ーむか〜しむかし、とある場所で
438: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:35:20 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「そっかそっか。巫女様は夢を叶えたんだねぇ」
巫女「娘さんも何か夢があるんですか?」
村長娘「あたしの話は…別にいいよ」テレッ
巫女「よくないです!教えてくださいよ」
村長娘「う〜ん…まあ巫女様にだけこんなに喋らせちゃ悪いか」
村長娘「…笑わないでおくれよ」
巫女「もちろんです」
村長娘「ほら、あたしの村って漁で生計を立ててるって言ってただろ?」
巫女「はい」
村長娘「まだ小さかった頃、お父が漁に行くのに着いていった事があるんだよ」
村長娘「その日は風が妙に強くて海も荒れててさ、お父には海に近づくなって言われてたんだけど」
村長娘「子供心に近づくなって言われると…やっぱり近づきたくなるもんじゃないか」
巫女「う、う〜ん…まあ…」
村長娘「そんで海辺をふらふら散歩してたんだよね。お父から離れて」
村長娘「そしたら案の定波に攫われて…海に落ちちゃってさ」
巫女「あぁ…」
439: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:36:29 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「あたしは昔っから泳ぎは得意だったけど、荒れた海じゃ到底敵わなかってさ」
村長娘「そのまま沈んで…もう駄目だと思ったね」
巫女「…」
村長娘「ところがその時に見たんだよ」
巫女「な、何を…?」
村長娘「信じられないくらい馬鹿でかい海蛇さ」
巫女「海蛇…ですか?」
村長娘「そう。水の中だし死にかけてたからはっきり見たわけじゃないけどさ」
村長娘「とにかくあの細長い体とくねくねした動きは間違いなく海蛇だったよ」
巫女「…」
村長娘「ま、そいつを見たらすぐ気を失っちゃったんだけどね」
村長娘「次に気付いたら陸の上でさ、青い顔したお父や村の皆に囲まれてた」
巫女「そんな事があったんですか…」
村長娘「いや〜、あの時はそりゃこっぴどく怒られたよ」
村長娘「でも後でその話をしたら、そりゃ海の主だって言われてさ」
巫女「海の主…ですか?」
村長娘「お前は海の主に助けられたんだって言われた。そうとしか考えられないくらい海が荒れてたんだよ」
440: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:37:22 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「だからあたしの夢はこうさ」
村長娘「いつかあの海の主を釣り上げる!釣りの練習だってずっとやってるんだ」
巫女「つ、釣り上げる?」
村長娘「そう。そんで言ってやるんだ」
村長娘「あの時は助けてくれてありがとう、ってさ」
巫女「娘さん…」
村長娘「…馬鹿らしいって思うだろ?でも海の中まで行って礼を言うわけにはいかないしさ」
巫女「そんなことありません!とっても素敵な夢ですよ!」
村長娘「え?」
巫女「そうですよ、命を助けてもらったならちゃんとお礼を言わないといけないですもんね!」
巫女「そのためにちゃんと方法を考えて、努力もしてて…立派です!」
村長娘「な、なんか照れるねぇ」
巫女「早く会えるといいですね、主様に」
村長娘「そうだね、どんな味がするのかも気になるしさ」
巫女「えっ、食べるんですか!?」
村長娘「あはは!冗談だよ冗談!」
巫女「で、ですよね…」
441: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:38:08 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「巫女様」
巫女「はい」
村長娘「あんた、本当に良い人だね。だから神様に選ばれたんだね」
巫女「ど、どうしたんですか?」
村長娘「さっき運が良かっただけって言ってたけどさ」
村長娘「やっぱりそれだけじゃない、ちゃんとした理由があって巫女様になったんだと思うよ」
巫女「そうでしょうか…」
村長娘「そうだよ。なんなら今度神様に聞いてみたらいいさ」
巫女「それは…なんだか恥ずかしいです」
村長娘「あはは、まあ巫女様の好きにしたら…」
ドオオン…!ズズズズ…
巫女・村長娘「!?」
村長娘「何だい!?今の地響き!?」
ゴオン…!ドオオ…ン!
巫女「な、なんだか大きな音もします!」
巫女(いったい…何が!?)
ドタドタドタッ!
山賊「おい!てめえら!」
巫女「さ、山賊さん…!」
442: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:39:04 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「ちょっと!こりゃ何が起きてるんだい!?」
山賊「俺たちだって知らねえよ!」
村長娘「あんたらの頭が何かやってるんじゃないの!?」
山賊「知るか!とにかくお前らに傷付けちゃお頭にどやされるんでな!」ガチャガチャ
ギイッ
山賊「お前らいったん外へ出ろ!早くだ!」
村長娘「…い、いいのかい?」
山賊「言っとくが逃げようとする素振りなんか見せようもんなら容赦しねえ」
巫女「でも、私たちを傷付けたらいけないって今…」
山賊「あっ、そ、そうか…じゃねえ!と、とにかく行くぞ!」
村長娘「へいへい、じゃあ…」
グラグラグラッ!!
山賊「うおわっ!」ドタッ
村長娘「わっ!」
巫女「きゃあっ!」
ガラッ…
443: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:39:52 ID:/FBqKYUaXc
山賊「ってて…」
村長娘「ひ、ひと際大きく揺れたね…」
山賊「くそっ…おい、さっさと立て!」
村長娘「いや、転がってるのあんただけだよ」
山賊「…や、やかましい!」
ガララッ…
巫女「!」
巫女(い、岩が崩れそうに…!)
巫女「危ない!上です!」
山賊「は?上…?」
村長娘「あ、あんた!逃げなよっ!」
ドザザーッ!
山賊「なっ…うわああっ!!」
巫女(ま、間に合わない…)ギュッ
巫女「お願い!止まってぇっ!!」
キランッ
444: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:40:48 ID:/FBqKYUaXc
シーン…
山賊「あああ………あ?」
巫女「……っ、え?」
村長娘「…?」
村長娘「い、岩が…」
巫女(岩が…浮いてる?)
山賊「あ…あ…」
村長娘「な、何やってんだい!早くそこをどきなっ!」
山賊「あ…え…う……」ズリズリ
パッ
ズズウウン!!
山賊「は、はあっ…はあっ…」
巫女「た、助かった…」ペタン
村長娘「何だったんだい、今の…」
巫女「さ、さあ…あっ、もしかして!」ゴソゴソ
キラキラ…
巫女「やっぱり。光ってますよ、さっきの羽根」
村長娘「それの力だったのかい!?すごいねぇ…」
巫女(正直、私自身も驚きだけど…)
村長娘「ほら、そこのあんた!命助けてもらったんだから礼の一つでも…」
山賊「」ボーゼン
村長娘「駄目だ、完全に放心しちまってるよ」
巫女「そりゃ死にかけたんですし無理ないですよ…」
445: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:41:27 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「ちょいと!」バシバシッ!
山賊「いでっ!」
村長娘「いい加減起きなって!また潰されちまうよ!」
山賊「あ、ああ…そ、そうだな!」
巫女「また大きな揺れがいつ来るか分かりませんし…早く出口へ案内してください」
山賊「おう…」
山賊「…おい、お前」
巫女「?」
山賊「さっきのは…お前の力なのか?」
巫女「…まあ、正確には私のではないですけど…」
山賊「何にしても…その…」
村長娘「ええい!男らしくないねあんた!」バシッ
山賊「いてえって!…あ、ありがとよ」
巫女「…ふふっ。どういたしまして、です」ニコッ
山賊「っ…」
山賊「ええい!これ以上馴れ合うつもりはねえ!行くぞ!」スタスタ
巫女「…」
村長娘「なんだかよく分からない人だねぇ。じゃ、あたしらも…」
ゴゴゴゴゴ…ッ!!
巫女「!?」
村長娘「うわっ、こりゃまたすごい揺れ…」
巫女(これは…揺れというより…)
ビシビシッ…!
446: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:41:58 ID:/FBqKYUaXc
・・・・・・・少し前
447: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:42:43 ID:/FBqKYUaXc
土神「ぜぇ…ぜぇ…」ボロッ
山神「…」
土神「てめえ…ただの土地神じゃねぇなぁ?」
山神「もう降参かしら?」
土神「ちっ…」
山神「なら、あの二人をここから出しなさい。もちろん無傷で」
土神「…分かったよ」
山神「これに懲りて、もう悪事はやめることね」
山神「人間を利用して私腹を肥やすなんて…愚かにも程があるわ」
土神「ああ…」
山神「…」
土神「なんだ?まだ何か言い足りねえのか?」
山神「いえ、気持ち悪いくらいやけに素直ね、と思って」
土神「こっちが全力で向かってんのにあっさりいなされて心も折れるわ」
山神「そう。なら結構なことね」
土神「あ〜あ。まさか負けるとは思わなかったぜ…」
448: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:43:14 ID:/FBqKYUaXc
土神「だが山神さんよ、一つ聞かせてくれ」
山神「何かしら」
土神「なんでてめえはそこまで人間の肩をもつ?」
山神「…」
土神「所詮人間なんざ取るに足りねえ存在…ちょっと生物の中じゃ知恵が働くくらいのもんだろ」
山神「…」
土神「初めて見たぜ。人間をそんなに必死に庇う神なんてよ」
山神「それに答えるには…いささか長くなるわね」
山神「心を改めてから尋ねてきなさいな」
土神「はっ!長々と昔話なんざ聞きたかねえよ」
山神「…ただ単純に一言で言うなら…」
山神「人間が好きだからよ」
土神「あ?」
山神「人間が好きだから、肩をもつ。それだけの話よ」
土神「…」
山神「自分が変わり者だなんて自覚してるわ」
土神「へっ、本当だな」
449: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:43:53 ID:/FBqKYUaXc
山神「私はもう二度と……」
土神「…何だ?」
山神「…いえ、何でもない」
土神「ふん」
山神「とにかく、あなたも土地神としてもう一度人間とちゃんと向き合いなさい」
山神「それが私たちのあるべき姿なのだから…」
土神「はん。ご高説どうもありがとよ」
山神「つい喋りすぎたわね」
土神「へっ、本当だな」
土神「…だが、礼を言うぜ」ニヤリ
山神「…?」
土神「時間を稼がせてくれた事になぁ!」バッ
ズズウウン!!
ビシッ!ピシピシッ!
山神「なっ!?」
土神「くっくっく…」
450: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:44:58 ID:/FBqKYUaXc
山神「まさかあなた…!」
土神「ああそうさ。てめえがべらべら喋ってる間にこっそり解除させてもらったぜ?」
土神「この洞窟の形を保つ念力をな!がっはっは!」
山神「なんてこと…!」
土神「間もなくこの洞窟は全て崩れ去る!そうすればてめえの大好きな人間どもはどうなるかな…?」
山神「…!」ギリッ
山神「山賊たちもまとめて生き埋めにするつもりなの!?」
土神「へっ、さっきも言っただろ?人間なんざ取るに足りない存在だと!」
土神「てめえの思い通りにさせないためなら、どうって事はねえ!」
土神「代わりの人間なんざ腐るほどいるんだからなあ!」
山神「この…外道…!」
山神「はあっ!」パアアッ
ガラガラ…ドザザッ…!!
山神(くっ…やっぱり崩壊が止まらない…!)
土神「がっはっは!無駄無駄!ここは俺様の領域だ。てめえの神力を通さねえくらい朝飯前よ!」
山神(こうなったら直接…!)
タタッ
土神「ふん、何人助けられるか見物させてもらうとしようか」
山神(お願い…!無事でいて…!)
ドザザザ…
451: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:17:51 ID:497ia7CQNY
※以降、巫女に助けられた山賊を下っ端と表記します。
・・・・・・・・・・
452: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:18:47 ID:497ia7CQNY
ドザザザ…ドゴォッ!!
下っ端「うおっ!?おわあっ!!」
巫女「やっぱり…洞窟が崩れかかってます!」
下っ端「な、なんだってそんな急に…!」
村長娘「急ごう巫女様!通路が塞がっちまうよ!」
巫女「…」チラッ
巫女(この羽根…さっきも私の願いに反応して岩を止めてくれた)
巫女(…この崩れも止めてくれるかな…?)
巫女「…」バッ
村長娘「巫女様!?もしかして…」
巫女(この崩落を止めて…!お願い…!)
巫女(お願いします…!)
ギュッ…
…
…
453: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:19:54 ID:497ia7CQNY
ドドドドドッ!!
村長娘「巫女様!危ないよっ!」
巫女「きゃあっ!」
ガラララッ…!
村長娘「大丈夫かい!?巫女様!」
巫女「うぅ…」
巫女「…と…止まらない…」
村長娘「え?」
巫女「今度は願っても…止められない…!」
村長娘「巫女様…」
巫女「やっぱり…私なんて…私なんて…」
村長娘「しっかりしなよ巫女様っ!」
巫女「!」ビクッ
村長娘「神様にばかり頼ってられないよ!」
村長娘「助けがなけりゃ、自分たちで生き残らなきゃ駄目だ!」
巫女「あ…」
村長娘「ほら立って!とにかく走るんだよ!」グイッ
巫女「…う、うぅ…」
タタタッ
454: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:20:39 ID:497ia7CQNY
ドザーッ!
下っ端「わぶっ!ぺっぺっ!」
村長娘「はぁ、はぁ…」
下っ端「で、出口はすぐそこだ!」
村長娘「もう少しだよ、巫女様!」タタタ
巫女「は、はい!」タタタッ
下っ端「そこを曲がりゃあ……えっ!?」
村長娘「なんだい!?……まさか」
ガララッ…
巫女「ふ、塞がれてるんですか…?出口…」
下っ端「あ、ああ…」
村長娘「…ここまで、かい」ヘタッ
巫女「…」
ダダダダッ
「おい!急げ!」
「くそっ、砂埃が目に…」
「死にたくなきゃ走れ!」
巫女「誰…?」
下っ端「あの声…仲間たちだ!」
455: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:21:22 ID:497ia7CQNY
ザザッ
山賊たち「おう、下っ端!無事だったか!」
下っ端「た、大変だ!こっちの出口がもう塞がってて…!」
山賊たち「な、なにぃ!?」
下っ端「お頭は!?他の連中はどうしたんだ!?」
山賊「残ってんのは多分俺たちだけだ。お頭はどうだか分からねえが…」
下っ端「そうか…」
村長娘「他に出口は無いのかい!?」
山賊「あるにゃあるが…今から向かって間に合うかどうか…」
村長娘「うだうだ言ってないで早く案内するんだよっ!」
山賊「てめえ!俺たちに指図するたぁ…」
下っ端「あ〜、待ってくれ!とにかく今は急ごうぜ!」
山賊「…ちっ。おら、てめえら行くぞ!」
山賊「おう!」
ダダダッ!
村長娘「…へぇ?かばうなんて良いとこあるじゃないか」ツンッ
下っ端「るせっ!まったく何なんだお前は…」タタッ
456: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:21:52 ID:497ia7CQNY
・・・・・
457: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:22:23 ID:497ia7CQNY
山賊たち「駄目だ、こっちも塞がってる!」
山賊たち「こっちもだ!」
下っ端「本当かよ…出られねえじゃん…」
ビシビシッ!!
山賊「おい!天井に亀裂が…」
山賊「く、崩れるぞっ!!」
下っ端「くそっ!ここまでかよ!」
山賊「おい!お前ら、こっちの食料庫に来い!」
山賊「なんだ!?飯なんざ…」
山賊「違う!飯に土が被らないようここだけ木材で天井を囲っただろ!」
山賊「上手いこと補強されて、ほとんど崩れてねえぞ!」
山賊「なるほど!そりゃいい!」
下っ端「いったん逃げ込むしかねえか…」
山賊「急げっ!」
ビシビシビシッ…!!
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