料理人と薬学士
Part17
218 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:49:37.98 ID:exuFE9LAO
小冠「元気を出して」ギュッ
料理人「……ありがとう」
料理人「街が無くなったのは知ってたんだ……ただ実際に見ちゃうと思ったよりショックで……」
薬学士「料理人ちゃん……」ギュッ
学者「モテモテでやすな」
料理人「私が女じゃなければね」
狩人「いいなあ」
学者「野獣でござるか?」
南港「おっぱいが好きな普通の健康な男子じゃな」
料理人「おっぱいおっぱい言うな!」
小冠「いくよっ」
南港「おっぱ……おっけいじゃ!」
料理人「なんか吹っ切れた、行こう」
狩人「敵の足止めをしますね」
そう言うと狩人は薬学士が作った魔法の弓に矢をつがえる
森の中、木の枝を縫い飛ぶ鳥に矢を当てる狩人にとって、戦場は広すぎる程だ
野ウサギを狙うように敵陣の手前に魔法の矢を撃ち込む
元々それ程魔力の強くない狩人だが、強化魔晶石は抜群の威力を発揮する
地面を抉り、敵の進軍の妨害に成功
南港「殿は任せるのじゃ!」
南港「わざわざ実家から取り寄せた杖で魔法効果範囲は半径二十メートルになるのじゃ!」
学者「拙者も実力を見せて構いやせんか?」
南港「お?」
学者は袂から小さいが魔晶石の連なった杖を取り出す
219 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:53:15.87 ID:exuFE9LAO
南港「魔法が使えるのか!」
学者「拙者一応王族なんで……杖とか指輪が無いと使えやせんがにゃー」
正面から来る敵は狩人の矢と小冠が蹴散らす
脇や後ろから来る敵は南港と学者が対応する
やがて高塔軍の部隊によるエリア制圧が始まり、料理人たちは一旦広い場所で立ち止まる
……そこに傭兵たちによる奇襲
薬学士「いっぱいいっぱいいっぱい溜め込んだ……魔弾、きいろ!」
料理人「目を閉じろ!」
料理人は小冠の目を押さえる
激しい轟音と閃光ーー
薬学士「あ、目を閉じないと危ないよ!」
学者「慣れやした(そのボケに)」
狩人「大丈夫!」
南港「ぐおお……」
料理人「だ、大丈夫か?」
傭兵「ぐっ……くそっ」
立ち上がった傭兵達は暗闇に怯え、やたらに剣を振り回す
料理人「!」
どくん、と心臓が脈打つ
自分が敵を抑えねば……
料理人「下がれ!」
料理人は叫ぶと、傭兵達と自分達の間の地面を最大魔力で薙払う
220 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:55:31.55 ID:exuFE9LAO
料理人が包丁を振ると地面は底の見えない谷に変わる
徐々に視界が回復してきた敵兵達はその深さに竦み上がった
南港「寝とくのじゃ!」
南港の広範囲重力操作により敵兵は悉く土を舐める
そこに高塔兵達が到着し、敵を縛り上げた
小冠「一個目、エリア制圧ぅ!」
南港「楽勝じゃ!」
学者「魔王二人いりゃそりゃ楽勝でやすな!」
料理人「よっし!」
薬学士「料理人ちゃんナイス!」ダキッ
学者「後で修繕が必要でやすな……」
狩人「でも助かりました」
学者「うみゅ、気にせずガンガン行きやしょう!」
第二区画に入ると、敵兵も多くなってくる
中央区北砦の魔王達はすっかり取り囲まれているようだ
時間が経ち、魔王達が追い詰められれば街ごと薙払っていただろうが、無闇に殺戮が出来る魔王達ではない
小冠が走り込むだけなら問題はないが、救援を送るためにも区画を制圧していかねばなるまい
料理人は予め用意した食料が傷まないか気にしながら、走る
221 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:57:26.67 ID:exuFE9LAO
料理人「行くぞ!」
料理人が地面を膾に刻むと敵兵の侵攻は止まる
狩人「どこを撃ちますか!」
小冠「待って!」
小冠の魔王の鷹の目は、広範囲の莫大な情報を集めるため、分析に少し時間がかかる
小冠「あっちの塔三つ撃ち抜いて、その手前三軒目くらいの交差点潰して!」
狩人「分かりました!」
狩人は弓に目一杯の魔力を蓄える
矢をつがえる
動かない的は、簡単に狩人の牙に捕らえられる
小冠「塔を崩せるのを見せれば塔に登ろうとは思わなくなるよね!」
南港「小冠も狩人も頼もしいのじゃ!」
料理人「この先に開けた場所がある、中継地にしよう」
あまり入ったことの無い地域ではあるが、料理人は徐々に地理を思い出してきていた
薬学士「ここが料理人ちゃんの街……」
学者「それにしても中央区だけでこの広さ……大楠は大国でやすな!」
料理人「高塔よりは少し小さいけどね」
学者「……高塔がこうなったと思ったら……悲しいでやすな」
料理人「もう死ぬほど泣いた」
222 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:59:46.69 ID:exuFE9LAO
料理人「今は前に行くんだ……」
…………
まもなく第二区を制圧
朝から何も食べていないので少し簡単な食事を取る事にした
料理人「煙を上げるのは不味いよね?」
料理人「サラダと生ハムとチーズをパンに挟もう」
薬学士「美味しそう!」
南港「簡単だのう」
学者「戦場で食う分には上等でやすな」
小冠「うん、ソースが美味しい!」
狩人「あと一カ所ですね」
小冠「制圧は兵に任せてボクらは砦に飛び込むからね」
小冠「ボクが少しずつ運ぶから」
小冠「誰から行く?」
料理人「まず薬学士」
料理人「次は南港」
学者「その次は料理人ちゃんでやす」
学者「拙者と狩人君は制圧戦に協力して制圧後に乗り込みやす!」
料理人「大丈夫なの?」
学者「私は高塔の王女としてこの戦いを率いる使命があります」
学者「気にせず行って下しゃっ……噛んだ」
料理人「ははっ、無理はしないでね!」
小冠「大人になったねお嬢ちゃん、了解!」
小冠「あとはボクに任せて!」
223 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:02:18.26 ID:exuFE9LAO
…………
小冠の魔王は弾丸のように塔の最上階に飛び込む
それは正に猛禽の襲撃のようである
薬学士「うわっ、はわわっ……」
急激に脳をシェイクされて、薬学士はへろへろと座り込む
その時、優しい、懐かしい、聞き慣れた、秋の風のような声が聞こえた
秋風「弟子……大丈夫か?」
薬学士「あ……」
薬学士「お……師匠……さま……」
薬学士はふらふらと立ち上がる
愛しい
大切な
大切な
薬学士「お師匠さまあ……」ポロポロ
秋風の胸に飛び込み、薬学士は泣いた
秋風「バカあ……なんで来ちゃうんだよお……」ポロポロ
秋風も、その柔らかな薬学士の髪を抱きしめて、泣いた
……再び鷹が飛び込んできた
南港「ぐはあっ……」
南港もやはり脳をシェイクされて座り込む
秋風「おい、あんまり乱暴にするなよ、小冠の!」
小冠「ごめん、ブレーキ効かしたら余計危ないからさ」
小冠「あと一人っ」
小冠はそう言うと再び塔を飛び降りる
南港「バカ脚力じゃのう……」
秋風「バカはお前だ!」
秋風は南港のほっぺたをつねり上げる
南港「ひひゃいひひゃいひひゃい!」
秋風「お前が皆を唆したのか?」
224 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:04:06.12 ID:exuFE9LAO
南港「ひょんははへ」
秋風「あ、すまん」
つねり上げた頬がマシュマロの柔らかさだったのでついつい手を離すのを忘れていた
南港「そんな訳無かろう」ヒリヒリ
南港「寂しがりの秋風が泣いてるから自分達から駆けつけたんじゃ!」
秋風「な……泣いてないっ」グスッ
南港「思いっきり泣いとるわっ!」
南港「何故戦場に来た、何故儂を置いていった!」
秋風「だって」
南港「だってではーー」
バンッと壁を蹴る音
鷹が三人目を連れてきた
小冠「これでひとまず終了、秋風ちゃん、しっかり叱られなさい!」
秋風「し、小冠の!」
小冠「あははっ、あとでボクも叱るからね!」
小冠は太陽の笑顔を見せて、三度塔を飛び降りた
料理人「ふああ……」
料理人も案の定目を回している
秋風「バカ娘!」
料理人「ふあ、誰がばかやねん……」パタン
倒れた
秋風「料理人ーっ!」
薬学士「大丈夫ーっ?!」
南港「小冠は仕事が荒いのじゃ」
225 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:06:21.79 ID:exuFE9LAO
…………
南港「んで、被告人は何か反論があるか?」
秋風「いや……だってだな」
料理人「聞かせて」
秋風「色々考えた結果だ」
薬学士「さっぱりです、それじゃ零点ですお師匠さま」
料理人「寂しいだろ、何も言わずに居なくなって!」
秋風「それは……戦争に可愛い娘達を巻き込む訳にはいかんだろ」
秋風「薬学士は止めても聞かんし、お前は戦う気満々だったし」
薬学士「その気遣いが寂しいんですっ!」
料理人「ん」
薬学士が怒っている
ぷるんぷるんしている
秋風もそれを見て一層叱られた子供の顔をする
可愛いな
南港「儂も何度も何度もアホの子のように扱われて黙って居れんのじゃ!」
南港「儂は戦える!」
南港「大戦後も鬼のように新魔法のトレーニングしたのじゃ!」
南港「なんか言うことあるじゃろ!」
秋風「う……」
すっかり秋風がしおらしい
大剣「はっはっ、秋風が負けてら」
大剣は面白い玩具を見つけた顔
東磯「貴重……覚えておく」
東磯はニヤニヤしている
鉄斧「なんとかと泣く子には勝てんわ」
がっはっは、と笑う
西浜「……」フフ
西浜はいつもより明るめに笑った
226 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:08:37.57 ID:exuFE9LAO
秋風「覗きとは良い趣味だな……」
ブルブルと怒りに震える
薬学士「お師匠さま!」
また叱られた
秋風「ごめんなさい」
叱られると秋風は素直だ
きっと彼女の師匠との関係が、そう言う所に残っているのだろう
料理人はすっかり許す気になっていた
彼女も大人に成りきれていないままに魔王となったのかも知れない
料理人「なんで怒ってたのか忘れた」
薬学士「私も」
南港「言いたいこと言ったからすっきりしたのじゃ!」
秋風「あのな、やっぱり危ないからさ、帰らないか?」
南港「お主も一緒なら帰るわい」
秋風「だって戦力は必要だし」
南港「儂は戦力じゃ!」
秋風「でもな……そうだ」
秋風「小冠に使者をしてもらうつもりだったんだよ」
秋風「……もう、この戦争は終わる」
227 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:12:17.89 ID:exuFE9LAO
…………
大剣の魔王は先陣を切り、北を目指す
十分に敵を引きつけると、豪剣一本でそれを薙払う
ひたすらに強化された膂力による剣撃
細やかな魔法ではない、純粋な破壊力こそ大剣の魔王の力だ
西浜「……」
西浜がくるっとこちらを見る
南港「……! 全員耳を塞げ!」
南港の合図で全員が耳を塞ぐ
西浜「……」スウッ
西浜「……わっ!」ドンッ
西浜の魔王が喋らない理由、それがこの声、魔法の指向性爆撃ボイス
西浜の魔王は自らの声で数キロ先の鳥をも叩き落とす
戦場で使いすぎて味方に不評を買った反動で西浜は喋るのが怖くなったのだった
料理人「うるさああああ」
薬学士「ひゃああああ」
南港「ぐおお……」
小冠「あはは……相変わらず声デッカいね」
西浜「……」ポッ
西浜はもじもじしている
可愛いけど怖い
大剣の魔王が倒れているが、至近距離で食らって生きているのだから
魔王も不便なものだ
しかしその一撃で、一息に北砦までの道が開いた
南港「レアな西浜の声が聞けてよかったのう」
料理人「えっ、なに?」
薬学士「聞こえないよ〜」
小冠「ボク耳は普通で良かった〜」
小冠「元気を出して」ギュッ
料理人「……ありがとう」
料理人「街が無くなったのは知ってたんだ……ただ実際に見ちゃうと思ったよりショックで……」
薬学士「料理人ちゃん……」ギュッ
学者「モテモテでやすな」
料理人「私が女じゃなければね」
狩人「いいなあ」
学者「野獣でござるか?」
南港「おっぱいが好きな普通の健康な男子じゃな」
料理人「おっぱいおっぱい言うな!」
小冠「いくよっ」
南港「おっぱ……おっけいじゃ!」
料理人「なんか吹っ切れた、行こう」
狩人「敵の足止めをしますね」
そう言うと狩人は薬学士が作った魔法の弓に矢をつがえる
森の中、木の枝を縫い飛ぶ鳥に矢を当てる狩人にとって、戦場は広すぎる程だ
野ウサギを狙うように敵陣の手前に魔法の矢を撃ち込む
元々それ程魔力の強くない狩人だが、強化魔晶石は抜群の威力を発揮する
地面を抉り、敵の進軍の妨害に成功
南港「殿は任せるのじゃ!」
南港「わざわざ実家から取り寄せた杖で魔法効果範囲は半径二十メートルになるのじゃ!」
学者「拙者も実力を見せて構いやせんか?」
南港「お?」
学者は袂から小さいが魔晶石の連なった杖を取り出す
219 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:53:15.87 ID:exuFE9LAO
南港「魔法が使えるのか!」
学者「拙者一応王族なんで……杖とか指輪が無いと使えやせんがにゃー」
正面から来る敵は狩人の矢と小冠が蹴散らす
脇や後ろから来る敵は南港と学者が対応する
やがて高塔軍の部隊によるエリア制圧が始まり、料理人たちは一旦広い場所で立ち止まる
……そこに傭兵たちによる奇襲
薬学士「いっぱいいっぱいいっぱい溜め込んだ……魔弾、きいろ!」
料理人「目を閉じろ!」
料理人は小冠の目を押さえる
激しい轟音と閃光ーー
薬学士「あ、目を閉じないと危ないよ!」
学者「慣れやした(そのボケに)」
狩人「大丈夫!」
南港「ぐおお……」
料理人「だ、大丈夫か?」
傭兵「ぐっ……くそっ」
立ち上がった傭兵達は暗闇に怯え、やたらに剣を振り回す
料理人「!」
どくん、と心臓が脈打つ
自分が敵を抑えねば……
料理人「下がれ!」
料理人は叫ぶと、傭兵達と自分達の間の地面を最大魔力で薙払う
220 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:55:31.55 ID:exuFE9LAO
料理人が包丁を振ると地面は底の見えない谷に変わる
徐々に視界が回復してきた敵兵達はその深さに竦み上がった
南港「寝とくのじゃ!」
南港の広範囲重力操作により敵兵は悉く土を舐める
そこに高塔兵達が到着し、敵を縛り上げた
小冠「一個目、エリア制圧ぅ!」
南港「楽勝じゃ!」
学者「魔王二人いりゃそりゃ楽勝でやすな!」
料理人「よっし!」
薬学士「料理人ちゃんナイス!」ダキッ
学者「後で修繕が必要でやすな……」
狩人「でも助かりました」
学者「うみゅ、気にせずガンガン行きやしょう!」
第二区画に入ると、敵兵も多くなってくる
中央区北砦の魔王達はすっかり取り囲まれているようだ
時間が経ち、魔王達が追い詰められれば街ごと薙払っていただろうが、無闇に殺戮が出来る魔王達ではない
小冠が走り込むだけなら問題はないが、救援を送るためにも区画を制圧していかねばなるまい
料理人は予め用意した食料が傷まないか気にしながら、走る
221 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:57:26.67 ID:exuFE9LAO
料理人「行くぞ!」
料理人が地面を膾に刻むと敵兵の侵攻は止まる
狩人「どこを撃ちますか!」
小冠「待って!」
小冠の魔王の鷹の目は、広範囲の莫大な情報を集めるため、分析に少し時間がかかる
小冠「あっちの塔三つ撃ち抜いて、その手前三軒目くらいの交差点潰して!」
狩人「分かりました!」
狩人は弓に目一杯の魔力を蓄える
矢をつがえる
動かない的は、簡単に狩人の牙に捕らえられる
小冠「塔を崩せるのを見せれば塔に登ろうとは思わなくなるよね!」
南港「小冠も狩人も頼もしいのじゃ!」
料理人「この先に開けた場所がある、中継地にしよう」
あまり入ったことの無い地域ではあるが、料理人は徐々に地理を思い出してきていた
薬学士「ここが料理人ちゃんの街……」
学者「それにしても中央区だけでこの広さ……大楠は大国でやすな!」
料理人「高塔よりは少し小さいけどね」
学者「……高塔がこうなったと思ったら……悲しいでやすな」
料理人「もう死ぬほど泣いた」
222 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 00:59:46.69 ID:exuFE9LAO
料理人「今は前に行くんだ……」
…………
まもなく第二区を制圧
朝から何も食べていないので少し簡単な食事を取る事にした
料理人「煙を上げるのは不味いよね?」
料理人「サラダと生ハムとチーズをパンに挟もう」
薬学士「美味しそう!」
南港「簡単だのう」
学者「戦場で食う分には上等でやすな」
小冠「うん、ソースが美味しい!」
狩人「あと一カ所ですね」
小冠「制圧は兵に任せてボクらは砦に飛び込むからね」
小冠「ボクが少しずつ運ぶから」
小冠「誰から行く?」
料理人「まず薬学士」
料理人「次は南港」
学者「その次は料理人ちゃんでやす」
学者「拙者と狩人君は制圧戦に協力して制圧後に乗り込みやす!」
料理人「大丈夫なの?」
学者「私は高塔の王女としてこの戦いを率いる使命があります」
学者「気にせず行って下しゃっ……噛んだ」
料理人「ははっ、無理はしないでね!」
小冠「大人になったねお嬢ちゃん、了解!」
小冠「あとはボクに任せて!」
…………
小冠の魔王は弾丸のように塔の最上階に飛び込む
それは正に猛禽の襲撃のようである
薬学士「うわっ、はわわっ……」
急激に脳をシェイクされて、薬学士はへろへろと座り込む
その時、優しい、懐かしい、聞き慣れた、秋の風のような声が聞こえた
秋風「弟子……大丈夫か?」
薬学士「あ……」
薬学士「お……師匠……さま……」
薬学士はふらふらと立ち上がる
愛しい
大切な
大切な
薬学士「お師匠さまあ……」ポロポロ
秋風の胸に飛び込み、薬学士は泣いた
秋風「バカあ……なんで来ちゃうんだよお……」ポロポロ
秋風も、その柔らかな薬学士の髪を抱きしめて、泣いた
……再び鷹が飛び込んできた
南港「ぐはあっ……」
南港もやはり脳をシェイクされて座り込む
秋風「おい、あんまり乱暴にするなよ、小冠の!」
小冠「ごめん、ブレーキ効かしたら余計危ないからさ」
小冠「あと一人っ」
小冠はそう言うと再び塔を飛び降りる
南港「バカ脚力じゃのう……」
秋風「バカはお前だ!」
秋風は南港のほっぺたをつねり上げる
南港「ひひゃいひひゃいひひゃい!」
秋風「お前が皆を唆したのか?」
224 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:04:06.12 ID:exuFE9LAO
南港「ひょんははへ」
秋風「あ、すまん」
つねり上げた頬がマシュマロの柔らかさだったのでついつい手を離すのを忘れていた
南港「そんな訳無かろう」ヒリヒリ
南港「寂しがりの秋風が泣いてるから自分達から駆けつけたんじゃ!」
秋風「な……泣いてないっ」グスッ
南港「思いっきり泣いとるわっ!」
南港「何故戦場に来た、何故儂を置いていった!」
秋風「だって」
南港「だってではーー」
バンッと壁を蹴る音
鷹が三人目を連れてきた
小冠「これでひとまず終了、秋風ちゃん、しっかり叱られなさい!」
秋風「し、小冠の!」
小冠「あははっ、あとでボクも叱るからね!」
小冠は太陽の笑顔を見せて、三度塔を飛び降りた
料理人「ふああ……」
料理人も案の定目を回している
秋風「バカ娘!」
料理人「ふあ、誰がばかやねん……」パタン
倒れた
秋風「料理人ーっ!」
薬学士「大丈夫ーっ?!」
南港「小冠は仕事が荒いのじゃ」
225 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:06:21.79 ID:exuFE9LAO
…………
南港「んで、被告人は何か反論があるか?」
秋風「いや……だってだな」
料理人「聞かせて」
秋風「色々考えた結果だ」
薬学士「さっぱりです、それじゃ零点ですお師匠さま」
料理人「寂しいだろ、何も言わずに居なくなって!」
秋風「それは……戦争に可愛い娘達を巻き込む訳にはいかんだろ」
秋風「薬学士は止めても聞かんし、お前は戦う気満々だったし」
薬学士「その気遣いが寂しいんですっ!」
料理人「ん」
薬学士が怒っている
ぷるんぷるんしている
秋風もそれを見て一層叱られた子供の顔をする
可愛いな
南港「儂も何度も何度もアホの子のように扱われて黙って居れんのじゃ!」
南港「儂は戦える!」
南港「大戦後も鬼のように新魔法のトレーニングしたのじゃ!」
南港「なんか言うことあるじゃろ!」
秋風「う……」
すっかり秋風がしおらしい
大剣「はっはっ、秋風が負けてら」
大剣は面白い玩具を見つけた顔
東磯「貴重……覚えておく」
東磯はニヤニヤしている
鉄斧「なんとかと泣く子には勝てんわ」
がっはっは、と笑う
西浜「……」フフ
西浜はいつもより明るめに笑った
226 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:08:37.57 ID:exuFE9LAO
秋風「覗きとは良い趣味だな……」
ブルブルと怒りに震える
薬学士「お師匠さま!」
また叱られた
秋風「ごめんなさい」
叱られると秋風は素直だ
きっと彼女の師匠との関係が、そう言う所に残っているのだろう
料理人はすっかり許す気になっていた
彼女も大人に成りきれていないままに魔王となったのかも知れない
料理人「なんで怒ってたのか忘れた」
薬学士「私も」
南港「言いたいこと言ったからすっきりしたのじゃ!」
秋風「あのな、やっぱり危ないからさ、帰らないか?」
南港「お主も一緒なら帰るわい」
秋風「だって戦力は必要だし」
南港「儂は戦力じゃ!」
秋風「でもな……そうだ」
秋風「小冠に使者をしてもらうつもりだったんだよ」
秋風「……もう、この戦争は終わる」
227 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/21(金) 01:12:17.89 ID:exuFE9LAO
…………
大剣の魔王は先陣を切り、北を目指す
十分に敵を引きつけると、豪剣一本でそれを薙払う
ひたすらに強化された膂力による剣撃
細やかな魔法ではない、純粋な破壊力こそ大剣の魔王の力だ
西浜「……」
西浜がくるっとこちらを見る
南港「……! 全員耳を塞げ!」
南港の合図で全員が耳を塞ぐ
西浜「……」スウッ
西浜「……わっ!」ドンッ
西浜の魔王が喋らない理由、それがこの声、魔法の指向性爆撃ボイス
西浜の魔王は自らの声で数キロ先の鳥をも叩き落とす
戦場で使いすぎて味方に不評を買った反動で西浜は喋るのが怖くなったのだった
料理人「うるさああああ」
薬学士「ひゃああああ」
南港「ぐおお……」
小冠「あはは……相変わらず声デッカいね」
西浜「……」ポッ
西浜はもじもじしている
可愛いけど怖い
大剣の魔王が倒れているが、至近距離で食らって生きているのだから
魔王も不便なものだ
しかしその一撃で、一息に北砦までの道が開いた
南港「レアな西浜の声が聞けてよかったのう」
料理人「えっ、なに?」
薬学士「聞こえないよ〜」
小冠「ボク耳は普通で良かった〜」