ーむか〜しむかし、とある場所で
284: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:40:12 ID:ErEHuXWIKY
『いい?何が起こっていても…決して無茶をしては駄目よ』
神娘「……」オオオ…
神娘(すまん、山神殿。言い付けを破る)
神娘(ここでこうせねば…私は悔やんでも悔やみきれない)
ビュオオオ…!
百姓一「ま、まるで風が集まってるみてえだ…」
農婦一「ちょっとお前さん!あの子はいったい何なの?」タタッ
百姓一「わ、分かんねえ…」
百姓一「…でも、多分あいつは……いや、あの方は…」
ゴオオオオッ…!
神娘「…くぅ…っ!」ビキビキッ
神娘(これは…っ、体が耐えられるか分からん…!)
神娘(だが…!今の私の全力をぶつけねば…!)
神娘(…そういえばいつか言ったな、男)
神娘(私が本気を出せば大岩でも吹き飛ばせると…!)
神娘(わはは、嘘であった。本気を出せば…それどころではない!)
神娘「おおおおおっ!!」ググッ
神娘「死の気配ごと!吹き飛ばしてくれるわああっ!!!」
バッ
285: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:40:39 ID:ErEHuXWIKY
ドッゴオオオオオオオオン!!!!
286: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:41:08 ID:ErEHuXWIKY
山神「!」ピクッ
村娘「どうかしました?山神様…」
山神「……」
山神(何かしら…この大きな気の流れ…)
村娘「山神様…?」
山神「……いいえ、なんでもないわ」
287: 名無しさん@読者の声:2016/8/14(日) 15:09:10 ID:DO3x0BwZKI
こんな別れはあんまりだ!
男が無事でありますように…!
支援!
288: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:29:02 ID:h6UUG422z.
>>287 支援ありがとうございます。
今回より起承転結の「結」に入ります。
最後までお付き合いください。
289: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:29:31 ID:h6UUG422z.
・・・・・・・・・・
290: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:30:01 ID:h6UUG422z.
「………」
「……う」
「…ううっ」
「おお、気が付いたか」
「…あっ…」
「こ、ここは…?」
「何にも覚えちゃいねえのか。まあ無理もねえけどよ」
「……」
「おい、俺のことは分かるだろうな?」
「大丈夫ですよ…百姓一さん」
百姓一「そうだ。男、しっかりしろ」
男「…」
291: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:30:24 ID:h6UUG422z.
男「わ、私は…?いったい何が…」
百姓一「崖崩れに巻き込まれて生き埋めになってたんだ」
百姓一「岩の隙間にでも上手い事入ってたんだろ。潰されなかったのが幸いだった」
男「そ、そうだったのですか…」ムクッ
男「痛っ…!」ズキッ
百姓一「あまり動くなって。腕が折れてんだよ」
百姓一「おめえ二日も寝込んでたんだが…もう少し寝てろ」
男「ふ、二日…ですか」
百姓一「ともかく命あって良かったぜ」
百姓一「まあ、おめえん家は跡形もなくなっちまったがな」
男「そう…ですか」
百姓一「安心しろ。しばらくは家に置いてやっからよ」
男「ありがとうございます」
292: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:30:53 ID:h6UUG422z.
ドタドタッ
百姓二「お〜い、百姓一さん。男さんの様子は…」ヒョコッ
百姓二「おおっ!目ぇ覚ましたかぁ!」
男「ああ、百姓二…心配かけて申し訳ない」
男「なるべく早く畑仕事に戻れるようにするよ…」
百姓二「んな事気にすんなぁ。しばらく休まねえと」
男「…すまない」
男「しかし、よく私を助けられたものだ。大変だったはず…」
百姓一「ああ、それなんだけどな…」
百姓一「おめえ、神様に知り合いがいたのか?」
男「えっ?」
百姓二「男さんが埋もれちまった後、女の子が村に来たんだ」
百姓二「背の小さい、見慣れない子だったなぁ」
男「…!」
百姓一「やっぱり心当たりあるか」
男「ええ。その方は紛れもなく神様です」
百姓一「そうか。そんでよく分からないが…神様がすげえ風を起こしたんだ」
百姓一「おめえを埋めてた土砂を全部吹き飛ばしちまうくらいのな」
男「!」
293: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:31:30 ID:h6UUG422z.
百姓二「しかも男さんだけは吹き飛ばさなかったしなぁ」
男「神様にそのようなお力が…」
百姓一「ま、そういうわけでおめえは助かったわけだ」
百姓一「神様に感謝しねえとな」
男「…本当ですね」
男「それで…神様はどちらに?」
百姓一「う〜ん、それが分かんねえんだ」
男「えっ…」
百姓二「土砂を吹き飛ばしたら神様、倒れちゃってなぁ…」
百姓二「そのまま消えちったんだよ」
男「!?」
百姓二「あれも何かの術だったのかなぁ?」
百姓一「砂みてえになって一瞬で消えちまったからな」
男「……」
百姓一「…そういや、これを落としてったようだぞ」
チリーン
男「こ、これは…!」
百姓一「神様が消えたその場に落ちてたんだ。これ、神様のだろ?」
294: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:31:56 ID:h6UUG422z.
男「ええ…これは神様の鈴です」チリッ
百姓二「綺麗な鈴だぁ。こんなもん見た事ねえ」
百姓一「本当だな」
男「……」
百姓二「どうした男さん?顔色が悪くねえか?」
男「ああ、いや、大丈夫…」
男「…すまない。一人にしてもらえないだろうか…」
百姓二「な〜に言ってんだぁ。今、何か美味いもんでも…」
百姓一「…いや、ここは男の言う通りにしておこう」
百姓二「へ?へぇ…」
百姓一「何かあったら呼べよ、男」
男「…はい」
スタスタスタ…
男「…」
男「……」ゴソゴソ
チャリッ
『必ずこの鈴が、またお前と私を引き合わせる』
男「…また二つの鈴が揃いましたよ、神様」
チリチリーン…
295: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:34:26 ID:h6UUG422z.
男「…来てくださったのですね」
男「思えば…そのお声が聞こえていたような気が致します」
男「こんなに早く、訪ねてくださるとは思わなかった」
男「それなのに…」
『砂みてえになって一瞬で消えちまったからな』
男「きっとこれは神様の言う…消滅…なのでしょう?」
男「何故、私などのために…力を使い果たしてしまわれたのですか…」
男「神様…」
男「何故…そのようなことを……」
男「……」
男「………ううっ…」
チリーン…
296: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:30:39 ID:x.m4zI.Brs
・・・・・・・・・・
297: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:31:19 ID:x.m4zI.Brs
・・・・・・・数日後
298: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:31:56 ID:x.m4zI.Brs
ザッザッ…
男「…ふぅ」
男「ここに来るのも…随分久しぶりな気がする」
男「よっこいしょっと」ストッ
男「さて…」スッ
ゴソゴソ
チリンッ
男「……」
男「…こうして鈴に話しかけていると、心が安らぎます」
男「神様に声が届きそうな気がして…」
男「神様、最初にお会いした洞窟ですよ」
男「あれは…まだまだ暑さの厳しい日でしたか」
男「ここに神様がおられた時は驚きました」
男「人間だと思って失礼を申し上げてしまったことが懐かしい」
男「あの時とは違って、もうすっかり風も冷たくなりました」
男「冬が訪れそうですよ」
男「私も神様も苦手な、寒い寒い冬が」
299: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:32:29 ID:x.m4zI.Brs
男「本当はもっと早く来たかったのですが」
男「動けるようになるまで時間がかかりまして」
男「今も腕の方はまだ上手く動かないのですがね」
男「しかし、この程度の怪我で済んだのも神様のおかげ」
男「村の復旧も順調ですよ」
男「神様に瓦礫を吹き飛ばしていただいたおかげです」
男「もうすぐ米の収穫ですよ。忙しくなります」
男「私も早く怪我を治し、畑仕事に戻らなくては」
男「そうしなければ村の皆から白い目で見られてしまいます」
男「ははっ、それは冗談ですが」
男「とにかく、全て神様のおかげで丸く収まりました」
男「本当に、本当に感謝のしようもございません」
300: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:32:57 ID:x.m4zI.Brs
男「もうあれから幾日も経ちましたが…」
男「神様がいなくなられた事、未だに信じられません」
男「村の皆さんが言う事も全て嘘であってほしかった」
男「しかし…」
男「神様がこの鈴を置いたままにするなどあり得ませんね」
男「これは神様がおられた村の方々の想いが籠った鈴」
男「そして…私との約束が詰まった鈴なのですから」
男「きっと生きておられるのなら」
男「とうに取りに戻って来られる筈…ですよね」
男「……」
男「…神様」
男「もうあなた様に届くことはないのでしょうけど」
男「どうしても白状しておきたい事がございます」
301: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:33:26 ID:x.m4zI.Brs
男「滑稽に思えたことでしょう」
男「あれだけ拒絶されながら、それでもここへ来る私の姿を」
男「そういえば最初はこのような理由を付けましたね」
男「私は困っている者を放っておけない性格だ、と」
男「…我ながら何とも馬鹿馬鹿しい言い訳です」
男「私はそのような正義感ある人間ではありません」
男「それどころか…」
男「……」
男「…実を言いますと、私は神様と出会った頃はまったくの愚か者でした」
男「どうにも無気力で…村での仕事に精を出す気になれなかったのです」
男「以前も話しましたよね。村の外へ想いを馳せる事があると」
男「そういった空想に囚われ…自分の足元を見る事を忘れていたのです」
男「村の皆さんからも相手にされなくなってしまいましたし…」
男「しかし、ここにおられた神様は私たちには使え得ぬ術を使い、違う世界を生きる存在…」
男「当然興味が湧きました。神様の事をいろいろ聞いてみたいと」
男「…親切心などではありません」
男「最初は、自分の興味本意のみで神様に近付いていました」
302: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:34:00 ID:x.m4zI.Brs
男「しかし神様は取り付く島もありませんでしたから…」
男「食べ物で釣る事を思い付きました」
男「まさかあれだけ上手くいくとは思いもしませんでしたけどね」
男「気付けば、神様の元へ食べ物をお持ちするために色々頑張っていました」
男「畑仕事や狩りに精を出し、山菜を採りに行き…」
男「村の皆さんにも驚かれるくらいでしたよ」
男「もちろん何があったのかは言いませんでした。約束もありましたしね」
男「神様に出会って…私は自分でも知らぬ間に変わっていったのです」
男「…そして時間が経つにつれて」
男「神様が自身の事をお話ししてくださった時は嬉しかった」
男「少しでも私の話に耳を傾けてくださる事が嬉しかった」
男「しかし…」
男「その嬉しさが、最初の目的とは違うところにあったのですね」
男「いつしか、ただ神様のお声を聞いていたくなって…」
男「ただ目まぐるしく変わる表情を見ていたくなって…」
男「神様との、この日常自体に喜びを感じるようになっていたのです」
303: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:34:31 ID:x.m4zI.Brs
男「……」
男「…はは、長々と喋ってしまいました」
男「なんだか懐かしくなりまして」
男「神様といた日々が、何やら遠い昔のようにも感じます」
男「しかし、忘れはしません」
男「神様のそのお声も、そのお姿も」
男「素直でないところも」
男「実は寂しがり屋なところも」
男「食いしん坊なところも」
男「強かったところも、脆かったところも…」
男「全部全部、私は忘れはしませんよ」
男「いつかは分かりませんが…死ぬその時まで」
男「…何故なら、そういったところも全てまとめて」
男「私は神様を…」
男「お慕いしていたのですから」
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