ーむか〜しむかし、とある場所で
52: ◆WjgYlacz.c:2016/2/19(金) 16:29:58 ID:qQSuhjvDgM
神娘「確かに私からすればこの地に生きるものとして同じ括りだ」
神娘「だが、やはり人間は動物とは違う」
男「…」
神娘「動物は見返りを求めぬからな」
男「…なるほど」
仔犬「クゥン…」
神娘「ん?腹いっぱいになったら眠くなったか」
仔犬「ワゥン…」
神娘「よしよし、我が膝元でしばし眠るがよいぞ」
仔犬「…」zzz
神娘「…さて、あまり話すとこやつが起きる。お前も帰れ」
男「そうしましょう」スクッ
神娘「…おい」
男「はい?」
神娘「ありがとう」
男「えっ」
神娘「と、さっきこやつがお前に言っていた」
仔犬「…」zzz
男「…どういたしまして」
53: 名無しさん@読者の声:2016/2/20(土) 19:16:20 ID:3U3Hhll63g
仔犬にはデレちゃう神様かわいい
支援
54: 支援ありがとうございます ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:46:07 ID:hUs1BKM8Q.
男「神様どうも〜」
神娘「なんだろう、挨拶が軽くなってきたな」
男「気のせいでしょう」
神娘「気のせいなものか」
男「ところで神様、あの仔犬はどちらに?」
神娘「ん?もう出ていったぞ」
男「なんと。それで良かったのですか?」
神娘「良いも悪いもないだろう。ここにいた所で何もない」
神娘「私はこんな身であるから、あやつにしてやれる事もないしな」
男「食べ物なら私が持ってきますのに」
神娘「お前がそうやって来る口実になるのも嫌だ」
男「ぐぬぬ」
55: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:46:55 ID:hUs1BKM8Q.
神娘「あやつにはあやつのいるべき場所がある」
神娘「そこへ自分から帰るよう諭したまで」
男「ほうほう」
神娘「そしたらあやつ、振り返りもせず出て行きおった」
神娘「愛嬌のあるやつであったが…これで良かったのだ、うん」
男「と言いつつ寂しげな目をしておられる神様でした」
神娘「そ、そんな事ないぞ。私は神として…」
男「まあ私がおります故、ご安心ください」
神娘「安心できぬわ。お前もいるべき場所に帰れ」
男「まあまあ。その内帰りますからそんなに焦らず」
神娘「…お前にあの犬の聞き分けの良さを少し分けてやりたい」
56: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:47:32 ID:hUs1BKM8Q.
男「しかし困りました」
神娘「どうした」
男「あの仔犬にこれを持ってきたのですが」ヒラッ
神娘「なんだこれは。藁を編んだものか?」
男「寝る時にでも敷いて使ってもらおうかと」
神娘「この季節にいるか?」
男「洞窟は冷たいですから」
神娘「まあ、地べただしな」
男「しかし、いないとなれば無駄手間でした。せっかく夜なべをしたのに」
神娘「なんだ、これお前が作ったのか?」
男「はい」
神娘「器用な奴」
男「神様に褒めていただけるとは」
神娘「ふん、少し驚いたまでのこと」
男「またまた、素直でいらっしゃらない」
神娘「こんな事で鼻を高くする方がどうかしている」
男「…確かに、これは失礼を致しました」
神娘「む?」
57: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:48:03 ID:hUs1BKM8Q.
男「考えてみれば、神様にかかればこんなもの手間ではありますまい」
神娘「ん…お、おう。当然だ。私を誰だと思っている」
男「さすがは神様。それでは、お願いいたします」パササッ
神娘「なんだこれは」
男「藁でございます」
神娘「見れば分かる。何故ここに置くのだと聞いているのだ」
男「私どもの村はまだ仕事に不慣れな者が多くて…」
神娘「…まさか、私に手ほどきせよなどと言うのではないだろうな?」
男「神様、よろしくお願い致します」ペコッ
男「神様が手本を見せてくだされば、村の者たちの技術も向上致しましょう」
神娘「私がそんな事をする義理はないぞ」
男「そこをなんとか、どうかこの通りです」
神娘「というよりお前が手ほどきすれば良かろう。作れるのだから」
男「私は畑仕事で手一杯でして…」
神娘「ここに来る暇があるならやってこい!」
58: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:48:43 ID:hUs1BKM8Q.
男「神様、お願い致します」
神娘「断る」プイッ
男「……」
神娘「……」
男「…まさか、神様」
神娘「…」ピクッ
男「できない、などと言うことは…」
神娘「っ!」
神娘「なっ、なっ、何を言うかっ!」アセッ
神娘「わ、私は神だぞ!そんな人間ごときのやる作業など、できぬはずがなかろう!」アセアセッ
男「本当ですか?何やら慌てているようにお見受けしますが」
神娘「そ、そんなことはにゃい!」ガチン
男「にゃい?」
神娘「うぅ…舌噛んだ…」ヒリヒリ
男「やはり慌てているではありませんか」
神娘「うぬぬ…いいだろう、そんな疑惑を持たれたままでは目覚めが悪い」
神娘「お前がそこまで言うならやってやろう!」ビシッ
男「えっ、本当ですか」
神娘「明日取りに来るがいいぞ」
男「ははーっ、さすが神様。楽しみにしております」
神娘「見ていろ」フンッ
59: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:50:05 ID:hUs1BKM8Q.
「ふん…こんなもの簡単に…」
「……」
「……む?」
「あ、あれっ?」
「…なんだこれは、どうすればいいのだ?」
「……くっ…」
「……」
「……………」
60: 名無しさん@読者の声:2016/2/29(月) 12:01:47 ID:N4jwCkModw
男の反応が楽しみだ(ニヤニヤ
61: 名無しさん@読者の声:2016/3/5(土) 01:03:34 ID:C0bns94KII
男「神様〜こんにちは〜」
「……」シーン
男「神様、できましたでしょうか?」
神娘「…」スースー
男「…お休みでしたか」
男「ん?」ヒョイッ
男「これは」クスッ
62: 名無しさん@読者の声:2016/3/5(土) 01:04:07 ID:C0bns94KII
神娘「…んっ」ノビッ
神娘「いかん、ついうとうとと…ん?」
男「あ、神様。お目覚めでございましたか」
神娘「なんだ、もう来ていたのか」
男「すでに日は高く上がっております」
神娘「なにっ」
男「ところで神様、例の物ですが」
神娘「あ〜…えと、そのだな…」アセッ
神娘「…あ、あまりにも会心の出来栄え故、人間に見せるには勿体ない」
神娘「お前たちの手本にもならぬ程だ。よって諦めるがよい」
男「なるほど、確かに素晴らしい出来の草鞋にございます」パタパタ
神娘「ん、そ、そうか?わはは、やはり神たる者は…」
神娘「って何故お前がそれを持っている!?」
男「ああ、すみません。先ほど神様が微睡んでいらっしゃった隙につい…」
男「しかし斬新な草鞋でございます。左右の大きさが全く違」
神娘「皆まで言うな!」
63: 酉忘れてました ◆WjgYlacz.c:2016/3/5(土) 01:05:12 ID:C0bns94KII
神娘「馬鹿にしおって…返せっ!」
男「馬鹿になどしておりませんよ。素晴らしい出来だと言いました」
神娘「…む?」
男「確かに形こそ歪でございますが」
神娘「うるさいぞ」
男「しかしながら、この編み込み一つ一つがとても丁寧で美しい」
神娘「…」
男「まるで、神様の御心を映しているかのようです」
神娘「私の…心?」
男「心にございます」
神娘「……」
男「ものづくりには真心が必要です。それが無ければいくら見栄えが良いものでも、塵芥と同じ」
神娘「…ん」
男「この草鞋にも神様の心が宿っております」
男「この上なく良きものでございますよ」
神娘「…ふ、ふんっ。人間が知ったような事を」
男「まあ実用性には欠けるのですがね」
神娘「一言多いわ!」
64: ◆WjgYlacz.c:2016/3/5(土) 01:05:58 ID:C0bns94KII
神娘「偉そうなことばかり言いおって」
男「そうですね。失礼致しました」
男「しかし、これは確かに私が受け取るには勿体ありません。お返し致しま…」スッ
神娘「…やる」
男「えっ?」
神娘「それはお前にやる」
男「いえ、しかし…」
神娘「手本にするのだろう?持って帰れ」
男「よろしいのですか?」
神娘「生憎だが私には不要だ。それに…」
男「…それに?」
神娘「…お前たちの役に少しでも立つなら、その草鞋も本望であろう」
男「神様…」
神娘「んっ…もう一眠りする。お前も帰れ」
男「ははーっ、ありがとうございます」
65: ◆WjgYlacz.c:2016/3/5(土) 01:06:31 ID:C0bns94KII
神娘(……)
神娘(またらしくないことを言ってしまった)
神娘(あれではまるで、私があやつらの役に立ちたいと願っているようではないか)
神娘(…人間に利用されるのはごめんだ)
神娘(私はもう以前のお人好しとは違う)
神娘(今回は魔が差しただけ。そうだ、それだけだ)
神娘(……)
神娘(なんだか疲れたな。休むとしよう)
66: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:22:35 ID:jYsrRUwwzs
男「神様、少しお尋ねしたいことが」
神娘「断る」
男「これの事なのですが」スッ
神娘「おい、聞け」
男「いいではないですか。暇でしょう?」
神娘「好きで暇しているのではないのだがな」
男「少し見ていただけませんか」
神娘「…言っても無駄か。なんだこれ、茸か」
男「これが食べられるものかお教えいただきたいのです」
神娘「食べてみればいいだろう」
男「毒があったら大変でしょう」
神娘「お前が人柱になって試すことも大事だろう」
男「そんな殺生な」
神娘「生物とはそうやって進歩するものだ」
男「とりつく島もない」
67: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:23:31 ID:jYsrRUwwzs
神娘「というかお前、これはどこに生えていたのだ」
男「この近くです。もし食べられるなら貴重な食料に」
神娘「何とも地味な色だな」
男「美味しそうではないですか」
神娘「そうか?食べられないと思うぞ、これ」
男「思う…とは、自信がおありでない?」
神娘「まあ、私もこの地の事まで何でも知っているわけではない」
男「神様なのに?」
神娘「やかましい。だが、茸は食べられないものの方が多いのだぞ」
男「そうなのですか…」
神娘「お前、よくそんな事も知らないで山菜を採っていたな」
男「食べられると信じて食べれば、意外と何でもいけるものですよ」
神娘「なんだそのよく分からない精神論は」
68: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:24:46 ID:jYsrRUwwzs
男「しかし困りました」
神娘「どうした」
男「いつも採っている場所に茸が生えなくなりまして」
神娘「ほう」
男「新しい採取場を探していたら、これを見つけたのです」
神娘「それは気の毒だが、他を探した方がいいぞ」
男「この辺りはかなり探し回ったのですが」
神娘「ではまた生えてくるまで待つ他あるまい」
男「う〜ん…」
神娘「それともさっきお前が言った通り、食えると信じて食べてみるか?」ケラケラ
男「そうですね、そうしてみましょう」
神娘「えっ」
男「火を起こさせていただきますね」ゴソゴソ
神娘「…また面倒な事になったな」
69: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:25:18 ID:jYsrRUwwzs
パチパチ
男「さあ、焼いてみましょう」
神娘「やめておけと言うに」
男「食べられない確証はないのでしょう?」
神様「ん?まあ、そうだが」
男「ならば試すのみ」
神娘「何をそれほどまで意地になっているのだ」
男「…私の村は食料の確保には日々苦労しております」
神娘「人間の村など、どこもそんなものだろう」
男「ですから『いつか食料が見つかるだろう』では生き延びれません」
男「その『いつか』はいつ来るか分かりませんからね」
神娘「……」
男「ですので、食べ物となり得る物を見つけたその機会を容易く諦めるわけには参りません」
男「たとえ、人柱にならざるを得なくともです」
神娘「お前…たまには真面目な事を言うのだな」
男「いつも真面目ですが」
神娘「真面目な奴は畑仕事を怠けてここに来たりはしない」
70: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:26:04 ID:jYsrRUwwzs
男「さあ、焼けましたかね」
神娘「悪いことは言わんからやめ…」
男「南無三!」パクッ
神娘「あっ」
男「……」モグモグゴックン
神娘「…」
男「…」
男「あれ、大丈夫ですね」ケロッ
神娘「むっ」
男「なかなか美味です」
神娘「なんと」
男「いや〜、これは得をしました」
神娘「そんな馬鹿な」
男「ご覧の通りです」
神娘「どれ」ヒョイッ
パクッ
神娘「んん…」モグモグ
男「大丈夫でしょう」
神娘「確かに普通の味だな」ゴックン
神娘「思い過ごしだったよ…う……!?」クラッ
男「神様?」
神娘「ぐっ……」
神娘(なんだ?目眩が…)
71: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:26:39 ID:jYsrRUwwzs
ー数分後
神娘「わはははっ!あはっ、ははははは!」
男「…」
神娘「わはは!お、おい…はははっ!」
男「まさかの笑い茸とは」
神娘「な、何とかし…あははっ!」
男「えっ?なんですって?」
神娘(何とかしろと言っているのだ!)
男「どこからか神様の声が…」キョロキョロ
神娘「ひぃ〜っ、わははは!」
男「…はて」
神娘(喋れんから直接頭に語りかけておるのだ)
男「な、なんと。どうやってそのような事を」
神娘(神だからな)
男「納得しました」
神娘(何度目だ?このやり取り)
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