ーむか〜しむかし、とある場所で
248: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:28:30 ID:Ist3L1G472
男「神様、今日この日まで…」
男「本当に、本当にありがとうございました」ペコッ
神娘「…」
神娘「…お前に頭を下げられるような事、私は何もしておらぬ」
男「……」
神娘「以前も言ったが…お前から貰ったものが多すぎる」
神娘「このままお前に何の恩も返せず別れるのが心苦しいほどだ」
男「いえ、そのような…」
神娘「ここは素直に受け取れ。本当に感謝しておる」
男「ははっ」
神娘「お前とお前の村の多幸、心から祈っておるぞ」
男「ありがとうございます」
男「…では神様、名残惜しくなります故」
神娘「ああ。もう行くがいい」
男「失礼致します」スクッ
ギシッ
ギシッ…
神娘「…」
神娘「……」
神娘「…っ」
249: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:29:04 ID:Ist3L1G472
男「よっと」スタッ
男「さて、では社へ戻…」
「待て、男!」
男「!」
スタッ
神娘「ふぅ」
男「神様?どうかされましたか?」
神娘「気が変わった」
男「え?」
神娘「私はこの地で生き、修行する。それは動かせん」
神娘「だが、私はお前の事が……」
男「…!」
神娘「…え〜…その、気に入っておる」
男「……」
神娘「だから、ここで今生の別れとするのは止めだ」
神娘「またお前に会いに行くことにしよう」
男「本当ですか!」
神娘「修行が一段落し、落ち着いたら…会いに行く」
250: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:29:38 ID:Ist3L1G472
神娘「お前が待っていてくれるのなら…約束しよう」
男「当然、お待ちしております」
神娘「…良かった」
男「しかし、ここから私の村まではかなり距離がありますが」
神娘「私は神だぞ?この程度の距離、短いものだ」
男「流石です」
神娘「地は続いておる。どうという事はない」
神娘「距離は遠くとも所詮、同じ地上に生きる者同士だ」
男「はは、そうですね」
神娘「その時はまたくだらない話を聞かせてくれるか?」
男「いくらでも」
男「漬物もたくさん用意しておきますし」
男「肉や魚もたくさん獲っておきますよ」
神娘「餅米も作っていると言っていたな」
男「はい。その折には餅を搗きましょう」
神娘「わはは」
男「その日までに、神様が驚かれるような立派な村にしますよ」
神娘「うむ、楽しみにしておくぞ」
251: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:30:59 ID:Ist3L1G472
神娘「…ん、そうだ。これを」チリッ
男「それはあの鈴ですか」
神娘「えいやっ」プチッ
男「か、神様?」
神娘「さて、二つに結えてあった鈴を再びちぎったわけだが…」
神娘「この片割れをお前に託す」スッ
男「何故ですか」
神娘「再会の約束の証だ」
男「しかし、これは大切なものなのでは?」
神娘「そうだな。よく分からぬが大切なものだろう」
神娘「だからこそお前に託すのだ。また取りに行かねばならんからな」
男「それで再会の約束と…」
神娘「そういう事だ。必ずお前の元へ参る」
男「このような品…私が持っていても大丈夫でしょうか」
神娘「神力が宿っているのは間違いないが…お前が持っていて危険な物ではない」
男「もしや、これを使えば私も神力が使えるように…」
神娘「ならん」
男「あ、はい」
252: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:31:30 ID:Ist3L1G472
神娘「その鈴の音が最初に私たちを引き合わせた」
神娘「そして、必ずこの鈴がまたお前と私を引き合わせる」
神娘「…ような気がする」
男「そうですね。私もそのような気が致します」
神娘「無くすなよ?」
男「分かっております。肌身離さず、大事に預かっておきます」
男「そうでないと神様の気が変わりかねませんからね」
神娘「信用ないのか?私は」
男「滅相もございません」
男「しかし少々面倒くさがりなところがありますから」
神娘「やかましい……ん?」ピクッ
男「どうかされましたか?」
神娘「社の方から強大な神力を感じる。恐らく準備が出来たのだろう」
男「そうですか。何だか緊張致します」
神娘「転移など一瞬だ。大したことはない」
神娘「ちょっと胃が引っくり返るような感覚になるだけだ」
男「よく分かりませんが怖い」
神娘「わはは、楽しみにしておけ」
男「はあ」
神娘「言っておくが見送りには行かぬぞ」
男「大丈夫ですよ。また会えるのですから」
253: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:33:46 ID:Ist3L1G472
神娘「じゃあその日まで、達者でな」
男「はい、神様。またお会いしましょう」
ザッ…
男「…」フリフリ
神娘「…」フリフリ
神娘「……」フリ…
神娘「…ふっ、気に入っているか。上手く誤魔化したものだ」
神娘「頑張って生きろ…男」
254: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:27:08 ID:TXb2tRm0vc
・・・・・・・・・・
255: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:27:39 ID:TXb2tRm0vc
・・・・・・・・・・
256: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:28:09 ID:TXb2tRm0vc
・・・・・・・・・・
257: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:28:38 ID:TXb2tRm0vc
神娘「……」
ザアアアアッ…
神娘「……」
ヒュッ
神娘「!」ピクッ
神娘「はっ!」ピョンッ
トスッ!
神娘「…ふぅ、今度は矢か」スタッ
ヒュヒュヒュンッ!
神娘「やっ!とっ!」ヒョイヒョイッ
トストストスッ!
神娘「…よし」ニヤッ
神娘「もう気配の察知はかなりこなれてきたぞ」ポンポン
バサバサッ
山神「…ふふ、そうね。良い調子じゃないかしら」カアーッ
神娘「しかし神力でできた弓矢とは…まるで殺しにかかってないか?」
山神「このくらいの方が緊張感出るじゃない」
山神「当たらなければどうという事はないわよ」
神娘「間違っていないがなんだかな…」
258: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:29:04 ID:TXb2tRm0vc
村娘「山神様!神娘様〜!」タタッ
山神「巫女」
村娘「あっ、いたいた!少し休憩しませんか?」
山神「まあそうね。朝から動き通しだし」
神娘「では社に戻ろう」
・・・・・・・
村娘「はい、どうぞ」コトッ
神娘「すまんな。喉が渇いていた」
山神「ふぅ〜、近頃めっきり涼しくなったわね」
村娘「もう秋になりましたから」
神娘「木々が紅葉を迎える。良い季節だな」
村娘「神娘様がここに来て、もう三月くらい経つでしょうか」
神娘「おお、それほどになるか」
山神「時が経つのは早いわね」
神娘「お前はもうここの仕事に慣れたか」
村娘「はい。とは言っても、巫女様らしい事なんて何もしてないですけど…」
山神「祭事の時期になったら死ぬほど忙しくなるわよ。安心なさい」
村娘「死ぬほど…ですか」アセッ
259: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:29:31 ID:TXb2tRm0vc
村娘「神娘様はどうですか?修行の方は」
神娘「うむ、順調だぞ」
山神「冬までには村に降りて修行できそうね」
村娘「本当ですか!」パアッ
神娘「早くそっちに行きたいものだ」
山神「そうね。早く修行を一段落させて…」
村娘「男さんに会いに行かなくちゃいけないですもんね」
神娘「そういう意味ではないわ!」アセッ
神娘「こ、ここにいつまでも世話になっているわけにはいかんからな」
山神「そうね〜」ニヤニヤ
村娘「そうですね〜」ニヤニヤ
神娘「信じておらんだろ」
山神「でも男さんとそんな約束をしたなんてね」
村娘「てっきりあれでお別れするかと思ってました」
神娘「…心の声とやらに従ったら…ああなっただけだ」
山神「へぇ〜」
村娘「ほぉ〜」
神娘「いちいちうっとおしい奴らだな…」
260: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:30:03 ID:TXb2tRm0vc
山神「でも…頑張ってるかしらね、男さん」
神娘「…そうだな。何をしているのやら」
村娘「きっと頑張ってますよ。張り切って帰りましたもん」
神娘「……」
山神「にやけてるわよ、神娘」
神娘「っ!や、やかましい」
神娘「そろそろ再開するぞ!山神殿」
山神「はいはい。次は瞑想でもしましょうかしらね」
神娘「…あれか。退屈だ」フウ
山神「駄目よ。基礎の基礎は疎かにしては」
神娘「うむ…分かっておる」
神娘「では…」
モヤッ
神娘「ん…?」
村娘「どうかしました?神娘様」
神娘「……いや、何でもない」
ドクン ドクン…
神娘「…??」
261: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:30:35 ID:TXb2tRm0vc
神娘「……」メイソウ
山神「……」
神娘「……」
山神「……」
神娘「……」ソワソワ
山神「…神娘、集中が切れてるわよ」
神娘「あ、ああ…すまない」
神娘(…なんだ?この感じは…)
『ガラッ…』
神娘(ん…?)
『ガラガラガラ…ッ!』
『ドザザザザアアアッ!!!』
神娘「う、うわっ!?」バッ
山神「えっ?」
神娘「な、何だ!?今の音は!?」
山神「どうしたの神娘。音なんか何もしてないわよ?」
神娘「なんだと…?」
262: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:31:00 ID:TXb2tRm0vc
神娘「今、確かにしたではないか」
神娘「何かが崩れるような…大きな音が」
山神「落ち着いて。何もないったら」
神娘「ど、どういう事だ…?」
神娘(空耳?いや、そんなはずはない…)
山神「顔色が悪いわよ…どうかしたかしら?」
神娘「……」
神娘「…山神殿」
山神「なに?」
神娘「何やら不吉な予感がする」
山神「…どういうこと?」
神娘「とても大きな不安が湧き上がってくるような…」
神娘「今まで感じた事がない胸騒ぎがするのだ」
山神「胸騒ぎ…?」
神娘「ああ。これは何なのだ…」
山神「気のせいではないのね?」
神娘「うむ。断じて気のせいではない」
263: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:31:40 ID:TXb2tRm0vc
神娘「つい先ほどからなのだが…」
山神「いったい何かしら…私は何も感じないけど」
神娘「という事は、今この場所に関係ない事なのか?」
山神「そうかもね。この辺りに異変があれば私が真っ先に気付くわ」
神娘「……」
山神「…神娘」
神娘「ん?」
山神「例の鈴を出してみて」
神娘「鈴?これか」スッ
ズウン…
神娘「!?」ゾクッ
山神「どうかしたの!?」
神娘「…この鈴だ」チャリッ
山神「…」
神娘「触れただけで分かる。この鈴からその不安が湧き出ておる」
山神「やっぱりね。貸してみて」チャリッ
山神「……」
神娘「…どうだろうか」
264: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:32:15 ID:TXb2tRm0vc
山神「…今はこの鈴の片割れを男さんが持っているんだったわね?」
神娘「う、うむ」
山神「確かに…あまり良くない気が出ているわ」
神娘「やはりか。まさか、あやつの身に何かが…?」
山神「元々一つだった鈴が離れても神力で繋がっている可能性はあるわ」
山神「もう片方を通して、何かを伝えているのかも…」
神娘「な、何だと思う?例えば病気だとか、怪我だとか…」
神娘「そ、そうだ、大した事あるまい。なぁそうだろう?」
山神「…神娘」
神娘「……」
山神「認めたくない気持ちは分かるわ」
山神「でも、この鈴から感じ取れる気は…あなたも分かるはず」
神娘「う…む…」
山神「……」
神娘「…死だ」
山神「…」
神娘「死の気配が…その鈴からする」
265: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:32:46 ID:TXb2tRm0vc
神娘「あやつは今…死を感じるほどの目に遭っている…」
神娘「先ほど聞こえた音も…ただ事ではない」
山神「……」
神娘「や、山神殿!どうすればいい!?」
山神「落ち着いて神娘」
山神「この鈴の正体が掴めない以上、さっき私が言った事も仮説に過ぎないわ」
神娘「うむ…」
山神「もう少し様子を見て…」
神娘「それでは遅いかもしれないだろう!」
山神「!」
神娘「もし、山神殿が言った事が本当だったら…あやつは…」
山神「…」
神娘「…と、とにかく!私が様子を見に行ってくる!」
山神「神娘、それは…」
神娘「行かせてほしい」
山神「神娘…」
神娘「山神殿は無闇にここを離れられないだろう。村娘では時間がかかり過ぎてしまう」
神娘「私が行くしかない。今の私なら向こうまで数刻で行ける」
神娘「頼む。山神殿…!」
山神「……」
266: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:33:26 ID:TXb2tRm0vc
山神「…分かったわ」
神娘「!」
山神「このままじゃあなたも修行どころではなさそうだしね」
山神「いいわ。様子を見に行ってきてちょうだい」
神娘「ありがとう」
山神「ただし」
神娘「む?」
山神「あなたの神力は回復してきたとはいえ…まだ完全ではないわ」
山神「過剰に力を使う事による消滅の危険はまだ残っているわよ」
神娘「…」
山神「いい?何が起こっていても…決して無茶をしては駄目よ」
神娘「…分かっておる」
山神「そう…じゃあ、行ってきなさい」
神娘「ああ」
神娘「…そうだ、村娘には…」
山神「上手く伝えておくわ。あまり心配かけたくないでしょう?」
神娘「頼む。では、行ってくるぞ」
タタンッ!
267: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:47:58 ID:YZA5Eqdiic
・・・・・・・・・・
364.64 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】