犬娘「魔王になるっ!」
Part2
14 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 02:45:58.76 ID:aCpzcjHAO
犬娘「とっても賑やかだね!」
メイド剣士「そのようですね……しかし柄が悪い」
売り子「麓名物いかやきいらんかねー」
メイド剣士「そのような下品な物いりません」
売り子「ひどっ」
犬娘「私ひとつ!」
メイド剣士「……無駄遣いを……」
犬娘「でも王様から二千Gももらっちゃったし」
メイド剣士「ヤマナミは景気良いですからね」
売り子「はい、8Gね」
メイド剣士「ちょっとぼったくりではないですか?」
売り子「屋台価格だよ!」
犬娘「美味しい」
名前を登録し、イカ焼きを食べながら待っていると、大きな獣人の戦士が現れた
対するのは狼主の命を受けて門番を務める、魔導師のような風体の少女である
大きな獣人「おう、お嬢ちゃんが相手なのか? さっきのゴリラみたいな魔物でも良いんだぜ?」
術師「問題ないわ、かかってきなさい」
獣人は挑発する少女の隙を突いて殴りかかったが、次の瞬間には少女は居なくなっている
術師「知恵がないなら、消えるのね」
一瞬の後、上空から少女の声がする
術師「鉄線」
少女はどこからか出した鉄線を雨のように獣人に降らせた
大きな獣人「うっ、うわああっ!」
15 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 02:52:17.09 ID:aCpzcjHAO
次の瞬間舞台全体にその太い鉄線が突き刺さり、獣人も串刺しになった
瞬間、鉄線が消え去る
大きな獣人は慌てふためいて舞台から逃げ出し、勝負は決した
術師「弱いのね」
戦いを見ていた犬娘は、その術師にすっかり惚れ込んでしまった
犬娘「仲間になってもらおうよっ!」
メイド剣士「は、はあ?」
犬娘「参謀になってもらおうよ〜!」
メイド剣士「い、良いですけど、まず勝たないと話も聞いて頂けないと思いますよ?」
犬娘「うん、じゃあ勝とう!」
メイド剣士「既に知ってますけど、脳筋ですね」
犬娘たちは登録係の人間に交渉して、対戦相手に術士を指名した
術師「お二人? いいわよ?」
術師は自信満々で二人を舞台に上げた
犬娘はメイド剣士に耳うちする
犬娘「……ごしょごしょ」
メイド剣士「脳筋らしい策ですね、構いませんよ」
いちいち非道いメイド剣士だが当たっているので反論は出来ない
術師「では、おいでなさい」
犬娘「待ってください!」
術師「はい?」
犬娘「私たちが勝ったら仲間になってください!」
術師「……」
術師「私は狼主様に仕えているのよ、狼主様に会って許可を取りなさいな」
16 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 02:55:49.16 ID:aCpzcjHAO
犬娘「綺麗なお姉さん、ゲット!」
メイド剣士「気が早いですよ、魔王様」
メイド剣士が犬娘を魔王と呼ぶと、術師の顔色が変わった
術師「ま、魔王ですって?」
犬娘は突然の術師の気迫に圧されて涙目になった
犬娘「見習いですぅ……」
術師「……まあ魔王と名乗る人も増えましたからね、今更一人二人増えても気にしませんが」
術師「実力が無いならば、その名は取り下げなさい」
言うやいなや、術師は手を上げると、鉄線を作り出す
犬娘「危ない!」
鉄線の槍がメイド剣士を襲う
犬娘は鉄線を下から蹴り上げたが、何本かは落としきれずに犬娘の身体に突き刺さった
犬娘「ぎゃふっ!」
術師「!」
メイド剣士「きっ、貴様ぁ!」
メイド剣士は倒れる犬娘を飛び越え、仕込み杖を抜き放つ
術師(速い!)
しかし、次の瞬間に術師の姿が消える
メイド剣士「!」
メイド剣士が空を見上げると術師は
その後ろに先に跳んでいた犬娘に蹴り落とされていた
メイド剣士「うそっ!」
術師「な……なん……」
術師はそのまま舞台の外に落ちた
犬娘「作戦どおーりっ!」
メイド剣士「無理しすぎです、この脳筋魔王!」
17 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 02:59:51.81 ID:aCpzcjHAO
犬娘の作戦はこうだ
メイド剣士ちゃん踏み込む
術師さん飛ぶ
私跳ぶ
メイド剣士に脳筋と呼ばれた犬娘らしい単純な策だが、まず犬娘が怪我を負ったために完全に術師の裏をかくことに成功
メイド剣士「運を持ち合わせていると言うべきか」
術師「圧倒的に無謀と言うか」
術師「……しかし、約束は約束、狼主様に会わせましょう」
犬娘「やった」
犬娘は可愛くガッツポーズした
…………
狼主「ふーん、魔王になりたいのか」
狼主「まあコトー王が元締めだからアイツが許すなら儂が文句言うことではない」
狼主「それで術師が欲しい、と」
術師「私はこの娘、気に入りましたわ」
術師「簡単に死んでしまいそうだから守りたくもあります」
狼主「面白い、お主が惚れるとはな」
術師「ふかふか主様のようなふかふか尻尾も可愛いですわ」
狼主「二百年ぶりだがふかふか主ではない」
狼主「じゃがそう言う事ならば良かろう、主の役に立てよ」
犬娘「本当ですか?!」
狼主「同じ獣の身として、犬魔王とは悪い気はせんわ」
狼主「オマケじゃ、かつて犬勇者にも力を貸したように、主にも魔法を授けよう」
犬娘「えっ!」
18 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:03:16.77 ID:aCpzcjHAO
メイド剣士「ふかふか獣のくせに太っ腹!」
狼主「お主口が悪いな!」
術師「なんだかワクワクしますわね」
ニコニコ微笑む術師
憧れの犬勇者と同じ師匠
犬娘もワクワクせずにはいられなかった
…………
術師が美しい銀の長髪をかきあげ冷たい瞳を輝かせると、的となる鉄球を放つ
犬娘「わん!」
犬娘が口から閃光を放つと、鉄球は溶け砕けた
術師「お見事ですわ、魔王様」
メイド剣士「凄いですね」
術師「あなたも肉体強化などは得意なようですが、攻撃魔法は今一つですわね」
メイド剣士「脳の量と魔力って関係ないんですね」
術師「私が脳少ないみたいに言わないで下さる?」
術師「では、狼主様に報告してオリファンに向かいましょう」
犬娘「やったー!」
メイド剣士「可愛い、魔王様」
術師「ふかふかしたいわ」
…………
狼主「よし、基礎は出来たか、では行くが良い」
狼主「コトー王によろしくな」
犬娘「はい!」
術師「では改めて、新しい我が主、犬娘様」
術師「今後ともよろしくお願い致します」
犬娘「わうっ、よろしくですっ」
犬娘は術師に対しても敬礼し、尻尾を振った
それが術師と犬魔王の、出会い
19 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:06:16.82 ID:aCpzcjHAO
術師「この門を抜け山上まで上がればオリファンです」
術師「魔王様、足元にお気をつけて」
術師は門兵に狼主の紋章を見せると、門の奥に犬娘とメイド剣士を案内する
術師が眠そうな目をしている
犬娘「術師さん眠いの?」
術師「私はもともとこんな顔ですわ」
メイド剣士「目つきが悪いんですね」
術師「それをあなたが言いますか?」
犬娘「……判定」
犬娘「メイド剣士ちゃんの方が目つき悪い!」
メイド剣士「そんな判定いりません」
術師「勝ちましたわ」
そんなくだらない話をしているうちに、三人は山上に辿り着いた
ーー勇者の国、オリファンーー
オリファンの国はかつて勇者や犬勇者が生まれた、祝福の地である
何度か戦場になったその地も、沢山の住民が住み着き、今やヤマナミに並ぶ大国となっている
犬娘は憧れの勇者の地と言うことで、勇者犬の墓や女剣士の像、魔法使いの研究室跡地などを巡って、はしゃいでいた
横を向いて走っていたため、見知らぬ男とぶつかってしまう
その男は一見魔導師のような鋭い顔つきをしていたが、
犬娘「じ、獣人!」
犬娘と同じ、犬の耳がぴこぴこしている
20 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:08:37.52 ID:aCpzcjHAO
犬戦士「いってえ〜!」
犬戦士「なんだ、お前も獣人じゃないか!」
犬戦士「やっほー、どうぞく、どうぞく!」
見た目と裏腹に頭が足りないようである
犬娘「ヤッホー!」
犬獣人は頭が弱いのだろうか
メイド剣士「もお、魔王様!」
そこにようやく追いついたメイド剣士が獣人に気付く
メイド剣士「な、何か?」
犬戦士「おう、可愛いー!」
メイド剣士「は? 犬は一匹で十分です」
犬娘「一匹とか、ひどいっ」
犬戦士「それにしてもそっちも魔王様か、俺も魔王様に仕えてるんだ!」
犬娘「え、コトー王様?」
犬戦士「バカ言え、そんな上等な魔王様に俺みたいなバカが仕えられるか!」
犬戦士「確かサイセイの南西沖に、カイオウ島って島があるんだが、そこのチュウザン国の魔王だ」
メイド剣士「確か、ってそこから来たんですよね?」
犬戦士「うん、飛んできたからわかんない」
メイド剣士「地理の問題ですよね? 移動手段関係ないですよね?」
犬戦士「なんで俺怒られてるの……?」
犬娘「わかんない……」
メイド剣士「犬獣人はアホばっかりか!」
21 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:11:39.63 ID:aCpzcjHAO
術師「そこまでですわ」
術師「置いていかないでくださる?」
空から不意に声がかかる
見上げるとパンツ丸出しで術師が浮かんでいた
メイド剣士「見えてますっ!」
術師「空を飛ぶのに見せパンはいてないと思って?」
くそ、バカの前でバカにされた
メイド剣士「とにかく目立つので降りて下さい」
術師「分かってますわ」
術師はふよふよと眠い目のまま降りてくる
本当に眠いのではなかろうか
犬娘「そうだ、私とチューザンの魔王様ライバルだねっ!」
犬戦士「おおっ、そうだな!」
犬戦士「よし、俺、おまえら、力試しする!」
犬戦士は興奮し、街中であることも気にせずに構えた
メイド剣士「街中で……しかも三対一ですよ? 脳筋が……!」
メイド剣士は何か脳筋に恨みでもあるのだろうか
しかし、戦いの雰囲気を察した周りの住民たちはたちまち舞台を用意
オリファンでは闘技祭りと言うお祭りがあるので、住民は皆こういった腕試しバトルが大好物なのだ
犬戦士「よっしゃー! 盛り上がりまくりっ!」
実に楽しそうな犬
犬戦士「俺の得物は斧だと思ったろ、ハンマーだ!」
どうでもいいし同じようなものである
22 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:16:35.57 ID:aCpzcjHAO
犬戦士「いっくぜーっ!」
思いがけず犬戦士とバトルすることになった
術師は飛び込んでくる犬戦士の直前に鉄の壁を展開
物理攻撃はそのまま犬戦士に跳ね返った
犬戦士「ぐほうっ」
メイド剣士「バカはやりやすいですね」
術師「私は苦手」
メイド剣士「わかる気がします、魔王様とか苦手ですよね」
犬娘「私も戦うよっ!」
立ち上がった犬戦士にすかさず連打を浴びせかける犬娘
術師「あの娘見掛けによらず強いわよね」
メイド剣士「魔王を目指すと言うのも頷けます」
犬戦士「くそっ、おめえらつええなっ!」
犬戦士は攻撃を受けながら無理矢理犬娘を捕まえると、舞台に叩きつける
犬娘「ぎゃふっ!」
術師「余所見は頂けませんわ」
術師は犬戦士を追うように鉄球を浴びせかける
犬戦士「食らうか!」
避ける犬戦士
そこに
メイド剣士「お待ちしておりました」
待機していたメイド剣士の剣閃
犬戦士「ぎゃはっ!?」
術師「初歩的なコンビネーションですわ」
メイド剣士「まずまずですね」
犬戦士「くそっ、ずりいぞおまえら、三人とか!」
いやいやいや
付近で見ている住人まで総突っ込みである
23 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:19:25.47 ID:aCpzcjHAO
術師「そんなこと最初に言いなさいな」
メイド剣士「開戦前に確かに、おまえ『ら』って言いました」
犬戦士「卑怯な〜!」
話を聞いているんだろうか
犬娘「じゃあこれからは私だけ戦うよ!」
おいおい
犬戦士「おお、お前戦士!」
ふざけんな
しかし話を聞かない犬たち
結局、犬戦士と犬娘との一騎打ちになった
しかし
術師「期待できますわ」
メイド剣士「そうなんですか?」
術師「パワーでは負けるでしょうが、スピードでは圧倒しています、私たちの魔王様は獣人の中でもトップクラスのスピードファイターですわ」
スピードで負けては生きていけぬ獣人の中でトップクラスと言うことは、つまり世界で最も速いクラスと言うことだ
日頃からバトルを観戦するのが大好きな住人たちの目ですら捉えられぬスピードで
犬娘が走る!
犬娘「わん!」
犬戦士の不意をつく犬娘の閃光魔法
直撃!
犬戦士「くそっ、魔法使えるのか!」
犬戦士は確実に閃光魔法の直撃を受けたのだが恐ろしいタフさでまるで堪えていない
しかし犬娘も怯まない
犬娘「がううっ!」
犬娘は犬戦士の首に躊躇せずに噛み付いた
犬戦士「がはっ!」
24 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:26:12.69 ID:aCpzcjHAO
犬戦士「負けるかあっ!」
犬戦士は噛みつかれながら犬娘の頭を掴み、地面に叩きつける
犬娘「ぎゃっ……」
脳を揺さぶられては獣は弱い
犬娘はその一撃でほとんどダウン寸前だ
犬戦士「く……」
しかし先の噛み付きを強引に振り解いたため、犬戦士は喉を裂いていた
犬戦士は追撃の構えを取ったまま、ゆっくりとその場で崩れ落ちた
審判「そこまで!」
メイド剣士「どっからでましたか!?」
術師「勝負はついたわね、回復しますわ!」
術師は袂から杖を取り出すと、二人に回復魔法をかけた
…………
犬戦士「があっはっはっは!!」
犬戦士「おまえつえーわ、流石に魔王だわ!」
犬戦士は馬鹿だがとても大らかなようだ
最初に犬娘がぶつかった時も気にも止めていなかった
犬娘「楽しかった〜!」
術師「なかなか良い勝負でしたわよ」
メイド剣士「術師さんって戦闘大好きなんですね」
術師「私の職業ご存じなくて?」
メイド剣士「仕事が趣味でしたか」
オリファンの国も大らかなもので、誰にも咎められることもなくファイトマネーまでもらって、三人は東町の港から華々しく送り出されたのだった
犬娘「とっても賑やかだね!」
メイド剣士「そのようですね……しかし柄が悪い」
売り子「麓名物いかやきいらんかねー」
メイド剣士「そのような下品な物いりません」
売り子「ひどっ」
犬娘「私ひとつ!」
メイド剣士「……無駄遣いを……」
犬娘「でも王様から二千Gももらっちゃったし」
メイド剣士「ヤマナミは景気良いですからね」
売り子「はい、8Gね」
メイド剣士「ちょっとぼったくりではないですか?」
売り子「屋台価格だよ!」
犬娘「美味しい」
名前を登録し、イカ焼きを食べながら待っていると、大きな獣人の戦士が現れた
対するのは狼主の命を受けて門番を務める、魔導師のような風体の少女である
大きな獣人「おう、お嬢ちゃんが相手なのか? さっきのゴリラみたいな魔物でも良いんだぜ?」
術師「問題ないわ、かかってきなさい」
獣人は挑発する少女の隙を突いて殴りかかったが、次の瞬間には少女は居なくなっている
術師「知恵がないなら、消えるのね」
一瞬の後、上空から少女の声がする
術師「鉄線」
少女はどこからか出した鉄線を雨のように獣人に降らせた
大きな獣人「うっ、うわああっ!」
15 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 02:52:17.09 ID:aCpzcjHAO
次の瞬間舞台全体にその太い鉄線が突き刺さり、獣人も串刺しになった
瞬間、鉄線が消え去る
大きな獣人は慌てふためいて舞台から逃げ出し、勝負は決した
術師「弱いのね」
戦いを見ていた犬娘は、その術師にすっかり惚れ込んでしまった
犬娘「仲間になってもらおうよっ!」
メイド剣士「は、はあ?」
犬娘「参謀になってもらおうよ〜!」
メイド剣士「い、良いですけど、まず勝たないと話も聞いて頂けないと思いますよ?」
犬娘「うん、じゃあ勝とう!」
メイド剣士「既に知ってますけど、脳筋ですね」
犬娘たちは登録係の人間に交渉して、対戦相手に術士を指名した
術師「お二人? いいわよ?」
術師は自信満々で二人を舞台に上げた
犬娘はメイド剣士に耳うちする
犬娘「……ごしょごしょ」
メイド剣士「脳筋らしい策ですね、構いませんよ」
いちいち非道いメイド剣士だが当たっているので反論は出来ない
術師「では、おいでなさい」
犬娘「待ってください!」
術師「はい?」
犬娘「私たちが勝ったら仲間になってください!」
術師「……」
術師「私は狼主様に仕えているのよ、狼主様に会って許可を取りなさいな」
16 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 02:55:49.16 ID:aCpzcjHAO
犬娘「綺麗なお姉さん、ゲット!」
メイド剣士「気が早いですよ、魔王様」
メイド剣士が犬娘を魔王と呼ぶと、術師の顔色が変わった
術師「ま、魔王ですって?」
犬娘は突然の術師の気迫に圧されて涙目になった
犬娘「見習いですぅ……」
術師「……まあ魔王と名乗る人も増えましたからね、今更一人二人増えても気にしませんが」
術師「実力が無いならば、その名は取り下げなさい」
言うやいなや、術師は手を上げると、鉄線を作り出す
犬娘「危ない!」
鉄線の槍がメイド剣士を襲う
犬娘は鉄線を下から蹴り上げたが、何本かは落としきれずに犬娘の身体に突き刺さった
犬娘「ぎゃふっ!」
術師「!」
メイド剣士「きっ、貴様ぁ!」
メイド剣士は倒れる犬娘を飛び越え、仕込み杖を抜き放つ
術師(速い!)
しかし、次の瞬間に術師の姿が消える
メイド剣士「!」
メイド剣士が空を見上げると術師は
その後ろに先に跳んでいた犬娘に蹴り落とされていた
メイド剣士「うそっ!」
術師「な……なん……」
術師はそのまま舞台の外に落ちた
犬娘「作戦どおーりっ!」
メイド剣士「無理しすぎです、この脳筋魔王!」
17 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 02:59:51.81 ID:aCpzcjHAO
犬娘の作戦はこうだ
メイド剣士ちゃん踏み込む
術師さん飛ぶ
私跳ぶ
メイド剣士に脳筋と呼ばれた犬娘らしい単純な策だが、まず犬娘が怪我を負ったために完全に術師の裏をかくことに成功
メイド剣士「運を持ち合わせていると言うべきか」
術師「圧倒的に無謀と言うか」
術師「……しかし、約束は約束、狼主様に会わせましょう」
犬娘「やった」
犬娘は可愛くガッツポーズした
…………
狼主「ふーん、魔王になりたいのか」
狼主「まあコトー王が元締めだからアイツが許すなら儂が文句言うことではない」
狼主「それで術師が欲しい、と」
術師「私はこの娘、気に入りましたわ」
術師「簡単に死んでしまいそうだから守りたくもあります」
狼主「面白い、お主が惚れるとはな」
術師「ふかふか主様のようなふかふか尻尾も可愛いですわ」
狼主「二百年ぶりだがふかふか主ではない」
狼主「じゃがそう言う事ならば良かろう、主の役に立てよ」
犬娘「本当ですか?!」
狼主「同じ獣の身として、犬魔王とは悪い気はせんわ」
狼主「オマケじゃ、かつて犬勇者にも力を貸したように、主にも魔法を授けよう」
犬娘「えっ!」
18 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:03:16.77 ID:aCpzcjHAO
メイド剣士「ふかふか獣のくせに太っ腹!」
狼主「お主口が悪いな!」
術師「なんだかワクワクしますわね」
ニコニコ微笑む術師
憧れの犬勇者と同じ師匠
犬娘もワクワクせずにはいられなかった
…………
術師が美しい銀の長髪をかきあげ冷たい瞳を輝かせると、的となる鉄球を放つ
犬娘「わん!」
犬娘が口から閃光を放つと、鉄球は溶け砕けた
術師「お見事ですわ、魔王様」
メイド剣士「凄いですね」
術師「あなたも肉体強化などは得意なようですが、攻撃魔法は今一つですわね」
メイド剣士「脳の量と魔力って関係ないんですね」
術師「私が脳少ないみたいに言わないで下さる?」
術師「では、狼主様に報告してオリファンに向かいましょう」
犬娘「やったー!」
メイド剣士「可愛い、魔王様」
術師「ふかふかしたいわ」
…………
狼主「よし、基礎は出来たか、では行くが良い」
狼主「コトー王によろしくな」
犬娘「はい!」
術師「では改めて、新しい我が主、犬娘様」
術師「今後ともよろしくお願い致します」
犬娘「わうっ、よろしくですっ」
犬娘は術師に対しても敬礼し、尻尾を振った
それが術師と犬魔王の、出会い
術師「この門を抜け山上まで上がればオリファンです」
術師「魔王様、足元にお気をつけて」
術師は門兵に狼主の紋章を見せると、門の奥に犬娘とメイド剣士を案内する
術師が眠そうな目をしている
犬娘「術師さん眠いの?」
術師「私はもともとこんな顔ですわ」
メイド剣士「目つきが悪いんですね」
術師「それをあなたが言いますか?」
犬娘「……判定」
犬娘「メイド剣士ちゃんの方が目つき悪い!」
メイド剣士「そんな判定いりません」
術師「勝ちましたわ」
そんなくだらない話をしているうちに、三人は山上に辿り着いた
ーー勇者の国、オリファンーー
オリファンの国はかつて勇者や犬勇者が生まれた、祝福の地である
何度か戦場になったその地も、沢山の住民が住み着き、今やヤマナミに並ぶ大国となっている
犬娘は憧れの勇者の地と言うことで、勇者犬の墓や女剣士の像、魔法使いの研究室跡地などを巡って、はしゃいでいた
横を向いて走っていたため、見知らぬ男とぶつかってしまう
その男は一見魔導師のような鋭い顔つきをしていたが、
犬娘「じ、獣人!」
犬娘と同じ、犬の耳がぴこぴこしている
20 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:08:37.52 ID:aCpzcjHAO
犬戦士「いってえ〜!」
犬戦士「なんだ、お前も獣人じゃないか!」
犬戦士「やっほー、どうぞく、どうぞく!」
見た目と裏腹に頭が足りないようである
犬娘「ヤッホー!」
犬獣人は頭が弱いのだろうか
メイド剣士「もお、魔王様!」
そこにようやく追いついたメイド剣士が獣人に気付く
メイド剣士「な、何か?」
犬戦士「おう、可愛いー!」
メイド剣士「は? 犬は一匹で十分です」
犬娘「一匹とか、ひどいっ」
犬戦士「それにしてもそっちも魔王様か、俺も魔王様に仕えてるんだ!」
犬娘「え、コトー王様?」
犬戦士「バカ言え、そんな上等な魔王様に俺みたいなバカが仕えられるか!」
犬戦士「確かサイセイの南西沖に、カイオウ島って島があるんだが、そこのチュウザン国の魔王だ」
メイド剣士「確か、ってそこから来たんですよね?」
犬戦士「うん、飛んできたからわかんない」
メイド剣士「地理の問題ですよね? 移動手段関係ないですよね?」
犬戦士「なんで俺怒られてるの……?」
犬娘「わかんない……」
メイド剣士「犬獣人はアホばっかりか!」
21 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:11:39.63 ID:aCpzcjHAO
術師「そこまでですわ」
術師「置いていかないでくださる?」
空から不意に声がかかる
見上げるとパンツ丸出しで術師が浮かんでいた
メイド剣士「見えてますっ!」
術師「空を飛ぶのに見せパンはいてないと思って?」
くそ、バカの前でバカにされた
メイド剣士「とにかく目立つので降りて下さい」
術師「分かってますわ」
術師はふよふよと眠い目のまま降りてくる
本当に眠いのではなかろうか
犬娘「そうだ、私とチューザンの魔王様ライバルだねっ!」
犬戦士「おおっ、そうだな!」
犬戦士「よし、俺、おまえら、力試しする!」
犬戦士は興奮し、街中であることも気にせずに構えた
メイド剣士「街中で……しかも三対一ですよ? 脳筋が……!」
メイド剣士は何か脳筋に恨みでもあるのだろうか
しかし、戦いの雰囲気を察した周りの住民たちはたちまち舞台を用意
オリファンでは闘技祭りと言うお祭りがあるので、住民は皆こういった腕試しバトルが大好物なのだ
犬戦士「よっしゃー! 盛り上がりまくりっ!」
実に楽しそうな犬
犬戦士「俺の得物は斧だと思ったろ、ハンマーだ!」
どうでもいいし同じようなものである
22 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:16:35.57 ID:aCpzcjHAO
犬戦士「いっくぜーっ!」
思いがけず犬戦士とバトルすることになった
術師は飛び込んでくる犬戦士の直前に鉄の壁を展開
物理攻撃はそのまま犬戦士に跳ね返った
犬戦士「ぐほうっ」
メイド剣士「バカはやりやすいですね」
術師「私は苦手」
メイド剣士「わかる気がします、魔王様とか苦手ですよね」
犬娘「私も戦うよっ!」
立ち上がった犬戦士にすかさず連打を浴びせかける犬娘
術師「あの娘見掛けによらず強いわよね」
メイド剣士「魔王を目指すと言うのも頷けます」
犬戦士「くそっ、おめえらつええなっ!」
犬戦士は攻撃を受けながら無理矢理犬娘を捕まえると、舞台に叩きつける
犬娘「ぎゃふっ!」
術師「余所見は頂けませんわ」
術師は犬戦士を追うように鉄球を浴びせかける
犬戦士「食らうか!」
避ける犬戦士
そこに
メイド剣士「お待ちしておりました」
待機していたメイド剣士の剣閃
犬戦士「ぎゃはっ!?」
術師「初歩的なコンビネーションですわ」
メイド剣士「まずまずですね」
犬戦士「くそっ、ずりいぞおまえら、三人とか!」
いやいやいや
付近で見ている住人まで総突っ込みである
23 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:19:25.47 ID:aCpzcjHAO
術師「そんなこと最初に言いなさいな」
メイド剣士「開戦前に確かに、おまえ『ら』って言いました」
犬戦士「卑怯な〜!」
話を聞いているんだろうか
犬娘「じゃあこれからは私だけ戦うよ!」
おいおい
犬戦士「おお、お前戦士!」
ふざけんな
しかし話を聞かない犬たち
結局、犬戦士と犬娘との一騎打ちになった
しかし
術師「期待できますわ」
メイド剣士「そうなんですか?」
術師「パワーでは負けるでしょうが、スピードでは圧倒しています、私たちの魔王様は獣人の中でもトップクラスのスピードファイターですわ」
スピードで負けては生きていけぬ獣人の中でトップクラスと言うことは、つまり世界で最も速いクラスと言うことだ
日頃からバトルを観戦するのが大好きな住人たちの目ですら捉えられぬスピードで
犬娘が走る!
犬娘「わん!」
犬戦士の不意をつく犬娘の閃光魔法
直撃!
犬戦士「くそっ、魔法使えるのか!」
犬戦士は確実に閃光魔法の直撃を受けたのだが恐ろしいタフさでまるで堪えていない
しかし犬娘も怯まない
犬娘「がううっ!」
犬娘は犬戦士の首に躊躇せずに噛み付いた
犬戦士「がはっ!」
24 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:26:12.69 ID:aCpzcjHAO
犬戦士「負けるかあっ!」
犬戦士は噛みつかれながら犬娘の頭を掴み、地面に叩きつける
犬娘「ぎゃっ……」
脳を揺さぶられては獣は弱い
犬娘はその一撃でほとんどダウン寸前だ
犬戦士「く……」
しかし先の噛み付きを強引に振り解いたため、犬戦士は喉を裂いていた
犬戦士は追撃の構えを取ったまま、ゆっくりとその場で崩れ落ちた
審判「そこまで!」
メイド剣士「どっからでましたか!?」
術師「勝負はついたわね、回復しますわ!」
術師は袂から杖を取り出すと、二人に回復魔法をかけた
…………
犬戦士「があっはっはっは!!」
犬戦士「おまえつえーわ、流石に魔王だわ!」
犬戦士は馬鹿だがとても大らかなようだ
最初に犬娘がぶつかった時も気にも止めていなかった
犬娘「楽しかった〜!」
術師「なかなか良い勝負でしたわよ」
メイド剣士「術師さんって戦闘大好きなんですね」
術師「私の職業ご存じなくて?」
メイド剣士「仕事が趣味でしたか」
オリファンの国も大らかなもので、誰にも咎められることもなくファイトマネーまでもらって、三人は東町の港から華々しく送り出されたのだった