ーむか〜しむかし、とある場所で
461: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:24:55 ID:497ia7CQNY
ガラッ…
モクモク…
山賊たち「……」
下っ端「はっ…はあっ…」
村長娘「た…助かった…?」
巫女「い、生きてる…私たち…」
山賊「すげえ…」
山賊「おい、大丈夫か?下っ端…」
下っ端「ぜ…全然へっちゃら…」
下っ端「と言いたいとこだが…しばらく…立てそうにねえ」
山賊「だろうな」
巫女「ありがとうございます、下っ端さん」
下っ端「…あんたにゃ借りがあるから…な。これで無しだ」
巫女「下っ端さん…」
村長娘「しっかりしなよ、あんた」
下っ端「てめえは礼の前にそれかよ…」
村長娘「…ありがとうよ」
下っ端「へっ」
462: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:25:42 ID:497ia7CQNY
山賊「おい」
巫女「?」
山賊「水を差すようで悪いが、何も解決しちゃいねえぜ」
山賊「出口は完全に塞がってるし」
山賊「この木材の支えもいつまでもつか…」
山賊「ただ死ぬのを待ってるみたいなもんだ」
巫女「…」
巫女(たしかに、どう考えても八方塞がり…)
巫女(山神様…どうしちゃったんだろう…)
下っ端「なあ、あんた」
巫女「え?」
下っ端「さっきみてえに不思議な術でどうにかできねえのか?」
巫女「っ!」ビクッ
山賊「不思議な術?」
下っ端「おうよ。この人、さっきな…」
巫女「ふ、不思議な術なんて!」ガタッ
山賊たち「…?」
巫女「術なんて…ありません」
下っ端「嘘つけ!さっき岩を止めたのは…」
巫女「私の力じゃないんです!」
巫女「わ、私なんかには…何も……何もできない…っ」ポロッ
下っ端「お、おいおい…泣くこたねえだろ…」
463: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:26:08 ID:497ia7CQNY
山賊「なんだなんだ?」
山賊「結局あてになんねえのかよ…」
山賊「ちっ、やっぱりこのまま死ぬだけか…」
巫女「……」
巫女(うぅ…っ)
村長娘「…」
村長娘「…あ〜あ〜!嫌になっちゃうね」
下っ端「?」
村長娘「あんたら、人に頼ってばっかで。それでも男なのかい?」
山賊たち「なにぃ?」
村長娘「山賊なんてもっと骨のある連中かと思ってたけど、そうでもないね!」
山賊「てめえ…!」
村長娘「あたしは嫌だね!こんな所で死ぬのなんか!」
村長娘「諦めるなんてまっぴらご免だ!」
下っ端「そうは言ってもな…」
村長娘「出口がない?なら作ればいいじゃないか!」
巫女「えっ…?」
464: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:27:35 ID:497ia7CQNY
村長娘「ちょっとあんた」ズイッ
山賊「な、なんだよ?」
村長娘「一番近い出口の方角はどっちだい?」
山賊「あ?何を…」
村長娘「いいから!」
山賊「ぐ……多分、そっちだ…」ユビサシ
村長娘「そうかい。じゃあ…」
村長娘「掘ろうかね。この木材が使えるだろ」ヒョイッ
下っ端「お、おい!」アセッ
村長娘「よっと!」ガッ
ザッザッザッ…
巫女「……」
下っ端「おいおい、待てよお前!もぐらじゃあるめえし外まで掘るなんてできるかよ!」
村長娘「……」ザッザッ
下っ端「ましてやお前みたいなただの娘っ子じゃ到底…」
ガランッ!
村長娘「やかましい!!」
下っ端「なっ…」
465: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:28:08 ID:497ia7CQNY
村長娘「無駄だって分かってても…どんなに惨めでもいい…」
村長娘「あたしには生きてやりたい事があるんだ!諦めてたまるかい!」
山賊たち「……」
巫女「娘さん…」
村長娘「…あんた達には」
下っ端「…?」
村長娘「あんた達には、やりたい事がないのかい?死ぬ気で生きたいと思う何かが…」
下っ端「な、なんだと…?」
村長娘「…いいさ。あたしだけでも足掻くから」
ザッザッザッ…
村長娘「くっ…いたた…」ズキズキ
スッ
村長娘「…ん?」
巫女「…代わります、娘さん」
村長娘「巫女様…」
巫女「えいっ!」
ガッ!
466: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:29:34 ID:497ia7CQNY
巫女「はっ!」ブンッ!
ガッ!
巫女「あたたた…」ジーン
村長娘「…」
巫女「…ぷっ、あははは!」
村長娘「あははっ!そんなやり方、痛いに決まってるじゃないか!」ケラケラ
巫女「あは、ほ、本当に…痛いですねこれ…」ケラケラ
山賊「…」ポカーン
村長娘「あはは…はあ、あんまり笑わせないでくれよ」
巫女「そ、そんなつもりじゃないんですけどね…」
巫女「…娘さん。ごめんなさい」ペコッ
村長娘「え?」
巫女「一人で勝手に落ち込んで、大事なことを忘れてました」
巫女「私は巫女である前に一人の人間です」
巫女「人間として、できることをしないと」
村長娘「巫女様…」
巫女「私はここから出ます。そして、巫女として胸を張れるよう精進しなきゃ」
巫女「だから…私も一緒に足掻きます!」
村長娘「そう来なくっちゃ!」
467: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:39:50 ID:Zlu.wp1NEw
村長娘「せいやっ!」
ザッ!
巫女「えい!」
ザッ!
山賊たち「……」
下っ端「…」
下っ端(…けっ、女二人でどうしようってんだ)
スクッ
下っ端「…?」
山賊「……」
山賊「…俺、故郷に母ちゃんを置いて出てきたんだ」
山賊「病気がちで…でも必死で働いててよ…」
山賊「…もう一度会いてえな」ガラン
下っ端「お、おい…」
山賊「おりゃっ!」ブンッ
ザクッ!
村長娘「おっ」
巫女「すごい力…!」
468: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:40:18 ID:Zlu.wp1NEw
巫女「手伝ってくださるんですか?」
山賊「ああ。あんたら見てたらじっとしてらんなくなっちまった」
村長娘「へへっ」
「ま、待てよ!」ザッ
巫女「!」
山賊「俺だって可愛い嫁さんもらうまでは死ねねえ!」
山賊「俺もずっと富士の山を登りてえって思ってたんだ!」
山賊「俺は京の都で芸者さんと遊んでみてえ!」
「俺も俺も!」
「俺だってな…」
ワイワイ
巫女「皆さん…」
山賊「俺たちも掘るぜ。悪かったな、任せちまっててよ」
山賊たち「おっしゃ、やるぞ〜!」
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
下っ端「……」ポカーン
469: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:40:49 ID:Zlu.wp1NEw
下っ端(なんだってんだ…)
山賊たち「うおおーっ!」ザクッ!
下っ端(急に皆して…無駄な事しやがって…)
巫女「ていっ!」ザッ!
下っ端「……」
『あんた達にはないのかい?死ぬ気で生きたいと思う何かが…』
下っ端「……」
村長娘「はっ!」ザッ!
下っ端「……畜生…」ギリッ
ザッ
村長娘「はぁ…硬い岩だねぇこりゃ」
巫女「娘さん、少し休んでくださいよ」
村長娘「何言ってんだい。あたしは全然大丈夫だよ」
村長娘「それっ…おっとっと」フラッ
巫女「娘さん!」
ガシッ
村長娘「…へ?」
下っ端「…」
村長娘「あんた…」
470: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:41:19 ID:Zlu.wp1NEw
下っ端「ふらついてんじゃねえか。女のくせに無理しやがって」
村長娘「な、なんだい。あたしはまだ…」
下っ端「いいから、黙ってそこで休んでろ」
村長娘「ちょっ…」
下っ端「はっ!」ブンッ
ガッ!ザッ!
村長娘「…」
下っ端「…羨ましいよ」ザッザッ
村長娘「え?」
下っ端「俺にはねえ。この先やりたい事も、欲しい物も、行きたい所も…何もねえ」
下っ端「今までずっと、そんなこと考えずに生きてきた」
村長娘「…」
下っ端「でもよ、悔しいけど…お前の話を聞いて思った」
下っ端「こんな死にそうな状況でも…何にも思い浮かばねえ自分が嫌だ」
下っ端「俺は欲しい。お前が言う、死んでも生きたいと思う何かが…!」
村長娘「…」
下っ端「俺はここを出て…それを探す!変わるために、俺はここを出るんだ!」ガッ!
下っ端「…いってて」ジンジン
村長娘「ぷっ」
下っ端「な、なんだ!笑うな!」
471: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:41:52 ID:Zlu.wp1NEw
村長娘「格好付けた割に締まらないね」
下っ端「うるせえってんだ」
村長娘「でもなんだか…それも楽しそう」
下っ端「…あ?」
村長娘「いいさ。あたしも手伝う。あんたがそれを探すのを」
下っ端「…」
村長娘「まあ、まずはここから出れないと始まらないけどさ」
下っ端「おう」
村長娘「それじゃ、休んでる暇ないね」
下っ端「いや、だからてめえは休んでろって…」
村長娘「漁師の娘を舐めるんじゃないよ!」バシッ
下っ端「いでっ!」
村長娘「さあ、ぼけっとしてないで掘った掘った!」ザッ!
下っ端「へっ、言われんでもやってやらあ!」ザクッ!
472: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:03:02 ID:.Fu.qeb/.Y
下っ端「おりゃああ!」ザッ!
村長娘「はぁーっ!」ザクッ!
山賊たち「せいやっ!」ザッ!
巫女「えーい!」ガッ!
ザクッザクッザクッ!!
巫女(すごい…皆で一丸となって…)
巫女(これなら…これならいけるかも!)
ピシッ…
巫女「…?」
ビシビシッ…!
巫女「っ!」
巫女「天井が!」
村長娘「えっ!?」
山賊「おいおい、まずいぞ!?」
下っ端「ここも崩れるってのか!?」
村長娘「い、急がないと!」
473: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:03:42 ID:.Fu.qeb/.Y
山賊「うおおおーっ!!」ザッザッザッ!
巫女(せっかく…もう少しなのに…!)
ガラッ…
下っ端「うわっ!」
山賊「だ、駄目だ!間に合わねえっ!」
村長娘「くそっ、なんてこったい!」
巫女「…っ!」
タタッ
村長娘「み、巫女様!?」
巫女「…」ゴソッ
バッ
村長娘「あれは…さっきの羽根…」
巫女「……っ」ググッ
巫女(お願い…お願いします…!)
巫女(皆を助けて…!)
巫女(山神様…!皆をどうか…!)
村長娘「巫女様っ!」
巫女「っ…!」ギュッ
カッ!!
474: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:04:22 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「えっ!?」
カアアアッ!
村長娘「うわっ!?」
山賊「なんだ!?眩しい!!」
巫女(は、羽根が…また光ってる…!)
巫女(でもさっきと何か違う。これはいったい…)
「……………て」
巫女「?」
巫女(誰かの声が聞こえる…山神様?)
「もっと……く…げて…」
巫女(山神様じゃ…ない。それなら誰?)
「もっと高く…羽根を掲げて」
巫女(もっと高く…?こう?)
「…そう。それでいいよ」
巫女(誰なの?)
「……山神様を…よろしくね」
巫女「えっ?」
475: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:04:57 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「だ、誰なの!?」
「………」
巫女(聞こえなくなっちゃった…)
ブルブルッ…!
巫女「わっ!」
巫女(羽根が…震えだしてる…!)
巫女(離しちゃ駄目…!絶対に!)
村長娘「だ、大丈夫かい巫女様!?」
巫女「わ、私は大丈夫です!それより、皆さん近付かないでください!」
村長娘「巫女様…」
巫女(感じる…手の先に熱が篭って…)
巫女(力が…集まってる!)
ググッ…
巫女「い、いっけぇぇぇっ!!」バッ!
カッ!!
ドゴオオオンッッ!!
村長娘「わあっ!」
山賊たち「うおああっ!?」
476: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:05:27 ID:.Fu.qeb/.Y
・・・・・・・・・・
477: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:06:05 ID:.Fu.qeb/.Y
オオオ…
パラッ…
村長娘「…あてて…」
村長娘「なんだい、何かが乗って…」
下っ端「ふう。どうやら無事みてぇだな…」
村長娘「!?」
パンッ!
下っ端「おあっ!?いでぇぇっ!」
村長娘「なっ、ど、どこ触ってんだい!」
下っ端「な、なんだよ…とっさに庇ってやったってのによ…」ヒリヒリ
村長娘「え?あ、うん…そりゃ…どうも」
下っ端「ったく…それよか、何だったんだ?さっきの」
村長娘「はっ!み、巫女様は!?」ガバッ!
巫女「」グッタリ
村長娘「み、巫女様っ!!」タタッ
478: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:06:36 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「巫女様!しっかりしておくれよ!」ガシッ
巫女「」
村長娘「巫女様〜っ!!」ユサユサユサッ
巫女「ちょ…む、娘さん…やめ…」ユサブラレ
巫女「き、気持ち悪くなっちゃう…」ウプッ
村長娘「あっ、ご、ごめんよ」
巫女「皆さん、無事でしたか…」
村長娘「ああ。大丈夫だよ」
下っ端「しっかし、あんたすげえな」
下っ端「なんなんだ?また不思議な術を使ったのか?」
巫女「…まあ、そういう事です」
山賊「しかし驚いたな」
山賊「ああ。天井を吹っ飛ばしちまうとは。空が見えるぜ」
山賊「…あんた、すまなかったな。あてになんねえとか言っちまって」
山賊「そうだ。あんたは命の恩人だ」
巫女「…いえ。気にしないでくださ…」
ズゴゴゴゴ…
一同「!?」
479: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:07:06 ID:.Fu.qeb/.Y
下っ端「こ、今度はなんだ!?」
村長娘「また地震かい!?」
巫女「は、早くここから離れましょう!」
ボコッ!
巫女「えっ?」
ドゴオオン!!
もぐら「巫女っ!」
山賊「な、なんだ!?」
下っ端「で、でっかいもぐらだとぉ!?」
巫女「えっ、もしかして…!」
もぐら「ああ、良かった…」
ポンッ!
従者「巫女…無事だったのね…!」
村長娘「じゅ、従者さん!?」
山賊「おい!今もぐらが人にならなかったか!?」
巫女「や、山神様ぁっ!!」タタッ
山神「来るのが遅くなったわね。でも、よくやってくれたわ」
村長娘「か…」
山賊たち「か…」
一同「神様ぁ!?」
480: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:07:40 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「あっ、いけない…」
従者「どちらにしても遅いわよ。別にいいわ」
山神「皆さん、私は山神といいます。ここから少し離れた地の土地神をしているわ」
山賊「か、神様…本物なのか…」
下っ端「初めて見た…」
村長娘「え?じゃ、じゃあ最初から従者さんが神様だったのかい?」
巫女「実はそうなんです」
村長娘「な、なんだい…それならそうと教えてくれても良かったじゃないか」
山神「ふふ、ごめんなさいね」
巫女「山神様、何があったんですか?」
山神「話すと長くなるわ。とにかくいったんここを出ましょう」
巫女「はい」
下っ端「で、でも神様、ここを登るのはかなり…」
山神「…」スッ
ヒュンッ!
下っ端「大変……あれっ?」
山賊「うおっ、いつの間に地上に出てる!」
山神「何か言ったかしら?」
下っ端「な、なんでもねえです…へぇ」
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