女「また混浴に来たんですか!!」
Part16
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/12(日) 23:42:04.21 ID:MqkE3KNv0
女「そんな……」
男「出て行け。邪魔だ」
女「これで、終わりですか……」
男「言い残したことはあるか」
女「また……」
女「また、早朝……」
男「もうここには来るな」
女「あなたも、お風呂、もう入らないんですか」
男「家に風呂はついてるからな」
女「そうだったんですか」
男「実はお前に会いたかったのかもしれない」
女「そうなんですか。よかったです。安心しました」
女「それでは、また早朝ですね」
男「じゃあな」
女「また」
男「早く出て行け」
花火はとっくに消えていた。
お気に入りのタオルでさえ、身体を拭く感触を感じられなかった。
少し外出していたのか、何事も知らない管理人のおばあちゃんとすれ違ってさようならを言ったあと、私は家まで一人で歩いた。
明日また、日常が始まる。
今日までとの違いは、憎しみの対象が消えたことと、あの人がいなくなること。
きっと。
これが、正しい姿なのだろう。
私は泣きながら、無理やり自分を納得させようとしていた。
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/12(日) 23:48:13.92 ID:MqkE3KNv0
レールは2つに別れていました。
一つは天国へ通ずる道。
もう一つは地獄へ通ずる道。
天国へ通ずる道は、天国へ通ずる道を目指すものと歩むことができます。
地獄へ通ずる道は、行き先が地獄であると知ってもなお共に歩みたいと思う者と歩むことができます。
快楽は、そのまま生きる意味となります。
苦悩は、そのまま愛の証明となります。
だとしたら、悲しくて悔しいことに。
ただひたすらなければよかったと願っていた過去に、救われてしまうこともあるかもしれませんね。
次回「湯の花の花言葉って知ってますか」
アインシュタインさんに質問です。
好きな人と業火の湯釜に浸かると、二人の時間はどのように進みますか。
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/12(日) 23:49:28.66 ID:rUc8den4o
希望が欲しい
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/12(日) 23:52:47.90 ID:MqkE3KNv0
時間ができたので書きました。
今日はここまでです。
重い内容が続いたのに読んでくれてありがとうございます。
残り次回予告2,3回分くらいだと思います。
おやすみなさい。
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 00:05:20.52 ID:Dv/kjbjG0
楽しみ!
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 00:40:53.33 ID:ICf5qLVj0
この2人に救いを…どうか2人が幸せになれますように…
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 00:51:55.44 ID:fJXDnXayo
この温泉は塩辛すぎる
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 07:22:18.73 ID:hkofsXi0O
疲れた。
生きることに疲れた。
逃げればいいんだろうか。
目撃者も現れないような、森の中で、一生。
俺はそこまでして、生き延びる価値のある男なのだろうか。
俺自身、そんな風に生き延びることを望んでいるんだろうか。
もう疲れた。
疲れたから、身体を休めよう。
温泉に行こう。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 07:23:15.72 ID:hkofsXi0O
民宿に泊まった。
酒を買ってはみたものの、一口飲んで捨ててしまった。
数日間惰眠を貪ったあと、料金を支払い店を出た。
その場所に行くのを躊躇していた。
頭の中にある救いの想像地に、現実として足を踏み入れるのが怖かった。
希望がなくなってしまう気がした。
それでも俺は行かなくてはならない。
あとどれだけ、生きられるかもわからぬ命であればこそ。
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 07:34:00.06 ID:hkofsXi0O
早起きをし、身支度を整える。
バスに乗って目的の場所へと向かう。
平日の朝から、俺と同じ目的地に向かうものはいないようだった。
30分ほど経ち、目的の場所についた。
夏だからか、親父さんの言ってたようなオオハクチョウはまるで見えなかった。
親父さんが死にかけの時間に味わった感動を、俺も味わうことはできないだろう。
来ることに意味があった。
屈斜路湖露天風呂。
頭の中に存在していたそのお伽話に、俺は今まで心を救われていたのだから。
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 07:46:50.76 ID:hkofsXi0O
俺の他には誰もいないようだった。
円形で囲まれたスペースにお湯が張ってあり、真ん中には大きな岩があった。
左側が女性の湯、右側が男性の湯と記載されていた。
俺が毎朝行っていた温泉と違い、マナーに対する細かい注意書きがあった。
美しい景観を損ねるような人工物は何一つなかった。ここの地を守る人の努力の賜物なのだろう。
脱衣場で服を脱ぎ、足を踏み入れた。
ゆっくりと浸かった。
少し熱く感じたが、雪国の外気の涼しさと相まって、心地よかった。
眼前に広がる湖には何もなかった。
オオハクチョウも、朝日に照らされる神秘的な女性もいなかった。
気持ちの良い青空と、遠くに広がる山の景色だけがあった。
俺は、満足した。
生きてる間にこの地に来られてよかった。
それは諦めに似た悟りというよりは。
少し、希望に近い感情だった。
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 08:01:08.19 ID:hkofsXi0O
男「幻想的な光景より、現実的な美しさと出会えてよかった」
男「ちゃんと、寝て、食べて、お金を持って、まともな思考ができる状態で。自然な感情で喜びは享受するものなんだな」
男「美しい光景を見て希望を持ち直す、なんて胡散臭い話だと思っていたが」
男「過去や幻想と向き合ったら、どうやら人は自分を認めざるを得ないらしい」
男「貸切状態だ。あの温泉から見える景色の何倍もある自然を、俺が独り占めしている」
男「湯の熱が俺にエネルギーを送り込んでくれるようだ!」
男「力が岩底から湧き上がってくるようだ!」
男「俺はこの大自然の王者だ!!」
男「ふははは!!!」
男「観光!!!」
男「天候!!!」
男「ちんすこう!!!」
男「ここ北海道だけどな!!ふははは!!!」
「そんなにおかしい景色ですか」
俺の背筋は凍り付いた。
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 08:19:15.07 ID:kctSSidyO
あぁ、泣きそうだ
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 08:28:37.89 ID:KpjxRqqQ0
この時間に来るのは日本に二人くらい……か
上手いなぁ
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 09:35:47.97 ID:JaK9UdbWo
本当に良かった
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 22:24:56.19 ID:acofFuSc0
女「韻を踏んでいたんですか」
男「…………」
女「湯の熱があなたにエネルギーを送り込んでくれるって本当ですか?」
男「…………」
女「この広大な景色を独り占めしてるって本当ですか?」
男「…………」
女「もしかしたら知ってる人が岩一枚隔てたところにいたりしなかったですか」
男「…………」
女「早朝から生きるエネルギーが」
男「もうやめてくれ。死にたい……」バシャバシャ…
女「生きましょうよ。せっかく生きているんですから」
男「なかったことにしてくれ」
女「これが黒歴史ですよ。人が背負う過去の重荷は、このくらいの地獄が丁度いいんです。ということで、忘れてあげません」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 22:31:50.54 ID:acofFuSc0
女「死ぬつもりだったんですか」
男「自殺するつもりはない。ただ、殺されるつもりだった」
女「逃げるつもりだった方がまだ安心です」
男「俺を殺そうとしているやつからか」
女「そう。親父さんの信奉者や、あなたの嫌な記憶から」
男「逃げられないだろ」
女「逃げましょうよ」
男「どこにだ」
女「日本地図にダーツを投げて、そこでこっそり暮らしましょう」
男「俺はもう疲れたんだ。だから温泉にきてる。疲れたから、疲労回復」
女「すぐのぼせるくせに」
男「逃げてもいいと思うか」
女「向き合っても、不幸にしかならないことなんてたまにはありますよ」
男「バチがあたらないか。不幸から目を背けて」
女「幸せになろうとしてバチがあたるんなら、幸せなんて存在できないでしょう?」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 22:39:05.31 ID:acofFuSc0
女「それにしても、広大な眺めですね」
男「そうだな」
女「でも、定位置は逆ですね」
男「逆?」
女「湖を正面に、男湯が右側、女湯が左側じゃないですか」
女「湖を正面に見ても、私の視界にあなたが入ってこれません」
男「入れ替わるか。実はそっちが男湯なんだ」
女「どこかの神秘的な女性が言いそうなセリフですね」
男「人が行き来できるほどの隙間が空いてる」
女「男湯も女湯もあったもんじゃないですね」
男「この隙間は男湯と女湯どっちなんだ」
女「混浴なんじゃないでしょうか」
男「世界一狭い混浴だな」
女「そして世界一贅沢な」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 22:51:15.82 ID:acofFuSc0
男「どうやって来た」
女「ホテルからタクシーで」
男「贅沢な奴だ」
女「私のいない日々はどうでしたか」
男「静かだった」
女「寂しかったならそういえばいいのに」
男「寂しかった」
女「…………」
男「でも、それ以上に」
男「お前には感謝していた」
女「だから北海道まで逃げ出してくれたんですね」
男「怒ってるならそう言ってくれ」
女「怒ってます」
男「すまなかった」
女「怒ってるんですよ」
男「申し訳ない」
女「謝ってくれたのでいいです」
男「そうなのか」
女「許すつもりだから謝らせたんですよ」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:05:49.74 ID:acofFuSc0
女「男さん」
女「私の人生を見てどう思いましたか」
男「気の毒だと思った」
女「同情しましたか」
男「ああ。同情した。可哀想だと思った」
女「私は可哀想な人生を送っていますか」
男「ああ、そう思う」
女「やはりそうでしたか」
男「…………」
男「俺の人生を見てどう思った」
女「そうですね。哀れな人生だと思いました」
男「どのあたりが」
女「あなたの周りにいた人全員が不幸になってしまっていたあたりが」
男「俺は哀れな人間か」
女「はい、哀れな人間です」
男「そうか。俺もそう思う」
女「そうですか」
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:09:27.22 ID:acofFuSc0
男「なあ女」
男「生まれ変わったら、もう一度自分に生まれたいか」
女「…………」
女「これからの帰り道次第です」
男「なんだそれは」
女「あなたはどうですか。自分の人生を肯定できますか?」
男「そんなことはできない。何もかもが間違えていたと思う」
女「…………」
男「何もかもが間違えていた」
男「そのせいで、最後にお前と会えたこと以外はな」
女「…………」
女「男さん」
男「なんだ」
女「どうして泣いているんですか」
男「見るな」
女「俯いてたらせっかくの景色がもったいないですよ」
男「覗くな」
女「見てあげますよ。右目が駄目なら左目で。左目も見えなくなったら、声や、手の平で」
男「どうやってだ」
女「こうやって」
女は男の頬に両手を添え、髪を除け両目を見つめていった。
女「あなたは、正しい」
早朝の屈斜路湖で、二羽の白鳥がキスをした。
女「そんな……」
男「出て行け。邪魔だ」
女「これで、終わりですか……」
男「言い残したことはあるか」
女「また……」
女「また、早朝……」
男「もうここには来るな」
女「あなたも、お風呂、もう入らないんですか」
男「家に風呂はついてるからな」
女「そうだったんですか」
男「実はお前に会いたかったのかもしれない」
女「そうなんですか。よかったです。安心しました」
女「それでは、また早朝ですね」
男「じゃあな」
女「また」
男「早く出て行け」
花火はとっくに消えていた。
お気に入りのタオルでさえ、身体を拭く感触を感じられなかった。
少し外出していたのか、何事も知らない管理人のおばあちゃんとすれ違ってさようならを言ったあと、私は家まで一人で歩いた。
明日また、日常が始まる。
今日までとの違いは、憎しみの対象が消えたことと、あの人がいなくなること。
きっと。
これが、正しい姿なのだろう。
私は泣きながら、無理やり自分を納得させようとしていた。
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/12(日) 23:48:13.92 ID:MqkE3KNv0
レールは2つに別れていました。
一つは天国へ通ずる道。
もう一つは地獄へ通ずる道。
天国へ通ずる道は、天国へ通ずる道を目指すものと歩むことができます。
地獄へ通ずる道は、行き先が地獄であると知ってもなお共に歩みたいと思う者と歩むことができます。
快楽は、そのまま生きる意味となります。
苦悩は、そのまま愛の証明となります。
だとしたら、悲しくて悔しいことに。
ただひたすらなければよかったと願っていた過去に、救われてしまうこともあるかもしれませんね。
次回「湯の花の花言葉って知ってますか」
アインシュタインさんに質問です。
好きな人と業火の湯釜に浸かると、二人の時間はどのように進みますか。
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/12(日) 23:49:28.66 ID:rUc8den4o
希望が欲しい
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/12(日) 23:52:47.90 ID:MqkE3KNv0
時間ができたので書きました。
今日はここまでです。
重い内容が続いたのに読んでくれてありがとうございます。
残り次回予告2,3回分くらいだと思います。
おやすみなさい。
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 00:05:20.52 ID:Dv/kjbjG0
楽しみ!
この2人に救いを…どうか2人が幸せになれますように…
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 00:51:55.44 ID:fJXDnXayo
この温泉は塩辛すぎる
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 07:22:18.73 ID:hkofsXi0O
疲れた。
生きることに疲れた。
逃げればいいんだろうか。
目撃者も現れないような、森の中で、一生。
俺はそこまでして、生き延びる価値のある男なのだろうか。
俺自身、そんな風に生き延びることを望んでいるんだろうか。
もう疲れた。
疲れたから、身体を休めよう。
温泉に行こう。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 07:23:15.72 ID:hkofsXi0O
民宿に泊まった。
酒を買ってはみたものの、一口飲んで捨ててしまった。
数日間惰眠を貪ったあと、料金を支払い店を出た。
その場所に行くのを躊躇していた。
頭の中にある救いの想像地に、現実として足を踏み入れるのが怖かった。
希望がなくなってしまう気がした。
それでも俺は行かなくてはならない。
あとどれだけ、生きられるかもわからぬ命であればこそ。
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 07:34:00.06 ID:hkofsXi0O
早起きをし、身支度を整える。
バスに乗って目的の場所へと向かう。
平日の朝から、俺と同じ目的地に向かうものはいないようだった。
30分ほど経ち、目的の場所についた。
夏だからか、親父さんの言ってたようなオオハクチョウはまるで見えなかった。
親父さんが死にかけの時間に味わった感動を、俺も味わうことはできないだろう。
来ることに意味があった。
屈斜路湖露天風呂。
頭の中に存在していたそのお伽話に、俺は今まで心を救われていたのだから。
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 07:46:50.76 ID:hkofsXi0O
俺の他には誰もいないようだった。
円形で囲まれたスペースにお湯が張ってあり、真ん中には大きな岩があった。
左側が女性の湯、右側が男性の湯と記載されていた。
俺が毎朝行っていた温泉と違い、マナーに対する細かい注意書きがあった。
美しい景観を損ねるような人工物は何一つなかった。ここの地を守る人の努力の賜物なのだろう。
脱衣場で服を脱ぎ、足を踏み入れた。
ゆっくりと浸かった。
少し熱く感じたが、雪国の外気の涼しさと相まって、心地よかった。
眼前に広がる湖には何もなかった。
オオハクチョウも、朝日に照らされる神秘的な女性もいなかった。
気持ちの良い青空と、遠くに広がる山の景色だけがあった。
俺は、満足した。
生きてる間にこの地に来られてよかった。
それは諦めに似た悟りというよりは。
少し、希望に近い感情だった。
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 08:01:08.19 ID:hkofsXi0O
男「幻想的な光景より、現実的な美しさと出会えてよかった」
男「ちゃんと、寝て、食べて、お金を持って、まともな思考ができる状態で。自然な感情で喜びは享受するものなんだな」
男「美しい光景を見て希望を持ち直す、なんて胡散臭い話だと思っていたが」
男「過去や幻想と向き合ったら、どうやら人は自分を認めざるを得ないらしい」
男「貸切状態だ。あの温泉から見える景色の何倍もある自然を、俺が独り占めしている」
男「湯の熱が俺にエネルギーを送り込んでくれるようだ!」
男「力が岩底から湧き上がってくるようだ!」
男「俺はこの大自然の王者だ!!」
男「ふははは!!!」
男「観光!!!」
男「天候!!!」
男「ちんすこう!!!」
男「ここ北海道だけどな!!ふははは!!!」
「そんなにおかしい景色ですか」
俺の背筋は凍り付いた。
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 08:19:15.07 ID:kctSSidyO
あぁ、泣きそうだ
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 08:28:37.89 ID:KpjxRqqQ0
この時間に来るのは日本に二人くらい……か
上手いなぁ
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 09:35:47.97 ID:JaK9UdbWo
本当に良かった
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 22:24:56.19 ID:acofFuSc0
女「韻を踏んでいたんですか」
男「…………」
女「湯の熱があなたにエネルギーを送り込んでくれるって本当ですか?」
男「…………」
女「この広大な景色を独り占めしてるって本当ですか?」
男「…………」
女「もしかしたら知ってる人が岩一枚隔てたところにいたりしなかったですか」
男「…………」
女「早朝から生きるエネルギーが」
男「もうやめてくれ。死にたい……」バシャバシャ…
女「生きましょうよ。せっかく生きているんですから」
男「なかったことにしてくれ」
女「これが黒歴史ですよ。人が背負う過去の重荷は、このくらいの地獄が丁度いいんです。ということで、忘れてあげません」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 22:31:50.54 ID:acofFuSc0
女「死ぬつもりだったんですか」
男「自殺するつもりはない。ただ、殺されるつもりだった」
女「逃げるつもりだった方がまだ安心です」
男「俺を殺そうとしているやつからか」
女「そう。親父さんの信奉者や、あなたの嫌な記憶から」
男「逃げられないだろ」
女「逃げましょうよ」
男「どこにだ」
女「日本地図にダーツを投げて、そこでこっそり暮らしましょう」
男「俺はもう疲れたんだ。だから温泉にきてる。疲れたから、疲労回復」
女「すぐのぼせるくせに」
男「逃げてもいいと思うか」
女「向き合っても、不幸にしかならないことなんてたまにはありますよ」
男「バチがあたらないか。不幸から目を背けて」
女「幸せになろうとしてバチがあたるんなら、幸せなんて存在できないでしょう?」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 22:39:05.31 ID:acofFuSc0
女「それにしても、広大な眺めですね」
男「そうだな」
女「でも、定位置は逆ですね」
男「逆?」
女「湖を正面に、男湯が右側、女湯が左側じゃないですか」
女「湖を正面に見ても、私の視界にあなたが入ってこれません」
男「入れ替わるか。実はそっちが男湯なんだ」
女「どこかの神秘的な女性が言いそうなセリフですね」
男「人が行き来できるほどの隙間が空いてる」
女「男湯も女湯もあったもんじゃないですね」
男「この隙間は男湯と女湯どっちなんだ」
女「混浴なんじゃないでしょうか」
男「世界一狭い混浴だな」
女「そして世界一贅沢な」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 22:51:15.82 ID:acofFuSc0
男「どうやって来た」
女「ホテルからタクシーで」
男「贅沢な奴だ」
女「私のいない日々はどうでしたか」
男「静かだった」
女「寂しかったならそういえばいいのに」
男「寂しかった」
女「…………」
男「でも、それ以上に」
男「お前には感謝していた」
女「だから北海道まで逃げ出してくれたんですね」
男「怒ってるならそう言ってくれ」
女「怒ってます」
男「すまなかった」
女「怒ってるんですよ」
男「申し訳ない」
女「謝ってくれたのでいいです」
男「そうなのか」
女「許すつもりだから謝らせたんですよ」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:05:49.74 ID:acofFuSc0
女「男さん」
女「私の人生を見てどう思いましたか」
男「気の毒だと思った」
女「同情しましたか」
男「ああ。同情した。可哀想だと思った」
女「私は可哀想な人生を送っていますか」
男「ああ、そう思う」
女「やはりそうでしたか」
男「…………」
男「俺の人生を見てどう思った」
女「そうですね。哀れな人生だと思いました」
男「どのあたりが」
女「あなたの周りにいた人全員が不幸になってしまっていたあたりが」
男「俺は哀れな人間か」
女「はい、哀れな人間です」
男「そうか。俺もそう思う」
女「そうですか」
男「なあ女」
男「生まれ変わったら、もう一度自分に生まれたいか」
女「…………」
女「これからの帰り道次第です」
男「なんだそれは」
女「あなたはどうですか。自分の人生を肯定できますか?」
男「そんなことはできない。何もかもが間違えていたと思う」
女「…………」
男「何もかもが間違えていた」
男「そのせいで、最後にお前と会えたこと以外はな」
女「…………」
女「男さん」
男「なんだ」
女「どうして泣いているんですか」
男「見るな」
女「俯いてたらせっかくの景色がもったいないですよ」
男「覗くな」
女「見てあげますよ。右目が駄目なら左目で。左目も見えなくなったら、声や、手の平で」
男「どうやってだ」
女「こうやって」
女は男の頬に両手を添え、髪を除け両目を見つめていった。
女「あなたは、正しい」
早朝の屈斜路湖で、二羽の白鳥がキスをした。
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