死神「ハッピーバースデー!」ッパーン! 男「いや、命日だけど」
Part2


14 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:52:27.61 ID:1O1LHxZ+0
死神「聞いてる?」
男「何の覚悟も、できてなくて」
死神「ふふ。なんかちょっと意外。楽々と天国にでも行けると思ってた?」
男「死んですぐ、天国にいるような気になってた…」
死神「え?」
男「死神には、もう会えないの?」
死神「え…うん。私は死者ではないから、向こうには渡れないの」
男「もう… 会えないとか、一緒にいられないとか。なんの覚悟も出来てなかった」
死神「……」
男「………もっと…一緒に、いたかった」
死神「あはは。ばっかねぇ。死んじゃってからそんなこと言うなんて」
男「死んじゃったから、会えたんじゃないか」
死神「……違うよ」
男「え…?」
死神「私はね、生まれることのなかった命なの。あなたがもしも自殺をせずに生きていたら、7年後に貴方の子供として肉体を貰えるはずだった魂なの」
男「え……それ、は」
死神「あなたが生きてたら… あなたの娘として、あなたが死ぬまで一緒にいたはずなのに。今更そんなこと言うの、おそいよ」
男「ま、まって!? なんでそんな…!」

15 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:52:56.59 ID:1O1LHxZ+0
死神「私の仕事は、あなたを迎えに行って冥府に届けること。そうしてきちんと“予定していた身体”がなくなったことを報告すること…。生まれる予定がなくなって事を、確定させること…」
男「あ…」
死神「このあと、私は、神様のところに… もう、男さんの娘の身体にはいることはできなくなったって…報告、しない…と…」ポロ
男「死神…」
死神「……ばか。楽しみに、してたのに。なんで死んじゃったの…ばか」
男「死神…っ」
死神「でも…でも、聞いちゃったから。なんか責められない! 生きてても、あんなさみしそうな顔で、満たされない気持ちのままで、それで7年後に私が生まれても…」
男「……僕が…あのまま生きてたら7年後に子供を産んでいたなんて、ちょっと信じられない。何かの間違いだったんじゃ…? 人違い、とか」
死神「ッグス…。そうかも、しれない。あとで、神様のところに行ったら聞いてみる…」
男「………死神…その、ごめん。僕、まさかそんなことになってるなんて…」
死神「ばか。いっちゃえー」
男「死神…。その、僕は……っ」
死神「いっちゃえってばーー!」
男「……っ。ごめ、ん」
死神「……私だって。パパになるはずだったとか、そんなの関係なしにしても…」
死神「もっと、一緒に、居てみたかったのに…ばかーー……」

16 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:54:35.93 ID:1O1LHxZ+0
******

冥府:審判の間
閻魔大王「ほう…若いな。自殺者か。それにしてはまともな顔をしているな」
男「まともですか?」
閻魔大王「ああ。自殺者は大抵、青白く疲れ果てた顔をしている。そうでもなければ、気の触れたような笑みを浮かべて死を誇っている」
男「ああ…。なるほど」
閻魔大王「まあよい、早速だが審判にかけさせてもらおう。といっても、お前の行先はほぼ決定している。世間話と素行調査のようなものだ。よほどワシに気にいられれば、裁量が変わることもあるやもしれぬがな」
男「そうですか。わかりました」
閻魔大王「ふぅむ。どうにも物わかりがよいというか、はきはきしすぎていてコチラの調子が狂いそうだ」
閻魔大王「だが、盆の時期でこちらも忙しくてな。人員すらまともに割けぬ。おぬしのように罪が明らかで、よほどでもない限り行き先が決まっているものは、ワシ一人でさくさくと決めてしまいたい」
男「……はぁ」

17 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:55:07.09 ID:1O1LHxZ+0
閻魔大王「さぁ訊ねよう。お前は、己の死を後悔しているか?」
男「後悔、ですか」
閻魔大王「そうだ。生きるはずだった生を中途で勝手に終わらせた、その生き方を。後悔しているか?」
男「……」
閻魔大王「嘘をついて気に入られようとしても無駄だぞ」
男「…いえ。自分で、自分の事に嫌気がさして、思わず答えるのにためらっただけです」
閻魔大王「ほう?」
男「僕は、後悔などしていません。ただ、死神の事を思うと申し訳なく思うばかりで」
閻魔大王「死神、だと」
男「僕をここまで送り届けてくれた女の子です。……僕の娘として生まれるはずだったと、言っていました」
閻魔大王「なるほど。その娘の生きる道を閉ざしたことを後悔しているのだな」
男「いいえ、申し訳なく思うものの、後悔はできていません。僕はこんなに自分勝手な人間だったのですね」
閻魔大王「なんだと?」

18 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:55:43.90 ID:1O1LHxZ+0
男「後悔など出来るはずがないのです。僕はあのまま生きていても、子供を持つ未来など想像がつかない」
男「だから、今の僕にとっては…死んだことでようやくあの子に会えたとしか思えない」
男「はじめて、あんな風に誰かを強く思うことができた。生きている時には味わえなかった幸福感を得た。それをどうして、後悔できるでしょう」
閻魔大王「貴様…」
男「死んで、ようやく得ることができた。こんなにも人を愛しく思える気持ちを。ただ生きているよりも…この想いをもって死んでいるほうが、よほど幸福に思えます」
閻魔大王「大馬鹿者めが!!!」
閻魔大王「お前のように反省の色もなく、自らの生を後悔することもなく、惜しみもしない大馬鹿者には転生の必要など微塵もあるまい!!」
閻魔大王「お前は永遠に苦しみもがくがよい!!!!!」
男「……」

19 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:02:07.93 ID:1O1LHxZ+0
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地獄:
男「ここが…地獄…」
赤鬼「なんだ、お前?」
男「あ…鬼だ」
赤鬼「亡者か? ……それとも、おまえも鬼か?」
男「亡者です。…けど、あの、僕はここで何をすれば」
赤鬼「そりゃぁお前、苦しみもがくんだが…お前、罪状は?」
男「自殺者です」
赤鬼「自殺者? どうやって死んだ?」
男「睡眠薬とアルコールで、入水して。溺死です」
赤鬼「溺死ー? 苦しくないのか」
男「少し…苦しいです。軽い高山病みたいな。それに身体が重い…」
赤鬼「他には」
男「なんだか…夢見心地です」
赤鬼「は?」

20 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:02:37.29 ID:1O1LHxZ+0
男「眠気がすごくて。苦しいせいなのかもしれないですけど、ぼんやりと意識が落ちる手前みたいな、そんな感覚です」
赤鬼「ふぅん…?」
男「あの…」
赤鬼「ここはな、自殺者が死んだ状況、死んだときの苦しみや痛みがそのまま永続する地獄なんだ」
男「え…」
赤鬼「首を吊ったなら、首を吊った痛みと苦しみが。飛び降りたなら、飛び降りた恐怖と衝撃と痛みが。服毒したのなら、その気持ち悪さや眩暈、嘔吐感が永続するはずなのさ」
男「それは…想像すると、怖いですね」
赤鬼「俺たちはそいつらに、痛みが余計につらくなるようにムチをうってやる。……お前、安楽死かなんかの薬でも使ったのか」
男「いえ…普通の、市販の睡眠導入薬です」
赤鬼「普通、どんな死に際でも痛みや苦しみや恐怖ってのはあるもんなんだけどなぁ」
男「そう、なんですか?」
赤鬼「あ、あとはあれだな。“暗い心”。死に追い詰められたその苦しい気持ちが……」
男「苦しい気持ちが…?」
赤鬼「お前、ねぇの?」
男「特に……」
赤鬼「そうか…」
男「あ、あの。ムチうちますか?」
赤鬼「お、おう。とりあえずムチうっとくわ。仕事だからな」

21 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:03:06.22 ID:1O1LHxZ+0
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地獄:1日目
男「あ、おはようございます」
赤鬼「おう。……何してるんだ?」
男「掃除ですかね」
赤鬼「掃除って……」
男「ムチ…打ちます?」
赤鬼「お、おう」

22 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:03:43.24 ID:1O1LHxZ+0

地獄:2日目
男「おはようございます」
赤鬼「お前さ、ムチでうたれたところ痛くねぇの?」
男「痛いし、いつまでたっても痛みはひかないんですけど…なんか、鈍化したような感覚のせいで痛覚がはっきりしなくて…」
赤鬼「そうか…」
赤鬼「まあ、そのうち痛くなってくるだろ…」
男「はい…そうですね」

23 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:04:22.99 ID:1O1LHxZ+0

地獄49日目:
赤鬼「なぁ知ってる? 本当はさ、お前、今頃になってようやくココに来る予定だったんだぜ」
男「そうなんです? じゃぁ、随分と早く来ちゃったんですね」
赤鬼「ほんとよ。現世でおまえのことを供養してるやつらが知ったら、脱力するだろうな」
男「はは…僕、お迎えに来てもらったので」
赤鬼「へぇ。お迎え付きだったのか、そいつは運が良かったな。冥府に来るまでの道は、そりゃぁキツいってきくからな」
男「ここに来るまでも、ここに来てからも…あんまり、キツいことがないので。地獄らしさを味わい損ねたのかもしれません」
赤鬼「よく言うぜ、はは」
男「ところで、鬼ですよね」
赤鬼「あっ、ムチうたなきゃ」

24 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:04:51.64 ID:1O1LHxZ+0

地獄:104日目
赤鬼「おい、お前… あのさ、こないだ、冥府いった?」
男「冥府へ? いえ、行きませんけど」
赤鬼「あー…やっぱそうなのか」
男「どうしたんです?」
赤鬼「昨日、呼び出しで冥府に行くのを見逃した亡者がいてさ。んで、思い出して調べたら、お前が死んで100日目だったんだよな、こないだ」
男「100日目は、冥府に行くはずだったのですか」
赤鬼「運が良ければ、っつーか、お前がちゃんと供養されてれば、再審があったかもしれねぇんだよな」
男「再審」
赤鬼「なんつーの。地獄での居場所とか、そーゆーのが変わるんだよ。罪が軽減したりとかな」
男「ああ…」
赤鬼「悪ぃ、もっと早くに気付いてりゃ、教えてやれたのにな」
男「いえ。僕はここで十分です。……いつの間にか、あなたともすっかり話す仲になってしまいましたし」
赤鬼「はは。まぁ俺も、あんたに仕置きするはずの時間が休憩時間みたいになってラクさせてもらってるわ」
男「叩いたりしなくていいんですか?」
赤鬼「叩いたところで逃げもしないでじっと耐えてるお前に、毎朝挨拶されるこっちの身にもなってみろ。やる気も出ねぇよ!!」

25 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:05:56.94 ID:1O1LHxZ+0

地獄:1年目
男「あ、鬼さん。おはようございま…す……」
赤鬼「……おう」
女亡者「……」ペコッ
男「…………」
赤鬼「…………」
男「あの、お仕事中ですか? 休日ですか? デートなんですか?」
赤鬼「仕事中なんだよ! くっそ、やっぱり今日は仕事になりやしねぇ!! 帰る!!」

26 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:06:59.47 ID:1O1LHxZ+0

地獄:2年目
男「おや…おはようございます」
赤鬼「おう」
女亡者「……」ペコペコ
男「以前もお見かけしましたね。気になっていたのですが、そちらの可愛らしくも痛々しいお姿の亡者さんは一体?」
女亡者「………」ペコリ
赤鬼「自傷が行き過ぎて死んだ亡者なんだが、妙になつかれて困ってる」
男「叩いたりしないんですか」
赤鬼「………叩くと悦ぶんだよ。無視するのが堪えるらしくて、放っておくとたまに泣く」
男「お疲れさまです…?」

27 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:07:31.15 ID:1O1LHxZ+0
男「それで、今日はこちらにはノロけに?」
赤鬼「あほか。冥府にいくんだよ、こいつの1周忌でな。裁量が変わるかもしれえぇだろ」
男「ああ…居場所が変われば、っていうことですか」
赤鬼「他の地獄で他の奴に引き取ってもらえるからな」
女亡者「……!!」プルプル
男「泣いてる」
赤鬼「泣き叫ばれるのは構わねえんだが、ひたすら健気にされるもんだからこうなるとちょっと精神に来るし仕事に支障をきたす」
男「厄介な亡者につかまりましたねぇ」
赤鬼「亡者をひっつかまえて泣かせるはずなんだけどなぁ」
男「鬼さん、いい人ですよね」
赤鬼「てめぇ。……今度、鬼らしいところ見せてやるよ」
男「クワバラクワバラ」クス

28 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:08:03.57 ID:1O1LHxZ+0

地獄:3年目
赤鬼「……やっちまった」
男「殺人ですか?」
赤鬼「馬鹿野郎、ここは地獄だぞ? 洒落にもならねぇこと言ってんじゃねぇ」
男「では、どうしたんです。……赤鬼のくせして、青鬼みたいな顔をしていますよ」
赤鬼「あぁ…くそ。わかってんだが、こんなことしてる場合でもねぇんだ…悪い、行くわ」
男「待ってください、本当にどうしたんです。これまで毎日のようにあなたに罰を見逃してもらっている恩があります。僕で何かお役に立てることがあれば…」
赤鬼「ちがうんだ…役に立つとか、立たないとか。そういう話じゃない」
男「ではせめて、お話だけでも。話すことで頭くらい回るかもしれません。僕のところにくるくらい、どうしようもなかったのでしょう?」
赤鬼「あ、ああ… くそ、そうだ」
男「……いったい、何があったんです?」
赤鬼「生かしちまったんだ」
男「生かす? 殺すではなく?」
赤鬼「……生かしちまったんだ。気が、ちょっと焦っていて。後先をよく考えていなかった」
男「……」

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