ーむか〜しむかし、とある場所で
313: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:23:11 ID:pIT98fGQ1s
コロコロ…
コロン…
ヒョイ
「おいおい、大事な物だ。傷付けるでない」
314: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:23:41 ID:pIT98fGQ1s
男「えっ」
神娘「傷付けるなと言ったのだ」ポンポン
男「…」ポカーン
神娘「…久しいな、男」
男「か……神…様…?」
神娘「ああ。私だぞ」
男「ううっ…!」
男「神様っ!」ガバッ
神娘「うわあっ!」
男「良かった…生きておられたのですね…!」ヒシッ
神娘「…ああ。生きておる…な」
神娘「それよりその…離してくれぬか。少し苦しいのだが」
男「お断り致します」キッパリ
神娘「……」
神娘「…ま、仕方あるまい。もう少しこのままでも…」
男「神様…」ギュッ
神娘「わはは…男、心配かけたな」ギュッ
315: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:24:01 ID:pIT98fGQ1s
・・・・・・・・・・
316: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:24:31 ID:pIT98fGQ1s
男「取り乱してしまい、申し訳ありません」
神娘「まったくだ。急に抱きしめるなど…」
男「しかしこの小ささ、間違いなく神様です」
神娘「それは背丈の話か?胸の話か?」
男「それより何故ここに?先ほどまでは誰もいなかったはずですが…」
神娘「流すなし。今、気付いたらここにおったのだ」
神娘「そうしたら足元にこれが転がってきて、お前が走ってきた」
男「その…消滅されたわけではなかったのですか?」
神娘「いや、確かにあの時消滅した」
神娘「私の限界を超える力を使ったからな。当然だろう」
男「…申し訳ありません」
神娘「謝られても困る。私が勝手にやった事だ」
男「では…訂正します」
男「本当にありがとうございました」ザッ
神娘「ああ。その方がずっと良い」ニコッ
317: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:24:58 ID:pIT98fGQ1s
男「しかし…消滅したとなれば、何故今ここに…?」
神娘「う〜む、それが…私にもよく分からぬ」
男「えっ?」
神娘「力を使い果たしたあの瞬間から…先ほどまでの記憶が全くない」
男「そうなのですか…」
神娘「まあ手がかりになるかは分からぬが…」
男「?」
神娘「先ほど目を覚ます直前、ある感覚を覚えた」
神娘「何と言えばいいのか…とても温かいような、胸が熱くなるような…そんな感覚だ」
男「はあ…」
神娘「うむ、訳が分からぬな。忘れてくれ」
神娘「大事なのはどうしてではない。私が生きているという事実だ」
男「そうですね、仰る通りです」
318: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:26:26 ID:pIT98fGQ1s
神娘「お前も無事で良かった。力の使い甲斐があったというもの」
男「神様のおかげでございます」
神娘「だが…腕を怪我しておるのか」
男「この程度、何でもありません」
神娘「村での仕事でも影響が出るだろう」
男「今は安静にしているのみです」
神娘「う〜む…治癒の術を使ってやりたいところだが、その…」
男「神様方の手を煩わせるわけには参りません」
男「それに、また消滅されては困りますしね」
神娘「…理解しているようで助かる」
男「やはり今また神力は空なので?」
神娘「そうらしい。またこの身を保っているので精一杯な状態だな」
男「それはいけません。私の村で少しお休みください」
神娘「お前の村で?」
男「はい」
319: 名無しさん@読者の声:2016/10/18(火) 02:04:37 ID:VTSHWpWAVQ
2人が幸せになりますように
( ・ω・)っCCCC
320: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:37:24 ID:69YocRD1R.
>>319 支援ありがたくいただきます!
間が空いてしまいすみません。更新再開します。
321: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:38:04 ID:69YocRD1R.
神娘「……」
男「神様、共に行きましょう」
神娘「…ならぬ」
男「えっ?」
神娘「お前の村には行けぬと言った」
男「何故でしょう」
神娘「…それは」
神娘「もう幾日も山神殿の下を空け、修行が遅れておる」
神娘「すぐにでも戻らねば。心配をかける事になろう」
神娘「それに…」
男「…それに?」
神娘「…いや、なんでもない」
男「はあ」
神娘(今行けば…帰りたくなくなりそうだしな)
322: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:38:30 ID:69YocRD1R.
男「分かりました。無理強いは致しません」
神娘「うむ。気遣いは感謝するぞ」
男「滅相もありません」
神娘「では、行くとしよう」
男「歩けますか?」
神娘「問題ない」スック
神娘「おっとっと…」フラッ
男「神様」ガシッ
神娘「…うむ…少し立ちくらみがしたな」
男「やはりお体の調子が…」
神娘「大事ない。さあ行くぞ」
男「…」
男「では、せめて外に行くまでこのままお体を支えさせてください」
神娘「大事ないと言っておるのに…」
神娘「…すまぬな。頼もう」
男「お任せを」
323: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:38:52 ID:69YocRD1R.
ザッザッ……
男「……」
神娘「……」
神娘(静かだな…)
神娘(この洞窟に来るのも…本当に今日で最後だろう)
神娘(ここから出れば…またこやつとも離れ離れ、か)
神娘(…何を考えておる)
神娘(自分で選び、進むと決めた道だ)
神娘(それでよいのだ。それで…)
神娘(…)
神娘(…だが、思うだけなら…悪くはないよな?)
神娘(寂しい、と…思うだけなら…)
神娘「…」
男「どうかされました?神様」
神娘「ん、いや、なんでもない」
324: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:39:16 ID:69YocRD1R.
男「ふう…外へ出ましたよ」
神娘「うぅむ、眩しい」
男「お体の具合はいかがですか?」
神娘「大丈夫だ」
男「もう支えはいりませんか」
神娘「…うむ。一人で行けるぞ」
男「では神様。改めて此度の件、本当にありがとうございました」ペコッ
男「…お達者で」
神娘「うむ」
神娘「お前も早くその腕を治して、しっかり働くのだぞ」
男「分かりました」
神娘「あの村の者たちはお前が生き埋めになっていた時も、無理を承知で必死にお前を助け出そうとしていた」
神娘「報いらなければならんぞ、男」
男「…はい」
神娘「では、お前も達者でな」
神娘「生きておれば、また会おう」
男「ははっ。ええ、またお会いしま…」
325: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:39:38 ID:69YocRD1R.
「あーっ!!いたーーっ!!」
男・神娘「!」ビクッ
326: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:40:07 ID:69YocRD1R.
神娘「い、今の声は…」
パカラッパカラッパカラッ…
村娘「神娘様ーっ!」タタタッ
男「あれは…村娘さん」
神娘「…と山神殿か?あの馬は」
馬「ヒヒーン!」キキーッ
村娘「よっと!」スタッ
男「見事な着地ですね」
村娘「神娘様!良かった、ご無事だったんですね!」ダキッ
神娘「うわわ、む、村娘…何故ここに?」
村娘「神娘様がいつまで経っても戻られなくて心配してたんですよ!」
村娘「山神様に乗せてもらってやっとここまで来たんですから!」
神娘「う、うむ。それは…すまなかった」
山神「…私も詳しく聞きたいものね、神娘?」ゴゴゴ…
神娘「や、山神殿…」
山神「ここに来る前に男さんの村へ行って、全て聞いたわよ?」
山神「あなた、男さんを助けるために無理をしたそうね」
神娘「う、うむ…」
神娘「それで力を使い果たし…一度消滅してしまったのだ」
山神「ふぅ、やっぱりねぇ」
327: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:40:33 ID:69YocRD1R.
村娘「ええっ!?消滅って…つまり死…」
神娘「…ああ、そうだ。私は確かに一度死んだ」
神娘「だが…よく分からぬがついさっき生き返ったのだ。そこの洞窟でな」
村娘「神娘様…」
山神「まったく…あなたって神は」
男「山神様、どうか怒らないでいただけますか?」
山神「男さん」
男「神様は私の命を助けてくださった」
男「どうやらそのお力を使い果たす他なかったようです」
男「どうか、その功に免じてお許しを…」
山神「…ふふっ、大丈夫よ。別に怒る気なんてないわ」
山神「神娘の事だもの。見殺しになんてできないわよね」
神娘「…う、うむ」
山神「ただ、これだけは忘れないでちょうだい」
山神「あなたの身に何かあれば…私も、巫女も、男さんも悲しむわ」
神娘「…」
山神「無事で良かった…本当に」
神娘「…心配かけてすまない、山神殿」
328: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:41:08 ID:69YocRD1R.
村娘「でもなんで…神娘様は生き返る事ができたんでしょう?」
神娘「それは私にも分からぬ」
男「山神様は何かご存知でしょうか?」
山神「いいえ。私の知る限り前例のない出来事よ」
男「そうですか…」
山神「でもこれは私の憶測だけどね」
男「?」
山神「古来、私たち神はあなた達人間からの信仰を糧に力を得ているわ」
山神「何か特別に大きな信仰があれば…失われた力を取り戻すような事もあるかもね」
神娘「大きな信仰…か」
山神「男さんや村の皆の感謝の念が通じたのかもしれないし」
男「おお、そうですか」
山神「あるいは…そうね」クスッ
山神「信仰以上の何か特別に強い想いが込められていたのかもしれないし」
男「…」
山神「それを言霊に乗せたりしたら…それはもうすごい力になるでしょうしねぇ」ニヤニヤ
男「…おほん」
神娘「本当は何か知っているのではないか?山神殿」
山神「嫌ねぇ。ただの憶測だって言っているでしょう?」
329: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:41:45 ID:69YocRD1R.
山神「それより男さん。その折れてる腕を出してちょうだい」
男「え?は、はい」スッ
山神「…」フウッ
キラキラ…
男「ひ、光が腕にまとっていく…」
村娘「すごい…綺麗…」
山神「これでもう大丈夫よ」
男「えっ?あっ…」
男「う、動く…腕が動きます…!」クイッ
神娘「さすが山神殿の治癒術だな」
山神「ふふ、恐れ入ったでしょう?」
男「ありがとうございます、山神様!」
山神「さて…男さんも神娘も無事だったわけだし、これで一件落着ね」
村娘「じゃあ帰りましょうか」
山神「そうしましょう」
神娘「うむ。では私も共に…」
山神「あ、神娘」
神娘「ん?」
山神「もうその必要はないわよ」
神娘「……」
神娘「…は?」
330: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:20:39 ID:di870/Hsjw
村娘「や、山神様…?」
神娘「どういう事だ?やはり破門…」
山神「違うわよ。まあ聞きなさい」
山神「あなたは一度消滅し、先ほど復活したわ」
神娘「うむ」
山神「復活というより…転生と言った方が分かりやすいわね」
山神「記憶や力を保持したまま、あなたは生まれ変わったのよ」
神娘「そういう事なのか」
神娘「…ん?生まれ変わった…?」
山神「そう。もうお分かりかしら?」
山神「あなたはこの地に生まれ落ちた神となったのよ」
男「えっ」
村娘「えっ」
神娘「ということは…」
山神「修行神はその生まれ落ちた地で修行を積まなければならない」
山神「あなたは今日からここで生きていきなさい、神娘」
神娘「なんと…」
331: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:21:25 ID:di870/Hsjw
神娘「それは…まことか?山神殿」
山神「こんな事、戯れで言うほど性格曲がってないわ」
神娘(少しは曲がっている自覚はあるのか)
山神「あなたに唯一変化があるのは…神力の源流がこの地になっていること」
山神「これこそが、あなたがここの修行神となったという証よ」
神娘「…」
山神「私たちとは…ここでお別れ」
神娘「…そうか」
山神「うふふ。神娘、そんな不安そうな顔しないでちょうだい」
神娘「ふ、不安などではない」
神娘「急な話過ぎて…頭が追い付かんだけだ」
山神「それは無理もないけどね」
山神「でもあなたなら大丈夫よ。あなたは強くなったわ」
山神「辛い過去にも向き合って…自分の命を投げ出してでも他者を助けて…」
山神「今のあなたなら、私の手を離れてもきっと大丈夫」
神娘「……」
神娘「…山神殿」
山神「ん?」
332: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:22:05 ID:di870/Hsjw
ザッ
神娘「…」ヒザマズキ
山神「!」
神娘「長年、私のような未熟者の相手をしてくれて…」
神娘「言葉にも出来ぬほどの感謝をしている」
神娘「本当に、本当に今まで世話になった。ありがとう」
山神「…」
山神「ふふっ、最初は礼儀も知らない面倒な修行神が来たと思ったけど」
山神「最後に珍しいものが見れたわね。あなたがそんな風に…」
神娘「ちゃ、茶化すでない」
山神「うふふ、頑張りなさいな」
山神「大丈夫よ。離れ離れになっても地は続いている…でしょう?」
神娘「それ、私が男に言った言葉ではないか…聞いていたのか」
山神「私の領域での会話なんか全部筒抜けよ」クスクス
神娘「…やっぱり性悪だ」
山神「私たちだけじゃない。ここには男さんもいるじゃない」
山神「あなたは一柱ではないわ。忘れないでね」
神娘「うむ。分かった」
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