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魔王「何でイチャイチャちゅっちゅできないんだよ!」
[8] -25 -50 

1: :2012/9/14(金) 23:05:11 ID:4.MWSg5KoU
書きたいことが出来たので、以前書いてたSSの続きを書かせていただきます。
お手数おかけして申し訳ございませんが、知らない方は前作から読んだ方がいいと思います。
一応貼っておきます。前作→http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch3/1316008982/1-10

基本長いので携帯だと読めなくなる可能性があります。また、支援返レスを飛ばして読みたい方もいらっしゃると思います。
それらに該当する方は、本編とわけてまとめたので、こちらから読んでみてください。→>>981-984

注意事項は以上です。何卒よろしくお願い致します。


313: :2012/10/11(木) 23:16:00 ID:6xWpg1Pyas
魔王の魔力放出による攻撃を回避した異界王だが、距離はそれほど取ってはなかった。
先ほどの攻撃魔法による攻防では、魔法の種類や技術差から、苦戦は必至だと考えたのである。
勝機を見出せるとすれば、肉体勝負の接近戦だと考えた。故に大きく距離はとらず、そのまま接近して打撃に転じた。
無駄のないコンパクトなフォームから放たれたボディブローが、魔王の腹部へと吸い込まれていく。

「捉えたぁ!!悶絶必至!!」

等と吠えるほど、異界王本人の感覚では会心の一撃だったようである。
しかし魔王の表情に変わりなく、それどころか笑みを浮かべていた異界王の顔が徐々に歪んでいった。

「……いって〜!お、お前の体どうなってんだよ!?」
「残念、硬化魔法をかけてたんだよね。打撃は効かないよ!」

魔王は硬化魔法で防御対策をしていた。鋼鉄と化した肉体に拳を打ち付けた結果、逆に異界王が手を痛めたのだ。
314: :2012/10/11(木) 23:17:02 ID:6xWpg1Pyas
「更にはこんなことも出来るんだよ!」

そう言って魔王は右ストレートを繰り出した。
強烈なパンチが自らの頬にぶつかる前に、左腕で防御を図った異界王。目論見通り、その右ストレートが顔に当たることはなかった。
しかし、ガードしたその腕には激痛が走った。

「うぐっ……!」
「右の拳だけを硬化して殴ってみました。……あ、ごめん。大丈夫?」

本来防御としてしか用途のないこの硬化魔法を、体の一部にだけかけるという高度な技術で攻撃に運用した、魔王の強烈な一撃だった。
ただでさえ強烈な魔王のパンチに加えて、鋼鉄のグローブを付けているようなものである。ガードの上から大ダメージを与えるには申し分ない代物である。
315: :2012/10/11(木) 23:17:54 ID:6xWpg1Pyas
この硬化魔法によって、接近戦においても魔王に隙はなかった。
この優勢を以て魔王は再び降参を呼び掛ける。

「もういいでしょ!お前に勝ち目はないって!ランブルボクシングみたいになる前に降参して!」

しかし、異界王はそれに応じることをしない。

「冗談言うなよ!俺の負ける時ってのは、俺が死ぬ時だけだぜ!」

そう言うと、魔王に向かって頭から突進してきた。
それを確認して自らに硬化魔法をかける魔王。鋼鉄と化した体、その胸元あたりに異界王は頭突きをぶちかました。
魔王にダメージはない。相変わらずダメージを負ったのは異界王だけだが、それでも彼は怯まない。
魔王の胸元に額をつけたままでいると、そのまま前かがみの姿勢になり、腹部への猛ラッシュを開始した。
316: :2012/10/11(木) 23:19:15 ID:6xWpg1Pyas
「おらららららららぁ!!」

叫び続けるその間、一瞬たりとも休むことなく両腕を動かし続け、無数のボディアッパーを打ち付けた。

「無駄だよ!硬化魔法かけた体に打撃は通用しない!」

魔王の言う通り、その猛攻撃でもダメージは通らなかった。ただただ異界王の拳に痛みが溜まっていく。しかし、それでもそれをやめる気配はない。
自棄になった末の無謀な攻撃と思われたその戦法だが、長らく続けたことでついに変化が訪れるのだった。

「……っ!?」

硬化魔法をかけた魔王の体に、執拗な連打によってひびが入ったのである。
魔王の魔力によって極限までに硬化されたその体に傷が出来たのは初めてのことで、慌てた魔王は魔法を解除して距離を取った。
普通の体に戻ると、ひび割れた部分は傷になり代わり、衣服がじわじわと鮮血に染まり始めた。

「……お、怪我負ってんじゃん。打撃効かないとか勝ち目ないとか言ってなかったかあ?」
「……ごめんね、訂正しないといけないっぽい」
317: :2012/10/11(木) 23:20:36 ID:6xWpg1Pyas
硬化魔法を破られたことで、魔王はそれを使うことをやめることにした。生身のまま接近戦にもつれ込み、防御や回避で全ての攻撃を無効化しようと考えた。
一方、接近戦は望むところの異界王。魔王の身体能力は十分理解しているが、それでもいつかは捉えてみせると再び猛攻撃を開始した。

二人の戦闘力には確かな差がある。
純粋に戦闘力で判断すれば、魔王がかねてより言っているように異界王に勝ち目はない。
しかし、ここまではいい勝負となっている。戦闘力差があるにもかかわらず互角の展開になった原因として、覚悟の差が大きい。
覚悟の強さは変わらない。しかし、二人の目的は全然違う。
魔王は、自分らしく戦いぬいて、異界王を変えようとしている。言いかえれば、絶対に異界王を殺さない覚悟でいる。
一方、異界王はこの死闘を勝ち抜いて、魔王を壊そうと考えている。この戦闘で魔王を殺すつもりでいるのだ。
殺さないように戦う魔王と、形振り構わず殺そうとする異界王。二人の戦闘に対する姿勢の差が、戦闘力差を埋めつつあった。
前日戦った際に魔王の戦闘力に怖気づいた異界王の姿はもうどこにもない。臆することなく戦う異界王がこの戦闘を支配し始めていた。
318: :2012/10/11(木) 23:21:40 ID:6xWpg1Pyas
「……くっ、強い……」
「どうした、イケメン弟!このまま俺が勝っちまうぞ!」

怒涛の猛攻撃を捌くしかない魔王。それを続けることで確かに消耗してしまっていた。
スタミナの話ではない。腹部に負った傷からの出血が止まらず、戦いが長引くにつれてドンドン弱まっていたのだ。
回復魔法を用いれば傷は治すこともできるが、そのような隙を異界王は与えてくれなかった。
そうして魔王の衣服は赤く染まっていく。それでも猛攻撃を捌くために動き続けなくてはならない。ますます出血が多くなる。
そんな中、あまりに血を流しすぎたのか、一瞬だけ意識が遠のいてしまった。
そしてそれは、一瞬でも無防備の時間を作ってしまったことを意味する。

「貰ったぁ!!」
「……えっ?」

次の瞬間、異界王の放った手刀突きが、魔王の腹部の傷口をえぐり、その体を貫いた。
319: :2012/10/11(木) 23:22:45 ID:6xWpg1Pyas
今日はここまでにします。

……スレ立て前から不安だった場所までついに来てしまいました。
更に書き溜めもけっこう不安な総量となってきました。
どうなるんでしょう、このスレ。
どうなるんでしょう、俺。

今回の更新のまとめです。
>>306-318
320: 名無しさん@読者の声:2012/10/11(木) 23:25:00 ID:HTR85yySek
今日も大変おもしろうございました…!

おやすみのCCCCC
321: 名無しさん@読者の声:2012/10/11(木) 23:34:27 ID:n5SpKGfylU
魔王優し杉w
ってか兜着けてても充分強えじゃねえかwww

支援
322: 名無しさん@読者の声:2012/10/12(金) 17:18:42 ID:dCLv9AGz/g
いつも読んでます!
つC
323: 名無しさん@読者の声:2012/10/12(金) 18:15:43 ID:E4SxfhN7f.
兜はずせば勝てるじゃん!
魔王しぬなー!
つ女勇者「魔王がしんだら嫌だよー」ポロポロ
324: 1「支援ありがとうございます」:2012/10/12(金) 23:06:00 ID:6xWpg1Pyas
>>320
楽しんでいただけたようで、よかったです。
戦闘描写は書いてて楽しいんですが、普段と雰囲気が変わってしまうので、読む方は正直どうなんだろうと不安にはなります。
その回でこう言ってもらえると、すごいホッとします。

>>321
公式チートみたいな御方ですからね。戦闘力は誰にも負けませんよ。
ただ、優しすぎたせいで、前回のラストで大変なことになりましたからね。
こっから一体どうなるんでしょう。

>>322
いつもありがとうございます。
読んでくれてるっていうのがわかると、凄い勇気貰えます。
今後のことを思うとけっこうお腹痛くなるんですが、こういうのを力にして乗り越える所存であります。

>>323
ぶっちゃけると兜つけてても勝てるんですよね。
でも、とどめは刺さずに説得しようとしたので、結果的にやばいことになってるんですよね。
魔王が最初から殺すつもりだったら、炎の件で既に決着はついてました。

魔王「あああ、女勇者ちゃんが泣いてる!」
側近「うわあ……女性を泣かすなんて魔王様は最低ですね」
魔王「え!?あ、いや、確かに俺のせいで泣いてるのかもだけど……」オロオロ
325: :2012/10/12(金) 23:07:13 ID:6xWpg1Pyas
右手が魔王の体に埋まり、手首まで潜り、前腕が完全に侵入を果たす頃には魔王の背面から手が脱出を果たした。
それと同時に魔王は吐血した。その表情は苦痛にゆがんでいる。素人目に見ても即座に分かる致命傷だった。
これによって二人の動きは一旦止まった。それによって、今まではヤムチャ視点だった見届け人の側近もその光景を目の当たりにしたのだった。
326: :2012/10/12(金) 23:08:38 ID:6xWpg1Pyas
側近「ま……魔王様ぁ!!」

魔王「ごふっ!……やっば、いって〜……」

異界王「終わりだなあ、イケメン弟ぉ!!命の灯が消えんとする瞬間が来たようだなあ!!」

魔王「うん……本当にやばいわ、これ……さすがにこの痛みなら、女の子が相手だったとしても……気持ち良くないかもしんない……」

異界王「お互い残念だな。俺はもうちょっとお前という最高の玩具で遊んでいたかったし」

異界王「お前は愛しいこの世界を守れなかったんだ。本当、お互い残念で仕方ねえな」

側近「魔王様、待っててください!すぐに回復魔法を……」

異界王「おおっと、兄ちゃん。そいつはいけねえな。こいつぁタイマン勝負だぜ。お忘れか?」

側近「勝負はこちらの負けでいい!!だから、魔王様の治療をさせてくれ!!」

魔王「側近……それは駄目だよ……」

側近「ま、魔王様!?何を言って……」

魔王「負けたら……この世界を守れないじゃんか……俺、約束したから……」

魔王「女勇者ちゃんと約束した……世界を守ってみせるって……」

魔王「側近のお願いも聞き入れたい……俺は俺のまま、こいつを止めるって……」

魔王「だから……ここで負けるわけには……いかないよ」
327: :2012/10/12(金) 23:09:35 ID:6xWpg1Pyas
側近「もういい!そんな約束も、俺の願いも、そんなのもうどうでもいいんです!」

側近「あなたは死んではならない!この世界は、我々は、あなたを必要としています!」

側近「生きていれば、何度でもやり直すことが出来るんです!だから……生きてください!生きろぉ!!」

魔王「ごめん……俺は、やっぱり世界を、皆を守りたいよ……」

魔王「もう戦争派の皆みたいに……誰かを救えないのは嫌だ……!」

魔王「だからごめんね、異界王……どうか死なないで……」

魔王「灯消えんとして光を増すってね……最期の力を以て……俺はこの世界を救う……!」
328: :2012/10/12(金) 23:10:45 ID:6xWpg1Pyas
魔王がそう言い切るのと同時に、異界王は言いようのない恐怖に駆られた。
その恐怖の発生源が目の前の男であると気付き、離れるために貫いた腕を引き抜こうとした。
しかし、それは阻止された。魔王は自らを貫いている異界王の右腕を掴み、力を込めたのだ。その結果、異界王の右腕は微塵も動かなくなった。

(野郎、死にかけの分際でまだこんな力が残ってんのか!)

異界王が慌てることが出来たのは、ほんの少しの間だけだった。魔王は、異界王の脱出を阻止すると、即座にゼロ距離から全ての魔力を放出したのだ。
解放し切った魔王の魔力は凄まじく、それを間近で浴びた異界王に、間もなく全身を焼かれるような苦しみが襲った。

「うっ……がああああああああ!!」

突然の激しい痛みに異界王の思考は止まり、ただただ叫ぶしかなくなっていた。
329: :2012/10/12(金) 23:12:45 ID:6xWpg1Pyas
魔力。
以前にも魔道師が説明した通り、それは魔法の源の力であり、同時に命の源の力でもあったと研究で判明している。
病気や外傷、寿命などの死因に加えて、体内に宿る魔力の枯渇もまた死因となり得るのである。
魔力を魔法として使用すれば、あらゆる場面で役立てることが出来る。しかし、己の魔力と相談しながら適量を使わないといけない。
普通、自身の生命維持に必要な最低限の魔力は絶対に残しておく。その限界を超えて使用すると、様々な弊害が生まれてしまうからだ。

女魔法使いは、移動魔法で無理をした結果、体調を崩してしまった。
かつて側近は、龍人との戦闘で全ての魔力を使おうとした。その時、彼は死を覚悟していた。
そして今、魔王は全ての魔力を解放した。致命傷の大怪我と相俟って、最早死は免れないような選択を自ら選んだのだ。

でも、何で?
側近はそのように考えていた。命にかかわる大怪我をしたこの状況で、何故自ら命を追い込むような真似をしなくてはならないのか。
330: :2012/10/12(金) 23:14:18 ID:6xWpg1Pyas
その答えはすぐにわかった。

異界王を捕まえ、全ての魔力を解放した魔王は、浮遊魔法で上空へと移動し始めた。
決闘の舞台は共存の街。その上空には、魔道師が作り上げた異世界へと通じる巨大な穴がある。
それを見て、側近は様々な発言を思い出していた。

『異世界を結ぶ魔法は、空間に穴を作る。その穴こそ異世界への道で、その開け閉めには強大な魔力がいるんじゃ』
『俺が死ぬ気で魔力出し尽くす時くらいありそうだよね……』
『おう。じじいの魔法なんざ知らねえかんな。下手に穴から帰って閉じちまったら、こっちに戻れなくなるだろ』

異世界へと通じる巨大な穴は、強大な魔力によって開閉する。
魔王の魔力を全て用いれば、開閉に必要な魔力に達する。
異世界へ通じる穴を唯一作れる魔道師が死んだ今、穴を閉じれば二つの世界が繋がることはなくなる。

……魔王は、自らの命を懸けて、異界王を元の世界に帰そうとしているのだ。
331: :2012/10/12(金) 23:15:15 ID:6xWpg1Pyas
異界王がいなくなれば、この世界の脅威はなくなる。
穴が閉じてしまえば、異界王はもうこの世界にはこれなくなる。
だから魔王は、異界王を連れていき、ついでに穴を閉じようとしているのだ。

異界王「ぐあああああああ!!」

魔王「待ってて……もう少しで戻れるから……もう少しで苦しみから解放されるから……」

側近(魔王様の魔力を吸い取っているのか?異世界への穴がどんどん小さくなっていく……)

魔王「間に合え……!穴も……俺の命も……異界王の命も……間に合えぇー!!」
332: :2012/10/12(金) 23:16:45 ID:6xWpg1Pyas
二人が穴に突入するのとほぼ同時に、異世界への穴は閉じてしまった。
さきほどまで大穴が存在していた空間だがその姿は既になく、光を得始めた明け方の空が映るだけだった。
その場に残ったのは、荒れ果てた共存の街、そして側近一人だけだった。

「……魔王様、嘘ですよね?出てきてくださいよ」
「魔王様が消えるなんて、あり得ないですよ。だからほら、姿を見せてくださいよ」
「ま、魔王様……そうだ、モテる方法を探すんでしょう?……まだ途中じゃないですか……」
「だから魔王様……姿を現してください……お願い……しますから……!」

涙を流しながら側近がこう呼び掛けても、異次元の彼方に消えた魔王にそれが届くことはなかった。

……こうして、共存の街で起こった一連の事件は終わることとなった。
人間と魔物を共存へと導いた一人の英雄の犠牲によって。
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