ーむか〜しむかし、とある場所で
189: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:40:00 ID:UIlogv3UOE
>>188 支援ありがとうございます!
「……様!」
神娘「…んっ」
男「神娘様!」ユサユサッ
神娘「…あまり揺するな」
村娘「あっ、気付いた!」
男「ふう、良かったです」
神娘「…どうやら…戻ってこれたようだな」
男「ええ、竜巻が過ぎたら元の景色に戻りましたよ」
村娘「でも私も男さんも無事なのに、神娘様だけ目を覚まさなくって…」
神娘「うむ。少し村人たちと話してきたよ」
男・村娘「えっ?」
神娘「わははっ、やはりこの鈴は不可思議なものだ」
男「神様、それはやはり幽霊と出会ったので?」
神娘「…さあな。幽霊なのか幻覚なのか、結局分からなんだ」
男「そうですか…」
神娘「わはは。まあ、どっちでもいい事だよ。今となってはな」
190: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:41:06 ID:UIlogv3UOE
村娘「皆さん、お元気でした?」
神娘「ん、そうだな。向こうでも元気にやってるようだったぞ」
村娘「うふふ、そうでしたか」
男「…この祠が残っていたのは、村人の方々のおかげだったと」
村娘「あの重しとかが竜巻を防いだんですね」
神娘「いや、家をも吹き飛ばす竜巻だ。あんなものでは防げぬよ」
村娘「えっ」
男「では、いったいどうして…」
神娘「神器には、人間の感情や想いを封じ込める力がある」
神娘「あやつらの死の直前の強い思いをこの鈴が汲み取ったのだろう」
男「村の方々の願いを叶えて、鈴は吹き飛ばなかったと…」
神娘「恐らく強い加護の力でも働いたのだろうな」
村娘「でもでも、それじゃ村の皆さんのお陰には変わりないですよね!?」
神娘「そういう事だな」
村娘「良かった…無駄にはならなかったんですね…」
神娘「無駄な筈がない。この鈴はあやつらの命そのものだ」
男「大切にしないといけませんね」
神娘「そうだな」
チリーン…
191: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:41:33 ID:UIlogv3UOE
神娘「さて、じきに暗くなる。山神殿の元へ戻ろう」
男「はい。ではまた背中に…」スッ
神娘「ああ。もうその必要はない」
男「えっ」
神娘「よっと」スック
村娘「立った!神娘様が立った!」
神娘「何処かで聞いた台詞だな」
男「なんということでしょう」
神娘「ふむ、やはり足の傷跡も消えておるな」
男「本当ですね。いったいどうして…」
神娘「私の力を抑え込んでいたのは、私自身の心であったという事だ」
男「はあ」
神娘「……」クルッ
神娘(形は消えても、確かにここにはお前たちの思いが残っておったぞ)
神娘(安心して、安らかに眠るがよい)
神娘(…嘘は吐かぬ。忘れはせぬからな)
サアアアアアッ…
192: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:42:01 ID:UIlogv3UOE
ザッザッ
村娘「山神様」
山神「あら巫女、戻ってきたわね」カーッ
村娘「はい。無事に戻りました」
神娘「……」
山神「神娘。鈴は取ったかしら?」
神娘「この通り」チリン
神娘「おかげで散々な目に遭ったがな」
山神「あら、それは大変だったわねー」
神娘「白々しい。棒読みだぞ」
山神「その鈴に込められた思い、受け取ったかしら」
神娘「ああ。存分に」
山神「そうやって自分の足で歩いているという事は…もう大丈夫なようね?」
神娘「うむ。もう過去は充分に清算されたと思う」
山神「そう。ふふ、良い顔してるわ。まるで出会った頃のように」
神娘「よしてくれ」
山神「うふふ…おかえり、神娘」
神娘「…ただいま」
193: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:43:26 ID:UIlogv3UOE
男「めでたしめでたしですね」
村娘「ですね」
山神「男さん、巫女」
男・村娘「はい」
山神「どうもありがとう」ペコッ
男「山神様…」
山神「あなたたちの協力なくして、こうはなれなかったと思うの」
神娘「…烏の姿で頭を下げてもなぁ」
山神「ふふん、どうせこの子は素直じゃないから礼も言わないでしょうし…私が代わりに、ね?」チラッ
神娘「…」ブスーッ
神娘「…あ、ありがとうな。二人とも」ペコッ
山神「うふふ」
神娘「まったく…振り回されてばかりだ」
村娘「神様たちに頭を下げられるなんて…恐縮しちゃいます」
男「いやいや、感謝されて当然の事をしたのですから」ヘラヘラ
神娘「お前は少し村娘を見習え」
194: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:44:03 ID:UIlogv3UOE
山神「さて…今日はもう日が暮れちゃうわね」
村娘「大変!家に帰らないと…」アセッ
山神「巫女、灯もないのに山道を降るのは危険よ」
村娘「でも…私がここにいる事、両親も知らないですし…」
山神「まったく。仕方ないわね」
ボワンッ!
村娘「えっ」
山神「今日だけは送ってあげるわ。乗っていきなさい」ヒヒーン!
男「り、立派な馬ですね…」
村娘「で、でも神様に乗るなんてそんな…」
山神「いいから乗りなさいって」パクッ
村娘「きゃっ!」グイッ
ブンッ、ストッ!
村娘「あわわ…」クラクラ
神娘「随分と手荒な乗せ方をする馬だな」
山神「じゃあちょっと行ってくるから。二人はここに泊まっていきなさいね」
山神「すぐ戻るから留守番よろしく〜」パカラッパカラッ!
村娘「ひっ!待っ、山神様ぁ〜!」
神娘「……」
男「……」
195: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:47:04 ID:LZ7UQdthyE
神娘「嵐のように去っていったな…」
男「村娘さん、振り落とされないといいのですが」
神娘「まあ山神殿ならそんな真似はさせるまい」
男「心配ですが」
神娘「…とりあえず立ち話もなんだ。そこの階段に座るぞ」ストッ
男「そうですね。お隣、失礼しても?」
神娘「うむ、いいだろう」
男「しかし濃い一日でしたね」ヨイショッ
神娘「んんっ…さすがに疲れた」ノビー
男「もう休まれますか?」
神娘「いや、とてもそんな気分ではない」
神娘「色々と考えてしまって眠れぬよ」
男「そうですか」
神娘「お前は休め。一日歩かせて苦労かけたな」
男「いえ。何ともありませんよ」
神娘「お前もつくづく超人だな」
男「褒められているのでしょうか」
神娘「さあな」
196: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:47:35 ID:LZ7UQdthyE
リーンリーン…
男「…静かですね」
神娘「そうだな。人里からは離れておるし」
男「夜になると、少し冷えてきますね」
神娘「もう夏も終わる。秋となり、すぐ冬が来る」
男「寒いのは苦手です」
神娘「奇遇だな。私もだぞ」
男「神様のお力で秋を延ばすことはできませんか」
神娘「寒冷の神にでも願ってこい」
男「大変です、居場所を知りません」
神娘「私も知らぬ」
男「神様なのに?」
神娘「他の神の居場所まで知らんわ」
男「そういうものですか…」
神娘「というより寒冷の神などいるのかも知らんが」
男「適当ですね」
197: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:48:12 ID:LZ7UQdthyE
神娘「…ふっ」
男「どうされました?」
神娘「いや、随分と久しぶりに感じてな」
神娘「お前とこうしてくだらん話をするのが」
男「そうでしたっけね」
神娘「…思えば」
男「?」
神娘「お前とのこうした何気ない会話が私に人間との日常を思い出させたのだ」
神娘「私に前に進むきっかけをくれたのは間違いなくお前だよ」
男「何を仰いますか」
神娘「それにここまで連れて来てくれたのも…お前でなければできなかっただろう」
神娘「改めてお前のお節介に礼を言わねばなるまい」
神娘「ありがとうな、男」ペコッ
男「…神様」
男「私がした事など些細なものです。全て神様のご意思で決めた事ですよ」
神娘「謙虚じゃないか」
男「私はいつでもそうですが」
神娘「>>193での発言を思い返せ」
男「あれは場の空気を呼んだだけです」
神娘「どんな空気だ」
198: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:48:42 ID:LZ7UQdthyE
男「…神様」
神娘「ん?」
男「神様は今後どうされます?」
神娘「今後…か」
男「修行を再開なさるおつもりでしょう?」
神娘「そうだな。もうその決心がついた」
男「では、人間の村に戻られる…」
神娘「そういう事だ」
男「それは良かったです」
神娘「もう二度と同じ轍は踏まぬ。必ずや本神になってみせるぞ」
男「そういう事でしたら是非…」
神娘「そのためにも早く力を取り戻し、村娘のいる村に行かねば」
男「……」
男「…え?」
神娘「村娘のいる村だ。この麓にあるらしいからな」
男「この地に留まるおつもりで?」
神娘「うむ」
199: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:50:20 ID:LZ7UQdthyE
神娘「修行をすべき場所は生まれ落ちた場所でと定められている」
神娘「これでも山神殿には多大な恩があるしな。それも返す意味も込めて…」
神娘「私はこの山の周囲で修行をせねばならぬ」
男「そうだったのですか」
神娘「一度は投げ出したとはいえ、その定めが反故になったわけではない」
神娘「どうせなら顔見知りがいた方が何かと動きやすいしな」
男「それで村娘さんの村に…」
神娘「もっとも村娘とその事で話す暇がなかったが」
神娘「まあ、あやつなら受け入れてくれると思う」
男「村娘さんは神様の事を好いておいでですから」
神娘「もっともあやつだけでなく、村全体から好かれ、信仰を集める必要があるのだがな」
男「大変な道のりになりますか」
神娘「恐らく」
男「神様ならきっと大丈夫です」
神娘「ふん、言わずもがなだ」フンッ
神娘「…ところで、お前も先ほど何か言いかけたか?」
男「いえ。何でもありません」
神娘「そうか?ならいいが…」
男「……」
200: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:50:52 ID:LZ7UQdthyE
神娘「お前はどうする?」
男「私は明日の朝にでも発とうかと思います」
神娘「随分急だな」
男「あまり村を空けるわけには参りませんので」
神娘「まあ道中を含めれば十日以上空ける事になるからな」
男「村の皆も寂しがりますし」
神娘「自分で言うのか?それは」
男「事実ですから」
神娘「私が洞窟にいた時はしょっちゅう空けていたくせに」
男「それはそれ、これはこれという事で」
神娘「都合の良い奴め」
男「言ったではありませんか。あの時は仕事を終えてから来ていたと」
神娘「朝から来てる時もあったではないか」
男「早起きして仕事を済ませたのです」
神娘「もう無茶苦茶だな」
男「しかし帰ったらまた仕事三昧になります」
神娘「仕方あるまい。それがお前たち人間の生き様なのだから」
201: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:51:34 ID:LZ7UQdthyE
男「……」
神娘「……」
リーンリーン…
男「……」
リーンリー…ン
男「…神様」
神娘「……」
男「お困りになるかもしれませんが」
男「その、やはり修行は私の村で行うというのは…」
神娘「……」グラッ
コテン
男「!」ビクッ
男「どうされました?寄りかかって…」
神娘「…zzz」スースー
男「…寝てらっしゃいましたか」
202: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:52:54 ID:LZ7UQdthyE
神娘「zzz」
男「…お疲れのご様子でしたからね」
男「……」
男「神様がお決めになったことだ。私が異を唱えられるはずもない」
男「……」
リーンリーン…
…パカラッパカラッ
山神「…ふ〜っ、到着。すっかり遅くなってしまったわ」ザッ
山神「ごめんなさいね。何もなかったかしら…」
山神「…あら?」
神娘「zzz」
男「zzz」
山神「……」
山神「…うふふ。仲良しだこと」ニヤニヤ
203: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:36:44 ID:10DpqrJMlU
ーしばらくのち
神娘「……んっ」パチッ
神娘「…いかん、眠ってしまっていたか」
神娘「このような吹き曝しで…ん?」チラッ
男「zzz」
神娘「っ!?」ビクッ
神娘(近っ!)
神娘(しまったな。こやつに寄りかかって眠ってしまったか…)
男「zzz」
神娘(こやつもこのまま寝たのか)
神娘(ここで私が動いたら、こやつの体は倒れそうだ)
神娘(疲れていたのだろうし…止むを得ん。もう少し寝かせておくか)
神娘「……」
神娘「……」チラッ
男「zzz」
神娘「……」
神娘(こやつの顔をこれほど近くで見るのは初めてだな)
神娘(おぶさっていた時も、見ていたのは背中と頭の後ろだけだし…)
神娘(…ま、まあまあ悪くない顔立ちだな、うん)
204: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:37:06 ID:10DpqrJMlU
男「zzz」
神娘「……」チラチラッ
神娘(…手が泥だらけ、傷だらけだな)
神娘(あの村で畑仕事をしていた男たちと同じ…)
神娘「…」スッ
神娘(普段は仕事に精を出しているというのも、嘘ではなさそうだ)
神娘(…この手こそ、こやつら人間の生きている証だな。うん)
サスサス
男「ううん…」
神娘「!」ビクッ
男「…ん…」
男「zzz…」
神娘「…ふぅ」
神娘(危ない。手をさすっていたなどと知られたら何を言われるか…)
神娘(しかし本当によく寝ておるな、こやつは)
205: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:37:40 ID:10DpqrJMlU
リーンリーン…
神娘「…」
男「zzz…」
神娘(こやつも明日になれば自分の村へと帰るのか…)
神娘(私も村娘の村で、再び修行を行う)
神娘(全てが元通り…ただそれだけ)
神娘(それだけなのだが…)
男「zzz…」
神娘(…)
神娘「…うぅむ、分からん」ワシャワシャ
山神「何が分からないのかしら?」バササッ
神娘「わっ!?」ビクッ
山神「ちょっと。大声出したら男さんが起きちゃうわよ」カアーッ
神娘「その毎度突然声をかけるのはどうにかならんのか?」
山神「ふふ、以後気を付けるわ」
神娘(確実に気を付ける気は無さそうだ)
206: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:38:06 ID:10DpqrJMlU
神娘「しかしいつの間に帰っていたのだ」
山神「とっくよ。人間一人送るのにそんなにかからないわ」
神娘「まあ馬の姿で駆けていけば当然か」
山神「ねえ、それより何が分からないの?」
神娘「…う、うぅむ」
神娘「そのだな…明日にも修行を再開しようかと思っている」
山神「え?そう。それは何よりね」
神娘「村娘に話し、あやつが今いる村でまたやり直すつもりだ」
山神「あの子の村で…」
神娘「そうだ。全て順調な筈だろう?」
神娘「だが…何故か心が晴れぬのだ」
山神「……」
神娘「もう今日の一件で迷いはなくなったし、ここにおれば神力もすぐに戻る」
神娘「障害となるものはもう何もない。しかし…何かがこの胸につっかえておるのだ」
神娘「なぁ山神殿、これは何だと思う?私は何か間違っているのか?」
山神「……」
山神「間違ってないわよ。修行神としての順当な道ね」
神娘「…うむ」
山神「でも」
神娘「?」
207: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:39:28 ID:10DpqrJMlU
山神「その胸のつっかえは…あなたの正直な心を映しているの」
神娘「……」
山神「修行神としてではなく、あなた自身としての心ね」
神娘「私自身…?」
山神「そう。あなたの心が何か言っているんじゃない?」
神娘「…何を言っているのだというのだ?」
山神「私に分かるわけないじゃない」
神娘「…むぅ」
山神「あなたの心はあなたにしか語り掛けないわ」
山神「それを無視するのも耳を傾けるのもあなたの自由だけどね」
神娘「難しいな」
山神「そうでもないわよ」
神娘「何故そう言い切れる」
山神「うふふ。答えは意外と近くにあるかもしれないし?」
神娘「…何だそれ」
208: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:39:57 ID:10DpqrJMlU
男「う…ん・・・っ」ノビッ
山神「あら、お目覚めね男さん」
男「ああ、山神様。お戻りでしたか」
山神「無事に巫女も村へ送ってきたわ」
男「ありがとうございます。すみません、ついうとうとと…」ゴシゴシ
神娘「うとうとどころかよく眠っていたぞ」
男「そうでしたか?」
山神「ええ。神娘とぴったりくっ付いてよく眠ってたわ」ニヤ
神娘「余計なことを言うな」
男「何と。それは大変な失礼を致しました」
神娘「う、うむ…別によい」
神娘(正直少し驚いたが)
男「……」ペタペタ
神娘「…どうした、体など調べて」
男「いえ、私が眠っている間に何かされていないかと…」
神娘「三秒以内に謝らなければ吹き飛ばす」
男「冗談ですって」
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