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神娘「人間など嫌いだ」
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1: 亀更新かもです ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:06:43 ID:I.XMW0eHSk



ーむか〜しむかし、とある場所で





287: 名無しさん@読者の声:2016/8/14(日) 15:09:10 ID:DO3x0BwZKI
こんな別れはあんまりだ!
男が無事でありますように…!
支援!
288: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:29:02 ID:h6UUG422z.
>>287 支援ありがとうございます。
今回より起承転結の「結」に入ります。
最後までお付き合いください。
289: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:29:31 ID:h6UUG422z.





・・・・・・・・・・





290: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:30:01 ID:h6UUG422z.
「………」





「……う」





「…ううっ」





「おお、気が付いたか」


「…あっ…」


「こ、ここは…?」


「何にも覚えちゃいねえのか。まあ無理もねえけどよ」


「……」


「おい、俺のことは分かるだろうな?」


「大丈夫ですよ…百姓一さん」


百姓一「そうだ。男、しっかりしろ」


男「…」
291: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:30:24 ID:h6UUG422z.
男「わ、私は…?いったい何が…」

百姓一「崖崩れに巻き込まれて生き埋めになってたんだ」

百姓一「岩の隙間にでも上手い事入ってたんだろ。潰されなかったのが幸いだった」

男「そ、そうだったのですか…」ムクッ

男「痛っ…!」ズキッ

百姓一「あまり動くなって。腕が折れてんだよ」

百姓一「おめえ二日も寝込んでたんだが…もう少し寝てろ」

男「ふ、二日…ですか」

百姓一「ともかく命あって良かったぜ」

百姓一「まあ、おめえん家は跡形もなくなっちまったがな」

男「そう…ですか」

百姓一「安心しろ。しばらくは家に置いてやっからよ」

男「ありがとうございます」
292: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:30:53 ID:h6UUG422z.
ドタドタッ

百姓二「お〜い、百姓一さん。男さんの様子は…」ヒョコッ

百姓二「おおっ!目ぇ覚ましたかぁ!」

男「ああ、百姓二…心配かけて申し訳ない」

男「なるべく早く畑仕事に戻れるようにするよ…」

百姓二「んな事気にすんなぁ。しばらく休まねえと」

男「…すまない」

男「しかし、よく私を助けられたものだ。大変だったはず…」

百姓一「ああ、それなんだけどな…」

百姓一「おめえ、神様に知り合いがいたのか?」

男「えっ?」

百姓二「男さんが埋もれちまった後、女の子が村に来たんだ」

百姓二「背の小さい、見慣れない子だったなぁ」

男「…!」

百姓一「やっぱり心当たりあるか」

男「ええ。その方は紛れもなく神様です」

百姓一「そうか。そんでよく分からないが…神様がすげえ風を起こしたんだ」

百姓一「おめえを埋めてた土砂を全部吹き飛ばしちまうくらいのな」

男「!」
293: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:31:30 ID:h6UUG422z.
百姓二「しかも男さんだけは吹き飛ばさなかったしなぁ」

男「神様にそのようなお力が…」

百姓一「ま、そういうわけでおめえは助かったわけだ」

百姓一「神様に感謝しねえとな」

男「…本当ですね」

男「それで…神様はどちらに?」

百姓一「う〜ん、それが分かんねえんだ」

男「えっ…」

百姓二「土砂を吹き飛ばしたら神様、倒れちゃってなぁ…」

百姓二「そのまま消えちったんだよ」

男「!?」

百姓二「あれも何かの術だったのかなぁ?」

百姓一「砂みてえになって一瞬で消えちまったからな」

男「……」

百姓一「…そういや、これを落としてったようだぞ」

チリーン

男「こ、これは…!」

百姓一「神様が消えたその場に落ちてたんだ。これ、神様のだろ?」
294: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:31:56 ID:h6UUG422z.
男「ええ…これは神様の鈴です」チリッ

百姓二「綺麗な鈴だぁ。こんなもん見た事ねえ」

百姓一「本当だな」

男「……」

百姓二「どうした男さん?顔色が悪くねえか?」

男「ああ、いや、大丈夫…」

男「…すまない。一人にしてもらえないだろうか…」

百姓二「な〜に言ってんだぁ。今、何か美味いもんでも…」

百姓一「…いや、ここは男の言う通りにしておこう」

百姓二「へ?へぇ…」

百姓一「何かあったら呼べよ、男」

男「…はい」

スタスタスタ…

男「…」

男「……」ゴソゴソ

チャリッ

『必ずこの鈴が、またお前と私を引き合わせる』

男「…また二つの鈴が揃いましたよ、神様」

チリチリーン…
295: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:34:26 ID:h6UUG422z.
男「…来てくださったのですね」


男「思えば…そのお声が聞こえていたような気が致します」


男「こんなに早く、訪ねてくださるとは思わなかった」


男「それなのに…」


『砂みてえになって一瞬で消えちまったからな』


男「きっとこれは神様の言う…消滅…なのでしょう?」


男「何故、私などのために…力を使い果たしてしまわれたのですか…」


男「神様…」


男「何故…そのようなことを……」


男「……」


男「………ううっ…」


チリーン…
296: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:30:39 ID:x.m4zI.Brs





・・・・・・・・・・





297: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:31:19 ID:x.m4zI.Brs





・・・・・・・数日後





298: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:31:56 ID:x.m4zI.Brs
ザッザッ…

男「…ふぅ」

男「ここに来るのも…随分久しぶりな気がする」

男「よっこいしょっと」ストッ

男「さて…」スッ

ゴソゴソ

チリンッ

男「……」

男「…こうして鈴に話しかけていると、心が安らぎます」

男「神様に声が届きそうな気がして…」

男「神様、最初にお会いした洞窟ですよ」

男「あれは…まだまだ暑さの厳しい日でしたか」

男「ここに神様がおられた時は驚きました」

男「人間だと思って失礼を申し上げてしまったことが懐かしい」

男「あの時とは違って、もうすっかり風も冷たくなりました」

男「冬が訪れそうですよ」

男「私も神様も苦手な、寒い寒い冬が」
299: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:32:29 ID:x.m4zI.Brs
男「本当はもっと早く来たかったのですが」

男「動けるようになるまで時間がかかりまして」

男「今も腕の方はまだ上手く動かないのですがね」

男「しかし、この程度の怪我で済んだのも神様のおかげ」

男「村の復旧も順調ですよ」

男「神様に瓦礫を吹き飛ばしていただいたおかげです」

男「もうすぐ米の収穫ですよ。忙しくなります」

男「私も早く怪我を治し、畑仕事に戻らなくては」

男「そうしなければ村の皆から白い目で見られてしまいます」

男「ははっ、それは冗談ですが」

男「とにかく、全て神様のおかげで丸く収まりました」

男「本当に、本当に感謝のしようもございません」
300: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:32:57 ID:x.m4zI.Brs
男「もうあれから幾日も経ちましたが…」

男「神様がいなくなられた事、未だに信じられません」

男「村の皆さんが言う事も全て嘘であってほしかった」

男「しかし…」

男「神様がこの鈴を置いたままにするなどあり得ませんね」

男「これは神様がおられた村の方々の想いが籠った鈴」

男「そして…私との約束が詰まった鈴なのですから」

男「きっと生きておられるのなら」

男「とうに取りに戻って来られる筈…ですよね」

男「……」

男「…神様」

男「もうあなた様に届くことはないのでしょうけど」

男「どうしても白状しておきたい事がございます」
301: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:33:26 ID:x.m4zI.Brs
男「滑稽に思えたことでしょう」

男「あれだけ拒絶されながら、それでもここへ来る私の姿を」

男「そういえば最初はこのような理由を付けましたね」

男「私は困っている者を放っておけない性格だ、と」

男「…我ながら何とも馬鹿馬鹿しい言い訳です」

男「私はそのような正義感ある人間ではありません」

男「それどころか…」

男「……」

男「…実を言いますと、私は神様と出会った頃はまったくの愚か者でした」

男「どうにも無気力で…村での仕事に精を出す気になれなかったのです」

男「以前も話しましたよね。村の外へ想いを馳せる事があると」

男「そういった空想に囚われ…自分の足元を見る事を忘れていたのです」

男「村の皆さんからも相手にされなくなってしまいましたし…」

男「しかし、ここにおられた神様は私たちには使え得ぬ術を使い、違う世界を生きる存在…」

男「当然興味が湧きました。神様の事をいろいろ聞いてみたいと」

男「…親切心などではありません」

男「最初は、自分の興味本意のみで神様に近付いていました」
302: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:34:00 ID:x.m4zI.Brs
男「しかし神様は取り付く島もありませんでしたから…」

男「食べ物で釣る事を思い付きました」

男「まさかあれだけ上手くいくとは思いもしませんでしたけどね」

男「気付けば、神様の元へ食べ物をお持ちするために色々頑張っていました」

男「畑仕事や狩りに精を出し、山菜を採りに行き…」

男「村の皆さんにも驚かれるくらいでしたよ」

男「もちろん何があったのかは言いませんでした。約束もありましたしね」

男「神様に出会って…私は自分でも知らぬ間に変わっていったのです」

男「…そして時間が経つにつれて」

男「神様が自身の事をお話ししてくださった時は嬉しかった」

男「少しでも私の話に耳を傾けてくださる事が嬉しかった」

男「しかし…」

男「その嬉しさが、最初の目的とは違うところにあったのですね」

男「いつしか、ただ神様のお声を聞いていたくなって…」

男「ただ目まぐるしく変わる表情を見ていたくなって…」

男「神様との、この日常自体に喜びを感じるようになっていたのです」
303: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:34:31 ID:x.m4zI.Brs
男「……」

男「…はは、長々と喋ってしまいました」

男「なんだか懐かしくなりまして」

男「神様といた日々が、何やら遠い昔のようにも感じます」

男「しかし、忘れはしません」

男「神様のそのお声も、そのお姿も」

男「素直でないところも」

男「実は寂しがり屋なところも」

男「食いしん坊なところも」

男「強かったところも、脆かったところも…」

男「全部全部、私は忘れはしませんよ」

男「いつかは分かりませんが…死ぬその時まで」

男「…何故なら、そういったところも全てまとめて」

男「私は神様を…」

男「お慕いしていたのですから」
304: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:34:56 ID:x.m4zI.Brs
男「……」

男「そう…お慕いしていたのです」

男「気付いたのはお会いして、しばらく経ってからの事でしたが」

男「……」

男「…とんでもない考えですよね」

男「私などが神様にこのような事…余りにも畏れ多い」

男「神様もきっと笑われることでしょう」

男「しかしそれでも…色々な思考を巡らせる前に…」

男「神様がおられる内にお伝えしておきたかった」

男「…私は、臆病者だったのです」

男「今になってこれほど後悔することになろうとは…」

男「はは…自業自得というものですね」

男「神様がいなくなられたのも全て…私の責任だというのに…」
305: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:35:19 ID:x.m4zI.Brs
男「…神様」

男「別れ際、私の事を気に入っていると…」

男「私とまた会いたいと言ってくださいましたね」

男「神様からその言葉をいただいた時、どれほど嬉しかったか」

男「神様のお言葉を胸に、この数ヶ月頑張ってこれました」

男「神様に褒めていただけるような村造りをしていこうと」

男「これまでよりも、一層頑張りましたとも」

男「……」

男「これからもずっと」

男「神様との日々や、そのお言葉を胸に」

男「そうやって私は生きて参ります」

男「神様からいただいたこの命」

男「大事に…大事に使っていきます」

男「同じく神様が守ってくださった私たちの村のために…」
306: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:35:47 ID:x.m4zI.Brs
男「腕が治ったら、村の皆さんとここに祠を建てましょう」

男「この鈴を入れて…神様を祀らせていただきます」

男「神様が安らかに眠れるように…」

男「神様がおられた証を残しておけるように…」

男「今度は私たちが、この鈴を守っていきますよ」

男「ですから神様。安心してください」

男「願わくば…」

男「私たちの事を見守っていてくださると幸いです」

男「……」

男「……」

男「…では、そろそろ行きます」

男「神様。またお話し致しましょう」

チリンッ

男「…」ゴソッ

男「よいしょっと」スック

ザッザッ…
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