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神娘「人間など嫌いだ」
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1: 亀更新かもです ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:06:43 ID:I.XMW0eHSk



ーむか〜しむかし、とある場所で





247: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:28:01 ID:Ist3L1G472
男「えって何ですか」

神娘「な、何でもないぞ。続けよ」

男「おほん、では…」

男「私は神様のおかげでこの数日、貴重な体験をする事ができました」

男「村の外へ出て旅をしたこと」

男「月を見上げながら野宿をしたこと」

男「幻影の村の中を歩き回ったこと」

男「何もかもが私にとって感慨深いことばかり」

神娘「……」

男「私はこの数日間の事、生涯忘れません」

神娘「…うむ」

男「いえ、この数日間の事ばかりではありません」

男「神様とお会いしてからの日々全て、忘れる事はないでしょう」

神娘「なかなかに濃い日々だったからな」

神娘「お前が頼みもしないのに漬物や猪肉を持ってきたこと」

神娘「採ってきた茸でひどい目にあったこと」

神娘「鰻を踊り食いさせられそうになったこと」

神娘「私も忘れられそうにないぞ」

男「割とひどい思い出ですね」

神娘「ほとんどお前のせいだな、うん」
248: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:28:30 ID:Ist3L1G472
男「神様、今日この日まで…」

男「本当に、本当にありがとうございました」ペコッ

神娘「…」

神娘「…お前に頭を下げられるような事、私は何もしておらぬ」

男「……」

神娘「以前も言ったが…お前から貰ったものが多すぎる」

神娘「このままお前に何の恩も返せず別れるのが心苦しいほどだ」

男「いえ、そのような…」

神娘「ここは素直に受け取れ。本当に感謝しておる」

男「ははっ」

神娘「お前とお前の村の多幸、心から祈っておるぞ」

男「ありがとうございます」

男「…では神様、名残惜しくなります故」

神娘「ああ。もう行くがいい」

男「失礼致します」スクッ

ギシッ

ギシッ…



神娘「…」



神娘「……」



神娘「…っ」
249: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:29:04 ID:Ist3L1G472
男「よっと」スタッ

男「さて、では社へ戻…」

「待て、男!」

男「!」

スタッ

神娘「ふぅ」

男「神様?どうかされましたか?」

神娘「気が変わった」

男「え?」

神娘「私はこの地で生き、修行する。それは動かせん」

神娘「だが、私はお前の事が……」

男「…!」

神娘「…え〜…その、気に入っておる」

男「……」

神娘「だから、ここで今生の別れとするのは止めだ」

神娘「またお前に会いに行くことにしよう」

男「本当ですか!」

神娘「修行が一段落し、落ち着いたら…会いに行く」
250: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:29:38 ID:Ist3L1G472
神娘「お前が待っていてくれるのなら…約束しよう」

男「当然、お待ちしております」

神娘「…良かった」

男「しかし、ここから私の村まではかなり距離がありますが」

神娘「私は神だぞ?この程度の距離、短いものだ」

男「流石です」

神娘「地は続いておる。どうという事はない」

神娘「距離は遠くとも所詮、同じ地上に生きる者同士だ」

男「はは、そうですね」

神娘「その時はまたくだらない話を聞かせてくれるか?」

男「いくらでも」

男「漬物もたくさん用意しておきますし」

男「肉や魚もたくさん獲っておきますよ」

神娘「餅米も作っていると言っていたな」

男「はい。その折には餅を搗きましょう」

神娘「わはは」

男「その日までに、神様が驚かれるような立派な村にしますよ」

神娘「うむ、楽しみにしておくぞ」
251: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:30:59 ID:Ist3L1G472
神娘「…ん、そうだ。これを」チリッ

男「それはあの鈴ですか」

神娘「えいやっ」プチッ

男「か、神様?」

神娘「さて、二つに結えてあった鈴を再びちぎったわけだが…」

神娘「この片割れをお前に託す」スッ

男「何故ですか」

神娘「再会の約束の証だ」

男「しかし、これは大切なものなのでは?」

神娘「そうだな。よく分からぬが大切なものだろう」

神娘「だからこそお前に託すのだ。また取りに行かねばならんからな」

男「それで再会の約束と…」

神娘「そういう事だ。必ずお前の元へ参る」

男「このような品…私が持っていても大丈夫でしょうか」

神娘「神力が宿っているのは間違いないが…お前が持っていて危険な物ではない」

男「もしや、これを使えば私も神力が使えるように…」

神娘「ならん」

男「あ、はい」
252: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:31:30 ID:Ist3L1G472
神娘「その鈴の音が最初に私たちを引き合わせた」

神娘「そして、必ずこの鈴がまたお前と私を引き合わせる」

神娘「…ような気がする」

男「そうですね。私もそのような気が致します」

神娘「無くすなよ?」

男「分かっております。肌身離さず、大事に預かっておきます」

男「そうでないと神様の気が変わりかねませんからね」

神娘「信用ないのか?私は」

男「滅相もございません」

男「しかし少々面倒くさがりなところがありますから」

神娘「やかましい……ん?」ピクッ

男「どうかされましたか?」

神娘「社の方から強大な神力を感じる。恐らく準備が出来たのだろう」

男「そうですか。何だか緊張致します」

神娘「転移など一瞬だ。大したことはない」

神娘「ちょっと胃が引っくり返るような感覚になるだけだ」

男「よく分かりませんが怖い」

神娘「わはは、楽しみにしておけ」

男「はあ」

神娘「言っておくが見送りには行かぬぞ」

男「大丈夫ですよ。また会えるのですから」
253: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:33:46 ID:Ist3L1G472
神娘「じゃあその日まで、達者でな」

男「はい、神様。またお会いしましょう」

ザッ…





男「…」フリフリ



神娘「…」フリフリ



神娘「……」フリ…





神娘「…ふっ、気に入っているか。上手く誤魔化したものだ」





神娘「頑張って生きろ…男」
254: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:27:08 ID:TXb2tRm0vc





・・・・・・・・・・





255: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:27:39 ID:TXb2tRm0vc





・・・・・・・・・・






256: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:28:09 ID:TXb2tRm0vc





・・・・・・・・・・





257: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:28:38 ID:TXb2tRm0vc
神娘「……」

ザアアアアッ…

神娘「……」

ヒュッ

神娘「!」ピクッ

神娘「はっ!」ピョンッ

トスッ!

神娘「…ふぅ、今度は矢か」スタッ

ヒュヒュヒュンッ!

神娘「やっ!とっ!」ヒョイヒョイッ

トストストスッ!

神娘「…よし」ニヤッ

神娘「もう気配の察知はかなりこなれてきたぞ」ポンポン

バサバサッ

山神「…ふふ、そうね。良い調子じゃないかしら」カアーッ

神娘「しかし神力でできた弓矢とは…まるで殺しにかかってないか?」

山神「このくらいの方が緊張感出るじゃない」

山神「当たらなければどうという事はないわよ」

神娘「間違っていないがなんだかな…」
258: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:29:04 ID:TXb2tRm0vc
村娘「山神様!神娘様〜!」タタッ

山神「巫女」

村娘「あっ、いたいた!少し休憩しませんか?」

山神「まあそうね。朝から動き通しだし」

神娘「では社に戻ろう」


・・・・・・・


村娘「はい、どうぞ」コトッ

神娘「すまんな。喉が渇いていた」

山神「ふぅ〜、近頃めっきり涼しくなったわね」

村娘「もう秋になりましたから」

神娘「木々が紅葉を迎える。良い季節だな」

村娘「神娘様がここに来て、もう三月くらい経つでしょうか」

神娘「おお、それほどになるか」

山神「時が経つのは早いわね」

神娘「お前はもうここの仕事に慣れたか」

村娘「はい。とは言っても、巫女様らしい事なんて何もしてないですけど…」

山神「祭事の時期になったら死ぬほど忙しくなるわよ。安心なさい」

村娘「死ぬほど…ですか」アセッ
259: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:29:31 ID:TXb2tRm0vc
村娘「神娘様はどうですか?修行の方は」

神娘「うむ、順調だぞ」

山神「冬までには村に降りて修行できそうね」

村娘「本当ですか!」パアッ

神娘「早くそっちに行きたいものだ」

山神「そうね。早く修行を一段落させて…」

村娘「男さんに会いに行かなくちゃいけないですもんね」

神娘「そういう意味ではないわ!」アセッ

神娘「こ、ここにいつまでも世話になっているわけにはいかんからな」

山神「そうね〜」ニヤニヤ

村娘「そうですね〜」ニヤニヤ

神娘「信じておらんだろ」

山神「でも男さんとそんな約束をしたなんてね」

村娘「てっきりあれでお別れするかと思ってました」

神娘「…心の声とやらに従ったら…ああなっただけだ」

山神「へぇ〜」

村娘「ほぉ〜」

神娘「いちいちうっとおしい奴らだな…」
260: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:30:03 ID:TXb2tRm0vc
山神「でも…頑張ってるかしらね、男さん」

神娘「…そうだな。何をしているのやら」

村娘「きっと頑張ってますよ。張り切って帰りましたもん」

神娘「……」

山神「にやけてるわよ、神娘」

神娘「っ!や、やかましい」

神娘「そろそろ再開するぞ!山神殿」

山神「はいはい。次は瞑想でもしましょうかしらね」

神娘「…あれか。退屈だ」フウ

山神「駄目よ。基礎の基礎は疎かにしては」

神娘「うむ…分かっておる」

神娘「では…」

モヤッ

神娘「ん…?」

村娘「どうかしました?神娘様」

神娘「……いや、何でもない」

ドクン ドクン…

神娘「…??」
261: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:30:35 ID:TXb2tRm0vc
神娘「……」メイソウ

山神「……」

神娘「……」

山神「……」

神娘「……」ソワソワ

山神「…神娘、集中が切れてるわよ」

神娘「あ、ああ…すまない」

神娘(…なんだ?この感じは…)

『ガラッ…』

神娘(ん…?)

『ガラガラガラ…ッ!』

『ドザザザザアアアッ!!!』

神娘「う、うわっ!?」バッ

山神「えっ?」

神娘「な、何だ!?今の音は!?」

山神「どうしたの神娘。音なんか何もしてないわよ?」

神娘「なんだと…?」
262: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:31:00 ID:TXb2tRm0vc
神娘「今、確かにしたではないか」

神娘「何かが崩れるような…大きな音が」

山神「落ち着いて。何もないったら」

神娘「ど、どういう事だ…?」

神娘(空耳?いや、そんなはずはない…)

山神「顔色が悪いわよ…どうかしたかしら?」

神娘「……」

神娘「…山神殿」

山神「なに?」

神娘「何やら不吉な予感がする」

山神「…どういうこと?」

神娘「とても大きな不安が湧き上がってくるような…」

神娘「今まで感じた事がない胸騒ぎがするのだ」

山神「胸騒ぎ…?」

神娘「ああ。これは何なのだ…」

山神「気のせいではないのね?」

神娘「うむ。断じて気のせいではない」
263: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:31:40 ID:TXb2tRm0vc
神娘「つい先ほどからなのだが…」

山神「いったい何かしら…私は何も感じないけど」

神娘「という事は、今この場所に関係ない事なのか?」

山神「そうかもね。この辺りに異変があれば私が真っ先に気付くわ」

神娘「……」

山神「…神娘」

神娘「ん?」

山神「例の鈴を出してみて」

神娘「鈴?これか」スッ

ズウン…

神娘「!?」ゾクッ

山神「どうかしたの!?」

神娘「…この鈴だ」チャリッ

山神「…」

神娘「触れただけで分かる。この鈴からその不安が湧き出ておる」

山神「やっぱりね。貸してみて」チャリッ

山神「……」

神娘「…どうだろうか」
264: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:32:15 ID:TXb2tRm0vc
山神「…今はこの鈴の片割れを男さんが持っているんだったわね?」

神娘「う、うむ」

山神「確かに…あまり良くない気が出ているわ」

神娘「やはりか。まさか、あやつの身に何かが…?」

山神「元々一つだった鈴が離れても神力で繋がっている可能性はあるわ」

山神「もう片方を通して、何かを伝えているのかも…」

神娘「な、何だと思う?例えば病気だとか、怪我だとか…」

神娘「そ、そうだ、大した事あるまい。なぁそうだろう?」

山神「…神娘」

神娘「……」

山神「認めたくない気持ちは分かるわ」

山神「でも、この鈴から感じ取れる気は…あなたも分かるはず」

神娘「う…む…」

山神「……」

神娘「…死だ」

山神「…」

神娘「死の気配が…その鈴からする」
265: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:32:46 ID:TXb2tRm0vc
神娘「あやつは今…死を感じるほどの目に遭っている…」

神娘「先ほど聞こえた音も…ただ事ではない」

山神「……」

神娘「や、山神殿!どうすればいい!?」

山神「落ち着いて神娘」

山神「この鈴の正体が掴めない以上、さっき私が言った事も仮説に過ぎないわ」

神娘「うむ…」

山神「もう少し様子を見て…」

神娘「それでは遅いかもしれないだろう!」

山神「!」

神娘「もし、山神殿が言った事が本当だったら…あやつは…」

山神「…」

神娘「…と、とにかく!私が様子を見に行ってくる!」

山神「神娘、それは…」

神娘「行かせてほしい」

山神「神娘…」

神娘「山神殿は無闇にここを離れられないだろう。村娘では時間がかかり過ぎてしまう」

神娘「私が行くしかない。今の私なら向こうまで数刻で行ける」

神娘「頼む。山神殿…!」

山神「……」
266: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:33:26 ID:TXb2tRm0vc
山神「…分かったわ」

神娘「!」

山神「このままじゃあなたも修行どころではなさそうだしね」

山神「いいわ。様子を見に行ってきてちょうだい」

神娘「ありがとう」

山神「ただし」

神娘「む?」

山神「あなたの神力は回復してきたとはいえ…まだ完全ではないわ」

山神「過剰に力を使う事による消滅の危険はまだ残っているわよ」

神娘「…」

山神「いい?何が起こっていても…決して無茶をしては駄目よ」

神娘「…分かっておる」

山神「そう…じゃあ、行ってきなさい」

神娘「ああ」

神娘「…そうだ、村娘には…」

山神「上手く伝えておくわ。あまり心配かけたくないでしょう?」

神娘「頼む。では、行ってくるぞ」

タタンッ!
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sage:


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