ーむか〜しむかし、とある場所で
88: 名無しさん@読者の声:2016/3/21(月) 12:00:34 ID:chf.eBHwDE
いったい村で何があったのか気になります…
支援!
89: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:35:54 ID:Jn8a761Fdk
タタタッ
「はぁ、はぁ…」
ワーワーッ!
『こっちに逃げた!』
『くそ、やはりすばしっこい!』
(何故だ…)
………………
(くっ…足が…)ズキズキ
ドタドタッ!
「っ!」
『いたぞ!捕まえろ!』
「おい!お前たち、目を覚ませ!」
『追い詰めたぜ!』
『これで…これで俺たちに恩賞が…!』
ウオオーッ!!
(駄目だ。話が通じぬ…)
(うぅ…)
(信じていたのに…何故なのだ…っ)
ワーッワーッ!!
90: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:36:31 ID:Jn8a761Fdk
神娘「うぁっ!」ガバッ
神娘「はぁ…はぁ…」
神娘(ゆ、夢…か…)
神娘(最近思い出す事もなくなったというに…山神のせいだ)ブルブル
神娘(震えているか。まったく情けな…)
「神様?」
神娘「っ!」ビクッ
男「どうかされましたか?大声を出して…」ザッ
神娘「な、何でもない…」
男「顔色が優れませんが」
神娘「何でもないと言っている」
男「それにすごい汗をかいておいでです。少し横にでもなった方が…」ザッ
神娘「やめろ!近付くな!」
男「!」ビクッ
神娘「あっ」
神娘「…ほ、本当に何でもないのだ。私に構うな」プイッ
男「神様…」
91: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:37:57 ID:Jn8a761Fdk
男「今日は真にお疲れのおいでのご様子。また日を改めて伺います」クルッ
神娘「…」
神娘「ま、待っ…」
男「えっ?」
神娘「あ〜、えと、そのだな…」
神娘「さ、最近お前の村の調子はどうだ?」
男「…」
男「順調ですよ。作物もしっかり育っていますし」
神娘「お、おう。そうか」
男「もち米も秋には採れます。さすれば餅を搗いてお持ちしますよ」
神娘「それは楽しみにしておいてやろう」
男「そういえば2日前に子が生まれましてございます」
神娘「な、なにっ。お前妻がいるのか」
男「いえ、私の子ではありません。独り身ですし」
神娘「そうか。そうだな。そうに決まっている」
男「そんなに断定されると悲しくなるのですが」
92: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:38:27 ID:Jn8a761Fdk
神娘「お前は女子に好かれそうな雰囲気がせぬ」
男「ぐはっ」
神娘「まあ色欲に溺れるような不埒な奴よりましだろう」
男「確かにその点については同感ですが」
神娘「そういった奴は信用ならぬからな」
男「では、私は信用に足るというわけですか」
神娘「人間自体信用できん」フン
男「望みがありませぬ」ガクン
神娘「そもそも色欲以前にお前はもっと働け。働かぬ奴はもてぬ」
男「おかしいですね、こんなに真面目なのに」
神娘「…もう何度その点に突っ込めばいいのだ」
男「うん、そうだ。世の女性の見る目がないのです。そうに違いない」
神娘「そうやって周りのせいにしていれば楽であろうな」
男「今日はやたらと攻撃的ですね」
93: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:39:19 ID:Jn8a761Fdk
男「しかし、やはり今日の神様は少し変です」
神娘「喧嘩を売っているのか?」
男「いえ、そういったつもりでは…」
男「元気がないだけでなく、村のことを気に掛けてくださるとは。勿論ありがたいのですが」
神娘「気に掛けるなど…そんなつもりはない」
男「何かおありなのでは?お話しいただけませんか」
神娘「…」
神娘「…近頃昔の夢をよく見るのだ」
男「夢、ですか…」
神娘「そうだ。少々思い出したくない事でな。辟易しておる」
男「何かお辛い事があったのでしょうか」
神娘「…うむ」
男「私でよろしければお話をお聞きしますが」
神娘「…ん」
神娘「いや、いい。お前に話しても仕方ない事だ」
男「そうですか」
神娘(いかんな。不意に縋りたくなってしまう)
94: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:52:27 ID:2D9GO7t/YM
神娘「…」ボーッ
男「神様〜」ザッ
神娘「…」ボーッ
男「神様?」
神娘「ん、お、おう。来ていたのか」
男「やはりお疲れのご様子で…」
神娘「い、いや、そうではない。考え事をしていただけだ」
男「はあ…あ、それより神様。また川へ魚を捕りに行って参りました」
神娘「そうか」
男「そうしたらこんなものが網に引っかかりまして」
神娘「ん?」
ビチビチッ
神娘「これは鰻ではないか」
男「はい」
神娘「珍しいものが捕れたな」
男「鰻は疲れに効くと聞きます。神様に召し上がっていただきたくお持ちしました」
神娘「お前…」ジーン
神娘「ふ、ふん。なんだ、気が効くな。たまには褒めてや…」
男「さあ神様、お召し上がりください」グイッ
神娘「踊り食い…だと!?」
95: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:53:30 ID:2D9GO7t/YM
男「神様…ぬるぬるして掴みづらいのですから早く…っ」ビチビチッ
神娘「馬鹿かお前!いったんしまえ!」
男「そ、そんなこと言いましてもこいつが暴れて…」
神娘「褒めようとした矢先に…ええい、近付けるなっ!」
スルッ
男「あっ」
神娘「わわっ!」キャッチ
神娘「きゅ、急にこっちに寄越すな!」
男「神様!今です!」
神娘「今ですじゃない!とにかくしまうから早くその籠を…」
ビチビチッ
神娘「うわわっ!?」スルルッ
男「あっ、神様の服の中に…」
神娘「ちょっ…中で暴れて…っ」
神娘「わははっ!く、くすぐったい!」ジタバタ
男「わあ、絵的にまずい事に」
神娘「お、おいっ!早くこいつを取り出せ!」バタバタ
男「え〜っと…よろしいので?」
神娘「い、いや待て!やはり自分で何とかする!」アセッ
男「無念」チッ
96: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:54:15 ID:2D9GO7t/YM
神娘「…散々な目に遭った」ゲッソリ
男「おいたわしや。不届き者の鰻のせいで…」
神娘「お前のせいだ、愚か者」
男「面目ありません」
神娘「…山神め、何が活き活きだ。こやつが来るたび疲れるだけだ…」ブツブツ
男「えっ、何か言いましたか?」
神娘「独り言だ」
神娘「だいいち、鰻は生では毒があるのだぞ。踊り食いなぞできぬ」
男「そうなのですか」
神娘「本当にわざとやってるんじゃないだろうな、お前」
男「滅相もございません」
男「しかし、そんな毒ごとき神様は大丈夫なのでは?」
神娘「この下界におる間、私の体質はお前たちとさほど変わらぬ」
神娘「毒にあたれば腹も壊すし、怪我もする。まあ流石に死にはせんがな」
男「衝撃の事実」
神娘「不便なものだ、まったく」
神娘「人間に化けねば下界に適応できぬとは…」
男「えっ」
神娘「あっ」
97: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:55:37 ID:2D9GO7t/YM
男「神様のそのお姿は、本来のものではないのですか?」
神娘「しまった…また口を滑らせた」
男「神様」
神娘「ええい、いいか。この程度なら…」
神娘「そうだ。人間の姿を模しているだけだぞ」
男「神様にもそのような能力が」
神娘「神本来の姿では下界におれぬ。天界と環境があまりにも違うからな」
男「興味深い話です」
神娘「またいらぬことを聞かせてしまった。これ以上は話せん」
男「そうですか」
男「ちなみに、人間以外の姿に化ける事も?」
神娘「…言うと思ったわ」
神娘「だが、私にはその能力はない。この人間の姿を保つので精一杯だ」
男「なんだ。残念です」
神娘「狸や狐の類ではないのだぞ」
男「しかし神様の本来のお姿とは如何なるものなのか…」
神娘「人間ごときが目にできるものではない。諦めろ」
98: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:56:31 ID:2D9GO7t/YM
ミーンミンミンミン…
神娘「ん?」
ミーンミンミン…
ジジジ…
神娘「おお、蝉か」
神娘(この声を聞くと夏という感じがする)
神娘(ろくに外に出れぬから、この暑さ以外に夏らしさを感じれなかったからな)
ミーンミンミン
神娘「……」
ミーンミンミン…
……………
『ねぇねぇ神様!これ見て〜!』
「ん?おお、蝉か。よく捕れたな」
『えへへ、すごいでしょ!』
「うむ、すごいぞ。だがもう放してやれ」
『えっ。もったいないよ』
「蝉はお前たちよりずっと短い間しか生きれぬ」
「その間くらいは、自由に飛び回らせてやってほしいのだ」
『むぅ〜…』
「な?」
『…分かった』パッ
99: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:57:07 ID:2D9GO7t/YM
ミーンミン…
『ばいばい、蝉さん!』フリフリ
「よしよし。良い子だ」ナデナデ
『えへへ〜』
『ね、ね、神様って優しい人だよね!』
「ん?優しい…?」
『うん!私、神様みたいな人になる!』
「わはは、そうかそうか。ならばこれからも良い手本にならねばな」
『神様、これからも私たちと遊んでね!』
「ああ。お前たちが望む限り、私はお前たちと共に在る」
「…これからも、共に」
神娘「っ!」ズキッ
ミーンミンミン…
神娘「っ、ふぅ…」
神娘(まただ。また不意に思い出してしまった)
神娘(最近はそのたび、頭や胸が痛む)
神娘「ふふっ、とうとう私もおかしくなり始めたかな?」
ミーンミンミン…
100: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:57:46 ID:2D9GO7t/YM
神娘「…懐かしい気分になるな」
男「小さい頃はよく追いかけたものです」
神娘「そうか」
男「逃げられ際に小水をかけられた事もありました」
神娘「わはは。よくあるな、それは…」
神娘「…ってお前、いつの間に入ってきたのだ」
男「あれ、とっくに気付いておられるかと思いました」
神娘「せっかく何とも言えぬ気分に浸っていたところだったのに」フゥ
男「あっ、どうぞ私にお構いなく」
神娘「またすぐに余計な事を話し出すくせに」
男「そのような野暮な事は致しません」
神娘「ふぅん、それならば少し黙っておれ。というか出ていけ」
男「出ては行きませんが、静かにはしております」
神娘「こやつ……まあいい」
101: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:58:51 ID:2D9GO7t/YM
ミーンミンミンミー…
「……」
ミーンミンミン…
「……」
ミーンミンミン…
ミーンミンミン…
「…なあ」
「はい?」
神娘「お前が本当に静かにしておると気持ちが悪いな」
男「ひどい」
102: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:59:29 ID:2D9GO7t/YM
神娘「いつものように、どうでも良い事をべらべらと喋れ」
男「神様が静かにしろと仰ったのに」
神娘「うるさい。何でもいいから早く…っ」
男「…神様?」
神娘「私の…っ、気を……紛らわせろ…っ」ポロポロ
男「ど、どうかされましたか!?」アセッ
神娘「うぅ…ぐぅぅ…」ポロポロ
男「神様…」
神娘「思い出したくなかったのに…っ」
神娘「忘れたままでいたかったのに…!」ギリッ
神娘「最近になって思い出してしまうのだ…今までお前たちへの嫌悪で包まれていた思い出を…っ」
男「……」
神娘「今になって…!」ポロッ
神娘「何故こうも輝いて見えてしまうのだ…!」ポロポロッ
男「…神様」
男「誰しも抱えた想いに押し潰され、涙が溢れる事はよくあります」
男「私はここにおります故、存分に吐き出してください」
神娘「うぅ…っ、うあぁぁ……」ポロポロ
男「……」
103: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 12:00:50 ID:2D9GO7t/YM
神娘「……」グスッ
男「落ち着かれましたか」
神娘「…見苦しいところを見せた」
男「いえ、そのような」
神娘「最近はよく眠れぬ。少し気が弱っていたようだ」
男「そのような神様も悪くはありませんでした」
神娘「やかましい。すぐに忘れろ」
男「尽力致します」
神娘(だが、もう放ってはおけぬ)
神娘(このままでは回復どころではないからな)
神娘(しかしこの胸にある濃霧のような蟠り、どう晴らせばよいのだ…)
『…機会があればまた私の山にいらっしゃいな』
神娘(…あまり気は進まぬが)
神娘(この事態を引き起こした張本人に、策を講じてもらおうか)
神娘(だが、どうやってあそこまで……)
男「神様?何を思い詰めたお顔を…」
神娘「……」ジーッ
男「えっ、どうされました?私の顔などを見て…」
神娘「…おい、お前」
男「はい?」
神娘「頼みがあるのだが」
104: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:08:00 ID:2D9GO7t/YM
数日後ー
バタバタ…
神娘「……」
男「ふう、神様。準備が整いました」
神娘「そうか。ご苦労」
男「それでは参りましょうか」
神娘「うむ」
男「よっと」オンブ
神娘「…自分で歩けぬ故、文句も言えんがあまり良い心持ちではないな」オブラレ
男「まあまあ、少しの辛抱ですよ」
神娘「しかしお前、細い身体だな。これで力仕事などできるのか?」
男「ははっ、ご心配なく。しっかりやれております」
男「神様こそ軽うございますね」
神娘「ふん。私がこんな華奢な体に化けていて良かったな」
男「そうですね。背中に膨らみも感じられないのが残念ですが」
神娘「…」ギュ−ッ
男「いだだっ!無言で抓らないでください!」
105: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:08:34 ID:2D9GO7t/YM
牛「モー」
神娘「おお、なかなか立派な牛だな」
男「私の村で一番の力持ちです」
神娘「大丈夫だったのか?連れ出して」
男「他にも牛はいますし、私は村の者からも信用されていますから」
神娘「やはりそれが解せぬ」
男「それに、神様の頼みとあれば聞かぬわけには参りません」
神娘「それはありがた……いや、当然だなっ」フンッ
男「では少し狭いですが、後ろの牛車に乗っていただきます。よっと…」モチアゲ
神娘「うむ」トスッ
男「さてと…準備はよろしいですか?」
神娘「おう、出してくれ」
男「はい。行くぞっ」
牛「ンモーッ」
ガラガラ…
106: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:09:10 ID:2D9GO7t/YM
ガラガラッ
神娘「うわわ、揺れるな…」グラグラ
男「申し訳ありません。あのままおぶって行ってもよかったのですが…」
神娘「それは私が勘弁してほしいぞ」
男「となりますと、これしか用意できませんでしたので御容赦ください」
神娘「仕方ない」
男「しかし驚きました。急にあの洞窟から連れ出せ、などと…」
神娘「どうしても行かねばならぬ場所なのだ」
男「それが例の山ですか」
神娘「うむ」
男「場所も知りませんし、どれほどかかるかも分かりませんが…」
神娘「構わぬ。急ぎの旅ではないし、道案内は任せろ」
男「はい。それでは酔わないようお願いします」
神娘「うむ…それは善処する」
神娘(すでに多少危ういが…)ウプ
107: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:09:57 ID:2D9GO7t/YM
ガラガラッ
男「神様」
神娘「ん?」
男「その山には何があるのですか?」
神娘「…仔細は聞くな、と言った筈だ」
男「神様を疑うわけではございませんが…」
神娘「…」
男「得体の知れぬ場所にはあまり行きたくないのが本音でございます」
神娘「途中で気が変わるかもしれんと?」
男「そうは言いませんが…」
神娘「分かったよ、お前の気持ちは分からんでもない」
神娘「案ずるな、古い友人に会いに行くだけだ」
男「なんと。意外にも神様に御友人が…」
神娘「一言多いわ」
男「その方に会えば、神様のお悩みも晴れるのでしょうか?」
神娘「ん…正直分からぬ。頼りにはなるが」
神娘「少なくともお前に害のある奴ではない。故に安心して連れて行け」
男「そうですか。それだけ聞ければ…十分です」
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