死神「ハッピーバースデー!」ッパーン! 男「いや、命日だけど」
Part4


45 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:29:54.71 ID:1O1LHxZ+0
閻魔大王「………ならば…」
閻魔大王「その亡者に紛れ、逃げ出してみろ」
男「そんな事は……」
閻魔大王「お前に足りないものが、ようやくわかった」
男「…なんですか?」
閻魔大王「ありがたさ… だ」
男「ありがたさ…?」
閻魔大王「お前は自殺者としての罪でここに呼ばれた。だからそれを裁いたのだが、改めてよくよく見るとおかしいのだよ」
男「おかしい?」
閻魔大王「お前は生前、善行の方が余程に目立つ。悪業をした記憶はあるか?」
男「……小さい頃に、見慣れぬお菓子があまりに美味しそうで、夕飯前にだまって食べました」
男「預け先にいた叔母にみつかり、叱られました。叱られたことがなくて、とても怖ろしく感じたのを覚えています」
閻魔大王「それで?」

46 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:30:42.50 ID:1O1LHxZ+0
男「……悪いことはしてはいけないのだと、強く思いました。それから、叱られるようなことはしなくなりましたね」
閻魔大王「怒ること。怒らせる事。叱ること。叱られる事。嫌がる事。嫌がられる事。お前に足りないのは、そんなものだ」
男「悪いことを…したりない、と?」
閻魔大王「そうではない。だが、過剰に怖がり、イイコであろうと居すぎたのだ。ありがとうと、言われ慣れすぎた。有り難いはずの事が、当たり前になりすぎた」
閻魔大王「だからお前は、満足が得られないのだ。何もかもが…ありふれたものに感じてしまうのだ」
男「……ありがたく…ない…?」
閻魔大王「死ぬほど悩み、死の世界で充分に死を味わったお前だが、まだこれ以上に悩むべきことがあるようだな。なぁに、多少 逃がしてやるのが惜しくなる」
男「……」

47 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:31:18.72 ID:1O1LHxZ+0
閻魔大王「さぁどうした。逃げていいのだぞ? 逃がしはせぬが。何故、似げぬ?」
男「逃がさないと言われた以上、どんな冤罪で逃げ出した罪を問われるかわかりません。そこまでして、逃げる意味があるのかもわかりません」
閻魔大王「ほう?」
男「…だから僕は今は逃げずにここにいます。惜しいといってくれるならば、尚更に」
閻魔大王「……死神にあわせてやろう」
男「!!」
閻魔大王「うまくここを…我より逃げおおせて、お前の手が地に届いたのならば」
男「それは本当ですか!」
閻魔大王「嘘かもしれぬな」
男「…え」

48 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:32:05.17 ID:1O1LHxZ+0
閻魔大王「……嘘かもしれぬ。本当かもしれぬ。何故ワシがそんな確約をせねばならぬ?」
男「それは、そうですが。閻魔様は意地悪ですね。思わず本気のぬか喜びをしてしまいまし……た……」
閻魔大王「どうだ。小さな悪意に触れた感想は。少しは怒りたい気にでもなったか」
男「……一瞬…でしたが。本気で、喜びを味わいました。ありえないことが起こり得る可能性に、有り難さをかんじました」
閻魔大王「ほう」
男「……怒りよりは…落ち込んでしまいそう、です。今は、動揺もしています…」
閻魔大王「そうか。悪かったな」
男「いえ…おかげで、“有り難いことが起こり得て、ありがたく思う”という意味を、少し理解しました」
閻魔大王「ならば、今度は実践と行こう」
男「……はい?」

49 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:33:31.27 ID:1O1LHxZ+0
閻魔大王「さて。逃げ出すがいい。一歩でも逃げたらそれが合図じゃ。ワシも本気で捕まえてみせよう」
男「な」
閻魔大王「無事に逃げれば、死神に会えるかもしれぬ。だが我にからかわれているかもしれぬ」
男「まってください、そんなーー
閻魔大王「悩む時間も与えない。悩んでいれば、その隙に捕まえてみせよう」
男「そんなことをして、一体なんの意味がーー」
閻魔大王「逃げ出さずに捕まったなら… 
“逃げてたら死神に会えたのだろうか、それともどちらにしても会えなかったのだろうか”などと、
答えの出ないままに何もしなかった事を、後悔するだろう?」
男「ーーーっ」
閻魔大王「よくよく、反省してみせろ」

50 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:34:05.98 ID:1O1LHxZ+0
******
閻魔は立ち上がる。
巨体は4メートルを超える大男だ。圧巻されて、思わず一歩、あとずさった。
閻魔大王「逃げたな。始めるぞ」
男「!」
大木のような太腕が、横薙ぎに襲いかかった。
賭けどころではない。悩む暇などありはしない。
いくら神経が太いと言われる男であろうと、閻魔の迫力は恐ろしい。
鬼の恐ろしさを怪人に例えるならば、閻魔の恐ろしさは人外だ。
確かに鬼も人外だが、それとは比べものにならない。
殴られるだの焼かれるだのと、想像できるような恐怖ではない。
見た事も想像した事もない恐怖を、どう表せと言うのだ。
拷問ですら痛みを想像して耐える事もできようが、これはそういう種のものではない。
触れた瞬間に粉微塵?否!
薄皮一枚のこして中身を抉り出される?否!
そんなものでは済まないのだと、よくわからないままの謎の確証だけが襲い来る。
思考がオーバーヒートして、凍り付く。
逃げなきゃならぬと、アラートだけが脳内中に鳴り響く。

51 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:34:32.79 ID:1O1LHxZ+0
怒鳴り声とも笑い事ともわからない声が、背後から身体中を打ち付ける。
まともに聞いていたら鼓膜が破けてしまう。
いや、そもそもこんなものが耳などに入るわけがない。
男(ーー違う、声に物理的な大きさなど関係ない)
感覚が狂いだす。
五感の全てが過剰にはたらきすぎていた。
死んでからずっと鈍化しただけだったような身体感覚が、急激に覚醒する。
過剰の情報量に脳が錯覚を起こして、
正しく理解するができない。
自分の足が、7倍もの大きさになった気がした。
足の裏から伝わってくる感覚は過剰なのに、その物自体はバランスが悪くて邪魔くさくて、もつれやすくて。
それでもその足のおかげで、閻魔が追いかけてくる位置が、どれほどの場所にまで迫っているのかが、音と振動で鮮明にわかる。
小指の先まで力を入れて、床を掴むように踏みしめた。

52 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:35:54.36 ID:1O1LHxZ+0
腰は蝶番のように思える。
ブオンという、なぎ払いの大風を受けて、パカリと前に折れ曲がって避ける。
だが、逆にはあまり曲がらない。あまり曲げれば折れてしまう。蝶番だ。
男(だから、ええと。そうだ、前から薙ぎ払われたなら、後ろを向かなければ折れ曲がらなくて…)
感覚が現実味を失っていく。
本能と、感覚と、理性と、知識と、何を当てにしていいのかわからない。
何を頼りにしていいのかわからない。
男(この腕はバットだ。うまく使えば支えになるが、強く叩けばバットの方が折れてしまうだろう)
大きく前に飛び跳ねる時に体を支えることはできても、
あの大腕を躱すのにつかってはならない。
体感覚の全てが錯覚だけで成り立っていく。
自分が、小道具をあつめて作った不細工なロボットになったような気がする。

53 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:36:34.41 ID:1O1LHxZ+0
逃げる。逃げるしかない。
恐ろしい。怖い。助けて。助けて。助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて、死神ーーー
『あはは。じゃあ、私にまかせて?』
ーーえ?
『いえーい! ハッピーバースデー!!』
ッパーン……
追い詰められて幻を見た。
幻だとはわかっていた。
それでも救いを求めて伸ばした手は、クラッカーの音と共に、地へと届いたんだ。

54 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:37:03.56 ID:1O1LHxZ+0
*******
……結局。
記憶を持ったまま、僕は15歳からの人生をやり直した。
あの幻以外には死神にもあえないままで、
もしかしたら会えるかもという淡い期待を抱かずにいられないまま探し求めることもあった。
だから僕は前の人生よりも少しだけやさぐれたし、そのせいでうまくいかない事も増えた。
入学した高校も大学も、就職先だって前の人生とは違うもので、やり直したはずの人生は前よりもうまくいかないことが増えていて。
男「今まであたりまえにあったものが、割と貴重なものだったんだって気付いたんだ」
今の僕は、前の人生でもっていたものの半分程しかもっていない。
だけど前の人生よりも、ほんのすこしのやりがいや手ごたえを感じることは出来る。
ただ、僕は前と違う職場に就職してから気づいてしまったんだ。
“人生が変わって、出会う人も変わってしまった”ことに。
あのころ付き合っていた彼女とも、出会っていない。
なら、“あのまま生きていたら生まれていたかもしれない娘”とも・・・出会わなくなってしまったかもしれない。
そう気づいてからの僕は、またほんの少し、
つまらないだけのイイヒトに変わっていくのが自分でわかった。

55 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:37:35.65 ID:1O1LHxZ+0
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そして、僕の25歳の誕生日… 前に僕が死んだ日。
あの日死んだ僕と
生まれ変わった僕のために、バースデーケーキに線香を立てた。
時計の針は丁度0時。
大体だけど、前に僕が死んだ時間。
あの日、見事に終わらせた僕に、おめでとう。
君は死んだから、やはりあの子に会えたんだ。
また始めてしまった僕に、ご愁傷さま。
後悔と反省のために地獄の閻魔大王から与えられた地獄は、これからだ。

56 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:39:08.89 ID:1O1LHxZ+0
男「……これから始まる、まだ僕が知らない25歳からの僕には……なんて声をかけようかなぁ」
女「ねぇ、このケーキ食べていい?」ピョコ
男「え。」
女「一人でビルの屋上で誕生日パーティ? しかもお線香って」
男「え? ちょ… 君、どこから…」
女「……あれ? もしかしてこれ、お供え? 自殺でもするの?」
男「え…。あ…“お供え”って……」
女「なんかちょっとナルシストっぽいからやめたほうがいいよ! 死後に後悔するよ!」
男「………しに…g」
女「そんな風にするよりさぁ、こうしようよー」
女「ハッピーバースデー!」ッパーン!
男「っ」
腹を抱えて、女の子が笑っていた。

57 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:39:39.13 ID:1O1LHxZ+0
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7年後……
女「あーあ。お腹おもーい! 辛い!」
男「はいはい。腰、揉む? 温める?」
女「押してー。もー、こんなキツイとか聞いてないよー」
男「あはは」
女「これであんたに似た男の子だったら、手厳しく育ててやるんだから!早く出てこーい!!」
男「ああ、それなら………」
男「君によく似た… 本当にすごくよく似た 娘が産まれるから。思い切り優しくして、可愛がってあげるつもりなんだ」
女「へ? なんでそんなことわかるのよ」
男「閻魔大王様は、うそつかないみたいだし。あと・・・娘は、ほんの少しだけ、君とも違うから」
女「はぁ? …ばっかじゃないの? あんたの遺伝子が入ってるんだもん、私と同じじゃ困るでしょ! あはははは」
男「好みが僕とそっくりで。見た目と性格は、君にそっくりなんだろうな」
女「デレデレしてー。娘にやきもち妬いちゃうぞー?」
男「あはは」

58 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:43:31.57 ID:1O1LHxZ+0
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僕の今の悩みはひとつ。
“愛するはずだった人に似た死神”を愛したのか
“愛した死神に似た人”を愛したのか
これは割と罪だと思う。
どちらに対しても相当に失礼だし、どちらも大好きな僕はまるで二股だ。
だから僕はきめているんだ。
僕はこの人生を出来うる限り満喫したならば、死後に地獄にいって、どうだったのか死ぬほど悩んでみせようと。
・・・・・・悩んでも悩んでもやつれるどころか頬は緩みっぱなしだろうけれど。
愛しい人の事で悩み続けるのは、割と幸せなことだと気付いた。
それから閻魔に会いに行くんだ。
そうして今度こそ、きちんとお礼を言いに行こうと思っている。
やり直したはずの人生。
やり直せなくあったはずの人生。
そのふたつが、どういうわけか、絡み合って。
たぶん、こんなに“ありえない”ものを味わった人間はそうはいないだろう。
この、とてつもなく“有り難い人生”を ありがとう。
閻魔大王にそう伝えるために。それから、赤鬼とのろけ話をしよう。

59 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:45:35.20 ID:1O1LHxZ+0
だから今は、この新しい命に。
「ハッピーバースデー」
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Happy Birthday for you.

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 00:36:48.52 ID:sd87ycQF0
久しぶりにオリジナルで良作を見た

62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 00:47:37.94 ID:6LsUbK6Po

超良かったよ
その後の話も気になるけどここで終わりはそれはそれで良いのかもしれない

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 04:33:05.66 ID:uX1DCNAco
ええやん…

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 07:17:43.65 ID:Ahi25lnno
乙…いい話や

66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/25(木) 13:02:25.97 ID:aCb2ZQ7VO
久々に大泣きする作品見れた
おつんつん

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