国軍
総指揮官フィクサーの戦略采配が功を奏し、帝都本拠地の制圧を完了した
一方で吉報を待ち、国内に留まる王国の国王ヒメ
迫り来る侵略の魔の手を退ける為、東国のホビット族と手を結ぶ
彼らによって明かされた最後の真実
アピシナの大樹の成り立ち
かつて癒しの力は破滅を導いた
人もホビットも共通する願い
永遠の命が野心をくすぐる
穢れなき無垢な愛情は火種となって注がれ、混沌とした世界を象徴するように大樹を巡る争いは止まなかった
忘れ去られた無残な過去
300年もの月日を経てなお繰り返される歴史
誰も止めることは叶わない
友情を取るか、安寧を取るか
時を追う毎に取捨選択を強いられる
捨てていいものなど一つもないのに
121: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:49:27 ID:e4mtUywSu.
〜〜〜夜〜〜〜
―――王宮(国王の間)―――
ヒメ「(どうしたらいい?どうしたら争いを避けられる…!?)」バサッ
ヒメ「(東国が話し合いの意思を見せない限り、王国の出る幕はない…!)」ワシワシ
ヒメ「(北国の無茶な要求が引き金だとしたら直接、北国に譲歩してもらえるよう取り計らうしかないが…)」
ヒメ「(それでもし要求が加速したら…それこそ大惨事だ!)」ギリッ
ヒメ「(どちらかと言えば、その可能性が高いか!北国にしてみたら利権を根こそぎ頂ける、またとない好機だもんな!)」
ヒメ「(それでなくても各国に政策じゃなく侵略で国を豊かにする思想が芽生え始めてる…!)」
ヒメ「(その流れを産み出してしまったのは……)」ググッ
ヒメ「(どう転んでも混沌だ。救いようのない…!)」ガバッ
122: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:50:50 ID:VfV4LPRyvs
コンコン コンコン
ヒメ「…入れ」
給仕1「失礼します!ご公務捗ってますかー?」ガチャッ
ヒメ「……」
給仕1「お、お食事の支度が整いましたので!」アセアセ
ヒメ「そうか。ここに持ってきてくれ」
給仕1「あ、今日はその…食堂で召し上がられませんか?」
ヒメ「は?」
給仕1「す、救い主様が一緒に食べたいと…申し出てまして?」モジモジ
ヒメ「…悪いがそんな気分にはなれない。断ってくれ」
給仕1「あ、で、ですが…」アセアセ
ヒメ「なんだ?」ジロッ
給仕1「な、仲直りしたいとも…おっしゃられてました」
ヒメ「仲直り…?」
給仕1「陛下を怒らせてしまったのは、きっと自分が何か間違いを犯したから、と思い悩んでるみたいで…」
ヒメ「(…なんだよ。あいつ)」
給仕1「本当によろしいのですか…?」
ヒメ「いい。それよりもあいつを部屋から一切出すな。なるべく人の目に触れないよう注視しておけ」
給仕1「か、かしこまりました…」シュン
ヒメ「……」カリカリ
バタンッ
123: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:52:18 ID:VfV4LPRyvs
ヒメ「……」カリカリ
ヒメ「(なんだよ。なんだよ…なんだよ!)」ピタッ
ヒメ「なんなんだよ!あいつはぁ!?」ブンッ
万年筆「」カンッ コロコロコロ
ヒメ「仲直りしたい…?怒らせたのは自分のせい…?なんにも分かってないな!!」ダンッ
ヒメ「(僕が…一人で悩んでるだけだ!勝手に必死になってるだけだ!)」ギリッ
ヒメ「(なんで、なんであんな大事に巻き込まれて…痛みを伴って…それでもヘラヘラ笑ってられるんだよ!?)」イライラ
ヒメ「(無事に帰れたのがそんなに嬉しいか!家族がそんなに愛しいか!平穏な生活がそんなに楽しいか!?)」
ヒメ「(それを守ってやる為に…頑張ってるのは誰なんだよ!?)」
ヒメ「(全て終わって一件落着なら、どんなに良かったか…!分かってないんだ!あいつは…なにも!)」ガバッ
ヒメ「(なんにも…!)」ブルッ
ヒメ「…どんな顔して会えばいいんだよ」ギュウウ
ヒメ「僕は…おまえとの約束を守れそうにないんだぞ?」ボロッ
コンコン
ヒメ「……!?」
124: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:55:25 ID:e4mtUywSu.
「夜分に恐れ入ります。入ってもよろしいでしょうか?」
ヒメ「…あぁ」グシッ
ガチャッ
政務官「失礼…」ペコッ
ヒメ「…手短に言え」
政務官「では前置き無しに伺いますが大后様とは話し合われたのですか?」
ヒメ「…まだだ。予定が合わなくてな」
政務官「予定が合わない?大后様は毎晩、夜遊びに興じておられますが?」
ヒメ「僕が、だ。分かるだろ」
政務官「いいえ、分かりかねる」
ヒメ「……」
政務官「今日は議会を欠席されていましたが…私はてっきり大后様に会っていらっしゃるものとばかり?」
ヒメ「公爵家が余計な動きをしてるみたいだな…」
政務官「はい。正直に申し上げますが…貴族側が本腰を入れれば我々、政治に与する者にとって致命的です」
ヒメ「資金繰りか…それともコネか?」
政務官「それも重要ですが…もっと根本的な部分です」
ヒメ「役人の八割が貴族出身だと言いたいんだろ…?」
政務官「そうです。そして彼らは爵位に忠実でなければなりません」
ヒメ「くだらない…」
政務官「そのくだらない制度によって貴方は国王の地位を授かっているのです」
ヒメ「王族は貴族を束ねる官職で国民の代表だ。あいつらとは違う!」
政務官「……」
125: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:56:10 ID:VfV4LPRyvs
政務官「…未だにお母上を恨んでらっしゃるか」
ヒメ「」ピクッ
政務官「確かに貴方から見れば行きすぎた価値観の持ち主かもしれないが…王族としての振る舞いを心掛ける上では当然の考え方です」
ヒメ「……」
政務官「あのお方も決して根の悪い人間ではございません。古い感覚が染み付いて時代錯誤しているだけなのですよ」
ヒメ「恨んでなんかない…。ただ…」
政務官「ただ?」
ヒメ「母上は頑としてホビットを認めようとしない…。僕とは正反対なんだ」
政務官「その食い違いは重々…しかし貴方が自ら説得を試みない限り溝も永遠に埋まりませんぞ」
ヒメ「母上は僕の話なんて聞こうともしない。一方通行で疲れるだけだ」
政務官「ですが、お父上とは和解なされた筈。その時のようにはいきませぬか?」
ヒメ「和解と言ったって…ほんの少しの間だ。それに父上も最後までホビットを認めてなかった」
政務官「…ではせめて議会には出席していただきたい。持ち寄った案も直接のお許しを頂けなければ実行に移せず手間となります」
ヒメ「……」コクッ
政務官「…今は私情に駈られている場合ではございません。お母上との件もよくご検討くださいますよう」
ヒメ「あぁ、考えておくよ…」
政務官「宜しくお願い申し上げます…。失礼しました」ガチャッ
バタンッ
126: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:57:13 ID:VfV4LPRyvs
〜〜〜深夜〜〜〜
―――城(王立図書館)―――
ヒメ「……」ペラッ
「悩ましい事があると、書庫にこもって蔵書を読み耽る…変わりませんのね」スタスタ
ヒメ「」ビクッ
大后「そこに貴方の求める答えがありまして?」ニコッ
ヒメ「は、母上…!?」ハッ
大后「お隣、失礼しますわね」ストッ
ヒメ「…僕に何か?」ジロッ
大后「あら、なんて目をなさるの?わたくしは貴方の産みの親ですことよ?」
ヒメ「今夜も招かれているのでしょう。こんな場所にいてよろしいのですか?」
大后「今夜はいいの。陛下……いいえ、可愛い我が子と他愛もない話がしたくて参りましたのよ」
ヒメ「明日も早いので失礼します」ガタッ
大后「救い主…でしたわね」ボソッ
ヒメ「……!?」ピタッ
大后「聞くところによるとホビットの子供だとか」
ヒメ「それがなにか?」キッ
大后「解せないわ、とても…とても解せない」
ヒメ「っ……」ギリッ
大后「王国の救い主?ましてや国王の親友?なんて似つかわしくない響きかしら?」
ヒメ「母上には関係のないことです!」ダンッ
大后「……」ジッ
ヒメ「……!」ジッ
127: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:58:48 ID:VfV4LPRyvs
ヒメ「話は以上でしょうか…。僕は母上と違い、多忙ですので用が無ければ…」
大后「この飾り…」チャラッ
ヒメ「は…?」
大后「美しいと思いませんこと?」クスッ
ヒメ「…宝飾を愛でる趣味はありません」プイッ
大后「王族らしからぬ発言ですわね。こんなにも煌めいて鮮やかですのに?」チャラッ
ヒメ「なんとでもお言いください…」
大后「このアメジストなど、ほら?素晴らしい…庶民には一生、手の届きませぬ代物よ?」
ヒメ「…その宝石が民の労働に値する対価たりえるとは到底、思えませんね」
大后「貴方は何も理解出来てませんのね…」ハァッ
ヒメ「なんですって…?」イラッ
128: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:59:39 ID:e4mtUywSu.
大后「このラピスラズリも、エメラルドも、ルビーも、トパーズも、ダイヤモンドも…高貴なる者の証」チャラッ
大后「太古より宝石は身分の高い者にのみ行き渡りました。どの時代も、どの国でも」
大后「この輝きに価値があるのではなくて、この輝きを身に付けるに相応しい人間にこそ価値がありましてよ?」ニヤッ
ヒメ「……」
大后「貴方もそろそろ自覚なさい。この世は上下に分かたれる物…上位に生まれた誉れを存分に味わってはいかが?」
ヒメ「…この地位を授かれた幸運にはとても感謝しております」
大后「そう。それでいいのよ…?」ニィィッ
ヒメ「ですが…僕は地位に溺れる気はございません」
大后「」ピクッ
ヒメ「失礼します…」スタスタ
ガチャッ
バタンッ
大后「……」チラッ
本「」ポツン
大后「(何を熱心に読んでいるかと思えば、純愛小説……)」ヒョイッ
大后「愚かですわね…。王族に一途な恋が赦されると思っているのかしら…」ペラッ
大后「美しいだけの物語など、この世にありはしないというのに…」ポツリ
大后「あの子はまだまだ自覚が足りませんわ…」フッ
129: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:00:50 ID:VfV4LPRyvs
〜〜〜昼〜〜〜
―――辺境地(川)―――
ピーン クククッ
ルーボイ「うおっ!来たぞ来たぞ!こりゃ大物だ!」グググッ
孤児1「わー!兄ちゃんすげー!」
孤児2「がんばれー!」
母「ふふ…」ニコニコ
ラム「網の準備できたよ」
ナラ「やさいから、やこっか」スッ
ミシング「んー!いい匂い!出来上がりが楽しみだねー!」
ルーボイ「おぉ!釣れた!」ピシャッ
孤児1「やったー!」
孤児2「兄ちゃんすげー!」
ナラ「わぁ!おっきい!」
ラム「やるじゃん」クスッ
ルーボイ「へっへーん!俺にかかればへっちゃらだぜ!」
母「じゃあそのお魚も捌いて焼きましょっか」ニコニコ
ルーボイ「やっりー!」グッ
130: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:03:24 ID:VfV4LPRyvs
ジュージュー ジュージュー
ルーボイ「うんめぇ!やっぱ外で食う飯はちげーな!」ガツガツ
孤児1「兄ちゃんばっかり、お肉ずるい!」
孤児2「そうだよ!」
ナラ「ふたりのぶん、わたしがとりわけるね」スッスッ
孤児1「ありがとう!お姉ちゃん!」
孤児2「ナラ姉ちゃん大好き!」
ラム「同い年なのにこうも違うんだね」チラッ
ルーボイ「う、うっせぇ!男ってのは肉を食うんだよ!」
ラム「はいはい、そーですね」モグモグ
ルーボイ「へん!お前は野菜ばっか食ってるからチビなんだよ!」
ラム「」ムッ
ルーボイ「どーだ!言い返せねぇだろ、チビ!」
ラム「君こそ僕がいない間に太ったんじゃない?」
ルーボイ「は?」プヨッ
ラム「下品な食べ方してるから見た目まで下品なんだよ。みっともない」
ルーボイ「だ、誰が下品だってぇ!?」イラッ
ラム「だから君が」
ルーボイ「こ、こいつぅ〜!もうゆるさねぇ!」ワナワナ
ナラ「はい」スッスッ
ラム&ルーボイ「?」
ナラ「はやくとらないと、こげちゃうよ?」ニコッ
ラム&ルーボイ「」ドキンッ
ナラ「なかよくたべよ?みんなでピクニックにきたんだから!」ニコニコ
ラム「…一時休戦だね」
ルーボイ「お、おう…」
131: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:04:27 ID:e4mtUywSu.
ミシング「あー!いいお天気!太陽がまぶしいにゃー!」ゴロゴロ
母「そんなに転がったら服が汚れてしまいますよ?」ニコニコ
ミシング「ん〜…だぁってマリーさんとナラちゃんがしっかり者だから、あたしのやる事ないんですもーん!」
母「たまにはいいじゃないですか。ゆっくりする時間があっても」ニコニコ
ミシング「まぁあたしは大助かりなんですけどねぇ!にしし!」ヘラヘラ
母「みんなも楽しそう…。近場でも普段と違うことをしてみると景色が変わるものね」ニコニコ
ミシング「子供たちも、そろそろ将来に目を向ける時期ですからねー。新鮮な気持ちで息抜きしてもらわなくちゃ!」
母「…将来、ですか」
ミシング「みーんな夢を見つけ始めてるみたいですよー!ナラちゃんはあたしみたいに孤児院で働きたいって言ってますし!」
母「まぁ、ナラちゃんが…きっと素敵な寮母さんになれるわ」ニコニコ
ミシング「あのルーボイくんも、こないだ教団で色んな人たちを支えられる仕事がしたいって言い出しちゃって」
母「あの子にとって宣教師様は姉みたいなものですものね。憧れた人のようになりたいのかも」
ミシング「それにラムくんも本に携わる仕事がしたくて勉強してるんですよー。えらい!」
母「…みんな素敵な夢を持っているのね」
ミシング「楽しいだけじゃないですけどねー」
母「えぇ、実際には辛いことも多くて厳しいけれど…やりたい事を見つけられるだけでも幸せなことだわ」
132: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:05:04 ID:e4mtUywSu.
ミシング「子供の頃は大人になれば勝手になんでも出来るようになってると思ってたにゃー」
母「そうですよね…」
ミシング「ところがどっこい!未だに彼氏募集中ですよ!泣けちゃう!」ヒーン
母「作ろうとすれば、いくらでも相手がいるんじゃないですか?」
ミシング「いやいやいや!ぜんっぜん!もう普段から願望剥き出しにしてますけど、ぜんっぜん!」ブンブンッ
母「そうかしら?あなたはいつも子供たちの事で頭がいっぱいに見えるわよ?」クスッ
ミシング「子供たちも大事だけど自分の幸せも欲しいんですよーだ!」
母「あら?それならどうして作らないんです?あなたみたいな人なら、そんなに苦労しなさそうだけど…」
ミシング「んぅ。なかなかダンディーでワイルドでミラクルな渋ーいおじ様がいないんですよねー?あたしってほら、年上にリードされたいから?」キャピッ
母「お、おほほ…そうなの…(器量はいいのにもったいない…)」ヒクヒク
133: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:06:06 ID:VfV4LPRyvs
孤児1「ママー!」タタタッ
母「あらあら」ニコニコ
孤児1「ママもあそぼー?」
母「えぇ、いいわよ。何して遊びましょっか」ニコニコ
ミシング「あれー?あたしはー?」
孤児1「ミシング姉ちゃんも!」
ミシング「んぅ!かわいいやつめ!」ナデナデ
孤児1「えへー」ヘラッ
母「ふふ」クスクス
孤児1「あ、そういえばカロル兄ちゃんは?」
母「」ピクッ
孤児1「ラム兄ちゃん帰ってきたのにどうしてカロル兄ちゃんはいないの?」
ミシング「それはねー。カロルお兄ちゃんが都にいるからだよー!」
孤児1「なんでー?」
ミシング「お友達のお家にお泊まりしてるんだってさ!」
孤児1「えー!いいなー?」
ミシング「おチビちゃんはも少しおっきくなってからだねー!」
母「……」
134: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:23:53 ID:e4mtUywSu.
〜〜〜夕方〜〜〜
―――ミラルドの町(孤児院)―――
ミシング「今日は楽しかったですねー!子供たちも大満足だったみたいですし!」
母「えぇ、みんな喜んでくれてよかったわ」ニコッ
ミシング「ほんとカロルくんも来れたら良かったのにー!いつまであっちにいるのかにゃー?」
母「そうね…。いつまでかしら」
ミシング「…やっぱり寂しかったりします?」
母「いいえ、国王様のそばなら安全ですし信頼できますから何も心配は…」
ミシング「んー…けどラムくん一人だけ帰してっていうのはどういう事なんでしょ?」
母「深い意味はないと伺いましたから大丈夫とは思います…。坊やと国王様は親友ですもの」
ミシング「まぁそれに宣教師がちょくちょく様子見に行ってるみたいですから大丈夫ですかね!」
母「そ、そうね…。大丈夫、よね」ポツリ
ミシング「マリーさん?」キョトン
母「ごめんなさい…。不安な訳じゃないんですけど…」
ミシング「どうかしたんですか…?」
母「あの子とこんなに長い期間、離れたのは初めてなので…」
ミシング「もー!結局寂しいんじゃないですかぁ!このこのぅ?」ウリウリ
母「そうかもしれません…。このところ坊やの顔が見たい、会いたいと強く思うんです」
ミシング「西の国から解放されるまで半年くらい会ってませんもんね?」
母「…元気な顔を見せてくれたら、それでいいんです」
母「どんなに辛いことがあっても…あの子の笑顔が癒してくれるから」
135: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:24:19 ID:e4mtUywSu.
ミシング「いいですね。親子って?」クスッ
母「?」
ミシング「あたしもいつかマリーさんみたいな家庭を作れたらいいなー!」ニコッ
母「家庭だなんて…今の生活があるのは皆さんのおかげですから、あたしは何も…」
ミシング「ご謙遜なさらずー!二人を見てると、なんだかこっちまで癒されますし素敵だなぁって思いますよ?」
母「そ、そんなこと…」モジモジ
ミシング「なーんて?あたしも今は院の子供たちの笑顔で胸いっぱいですけど?てへっ!」ペロッ
母「…うふふ、やっぱりミシングさんにとってはここが家庭なんじゃないかしら?」ニコッ
ミシング「うーん!あとは素敵な旦那様がいたらパーフェクトなんですけどねー!」
母「まだ若いんですもの。これからいい出会いがありますよ」クスクス
ミシング「それなら早速出会いを探しに冒険しちゃおっかなーん!」
母「出かけるんですか?」
ミシング「はい!今夜のパートナーをゲットしてきまーす!」
母「あらあら…頑張ってくださいね」クスクス
ミシング「もっちろん!行きずりだって大歓迎!」
母「え?そ、それはちょっと…」アセアセ
ミシング「いってきまーす!」ガチャッ
母「い、いってらっしゃい」
バタンッ
母「…じょ、冗談よね?」ヒクヒク
136: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:31:44 ID:e4mtUywSu.
―――辺境地(草原)―――
ポルカ「あぁくそっ!ムシャクシャするぜ!」
コロン「ダメだったんでしょ?残念!」パァァ
ポルカ「じゃあなんで嬉しそうなんだよ!」
コロン「だってー…争い事とかイヤだもん」
ポルカ「バカ!俺たちは狩猟民族だぞ!欲しいもんは自分の力で奪い取るんだよ!」
コロン「でもー…何も言えずに帰ってきたんでしょ?」
ポルカ「うっ…あ、あいつら口ばっか達者なんだ!だから人間は嫌いなんだよ!」
コロン「ねぇ、せっかくだから人間の町を見てこうよ」
ポルカ「な、なぁに言ってんだぁ?正気か!?」
コロン「観光ならいいんでしょ?王国はホビットにも優しいって聞くし見てみたい!」
ポルカ「どうせウソだろ。人間なんか関わってもろくなこたねーよ」
コロン「…いいもん。一人で行くから」
ポルカ「え?」
コロン「ポルカたちは先に帰ってなよ。それじゃ」タタタッ
ポルカ「ま、待てよ!あぶねぇからやめとけって!」
タタタッ………
ポルカ「はぁ…別に行かねーたぁ言ってねぇだろ!」ダッ
137: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:32:32 ID:VfV4LPRyvs
―――ミラルドの町(市場)―――
ワイワイガヤガヤ
ポルカ「な、な、なんだぁこりゃ…!?」ワナワナ
ガッガッ ザサッ ザサッ
コロン「わー!あれなぁに?大粒小粒の種や粉が色とりどりに運ばれてる!」
ンモー ヒヒーン
ポルカ「(う、馬や牛…見た事もねぇ品種だ!俺らの知ってる家畜より、よっぽどずしりとしてやがる!)」
モクモクモク
コロン「ねぇ見て!屋根に付いてる筒から煙が上がってる!」
ポルカ「け、煙!?ボヤじゃねぇのか!なんで誰も気にしねぇんだ!?」
ザカッザカッザカッ
コロン「ひゃっ!銀ぴか!あれも衣服なのかな?すごく頑丈そう!」
ゾロゾロ ゾロゾロ
ポルカ「い、いやにたくさん人間が群がってんな!こりゃひょっとすると人間の長の町なんじゃねぇか?」
コロン「わたし達と同じホビットもいるよ?」キョロキョロ
ガラガラガラ
ポルカ「わっと!あぶねぇっ!なんだ、あの馬鹿でけぇ馬が引く荷車は!?」
コロン「わたし達の里は家畜が小さいから軽い荷車をウォリードッグに引かせてるけど、あれなら一度にたくさん運べそう!」
138: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:33:17 ID:e4mtUywSu.
ミシング「およよ?」スッ
ポルカ「!?」ビクッ
ミシング「あれー?あなた達、見ない顔だね?最近、越してきたの?」
ポルカ「な、なんだ、てめぇ!?」ズザザッ
コロン「わ、どうしよ!人間に声掛けられちゃった!」コショコショ
ポルカ「お、おたつくな!こっちだって天下のホビッツ部族だ!」
ミシング「?」キョトン
コロン「やっぱり大きいね…!」コショコショ
ポルカ「ば、バカヤロウ!心の広さなら負けてねーよ!(?)」アタフタ
ミシング「あ、分かった!ちょっとおいで!」グイッ
コロン「きゃっ!」アセアセ
ポルカ「なにしやがる!?」アセアセ
ミシング「まだ慣れてないんでしょー?親切な美人お姉さんがいろいろ教えたげる?」ニカッ
コロン「……?」
ポルカ「じ、自分で美人って図々しいにも程があんだろ…」シラー
139: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:34:42 ID:e4mtUywSu.
ミシング「まずここでしょー!」
コロン「わぁ、野菜に果物がいっぱい!」
ポルカ「隣にゃ鳥や豚、羊の干し肉なんかが吊るされてるな?こんだけのもんをいっぺんに並べるなんて…どうなってやがんだ?」
ミシング「他にも魚、お菓子、ハーブとかスパイスもあるよん!食材とかはこういう市場のお店から買うの!」
コロン「買う…?」
ポルカ「交換じゃねーのか?」
ミシング「ノンノンノン!ヒューマニズムの理はキャッシュなのです!」チッチッチッ
コロン&ポルカ「???」
ミシング「それじゃまお手本を見せちゃいましょう!おじさん!山羊肉の薄切り一箱くださいな!」
肉屋「あいよ、銀貨2枚ね」
ミシング「あはーん!ミシングちゃんのお色気スペシャルに免じて〜?免じて〜?」チラッチラッ
肉屋「駄目。今日という今日はしっかり払ってもらうよ!」
ミシング「ぷくー!ケチー!いいもん!マリーさんにあっちの店のがいいって言い付けちゃうから!」
肉屋「え?ま、マリーちゃんに!?そりゃ困る!」アセアセ
ミシング「えー?どうしよっかなー?」
肉屋「あ、あんな可愛い見た目して貞淑な人妻だってんだから男としてはゴニョゴニョゴニョ…」モジモジ
ミシング「(どっちにしろ店は変えてもらお)」
肉屋「分かったよ!一箱おまけする!それでいいだろ!」
ミシング「サンキューおじさま!だーいすき!」チュッチュッ
肉屋「別にあんたの為じゃなく俺は一人のロリコ……紳士としてだな」
ミシング「じゃあお代は置いてくねー!(マリーさんに出入り禁止って言っとこ)」チャリッ
140: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:39:53 ID:VfV4LPRyvs
ミシング「とまぁこういうことなんです!」
コロン「んー…分かったような、分からないような…」
ポルカ「なんであの親父は糞の役にも立たねぇ鉄屑と貴重な肉を交換するんだ?」
ミシング「うん、糞の役にもは言い過ぎだけど、まぁそうだよねー」
コロン「もしかしてあれがコイン…?」
ポルカ「なんか知ってんのか?」
コロン「うん。ルイさんに聞いたんだけど人間はコインっていう金属の欠片を集めてるんだって?」
ポルカ「んなもん集めてどうすんだ?」
コロン「コインをたくさん持ってる人が一番偉いみたい。それが人間の掟って言ってた」
ポルカ「な、なにぃ!?じゃあ俺らもコインを集めれば人間共を従えられるってのか!?」
ミシング「ぶっぶー!惜しいけど不正解!」
コロン「え?」
ミシング「コインっていうのは通貨以外にもギャンブルとか彫刻品に使われる物で用途は様々なのです!が!今あたしが出したのは純粋な貨幣!つまりはお金です!」
ポルカ「お、おかね?」
ミシング「お金というのは今みたいに欲しい物、必要な物の受け渡しを円滑に交渉する為に用いられます!」
ミシング「たとえば物々交換ではお互いが品物に納得しないと交渉不成立になるし、低価値、高価値の区別が付かないので不平等な結果になる事もしばしば!
しかも力関係を利用して立場でごり押しされるケースも少なくありません!」
ミシング「だけどもだっけぇど〜!お金という全く別種の物に付加価値を備わせる事で!
スムーズかつピースフルな交渉が出来る!イコール誰でも平等にお買い物が楽しめちゃうっていう寸法ですねぇ!」
コロン「え、えー…と」オロオロ
ポルカ「さっぱり分からん」
ミシング「詳しくは教団で無料配布してる"人とホビットの暮らし方"を参照!」ババッ
コロン「あ、どうも…」パシッ
ポルカ「人間の文字なんか読めねーよ」パシッ
ミシング「そんなあなたもご安心!ちゃんとホビット用にクレオール語で直したページも記載済み!イェイッ!」ピース
コロン「わぁ、ほんとだ」ペラッ
ポルカ「これなら読めるぞ!」スラスラ
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