ーむか〜しむかし、とある場所で
481: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:08:10 ID:.Fu.qeb/.Y
ザッ
巫女「?」
村長娘「ん?あいつは…」
親分「…」
下っ端「お、親分!?」
山賊「無事だったんですかい!?」
親分「お前らも無事だったのか」
下っ端「親分!良かった!」タッ
山神「待ちなさい」グイッ
下っ端「うわ!」ドテッ
下っ端「な、何を…」
親分「全員ほぼ無傷で出てくるとはなあ」
親分「めでたしめでたしってか。まったく…」
親分「…つまんねえな」ギロッ
下っ端「っ!」ゾクッ
山賊たち「お、親分…?」
482: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:08:40 ID:.Fu.qeb/.Y
山神「あれも神よ。この地の土地神」
巫女「えっ!?そうなんですか!?」
下っ端「お、親分が…神様?」
山神「土神。あなたの余興に付き合うのもおしまいよ」
土神「はっ、勝手に終わらすんじゃねえ」
土神「こうなりゃてめえもそいつらもぶっ殺さねえと、腹の虫が収まらねえな」
山神「…どこまでも低俗な神ね」
土神「なんとでも言え」
土神「ここは俺の地だ。俺のやりたいようにやらせてもらう」
山神「あなたのような無益な殺生をする神に、この地は任せられないわ」
山神「人間の懸命に生きようとする姿を踏みにじる、あなたなんかに」
土神「はっ!ならどうする?俺を神から引きずり降ろすってか?」
山神「…」
土神「がはは!やれるならやってみろ!てめえのような土地神にそんなことが…」
山神「そうさせてもらおうかしらね」
土神「…は?」
山神「…」スッ
バシュッ!
土神「何いっ!?」
ドンッ!
483: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:09:15 ID:.Fu.qeb/.Y
土神「うおああっ!!」シュウウ…
山神「…今までご苦労様、土神」
土神「て、てめえ…やっぱりただの土地神じゃあ…」ウウウ…
巫女「お、親分さんが…」
下っ端「小さくなってく…だと?」
土神「ああぁぁぁ…っ!」ウウウ…
巫女「や、山神様…何をしたんですか?」
山神「神降ろしよ。神としての能力を剥奪するの」
巫女「えっ、じゃあ…」
山神「もう土神は神ではなくなったわ」
ポンッ!
クネクネ…
山賊「…お、親分が」
下っ端「蚯蚓(みみず)になっちまった…」
山神「土地神は元々は何かしらの生き物なの。その元の姿に戻っただけのことよ」
蚯蚓「」ウゾウゾ
村長娘「なんだか儚いねぇ…」
山神「神も人間も、元を辿れば同じ生き物…っていうことよ」
巫女「これで終わりですかね。山神様…」
山神「ええ……うっ」ピキッ
巫女「山神様…?」
484: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:15:57 ID:.Fu.qeb/.Y
山神「…うぅ…」ズズズ…
巫女「山神様!?どうしたんですか!?」
山神「…ぐ…ぅ…」ズズズ…
山賊「おいおい何だよ!?次から次へと!」
村長娘「巫女様!神様はどうしちまったんだい!?」
巫女「わ、分からないです!」
巫女(山神様…なんだか怖い…)
山神「う…ぁ……ぁぁ……」ググッ
巫女「山神様っ!!」
ヒュッ
「離れるのじゃ!」ザバッ!
巫女「えっ?」
バシャッ!
巫女「きゃあっ!」
山神「」ビシャビシャ
山神「…うっ……はぁ、はぁ…」
485: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:16:46 ID:.Fu.qeb/.Y
老人「…ふう、間に合ったかの」
山賊「だ、誰だこの爺さん?」
巫女「あ、あなたは…?」
老人「おう、この姿では初めてか。海亀のままだと陸では不便での」
巫女「海亀…まさか海神様!?」
村長娘「こ、この人も神様かい?」
下っ端「今日は何だってんだ…」
海神「ふむ、山神。しっかりせい」
山神「…海神様」
海神「馬鹿者が。神降ろしなど高等神力を使いおって」
海神「儂が気配を察して駆け付けねばどうなっていたと思っておる」
山神「申し訳…ありません」
海神「人間を守る為とはいえ…また繰り返す気か。あの者も浮かばれんぞ」
山神「……」
巫女「あの、海神様…繰り返すって…?」
海神「お前には関係のない事じゃ」
巫女「…」
巫女(相変わらず、蚊帳の外かぁ…)
486: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:18:24 ID:.Fu.qeb/.Y
山神「…海神様」
海神「む?」
山神「土神がいなくなって…この地は不安定になります。どうか…」
海神「安心せい。次の土地神が降るまで、儂がこの地を見よう」
山神「ありがとうございます」
海神「くれぐれも気を付ける事じゃ。お前の内なるものはまだ健在じゃぞ」
山神「…はい」
ヒュッ
山賊「うおっ、消えた…」
下っ端「何だったんだ…?」
巫女「山神様、大丈夫ですか?」
山神「ふふっ、大丈夫よ。心配かけたわね」
巫女(良かった…いつもの山神様だ)
山賊「それにしても…疲れたぜ」
山賊「いっぺんに色々と起こりすぎだな」
下っ端「まさか親分が神様だったなんて…」
山神「…山賊たち」
山賊たち「!」ビクッ
487: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:18:50 ID:.Fu.qeb/.Y
山賊「へ、へい…」
山神「いくら土神に誑かされたとはいえ…あなた達のしてきた事の罪は重いわ」
山賊たち「…」
山神「近隣の村々を襲い、傷付いた人たちもたくさんいるでしょう」
下っ端「うっ…」
山神「土神が不在の今、私が沙汰を下します」
山賊たち「…ううっ…」
巫女「…」
巫女「あの、山g…」
村長娘「待っておくれよ!山神様!」
山神様「?」
山賊たち「?」
村長娘「こいつら、確かに悪い事してきたけどさ!」
村長娘「それでもこれからは真っ当に生きようってさっき話してんだよ!」
村長娘「お願いだよ山神様!許してやっておくれ!」
下っ端「お前…」
山神「…」
488: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:19:17 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「山神様、私からもお願いします!」
山神「巫女…」
巫女「もう一度、この人たちに機会をあげてください」
巫女「反省して、真面目に生きていく機会を」
山神「…」
山神「…山賊たち」
山賊「へい…」
山神「今、娘さんが言っていた事は本当かしら?」
山賊「…ほ、本当です!」
山賊「俺たち、これからは真面目にやるつもりで話してたんだ!」
山神「…ふふっ。そういう事なら見せてもらいましょう」
山神「これからどうあなた達が生きるのかを」
下っ端「…」
山神「田畑を耕し、命を愛で、他者と助け合う事ができると誓いますか?」
下っ端「…や、やる!やります!」
山賊「おう!もちろんだ!」
山賊「ああ!」
山神「…ふふっ。そういう事でしたら」
山神「今日のところは、見逃しましょう」
山賊「あ、ありがてえ!」
山賊「ありがとうございます神様!」
489: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:19:44 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「ふぅ、よかった〜」
巫女「ですねっ!」
下っ端「…おい」
村長娘「なんだい?」
下っ端「…す、すまなかったな」
村長娘「おっ?」
下っ端「まさか、攫った奴らに庇われるとは思わなかったぜ」
下っ端「怖い目に遭わせて…すまなかった」
村長娘「へへっ」
山賊「そうだ。それに何度も命を助けられた」
山賊「感謝してもしきれねえ」
山賊「ありがとうな。あんたらの事は忘れねえ」
巫女「なんか、恐縮しちゃいますね」
村長娘「あははっ、いいって事よ!」
490: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:20:14 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女(こうして山賊さんたちの騒動は終わりを告げて…)
巫女(一人、また一人と山賊さんたちはこの場を立ち去っていきました)
491: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:46:27 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「…皆行っちまったねぇ」
巫女「ええ」
村長娘「さて、じゃああたしらも…」
下っ端「…」ポケーッ
村長娘「うわっ!いたのかい」
下っ端「うわっとはなんだよ」
巫女「下っ端さん…」
村長娘「あんたはどうするのさ?」
下っ端「ん?ああ…どうすっかな」
下っ端「特に行く所もねえし、故郷にゃ知り合いもいねえしな」
村長娘「そうなのかい?」
下っ端「ま、いいさ。適当にぶらついて探してみるからよ」
下っ端「俺がこれからやりたい事とかさ」
村長娘「…」
村長娘「…あ、あのさ」
下っ端「あ?」
村長娘「あんた、うちの村に来ないかい?」
下っ端「へっ?」
492: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:47:04 ID:.Fu.qeb/.Y
下っ端「お前の村にだと?」
村長娘「うん。行くあてがないんだろ?」
下っ端「そうだけど…俺は山賊だぜ?」
村長娘「大丈夫だよ。あたしが上手く話す。あんたあの時村に来てなかったしさ」
下っ端「…」
村長娘「あ、嫌ならいいんだよ。でもあんた、放っといたら野垂れ死にそうでさ…」
下っ端「へっ、なめるんじゃねえよ。俺は…」
村長娘「そ、それにさ!」
下っ端「?」
村長娘「あたし言っただろ?手伝うって」
村長娘「あんたのやりたい事を探すの…手伝うって言っちまったからさ」
村長娘「その、近くにいてくんないとそれもできないっていうか…」
下っ端「…ああ、そうだな。そんなこと言ってたかな」
村長娘「だから…うちに来てよ。何にもない村だけど、大事なものが見つかるかもしれないじゃないか」
下っ端「分かったよ。そんなに言うなら、少し世話になるさ」
村長娘「ほ、本当かい!?」パアッ
下っ端「なんでそんな嬉しそうなんだお前」
巫女「…鈍感」ジトー
下っ端「え?お、えっ?」
493: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:48:27 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「そんじゃ、帰ろうかね」
巫女「はい」
村長娘「山神様の事も村の皆に…あれ?」
コツゼン
下っ端「そういやさっきからいねえな」
村長娘「なんだ、紹介しようって思ったのにさ」
巫女「本当はあんまり人前に姿を見せたがらないんですよ」
村長娘「そうなのかい。じゃあ仕方ないね」
下っ端「…あ〜、なんか緊張するな」
村長娘「なんで?」
下っ端「長いこと村とかで暮らしてないからな。馴染めっかな…」
村長娘「うちの村は穏やかだから大丈夫だよ。あたしみたいに」
下っ端「えっ」
巫女「えっ」
村長娘「なんだい、巫女様まで…冗談だよ」
巫女「良かった。お転婆な自覚はしてたんですね」
村長娘「意外と毒舌だねぇ」
494: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:48:55 ID:.Fu.qeb/.Y
・・・・・・・・・・
495: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:49:35 ID:.Fu.qeb/.Y
村長「ぬぉぉ〜っ!娘よ〜!」ドバーッ
村長娘「な、なんだい、帰ってくるなり暑苦しいね」
村長「怪我はないか!?ひどい目に遭わされなかったか!?」
村長娘「ぶ、無事だよ!みんな巫女様のおかげさ」
巫女「えっ!いや、私は…」
村長「巫女様!ありがとうございました!」ガバッ
巫女「村長さん…」
村長「本当に山賊どもをやっつけてくださるとは…」
村人「まったく、感謝もしきれません」
村人たち「ありがとうございました!」ズザッ
巫女「あ、え〜っと…」チラッ
村長娘「……」ニコッ
巫女「…はぁ」
巫女「…い、いいって事です!」
村人一同「はは〜っ!」
巫女(これ、いっつも罪悪感があるんだけどなぁ…)ヒクヒク
496: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:50:17 ID:.Fu.qeb/.Y
村長「ところで…」チラッ
下っ端「…?」
村長「そっちの男は誰かの?」
村長娘「うん、山賊に一緒に捕まってた旅の人だよ」
村長「ほう、山賊に?なんでまた?」
下っ端「え、な、なんでって…」
下っ端(理由なんざ考えてねえ…)
村長娘「…お父、その人記憶がないんだ」
下っ端「え」
村長「なんじゃと?」
村長娘「洞窟から逃げる時に頭に岩がぶつかって、それで全部忘れちゃったらしいんだよ」
村長娘「捕まってた理由も、元いた所も全部」
村長「なんと…本当かね?」
下っ端「あ、え〜……そ、そうなんだ!うん」
村長「だから行くあてもないんだよ。記憶が戻るまでここにいてもらってもいいだろ?」
村長「なるほど…それは無下にするわけにはいかんのぅ」
下っ端「…」
村長「あい分かった。好きなだけこの村にいるとよいわい」
下っ端「ど、ども…」
村長娘「良かった!ありがとう、お父!」
下っ端(…また…助けられちまった)
497: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:50:58 ID:.Fu.qeb/.Y
・・・・その夜・・・・
498: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:51:54 ID:.Fu.qeb/.Y
ホー…ホー…
巫女「…」
巫女(静かな夜…)
巫女(今日あったことが噓みたい)
バサバサッ
巫女「?」
カラス「カァーッ」
巫女「あっ、山神様」
カラス「眠らないのかしら?」
巫女「なんだか目が冴えちゃって…」
山神「ふふ、ご苦労だったわね、巫女」
巫女「山神様こそ」
山神「…ごめんなさいね。守るなんて言っておきながら全然助けられなくて」
山神「土神が私の探知能力を妨害するもんだから、ずっと洞窟の中を探し回る羽目になったのよ」
巫女「そ、そうだったんですか…」
山神「でも、私の助けが無くてもあなたたちは生きていた。生きようと頑張っていた」
巫女「…自分の力で生き残ろうって、あの場の全員がそう思ったんです」
巫女「山賊さんたちもそれで改心したようなものだったし…」
山神「そうだったの…」
499: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:52:31 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「それに本当に危ない時は、山神様のくれたこの羽に助けてもらいましたから…」
山神「渡しておいてよかったわ」
巫女「でもすごいですね。この羽根」
山神「その力を引き出したのはあなたの強い想いよ」
山神「まあ、洞窟の天井を吹き飛ばすなんて大それた事をしたと思うけれど」
巫女「その前も落ちてくる岩を止めたりしましたし…」
山神「…えっ?」
巫女「?」
山神「あの衝撃波の前にも使ったの…?」
巫女「はい。二回、この羽根に助けられました」
山神「……」
巫女「どうしたんですか?」
山神「その羽根に込めた神力は一回分よ」
巫女「えっ」
山神「岩を止めたというなら…そこでその羽根の効力は切れているはず」
巫女(…だからその後は願っても何も反応しなかったんだ…)
山神「残っていた土神の神力に反応したのかしら…それとも…」
巫女「…あの、山神様」
山神「何かしら?」
500: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:53:02 ID:.Fu.qeb/.Y
山神「……声が聞こえた?」
巫女「はい。羽根をもっと高く掲げて…って」
山神「…」
巫女「落ち着いた女の人の声でした。あっ、それに…」
巫女「その声が言ってました。『山神様をよろしくね』って」
山神「!」
巫女「山神様、心当たりは…」
山神「…まさか…」
巫女「…山神様?」
山神「まさかそんなこと…」ブツブツ
巫女(山神様が…動揺してる…?)
山神「…巫女」
巫女「はい」
山神「…あなたに話すべきかどうか…悩んでいることがあるの」
巫女「な、何ですか?」
山神「…でも……ん〜……」
巫女(こんな山神様、初めて見た…どうしたんだろう?)
山神「…ごめんなさい。やっぱり今はまだ…」
巫女「……」
巫女「いいですよ。山神様がお話ししたい時に話してください」
山神「…ありがとう」
巫女(ものすごく気になるけど…)
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