・ルール
参加希望者は1〜5レスを目処にSSを自由に作成して下さい。お題が欲しい場合は各自で希望して下さい。お題の提案や作品の感想は随時受け付けとします。覆面先生(SS作者)からのアドバイスも絶賛受け付け中とします。
404: シバ:2015/7/8(水) 23:37:01 ID:G5i1iW8iP2
タイトル:犬「ハッハッ(カナちゃん!)」カナ「何こいつ」
母「カナ〜、おいで!いいもの見せてあげるー」
カナ「なあに〜?おかあさん」
母はカナの前に段ボールを置くと、小学生のカナはしゃがみこんだ。重ねられ少し隙間のあいた段ボール箱からは懐かしい臭いがした。母はカナの笑顔が見れると期待しながら、その段ボール箱を開ける。
犬「ワン!」
(カナちゃん!カナちゃん!こんにちは!)
カナ「何こいつ…」
(こいつ、ちょくせつ脳内に!?)
段ボールの中には、赤毛と白の体毛をもつ、白い優しげな眉まろの可愛らしい柴犬の仔が、カナを見つめていた。
――――――――――――――
犬「わんわんにゃうー」
(カナちゃん、あそぼう!)
カナ「こっちくんな!」
カナは不思議と犬の言葉がわかり、犬も人の言葉がわかるようだった。
シバと名付けられたその子犬は、家にやってきてからカナの後ろをついて歩いた。シバはカナが起きる頃に起き、カナが眠る頃に寝る。カナになついていたにも関わらず、カナは一度もシバに笑いかけることはない。いつもいつも冷たくあしらっていた。
犬「じゃあ近付かなかったら、いい?」
カナ「いや。ちかづくな!しゃべるな!」
犬「うんわかった!カナちゃんの言うとおりにするね」
犬(カナの少し離れた周りをウロウロ)
カナ「…ここからうごかないこと!」
ピッとカナに指差された通り、シバはペットシーツの上に座る。
カナ「じゃわたしエリカちゃん家いくから」
(そういえばおかあさんにシバのお水たのまれてたっけ……)
振り返るとシバは変わらず動かず、寂しそうにこちらを見ている。その様子にカナの胸は波立つ。怒りに任せ、乱暴に扉を開けてカナは家をでた。蝉の声がうるさかった。
405: シバ:2015/7/8(水) 23:37:25 ID:rSw8LPzr8U
カナ「ただいまー」
母「カナ!」
犬(おかえり!カナちゃん!)
日が暮れた頃、カナが家に帰ると、肩を怒らせた母と、まだ成長しきっておらず、真っ直ぐな尻尾をご機嫌に揺らしたシバが玄関前で待っていた。
カナ「なに?おかあさん」
母「……あんた、シバに水あげなかったでしょう」
母の声は少し震えていて、その声を聞いたカナは唇を噛んだ。
母「母さんが早く帰ってきたから良かったけど、この真夏に、閉めきった部屋で水無しで、子犬のシバを放っておくなんて――」
犬「ワンワン!」
(違うんだおかあさん!ボクがカナちゃんにきらわれちゃうようなことしたから!)
今度は母が唇を噛んだ。まるでシバの言葉をわかっているように、母は謝りながらシバを撫でた。
母「シバ、あそこから動かずにこの部屋でずっと待ってたの。」
カナ「……ずっとあそこで?」
ちらりとカナがシバの方を見ると、シバは爛々と目を輝かせて尻尾をふる。それが遊びにさそうポーズだと、カナは知っていた。尻尾をああやってふるのは嬉しいときだと、カナは知っていた。ずっと前から。ずっとずっと前から。
カナ「なんでおかあさんは平気なの!?ユキがかわいそうでしょ!?」
ハスキー犬のユキは、カナと一緒に育ってきた。カナが起きる頃に起き、眠る頃に眠る。ユキがいない日はカナにとって無かった。だが、一年前の夏の日、ユキと散歩していたカナに車が突っ込んできたのだ。カナはユキにリードを引っ張られ直撃することはなかったが、直撃したユキは老いていたこともあり、治療を施しても治ることはなかった。
ずっとユキと一緒にいたのに、いなくなった途端新しい犬を飼ったら……
カナ「お前なんか……お前なんか要らない!!」
シバがくわえていた傷だらけの古い、青いボールが落ちる音でカナは我にかえった。そのボールには見覚えがある。ユキが遊んでいて、無くしてしまったボール。どれだけ探しても見つからなかったボールだ。
カナの脳裏にユキと遊んだ記憶が鮮明に蘇る。子犬の頃からボールで遊んだり、じゃれあったり、散歩したり。
カナ(楽しかった思い出は、消えるわけないのに…わたしシバに……)
犬「カナちゃんの大切なボール、ボク探したんだ…おかあさんからカナちゃんが悲しんでるって聞いて、それで……」
カナはシバの目の前の地面に膝をついた。ゆっくり手を伸ばし、触れた柔らかな赤毛は温かくて。
カナ「ごめんなさい!ごめんなさい!シバ!」
シバ「カナちゃん、くすぐったいよ」
それから青いボールで遊ぶ柴犬と仲の良い女の子はずっと一緒にいられました。おわり。
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