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従姉に恋をした。

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Part15
730 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:35:36 ID:
そこへ、風呂上りの守さんが姿を現した。
「おお、健吾君!よく来たよく来た!」
「す、すみません、またこんな遅くまで恵子ちゃんを引っ張りまわしてしまい…」
「うんうん。これからも誘ってやってね」
「は、はい。もちろんです…」
沈黙には到底耐えられそうにない。
俺は矢継ぎ早に言葉を続けた。
「それで…あ、あの俺、
 恵子ちゃんとお付き合いさせていただきたくて…今日…来ました」
伏せていた目を恐る恐る上げ、守さんと浩美さんを見た。
ふたりともキョトンとしていた。
「え…いや、ずっと前から付き合ってたんじゃないの?」
守さんの言葉に驚いた。口から何かが出ちゃうんじゃないかと思った。
「いやぁ、てっきりそうなんじゃないかと思ってたんだけど。
 でもふたりの口からちゃんと聞くまでは、余計な口は挟まないようにしようって、
 私ら話してたんだよ」
「え…いえ、正式には昨日からで…」
「ああ、そう!そうかぁ、そうなのかぁ」
守さんと浩美さんが微笑みを交わしていた。
「これからもよろしくね、健吾君」
すぐには頭の整理がつかず、恵子ちゃんを見た。
あんぐりと恵子ちゃんは口を開け、呆けていた。
俺の視線に気づき、恵子ちゃんも俺を見る。
ふたりの口に笑みが浮かび、やがて大笑いした。
(やった!やった!やった!)
ひとりだったら、踊り狂っていたと思う。

731 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:36:37 ID:
守さんも浩美さんもしきりに泊まることを勧めてくれたが、丁重にお断りした。
かろうじて電車もあったし、なにより『厚かましいヤツ』と思われたくなかった。
守さんたちがそんな人たちではないことはよくわかっていたが、
少しでも良い印象を与えたかったのだ。
相変わらず些細なことを気にするヤツだった。
再び恵子ちゃんの車に乗り、駅に向かう。
車が走り出すと同時に、ふたりとも口を揃えて言った。
「…びっくりしたねぇ」
また笑い合った。
落ち着き、余裕を取り戻した頭が考えた。
(あのまま…“結婚を前提に”って言っても、よかったんじゃないだろうか?)
…いやいや、いくらなんでもそれはまだ早いな。
恵子ちゃんの気持ちもあるし。
心の中でかぶりを振っていたら、恵子ちゃんがまた俺の心を見透かした。
「なんだか…結婚の挨拶みたいだったねぇ(笑)」
驚き、恵子ちゃんを見る。
俺の視線に照れたのか、
自分の言ったことに照れたのか、
恵子ちゃんはあわてて顔を右ななめ前方へと向けた。
そのさまに俺までも照れてしまい、俺も左ななめ前に顔を向けた。

732 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:37:43 ID:
倦怠期のカップルのように、互いに別の方向を眺めるふたり。
しばし間をおき、振り絞る。
「でも……いつか、…いや………いずれは…」
そうなったらいいなぁ…と、言葉を続けようとしたが、
「ま、まぁ、先のことはわからないし…
 …恵子ちゃんも…恵子ちゃんが…よければ…」
歯切れの悪い言葉が続く。
だが恵子ちゃんの一言が、終止符を打った。
「早く結婚してくれ(笑)」
首がねじ切れるほどの勢いで恵子ちゃんを見た。
彼女は相変わらず明後日の方向を向いている。
「ほ、ほら、私も若くないし…もうすぐ35歳だし…
 あ、ほら35って、四捨五入すると40なんだよぉ…だから…だから…」
慌てて取り繕った言葉に、恵子ちゃんの照れが見えた。
こみあげる、今日、何度目かわからない高揚感。
「恵子ちゃん、車止めて」
なぜ?とも聞かず、言われるまま恵子ちゃんは車を路肩へと止めた。

733 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:38:29 ID:
止まるや否や、
いまだにそっぽを向いている恵子ちゃんの顎に、そっと手を添えた。
くるりと彼女が俺に向いた。
刹那。
彼女のくちびるは俺のものに。
俺のくちびるは彼女のものになった。

734 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:39:20 ID:
ゆっくりと、長く。
呼吸など無ければいい。
そうは思ったが、限界もある。
磁石を引き剥がすかのように離れた。
彼女の口から吐息がもれた。
たまらず、またくちびるを寄せた。
…結局、3回それを繰り返し、4回目にはふたりで笑い出した。
「俺って、しつこいなぁ(笑)」
「私も…しつこいよ」
5回目は恵子ちゃんのほうからだった。


735 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:40:33 ID:
シフトレバーをはさんだ無理な体勢で抱き合っていた。
心とは裏腹に、無理矢理、身体を離してお互いの席に戻った。
と、膝に花びらが一枚落ちた。
見ると胸のメランポジウムがぐったりしていた。
抜き取り、恵子ちゃんの小さな手のひらに置いた。
「あげる」
「ありがとお」
恵子ちゃんが両手で花を包んだ。
「…明日、帰っちゃうんだよねぇ」
「うん」
「…あーあ…」
「近いうちにまた帰ってくるから」
「…うん、待ってる。でも無理しちゃダメだよ?」
「ありがと」
「私も今度そっちに行くから!健吾君の住んでるトコ、見たい」
「いっぱい、見せたいものがあるよ」
「楽しみだな〜」
無理して明るく振舞う恵子ちゃんがとてもいじらしかった。
身体が壊れてしまわないように、力加減をして抱きしめるのはとても難しかった。
「明日、見送り行くね」
腕の中の恵子ちゃんの声はか細かった。

736 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:41:36 ID:
翌日。
太田家での朝食の席で、昨晩田中家に挨拶に行ったことを報告した。
お父さんも母も、微笑みながら俺の報告を聞いてくれた。
よろこぶふたりの顔を見て、
自分が満ち足りていることを、温かなメシと一緒に噛みしめた。
いつものようにお父さんの車で駅へと向かった。
駅に着くなり、ふたりには悪いが早々に帰ってもらう。
恵子ちゃんが待っているのだ。
秘密にする必要はないが、やっぱりまだ照れくさかった。
駅ビルの喫茶店で恵子ちゃんと落ち合った。
今日も笑顔で俺を迎えた恵子ちゃんだったが、
時折、少しだけ浮かない表情を見せた。
(俺と離れるのが辛いのかな?…んもう、愛いやつめ)
などと気を良くし、恵子ちゃんの手を握る。
(え…?)
その手の熱さに驚いた。
「恵子ちゃん!熱あるんじゃないか!?」
「あ、ちがうのコレ。薬の副作用」
耳の薬を飲むと一時的に熱や軽い頭痛が起こるのだという。
「今日は朝ごはんの時に飲むの忘れちゃったから、ついさっき飲んだの。
 だいじょうぶ。あと30分もすれば収まるから」
眉が八の字になっているのに、精一杯の笑顔で俺に答えている。
これまで病気で辛そうにしている恵子ちゃんを見たことなどなかった。
もしかしたら、俺の前で我慢していたこともあったのかもしれない。
そう思うと、とにかく何かしてあげたくなった。
だから彼女のソファに並んで座った。
「俺に寄りかかってなよ」
よくファミレスなどで当人たちしかいないのに並んで座っているカップルを見ると、
(バッカじゃねーの)
などと胸の中で悪態をついていたものだが、この時は自分も馬鹿のひとりになった。
髪を撫でるたびに恥ずかしさは消えた。
案外、こういうのも悪くないな。
…いや、けっこう好きかも。

737 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:43:11 ID:
すっかり元気を取り戻した恵子ちゃんはホームまでついてきてくれた。
列車がホームに入ってくるまで15分。
相変わらずこの時間はイヤなものだ。
芽衣子さんとの時にも味わった、やるせない、切ない気持ち。
それを誤魔化そうと話し続けても、
浮かぶ言葉は虚ろで他愛のないものだけだった。
ふと見ると恵子ちゃんは無言で俯いていた。
あ、と思い、
「だいじょうぶ?また具合悪くなった?」
と、彼女の顔を覗き込んだ。
泣いてた。
初めて見る、恵子ちゃんの泣き顔。
言葉も出ず見つめた。
「さみしいの。さみしいの」
感情が加速していくのが見て取れた。
「ごめんね…ごめんね…」
嗚咽まじりに何度も謝る恵子ちゃんを抱き寄せた。
彼女の震えを止めてあげたくて腕に力をこめた。
新幹線のデッキに乗り込んでからも、恵子ちゃんの手を放せなかった。
このまま、かっさらってしまおうか?
簡単なことだ。この腕を引くだけ。
しかし未練を断ち切ったのは恵子ちゃんのほうからだった。
絡めた指をほどき、バイバイとその手を振る。
かろうじての笑顔。
言葉はない。
ドン、と無慈悲な音を立ててドアが閉まった。
あわてて小窓から恵子ちゃんを探す。
彼女の顔はまたクシャクシャになっていた。
そんな顔しないでくれ。
こっちまでつられてしまうじゃないか。
なんてことない。
しばしの別れなのだ。
自分に言い聞かせ、笑顔で彼女に手を振った。

738 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:44:03 ID:
横浜に戻ったその日の晩、恵子ちゃんからメールが来た。
「無事に着いたかな?
 昼間はごめんね。突然泣いたりして。
 いい歳して自分でも呆れます(笑)
 健吾君と離れるかと思ったら、急にさみしくなってしまったの。
 でも今はだいぶ落ち着きました。
 今とても健吾君の声を聞きたいけれど、聞いたらまた泣いてしまいそうなので、
 今日はメールだけで我慢します。電話しちゃやだよ?(笑)」
俺も自信がないよ。
きっととんでもないことを口走ってしまいそうだもの。
なんとかメールだけにした。
5回も6回も送ったが。

739 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:44:48 ID:
仕事が無い日は夜に電話を、
夜勤の日は昼間にメールをした。
毎日、彼女の声や文字に触れた。
仕事が忙しくても苦にならなかった。
短気な性格なのに腹を立てることがなくなった。
せっかちな性格なのに駆け込み乗車もしなくなった。
毎晩のように、良い夢ばかり見た。
気づくといつも笑顔だった。

740 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:45:40 ID:
「作品できたの!」
その日の恵子ちゃんの声はいつにも増して弾んでいた。
毎年4月に開催される書展の作品が仕上がったのだという。
「ずいぶん早く完成したんだね〜」
「うん!びっくりするほど筆がすすんで。
 今までで最高傑作だと思う。もちろん自分の中でだけど(笑)」
「へぇ。今回の題材は?」
「んー…内緒(笑)」
「なんじゃそりゃ(笑)」
「知りたかったら、来年一緒に観に行くこと!」
「そりゃ絶対行けるようにするけど…なんだよ、気になるなぁ」
「健吾君」
「ん?」
「ありがとう」
「?なにが?」
「あのね、今回の作品つくってる時、心がすごく落ち着いてたの。
 今まで無いくらいに。
 それはね、きっと健吾君のおかげなんだと思う」
「俺、なんかした?」
「ううん。なんにもしてない(笑)」
「ワケわかんねぇ(笑)」
俺も君にお礼が言いたかったんだ。
俺は毎日、笑顔でいられるよ。
そんな照れ臭いこと言えやしなくて、別の話題に入った。
「9月になったらそっち帰るね」
「だいじょうぶなの?」
「うん、休みとる。デートしよう。ちゃんとしたデート(笑)」
「うん!(笑)」
「できれば8月中にもう1回くらい帰りたかったけど、仕事忙しくて…ごめんな」
「ううん!うれしい」
その後はあれこれとふたりでデートの予定をたてた。
気づけば電話は4時間にも及び、ふたりとも惜しみつつ受話器を置いた。

741 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:46:48 ID:
9月といえば恵子ちゃんの誕生日でもあった。
8月最後の休日、プレゼントを物色しに街に出かけた。
恋人へのプレゼントほど選んでいて楽しいものはない。
何を贈ったら彼女は喜ぶだろう。
自分の物を買うよりもウキウキする。
何軒もの店を巡った。
喫茶店で手早く昼食を済ませ、再び物色しに歩き出した時だった。
アクセサリーショップが目に止まった。
リングのいっぱい詰まったショーケースに引き寄せられる。
「そちらはエンゲージリングに最適ですよ」
俺の心を見透かしたかのように女性店員が言う。
エンゲージリング。
その言葉を意識した時、他の何物もプレゼントとして考えられなくなった。
食い入るように何分、何十分もケースを見つめた。
子供の頃に見たCMが頭に浮かぶ。
黒人の少年が雨の中、ショーケースの中のトランペットを見つめるCM。
たしかクレジットカードのCMだったか。
ふと、財布の中のクレジットカードを思い出した。
今はなんのローンも抱えてはいない。
(買えるな、コレ)
0がいくつも並ぶ値札。
その数が増えるほど恵子ちゃんの笑顔が増えるような、そんな馬鹿な錯覚を覚えた。
さっきから何度も声をかけてきた女性店員を手招いた。
嬉々とした顔で店員は駆け寄ってきた。
「サイズのお直しは後日でも結構ですので」
店員に愛想良く見送られ、店を後にした。
右手に提げた品の良い紙袋に何度も目を落としながら、まっすぐ家路についた。

742 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:47:46 ID:
家に着くなりバタバタと晩飯を済ませた。
風呂はカラスの行水。
髪を乾かすのもそっちのけ。
小さな化粧箱をテーブルにのせ、なぜか正座。
ゆっくりとリボンを解く。
指紋が消えるほどきれいに洗った指で、震えるほどやさしく指輪をつまんだ。
買ってしまった。
思わずニンマリとした。
渡す時のシチュエーションに思いを巡らし、楽しい妄想に何時間も浸った。
我ながら性急かなと、ちらと思ったりもした。
しかし、あらゆる事どもにいつも必要以上に悩む俺が、
コレを勢いで買った(どれにしようか悩みはしたが)。
その勢いが俺の気持ち。
それだけで十分。
確信と自信が漲った。

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