ーむか〜しむかし、とある場所で
333: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:22:39 ID:di870/Hsjw
村娘「神娘様…」
神娘「村娘…すまないな。お前の村には」
村娘「本当ですよ!私の両親も楽しみにしてたのに!」
神娘「う…うぅむ…」
村娘「…な〜んて、冗談ですよ」ニコッ
神娘「えっ」
村娘「村の人たちには私からちゃんと言っておきますから。心配しないでください」
神娘「村娘…」
村娘「それよりも…良かったです!」
神娘「何がだ?」
村娘「神娘様の願いが叶って」
神娘「願い…」
村娘「あれですよ!ほら、男さんと共に…」
神娘「あ〜!あ〜!分かった、皆まで言うな!」アセアセ
村娘「えへへ、きっと天の神様からのご褒美ですね」
村娘「男さんを助けてくださったことへの…」
神娘「わはは、そうかな。見てくれているのだろうか…」
334: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:23:02 ID:di870/Hsjw
村娘「最初は神娘様は変わってしまったと思いましたけど…」
村娘「やっぱり神娘様は私が小さい頃と同じ、お優しい神娘様です!」
神娘「そうだろうか…?」
村娘「もちろんです!こっちでも皆さんと仲良くしてくださいね」
神娘「うむ」
村娘「でも…その、時々でいいので」
村娘「私たちの村の事も、思い出してください」
神娘「…ああ。約束したからな」
神娘「忘れるものか。お前の事も…あの村の事も」
神娘「お前と再会できたから人間を許すことができた」
神娘「お前のおかげで今があると言ってもいいくらいなのだぞ?」
村娘「…嬉しいです」
神娘「今生の別れではない。泣くな。な?」
村娘「…!」
村娘「なっ、泣いてなんか…ないです!」アセッ
神娘「わはは、立派な巫女になれ。村娘」
村娘「はいっ…!」グスッ
335: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:23:37 ID:di870/Hsjw
山神「男さん。神娘のこと、よろしく頼むわね」
男「お任せを」
山神「きっと世話を焼かせる事になるでしょうけど…見捨てないであげて」
男「ははっ。ご安心ください」
神娘「いやいや、私が世話を焼く立場だろうが」
山神「いい?神娘。ちゃんと瞑想とか基本の修行も怠らないのよ」
神娘「あ、お、おう…分かったぞ」
山神「村の方々に迷惑をかけないようにしなさいよ」クドクド
山神「あと、ちゃんとご飯を食べて夜更かししないよう…」クドクド
神娘「あ〜もう!分かったというに!」
男「本当に山神様は神様の母親のようですね」
村娘「結局、神娘様を一番心配しているのは山神様でしょうからね」
男「ははっ」
村娘「うふふっ」
336: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:24:01 ID:di870/Hsjw
村娘「あの、男さん」
男「なんでしょう?」
村娘「さっき山神様が言ってた、特別に強い想いって…」
男「!」
男「…察しが良いですね」
村娘「やっぱり〜!」
男「いやはや、お恥ずかしい限りで」
村娘「そんな事ないです!きっと神娘様も…」
村娘「……いえ、これ以上は余計なお節介ですね」
男「いずれにしても…後悔はしないようにしたいと思います」
男「伝えられなくなってからでは遅いですから」
村娘「男さん…頑張ってくださいね」
男「ありがとうございます」
村娘「男さんもお元気で」
男「村娘さんも」
337: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:24:34 ID:di870/Hsjw
山神「それじゃあ、私たちはお暇するわ」
山神「神娘と男さん…それに男さんの村にも幸あれ」
男「ありがとうございます。山神様」
村娘「神娘様!男さん!お達者で〜!」
神娘「お前も息災でな、村娘!」
山神「行くわよ巫女!掴まってなさい!」
村娘「はい!」
タタッ!
パカラッパカラッパカラッ……
男「…」
神娘「…」
男「行ってしまいましたね」
神娘「…ああ」
男「さて、これからどうしましょうか」
神娘「どうするも何も…こうなればやるべき事は一つだ」
男「ですよね。では、改めて神様」
男「私の村へ来てください」
神娘「…うむ、そうさせてもらおうか」
338: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:25:01 ID:di870/Hsjw
・・・・・・・・・・
339: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:25:28 ID:di870/Hsjw
パカラッパカラッ…
山神「この速さで大丈夫かしら?巫女」
村娘「…」
山神「そんなに急がないし…少しゆっくりでもいいのよ?」
村娘「…」
山神「…あのねぇ、巫女」
山神「首筋の辺りが冷たいんだけど。…あなたの涙で」
村娘「だって…だってぇぇ〜!うあああ〜ん!」ドバー
村娘「こんな…こんな急にお別れなんて…!」ダバーッ
山神「だから冷たいってば!」
山神「…まったく。神娘の前じゃ泣かないようにしてたのね」
村娘「だって…私があそこで泣いちゃったら…」グズッ
村娘「神娘様が…困ると思って…っ」ヒック
山神「…」
村娘「分かってるんです…本当は仕方ない事だって」グスッ
村娘「神娘様が…男さんと一緒に暮らせるようになって嬉しいし…」
村娘「でも、やっぱり…寂しいものは寂しいです〜!」ビエーン
山神「…本当にあなたは優しい子ね」
340: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:26:25 ID:di870/Hsjw
村娘「ご、ごべんなさい…山神様。鬣を濡らしてしまって…」グズグズ
山神「…別にいいわ。今は思いっきり泣きなさい」
山神「その代わり、泣きっぱなしは駄目よ?というか、そんな暇も無くしてあげる」
村娘「…えっ?」
山神「ねぇ巫女、このまま少し寄り道していきましょう」
村娘「よ、寄り道…ですか?」
山神「ええ。見て回りたい場所はいくらでもあるわ」
山神「すごいわよ、あなたの見たこともないものがこの世にもいっぱいあるんだから」
村娘「で、でも…お社に帰らなくてもいいんですか?」
山神「いいのよ、領域で何かあればすぐ分かるし」
山神「そしたら私だけ全速力で帰っちゃえばいいんだから」
村娘「ちょ、ちょっと山神様!?」アセッ
山神「ふふっ、冗談よ。でもあなたは巫女として見聞を広める必要があるわ」
山神「ちょうどいい機会じゃない。行きましょ行きましょ!」
村娘「山神様…」
村娘「…はい!それではお供させていただきます!」
山神「じゃあ行くわよ〜!しっかり掴まっててね!」ヒュンッ
村娘「あわわっ!速いですよ山神様〜!」
パカラッパカラッパカラッ
341: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:26:56 ID:di870/Hsjw
ーその後、しばらくの間
ー真っ白な馬に乗り各地を駆ける巫女服の少女が方々で話題となったが
ーそれはまた、別のお話……
342: 名無しさん@読者の声:2016/11/25(金) 22:51:01 ID:p94zDc5KUg
・・・・・・・・・・
343: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:52:07 ID:p94zDc5KUg
ガサガサッ
神娘「おっと、倒木が…」ピョンッ
男「大丈夫ですか、神様。足元が悪いですが」
神娘「うむ。このくらいの道のりはわけないぞ」
男「ならばいいのですが」
神娘「しかしお前はこんな道を毎日歩いてきていたのか」
男「ええ」
神娘「けっこう村までの距離もあるだろう。大変だったろうに」
男「このくらいの散策はいつもの事ですから」
神娘「よく見つけたものだ。あの洞窟を」
男「実はあそこに辿り着いたのは偶然ではないのですよ」
神娘「ん?」
男「予感がしたとでも言いますか…」
神娘「予感?」
344: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:52:51 ID:p94zDc5KUg
男「あの日、私はいつもの通り山菜を採りにきていたのですが」
男「ふと、いつもよりも山奥を探そうとこの道に入ったのです」
神娘「ほう」
男「すると、何やらこの先に何かがあるような予感が致しまして」
男「どんどん進んでいった結果、あの洞窟を見つけたのです」
神娘「何かがお前を呼び寄せたのか?」
男「そのような気が致します。神様ご自身では?」
神娘「う〜む…あの時はむしろ誰も来ないよう願っていたのだがな」
男「そうでしたね」
神娘「だが、無意識の内では…誰かを呼んでいたのかもしれん」
神娘「私を見つけ、あの状況を解決する手助けをしてくれる者を…」
男「神様…」
神娘「お前が来たことは幸運だったのだろう」
神娘「そうでなければ私はあの洞窟で朽ち果てていたのだからな」
男「光栄です」
345: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:53:14 ID:p94zDc5KUg
神娘「だが不思議なものよ。結局廻り廻ってこの地で生きる事になるとは」
男「本当に。不思議な縁ですね」
神娘「だからこそ大事にせねばならん」
神娘「お前の村に行っても、さらに育てていかねばな」
男「ええ」
神娘「本神になるその日まで…世話になるぞ、男」
男「はい。お任せを」
男「ですが私の助けを借りてばかりでは一人前になれませんよ」
神娘「一言多いわ。山神殿の言うことを真に受けるな」
男「ははっ」
神娘「よし、では早く行くぞ。ぐずぐずしておれぬ」タタッ
男「あっ、神様!」
神娘「どうした男!置いていくぞ!」タッタッタ
男「前を見てください!」
神娘「ん?」
男「そこは急な斜面に…」
神娘「えっ」
神娘「うわわ〜っ!」ザザザッ
ゴロゴロ…
346: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:53:36 ID:p94zDc5KUg
ザザッ
男「よっと」スタッ
男「神様、大丈夫ですか?」
神娘「う〜ん…」ピヨピヨ
男「ふう、これでは先が思いやられます」
神娘「や、やかましい…」
男「ははっ」
神娘「…わはは」
男「さあ、神様。お手を」スッ
神娘「ん」スッ
ガシッ
神娘「…」
男「どうかなさいましたか?神様」
神娘「……」
神娘「…本当はな」
男「え?」
神娘「不安でたまらんのだ」
347: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:54:00 ID:p94zDc5KUg
神娘「お前の村の者たちが良い連中である事は分かっているつもりだ」
神娘「お前を瓦礫の中から救い出そうと…皆必死になっている姿を見たしな」
神娘「だが…それと私を受け入れてくれるかは別の話」
男「…」
神娘「それに、私自身この地の事をまるで知らぬ」
神娘「文字通り一からの出直しだ」
神娘「上手くやっていく自信は正直あまり…」
男「大丈夫ですよ」
神娘「…!」
男「私も、山神様も、村娘様も、大丈夫だと言っているのです」
神娘「それはそうだが…」
男「これは無責任な励ましなどではありません」
男「神様のことを知った上でそう申し上げているのです」
男「大丈夫。神様なら上手くやっていけますとも」
神娘「…」
男「それに、どうにもならなくなれば私がなんとか致します」
男「この地に神様より先に生きる者として…出来る事なら何でも」
神娘「男…」
348: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:54:33 ID:p94zDc5KUg
男「ですから、そのような不安げな顔をなさるのはおやめください」
男「村の者たちも神様には感謝しております」
男「神様が来てくださると分かれば、諸手を挙げて喜びますとも」
神娘「…」
神娘「…大丈夫、か」
男「ええ」
神娘「相変わらず生意気なことばかり言うな」
男「その点に関しては諦めてください」
神娘「わはは。だが、不思議だな」
神娘「お前がそう言うのなら…大丈夫な気がしてくるぞ」
男「ははっ」
神娘「進むと決めたのだ。弱音ばかり吐いてはおれぬな」
男「その意気ですよ」
神娘「だが、まあ…たまにならよいか?」
男「それも構いません。いくらでも受け入れますとも」
神娘「…すまぬな」
349: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:54:58 ID:p94zDc5KUg
男「しかし、急に弱気になられたので驚きましたよ」
神娘「うむ…それなのだが」
男「?」
神娘「男、もう一度手を出してくれ」
男「手ですか?はい…」スッ
神娘「…」ギュッ
男「…」
神娘「…」
男「…あの、神様。手を握ってどうされました?」
神娘「…やはり温かい」
男「えっ?」
神娘「先ほど気付いたのだ」
神娘「お前に触れたり、触れられたりすると心が温かい」
神娘「気が緩んでしまい、つい弱音の一つも零れ出てしまう」
男「は、はあ…」
350: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:55:22 ID:p94zDc5KUg
神娘(そういえばこの感覚…)
神娘(似ておるな。あの時、目覚める瞬間のものと)
男「神様?」
神娘(あの時感じた、胸の温かみと)
男「神様、どうかされましたか?」
『………………たのです』
神娘(…思い出した。こやつの声が聞こえたのだ)
神娘(何と言っていたのかは分からぬが)
神娘(……)
神娘(…だが。そうか。そうだな)
神娘(私は知っている。この感覚の正体を)
神娘(ずっとあったのだ。私の中に。強く、強く…)
男「神様、無視なさらないでくださいよ」
神娘「…ん、ああ。すまないな」
男「やはりお加減でも優れないのですか?」
神娘「いや、そうではない。少し思案していただけだ」
351: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:55:59 ID:p94zDc5KUg
神娘「だが、大事なことが分かったぞ」
男「大事なことですか?」
神娘「ああ」
神娘「私はお前の事を好いておる、という事だ」
男「ははぁ、それはそれは…」
男「えっ」
神娘「わはは、滑稽な顔だ」
男「からかわないでくださいよ」
神娘「すまんすまん。だが、これは戯れではないぞ」
神娘「もっとも、神のくせにと馬鹿にされるやもしれぬが」
男「確かに驚きを隠せませんが」
神娘「だろうな。別に気にする必要は…」
男「まさか先に言われてしまうとは…不覚です」
神娘「?」
男「神様、畏れ多くながら…」
男「私も神様をお慕いしておりました」
神娘「えっ」
352: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:56:25 ID:p94zDc5KUg
神娘「お前も同じ気持ちだと言うのか?」
男「はい」
神娘「むむ…なんと」
男「はは、滑稽な顔をしておられます」
神娘「からかうでない」
男「神様の真似をしただけですよ」
神娘「まったくこやつは…」
男「愚かな事だとは分かっております」
神娘「いいや。単純に嬉しいぞ。それ以外の言葉が見当たらぬ」
男「そうですか…!」
神娘「思い出した。先ほど目覚める時、お前の声を聞いた」
『お慕いしていたのです』
神娘「お前のその言霊が私を呼び戻したのだな」
男「…聞いていたのですか」
神娘「山神殿が言っていた、特別に強い想いとはこの事だったのか」
男「恥ずかしいのでお止めください」
神娘「わはは」
神娘「…ありがとうな、男。お前のおかげで今ここに私がいるというわけだ」
男「神様…」
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