ーむか〜しむかし、とある場所で
400: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:11:48 ID:tJRyJOqWbw
村長「ここは主に漁で生計を立てておる村ですじゃ」
村長「山と海に挟まれて、地形が悪いのを除けば恵みの多い住みよい場所です」
巫女「はい、とても素敵な場所ですね」
村長「ところが近頃、裏手にある山に賊が住み着きはじめましてな」
巫女「賊…?」
村長「左様。山を駆け回り、近くの村々を荒らして回る山賊どもですじゃ」
巫女「そんな恐ろしい人たちが…」
村長「その賊どもが今朝方、とうとうこの村にやって来ましてな」
村長「村を襲撃されたくなければ、貢ぎ物をせよと言ってきたのです」
巫女「何を差し出せと言われたんですか?」
村長「ありったけの食料と…」
村長「若い娘を三人ほど…ですじゃ」
巫女「!」
巫女「ひどい…!」
村長「そうなのです。しかし、彼奴らを力尽くで追い出すなどわしらにはできません」
村長「このままでは夕刻に彼奴らが再びやってきて…村を滅茶苦茶にされるやも…」
巫女「…」ギリッ
401: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:12:10 ID:tJRyJOqWbw
村長「お頼み申します巫女様!」
村長「この非力なわしらに、神様の加護を恵んでくださらんじゃろうか?」
「お、お願いします巫女様!」
「巫女様〜!」
巫女「もちろんです!」
巫女「そんなひどい人たち、許せません!」
村長「おお、ありがたやありがたや…!」
巫女「その山賊の人たちは夕刻に来るんですね?」
村長「そうですじゃ」
巫女「という事は、あんまり時間がありませんね…」
巫女「分かりました。皆さん、少し待っていてください」スクッ
村長「ははーっ」
402: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:13:05 ID:tJRyJOqWbw
タタタ…
巫女(ふぅ。さて、山神様は…っと)
バサバサッ
山神「ここよ」
巫女「あっ、山神様。からすさんに戻ったんですね」
山神「屋根の上から話は聞いたわ」
巫女「ひどい人たちもいるもんですね!」
山神「山賊ね…困ったものだわ」
巫女「山神様のお力でさっさとやっつけちゃいましょうよ!」
山神「う〜ん、そうしたいところなのだけれど…」
巫女「?」
山神「私は手を貸せないわ」
巫女「な、なんでですか!」
山神「ここは私の領域ではない。他の神の領域で勝手な振る舞いはできないの」
山神「ここの土地神に喧嘩を売ることになるわ」
巫女「そんな…でも山神様、私の事はどこでも助けてくれたじゃないですか!」
山神「それはあなたが私の領域の人間だからよ。土地神が干渉できるのはそこまで」
山神「掟なのよ。ここの村の人間たちを助ける事はできないの」
巫女「また例の、神様の掟ですか…!」
403: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:13:28 ID:tJRyJOqWbw
巫女「あっ、じゃあここの神様にお願いしに行きましょうよ!」
山神「…それも難しいでしょうね」
巫女「えっ」
山神「土地神にもいろいろいてね」
山神「自分のいる地の管理に興味がない神もいるのよ」
山神「恐らく、ここの神もその類ね」
巫女「えぇ〜…」
山神「山賊なんかが好き放題しているという事自体、その証拠よ」
山神「もし私の山でそんな連中がいたらすぐに処理しているわ」
巫女「処理って…」
巫女「じゃ、じゃあここの人たちを見捨てろって言うんですか!?」
山神「仕方ないわ。そもそも私たち神は人間同士のいざこざに無闇に干渉しない」
山神「そんな事ばかりしていたら、人間自体が進歩しなくなるものね」
巫女「むぅ〜っ…」
404: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:14:09 ID:tJRyJOqWbw
巫女「どうしようもないって言うんですか…」
山神「この村の人たちには気の毒だけれど…」
山神「自分たちでどうにかしてもらうしかないわね」
巫女「…」
山神「巫女、気持ちは分かるけどここは…」
巫女「嫌です!」
山神「巫女…」
巫女「ここまで首を突っ込んでおいて見捨てるなんてできません!」
巫女「何ですか!掟、掟って…そればっかり!」
山神「巫女、それは…」
巫女「もういいです!私と村の人たちで山賊さんをやっつけますから!」プイッ
スタスタ
山神「…」
『…掟がそれほど大事なのですか?』
山神「っ」ズキン
山神「…嫌なこと、思い出しちゃったわね…」
405: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:14:43 ID:tJRyJOqWbw
トボトボ…
巫女(…って言ったものの)
巫女(いったい山神様抜きでどうやってやっつけるのよ…)
巫女(あ〜あ…それに山神様の協力が得られなかったなんて村の人たちに言えない…)
巫女(うぅ…どうしよう)
巫女(戻りづらいなぁ…)トボトボ
村人「あっ、巫女様!」
巫女「ひゃいっ!」ビクッ
村人「もう山賊たちが来ちまいます!」
村人「どうにかなりそうですかい!?」
巫女「あ…ぅ…」
村人「巫女様…?」
巫女「えっと…その…」
村人「…」ゴクッ
巫女「…っ」
巫女「わ、私が…」
村人「?」
巫女「私が村の皆さんの代わりに、山賊さんたちに捕まりますっ!」
村人「はああ!?」
406: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:15:11 ID:tJRyJOqWbw
巫女(あ〜っ!何言ってるんだろう私!)
巫女(そんな事したって何の解決にも…)
村人「巫女様が奴らに捕まって…どうするんですかい?」
巫女「そ、それは…」
村人「ばっかやろう、巫女様はわざと捕まって奴らの隠れ家に行ってだな…」
村人「そうか!隠れ家ごと奴らを一網打尽にするってわけか!」
村人「そうなんですかい?巫女様!」
巫女「あ、え〜っと…」
村人「…」キラキラキラ
巫女(そんな期待のこもった目で見ないで〜!)
巫女「…そ、そうですっ!」
巫女「わ、私には神様が付いていますからね!山賊さんたちなんか簡単にやっつけちゃいますよ!」
村人「うおお〜!すげえ〜!」
巫女「あは、あはは…」
村人「あれ?でもそれならこれから来る連中をやっつけてくれるだけでいいんじゃ…」
巫女「うっ」
407: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:16:06 ID:tJRyJOqWbw
巫女「そ、それはいけません!」
村人「何故ですかい?」
巫女「え〜っと、それは…それは…」
村人「本当に馬鹿だなおめえは!そしたら後で他の奴らが仕返しに来るだろうが!」
村人「なるほど、その後の事も考えての策なのか!あとさっきから馬鹿馬鹿うるせえ!」
村人「巫女様、そこまでこの村のことを考えてくださって…ありがてえ」グスッ
巫女「え、えへへ…」
村人「さっそく村長にその事を話しに行きましょう!」
巫女(うぅ…どんどん話が進んでる…)
巫女(どうしよう…私一人じゃ何もできないよ…)
バサバサッ
山神「…」ジーッ
山神(ふぅ、やれやれ…)
408: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:16:29 ID:tJRyJOqWbw
村長「…なるほど!それは妙案ですじゃ!」
巫女「ど、どうも…」
村長「しかしこの村のためにそこまでしてくださるなど…なんだか悪い気がしてしまいます」
巫女「い、いえ、いいんです!みみ、見過ごすわけにいきませんから!」
村長「まるで巫女様自身が神様のようじゃ…」
「ありがてえ、ありがてえ…」
巫女「そんな、やめてください…」
巫女(うぅ、すごい罪悪感…)
巫女「あれ?でも山賊さんたちが要求してたのって三人ですよね?」
村長「…う、うむ。そうなのですが…」
村人たち「…」
巫女(…当然、皆さん自分の娘を差し出すなんて…できないよね)
巫女「分かりました。私一人でどうにかならないか聞いてみましょう」
村長「本当にかたじけない」
巫女「この服装だと駄目ですね…どなたか服を貸していただけませんか?」
「はいっ!では、私の娘のものを…」
ドタドタドタドタッ!
巫女「何の音でしょう…?」
村長「大勢の足音…来たようじゃ…!」
巫女「い、急ぎましょう!」
409: 名無しさん@読者の声:2017/1/2(月) 23:22:38 ID:Ub5i1QFr2w
面白い!支援!
410: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:29:43 ID:PlUNcBI2Oc
>>409
支援感謝です!頑張ります!
411: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:32:34 ID:PlUNcBI2Oc
山賊「おらおらあ!村人ども出てきやがれい!」
村人「き…来たあっ!」
村人「ひいぃ〜っ!」
山賊「俺たちが言ったものの用意は出来てんだろうなぁ!?」
山賊「とっとと持ってきやがれ!はっはっは!」
村長「…」ザッザッ
山賊「おう、てめえ村長の爺か。準備は…」
村長「できておるわ。ほれっ」
村人「えっほ、えっほ!」ガラガラ…
ドサアッ!
村長「それで充分じゃろう」
山賊「うほぉ〜っ!こりゃ随分と溜め込んでいやがったな!」
山賊「ご苦労ご苦労!がはは!」
村人たち「…」ギリッ
山賊「…おい、しらばっくれんじゃねえ。寄越すのは食料だけじゃねえだろ?」
村長「ぐぬぬっ…」
タッタッタ…
412: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:32:50 ID:PlUNcBI2Oc
山賊「おっ?」
巫女「…」ザッ
巫女(ふぅ、間に合った)
巫女(うわぁ…怖そうな顔の人たちばっかり…)
山賊「なんだお前?」
巫女「わ、私が行きますっ!」
山賊「へぇぇ〜っ!こりゃあ随分な上玉だなぁ!」
山賊「わはは、こんなちっぽけな村にもいるもんだ!」ジュルリ
巫女「…」ゾクッ
山賊「で?他の奴はどうした」
巫女「あ、あの…わ、私だけで勘弁していただけないでしょうか…?」
山賊「ああ!?」
巫女「私一人で…見逃していただけませんかっ!?」
山賊「…」
巫女「…」ドクンドクン
村長(巫女様…!)ハラハラ
山賊「駄目に決まってんだろ!」
巫女「!」
山賊「若い娘を三人…それがお頭の命令よ」
山賊「おめえ一人だけ持ち帰ったら、俺たちがどやされちまうからな」
巫女「…っ」
413: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:33:46 ID:PlUNcBI2Oc
山賊「あと二人差し出せ!でなけりゃ…どうなるか分かってるな?」
巫女「くっ…」
巫女(とりつく島もない…どうすればいいの…?)
「では、私も参りましょう」
巫女「!?」
村人たち「!?」
山賊「ん?」
??「私も共に…お連れくださいませ」
巫女(えっ、誰?あの人…)
山賊「へえ、自分から名乗り出るたぁ良い度胸だな!」
山賊「おら!早くこっちに来い!」
??「…」スタスタ
巫女(誰なんだろう…)
村人たち「???」ザワザワザワ…
巫女(…あの表情…村の人たちも知らないのかな…?)
山賊「ほら、あと一人!早く出しやがれ!」
巫女(そっか、あと一人いなきゃ…!でももう名乗り出る人なんて…)
ダダダダッ!
山賊「ん?」
414: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:34:09 ID:PlUNcBI2Oc
ズザザーッ
??「はあ、はあ…」
??「あ、あたしが行くよ!連れてけっ!」
山賊「お、おう…」
村長「なっ…」
村長「や、やめいっ!何を言っておるか!」
??「もう見てらんないよ!行くったら行くからね!」
村長「おおおっ…!何という事だ…」ガクッ
??「そういうわけでよろしく、巫女さん!」ニカッ
巫女「あ、よ、よろしくお願いします」
??「ああ、そうだ。挨拶が遅れたね。あたしは村長の娘だ」
巫女「む、娘さんでしたか…」
村長娘「ったく、村長のくせに自分の娘を一番に守ろうなんて腰抜けもいいとこだよ」
村長娘「余所者のあんたに全部押し付けるのも悪いし…さ」ボソボソ
巫女「そんな…気になさらなくても」
村長娘「さあ三人揃ったろ!早く行こう!」
山賊「お、お前が仕切るんじゃねぇ!」
山賊「じゃあな村人ども!がっはっは!」
村長「あああ…」
村長「待っ…待ってくれええー!」
415: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:34:30 ID:PlUNcBI2Oc
・・・・・・・・・・
416: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:35:18 ID:PlUNcBI2Oc
ザッザッザッ
山賊「おい、追ってきてるような奴はいねえか?」
山賊「大丈夫なようだぜ」
山賊「まっ、そんな度胸もねえだろうがな。ははは!」
村長娘「…好き放題言ってくれちゃってさ」チッ
巫女(さっきお父様を腰抜け呼ばわりしてたのは誰ですか…)
??「…」
村長娘「ところであんた、見覚えないんだけど…誰だっけ?」
??「…巫女様の従者でございますわ」
巫女「えっ」
従者「今まで控えておりましたが…状況も状況ですので」
村長娘「なるほどね。村のみんなも焦ってたよ。まあよろしくね」
従者「こちらこそ」
巫女「???」
山賊「おい、おめえうるせえぞ!喋るな!」チャキッ
村長娘「分かったって…そんなもん向けないで」
山賊「ったく、これからどんな目に遭うのか分かってねぇみたいだな…」
417: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:35:42 ID:PlUNcBI2Oc
巫女「…」
巫女(従者…って何のこと?)
従者「…」チラッ
巫女「?」
従者(巫女…)
巫女「!?」
従者(人間の姿を借りてますけど、私は山神よ)
巫女(や、山神様…!)
従者(驚かないで。不審がられるから)
巫女(そ、そうですね)アセッ
山神(まさかこんな無茶なことするなんてね)
巫女(で、でもどうして!?今回は助けられないって…)
山神(そう、あの村の人たちを助けることはできないわ)
山神(…でも、あなたを助ける事はできる)
巫女(!)
山神(こんな渦中に飛び込まれたら…手出しせざるを得ないでしょう)
巫女(山神様ぁ…)ジワッ
山神(こらっ、泣かないの)
巫女(うぅ…)
418: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:36:06 ID:PlUNcBI2Oc
山神(こうなる事を分かっててこんな手を使ったのかと思ったけど…違ったの?)
巫女(違いますよぅ…只の思い付きで…私、本当にどうしようかと…)
山神(…呆れた)
巫女(…ごめんなさい山神様。あんな言い方しちゃって…)
山神(気にしてないわ。それに…私も冷たかったわね)
山神(さて、お喋りはここまでよ。慎重に行きましょう)
巫女(はい!)
山賊「止まれ!」ザッ
三人「!」ザッ
巫女(どうしたのかな?こんな何もない場所で…)
山賊「…」ポンポン
巫女(地面を調べてる…?)
山賊「〜〜」ボソボソ
巫女「…?」
ゴゴゴゴゴ…!
村長娘「うわ!?地震!?」グラグラッ
巫女「わわわ…っ」グラグラッ
山神「…」
ビキビキビキッ…!!
419: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:36:58 ID:PlUNcBI2Oc
巫女「じ、地面が割れてく!?」
村長娘「ちょっと、こりゃさすがにまずいんじゃない!?」
山賊「へっへっへっへ…」
ズゴゴゴゴ…
ゴオ…ン…!!
村長娘「…」ポカーン
巫女「…」ポカーン
巫女(地面が割れて…中に洞窟が…)
山賊「はっはっは、驚いて言葉も出ねえか」
山賊「ようこそ、俺たちの隠れ家へ!」
村長娘「あ、あんた達…こんな所に住んでるのか?」ワナワナ
山賊「くくく、そうだ。怖くて入れねえか?」
山賊「だが残念。もうお前たちは…」
村長娘「すっげえ!どういう仕掛けなんだこりゃ!?」ワクワク
山賊「は?」
村長娘「へぇ〜!早く中を案内しておくれよ!ほらほら!」ハツラツ
山賊「…」ポカーン
巫女(山賊さん達が引いてるんですけど…)
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