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死神「ハッピーバースデー!」ッパーン! 男「いや、命日だけど」
Part3


29 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:08:55.46 ID:1O1LHxZ+0
赤鬼「冥府に、とある婆さんの亡者を送っていったんだがな。まぁそいつは裁量がかわって、人道に行くことになってた」
男「人道…」
赤鬼「いわゆるヒトの世界だ。…送り届ける途中で、その…」
男「…?」
赤鬼「覚えてるだろ、あの女亡者。俺にずっとくっついていたやつ。あいつが、その日も俺の後にくっついてきてたんだ」
男「え…」
赤鬼「特段に悪さをするような亡者じゃなかったから、放っておいたんだが…。婆さんを送り出した後で、振り向いて見ちまった」
赤鬼「……俺が今まで見たこともないような顔で、人道の世界を見てた」
赤鬼「俺は鬼で、あいつはヒトの子だ。俺にくっついてても始末に負えねぇだけで…3周忌の再審はもう受けねぇとか言い張ってたし…どうしていいかわかんなかったし」
赤鬼「そんなこと、一瞬でいろいろ考えちまって、気がついたらあの女亡者の腕をつかんで、人道に落としちまってた…」
男「生かしちまったっていうのは、そういうことですか…」
赤鬼「王の再審もなしに、鬼の俺が勝手に亡者の居場所を変えたりなんかしちゃマズイんだよ。それに、思わずああしたものの、これがバレたら俺もあいつも別の罪に問われるだけだ…」
男「……」
赤鬼「……早まった。くそ…。明日…冥府へ報告に行く。俺はもうここには戻ってこれないかもしれねぇ。あいつの罪状が増えないように…うまく説明できればいいが。……世話になったな」
男「鬼、さん……」

30 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:09:21.07 ID:1O1LHxZ+0

地獄:その夜
男「……冥府…3年ぶりかぁ」
赤鬼「お前……いい根性してんな。堂々と運ばれる亡者のふりしやがって」
男「鬼さんだって、グズグズいいながらついてきたじゃないですか」
赤鬼「ついてきてんだか、連れてきてんだかわかんねぇ状況だけどな!! コレがバレたら大変なことになるんだぞ」
男「まぁまぁ。それで…人道というのがこの先なのですか?」
赤鬼「正確にいや、その入り口だけどな。俺が開けられるのは門までだ。門の向こうがどうなってるのかは知らねぇ」
男「よくもまぁ、自分の彼女をそんなとんでもないところに引きずり落としたものですね」
赤鬼「彼女じゃねぇ!!!!!!!!」

31 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:11:47.81 ID:1O1LHxZ+0
男「……で。ここが、その門ですか」
赤鬼「…こっから先は亡者の世界だ。俺は自分の担当する地獄にしか入れねえ…」
男「ええ、聞きました。…僕が、軽く見てきます」
赤鬼「…………」
男「開けてくれますか? 戻ってきたら、また門を叩きます……そうだなぁ」
男「♪明日への扉 のリズムで叩いたら、それが合図ってことで」
赤鬼「選曲おかしい上にめちゃくちゃ古いんだよ!!!!!!!!!!」
男「あはは。じゃぁ、開けてください、行ってきます」
赤鬼「…………おう」
赤鬼(……これで、もしこのままコイツが人道に落ちて戻ってこなかったら…)
赤鬼(いや。俺はすでに女亡者をここに勝手に落としてる。一人も二人も、かわらねぇ)
赤鬼(それに…あいつも、人道に戻りたいっていうなら…戻してやりたい奴の一人には違いねぇんだ…)

32 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:14:39.56 ID:1O1LHxZ+0
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
♪トトトトトトー ♪トトトトトトー ♪トトトー トートトッ トッ トートトン
赤鬼「お前それ、マジでやるんか」ギィィ
男「スローテンポの曲にしなかったことを後悔しました。拳骨が痛いです」
赤鬼「っていうかどうした。入って5分も経ってねぇじゃねぇか……中には入れなかったのか?」
男「いえ…その、奥に進もうとしたのですが」
赤鬼「したが、どうした。……なんだ、怖くなったか?」
赤鬼「正直……戻ってこねえんじゃなえかななんて思ってたからよ。あんまマヌケなことしてくれんじゃねぇよ」
男「え? 戻ってこないわけないじゃないですか。僕は自殺者ですよ? せっかく人の世を離れたのに」
赤鬼「……お、おう。そうか」

33 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:15:41.21 ID:1O1LHxZ+0
赤鬼「しかしまぁ、じゃぁ、なんだってこんなすぐに戻ってきた?」
男「いえ。門がとじるのを確認しようと振り向いたら…」
赤鬼「たら…?」
男「門のすぐ横でうずくまってる女亡者さんを見つけたのです」
赤鬼「ブハ」
男「……ですが、その」
赤鬼「あー…連れて戻ってないってことは、アイツは進めないけど戻りたくもないってことか……。そう、だよな…地獄だもんな…」
男「いえ。何やらものすごく拗ねておられるので、ちょっと僕の手には負えなくて」
赤鬼「 」
男「お力になれず、すみません。というわけで…こっちの閉じてるほうの扉の裏にいらっしゃるんで。鬼さんが自分で呼び戻してください」
赤鬼「え」

34 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:16:25.57 ID:1O1LHxZ+0
男「………申し訳なさそうにしてたり、悲しげに泣いているところは見たことがありますけれど。あんな表情もなさるんですねぇ、あの方」
赤鬼「な、なんの話だよ」
男「血の気などないはずなのに、どっかの赤鬼に負けないほど赤い顔をして怒っていて。……わりと可愛いかなって思いました」
赤鬼「は」
男「お似合いですよ。お幸せに」
赤鬼「っテメ……」
男「どこにも行かずに静かにうずくまってたイイコですよ。あの様子じゃ誰にも会っていないだろうし、ばれてもいないでしょう」
男「僕は何も見なかった……今日、何も問題はおきなかった。ちょっとしたカップルのケンカがあった以外には。そうでしょう?」
赤鬼「あ…」
男「僕、先に自分の地獄に戻ってますね…」
赤鬼「……………ああ!」
赤鬼「……聞こえ…〜〜っ! 戻ってこいー!」
赤鬼「〜悪かっ〜〜…お前が……!!」
赤鬼「! 〜好k〜〜愛s〜〜〜!」
男「背後から聞こえる鬼さんのセリフがあまりにこっぱずかしい件」耳栓

35 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:23:55.27 ID:1O1LHxZ+0
******

冥府:
閻魔大王「……どうにも、お前の素行は地獄にいても目に余るものがあるようだな」
男「僕が何かしましたか」
閻魔大王「赤鬼との仲の事は…知っている。まさか、地獄の獄卒と打ち解けるとは」
男「……僕の腑抜けっぷりに、呆れているだけでしょう」
閻魔大王「ーーー人道の、亡者」
男「……」
閻魔大王「ワシが知らぬと思ったか」
男「どう、申し上げたものか。今日、ここに呼び出されたのは、僕の罪状が何か増えるのでしょうか」
閻魔大王「いいや。おまえは罪を犯してはおらぬ。お前の罪はこれ以上に増えることはない」
男「では、どういった用向きで…?」
閻魔大王「……お前を再審にかけようと思ってな。このまま地獄に居させても意味があるまい」
男「そうですか…」

36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/23(火) 22:24:38.15 ID:SHA2yObh0
どいつもこいつも可愛いなおい
これは期待

37 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:25:04.59 ID:1O1LHxZ+0
閻魔大王「そこで、お前にひとつ聞いてみようとおもってな」
男「何をでしょう」
閻魔大王「お前はどうあっても反省しない。己を省みて、苦しみもがき、生をあがこうとしない」
閻魔大王「ーーどうなれば、お前は自分がそのように反省するかーー その方法を、聞いてみたい」
男「僕が…苦しみ・・・生をあがく方法・・・?」
閻魔大王「ああ、そうだ。お前ならば、こう尋ねられたらどうこたえる…?」
男「僕が…後悔して、反省すること……」
閻魔大王「……ほう? 珍しくそのように、真剣な表情をしておるの」
男「なん、だろう……そんなもの・・・本当に、あるのでしょうか…?」
閻魔大王「さてのぅ…? 怖いものくらいはあるのだろう?」
男「もちろん、あります。だけど…これまで、どうしても怖くて仕方ないとき、それでもどうにかしなくてはならない時には、死んでもいいやと思うことで打開してきたので…」
閻魔大王「本能的に死を恐れる心はもっていたか。だが、死そのものを恐れる感情をもっていない。なんと不出来なヒトだろう」
男「………」
閻魔大王「どうだ、何か方法がみつかりそうか」
男「……3日の、猶予をください。とてもすぐには思いつきそうにありません」
閻魔大王「ほう!」
男「………僕が…一番に苦しみもがく方法を考えてみます…」
閻魔大王「は…はっはっは。良いだろう! そうして悩んでいること自体も一つの苦行。悩み続けることができる限り、期日に囚われず永劫悩んでいてもかまわぬぞ!!」
男「・・・・・・・・・」

38 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:25:34.25 ID:1O1LHxZ+0
******

冥府:2カ月後
閻魔大王「これは…随分と風貌が変わったものよ。それでこそ亡者の姿というものだ」
男「・・・・・・2か月近く・・・かかってしまいました」
閻魔大王「げっそりとやつれきった頬。青ざめるどころか、血の気のない土気色。焦点を合わさない目・・・。ようやく少しばかりの地獄を味わったようだな」
男「・・・・・・・・・」
閻魔大王「さあ、答えよ。お前がもっとも反省し、後悔する方法はどのようなものだ」
男「それは・・・・・・」
男「今の僕の記憶をもったまま もう一度人生をやり直すこと・・・です」
閻魔大王「なんだと・・・?」

39 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:26:43.71 ID:1O1LHxZ+0
男「……死にたいくらいに、前の生を後悔すると思います」
男「あんな可愛い娘に出会わずに死んだこと。あんな可愛い娘の為にできるはずだったすべての努力を、しないままに人生を終わらせたこと」
男「何か一つ新しく成すたびに、こんなこともしないで終わったのかと自分を責めることでしょう」
閻魔大王「く・・・くく。なかなかうまい論調だな。そうして人生をやり直すつもりか?」
男「……ですが、記憶を持って生まれなおしたこと自体は、苦しみもがくと思います」
閻魔大王「なに?」
男「愛した子の姿を覚えているのに。他の女性と結ばれなければ、愛した子に会うことも出来ない人生」
男「そうしてまで娘をもうけて、ふたたびあの子に会えたとしても…娘として愛することはできても、女性として愛することは出来ない」
男「いっそ、あの子を愛した記憶などなければよいのに、と。僕は苦しみもがくでしょう」
男「それでも会いたければ・・・そうしなくてはならない。なんてつらい人生だろう」
男「もしかしたら、僕はその悲しさに、また死んでしまうかもしれない」
男「そうして今度こそ、深い苦しみと絶望を胸にしたまま、ここで地獄を永劫に味わうのでしょう」
閻魔大王「………」
男「それが、僕にできる最大限に後悔と反省をする方法です…」

40 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:27:13.12 ID:1O1LHxZ+0
閻魔大王「器用なお前ならば、要領よく都合のいい事を答える事もできたのではないか?」
閻魔大王「なのに何故そうせず、そこまで正直に悩み、やつれてまで本気で自分の後悔と反省に向き合った」
男「……」
閻魔大王「ああ、いや。意地の悪い質問だった。お前が嘘をついたなら、わしはそれを見抜くだろう。嘘をつくことがかなわぬからこそお前に考えさせたのじゃ…」
男「そうだったんですか…」
閻魔大王「ああ。……いや、まて。そうと知らなかったなら、なぜお前はそうしたのじゃ」
男「……地獄よりも恐ろしい時間でした」
男「都合のいい…“ちょうどいい程度の苦しみや悲しみ”はいくらでも思いつくのに、それを明日つたえにいこうと思って眠ると、夢の中に死神が現れて 僕を悲しげにみつめるのです」
男「そうして僕は夢の中で苛まれる」
男「都合のよいやり方で、都合よく彼女を手にいれて。…なのに飽きたかのように満足しない自分と、そんな自分を悲しげにみつめる彼女。僕はそれを 外から見つめている。そんな夢を見るんです」
男「そんな事にはならない、と強く言い切る事も出来ないまま…そんな夢を見るのです」
閻魔大王「ほう。それで、どうした」

41 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:27:39.29 ID:1O1LHxZ+0
男「辛くて、辛くて。愛する事もやめられないなら、どうすればいいのか考えたのです」
男「どうすればよかったのか、考えたのです。それが、最初にお話した事。これに懲りて人生をきちんとやり直せたとしたら…そんな事です」
閻魔大王「そう。それが反省というものだ」
男「そしてそれを考えて考えて、自分の人生を一つ一つ思考の中でやり直したのです」
男「そして死神が…娘がうまれるところまで妄想して 僕は死にたくなりました」
閻魔大王「愛せない、と?」
男「そうです。僕は僕のやらかしたことで、自分の望む未来を閉ざしてしまったことを知り、死にたくなったのです」
閻魔大王「そう。それが後悔というものだ」
男「結局僕は、死ぬしかないのかもしれません。ですからもう、考え付いたことのすべてをお話して 閻魔様の裁量に委ねてみようと思いました」
閻魔大王「ふむ」

42 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:28:09.81 ID:1O1LHxZ+0
閻魔大王「……お前は本当に要領のいい男だな」
男「え…?」
閻魔大王「お前はお前の思うように生きてきた。そうしてようやく少し苦しんだならば 今度は人の思うように死んで見ようというのか?」
閻魔大王「そうすれば苦しみから解放されると思ったか? 誰かが救ってくれるとでも、思ったのか?」
男「……そう…は、考えませんでした…け、ど」
男「…言われてみれば、裁量に委ねようだなどとは甘えですね…。この魂の根底まで、この性格の悪さは根付いているのかもしれません」
閻魔大王「は…
閻魔大王「ブ ワ ァ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッハ ! ! ! ! ! ! ! ! ! 」
男「ーーッ」
閻魔大王「ハッハッハぁ・・・!!!!」
男(く……なんていう大音量……。これが、笑い声なのか…? 地鳴りするほどじゃないか……)

43 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:28:46.05 ID:1O1LHxZ+0
ガターーーン!
男「!」
閻魔大王「はっはっは…あまりに笑いすぎたようじゃ」
男「今の音は…」
閻魔大王「なぁに、地獄の釜が揺れ動いて、蓋でも落ちたのじゃろう」
男「え…。それってつまり、地獄の門が外れたってことじゃ……」
ワァァァ…
 ギャァァァァ!!
男「な…亡者が」
閻魔大王「ふぅむ、盆はもう終わったのじゃがな。こりゃぁ手間じゃのう」
男「ーーどの鬼さんも大慌てじゃないですか…あっ」
赤鬼「!? おまえ、なんでこんなとこに…しばらく家から出てこねぇで引きこもってると思ったら」
男「あの、これは…」

44 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 22:29:27.48 ID:1O1LHxZ+0
赤鬼「ああもう、亡者が逃げ出してな! 説明してる時間はねえんだ、早いとこ一匹でも地獄に戻さにゃ、後々が余計に面倒なんでな!!」
赤鬼「そうですか…… あの、赤鬼さん! 僕、手伝いまーー
閻魔大王「何故、そんな事をするのだ?」
男「あ…」
赤鬼「ばか、お前… 閻魔様との再審中かよ。こっちのこたぁいいから、しゃきっとしてろ、このウスラボケが」ヒソ
男「赤鬼さん…」コソ
赤鬼「じゃぁな」タタッ
閻魔大王「……あの鬼に、特別な恩や友情でも感じてるのか? それとも鬼にでもなりたいのか」
男「……何故なんでしょうね…。理由などは、別にありません」
男「僕は生きている頃からこうしていただけです。その内に、何故かなんでも手に入れてしまって」
男「……それでも、満たされることがなくて。こうしつづけることしか、知らないのです」
閻魔大王「………」
男「………」