料理人と薬学士
Part16
206 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:15:19.00 ID:exuFE9LAO
小冠「まあだからね、ボクらはライオンの雄で良いんだと思うんだ」
南港「魔王はぶっ倒すけど後は餌を食うだけじゃな」
料理人「良くできた社会構造って自然の形態に近付くのかなあ?」
学者「急に料理人ちゃんが難しい話を……」
薬学士「色々考える事が多すぎるんだよね」
狩人「難しい話はいつもついていけません」
学者「脇で見てる一般人もわりと大事なポジションでやすぜ」
料理人「まあいいけどさ、私だって難しい話はするよ、たまには」
小冠「魔王になるにはたぶん障壁となってる技術が五段階くらいあるんだ」
小冠「まず大規模な魔晶石合成炉を作れない」
小冠「よって巨大魔晶石が出来ない」
小冠「生命活動を維持しつつ魔晶石を体内に結合、維持出来ない」
小冠「魔晶石そのものを安定させられない」
小冠「そして細かい魔王化手順が分からない」
薬学士「う〜ん……うわあ」
料理人「難しいの?」
薬学士「今の私には無理かなあ」
小冠「ボクも秋風ちゃんと一緒にやらないと無理かな」
小冠「それに秋風ちゃんも魔晶石炉を作れないと思うんだよねえ」
小冠「かなり危ない研究が必要かな」
薬学士「……そりゃ破門になるよ、私」
207 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:17:04.64 ID:exuFE9LAO
小冠「ママさんに色々教わってる人はボクみたいに何人かいるけど」
小冠「やっぱり一番は秋風ちゃんだよ」
料理人「なんとか秋風が死なないように守らないとね」
小冠「まあ守る方法は戦闘力振るうだけじゃないよね、みんななら守れるんじゃないかな?」
小冠「ところで走ったからお腹減っちゃった」
料理人「あ、じゃあ何か作ってこないとね」
執事「では準備致しましょう」
高塔王「うむ、昼もなかなかの料理だったから期待する」
料理人「いい材料を集めないと私の料理は普通だと思いますが……」
薬学士「料理人ちゃんももっと自信持って良いと思うよ」
料理人「ありがと」
学者「まあ拙者ずっと食べてましたが、うちの料理より家庭的で好きでやすよ」
執事「料理長殿も気に入られたようでしたな、では参りましょう」
小冠「楽しみだなあ〜」
208 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:19:35.34 ID:exuFE9LAO
…………
剣士「じゃあ今回は俺がメニュー考えるから、それに沿って何品か作ってもらおうか」
料理人「ああ、その方が気楽だ」
剣士「材料の指定や下準備から全部やってくれ、魔王様が食べたがってるらしいからな」
料理人「う……プレッシャーを……」
剣士「いい緊張感だろ」ニヤリ
料理人「これはあれか、仕返しだな?」
剣士「まあな」
…………
料理人「春野菜を使ったポタージュをパイ包み?」
料理人「肉料理はロティにしてムースを添える?」
料理人「魚はテリーヌに?」
剣士「普通だろ?」
料理人「あんまり作ったことない」
剣士「ええ〜、まさか〜」
料理人「作り方は知ってるからな? 酒場料理じゃないだけだからな?」
剣士「悪い悪い、ちゃんと指示するよ」
剣士「面倒なのはこっちで作るからな」
料理人「うわ〜、師匠にレストランに修行に出された時思い出す」
剣士「いい修行になるだろ?」
料理人「そうだね、それは間違いない」
209 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:24:47.94 ID:exuFE9LAO
…………
薬学士「どきどきするう」
学者「そんなに緊張しなくてようがすよ」
高塔王「昼に食べたような料理の方がいいな……」
南港「儂も」
狩人「料理人さんの料理って気楽にたくさん食べられるのがいいですよね」
小冠「ボクもそっち食べたかったな」
南港「ああ、小冠は絶対気に入るわ」
執事「……」
執事(料理長の評価が低くて笑えますな)ククッ
…………
料理人「……どうだった?」
剣士「いや、即興にしては上出来だよ」
剣士「まあ俺が食うなら昼の料理の方が良いかな」
料理人「でも傾向が違うもんな、基本は変わらないけど」
剣士「酒場料理だと見た目はあんまり楽しめないからな」
料理人「技術的な物の奥深さは身に染みた」
料理人「もう作らないと思うけど」
剣士「あんたはそれで良いんじゃないか?」
剣士「凝った作り方しても結局食材のチョイスと見た目、火加減、匙加減だろ?」
料理人「そうかもなあ、でもお陰でメニューの幅は広がった気がする」
執事「そこで料理人様に何か一品作っていただきたいそうです」
料理人「うわあっ!」
剣士「俺より上手く気配消すなよ……」
料理人「でも何作るの?」
210 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:27:01.49 ID:exuFE9LAO
執事「オーダーはエールに合う料理人様らしいシンプルな料理でございます」
料理人「唐揚げでも作ろうかな」
剣士「あ、食いたい」
料理人「じゃあそれで」
執事「フレンチからだいぶ遠ざかりましたなあ」
料理人「……ソースを別に作ってお好みで、とか」
剣士「いやいや、そんな面倒なことしなくて良いって」
剣士「今俺普通に食いたいって思ったし」
執事「まあオーダーが料理人様らしい料理ですからよろしいかと」
料理人「じゃあ作るよ」
剣士「鶏肉と、うさぎ肉もあるぞ」
料理人「シンプルに鶏肉で」
剣士「お前らしいなあ」
料理人「スパイスと香草、ガーリック……この分量は私のオリジナルで」
剣士「うん、美味そうだ」
執事「ではお待ちしていますぞ」
…………
料理人「さて、私もやっと食べられるよ」
薬学士「やっぱりみんなで食べるのが美味しいよね!」
南港「料理の味は調味料だけじゃ決まらんのじゃのう」
料理人「そういうこともあるよね」
高塔王「唐揚げ熱々で美味い」
小冠「ボクこれ好きーっ!」
211 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:29:15.90 ID:exuFE9LAO
南港「直にレモンをかけるな、戦争になるぞ!」
学者「あちきはレモンかける派でござる!」
料理人「はい、小皿」
薬学士「どっちも美味しいよ!」
執事「料理長殿、どうですかな?」
剣士「いやあ、俺も学ぶ物があったな」
剣士「次はシンプルでパワーのある味付けの勉強をしたいな」
料理人「私はお手軽フレンチを作ってみようかな」
執事「その向上心が素晴らしいですな」
小冠「明日はみんなを戦場に立たせる事になる……リラックスできたよ」
南港「うむ、まあみんなは儂が守るがの!」
小冠「南港ちゃんたちは前の大戦で前線に出してもらえなかった」
小冠「ボクらが彼女たちを死なせたくなかったから」
小冠「でも違うんだな、結局東磯くんや南港ちゃんたちはボクらが心配するほど弱くなかった」
南港「そうなのじゃ、ウザいだけなのじゃ」
小冠「大丈夫、ウザくないよ!」ギュッ
南港「でもたぶんまた泣くのじゃ」
小冠「泣いて良いんだよ」
212 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:30:50.83 ID:exuFE9LAO
小冠「ボクらは臆病だったし、きっと今も臆病なんだ」
小冠「だからこそ、一緒に居て欲しいな」
料理人「……そうだよね」
料理人「絶対秋風も西浜ちゃんも一緒に居たいんだよね」
小冠「そうだよ、きっと間違いない」
料理人「魔王だから、長生きだから、だから冷血なのかな、と思っていたんだと思う」
料理人「でも違う」
料理人「みんな心は魔王になった頃から変わってないんだね」
小冠「うん、ボクもそう思う」
薬学士「寂しがりなお師匠さまを、早く慰めてあげなきゃ」
料理人「うん」
213 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:33:20.43 ID:exuFE9LAO
料理人「行こう、大切な家族の居る場所に」
…………
戦場は依然硬直している
双方疲弊し、打開策も欠いている
実際には圧倒的に押し込んでいる高塔、聖都北の連合軍が北終に降伏勧告をしても良い頃合いだろう
しかし、困難な事がある
魔王狩りの目的が、魔王が死ぬこと、だと言うことだ
つまり魔王たちが降伏勧告に行けば自爆も有り得るのだ
ここに来て魔王が集まっていることのデメリットが露わになって来ていた
小冠の魔王の推測が当たっていれば、それだけでもう、破壊神より厄介な怪物を呼び覚ますことになってしまうのだ
全滅を望む魔王狩り
しかし、連合軍の魔王たちは
誰一人、死にたいとは思っていなかった
…………
秋風「高塔の魔王はどうしてる?」
大剣「なんか帰ったらしいぞ」
鉄斧「あの魔王なら高塔などあっと言う間だろ」
秋風「本気出したらな」
東磯「小冠、走るの大好き、きっと遊んでる」
西浜「……」コクン
秋風「だよなあ」
214 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:36:01.22 ID:exuFE9LAO
秋風「敵陣に一瞬で踏み込めて、更に魔王狩りを押さえ込めそうなのはあいつくらいだろ」
大剣「まあ充分な防御手段が無いと自爆されたら不味いが」
秋風「たぶん一人や二人巻き込む程度のしょぼい自爆はしないと思うんだ、奴の目的はあくまで皆殺しだと思う」
鉄斧「奴が女神様を呼び出そうとしているという前提じゃな?」
秋風「他に理由を考えにくいけど」
大剣「もし単体で殺せる理由があるなら?」
秋風「自爆してまで? それならもう特攻して来てるよ」
大剣「それもそうか」
秋風「向こうはこちらを全滅させたい、なら集まってるのは危ない状況ではある」
大剣「力が集まってる分ディフェンスも容易なんだがなあ」
秋風「幸い向こうの攻撃も止まってる、早めに使者を出したくはある」
鉄斧「しかしの、交渉に出向いたら各個撃破、とか洒落にならんぞ?」
秋風「しばらくは静観していよう」
秋風「高塔の小冠が帰還したら対策会議のためにここに呼びつけよう」
大剣「じゃあ高塔の兵にその旨を伝えておくぜ」
秋風「ああ」
大剣「ん? なんか下、大分敵の兵が出てきてるな」
秋風「魔王同士が動かないから人間の戦いになってきたようだな」
215 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:38:49.01 ID:exuFE9LAO
…………
小冠「じゃあ行っくよ〜!」
料理人「ううっ」
薬学士「やだなあ……」
学者「うひゃい〜」
狩人「三回目かあ」
南港「ゆっくりじゃぞ?! ゆっくりじゃぞ?!」
料理人達が怯えているのは当然小冠の帰還魔法である
小冠「えいっ」
料理人「う」
薬学士「わ」
南港「あ」
学者「ひゃ」
狩人「はやっ」
幾つもの小さな、奇妙な声が轟音に溶け込んで、消えていく
高塔王「行ったか……」
執事「私たちも馬車で向かいましょう」
高塔王「この年であのスピード狂の魔王様の帰還魔法とか命に関わるからな」
執事「全くです」
…………
どんっ、と地を揺らすような音が響く
高塔から東森を経て大楠まで、歩けば四日は間違いなくかかる距離だ
その距離を文字通り瞬く間に移動したのだ
料理人「……」
薬学士「……生きてる?」
学者「天国と地獄が交差して見えやす……」
狩人「ぐ……ちょっときつかった」
南港「絶対ちょっとじゃない……のじゃ」
小冠「気持ちよかったね〜!」
南港「死ぬぞ」
料理人「魔王なのに?!」
216 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:42:06.74 ID:exuFE9LAO
大楠西の砦に着くとすぐに兵士たちが駆け寄る
あまり依存されては困るのだが、何か可愛いと感じてしまう小冠
高塔兵「お帰りなさいませ、魔王様!」
小冠「ただいま〜!」
南港「お邪魔するのじゃ!」
料理人「さて……」
料理人「秋風はどこかな?」
小冠「中央区北砦で頑張ってるよ〜」
小冠「ここからはもう戦場だから、気をつけるんだよ?」
料理人「分かった」
狩人「援護しますね」
小冠「とりあえずみんな脚力強化しま〜す」
小冠「はぐれちゃ駄目だよ?」
南港「一番小冠がはぐれそうなのじゃ」
学者「はぐれ魔王ですにゃん」
薬学士「頑張ってついて行くよっ」
小冠「コース確認ね、敵と交戦する可能性があるのは三カ所くらい」
小冠「秋風ちゃんたちも町を破壊しないように戦ってるから人間に取り囲まれると戦い辛いみたいだね」
小冠「そこでうちの王子様」
学者「あ、あにうえ〜」
学者に兄と呼ばれ、細身だががっしりした印象の騎士が出てきた
王子「おう、妹! どうも、三十路だけど王子です」
料理人「そう言えば学者さんって何人兄弟?」
学者「拙者より下も入れて六人でやす」
南港「子沢山じゃなあ」
217 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:45:35.03 ID:exuFE9LAO
小冠「王子とかこの前ハイハイしてたのに……」
薬学士「魔王だとみんなの赤ちゃん時代知ってるんだねえ」
王子「うちの爺さんより遥かに年上だし仕方ないね」
小冠「本題に戻るよ?」
小冠「まず彼らに中央区北砦まで幾つかのブロックを制圧させるから」
小冠「キミ達は自分で出来るサポートを」
小冠「一般市民なんだから無理はしないでね?」
南港「基本的には儂が戦うのじゃ」
小冠「南港にも無理させたくないよ〜」ギュッ
南港「おっぱいが気持ちいいのじゃ」
小冠「セクハラロリだあっ」
王子「魔王様も彼らと共に行って下さい、指揮はオレがやります」
小冠「任せるよ〜」
…………
砦を出ると、そこは懐かしき料理人が故郷、大楠の町中央区である
大楠の魔王の破壊神によるであろう大規模な破壊の爪痕
北終の侵攻もあり、活気のあった街は、ほとんど人の気配を感じない
しかし幾らか残っている建造物が、そこが料理人の故郷だと教えている
料理人「ここまで壊滅してるなんて……」グスッ
南港「魔王が死んだらこうなる……大楠のも無念であったろうの……」
料理人「うん……」
小冠「まあだからね、ボクらはライオンの雄で良いんだと思うんだ」
南港「魔王はぶっ倒すけど後は餌を食うだけじゃな」
料理人「良くできた社会構造って自然の形態に近付くのかなあ?」
学者「急に料理人ちゃんが難しい話を……」
薬学士「色々考える事が多すぎるんだよね」
狩人「難しい話はいつもついていけません」
学者「脇で見てる一般人もわりと大事なポジションでやすぜ」
料理人「まあいいけどさ、私だって難しい話はするよ、たまには」
小冠「魔王になるにはたぶん障壁となってる技術が五段階くらいあるんだ」
小冠「まず大規模な魔晶石合成炉を作れない」
小冠「よって巨大魔晶石が出来ない」
小冠「生命活動を維持しつつ魔晶石を体内に結合、維持出来ない」
小冠「魔晶石そのものを安定させられない」
小冠「そして細かい魔王化手順が分からない」
薬学士「う〜ん……うわあ」
料理人「難しいの?」
薬学士「今の私には無理かなあ」
小冠「ボクも秋風ちゃんと一緒にやらないと無理かな」
小冠「それに秋風ちゃんも魔晶石炉を作れないと思うんだよねえ」
小冠「かなり危ない研究が必要かな」
薬学士「……そりゃ破門になるよ、私」
207 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:17:04.64 ID:exuFE9LAO
小冠「ママさんに色々教わってる人はボクみたいに何人かいるけど」
小冠「やっぱり一番は秋風ちゃんだよ」
料理人「なんとか秋風が死なないように守らないとね」
小冠「まあ守る方法は戦闘力振るうだけじゃないよね、みんななら守れるんじゃないかな?」
小冠「ところで走ったからお腹減っちゃった」
料理人「あ、じゃあ何か作ってこないとね」
執事「では準備致しましょう」
高塔王「うむ、昼もなかなかの料理だったから期待する」
料理人「いい材料を集めないと私の料理は普通だと思いますが……」
薬学士「料理人ちゃんももっと自信持って良いと思うよ」
料理人「ありがと」
学者「まあ拙者ずっと食べてましたが、うちの料理より家庭的で好きでやすよ」
執事「料理長殿も気に入られたようでしたな、では参りましょう」
小冠「楽しみだなあ〜」
208 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:19:35.34 ID:exuFE9LAO
…………
剣士「じゃあ今回は俺がメニュー考えるから、それに沿って何品か作ってもらおうか」
料理人「ああ、その方が気楽だ」
剣士「材料の指定や下準備から全部やってくれ、魔王様が食べたがってるらしいからな」
料理人「う……プレッシャーを……」
剣士「いい緊張感だろ」ニヤリ
料理人「これはあれか、仕返しだな?」
剣士「まあな」
…………
料理人「春野菜を使ったポタージュをパイ包み?」
料理人「肉料理はロティにしてムースを添える?」
料理人「魚はテリーヌに?」
剣士「普通だろ?」
料理人「あんまり作ったことない」
剣士「ええ〜、まさか〜」
料理人「作り方は知ってるからな? 酒場料理じゃないだけだからな?」
剣士「悪い悪い、ちゃんと指示するよ」
剣士「面倒なのはこっちで作るからな」
料理人「うわ〜、師匠にレストランに修行に出された時思い出す」
剣士「いい修行になるだろ?」
料理人「そうだね、それは間違いない」
209 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:24:47.94 ID:exuFE9LAO
…………
薬学士「どきどきするう」
学者「そんなに緊張しなくてようがすよ」
高塔王「昼に食べたような料理の方がいいな……」
南港「儂も」
狩人「料理人さんの料理って気楽にたくさん食べられるのがいいですよね」
小冠「ボクもそっち食べたかったな」
南港「ああ、小冠は絶対気に入るわ」
執事「……」
執事(料理長の評価が低くて笑えますな)ククッ
…………
料理人「……どうだった?」
剣士「いや、即興にしては上出来だよ」
剣士「まあ俺が食うなら昼の料理の方が良いかな」
料理人「でも傾向が違うもんな、基本は変わらないけど」
剣士「酒場料理だと見た目はあんまり楽しめないからな」
料理人「技術的な物の奥深さは身に染みた」
料理人「もう作らないと思うけど」
剣士「あんたはそれで良いんじゃないか?」
剣士「凝った作り方しても結局食材のチョイスと見た目、火加減、匙加減だろ?」
料理人「そうかもなあ、でもお陰でメニューの幅は広がった気がする」
執事「そこで料理人様に何か一品作っていただきたいそうです」
料理人「うわあっ!」
剣士「俺より上手く気配消すなよ……」
料理人「でも何作るの?」
210 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:27:01.49 ID:exuFE9LAO
執事「オーダーはエールに合う料理人様らしいシンプルな料理でございます」
料理人「唐揚げでも作ろうかな」
剣士「あ、食いたい」
料理人「じゃあそれで」
執事「フレンチからだいぶ遠ざかりましたなあ」
料理人「……ソースを別に作ってお好みで、とか」
剣士「いやいや、そんな面倒なことしなくて良いって」
剣士「今俺普通に食いたいって思ったし」
執事「まあオーダーが料理人様らしい料理ですからよろしいかと」
料理人「じゃあ作るよ」
剣士「鶏肉と、うさぎ肉もあるぞ」
料理人「シンプルに鶏肉で」
剣士「お前らしいなあ」
料理人「スパイスと香草、ガーリック……この分量は私のオリジナルで」
剣士「うん、美味そうだ」
執事「ではお待ちしていますぞ」
…………
料理人「さて、私もやっと食べられるよ」
薬学士「やっぱりみんなで食べるのが美味しいよね!」
南港「料理の味は調味料だけじゃ決まらんのじゃのう」
料理人「そういうこともあるよね」
高塔王「唐揚げ熱々で美味い」
小冠「ボクこれ好きーっ!」
南港「直にレモンをかけるな、戦争になるぞ!」
学者「あちきはレモンかける派でござる!」
料理人「はい、小皿」
薬学士「どっちも美味しいよ!」
執事「料理長殿、どうですかな?」
剣士「いやあ、俺も学ぶ物があったな」
剣士「次はシンプルでパワーのある味付けの勉強をしたいな」
料理人「私はお手軽フレンチを作ってみようかな」
執事「その向上心が素晴らしいですな」
小冠「明日はみんなを戦場に立たせる事になる……リラックスできたよ」
南港「うむ、まあみんなは儂が守るがの!」
小冠「南港ちゃんたちは前の大戦で前線に出してもらえなかった」
小冠「ボクらが彼女たちを死なせたくなかったから」
小冠「でも違うんだな、結局東磯くんや南港ちゃんたちはボクらが心配するほど弱くなかった」
南港「そうなのじゃ、ウザいだけなのじゃ」
小冠「大丈夫、ウザくないよ!」ギュッ
南港「でもたぶんまた泣くのじゃ」
小冠「泣いて良いんだよ」
212 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:30:50.83 ID:exuFE9LAO
小冠「ボクらは臆病だったし、きっと今も臆病なんだ」
小冠「だからこそ、一緒に居て欲しいな」
料理人「……そうだよね」
料理人「絶対秋風も西浜ちゃんも一緒に居たいんだよね」
小冠「そうだよ、きっと間違いない」
料理人「魔王だから、長生きだから、だから冷血なのかな、と思っていたんだと思う」
料理人「でも違う」
料理人「みんな心は魔王になった頃から変わってないんだね」
小冠「うん、ボクもそう思う」
薬学士「寂しがりなお師匠さまを、早く慰めてあげなきゃ」
料理人「うん」
213 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:33:20.43 ID:exuFE9LAO
料理人「行こう、大切な家族の居る場所に」
…………
戦場は依然硬直している
双方疲弊し、打開策も欠いている
実際には圧倒的に押し込んでいる高塔、聖都北の連合軍が北終に降伏勧告をしても良い頃合いだろう
しかし、困難な事がある
魔王狩りの目的が、魔王が死ぬこと、だと言うことだ
つまり魔王たちが降伏勧告に行けば自爆も有り得るのだ
ここに来て魔王が集まっていることのデメリットが露わになって来ていた
小冠の魔王の推測が当たっていれば、それだけでもう、破壊神より厄介な怪物を呼び覚ますことになってしまうのだ
全滅を望む魔王狩り
しかし、連合軍の魔王たちは
誰一人、死にたいとは思っていなかった
…………
秋風「高塔の魔王はどうしてる?」
大剣「なんか帰ったらしいぞ」
鉄斧「あの魔王なら高塔などあっと言う間だろ」
秋風「本気出したらな」
東磯「小冠、走るの大好き、きっと遊んでる」
西浜「……」コクン
秋風「だよなあ」
214 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:36:01.22 ID:exuFE9LAO
秋風「敵陣に一瞬で踏み込めて、更に魔王狩りを押さえ込めそうなのはあいつくらいだろ」
大剣「まあ充分な防御手段が無いと自爆されたら不味いが」
秋風「たぶん一人や二人巻き込む程度のしょぼい自爆はしないと思うんだ、奴の目的はあくまで皆殺しだと思う」
鉄斧「奴が女神様を呼び出そうとしているという前提じゃな?」
秋風「他に理由を考えにくいけど」
大剣「もし単体で殺せる理由があるなら?」
秋風「自爆してまで? それならもう特攻して来てるよ」
大剣「それもそうか」
秋風「向こうはこちらを全滅させたい、なら集まってるのは危ない状況ではある」
大剣「力が集まってる分ディフェンスも容易なんだがなあ」
秋風「幸い向こうの攻撃も止まってる、早めに使者を出したくはある」
鉄斧「しかしの、交渉に出向いたら各個撃破、とか洒落にならんぞ?」
秋風「しばらくは静観していよう」
秋風「高塔の小冠が帰還したら対策会議のためにここに呼びつけよう」
大剣「じゃあ高塔の兵にその旨を伝えておくぜ」
秋風「ああ」
大剣「ん? なんか下、大分敵の兵が出てきてるな」
秋風「魔王同士が動かないから人間の戦いになってきたようだな」
215 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:38:49.01 ID:exuFE9LAO
…………
小冠「じゃあ行っくよ〜!」
料理人「ううっ」
薬学士「やだなあ……」
学者「うひゃい〜」
狩人「三回目かあ」
南港「ゆっくりじゃぞ?! ゆっくりじゃぞ?!」
料理人達が怯えているのは当然小冠の帰還魔法である
小冠「えいっ」
料理人「う」
薬学士「わ」
南港「あ」
学者「ひゃ」
狩人「はやっ」
幾つもの小さな、奇妙な声が轟音に溶け込んで、消えていく
高塔王「行ったか……」
執事「私たちも馬車で向かいましょう」
高塔王「この年であのスピード狂の魔王様の帰還魔法とか命に関わるからな」
執事「全くです」
…………
どんっ、と地を揺らすような音が響く
高塔から東森を経て大楠まで、歩けば四日は間違いなくかかる距離だ
その距離を文字通り瞬く間に移動したのだ
料理人「……」
薬学士「……生きてる?」
学者「天国と地獄が交差して見えやす……」
狩人「ぐ……ちょっときつかった」
南港「絶対ちょっとじゃない……のじゃ」
小冠「気持ちよかったね〜!」
南港「死ぬぞ」
料理人「魔王なのに?!」
216 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:42:06.74 ID:exuFE9LAO
大楠西の砦に着くとすぐに兵士たちが駆け寄る
あまり依存されては困るのだが、何か可愛いと感じてしまう小冠
高塔兵「お帰りなさいませ、魔王様!」
小冠「ただいま〜!」
南港「お邪魔するのじゃ!」
料理人「さて……」
料理人「秋風はどこかな?」
小冠「中央区北砦で頑張ってるよ〜」
小冠「ここからはもう戦場だから、気をつけるんだよ?」
料理人「分かった」
狩人「援護しますね」
小冠「とりあえずみんな脚力強化しま〜す」
小冠「はぐれちゃ駄目だよ?」
南港「一番小冠がはぐれそうなのじゃ」
学者「はぐれ魔王ですにゃん」
薬学士「頑張ってついて行くよっ」
小冠「コース確認ね、敵と交戦する可能性があるのは三カ所くらい」
小冠「秋風ちゃんたちも町を破壊しないように戦ってるから人間に取り囲まれると戦い辛いみたいだね」
小冠「そこでうちの王子様」
学者「あ、あにうえ〜」
学者に兄と呼ばれ、細身だががっしりした印象の騎士が出てきた
王子「おう、妹! どうも、三十路だけど王子です」
料理人「そう言えば学者さんって何人兄弟?」
学者「拙者より下も入れて六人でやす」
南港「子沢山じゃなあ」
217 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:45:35.03 ID:exuFE9LAO
小冠「王子とかこの前ハイハイしてたのに……」
薬学士「魔王だとみんなの赤ちゃん時代知ってるんだねえ」
王子「うちの爺さんより遥かに年上だし仕方ないね」
小冠「本題に戻るよ?」
小冠「まず彼らに中央区北砦まで幾つかのブロックを制圧させるから」
小冠「キミ達は自分で出来るサポートを」
小冠「一般市民なんだから無理はしないでね?」
南港「基本的には儂が戦うのじゃ」
小冠「南港にも無理させたくないよ〜」ギュッ
南港「おっぱいが気持ちいいのじゃ」
小冠「セクハラロリだあっ」
王子「魔王様も彼らと共に行って下さい、指揮はオレがやります」
小冠「任せるよ〜」
…………
砦を出ると、そこは懐かしき料理人が故郷、大楠の町中央区である
大楠の魔王の破壊神によるであろう大規模な破壊の爪痕
北終の侵攻もあり、活気のあった街は、ほとんど人の気配を感じない
しかし幾らか残っている建造物が、そこが料理人の故郷だと教えている
料理人「ここまで壊滅してるなんて……」グスッ
南港「魔王が死んだらこうなる……大楠のも無念であったろうの……」
料理人「うん……」